千四百十三 悪霊驍将軍ゲーラーとの戦い

 漆黒の雲のようなモノが蠢き集積し煌めくと、一帯に靄のような物が立ちこめた。

 〝魔神殺しの蒼き連柱〟が〝魔神殺しの紅蓮なる連柱〟に変化しているように赤い閃光があちこちに発生していく。

 <闇透纏視>で確認するが、魔界と神界のせめぎ合いか不明な四季の変化が起きている一部分があった。蒼い光が弱まり、漆黒、元の魔界セブドラの真夜に戻っていく空域があった。

 赤い閃光も消えるが、漆黒の雲は何かをしたのか?


 すると、漆黒の雲の下のほうに地上の軍勢が退いていく。


 タクシス大砦の左側から撤収してきた肉団子巨人兵と重装歩兵のベドアズと四眼四腕の魔族と二眼二腕の魔族の兵士たちの姿が見える。

 更に、


「ウォォォン――」


 とタクシス大砦のほうから、足下にいる四眼四腕の敵兵士たちを吹き飛ばしながら魔皇獣咆ケーゼンベルスが突進してきた。宙空にいる俺の前を通り抜け、


「――主、あの漆黒の雲か! 癇にさわる言葉を我の心に飛ばしてきた存在は!」


 と叫びながら、前方にいた四眼四腕の魔剣師に巨大な前足を突き出して、


「「ぐあぁ」」


 と魔剣師の数人の体を前爪で串刺しにして吹き飛ばすと、地面を蹴って俺の真横に着地。

 風を得ながら、


「そうだ、悪神ギュラゼルバンの軍を率いている存在だろう」

「軍をか! 悪神ギュラゼルバン本人がここにか?」

「さぁ、それはどうだかな」

『神意力といい悪神ギュラゼルバンだと思いましたが、違うのですか』

『あぁ、まだ予測だが』

『わたしは、悪神ギュラゼルバンだと思います!』


 ヘルメとグィヴァには、悪神ギュラゼルバンが近くに感じられるようだ。


「ガルルゥ……」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは唸り声を発しつつ見上げて歯牙を晒す。

 耳が少し凹む時がある。

 前進をしていないから、【ケーゼンベルスの魔樹海】で魔界王子テーバロンテと戦っていた頃を思い出している?

 その魔皇獣咆ケーゼンベルスのお陰で、タクシス大砦を囲っていた軍勢はほぼ消えている。

 生き残りの悪神ギュラゼルバンの軍勢は漆黒の雲のほうに撤退をしていた。

 犀花サイファが「オゥ~ン」と鳴いて頭部を魔皇獣咆ケーゼンベルスの後ろ脚に寄せている。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは少し体を小さくさせて、犀花サイファに鼻先を合わせていた。


『ご主人様、今の念話と言葉は悪神ギュラゼルバンでしょうか』


 ヴィーネの血文字に、


『悪神ギュラゼルバンか大眷属か、まだ分からない。どちらにせよ、あの漆黒の雲は強敵だろう』

『はい』


 続いてアドゥムブラリの血文字が浮かぶ。


『主、思念と言葉を一定の周囲に伝播させるスキルと魔法は<魔厳声バシア>、<魔声シャウト>、<魔竜声グファラ>、<龍言語魔法>、<魔龍言語魔法>、<魔魂破魔法>、<竜言語魔法>など色々と存在する』

『うむ、<神破土声>、<魔厳波動>、<龍言語魔法>、<魔龍言語魔法>、<魔魂破魔法>、<魔声シャウト>は魔界セブドラでは比較的に使われることが多い』


 アドゥムブラリとキスマリの血文字は参考になる。


『了解した、では、悪神ギュラゼルバンの大眷属が周囲に神意力を有した言葉を発して、俺に語りかけてきただけかな』

『その線が濃厚だろう。悪神ギュラゼルバンの本人が、ここに侵略してきた線もあるとは思うが……恐王ノクターの勢力との争いもあると聞くからな。【マセグド大平原】と悪神ギュラゼルバンの本拠地【グィリーフィル地方】を離れると考え難い』

『たしかに』


 【グィリーフィル地方】が悪神ギュラゼルバンの本拠地がある地方なのか。


 すると、


「にゃごおお~」


 神獣ロロディーヌが飛んできた。

 犀花サイファは、魔皇獣咆ケーゼンベルスから離れ、そのロロディーヌの真下を通って跳躍し、石棺の壁を越えて突兀岩場に入る。


 近くに来た相棒の頭部に着地――。

 神獣ロロは頭部の先を漆黒の雲に向ける。


『皆、俺と相棒とケーゼンベルスは漆黒の雲に近付く。皆はビュシエが突兀の岩場に作った石棺の砦にこだわらず散開し、遊撃隊として動くか、少しでも【タクシス大砦】から敵を引き剥がすため、わざと南の【レン・サキナガの峰閣砦】のほうに移動することも視野に入れておけ。近くに魔犀花流派の巧手四櫂がいたら、同じことを伝えてくれ』

『『『はい』』』

『分かりました』

『了解した』


 腰ベルトにぶら下がる魔軍夜行ノ槍業が揺れて、


『……あの雲は異質じゃ。<領域展開>、<神域展開>などがあれば何かが封じられると心得よ』


 飛怪槍のグラド師匠の念話に気が引き締まる。


『<領域展開>や<神域展開>で、何かが封じられる……怖いですね』

『ふむ、なあに、素の実力が試されるだけじゃ、種族特性も封じられることはない』

『はい』

『頭目もあの漆黒の雲には不可解さを感じているようね、要注意っことよ。わたしも、独特のプレッシャーは戦場に着いてからも感じていた。でも、悪神ギュラゼルバン本体が本拠地を離れて、大軍を率いて侵略は少し可能性が低いと思うわよ』

『が、緩衝地帯の【マセグド大平原】に、眷属に守られた要衝の中に転移陣に転移魔法を用意すれば、かなり離れた地域から地域へと連続転移の侵略も可能だろう』

『上級神なら単独でも可能だと思うけど、そこまでリスクを負う侵略も、ちょっとね』

『あぁ、俺も同意。あの雲は、悪神ギュラゼルバンではない可能性を推そう。だが、明らかに下の魔族やモンスター兵とは異なる性質』

『雲自体が生きているようだな』

『あぁ』

『魂を扱う漆黒の雲は、<刹魂混吸>など扱う魔霊の一族、大魔霊かも知れぬ』


 普段無口の塔魂魔槍のセイオクス師匠が念話を寄越してくれた。


『魔霊の一族は、雲に成れるのですか』

『雲や霧状、常闇の水精霊ヘルメのような精霊に近い存在が、魔霊だ。神界セウロス側でいうなら大精霊、魔界セブドラの理を好む存在』

『なるほど』


 魔軍夜行ノ槍業の師匠たち貴重なアドバイスを噛みしめながら相棒とケーゼンベルスと共に荒野となった地面を進む。


 四方の八百メートルは離れた位置にいる軍隊は此方側に突っ込んでこない。

 と、漆黒の雲の靄が煌めく。

 真下の重装歩兵のベドアズなどの軍勢の一部が竜巻に巻きこまれるように螺旋を描くように回転しながら漆黒の雲に吸い込まれていくと地上にいた兵隊の数が一気に減った。


 モンスター兵を吸収した漆黒の雲は紫色と蒼色の閃光が放ちながら近付いてきた。

 仲間か、部下の魂と肉体を吸収か。

 

 漆黒の雲は漆黒の鎧を着た者に変化を遂げた。


 その漆黒の鎧を着た者は蒼い炎と漆黒の炎を周囲に発生させながら五百メートルぐらい先の宙空で動きを止める。己の右足の踵が左足の甲の上に乗っている。


 端正な顔立ちの二眼二腕二足で中肉中背。

 漆黒の鎧の襟から首を背中に掛けて無数の白い茨のようなモノが伸びていた。

 片腕の指先を顎に置いて此方の様子を蒼色の瞳で見ている。


 雰囲気に悪神ギュラゼルバンか?

 その漆黒の鎧を着た者の双眸が煌めいた。

 此方を見据えたまま転移するような加速力で俺の前に移動してきた。

 <闇透纏視>で魔力を把握するが、膨大な魔力を有した存在としか分からない。


 魔神ガンゾウクラスか?

 姿勢を崩していない漆黒を着た者が、


「槍使い、お前が魔界王子を滅した存在だな?」

「そうだ、お前が悪神ギュラゼルバンか?」

「ハッ、光栄だが違う。俺の名はゲーラー・ハフマウト。悪神ギュラゼルバン様の大眷属の一人、このメイジナ大平原とバーヴァイ地方の攻略を任されている。悪霊驍将軍ゲーラーで通っている」


 <闇透纏視>で魔力が把握しきれない相手の大眷属か。


「……悪霊驍将軍ゲーラーが、下の兵士たちを吸収したのか?」


 頷いた悪霊驍将軍ゲーラーは鷹揚な態度で右腕を上げた。

 指の数は六本、指にはそれぞれ甲に覆われて、爪が武器に見えた。

 掌の真上に漆黒の丸い雲のようなモノが発生。


 ゲーラーは片頬を上げて、


「元々我の血肉が重装歩兵のベドアズだ。<ベドアズの魔霊吸雲>で元の我の体に戻したに過ぎぬ」

「<ベドアズの魔霊吸雲>は大軍を生み出せるスキル能力か」

「その通り、数は力だ、数があれば強者の力を消耗させることが可能となる」

「塵も積もれば山となるか……」

「ハッ、どこかで聞いた言葉だな――」


 と悪霊驍将軍ゲーラーは左手の指先から漆黒と蒼色の礫のような物を飛ばしてきた。

 相棒は左に飛翔して避けた。

 魔皇獣咆ケーゼンベルスは右に回り、足下にいる肉団子巨人兵の複数を屠っていく。

 右から悪霊驍将軍ゲーラーは俺と相棒を追ってきた。

 

 その悪霊驍将軍ゲーラー目掛け《氷竜列フリーズドラゴネス》を放ち――。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>を五発放つ。

 ゲーラーは右手を掲げると、右手から漆黒と蒼色の炎を円状に展開させて、螺旋回転している巨大な氷竜と<光条の鎖槍シャインチェーンランス>をすべて防ぐ。


「報告にある通り、魔法も練度が高い――」


 悪霊驍将軍ゲーラーは左手の爪を伸ばし、右手から漆黒と蒼炎の炎を俺たちに向けてきた。

 ゲーラーの背後にいた魔皇獣咆ケーゼンベルスにも漆黒と蒼炎の炎が向かう。


「ウォォン――」

「相棒と離れるぞ――」

「にゃごぉ」


 <武行氣>で相棒の頭部から離れて左斜め上に飛翔。

 相棒は身を翻しながら体から無数の触手を悪霊驍将軍ゲーラーに伸ばしていく。

 

 ケーゼンベルスは炎を鼻息で弾く。

 相棒も「にゃごぉ」と紅蓮の炎で漆黒と蒼炎の炎を消し飛ばした。

 悪霊驍将軍ゲーラーの左手の爪も溶かす。


 悪霊驍将軍ゲーラーは、


「ハッ、神獣とケーゼンベルスには――」


 と、悪霊驍将軍ゲーラーは背中に巨大な魔法陣を生成しながら、自らの両手に魔槍を生み出して、相棒の触手骨剣をすべて弾きながら前進し、相棒に近付くと、相棒の歯牙と魔槍を衝突させて、いきなりの後退したところで、目元で指をクロスさせる。そして、双眸と同じ色合いに魔法の指輪を光らせると、「漆黒の虚炎魔神ガラビリス出ろ――」と発言、宙空に巨大な魔法陣が展開された。


 その魔法陣から漆黒の雲と炎が下に吐き出されていくと、漆黒の雲と炎が瞬く間に漆黒の鎧を着た巨人兵となった。あれが漆黒の虚炎魔神ガラビリスか?


 悪霊驍将軍ゲーラーは悪神ギュラゼルバンの大眷属でありながら、魔神を扱える?


 漆黒の鎧を着た巨人兵は全身から闇の炎を発して、相棒の触手骨剣を手の甲で弾きながら振り返り、半身の姿勢でケーゼンベルスの噛み付いてきた歯牙を両手で掴むと、ケーゼンベルスの首をへし折るように首投げで放り投げていた。


「ぐぬぁ――」


 と投げ飛ばされたケーゼンベルスから痛みの声が響くが、宙空でターンして地面に着地。

 悪霊驍将軍ゲーラーは、


「お前の相手は俺だ――」


 と言うと間合いを詰めてくる。

 と思いきや魔槍を持つ両手から漆黒と蒼い炎を発してきた。

 <無方剛柔>を発動させながら、<火焔光背>も発動。


 ※火焔光背※

 ※獲得条件にライヴァンの世と関わる装備品及び魂、<光の授印>、<光神の導き>、<ルシヴァルの紋章樹>、<光闇の奔流>、<怪蟲槍武術の心得>、<戦神グンダルンの昂揚>、<水神の呼び声>、<水穿>、高度な魔技三種系統、希有な魔法系戦闘職業などが必須※

 ※様々な魔力を吸収し燃焼力を高めることが可能。使い手の意識、魂、魔力を触媒とすることも可能な<火焔光背>の燃焼し続ける魔力の炎は物理属性、水属性、火属性、光属性、闇属性、などの性質変化を使い手の思念で操作可能となる。また高度な<導魔術>や<仙魔術>にも応用発展が可能となるだろう。特に水属性と親和性が高い※

 ※無名無礼の魔槍と同時に<炎焔光背>を使い続ければ、無名無礼の魔槍に宿るナナシを、〝領袖魂兵〟のような鬼神系のスキルとして具現化できるようになるだろう。また、使えば使うほどオーク八大神に気に入られる可能性が高まる。特に鬼神キサラメが注視中※

 ※要塞アレアガニムの大神ライヴァンと戦神グンダルンと鬼神キサラメを奉る大戦鬼ライヴァン・グンダルン・キサラメ大神殿の大神官長ギャン・グル・ドドンは、<火焔光背>系スキル系統を獲得した者はライヴァンの世に繋がる八大神のお導きを得た狂戦士を歩む者であり、オーク八大神の戦神と鬼神が認めた証しであると、宣言したことがある※

 ※類似したスキル<漸漸光背>を獲得した怪狂流武王術開祖アブ・ソルン・グル・アレアガニムは、独自の武装魔霊を纏わせることを可能とし、地下世界で義気の精神の下大暴れした※


 右に飛翔し、漆黒の炎は<光闇の奔流>で吸収し、蒼炎を吸収に成功、魔力を回復した。

 <無方剛柔>は消費が大きいから<火焔光背>も便利だ。


「チッ、<アビナヴァグプタの炎>を吸収とは! がっ――」


 悪霊驍将軍ゲーラーは加速。

 俺を上回る速度で槍圏内となるや否や右手の朱色の魔槍を突き出してきた。

 慌てず、右手に出現させた魔槍杖バルドークの柄で、朱色の魔槍の穂先を受けて<握吸>を発動。

 左手に神槍ガンジスを召喚し<魔仙萼穿>――。

 悪霊驍将軍ゲーラーは左手に出現させた魔槍の螻蛄首で<魔仙萼穿>を受け止めた。

 震動している方天画戟と似た穂先と衝突している螻蛄首から閃光が走ると、悪霊驍将軍ゲーラーは後退。


 後退した悪霊驍将軍ゲーラーは左手に持つ魔槍を捨てて新しい魔槍を召喚。

 背後から、相棒とケーゼンベルスが大暴れしている重低音が響きまくる。


 巨大な神獣と魔皇獣組戦っている漆黒の虚炎魔神ガラビリスも巨大だ。

 タクシス大砦と、皆がいる<血道・石棺砦>の砦に被害がなければいいが。


 その間に、既に体内に循環させている<闘気玄装>を強めた。

 <滔天仙正理大綱>を強める。

 <滔天神働術>を発動。

 <水の神使>を意識し発動。

 <黒呪強瞑>も発動し、<経脈自在>を意識、発動。

 <霊血装・ルシヴァル>を発動し、血の面頬を装備。

 <血道第五・開門>――。

 <血霊兵装隊杖>を発動。


 頭上に光るカンを有した血の錫杖が生まれ出る。

 更に胸甲と鈴懸すずかけと不動袈裟風の衣装防具とハルホンクのジャケット防護服が融合。

 全身を光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装で固めた。

 体中の魔力の流れが活性化。

 静脈や毛細血管に経脈が無限に拡がる感覚を得ながら――。

 筋力と敏捷と魔力と精神力などが倍増していくと理解した――。


 悪霊驍将軍ゲーラーは目が見開き、俺を凝視しては瞬きを行い、

 

「……なるほど、ヴァドラ・キレアンソーからの報告通り、神界の兆しとは、水神アクレシスの加護だったか。それでいて魔界の神々とも通じている、お前のような魔人武王のような存在、否、神殺しを行える存在に対抗する術はある……」


 悪霊驍将軍ゲーラーは両手の武器を浮かせると両手の掌を合わせた。

 何かの文言を呟きながら両手の掌を開き、両腕を交差しながら両手の指を幾つか交差させる――。

 

 嫌な予感がする、後退して距離を取った。


 刹那、悪霊驍将軍ゲーラーが、悪霊驍将軍ゲーラーの左右に出現し、左右の方向に飛翔していく。

 俺を挟むように、二体の悪霊驍将軍ゲーラーは左右から突っ込んできた。


 幻影ではない本物の分身か。

 やや遅れて正面から悪霊驍将軍ゲーラー突っ込んでくると悪霊驍将軍ゲーラーの背後に闇炎の四つの眼球が上下左右に融合した幻影が見えたが、鈴の音が心に響くと幻影は消える。


 その幻影は気にせず<光魔・血霊衛士>を発動し――。

 二体の<光魔・血霊衛士>左右から飛来してくる悪霊驍将軍ゲーラーに向かわせた。

 正面の悪霊驍将軍ゲーラーを見据えて、重心を下げつつ深呼吸――。

 <握吸>と<握式・吸脱着>を意識し発動。


 悪霊驍将軍ゲーラーは、


「<悪霊式――」


 と、スキル名の片言がフェイクのように。悪霊驍将軍ゲーラーの両腕がブレる。

 ゲーラ-が両腕を交互に突き出すように朱色の魔槍の穂先が迫るが、すべての攻撃を魔槍杖バルドークと神槍ガンジスの柄で防いだ。

 ――即座に<水極・魔疾連穿>を繰り出す。

 血の錫杖を<血想槍>で動かしつつ、左右の魔槍杖バルドークと神槍ガンジスで連続突きを繰り出し、血の錫杖で<刺突>と<断罪刺罪>を連発するが、二つの朱色の魔槍を防御に回した悪霊驍将軍ゲーラーは後退しながら、連続攻撃を防ぎきる。

 と、悪霊驍将軍ゲーラーは側転から<魔仙花刃>のような魔閃を繰り出してくる。

 その魔閃を神槍ガンジスで受け、魔槍杖バルドークで<牙衝>を繰り出すが、蒼炎を体から発した悪霊驍将軍ゲーラーは跳躍し<牙衝>を避けて朱色の魔槍を突き出してくる。

 そのジャンピング<刺突>のようなスキルを神槍ガンジスの柄で受けて後退。

 側面に回りながら<双豪閃>――。

 体が独楽のように横回転しながら魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを振るう<双豪閃>の穂先の連続斬りをすべて防ぐ悪霊驍将軍ゲーラーは強い。


 そこから瞬時に五十合の打ち合いとなった。

 刹那、二体の悪霊驍将軍ゲーラーの分身は<光魔・血霊衛士>の分身と相打ちとなって消える。

 

 後退しながら、わざと消耗したように両足から<血道第一・開門>を発動し、血を流す。

 <魔闘術の仙極>と<黒呪強瞑>を解除。

 <闘気玄装>や<武行氣>は維持したまま後退し、神槍ガンジスを前方に掲げた。


「ハッ」


 悪霊驍将軍ゲーラーは紫色の魔力を丹田に発生させる。

 ベルトの模様が変化すると鎧が変化。髑髏の面頬を装着しながら前傾姿勢で前進――。

 蒼炎と漆黒の炎を宿らせた朱色の魔槍で俺の足と首を狙ってきた。

 

 刹那――。

 神槍ガンジスに魔力を通す。

 螻蛄首付近にある槍纓が刃に変化し、その刃が悪霊驍将軍ゲーラーに向かう。

 悪霊驍将軍ゲーラーは両腕を少し回し、朱色の魔槍の穂先で小さい円を宙空に描きながら前進してくる。俺は<導想魔手>に聖槍アロステを握らせる。

 ガンジスの蒼い纓の刃がすべて切り裂かれた刹那――。

 悪霊驍将軍ゲーラー目掛け、<滔天魔瞳術>を発動。


「――な!」


 続けざま<闇の千手掌>を悪霊驍将軍ゲーラーの真上に生み出した。

 真下に拳の<闇の千手掌>が向かう。


「ぐっ」


 動けない悪霊驍将軍ゲーラー頭部に<闇の千手掌>の拳が直撃するかと思われたが、悪霊驍将軍ゲーラーの鎧の節々から、半透明の液体のようなモノが滲み出る。

 液体は複眼を模ると<闇の千手掌>を吸収するように防ぐ。


 構わず<魔神式・吸魔指眼>――。

 漆黒のゴムビームのような攻撃が悪霊驍将軍ゲーラーの体と、半透明な怪物を穿つ。

 半透明な怪物は血に染まると、俺に向け血に染まった腕を伸ばしてきた。


 血に染まった腕は無数な礫に変化した。

 更に<導想魔手>が握る聖槍アロステで<光穿>――。

 悪霊驍将軍ゲーラーは反応し、朱色の魔槍で<導想魔手>の聖槍アロステの<光穿>を防ぐ。

 

『ヘルメ――<仙丹法・鯰想>』

『はい』

 

 左目から出た液体ヘルメが巨大なナマズへと変化を遂げる。

 視界が常闇の水精霊ヘルメの内包している神秘世界に変化――。

 散弾銃のような礫のすべてを巨大なナマズのヘルメが神秘世界の中に取り込み吸収していく。巨大なナマズは半透明な怪物ごと吸い取るように悪霊驍将軍ゲーラーに向けて伸びていく。悪霊驍将軍ゲーラーの体から出ていた半透明な怪物はヘルメから逃げるように悪霊驍将軍ゲーラーの体内に戻っていく。


『ヘルメ戻れ』

『はい』


 ヘルメを戻しながら<脳脊魔速>を発動。

 悪霊驍将軍ゲーラーも加速スキルを用いたのか、切り札の速度に合わせようとしてきたが遅い――。

 神槍ガンジスと魔槍杖バルドークでもう一度<水極・魔疾連穿>――。

 悪霊驍将軍ゲーラーの朱色の魔槍を弾き飛ばし、悪霊驍将軍ゲーラーの腹と両腕を穿ちまくる。

 が、悪霊驍将軍ゲーラーの回復速度は並ではない。

 体から蒸気を発しながら回復していく。

 反撃のモーションを取っていくように加速度スキルを多重に重ねてきた。

 が、<超能力精神サイキックマインド>――。

 悪霊驍将軍ゲーラーの召喚しなおした魔槍を<超能力精神サイキックマインド>で吹き飛ばし――。

 <刺突>のモーションを取りながら――。

 <魔神ノ遍在大斧>――。

 黒衣の王の魔大斧を、悪霊驍将軍ゲーラーの目の前で突如として誕生させる。

 悪霊驍将軍ゲーラーは目が見開く。黒衣の王の魔大斧の柄を左足で蹴った。縦に回転しながら直進していく魔大斧。

 悪霊驍将軍ゲーラーは黒衣の王の魔大斧をなんとか両腕と召喚し直した黄緑色の魔槍で防ぐ。その悪霊驍将軍ゲーラーを見ながら無手に移行し前進。

 <無方南華>を意識――<無方剛柔>を続けて発動。

 右回し<湖月魔蹴>を悪霊驍将軍ゲーラーの腹に喰らわせた。

 <無方剛柔>の硬い右足により足刀だ。


「げぁ――」


 足刀にのし掛かるように体が突っ伏した悪霊驍将軍ゲーラーの顎に<悪式・突鈍膝>の膝蹴りを衝突させる。

 血飛沫を発して仰け反った悪霊驍将軍ゲーラーを見ながら――。


 右手に魔槍杖バルドークを召喚。

 切り札が終了しても加速するように<光魔血仙経>を発動。


 <紅蓮嵐穿>――。


 ※魔竜王槍流技術系統:魔槍奥義~不明※

 ※<魔槍技>に分類、魔槍杖バルドーク専用、<嵐穿>系に連なるスキル※

 ※魔槍杖バルドークと精神が繋がった使い手は能力が活性化し、魔竜杖バルドークが吸収してきた魔力を纏う。しかし、使い手は精神と魔力の一部を魔竜杖バルドークに喰われる※

 ※その魔槍杖バルドークから、身の毛もよだつ紋章や、獰猛どうもうな魔竜王などの、今まで吸収した無数の魑魅魍魎ちみもうりょうの魂が魔力の嵐として異常に噴き出す。その魔力の嵐は使い手の腕をもらうように周囲に吹き荒れると、使い手は突きのモーションのまま標的へと次元速度で加速し、標的の中段へと魔槍杖バルドークの穂先を喰らわせる※


 魔槍杖バルドークを前に出すモーションのまま――。

 秘奥が宿る魔槍杖バルドークごと次元速度で直進――。


 ――魔槍杖バルドークから魑魅魍魎の魔力嵐が吹き荒れる。

 体から出た龍の形をした<血魔力>もその魔力嵐の中に混じるや否や推進力が増して直進し、悪霊驍将軍ゲーラーの体を突き抜けた。


 後方からやや遅れて爆発音が響きまくるのを感じながら振り返った。

 <脳脊魔速>は自然に終了。


 悪霊驍将軍ゲーラーの下半身の一部が落下しながら燃焼している。


 よっしゃ倒した。

 魔力もかなり得た。

 

 すると夜空の四季の切り替わりのような幻影が消えた。

 蒼き光と漆黒の真夜の世界へと移り変わっていく。

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