千四百十六話 魔貴族と道化帽子を被ったオルマルシィたちとの戦闘

 後退したキサラが、


「飛魔式、ひゅうれいや……」


 と不思議なリズムの声音が響く。

 キサラの腰ベルトからぶら下がっている魔界四九三書の一つ百鬼道は輝いている。


 既にダモアヌンの魔槍をギターversionに変化させていた。

 美しいに旋律に圧倒される。

 <魔謳>の美しい歌声と、弦音楽の魔法か魔術か。

 ギターの音色も渋い、和のテイストに西洋のロックが合わさったような……十兵衛と千方の<魔倶飛式>は、踊りながら皆と紙人形の<飛式>に魔力の波を放出している。

 他の<飛式>の紙人形も踊りながら追随した。

 

 その間に<闇透纏視>で敵を観察――。

 魔剣と魔槍を両手に召喚していく魔貴族は魔力を体から放出しながら近付いてくる。体内の魔力はかなり内包しているが、大広間と玉座にいる連中よりは魔力量は桁が違う、魔力の淀みも無し。


 魔軍夜行ノ槍業が少し揺れて、


『奥の存在は悪神ギュラゼルバンだろう』

『あぁ、だが、大広間を載せた下の怪物を利用して、ここに転移してくるとはな? 地下の遺跡がよほど重要か? 弟子の存在が脅威に思えたか……』

『ふむ……大眷属を失いすぎた故かの』

『弟子、向かってくる雑魚は余裕だと思うが、テーブル席で余裕をぶっこいている連中も悪神ギュラゼルバンの大眷属と予測できる。強そうだ。戦うなら、俺たちを出せ』

『うん、お弟子ちゃんと眷属ちゃんと共闘といきましょう』

『カカカッ、わしの手足を戻してくれれば共に戦えるのじゃが、負担がちと多いかの』

『すみません、グラド師匠の手足はここが落ち着いたら納めようと考えていました』

『カカカッ、良きかな良きかな、悪神ギュラゼルバンと、その眷属衆との戦いでは、皆に気張ってもらおうか』


 そこで魔軍夜行ノ槍業の念話は途切れる。


 一方、巨大なテーブルで人族か魔族を食べている連中は俺たちの存在なんて微塵も気にしないように食事を続けていたが、一人気色悪い笑みを讃えた貴婦人が此方を見やる。


 けらけら、えへらえへらと嗤い声を響かせると口を窄めて尖らせた瞬間――。

 その尖った口から骨の針が俺に飛来、俄に魔槍杖バルドークを下げて柄で骨の針を防いだ。


 魔槍杖バルドークと両腕が振動した――。


 かなりの威力と速度、距離にして数kmは離れていると思うが、なんて精度だよ。


 骨の針を防ぐのを見た貴婦人はつまらなそうな表情を浮かべてから指を鳴らし、腰を落として椅子に座る。


 貴婦人も悪神ギュラゼルバンの大眷属か。


 悪霊驍将軍ゲーラーと同程度の実力なら強者は確実。

 が、連携をしながら戦えば案外早く倒せるかも知れない。


 魔軍夜行ノ槍業系のスキルを使うかな。

 <脳脊魔速>なども使用してしまった。

 覚えたばかりの<魔仙神功>を使うなら、あの玉座に座っている存在と戦うことになったら使用しよう。


 すると、道化帽子を被ったピエロが貴婦人の斜め上空に数体出現した。


 貴婦人はテーブルの熟れた桃のような内臓にホークを突き刺し、それを口に運び食べながら、道化帽子のピエロたちに、


「『妾のオルマルシィたち、あの者たちを、他の誰よりも速くに、妾の下に生きたまま連れてきておくれ、妾の希望通り逸早く捕らえた者には、妾の乳から出る濃密な魔魂ミルクを呑ませて、精力を増やしてあげるから、うふふ』」


 と神意力を有した言葉と念話を飛ばしてきた。


 魔剣と魔槍を持つ魔貴族たちは、その貴婦人に敬礼。

 貴婦人の眷属らしき道化帽子のピエロたちは、貴婦人に頭を下げてから、一斉に振り返り、俺たちを見やる。双眸が煌めいた。


 そのまま両手に漆黒の炎を噴出させた曲剣のような魔剣を生み出すと、周囲の魔剣と魔槍を持つ魔貴族たちの周囲を飛び跳ねながら俺たちにゆっくりと近付いてきた。


 まだ距離にして一kmはありそうだが、油断はできない。


 すると大広間自体が上昇を始めた。

 玉座にいる漆黒の外套を着た四眼の魔族は此方を見ていない。

 尻尾が多少動いただけだ。が、四つの巨大な眼球は此方を見ていた。

 と手前の魔術師たちは俺たちを見上げている。

 

 テーブル席で食事を喰らっている連中も俺たちを気にしていない。

 大広間は、地下遺跡の出入り口から少し離れた。

 

 え? その動いている大広間とテーブルの下には巨大な骨の鰐がいた。

 巨大な骨の鰐は大広間を乗せているのか。

 骨の鰐の背中には上向きの幅広い剣刃が犇めき合うように生え揃っている。針鼠のような印象だ。


 そして、ソー師匠が念話で言っていたな。


 巨大な骨の鰐は、小さい大厖魔街異獣ボベルファのような存在か?

 その骨の鰐の周囲には海流のような半透明な魔力の流れができていた。魔力の流れで飛翔力か、転移力を得ている?


 皆も気付いて、


「巨大な骨の鰐に大広間があるとは……」

「あぁ、驚きだ、にしてもゆっくりと寄ってくる連中は俺たちを捕らえるつもりのようだぞ」

「既に骨の針で攻撃を受けている。寄ってくる連中は片っ端から倒そうか」

「「「はい」」」

「にゃごぉ」

「にゃァ」

「オグォ~ン」


 犀花サイファの気合いの入った鳴き声はポポブムを強くした感じで面白い。半身の姿勢で、後方を見やる。

 旋回していた魔犀花流派の巧手四櫂たちと人面瘡を鎧に有した兵士たちも無理もないが、動きを停めて此方越しに下の様子を見ている。


 大広間を載せた巨大な骨の鰐の存在は魔犀花流派にとっても珍しい現象か。


 大厖魔街異獣ボベルファのような存在は珍しくないとは思うが。


「イズチとインミミたち臨機応変に戦おうか。指示は任せるが、苦戦するなら素直に退いていい」

「「はい」」


 キサラとビュシエとヴィーネとキッカの<筆頭従者長選ばれし眷属>組は峰閣砦の天守閣にいる同じく<筆頭従者長選ばれし眷属>のエヴァとサシィとバーソロンたちに血文字を連絡していた。


 バーソロンからの返事でリューリュ、ツィクハル、パパスの黒狼隊も峰閣砦に到着したと血文字が見えた。

 遅れた理由は【古バーヴァイ族の集落跡】とバーヴァイ城を結ぶ輸送路の近隣に湧いたモンスター討伐に忙しかったようだな。

 アドゥムブラリは【古バーヴァイ族の集落跡】の<従者長>アチと、バーヴァイ城にいるバーソロンの眷属、<筆頭従者>チチル、<筆頭従者>ソフィー、<筆頭従者>ノノたちにバリィアンの堡砦とバーヴァイ城は案外近いことや、そのバリィアンの堡砦とバーヴァイ城の通り道は何通りもあり、途中で、モンスターが大量に湧く場所を数カ所潰したが、まだ数カ所あるから気を付けるように目印を作ったとかの血文字を送っている。


 幼馴染みの情報を集める以外にも勇者なことを行っていたようだ。

 偉いなアドゥムブラリ。

 アドゥムブラリの行動により、だれかが救われたのなら、<筆頭従者長選ばれし眷属>にしたかいがある。

 単眼球の頃、『オレ様はモテモテの魔侯爵だったんだぞ!』とコミカルな姿で力説していたことを思い出すと、感慨深い。

 実際、今の端正な顔立ちに金髪だ、そうだったんだろうなと思う。


 そのアドゥムブラリと皆に道化帽子のピエロたちと魔貴族たちの様子を見つつ、

 

「アドゥムブラリとビュシエとキスマリに聞くが、大広間の玉座とテーブル席にいる連中に心当たりはあるかな?」

「ないが、魔貴族たちの身なりは魔侯爵級などの証明、しかし、ベゲドアード団と同じような気質とはな……主、あのような人型の魔族を直に焼いて食うことは俺たちにはないからな」

「あぁ、分かってるさ」

「悪神ギュラゼルバンを直には見たことがありませんが、眷属なら戦ったことが数度、すべて倒しましたが、二眼二腕の魔族が多かったですね。身なりもアドゥムブラリと似た貴族風の防護服でした」

「我もない。悪神ギュラゼルバン側が雇った者たちなら戦ったことは数え切れないほどあるが……」


 三人の言葉に頷いた。


「悪神ギュラゼルバンかと思ったが、魔皇メイジナが復活した線もあるのか」

「どうだろうな、悪神ギュラゼルバンが本拠地から転移してきた説を推す」

「はい、悪神ギュラゼルバンが転移してきた可能性が高いかと」


 アドゥムブラリとビュシエの言葉に頷いた。

 キサラとヴィーネも頷くから悪神ギュラゼルバン説が正しいか。


「玉座の男と魔術師風の部下に、テーブル席の連中は強そうに見える」

「だな、先ほどの神意力を持つ……悪霊驍将軍ゲーラークラスだ。最低でも魔侯爵、いや、殆どが魔公爵級を超えるような大眷属だろう。そして、玉座にいる魔神か不明な存在の配下で、領地を持つ魔貴族たちに違いない」


 アドゥムブラリの言葉に皆が頷いた。

 

「はい、と、地下遺跡に隠れ住んでいた魔皇メイジナが家臣たちが顕れたか……」

 

 と予想してくれた。

 ビュシエ・ラヴァレ・エイヴィハン・ルグナドだった存在の情報だ。

 たしかだろう。

 三人の言葉にヴィーネとキサラとキッカは静かに頷いた。

 同意見、イモリザと光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスも頷いた。


 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは少し前進して、俺たちを守るようなポジションを取る。

 <魔骨魚>を無数に生み出して準備を整えているイモリザを見て、


「イモリザ、悪いがピュリンとなって、後方から狙撃ターンだ」


 と発言すると、イモリザは、


「イサッサー大隊長!」


 とサイデイルの門番長のノリで発言すると、一瞬で「ピュイ♪」と鳴いたように黄金芋虫ゴールドセキュリオンとなって、体のピンク色の触手角から黄金色の細かな粒子を回りに撒く。

 

「ンン」

「にゃァ」


 黒豹ロロはずっと前に黄金の粒子を鼻からもろに吸い込んでいたが、今回は体から普通に黄金の粉のような粒子を取り込んでいく。

 橙色の燕の魔力が一瞬大きくなったから、魔力を得た?

 銀灰虎メト犀花サイファも黄金の粒子を得ていた。

 ボボボッと音を立てて銀色の魔力を銀灰虎メトは纏い、紫色の魔力の炎を犀花サイファが纏う。


 皆を強化してくれた黄金芋虫ゴールドセキュリオンのイモリザは頭部を上げて触手角の先端を拡げ窄めて皆に口に向け投げキッスを行ってから直ぐにピュリンに変化した。


「リサナとピュリンは後退、波群瓢箪を活かしてくれ」

「はい、退きます~」

「分かりました、使者様の期待に応えます――」


 リサナと手を繋いだピュリンは独自の指暗号を行い笑う。

 と、「ふふ、リサナ嬢様、先ほどと同じく連携してがんばりましょう」と、片腕を骨の銃に変化させた。リサナも「はい♪」と発言しては、波群瓢箪を前方に出しながら扇子を持つ。


 ピュリンは、額の丸い円の印を煌めかせると、薄緑色の瞳も輝かせながら俺にウィンクをしてくれた。骨の尻尾が伸びて縮む。可愛い。


 とリサナに引っ張られて後退した。

 すると、俺たち近付いてきた魔剣持ちの魔貴族が、


「「「――場をわきまえよ」」」

「「「身の程を弁えて、我らの贄となるのだ」」」


 と叫びながら魔剣から魔刃を繰り出してきた。

 皆で一斉に崖から離れた――。

 崖は魔刃を浴びると、崩落していく。

 乗っているドールゼリグンを月虹に光らせるように<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を使用した光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは直進し、骨剣を突き出し、魔貴族をいきなり屠ると、左右に離れて飛翔していく。

 

 ヴィーネとキッカも飛翔しながら魔貴族たち<バーヴァイの魔刃>を送った。

 ヴィーネとキッカの<バーヴァイの魔刃>を魔剣で防ぐ魔剣持ち魔貴族だったが「にゃごお~」と鳴いた黒豹ロロの無数の触手骨剣を全身に喰らうと、燃焼して散る。


 光属性が弱点か。

 耐性が弱いなら楽だ。


 更に、ビュシエの<血道・霊動刃イデオエッジ>が、魔貴族たちの体を貫いていく。


 魔貴族たちは体が青白い光を発して燃えるように消えた。


「光の<血魔力>だと!?」

「――やはり、吸血神ルグナドの連中ではない」

「悪霊驍将軍ゲーラー様からの情報通り、神界の兆し……」

「……強者のヴァドラ様の反応も消えたと聞く」

「あぁ……」


 魔貴族たちは今頃になって動揺か?

 

 大斧の偽魔皇の擬三日月を振るって投げ飛ばしながら複数の<魔矢魔霊・レームル>をも射出するアドゥムブラリの遠距離攻撃で、大半の魔槍と魔剣持ちの魔貴族たちが蜂の巣になって炎上し落下。


 貴婦人の眷属らしき道化帽子を被ったピエロの集団は、一味違う。

 名はオルマルシィと言ったか。


 速度も速く、相棒の触手骨剣も避けては曲剣で弾く。

 

 オルマルシィは曲剣をクロスさせて偽魔皇の擬三日月の一撃を頭上で防ぐ。

 が、偽魔皇の擬三日月は重い。

 その重さと勢いに負けて腕が内側に曲がると、曲剣の裏側が、オルマルシィの頭部に突き刺さるがまま偽魔皇の擬三日月の斧刃が道化帽子ごとオルマルシィの頭部を真っ二つにしていた。


 再生能力はオルマルシィの頭部にはない。

 脳漿を撒き散らしながら道化帽子を被ったピエロのオルマルシィは落下していく。


 ヴィーネとキッカの<バーヴァイの魔刃>が魔貴族たちを次々に宙空から押し込んでいく。

 更にピュリンの<光邪ノ尖骨筒>の大口径の骨の弾丸がヴィーネとキッカに連動するように、魔貴族の頭部をヘッドショット――。

 魔貴族も頭部を失えば散るタイプが多いが、頭部を<バーヴァイの魔刃>が貫いても再生する個体がいたが、そんな個体には、ビュシエの<血道・霊動刃イデオエッジ>が効く。

 ヴィーネはガドリセスの<バーヴァイの魔刃>と翡翠の蛇弓バジュラの光線の矢を使い分けながら遠距離攻撃を続けた。


 俺も《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を無数に放ち――。

 ――<光条の鎖槍シャインチェーンランス>をタイミング良く放った。

 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》の雨で防御を意識した、再生能力が以上に高い魔貴族を確実に<光条の鎖槍シャインチェーンランス>で仕留めていく。


 そこに<魔謳>とギターを演奏していたキサラが寄ってくる。

 紙人形の<飛式>を皆に付け終えたか。

 ダモアヌンの魔槍と青炎槍カラカンを左右の腕に握っている。


「シュウヤ様、これを――」


 と青炎槍カラカンを返してくれた。

 受け取りながら、戦闘型デバイスから直ぐに魔槍斗宿ラキースを出して渡した。


「シュウヤ様は、まだ六つの輝きの意味と関連した<瞑道六滅>のスキルを獲得なされていないと思いますが、いいのですか?」

「いいさ、握力上昇と武器の引き寄せの<握吸>と<握式・吸脱着>の感覚は、すべての武器に流用可能なことが大きい。キサラが強くなれば尚のこと嬉しい」

「はい!」


 キサラは喜んでくれた。

 ――と、胸元に魔槍斗宿ラキースを抱えながら爪先立ちをしたキサラから頬にキスを受けた。

 

 唇にちゅっとほしかったと唇を窄めたら、キサラに笑われた。


「あはは」

 

 と俺も笑う。


「ふふふ」

 

 キサラも面白かったか。

 キサラを抱きしめたくなったが自重、レベッカがいたらツッコミが来るなと、今は戦闘中だ。


「キサラ、周囲の魔貴族共と掃討し、あの骨の鰐に乗っている連中を倒しに掛かるぞ!」

「はい!」

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