千四百二十話 大広間の残党と旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿


「ンン」


 相棒は飛ばない、「どうした?」


「ンン」


 と、地団駄をするように四肢で床を何度も叩くと首から出した触手を前方の床の先に向けた。

 黒い触手が向かった先は<霊血の泉>の血が拡がっている床を避けるように血肉が移動している箇所、それが大きな肉塊に成長しベターン大公か、ウゲラヌス大公と似た太鼓腹を持つ魔貴族が誕生していた。

 貴族服は前と異なりシンプルで、太鼓腹には複数の眼球を擁している。

 その太鼓腹を触手から出た骨剣が見事に貫く。

 と、魔貴族は貫かれた箇所から「グァァ、戦神ァ」と叫びながら蒼白い閃光を発して一気に体が燃焼し塵となって消えた。

 相棒は戦神ラマドシュラー様か戦巫女イシュランの魔力に加護を得て、俺の血肉と精神を元にしている神獣様だからな、闇だけの存在には天敵と変わらない。


 と、前方を見やる。遙か前方に吹き飛ばされていた悪神ギュラゼルバンは、地下遺跡の岩盤と崩落仕掛かっていた斜面に背中から衝突していた。

 崖と斜面が崩れ土砂と岩に覆われながら落下し、悪神ギュラゼルバンは有視界から消えるが<闇透纏視>で位置は分かる。悪神ギュラゼルバンは漆黒の炎を体から発し崩落に紛れながら急降下し、前に飛翔して見えなくなった。

 巨大な骨鰐の真下に向かうようだ。先ほどの、地下遺跡の出入り口に向かうつもりだろう。地下遺跡の出入り口から宙空に掛けて並んでいた胸元に紫の炎を灯した幽体の列は不気味だった。

 魔毒の女神ミセア様は、

「『我を威圧しているつもりか? お前が密かに利用を企んでいた魔皇メイジナの遺跡と旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿などから、魔力は外に漏れているのだぞ? それがどういうことに繋がるか、お前が良く知っておうが!』」


 と叫んでいた。

 魔皇獣咆ケーゼンベルスは見えないが、悪神ギュラゼルバンを追っていると魔素の動きで分かる。


「ンン」


 神獣ロロも魔皇獣咆ケーゼンベルスと悪神ギュラゼルバンが気になっていると思うが、横の大広間を見る。太鼓腹のモンスターではなく、キスマリが気になったか。

 あの頭部が変形しまくる魔貴族は強い。

 <霊血の泉>の効果で眷属たちは強くなっているからな。

 形を変える頭蓋骨と両手に持つ鋼鞭と口から伸ばすドリル状の舌と、足の甲と脛から刃を生み出しながら、それらの武器を巧みに扱う。


 鋼の鋼鞭の突きと左腕が持つ鋼鞭の袈裟斬りから下段の回し蹴りに、ドリル状の舌を四方に散らすように動かし<導魔術>系統で操作した魔剣の如く、ドリル状の舌の先端をキスマリの背後に向かわせる攻撃をいやらしく繰り返している。


 が、キスマリは背中に目があるように両下腕を背中に回し、背中の攻撃を魔剣で見事に防ぎながら、前進し、己の上下の歯をも武器にするように、ドリル状の舌を噛み砕きながら両上腕が持つ魔剣アケナドと魔剣スクルドで袈裟斬りと突きから始まる<黒呪仙舞剣>を繰り出していた。


 戦いはほぼほぼ互角。

 魔界大戦を何度も経験済みで<従者長>と成ったキスマリは、俺の<霊血の泉>効果で能力が倍増しているが、<黒呪鸞鳥剣>などにも魔貴族は対応している。

 あの魔貴族も大公の一人でかなり強い。

 そして、皆で協力しながら戦うのとサシで戦うのとは異なると良く分かる。

 強さの基準も様々だ。三百六十度囲まれた状況での強さ。

 一対一の強さ、ルールがあった上での強さ、ただ、生きるのみ徹した強さ。

 連携があった上での強さ。

 ……キスマリと激闘を繰り広げる魔貴族はサシでの戦いを得意としている俺やキスマリと同じようなタイプか。そキスマリと同様に尊敬の眼差しを送る。

 澱んだ瞳で、気色悪いし、人型の肉を喰らう悪魔に怪物やモンスターだが……。

 その個体が持つ能力を最大限に活用しようとしているような四肢の動き、その武術と純粋な強さには、独特な美が感じられた。


 大広間の右の空間の床は長大なテーブルがあった中央と同じく傷だらけとなっていた。

 今も四っつ魔剣と鋼鞭とドリル舌が交差し衝突した刹那――。

 衝撃波が発生し床が窪む。どちらかが至近距離から飛ばした魔刃の残骸が床と激しく衝突し床に真新しい傷を作る。そのキスマリにビュシエ、アドゥムブラリ、光魔沸夜叉将軍ゼメタス、アドモス、キッカ、キサラがフォローしようと二人を囲う。


 が、キスマリが、


「ここは我に任せよ!」と発言。


 キスマリは武人よりだからな。皆も納得したように見守る姿勢になった。

 すると、石棺が潰しただろう辺りに異質な魔素を察知。異臭も漂う。

 巨漢魔貴族のベターン大公とウゲラヌス大公だった不明な、残滓か、本体か不明な無数の肉と骨と異様な粘体が蠢きながら横に拡がり石棺の底床から這い出ては、肉肢のようなモノが沢山生まれ、それらが一瞬で網目状に集結し無数の人型を模り始めた。

 一部は太鼓腹。

 直ぐに相棒から離れて、網目状の人型に近付いた。


「にゃごぁ~」と相棒も紅蓮の炎を吐く。


 皆がいるから拡がらない炎だったが、一気に四体の網目状の人型を炭化させて倒す。

 ――網目状の人型へと<杖楽昇堕閃>を発動。

 青炎槍カラカンで網目状の人型を右から左に左から右へと薙ぎ払って燃やすように蒸発させて倒した。


 ビュシエが後退しながら、


「――石棺で潰し倒した感触はありましたが、再生力が高いタイプでしたか――」


 と発言し、軽やかに少し跳躍しながらグレートメイスを振り下げた。

 豪快な<豪閃>系のスキルか。

 網目状の人型の頭頂部とグレートメイスが衝突すると、その頭部ごとすべてがへしゃげ潰れた、網目状の人型のすべてを潰したグレートメイスは床と衝突――ドッと衝撃波を周囲に発生させて地響きも響いた。

 地面から蒼白い炎が発生――。

 <血道・血槌轟厳怒ブラッド・グリアグラッシャー>ではないメイススキルか。

 ビュシエの乳房の大きさが分かるブラジャーが少し揺れる。

 硬そうなブラジャーだが、それを超える柔らかい乳房を持つビュシエが魅惑的な女騎士に見えた。

 と、光魔ルシヴァルの<血魔力>を発しているグレートメイスの影響で、床は大きく凹む。

 その窪みは直ぐに銀色を帯びた<血魔力>に溢れて血溜まりを作る。

 血溜まりから空気の泡ぶくが発生――。

 血溜まりの泉が沸騰しているようにも見えた。

 血飛沫が煌びやかなグレートメイスの柄に当たり、ビュシエが持つグレートメイスがより渋く見える。そのグレートメイスを肩に担ぐ仕種もまた魅惑的。


 と、他にも網目状の人型は多い。

 攻撃しようとしたが、一部は自然に俺の血に触れて蒼白い炎を発しながら消えていく。

 <霊血の泉>効果だろう。<霊血の泉>を浸透させ続けたら自然と倒せるかな。


 しかし、<霊血の泉>から逃れた怪しい魔力と血肉は植物の太い管のように蠢いては、宙空で太鼓腹の魔貴族や網目状の人型と成長させては放出するように離した。


 片眼鏡を装備した巨漢魔貴族ベターン大公か、褐色の翼を持つトーガを着た巨漢魔族ウゲラヌス大公か不明だが、やはり普通の眷属ではないな。高祖吸血鬼ヴァンパイア以上の再生力かもしれない。


 ビュシエは、皆が戦い易いように巨大な<血道・石棺砦>を消した。石棺が退かれたことで窪んだ床と大広間の下部が消えて、底に覗かせていた点滅している幅広な剣刃が露出していた。


 巨大な骨鰐の背中から伸びているだろう剣刃だろう。


 アドゥムブラリも<魔矢魔霊・レームル>を怪しい魔力と血肉の塊と網目状の人型に射出。<魔矢魔霊・レームル>に<ザイムの闇炎>と<血魔力>を融合させたように闇と血の炎が纏っていた。怪しい血肉と網目状の人型は<魔矢魔霊・レームル>に射貫かれると蒼い閃光を放ち消えていく。

 

 イモリザはツアンに変身。

 ツアンは元教会騎士の名残を見せるように光る糸が刃物に連なった<短剣術>を披露するように、網目状の人型を両断し、蒼白い炎を発生させて倒していた。

 リサナも波群瓢箪を放って網目状の人型と太鼓腹の魔貴族を潰すように倒す。

 

 ゼメタスとアドモスとヴィーネたちも、相対した網目状の人型と太鼓腹の魔貴族を袈裟斬りと突剣で、それぞれ倒しながら<霊血の泉>の血を吸い寄せていく度に強くなる、血溜まりが濃いところに触れたヴィーネとキサラとビュシエは体が震えて恍惚的な表情となっていたが指摘はしない。


「総帥!」

「「「総帥!」」」


 〝巧手四櫂〟と魔犀花流派の兵士たちも大広間に降下し、<霊血の泉>から逃げるように発生している網目状の人型と太鼓腹のを持つ魔貴族たちを魔杖槍で正確に衝突させて粉砕していく。

 キスマリと戦う魔貴族は避けながら、近くにイズチ、インミミ、ズィル、ゾウバチが着地した。


「おう、皆、ここの幹部はキスマリが戦っている以外は倒したと言えるが、大公と呼ばれていた存在は普通の眷属ではない連中だった。そいつらが死んだ結果、血肉が散らばり、その血肉を元にしているだろう人型に集結したようなモンスターが大量に出現中だ、<霊血の泉>を展開中だから、いずれは蒼白い炎を発して死滅すると思うが、悪神ギュラゼルバンが生きている以上は大公たちも復活する可能性は否定できない。だから、徹底的な掃討戦を頼むとしよう。そして、この大広間は巨大な骨鰐の上だから、いつでも退けるように空を飛ぶことを意識しておいてくれ、俺たちは地下遺跡、魔皇メイジナと旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿に旧神の墓場があるとされる地下遺跡に向かう」

「「「「ハッ」」」」

「「「「「「はい!」」」」」」


「ンン――」


 神獣ロロは複数の触手をゼメタスとアドモスとヴィーネとキサラに向けた。

 太鼓腹の魔貴族と、ひょろひょろとした人型だが歪な肉塊モンスターを倒していた四人に絡めると引き寄せた。歪な人型肉塊は初めて見る。


 己の頭部に乗せてきた。


「ご主人様、ここはアドゥムブラリたちに任せるのですか」

「そうなる、相棒がゼメタスとアドモスにヴィーネとキサラたちも地下遺跡に付いて来いってことだ。ということでアドゥムブラリとキッカにビュシエとイモリザは、キスマリの援護と魔犀花流派の兵士を見ておいてくれ」

「了解したが、この大広間を載せている巨大な骨鰐が高速に動き出したらどうするんだ、転移してきた以上は転移する可能性もあると思うぞ」

「転移したら、転移した先でどうにかするしかないが、それらしい兆しを見たら撤退し、タクシス大砦か峰閣砦に退いてくれ」

「了解した」

「分かりました。エヴァとバーソロンたちに血文字で知らせておきます」

「おう、頼む」


 ヴィーネの言葉に相棒の頭部に跳び乗った。


「ンン」

 

 俺を頭部に乗せた神獣ロロは頭部を上向かせると跳躍。

 前進して地下遺跡に向かった。


 悪神ギュラゼルバンと魔皇獣咆ケーゼンベルスの追跡を開始。

 

 神獣ロロは降下しながら旋回し、巨大な骨鰐の真下を通り、地下深くに向かう。幻獣かもな、この骨の鰐は――。

 

 直ぐに魔皇獣咆ケーゼンベルスが見えた。

 悪神ギュラゼルバンに向け衝撃波を連発していた。

 飛翔している悪神ギュラゼルバンに向け、


「『――逃さぬ、ウォォォン!!』」


 と叫ぶと崩落中の大量の土砂を弾き飛ばしていく。

 悪神ギュラゼルバンの魔素が膨れ上がる。

 と魔槍から漆黒の閃光を放つ。

 魔皇獣咆ケーゼンベルスは斜め右に上昇し、閃光を避けた。

 閃光は骨の鰐の後部に直撃。半透明だったが姿を晒したが、直ぐに半透明化。

 すると、巨大な骨の鰐は前に少し進行。あの真上にある大広間には皆がまだいるから少し心配したが、血文字は送ってこないから、たいした影響はでていないってことだろう。

 

「ンン」

 

 相棒は加速して飛翔し、魔皇獣咆ケーゼンベルスに追いついた。

 悪神ギュラゼルバンは、移動しながら俺たちに向け魔槍から閃光を放ってくる。

 

 直ぐに神獣ロロと魔皇獣咆ケーゼンベルスは左右に移動して閃光を避けた。

 魔力を正確に把握している辺りは、魔神の一柱なだけはある。

 本体ではなく依代の可能性はあるが……。


 悪神ギュラゼルバンは地下遺跡の出入り口に魔皇獣咆ケーゼンベルスと共に悪神ギュラゼルバンの後を追い地下遺跡に向かう。

 旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿か魔皇メイジナの地下遺跡か不明だが、出入り口が見えた。

 

 奥深い円状の奥から幽体がずらりと車列を組むように此方側に伸びている。先ほど上から見た時とは角度が異なるが、宙空に浮いている幽体たちの並びは、やはり俺たちを誘導しているようにも見えた。

 その中に悪神ギュラゼルバンが突入。


 俺たちも追い掛けた。地下遺跡の出入り口は巨大な円状の穴――。

 左手の<シュレゴス・ロードの魔印>の魔印からピンク色の蛸の足が出る。そして、その半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードが、


『主、やはり、ここは【旧神たちの墓場】に近い……旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿という名らしいが……』

『前にも聞いたが、【旧神たちの墓場】とは、ある種の知見を実際共有する体験だったか?』

『うむ、我は、シュバス=バッカスとアドルの秘境を共有した経験がある、墓場という名があるように旧神だからな、魔神と言えど、旧神の次元魔力に触れたら精神が喰われると思うが』

『それは俺にも当てはまる?』

『ふむ、主と神獣に光魔ルシヴァルの眷属ならば平気であろう。が、普通の魔族たちはここから先は危険だ』

『了解した』


 巨大なミミズの食道を思わせるような通路を直進。

 上下左右の地下空洞内の壁には、均一な大きさで窪みがあった。

 凹と凸さを見ていると恐怖の感情が溢れてくる――。

 悪神ギュラゼルバンはもう閃光を放って来ない。


 地下深くを数十キロを一気に進んだか? 角を曲がった直後――。

 突如、目映い紫と黄緑の明かりと共に開けたところに出た。

 と、「にゃおぉぉ~」と鳴いた神獣ロロ

 

 不思議な圧力を感じたから、神獣ロロも感じたんだろう。

 と、赤みがかった幻影が、洞窟を走る。

 真下の地面には、巨大な黒い葉が異常な数ほど茂っている。

 黒い葉の葉脈には、小人とドワーフのような者もいるが、普通の人族のような方々もいて、多数の人々がひしめき合っていた。

 巨大な黒い葉が揺れると人々が詰まっている葉脈が煌めいて人々が消える。

 刹那、黒い葉の端が煌めくと葉から蛍光色の濃密そうな魔力を放出していた。蛍光色の魔力から無数の悲鳴が響く。蛍光色の魔力は乱雑に拡がり、硝子の破片のような形を模ると、そこに高層ビルが犇めく異世界の光景を映す、宇宙的な星々の誕生と、赤い球体が群がっているような神秘世界を映し、雷鳴を内包した漆黒の雲が蠢いている光景を映すと、それらの世界を見せた光景は大気に混じるように消える。怖い、ここは地獄的なところか? 旧神の墓場だとしたら、旧神の思考の一部がここで共有されている? 洞窟全体から心臓の鼓動に地響きが響き渡る。重低音も響くと太鼓と似た音楽のようなモノが響いてきた。

 悪神ギュラゼルバンは紫と黄緑の明かりの下に向かう。

 海でも泳いでいるように、悪神ギュラゼルバンの回りは、無数の渦と大波に襲われている? と、波紋が周囲に発生していく。

 同時に太鼓と喇叭の多重の音が響く、その度に、宙空に赤い稲妻が走り、奇怪な幻影があちこちに出現して、相棒と魔皇獣咆ケーゼンベルスの飛行を邪魔してくる。


 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>を飛ばすか?

 と思った時、

 

「「『なにものか、なにものか、旧神ではない者たち――』」」

「「『闖入者、不快な者――』」」


 と洞窟のあちこちから得体の知れない声が響く。

 魔皇獣咆ケーゼンベルスが、


「『旧神ども! うぬらには用はない! 我らの前にいるのが悪神ギュラゼルバン! 我らはあの悪神ギュラゼルバンに用がある!』」


 吼えるように神意力を周囲に飛ばす。

 すると雷鳴と喇叭の多重音が響き、洞窟内で剣戟音が谺する。

 ささやき声が、四方八方から響いた。

 洞窟内に、無数の神々の気配を感じた。

 天井の壁画に何かが現れ、消える。無数の影が得体の知れない怪物か魑魅魍魎を模るように洞窟の内部に現れ消えていく。魔皇獣咆ケーゼンベルスと相棒はそんな洞窟を突きすすんでいるが、進んでいないような時間が止まった感覚を受けた。


 床の巨大な黒い葉が急激に育ち、巨木となっては、光魔ルシヴァルを意味するようなルシェルの紋章樹となると、法螺貝の音も響いて、周囲のささやき声が一瞬にして静まり返る。


「「『『セラ……かの者の血……樹……黒寿を……かの者ぞ……』』」」


 と、得体の知れない旧神の声が心と周囲に響くと、  


「『……暫しの猶予を与えよう、未知な魔獣たちと、我らと近い者を持つ者……』」


 と、強く精神が圧迫される感覚を受けた。


「ご主人様……」

「シュウヤ様……」

「「ふむ……」」


 とヴィーネたちは顔色を悪くしていたが、急に、三百六十度の方向から感じられていた圧力が急激に減った。心臓の音と太鼓の音が静まり、赤い稲妻が消えていく。


 悪神ギュラゼルバンは魔槍を周囲に生み出して強引に直進している。

 やがて、最奥地からに到達したのか、悪神ギュラゼルバンの動きが止まる。

 降下していく。その先には、蒼色と紅色に燃えている柱があった。

 中央に、神々しい明かりを放つ王冠のような煌びやかな兜を被った巨大な魔族か不明な石像がある。

 腕の数は六本、それぞれに得物を持つ、阿修羅のような印象だ。

 悪神ギュラゼルバンが、その石像に近付くと煌びやかな兜と武器から稲妻が走る。悪神ギュラゼルバンは魔槍を掲げて、すべての稲妻を防ぐが逆に力を得ているように前進。


「『させぬは悪神ギュラゼルバン!』」

「にゃごぁぁぁ――」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスが銀色の炎を吐いた。

 神獣ロロデーィヌも紅蓮の炎を吐く。

 

 悪神ギュラゼルバンは振り向きながら「チッ――」と舌打ちながら魔槍を掲げ横に跳ぶ。

 巨大な石像は攻撃を止めた。


 悪神ギュラゼルバンは横に飛翔しながら、俺たちを見て、

「……混沌の槍使いに神獣も知能を有した群生旧神の間を突破するとはな、予想外だ――」

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