千四百二十二話 黒寿草の縁

 蛍光色の液体を全身に浴びながら吸い取る。

 肩の竜頭装甲ハルホンクと左手の掌から出ていた半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードも蛍光色の液体を取り込んだ。


 温かさと膨大な魔力を得ると、黒い葉の群れが体に絡み付いてきた。

 懐かしい想いを得ると、黒い葉は蛍光色の魔力を発して俺の体の中に入るように消えた。突如として、三百六十度全方位が宇宙空間と成った。

 俺の体は透明化、これは幻影か。星系を俯瞰している視界。

 無重力状態で全身が軽くなって金玉が浮く感覚は奇妙だ。

 と、肩の竜頭装甲の口が閉じて開きカチカチと鳴らす。

 肩の竜頭装甲ハルホンクが色づいた。

『ングゥゥィィ』


 ハルホンクがいつもの鳴き声を発した。左手から半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードが出る。


『主、ここは旧神エフナドに無数の旧神の記憶の中だ。同時に旧神の墓場であり、知能を有した群生旧神たちを共有する場所でもある。それ故、我とハルホンクの意識を常に保っていないと、主の精神は消耗度が激しくなるだろう』

『了解した、気を引き締めよう。しかし、この幻影はいつまで続くんだ。現実の外の世界では、六浄の武器が迫ってきているし、悪神ギュラゼルバンがいるぞ』

『心配はない。知見共有の場は、時間の理から外れている。記憶などを得たら、自然と元に戻る』

『……喰ウ、喰ワレ、ノ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星、ゾォイ』

『了解した、深淵ノ星を喰う、ぞぉい。の気概でいよう』

『……主、我ノモノマネ、下手、ゾォイ』


 笑ったところで、蛍光色に棲まう旧神エフナドと、他の旧神たちの膨大な存在を感じ取ったが、いきなり、大気に包まれた岩石惑星が目の前に――。

 水と大地と雲を有した星、地球? 〝地球は蒼かった〟と言えるような美しい星――。

 そんな星に突入するような視点に変化――。

 俺は流星? これは旧神の記憶か。急降下中……凄まじい揺れと速さ――ヤヴァイ――。

 股間がギュンとなるがまま、大気圏に突入し雲を越えて大地と海が見えた。

 揺れるジェットコースターどころの迫力ではない――。

 大陸と海に海にぶつかる瞬間、すべてが消える――と、視界が一変。


 尖塔に赤い光を灯す教会と寺院が融合したようなゴシック建築を外から見る視点に変化。

 ここは地球? 地球と似た文明を持つ惑星か?

 尖塔の中に煌めいている赤い光は赤い水銀か?

 レッドマーキュリー、俺の知る地球にも赤い水銀を使うフリーエネルギーの話は聞いたことがある。そんな寺院の中へと視界が吸い込まれるように変化。

 寺院の内部構造は黄金比ばかり、神聖幾何学で、様々な音の周波数が共鳴するような仕組みが施されていると分かる。反響が人体に好影響を与えられるような仕組みもありそうだ。中央では巨大な高台の上で胡座をかいたままの大僧正がいた。

 即身仏? 更に、その即身仏と見られる存在に一人の僧侶がいた。

 僧侶は、黒い書『無限の旧神と魔神と神界と宇宙の塵の秘奥書』を持つ。

 僧侶は、分厚い書物の頁を捲って、呪文と事柄を読んでいくと、皮膚と双眸が徐々に黒く変色していることに気付かない。

 その僧侶の背後から黒髪の青年将校と黒い外套を着た女性が近付いていく。

 と、その僧侶は黒い書を床に落とした。

 漆黒に染まった双眸となった僧侶は移ろいながら空を見上げた。

 口から得体の知れない文言が、言霊となって周囲に伝播。

 寺院のレッドマーキュリーのような赤い水銀が振動し、周囲に音楽が響く。

 僧侶は、


「宇宙魔術『ザホィク・トアゥン・エフナド』! 『黒い塵』から我と、我らを救い給え――」


 と叫ぶと、僧侶は「うぁぁ」と悲鳴を上げると、眉間に黒い点が発生。

 大僧正の即身仏が割れて、聖なる波動のようなモノが僧侶に当たった。

 眉間の黒い点は薄まると僧侶は、双眸を元の色合いに戻し、


「あぁぁ……妙架得瑠様……わたしはなんてことを……宇宙魔術を唱えて儀式を行ってしまった……ミリアンとサリィ、済まない……」


 と謝ると、僧侶は己の意思ではないと否定しつつも、自然と黒い点を意識してしまう。

 眉間に黒い点が灯る。その黒い点を操作していくと、操作するたびに魔力が何か吸われて快感を僧侶に与えているのか、僧侶の表情が不気味に変化した。

 その黒い点から無数の黒い塵が眼前に放たれた。

「……」


 黒い塵は宙空で蠢きながら『「我を粗末な物で呼び寄せるとは……」』と神意力を有した言葉と思念を飛ばしていた。

 その黒い塵は、何かの形を模したように黒い物と成って僧侶の真上に完全に顕現。

 その黒い物を見た僧侶は一瞬、精神力を強めたのか、脳内に巣くう黒い霧が造り出す快楽に打ち勝ち……眼力を取り戻し、眼前の黒い塵で、黒い物に、


「お前の勝ちだ……が、お前は、この宇宙次元を飲み込んだとしても更なる高位な存在にいずれは倒される……」

「『戯れ言ヲ、我を利用とする哀れな者たちごと、すべてを虚無に――』」


 黒い霧が、そう発言した刹那、僧侶の頭蓋骨が破裂した。

 脳漿と血飛沫は飛ばず、頭を失った僧侶の体が黒い塵と化した。

 その黒い塵は、周囲を侵食するように凄まじい速度で拡がり、周囲のあらゆるものを黒い塵に変化させていく。背後にいた黒髪の青年将校と黒い外套を着た女性は、僧侶に向けて片手を伸ばしながら叫ぶ、その二人は、見知らぬ魔術に守られながら何処かに消えた。

 転移魔法か? と、他のすべてが巻きこまれる。

 寺院どころか、その街、地面が黒い塵となってしまった。

 ドッとした鈍い重低音を察知した刹那、だれかに引っ張られるように斜め後方に移動しつつ地球のような大気と水を擁した岩石惑星を俯瞰するような視点に変化。

 地球と似た岩石惑星の大気が黒い霧に染まると、大気のすべてが黒い霧に変化してしまった。なんてことだ。惑星が漆黒の闇に包まれた。

 黒い霧は旧神か、得体の知れない感覚を得ると、漆黒の塵の存在が俺を見ているような感覚を得て、精神が喰われたような気分となった。

『主、これは一つの旧神の過去の歴史、気にするな』

『黒イ霧ノ旧神ハ喰エズ、主ニハ、キョウテキ?』

『強敵は強敵だろう、が、これは旧神の墓場の記憶でもある』

『ハルホンク、キオクダロウト、喰イタイ、ゾォイ』

『いずれ吸収することがある。待つのだ』

『ングゥゥィィ、ワカッタ、ゾォイ』


 二人の念話は面白い。

 ヒューイにピカピカ言いながら魔力をあげたことを思い出す。

 そして、光魔ルシヴァルで精神力が向上しているお陰だから、今の光景が保てていると理解できた。


 その地球のような大気を擁した岩石惑星から恒星を中心とした星系を俯瞰するような視点に移行すると、恒星を一定の周期で回る惑星があらぬ方向へと移動を始めていた。

 重力のバランスが崩れたのか? 恒星の周囲を回っていた惑星の地軸がズレて公転を失い浮遊惑星になった。と星系の木星のような巨大なガス惑星が膨れて大爆発。

 膨大な塵となった。巨大なガス惑星の衛星は、ガス惑星の主星を失い、重力の枷から逃れて自由惑星の如く、自由に浮遊し移動を始めると、それぞれが重力が強い星に引き寄せられて衝突し、爆発を繰り返して惑星とも衝突していく、星系の崩壊が始まった。

 と、その星系の中心の蒼白い恒星が膨れ上がった。

 周囲の岩石惑星と黒い塵に覆われた地球のような岩石惑星を飲み込まれ消える。

 巨大な恒星はガス惑星の残骸も取り込み吸収し、膨れ上がった。黒い霧に包まれる異様な巨大な恒星となった。そのまま他の衛星と惑星も飲み込むかと思われたが、俄に、萎みながら収縮した刹那、大爆発を起こす――超新星爆発か。

 爆発の影響で、完全に星系が吹き飛ぶ。黒い霧が凄まじい勢いで拡大し、遠く離れた星系にも爆発の影響で黒い塵が拡がった。

 星系の恒星と星々を破壊し、粉々にしては無数の残骸と塵を作ると塵が星系を覆い闇と化した。巨大な銀河をも黒い塵に浸食されたように明かりを失うと巨大な銀河の崩壊も始まった。星々は黒い塵に飲まれて無限の闇となる。

 黒い塵の闇は星系を覆い尽くすように拡がった。

 一瞬にて、数億年の時間が流れた感覚を得ると――また視点が変化。

 膨大な魔力を有している超巨大な硝子容器が目の前に、否、巨大なコロニーか。その中には、無数の脳髄の群れが生活していた。

 セラの上空にいた空飛ぶクラゲにも見えるが、まさかな。

 ボンが盛大にクラゲたちを打ち抜いた記憶はまだ新しい。


 無数の脳髄たちが、俺たちを見て、


『『『『驚きだ、かの者は、旧神エフナドの知見を有しているとはいえ、我らの記憶の一部を共有した……恐怖を己の糧にできる超越者でもある』』』』

『『『『かの者は、旧神との縁は多い故でもある……アウロンゾとギリメカラか……』』』

『『『我らと近い者と深淵ノ星を心に持つお陰でもあるだろう』』』』

『ふむ、かの者よ……これも縁ぞ、心に<黒寿ノ深智>を授けよう』

『『『近き者よ、お前にはこれが合う<旧神ノ暁闇>を得るがいい』』』

「――ングゥゥィィ、ウマカッチャン、ゾォイ!!」



 ◇◇◇◇


 一瞬で現実世界に戻った。

  ピコーン※<黒寿ノ深智>※恒久スキル獲得


 おぉ、旧神エフナドから黒寿に関するスキルを、この蛍光色の魔力を含んだ液体を取り込んだからか。


 肩の竜頭装甲ハルホンクからゲップの音が響く。

「ハルホンクとシュレ、意識はあるな?」

「ングゥゥィィ!」

『うむ!』


 元気な念話を寄越したシュレとハルホンク。

 左手の<シュレゴス・ロードの魔印>から濃密な魔力溜まりが発生している。

 無数の半透明な蛸足が発生中だった。

 とりあえず――。

 目の前に迫った魔剣の柄を左手で掴みながら横回転をして前進し、魔剣を回収――。

 次に飛来した短槍を右手で掴んで戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞う。

 悪神ギュラゼルバンが吼えながら、俺たちに漆黒の閃光を繰り出す。

 直ぐに漆黒の閃光を避けた。

 悪神ギュラゼルバンは魔皇メイジナの神像に近付くが魔皇獣咆ケーゼンベルスと神獣ロロディーヌが炎を吐いて近寄らせない。


 その間に、独鈷を左で掴み仕舞う。

 右手で魔大斧を掴んで仕舞い、魔刀を左手で回収、よっしゃ――。


 六浄の武器をすべて回収できた。

 ピコーン※<六浄ノ朱華>※スキル獲得※


 よし、六つの武器に共通した連続攻撃スキルを得られた。

 他の武器でも使えるスキル。


 new:六浄魔剣セリアス×1

 new:六浄短槍ベギリアル×1

 new:六浄独鈷コソタクマヤタク×1

 new:六浄魔大斧ガ・ランドア×1

 new:六浄魔刀キリク×1


『――主、我は<旧神ノ暁闇>を得られた!』

『そのようだな、どんなスキルなんだ』

『我を使うといい』

『いつものように外に出すだけでいいのか?』

『うむ』


 左手の<シュレゴス・ロードの魔印>を意識。

 直ぐに半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードが出た。

 右手に魔槍杖バルドークを召喚し、悪神ギュラゼルバンと魔皇獣咆ケーゼンベルスと神獣ロロディーヌの位置を把握。


「では、シュレに使うタイミングは任せる」

『うむ!』


 すると、じんわりとした暖かい魔力を得た。懐かしい――。

 足下の黒寿草が煌めきながら魔力を俺に送ってくれていた。


『ふむ、かの者よ……これも縁ぞ、心に<黒寿ノ深智>を授けよう』


 なるほど、黒寿草の縁か。

 

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