千四百十四話 漆黒の虚炎魔神ガラビリス
唸るような音を響かせた魔槍杖バルドークを消す。
漆黒の鎧を着ている巨人兵こと、漆黒の虚炎魔神ガラビリスは闇の炎を鎧の節々から放ちつつ相棒の紅蓮の炎とケーゼンベルスの炎も耐えている。腕の防具と手など衝突しているところが溶けることがあるが、再生力が高い。
相棒とケーゼンベルスと漆黒の虚炎魔神ガラビリスの戦いは互角。
タクシス大砦と突兀岩場の周囲の戦闘は続いているが、俺たちが来た頃に比べたら散発的だ。
大将の悪霊驍将軍ゲーラーを倒したことを見ていた者は逃げたようだ。
『ご主人様、相手は悪神ギュラゼルバンだったのですか!』
ヴィーネの血文字を見て皆に血文字を、
『違う、名は悪霊驍将軍ゲーラー、悪神ギュラゼルバンの大眷属だった。切り札の<脳脊魔速>の速度に対応し<紅蓮嵐穿>を用いて倒した。強さは魔神や諸侯のような印象で、位も六眼バーテよりも上だと思う』
と戦った感想を送る。
直ぐにヴィーネから
『強敵! やはり地方を攻めてくる将軍ですね』
『バードイン地方を攻めていた悪業将軍ガイヴァーも中々強かった』
『はい』
『ゲーラー・ハフマウトはメイジナ大平原とバーヴァイ地方の攻略担当と話をしていた。<ベドアズの魔霊吸雲>という名のスキルで、万単位のベドアズ重装歩兵のモンスター兵を生み出しての侵攻だ』
『そ、それは悪神ギュラゼルバンの相当な戦力……』
『あぁ、時間のかけていた侵略に、万単位の侵略だ。三つの魔傭兵、通称モゴゼ大隊も必要ないと判断した理由でもあるか』
『はい、恐王ノクターとの連携と【レン・サキナガの峰閣砦】への破壊工作と調略に【古バーヴァイ族の集落跡】への派兵はすべてに繋がる、【テーバロンテの王婆旧宮】などへの工作もあると思いますから、早く向かいたいところですね』
『たしかに』
峰閣砦にいるペミュラスも内心氣が氣でないかな。
キサラも、
『悪神ギュラゼルバンは、大眷属の悪霊驍将軍ゲーラーとヴァドラを用いたということは、魔界王子テーバロンテが生きていようと死んでいようと、ここを侵略しようとしていたのでしょう』
その血文字に頷いた。
重低音が響いたから血文字を止めた。
相棒たちは、まだ激戦を繰り広げている。
相棒の前爪と触手骨剣が漆黒の虚炎魔神ガラビリスの左足にヒット――左脛を半分切断し複数の孔を作ったが漆黒の虚炎魔神ガラビリスの左足は即座に再生していた。
アドゥムブラリから、
『主、今の回復力を見たか? 加勢したいが止められたんだ』
『あぁ、ケーゼンベルスか』
『うむ』
ケーゼンベルスに止められるとは思うが――。
フォローしようと左手を翳す。
<闇透纏視>で、漆黒の虚炎魔神ガラビリスを凝視。
魔素の淀みは多いが漆黒の炎が邪魔だ。
左手首の主根を照準にするように狙いを漆黒の炎と炎の間に鎧の隙間を狙う――。
虚炎魔神ガラビリスに<鎖の因子>から<鎖>を射出した。
伸びゆく<鎖>は漆黒の虚炎魔神ガラビリスの背に突き刺さる。
「グォォォォォォ」
漆黒の虚炎魔神ガラビリスは両肘を背中に向けて少し仰け反る。
ダメージが入ったか?
が、不可解な圧力が掛かり<鎖>は押し戻されると漆黒の炎に跳ね返された。
アドゥムブラリから、
『<鎖>も通じずか。神獣とケーゼンベルスが戦っている巨人だが悪霊驍将軍ゲーラーから聞いているか?』
『漆黒の虚炎魔神ガラビリスという名だ』
『虚炎魔神……悪霊驍将軍ゲーラーは魔神を使役とは魔道具を媒介が主だとしても、相当に悪神ギュラゼルバンから信頼されていたようだな』
『あぁ』
魔道具と言えば悪霊驍将軍ゲーラーは指輪に魔力を込めて、その指輪から漆黒の虚炎魔神ガラビリスを生み出していた。
さて、本格的に助けに行くか。
神獣ロロディーヌと魔皇獣咆ケーゼンベルスに加勢しようとかと思ったが魔皇獣咆ケーゼンベルスが後退するように跳躍し、俺の前に尻尾を折り降ろす。
ふんわりとした風を浴びると、
「――主、こやつは我と友が倒す! 今は見ててくれ!」
「にゃおぉぉ」
神獣ロロディーヌもそんな印象の鳴き声を発した。
かなり強い相手だと思うから加勢したいんだが……。
「そんな長く見ていられないぞ」
「分かっている! だが、我も【ケーゼンベルスの魔樹海】を支配する魔獣……主と友に頼ってばかりはいられないのだ!」
魔声の荒々しさに似合う意気滔天の氣概だ。
全身から放たれていく魔力の質も凄まじい。
そして、これからの世を見据えていると分かる。
「はは、分かったよ、がんばれ、俺も俺にできることやる。掃討戦に入ろう」
「ウォォォン、さすが我の主で友! 大好きだ!」
嬉しい言葉だ。魔皇獣咆ケーゼンベルスは駆けた。
【ケーゼンベルスの魔樹海】を支配する神格を有した偉大な魔獣ちゃんだ。応援しよう。
キサラとビュシエとキッカとヴィーネとアドゥムブラリも向こう側から、相対した相手を倒しては、時折、上昇し此方の様子を見ていた。
皆、相棒たちの戦いは気になるのは当然だ。
漆黒の虚炎魔神ガラビリスは巨大だし、心配するのもよく分かる。
たぶん、
イズチ、ズィル、インミミ、ゾウバチの巧手四櫂と魔犀花流派の兵士たちはリサナたちの足下、砦の周囲で戦っている。
多数の魔犀花流派の兵士、約五百名たちは連携が取れている。
銅鑼の音はここからだと聞こえないが、必要がないほど陣形は崩れないし、魔杖槍に魔力を集めて、集団の魔犀花流の槍法、魔術、魔法があるようだ。
質がかなり高いし、部下にできて良かった。
安心しながら、まだ魔素だらけ戦場を見渡した――。
悪霊驍将軍ゲーラーがいたであろう……本営らしき陣地は不明……輜重隊の荷車と旗鼓の音楽部隊が多いところを発見した。
回りの四方には、幕が張られていて、堀と柵が形成されている。
あそこが本営だったのか?
敵は、まだまだ多い。そして、聖槍アロステと黒衣の王の魔大斧も拾わないと……。
<武行氣>を活かすように――。
下降しながら草原の大地を風になったように進む。
悪霊驍将軍ゲーラーの下半身が落ちた辺り――。
武器を探す――。
悪霊驍将軍ゲーラーが<ベドアズの魔霊吸雲>で重装歩兵のベドアズを大量に引き寄せ吸収していたように近くには敵兵はいない。
悪霊驍将軍ゲーラーは、どのくらいの数を引き込んで吸収していたんだろう。数千人か数万か、数は力と言っていたが……恐ろしいスキルだな。
知能が低いと言っても言葉は話せるほどの知能はあった重装歩兵のベドアズたち。
とガビーサーという名の眼球モンスター兵が数十と寄ってくる。
悪神ギュラゼルバンが用意したガビーサーか。
それ以外は百メートル先にドールゼリグン級の大型馬に乗った騎馬隊と肉団子巨人兵と四眼四腕と二眼四腕の部隊が数百名単位いる。
が、ガビーサーの眼球モンスター以外は此方に来ることはなかった。
指揮官の悪霊驍将軍ゲーラーが倒れたから普通は退くと思うが、混乱しているのか、知能が低いのか。
お、戦闘型デバイスに戻していなかった聖槍アロステを発見。
<握吸>で引き寄せて、聖槍アロステを戦闘型デバイスに回収――。
アイテムボックスの風防硝子の真上に高精細なホログラムのアクセルマギナとガードナーマリオルスとアイテム類が映る。
聖槍アロステのアイコンも表示された。
戦闘型デバイスに極大魔石をいつでも納められるが、納めてどんどんOS機能をアップグレードさせて、ナ・パーム統合軍惑星同盟の新アイテムを取り出すのもいいかもな。
続けて、黒衣の王の魔大斧も発見――アロステと同じ<握吸>で引き寄せて、左手で握る。
〝黒衣の王〟の魔大斧をちゃんと使わず蹴ったからな。
悪霊驍将軍ゲーラーに衝突させた。
注意力を逸らすミスディレクションのフェイントを兼ねた攻撃に利用してしまった。
魔神バーヴァイ様にごめんなさいと謝らないとだめかも知れない。
だから今は少しだけ、この黒衣の王の魔大斧を使うとしよう――。
黒衣の王の魔大斧を上下に振るう。
横に移動しながらハンカイが使っていた<
直ぐに、その眼球モンスター兵に向け駆けて跳躍。
眼球モンスター兵の天辺に向け、黒衣の王の魔大斧で<龍豪閃>――。
縦に振り降ろされた魔大斧の斧刃が、ガビーサーの頭部の天辺を捉えて、そのまま真っ二つ地面も少し裂いた。
手応え抜群の感触で、斬りがいがある敵といえるか。
ガビーサーだった眼球の断面図は肉団子を真っ二つに斬ったような印象だ。
イチゴ大福を真横から綺麗に斬った感じに近いか?
外の見た目はアレで、食う氣はまったく起きないが、焼いて天然の塩と胡椒などで食べたら意外に美味いのかも知れない。
そして、眼球といえばアービターという名のモンスターを思い出した。
悪神デサロビアの眷属も眼球系が多い。
悪神デサロビアも悪神ギュラゼルバンの見た目は眼球お化けに近いのかな。
先ほど倒した悪霊驍将軍ゲーラーのように二眼二腕の端正な男のような場合もあるか。取り引きをもちかけた、悪神デサロビアの大眷属のゲヒュベリアンも人型だった。
と、
「フシュゥアァ」
「ブュァァ」
と奇怪な音を発しているガビーサーの眼球モンスター兵が寄ってきた。
魔神バーヴァイ様にガビーサーの御霊を捧げようか――。
〝動かざること山の如し〟の気概で、ガビーサーの立ち位置を把握。
重なるか横に並ぶところを狙うか……。
左足を前に出しつつジリジリと進む。
右に一匹のガビーサーが出た――。
重い魔大斧を下げながら<雷飛>――即座に<杖楽昇堕閃>――。
黒衣の王の魔大斧を左上へ持ち上げる軌道で――右に居た眼球モンスター兵ガビーサーを斜めにぶった斬る。直ぐに<杖楽昇堕閃>の二回目の魔大斧の振り降ろし攻撃が左のガビーサーの上部を捉え、その眼球を潰すように斬る。
すると、他のガビーサーたちが一斉に「「「――フシュァァ」」」と気色悪い音を発した。身構えたが、逃げていく。
なんだ、良かった、逃げる知能があるなら、さっさと逃げろよ。
そして、すべて逃げてくれ。
魔大斧に魔力を通す。
黒衣の王の魔大斧を右籠手の防具を備えた魔斧槍に変化させた。
黒衣の王の魔斧槍の柄を肩に担ぎつつ周囲を見回す。
ロロディーヌとケーゼンベルスと、漆黒の虚炎魔神ガラビリスはまだ戦っている。
そして、視界の端にキラリと光る物を発見。
悪霊驍将軍ゲーラーだった残骸の防具――。
破壊を免れた朱色の魔槍に濃密な魔力を有した指輪だ。
――急ぎ近付いて、朱色の魔槍と防具の残骸と指輪を拾う。
と、バチッと漆黒と紫色と銀色が混じる炎を発して跳ねた。
漆黒の虚炎魔神ガラビリスを呼び出していた魔道具の指輪だからか?
炎を生む魔神具の指輪か。
すると、神獣ロロディーヌとケーゼンベルスと戦っていた漆黒の虚炎魔神ガラビリスが動きを止める。
跳ねて落ちた指輪を基点に円の魔法陣が自動展開された。
魔法陣が泡ぶくと指輪が魔法陣と一体化したように消えると、沸騰音が響きながら漆黒と紫と白銀の炎が魔法陣が上空を衝くように発生した。
またも嫌な予感――。
シンプルな形状の
即座に
まさに魔界騎士というか、かなり出現が速くなった。
「閣下、ここは、戦場! 巨人が、うおぉ~」
「あの目の前の魔法陣、ぬお?」
と俺もだがゼメタスとアドモスが驚いたように、漆黒の虚炎魔神ガラビリスが溶けながら魔法陣から発生している漆黒と紫と白銀の炎に吸い込まれて消えてしまった。
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