千四百十八話 先陣を飾る光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモス
漆黒の炎の閃光は一気に悪神ギュラゼルバンの魔槍に収斂していくと、漆黒の炎が突き抜けた夜空の後に大きな渦が発生し、魔神殺しの蒼き連柱の影響が消えるように渦と周囲の空間に赤みが刺さる。
ヴィーネが翡翠の
大広間に一足先に着地した光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスを見ながら、俺たちも着地。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは、俺と
名剣・光魔黒骨清濁牙と名剣・光魔赤骨清濁牙の切っ先を悪神ギュラゼルバンたちにザッと仕向ける。
星屑のマントが煌めいた。
「閣下、先陣は閣下の盾の私たちにお任せくだされ!」
「閣下、我らに雑魚はお任せあれ!」
「おう、頼む、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモス!」
「ハッ! <黒南風もののふ>――」
「おおう! <赤北風もののふ>――」
二人は<ルシヴァル紋章樹ノ纏>に続いて違う<魔闘術>を発動させる。渋い兜が漆黒と真っ赤に煌めく、二人の左右の角が伸びて槍烏賊の見た目に変化。
槍烏賊のヒレのような左右の物が上下に回転しながら細かな孔から魔力を放出される。その魔力は細かな魔線となって骨盾と星屑のマントと繋がり、魔線ごと骨盾と槍烏賊の兜の縁が真っ赤に変色し囂々と炎を放ち始める。
周囲に迸る虹色の魔力にも炎が混じった。
ドールゼリグンの骨の馬具にも虹色の魔力の炎が着く。
漆黒の炎と真っ赤の炎と虹色の炎を纏ったドールゼリグンに騎乗している光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは直進――。
近付く魔貴族を跳ね飛ばしながら月虹煌めく骨剣と骨盾で次々と魔貴族たちを屠る。
と、「「我らは光魔ルシヴァルの光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスなり! 我らの背後にはなんぴとたりと走らせるつもりはないと知れ!!」」と叫ぶと、魔貴族たちは狼狽えた。
「「ヒヒィーン」」
とゼメタスとアドモスを乗せた二頭がウィリーを行う。
渋すぎる。と、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスを乗せた二頭は前足をつけてから俄に背後に大きく跳躍。
俺たちの近くに戻ると俺とキサラとキスマリとヴィーネと
先陣を飾る光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスか。
素直に格好いい。
「「ブブァァ」」
二頭のドールゼリグンは俺に対して両前足を付けながら頭を垂れる。光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは、
「閣下ァ、私のドールゼリグン、名はヒョードルも同じことを言っているように思えまする!」
「閣下ァ、我のドールゼリグン、名はザレアドが閣下の眷属になりたいと申しているようですぞ!」
ヒョードルとザレアドか。
<魔蜘蛛煉獄王の楔>もあるが……。
「悪いが、光魔ルシヴァルへの眷属は、血道の進化を待ってくれ。魔力を通した契約なら可能かも知れないが、それは光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスの契約だからな。また、ソフィーや魔蛙ムクラウエモンにミスティにクナなどと相談すれば魔法真紋などの効力での契約も可能とは思うが、それもまた血の眷属とは違う。そして、
「「ブブァァ」」
「「はい!」」
とヒョードルとザレアドのドールゼリグンとゼメタスとアドモスは返事をしてくれた。
「ゼメタスとアドモス、一応、ドールゼリグンはグルガンヌ地方に戻しておいてくれ」
「「ハッ!」」
ゼメタスとアドモスは体から魔力を噴出させつつ互いの骨盾を突き合った。愛盾・光魔黒魂塊の骨盾の表面に埋まっていた魔コインの一部と魔法陣が露見し、レンシサの魔白金コインとディペリルの高級魔コインとレブラの高級魔コインが自動的に浮かぶ。
と愛盾・光魔黒魂塊と愛盾・光魔赤魂塊の縁から虹色の魔力が大噴出――両者が乗っていた大型馬ドールゼリグンが吸い込まれた。
ゼメタスとアドモスを残してグルガンヌ地方に帰還した。
同時に俺の
刹那、悪神ギュラゼルバンが、
「『奇怪な、髑髏の魔界騎士を持つ、混沌の槍使い……』」
と発言してきた。
「奇怪な、とは失礼だな。光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスだ」
「『ふむ……我らは地下に用がある、今素直に退けば我らは【サネハダ街道街】に【メイジナ大街道】や【レン・サキナガの峰閣砦】の地上の街やバーヴァイ地方などの領域には踏み込まないと約束しよう、どうだ?』」
神意力と同時の言葉での交渉だが、脅迫か?
プレッシャーを掛けてくる。
先ほどの魔毒の女神ミセアの幻影も語っていたが地下遺跡のことが気になる。左手に棲まう
『うむ、その遺跡も関係すると思うが、冥界シャロアルではなく群生旧神の類い旧神たちの墓場もあるようだ。知能があるかは分からぬが……次元魔力の封が解かれている……』
と念話で教えてくれた。
そのことを踏まえて悪神ギュラゼルバンに、
「アキサダと同じくスキルの恩恵が得られても、退くわけがない。それよりも【メイジナ大平原】の大地を裂いて出現した魔皇メイジナの遺跡と旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿とはなんだ? 【旧神たちの墓場】や群生旧神の墓場でもある? その次元魔力の漏れを、お前が利用して何をするつもりだ」
と少しかまをかけて語ると、悪神ギュラゼルバンは魔槍を俺に差し向ける。
「『――お前は魔毒の女神ミセアの魔界騎士候補と言われていたが、候補ではなく実際の魔毒の女神ミセアの眷属でもあるのだな? 背後の銀髪のダークエルフも、あやつがセラの地下を支配する民たちだ』」
「違う、魔毒の女神ミセアの眷属ではない。ヴィーネも俺の<
「『そのすべてが我らの目的だ……しかし……ふむ』
と魔槍を下ろし、少し考えるような仕種を取って俺を凝視。
すべてが目的か、合点がいく。
もしかしたら、と……すべてが保険に過ぎないと予想をしていたが、やはり、正解だった。
ここの地下遺跡のための【メイジナ大平原】を所領に持つレン家たちへの侵略か。
しかし、わざわざ転移してくるとは思わなかったが。
「この状況だ、最初から様々な地下遺跡が存在している【メイジナ大平原】が目当てか。漆黒の虚炎魔神ガラビリスの指輪に悪霊驍将軍ゲーラーなど、ここに派遣したすべての大眷属と眷属と兵士も旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿の封を解くための、お前が用意した盛大な生贄だったのか? レン家の者たちと共々最初から死ぬ予定だったんではないか? レン家の重心、上草連長首座アキサダの秘宝もオオノウチとの取り引きの理由もそうだ」
「『……ハッ、実に慧眼だ、悪霊驍将軍ゲーラーの役割も見抜いたのか』」
と発言するとテーブル席の貴婦人が立ち上がり拍手。
俺を見て微笑むと半身の姿勢を取り悪神ギュラゼルバンを敬うように貴族然とした態度でスカートの端に手を置きつつ頭を下げてから、
「陛下、あの者を妾の夫に得たいですわ」
「『ミュラン公、<夜の瞳>に影響を受けすぎだ……』」
「ふふ、大丈夫ですわよ。夫にして、優秀な脳髄と脊髄に、腎張強蔵を少しずつ頂こうと考えておりますの、脳髄と子宮に、特殊な力が得られるような気がしますわ」
高飛車の喋りが癇にさわる。
だが、<脳脊魔速>のことを暗に指しているのか。
「ハハハッ、ミュラン公の<漢喰い>にもほどがある、あの混沌の槍使いの魔力量はそう大きくはないぞ? 定命の範疇の、今では多少の珍しさがある、怪夜魔族などではないか?」
と顔の片側だけ紫色に腫れ上がった片眼鏡を装着している巨漢魔貴族が話に加わった。
「もう、ベターン大公だって、肉叉の動きが止まってますし、あの銀髪と白髪の美人な女たちを狙っているんでしょう?」
「フハハ、その通り。我の<女喰い>と<肝脳>は既に震えておる」
片眼鏡から覗かせる巨大な片眼が気持ち悪い。
ヴィーネとキサラを見る目がぎらついている。
悪神ギュラゼルバンは、
「ベターン大公にミュラン公は暫し待て。あの混沌の槍使いと話をしているのは我だ」
「「ハッ」」
片眼鏡の巨漢魔貴族ベターン大公と貴婦人のミュラン公は頭を下げていた。悪神ギュラゼルバンは俺を見て、
「……混沌の槍使い、お前のことを魔毒の女神ミセアが、わざわざ<夜の瞳>と名指しして欲しがる理由だと理解できた……我の六眼バーテにヴァドラとゲーラーなど無数の眷属と大眷属を屠っただけはある。神界との繋がりは解せぬが、傷場を占有していた魔界王子の一角を滅したという情報もたしかなようだ……』」
と俺のことを語る悪神ギュラゼルバンの頭部は人型で四眼だが、頭蓋骨と顔は漆黒の血肉が乱雑に盛り付いたアシンメトリーの角兜と融合していて、表情が読めない。
その悪神ギュラゼルバンに、
「悪神ギュラゼルバン様、もったいぶらずに、魔皇メイジナの秘宝と旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿とは? 【旧神たちの墓場】からの次元魔力の漏れの正体とはなんなのですか? 教えていただけたら、退くことを考えるかも知れません」
「『ハッ、ふざけた漢よ……その機知と我に物怖じしない胆力に勘の鋭さ……惜しいな、が、勘が良すぎるのも困りものか……ふむ、仕方あるまい、皆の者……あやつらを排除せよ』」
悪神ギュラゼルバンが号令を下すと一斉に、ベターン大公にミュラン公以外のテーブル席で気色悪い食事を楽しんでいた連中の全員が立ちながら此方を見やる。
そして、大広間にいる魔貴族たちは、
「「「陛下たちに近づけるな!!」」」
「「「ぬおおお――」」」
「「ミュラン公に血の豊穣を!」」
「「ウゲラヌス大公に血を捧げよう!」」
「「「悪神ギュラゼルバン様に、あの者らの血肉を捧げるのだ!」」」
と叫びながら寄ってきた。
悪神ギュラゼルバンの近くの左右にいた頭蓋骨が縦に連なる長身魔術師のガリボンズにザィアは魔杖を使用。白く濁ったような眼球から漆黒の炎の紋章を輝かせながら、壇の周りに漆黒の積層とした防御魔法を展開させていた。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは、
「閣下の内奥を理解するのはよほどの観察眼がいると分かる」
「ふむ、ゼメタスよ、出るぞ! 閣下とロロ殿様と皆様方、あの者らは我らにお任せを!」
「おう、任させた」
「任せぬ! 主、我も出る――」
と、六眼キスマリも<血魔力>を発して、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモス共に前に出た。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは月虹を足下から光らせて低空を浮かびながら前進していたが、キスマリのほうが速い。
キスマリは跳躍し、魔貴族集団の魔槍の槍衾を一気に躱すと、奥の手前にいた歪んだ頭蓋骨に異様な漆黒の炎に燃えている顔の男に斬り掛かる。
ケル&サグルーの剣突を、歪んだ頭蓋骨の魔貴族は鋼鞭のような物を掲げて防ぐと横に移動し、大広間のほうに後退しながら異様な漆黒の炎を周囲に発した。
「――ハハハッ、我のベベランを射貫いた女を殺したかったが、仕方ない――」
と発言しながら全身から数種類の<魔闘術>系統を発動する。
キスマリは「ハッ、お前もどうせ戦場を知らぬ大将首に過ぎぬ――」と言いながら、諸侯クラスの歪んだ頭蓋骨から漆黒の炎を吐き出している者を追うようにテーブル席から離れ大広間を駆けた。
一方、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは無数の槍衾を、一手に引き受けるように愛盾・光魔黒魂塊と愛盾・光魔赤魂塊で受け止めた。すべての槍の穂先を止めると力強い歩幅で前進し体幹力を示すように骨剣を振り払う。
――<月虹斬り>か。
と、同時に名剣・光魔黒骨清濁牙と名剣・光魔赤骨清濁牙から<バーヴァイの魔刃>を飛ばしていた。
魔貴族たちを一気に吹き飛ばす。
ゼメタスとアドモスにも〝黒衣の王〟の恩恵は宿っていたようだな。
同時に魔軍夜行ノ槍業に魔力を込める。
いつでも雷炎槍のシュリ師匠、断罪槍のイルヴェーヌ師匠、悪愚槍のトースン師匠、妙神槍のソー師匠を出せるようにしておく。
心強い味方だ。師匠たちの体の一部と装備の回収ができていて本当に良かった。
<魔軍夜行ノ憑依>を使い師匠たちの魂を纏いながら戦う方法も選択肢の一つに考えておくか。
壇の下のテーブルに近付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます