千四百二十四話 魔虚大鷹クヒラン


 旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿に激震が走ったように地震が起きる。


 蒼い閃光が宙空に発生した。

 地震は収まったが、蒼い閃光の効果か?


 地面に生えている黒い葉と黒い茎の一部は悪神ギュラゼルバンを追跡していたが標的を失い俄に繁みへと収斂していく。

 


 洞窟の地面を覆うように繁っている黒い葉と茎の群れの中には、まだ蠢いているところは多いが、戦いの最中に比べたら雲泥の差というように大人しくなった。

 

 それらの黒い葉と茎の一つ一つに旧神たちの意思が働いていると分かる。


 茎の中身は蛍光色の魔力が煌めいて、数次元の意味が込められているような神聖幾何学模様と、マンデルブロー集合を煌めきで示し、人々の無数の魂が内包しているような幻影と、鏡と鏡が融合し何かが侵食しているような映像が投影していることもあるから不気味で怖い、精神が削られる……。


 ここは知能を有した群生旧神の間で、エフナドの秘奥黒寿宮殿でもあり、旧神の墓場でもあるからな……。


 遊星から物体Xが突如として黒い葉から出現しそうだ……。


 が、気にせず――深呼吸。


 悪神ギュラゼルバンを倒した証拠と思うほど膨大な魔力を得られた。と、右腕が振動した、この揺れは神槍ガンジスか、その神槍ガンジスの方天画戟と似た穂先と螻蛄首が点滅し槍纓が淡く揺らめく――旧神ギリメカラの蒼い毛から漏れた魔力が周囲の地面に生えている黒い葉とシンクロ共鳴が起きているような音が発生――。

 何回か『クゥゥン』とした音波を響かせてきた。

 鯨の音波と似ている。更に、神魔石を嵌めることが可能な窪みの真上に梵字のような魔法文字が浮かぶ。と俺の魔力が自然と出て神槍ガンジスの魔力と合わさると穂先から戦神イシュルル様の戈魔力が出現し宙空に向かう。


 向かった先の悪神ギュラゼルバンを倒した宙空に発生している蒼色の閃光が、十字の光に変化を遂げた。


「ングゥゥィィ」


 ハルホンクの防御服が自然と変化し胸が開く。

 と胸の<光の授印>が煌めいた。

 蒼色の十字の光と、戦神イシュルル様の戈魔力の端から伸び合った光の紐が睦まじく結ばれると俺の胸の<光の授印>の印から天道虫の形の魔力が現れて、ふわふわと浮遊しながら蒼色の十字の光と戦神イシュルル様の戈魔力の結ばれている光の紐に止まる。


 と、周囲にタンポポのような花と三本足の金色の鴉の幻影が無数に顕れた。すると、何処からともなく現れた光が俺たちを射す。


 温かい光を全身に得て癒やされた。

 光のまますべてが肯定されたような浄化された気分となる。


 ここは、地下深い旧神の墓場で旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿に知能を有した群生旧神の間でもあるが、一条の光は、まるで一の槍を示すかのように力強く俺たちを射してくれている。

 

 感謝の念が自然と生まれると、天の光に導かれるまま体が浮いていた。蒼色の十字と天道虫に無数の光の紐と天道虫が目の前だ。


 体から大豊御酒の匂いが発せられると……。

 俺の体からまたも魔力が自然と出て、蒼色の十字の光と戦神イシュルル様の戈魔力の光を結ぶ光の紐と天道虫の魔力とタンポポの幻影と金色の鴉の幻影と融合した。


 その一部の光と闇の魔力は雌しべと雄しべを模るような陰陽太極図の形に変化すると、天道虫がブレて分身し無数の天道虫となって周囲を飛び回った。

 更に、タンポポの羽が虹色の軌跡を描きながら天道虫と共に舞って大気の中に儚く消えていく。

 非常に美しい光景を作り出していると蒼い十字の一部が揺らめきながら戦神イシュルル様の幻影を模った。幻影は霞んでいた。


「……マホロバの信徒を救いし、神界武王を目指すべき槍使いシュウヤよ。魔神の一柱悪神ギュラゼルバンをよくぞ倒した」

「はい、倒せて良かったです」

「うむ、激戦であった。皆が封じられシュウヤの心臓が潰れた際は……もしやと……否、水神アクレシスも褒めているぞ。そして、褒美の水神槍アクアシェードについて炎神エンフリートと海神セピトーンと話をつけたと聞いている」


 水神槍アクアシェードを俺が得ても争いか、災害が起きないようにしてくれたのかな。


「前に水神槍アクアシェードは前に断ったのですが」

「断るとは……」

「それよりも、魔界王子テーバロンテのように悪神ギュラゼルバンを滅せられたのですか? 前とは倒した場所が違いますし、だいぶ異なる」

「うむ、魔神殺しの蒼き連柱が起きるような完全な滅殺ではない。だが、蒼い閃光が発したように悪神の神格が完全に消えたことが証明されている。それは、セラにも悪影響を及ぼしている悪の概念が消えたに等しい。それは魔界と神界とセラの世界に好影響を齎すのと同じこと」

「では、ギュラゼルバンは生きている?」

「生きていると言えるか微妙なところではあるが、うむ。が、神格が落ちたことが重要なのだ、依代ではなく悪神ギュラゼルバンは本体を失ったのだからな。準備をして信奉者や眷属が復活を狙うにしても、かなりの時間が必要になるはずだ。そして、悪神ギュラゼルバンは、魔皇メイジナなどと同じく戦神など神界セウロスの神や眷属に魔界の神を幾つか滅したことのある強い上級神の一柱、その上級神を倒せる存在は魔界神界問わず中々にいない。だから、本当によくやった……」

「はい、ありがとうございます」


 と霞んでいた戦神イシュルル様の幻影は、何かを言う前に、旧神の墓場に影響を受けたように消えた。


 閃光も天道虫も消えた。

 黒い葉の一部が群がっては、


「『神界セウロスの力は我らは好まない』」


 と警告してきた。

 もうそろそろ猶予の時間切れか?

 黒寿草の縁の旧神エフナドなどは俺に加護をくれたから、争いは起きないと思うが……。


「ご主人様、キスマリはドラムラン大公に勝利、エヴァとアドゥムブラリにも血文字で勝利と報告しました。そして、峰閣砦では戦勝の言葉が響きまくっているようですよ!」


 とヴィーネの興奮した口調に頷いていく。

 キサラも頷きながら己の周りに浮かぶ血文字の返事に忙しそうだ。

 キスマリも勝てて良かった。大広間で激闘を繰り広げていた相手の名はドラムランか。



「ウォン! 勝利は勝利」

「にゃぉー」


 神獣ロロと魔皇獣咆ケーゼンベルスが近付いてくる。


「「大勝利ですぞ!」」


 叫んだ光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは、


「「|ロロ殿様――」」


 と神獣ロロに片膝を付けて頭を垂れていた。

 神獣ロロはドヤ顔を浮かべて、


「ンン、にゃ」


 と鳴きつつ首から触手をゼメタスとアドモスに伸ばす。

 大きいゴロゴロ音を響かせていながら、ゼメタスとアドモスの体を引き寄せてゼメタスとアドモスの頭部を舐めまくる。


 更に触手でゼメタスとアドモスの兜の前立てと頭部をなで回していた。


「にゃおおお~」

「「おぉぉ――」」


 ゼメタスとアドモスは相棒に頭部をぐわりとぐわわりと回されながらも嬉しいのか甲冑から漆黒の炎と紅蓮の炎を発して喜びを爆発させている。


 ははは、いつ見てもこのやり取りは面白い。

 キサラも「ふふふ」と楽しそうに笑っていた。


 そのキサラは俺を見て頷いてから、


「恐王ノクターの軍がどう動くか気になりますが、これで【レン・サキナガの峰閣砦】の無事は一先ず確定でしょうか」

「あぁ、悪神ギュラゼルバンが倒れたことは知ったと思うから、退いてくれるとありがたいんだがな。後で【マセグド大平原】の方角に後で向かうか」

「はい、お供致します」


 ヴィーネの言葉に皆が頷く。


「しかし、悪神ギュラゼルバンを完全に滅したかった」

「はい」

「悪神ギュラゼルバンは用意周到に準備をしてから、このメイジナ大平原とレン・サキナガの峰閣砦やバーヴァイ地方への侵略を行っていた。ですから、己が倒されることも想定し、グィリーフィル地方の居城に復活の用意を準備していたのかもしれません」


 キサラの予想に皆が頷いた。

 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスも骨剣で骨盾を叩く。

 皆に、


「その用意周到さだが、悪神ギュラゼルバンが戦いながら周囲に散らした魔法陣は未だに輝いている。眷属などを作り出す以外にも仕込みを用意していたのか、旧神たちの黒い葉を寄せ付けていない」

 

 悪神ギュラゼルバンが魔法書の紙片を散らし、地面に設置していた魔法陣はまだ作動中。

 あれは悪神ギュラゼルバンの保険かも知れない。


「あ、たしかに……」

「そうですね、悪神ギュラゼルバンが残した、まだ悪神ギュラゼルバンには秘策が?」

「悪神ギュラゼルバンは倒れ神格を失ったことは事実だ」

「旧神たちの黒い葉も魔法陣の周りを避けている」

「魔皇メイジナの神像の周りにも黒い葉はないですな、実は、魔皇メイジナはまだ完全には滅されていないのでしょうか」


 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスの言葉に頷いた。


 そして、事前に準備していたと言っていた旧神の擬戦衣と魔皇メイジナの玉佩は消えてしまったかな……さすがに装備を狙える相手ではなかったと辺りを見渡すが……黒い葉が溶けている場所にもない――

 

 ――悪神ギュラゼルバンは強かった。

 ――スキルを使う使わないの間違いは許されない状況。

 <無方剛柔>を使用した際は、ダメージを覚悟した。

 動きが重くなったし、皆は封じられてしまった時は怖かった。

 <魔闘術>系統も減少し、精神的な攻撃に、実際に心臓が握りつぶされた。と考えながら探していると、ヴィーネが翡翠の蛇弓バジュラからガドリセスに変えて魔法陣に近付き、


「ご主人様、魔法陣を斬りますか」


 と聞いてきた。キサラも近付いて、


「魔槍斗宿ラキースの<握吸>はまだ覚えていないので<刃翔鐘撃>を打ちこみたい」


 と発言。

 すると、俺たちの前方の空間が内側に凹んだように歪むと、そこから重力レンズ越しに別の銀河を見ているような光景が見えた。

 更に、キサラとヴィーネが、


「ご主人様、魔法陣が作動しました――」


 と退いてきた。

 周囲の悪神ギュラゼルバンが予め設置していた無数の魔法陣から光が点滅。周囲の旧神たちの黒い葉は遠くに逃げていく。


 それら魔法陣の中心から漆黒の炎を有したクリスタルの破片が浮かび上がった。

 漆黒のクリスタルの破片が、宙空に発生している歪んだ空間と繋がると歪んだ空間の前方にクリスタルの破片が一カ所に集結。


 歪んだ空間から鷹の頭部を持つ大柄の魔族が顕れた。

 思わず身構えた。

 鷹の頭部を持った大柄の魔族は、俺に一礼し、


「――混沌の槍使い様と皆様お待ちを、戦いではなく降伏です。私の名は魔虚大鷹クヒラン、最後の悪神ギュラゼルバンの大眷属でございます」

「――魔虚大鷹クヒランか、お前は悪神ギュラゼルバンの最後の保険か?」

「保険、そこまでの存在ではありません」

「降伏とは、悪神ギュラゼルバンの仇をとらないのか」

「はい。負けは負け、神格を失ったギュラゼルバン様は、居城ギュラゼルバンの、城主の間に鎮座する神像に隠された悪神の器と魂の欠片が作動し、依代に魂が宿った次第です」

「ウォン! それは復活か? なんてことだ」

「にゃごぉぉ」

「用意周到……」


 キサラの言葉に皆が頷いた。

 魔虚大鷹クヒランは、頷いて、


「依代ですから完全とはほど遠い復活です。更に本体の悪神を有した体が消えたことは事実、悪神ギュラゼルバン様は神格を失い、力を大きく落とした」

「だからどうしたバーヴァイ地方にまた来るなら、逆に、その復活したギュラゼルバンを倒しに向かうまでだ」

「……それはどうでしょうか、ここから【グィリーフィル地方】はそれなりの距離がある。旧神たちなどの次元魔力を好む骨鰐魔神ベマドーラーもギュラゼルバン様が倒れたことで、使役は終わり、自由になっているはずですから、此方側への転移は不可能なはず」

「転移手段は色々とある。神獣ロロディーヌの加速力は並ではない。魔皇獣咆ケーゼンベルスも跳べる。それでグィリーフィル地方に行けば直ぐにギュラゼルバンがいるところを探せるだろう」

「『ウォォン!』」

「にゃおぉぉ」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスと神獣ロロディーヌが、魔虚大鷹クヒランを脅すように鳴いた。魔虚大鷹クヒランは驚いて少し怯える。


「……そ、そうですか」

「それよりも、魔虚大鷹クヒランはどうしてここに、悪神ギュラゼルバンは自ら負けたあとも予定していたのか」


 魔虚大鷹クヒランは頷いて、


「はい、私は降伏のご挨拶です。その証明に――」


 歪んだ空間に――。

 大きい土地の外観がクォータービューの視点で表示された。


「ここが、【グィリーフィル地方】です」

「ほぉ」


 直ぐにその大きい土地の左側を飛ぶ存在の視点に変化を遂げる。

 海岸線の稜線が続き断崖絶壁に聳え建つ巨大な城があった。

 その巨大な城への中に視界が引き込まれる。


「ここはギュラゼルバン城です。大広間と玉座は、既に見ておられると思いますが、同じ物です。そして、玉座には悪神ギュラゼルバンと似た神像が設置されています。神像の中心に嵌まっている漆黒の炎に帯びていた心臓が依代です」

「それをわざわざ知らせに?」

「はい、他にもメイジナ大平原にて人知れず眠る戦神ソーンと戦神ササナミの遺跡の地図とクリスタルの破片を――」


 と歪んだ空間に映像を映し出していたクリスタルの破片を融合させて一つの漆黒に燃焼しているクリスタルに変化させると、そのクリスタルを俺の眼前に運び、地図を懐から出して、俺の眼前に飛ばしてきた。


 魔虚大鷹クヒランは、


「その二つのアイテムを差し上げます。クリスタルは、〝グィリーフィル漆黒の魔炎晶〟飲み込めば、本人次第ですが、スキル化も可能かも知れません、大概は、〝グィリーフィル漆黒の魔炎晶〟を装備に宿らせて使う。それらを差し上げます、それでは――」


 魔虚大鷹クヒランは空間の中に吸い込まれるように消えた。

 目の前の戦神ソーンと戦神ササナミの遺跡の地図と〝グィリーフィル漆黒の魔炎晶〟を拾い戦闘型デバイスに仕舞った。


「ご主人様、戦神イシュルル様が仰っていた通りでしたね」

「あぁ、そして、〝グィリーフィル漆黒の魔炎晶〟は皆への報酬ってことにしようか」

「ふふ、ご主人様が飲み込むのもいいかと思いますが」

「俺はかなり強いから、皆を強化する。キサラのダモアヌンの魔槍にも、合うかもしれない」

「ふふ、はい、皆と相談してからにしましょう」

「そうだな、まだ魔皇メイジナの神像も調べていない」

「「はい」」


 魔虚大鷹クヒランが消えたことで、俺たちの近辺と、魔皇メイジナの神像の周囲以外は黒い葉と黒い茎で埋め尽くされた。


 相棒たちと共に魔皇メイジナの神像に近付いた。

 と、神獣ロロディーヌは黒豹の大きさに姿に収縮させる。

 巨大な魔皇獣咆ケーゼンベルスは体を灰色オオカミのようなオオカミに小さくさせた。


「ンン」

「ウォォン」


 足下にきた黒豹ロロと魔皇獣咆ケーゼンベルスに合わせ片膝を地面に突ける。

 黒豹ロロとケーゼンベルスと目線を合わせながら頭部と腹を撫でてモフモフしてあげて立ち上がりながら魔皇メイジナの神像を見やる。


 兜が渋い。巨大な魔皇メイジナの神像は煌めいているが、何も起きず。

 もしかしたら――。

 <血道第一・開門>を意識し発動。

 全身から血を出して、<血魔力>で<血想剣>と<血想槍>を発動させながら六浄魔槍キリウルカ――。

 六浄魔剣セリアス。

 六浄魔大斧ガ・ランドア。

 六浄独鈷コソタクマヤタク。

 六浄短槍ベギリアル。

 六浄魔刀キリク。

 を召喚し、それぞれを操作し、攻撃ではなく巨大な魔皇メイジナの神像に返却しようと六浄の武器を神像の手に送ると、自然と六浄の武器は魔皇メイジナの神像の大きさへと六浄の武器を大きくさせながら神像の手にジャストフィットし嵌まり込むと魔皇メイジナの神像の煌めきが強くなったが、魔力の灯りが少し強くなる程度。魔力を込めて触るか。


「え、返すのですか」

「主、魔皇メイジナの装備を分捕らないのか」

「とりあえずだ――」


 と言いながら魔力を巨大な魔皇メイジナの神像に魔力を送った瞬間――。

 視界が一変――目の前は、血濡れた城主の間か?

 と悪神ギュラゼルバンとベターン大公にミュラン公に悪業将軍ガイヴァーと髑髏騎士団と戦っている魔界騎士が数十いた。


 視点が後方に回ると玉座付近で、六浄短槍ベギリアルと六浄魔槍キリウルカを扱いつつ髑髏騎士団の髑髏の騎士と戦っている魔皇メイジナがいた。

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