千四百十五話 魑魅魍魎な魔貴族たちの晩餐会
黒衣の王の魔斧槍を早速活かすか。
左手に魔槍グルンバウダーを召喚。
『閣下、わたしの<闇水雹累波>をぶちかましますか?』
『その準備はしておいてくれ。俺は魔槍グルンバウダーを使い、その後に、壊槍グラドパルスで破壊を試みる』
『はい』
異変は起こさせる前に潰す――。
左腕を前方に突き出すノーモーションで<バーヴァイの螺旋暗赤刃>を繰り出した。
魔槍グルンバウダーの穂先から螺旋状の魔刃が直進。
漆黒の虚炎魔神ガラビリスを吸い取った魔法陣と漆黒と紫と白銀の炎の魔法陣に向かう。
が、魔法陣は炎を周囲に発動しながら急上昇し、宙空を転移しまくる。転移しながら真下に向け漆黒と紫と白銀の炎を飛ばすと、地震が起きた。
続いて<闇穿・魔壊槍>を繰り出そうとしたが……。
まさか魔法陣が生き物のように動くとは想定外だ。
大地が漆黒と紫と白銀の炎に煌めきながらナスカの地上絵を描くように巨大な魔法陣が大地に刻まれていく。その魔法陣の魔線の煌めきをなぞるように、大地が陥没し、地割れを起こしながら崩落していく。地下に空洞でもあったのか?
地上にいた悪神ギュラゼルバンの軍隊は巻きこまれるように、
「「ひぁぁぁ」」
「「グォォォ」」」
多数の兵士たちが落下していく。騎兵たちは退いていた。大型馬のバルセン、ドールゼリグンに大魔獣ルガバンティは無事と少し安堵。
と、
「「ヒヒーィン」」
驚いたのか光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスの愛馬のドールゼリグンが鳴いた。ちゃっかり骨兜が装着されている。その光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスに、
「少し浮いて離れようか」
「「承知!」」
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスと共に上昇。
陥没した地下に漆黒と紫と白銀の髑髏と眼球で構成されたような古代の地下遺跡が現れた。奥行きのある地下遺跡から胸元に紫の炎を灯した奇怪な幽体が此方側に一列に並んだ状態で現れる。幽体がずらりと車列を組むように並ぶさまは滑走路の誘導路灯に思えた。奇怪な幽体は長身で半透明だが形容しがたい。
アドゥムブラリたちが近付いてきた。魔法陣は依然と転移しまくっている。
魔法陣はそのまま遠くに逃げたと思ったら、近くの空に転移してきた。
どういう? 悪霊驍将軍ゲーラーの魂なら逃げるのは分かるが……俺たちを揶揄うように転移を繰り返し、また離れたところに転移している。
漆黒の虚炎魔神ガラビリスと戦っていた相棒と魔皇獣咆ケーゼンベルスも近付いてくる。
「ンン、にゃお~」
「ウォン! 驚いたぞ!」
魔犀花流派の巧手四櫂と兵士たちと
「「「「総帥!」」」」
「おう、皆、少し下がっていてくれ、俺たちは標的になりやすい」
「ハッ、皆、総帥の指示に従え――」
「「「「「はい!」」」」」
イズチの指示通りインミミ、ズィル、ゾウバチたちも反転して、人面瘡を鎧に有した兵士たちと共に俺たちから離れた。もう近くには悪神ギュラゼルバン側の敵兵士はいない。
――魔槍グルンバウダーを消す。
アドゥムブラリは、「あのうろちょろとしている、魔法陣は生きているのか――」と言いながら<魔弓魔霊・レポンヌクス>から<魔矢魔霊・レームル>の魔矢を数十と放つ。
転移を繰り返す魔法陣には、その魔矢は当たらない。
ヴィーネも翡翠の
神懸かった射手の腕前を持つヴィーネが止めるってことは、当たらないに等しい。
魔法陣は漆黒と紫と白銀の炎で己を守りつつ下に出現した地下に向かう。
ヴィーネとキサラとビュシエとキッカとイモリザもリサナも魔法陣の行動を追うように、地下遺跡を覗く。皆の傍に着地。目の前は崖で、少し先の崖は崩落して滝となって地下水が露出して絶景となっていた。
俺の後方に、ドールゼリグンに乗った光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスが地面に着地した。皆で、崖となった端から地下遺跡を眺めていく。
この崖が崩落しないか、少し不安になった。
相棒とケーゼンベルスと
ケーゼンベルスは姿を普通の狼の大きさに戻している。
そのケーゼンベルスは魔息が荒いが、呼吸を整えるように溜め息を吐いて、
「……我が倒したかった巨人が吸収されてしまうとは……しかし、あの空飛ぶ魔法陣といい突然の地下遺跡誕生……信じられないぞ、ここは平らな土地だったはずだ!」
と、崖の端っこの匂いを嗅いでいる。尻尾がふさふさで可愛い。
「あぁ、まさかの展開だ、少し様子見といこう」
「ウォン! 分かっている!」
「ンン、にゃぉ~」
「にゃァ~」
「オゥ~ン」
近くにいる
両腕を相棒と
『ふふ、わたしたちもロロ様たちを撫でたいですが、まだここにいます』
『はい、ふふ皆の尻尾ちゃんが可愛すぎる~』
ヘルメとグィヴァの念話に同意するように頷いた。
すると、アドゥムブラリは<魔弓魔霊・レポンヌクス>から魔矢を放ち続けているが、
「――あの魔法陣は悪霊驍将軍ゲーラーの魂が操作を? それとも神獣とケーゼンベルスが戦っていた巨人の魂か?」
「そうかも知れない」
ヴィーネは、
「地下遺跡は悪神ギュラゼルバンと関係があるのでしょうか……それとも悪神ギュラゼルバン側が草原地帯の一角の地下に眠る古代の魔神か魔皇の遺跡を調べていたんでしょうか」
「そのどちらかだろう」
皆が頷いた。
ビュシエが少し不安そうな表情を浮かべている。
「シュウヤ様……」
ビュシエに寄り、
「大丈夫か?」
「はい、少し動揺しています」
吸血神ルグナドの元<
「このような事象は、魔界大戦でもあまりないか」
「はい、シュウヤ様も戦いで大眷属を逃がさず、キッチリと仕留められるような濃度の高い戦闘もかなり珍しいんです。その戦闘を前後して、いきなりの巨人誕生から、その巨人をも吸収した空飛ぶ魔法陣に、この地下遺跡の出現ですから……【メイジナ大平原】の魔皇メイジナと関係するかも知れないとなると……はい、なにか、この動揺は、久しぶりの感覚です……」
<血魔力>の眼鏡が似合うビュシエが本音で語っていると分かる。
金髪に眼鏡というビュシエが最高に素敵すぎる。
ヴィーネも数回感心するように頷いて、
「魔皇メイジナ……なるほど」
と発言。キサラも、
「はい、完全に予想外。嘗ての魔皇メイジナか、他の神々が祀られて地下遺跡を、悪神ギュラゼルバン側が利用していた? そして、侵略目的は、無数の魂が行き交うことを想定した戦場を利用し、魂を吸収した古代遺跡を可動させるためでしょうか」
キサラは頭が良い。素直に頷いていた。
頷いたから視線が下がると、キサラの乳房の位置となった。
修道女っぽさを活かした姫魔鬼武装の防護服は渋くて格好いいが、黒いノースリーブの戦闘衣装でもある。胸元が張って柔らかそうな乳房の形がくっくりと分かる。柔らかそうな乳房を見るとなんかほっこりするんだよなぁ。
やはり肉球に通じていて、おっぱいには大小関わらず美学がある。
そして、イモリザはあまり分かっていない様子だから、
「……説明しておくと、悪霊驍将軍ゲーラーが漆黒の虚炎魔神ガラビリスを呼び出すために使用した指輪を回収しようとしたら弾かれたんだ。で、指輪が地面に転がった先で、その指輪を基点に魔法陣が瞬時に展開され、指輪が魔法陣に取り込まれると、魔法陣から漆黒と紫と白銀の炎が噴出した。その炎が漆黒の虚炎魔神ガラビリスを吸い込むと、俺が魔法陣を攻撃しようとしたら逃げられた。今のように転移しまくる間に、下の大地に向け漆黒と紫と白銀の炎を噴出すると、大地に仕込まれてあった魔法陣が作動して、大地が陥没し、元々地下に用意してあったか不明だが、あのような地下遺跡が露出した。で、今のように出入り口付近に、半透明なモンスターたちが並んでいる状態だ」
「……悪霊驍将軍ゲーラーが倒された時のための保険でしょうか」
「その線もあるな」
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは、
「閣下、下の地下遺跡に突入しますか」
「閣下についていきますぞ」
愛盾・光魔黒魂塊と愛盾・光魔黒魂塊を下の地下遺跡に向けている。
「いきますぞ♪」
イモリザもやる気があるようだ。
すると、魔法陣から遺跡の出入り口付近に急降下。
大量に漆黒と紫と白銀の炎を噴出させる。
と魔法陣は消えた。
漆黒と紫と白銀の炎は、先程の指輪を模りながら巨大な卵の形に変化しつつ、幽体たちと重なった。
奇怪な幽体たちの一部は、胸元の炎を強める。
各自回転を始めた。
炎が地下遺跡の奥にある洞窟の中に吸い込まれながら渦を巻いた。周囲の炎も揺らめきながら洞窟の中に吸い込まれていく。
と吸い込まれている中心が灰銀色に暈ける。
とパッと消えた刹那、異空間のような情景が顕れる。
と、その異空間は突然、玉座を擁した大広間の光景となって、それが立体化して、現実に大広間だけがそこに浮かんでいた。
「「「え?」」」
皆が驚く。
――魑魅魍魎たちの晩餐会か?
「マジか」
「あぁ、現実だ」
玉座には大柄の四眼の魔族が座る。
悪神ギュラゼルバンだろうか。
頭蓋骨は漆黒の血肉が乱雑に盛り付いたアシンメトリーの角兜と融合して、かなりの大きさだ。漆黒の外套を羽織っている。
頭上に、巨大な眼球が四つ浮いていた。
血筋が目立つ眼球の下部は無数の蔓脚のような魔線が、四眼の魔族の背中や両肩と繋がっていた。
外套は蔓脚のような魔線に関係ないようだ。
四眼の魔族の装備と足の数は把握できない。
棘だらけの長い尾を持つようで、外套から棘が付いた尾が出ている。
玉座の左右手前には二つの頭蓋骨が縦に連なった長身の魔術師が立つ。
白く濁ったような眼球から漆黒の炎の紋章が浮かんでいる。
広間には長いテーブルの上で食事を楽しむ大柄の魔族たちがいた。
身なりは皆、魔貴族と分かるような豪華な身なり。
右側の奥に座るのは、萎れた葉脈のような皮膚を持つ太鼓腹を晒しながら、テーブルの大皿に載せられた女性の足を喰らっている巨漢魔貴族、金髪で白い肌だが、頭部の片側だけ紫色に腫れ上がっており異様な大きさの片眼鏡を装備していた。
二眼二腕の魔族に見えるが巨漢すぎて把握できない。
その左の向かいに座るのは、白粉で化粧した顔の女性魔族。
頬の部分が異様に盛り上がっていて、異様にテカった口紅を厚ぼったい唇に塗ってあるようだ。この女性も白い肌で痩せている。足が四本あり、げ、手のような物が細い足に付き、その手がテーブルの下に落ちている残飯を拾い、長い足にある口に運んで、残飯を食べていた。
テーブルの右中央には、歪んだ頭蓋骨に紫色の炎が灯る太い肉を盛り付けたような異様な顔を持つ男。
濁ったような瞳で舌先をドリル状に変化させると、大皿に載せられてある股らしき肉へと顔を突っ込んで、その肉を食べていた。
気色悪い。
背後には、彼が飼っているだろう黒い牛系の魔獣が鎖に繋がれていた。腹と背に無数の乳房があり、乳房の先端からミルクが少し出ていた。
そのミルクを巡って、細かな蠅たちが集まっている。
テーブルの左中央には、トーガを着た巨漢魔族がいる。
身なりは貴族服を着てこじゃれているが、腹は太鼓腹だ。
背中には、褐色の翼を生やしてバタバタしていた。
そんな彼の傍には、浅黒い肌の
壁にもたれ掛かっている魔貴族たちは俺たちに気付くと、魔剣を召喚してゆっくりと此方側に寄ってきた。
玉座とテーブル席に座る者たちは、俺たちを無視し、気色悪い食事を楽しんでいた。
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