千三百二十七話 魔戦酒バラスキアとコセアド

 <闘気玄装>と<武行氣>以外の<黒呪強瞑>を解除。

 <血道第四・開門>の<霊血装・ルシヴァル>は維持。


 イルヴェーヌ師匠に、


『はい――』


 と思念を送りながら――。


 白蛇竜小神ゲン様の短槍を消す。

 床に突き刺さっていた断罪槍を回収。

 ラマガンが使っていた魔剣も拾う。

 

 二つのアイテムをアイテムボックスに仕舞う。


 ラマガンの腰に巻いていた魔布もあった。

 無数の大小様々な孔がみるみるうちに修復されていく。


 繊維と繊維が対となる様子は粘菌のような動きだった。

 その独自の回復能力がありそうな魔布も戦闘型デバイスのアイテムボックスに回収。


 そして、回収した断罪槍と四肢をイルヴェーヌ師匠に返したいが、それは後回し。

 魔軍夜行ノ槍業から反発するような魔力が吹き荒れたが、廃墟を占拠した後だ。


 廊下の奥の閉じられている扉を見てから半身で振り返った。

 背後のヘルメは、両腕を氷の剣に変化させていた。

 氷腕剣を普通の両腕に戻したヘルメは嬉しそうに微笑んでから片腕を少し上げ、


「お見事です」


 と褒めてくれた。ヘルメの右腕の肘が片乳を横に押し込めている。


 右腕の拳は演歌風の握りだ。


 が、肝心なのは、右肘に巨乳が押されて片方の巨乳に寄っている乳さんだ。


 乳暈と乳首さんがコンニチハ、はないが、二つのグラマラス級の乳房が押し問答を起こしてダブルな双丘さんによる谷間を巡る激しい争いが勃発していた。ゼロコンマ数秒後に、見事な谷間を形成。

 群青色の衣装と薄い魔法の羽衣が見事な乳房を隠している。

 が、そんな衣装類なんて、関係がないほどに二つのグラマラス級の乳房が目立つ目立つ。

 

 そんなグレート・ザ・オッパイに乾杯を送る。

 ヘルメは、


「ふふ」


 と、俺の視線に応えるように笑顔を見せてから腕を下げた。


 だが、「あっ」と言って美しい瞳を下げる。

 警戒したような鋭い眼差しに変化。


 一階に魔素が急に増えたからな。

 視線を戻したヘルメはキリッとした表情を浮かべて、


「急に魔素が増えました、あ、また一つ……今まで魔素を遮断していたとなると……」

「<無影歩>のようなスキルで隠れていたのか、召喚か、アイテムか、わざわざ晒す必要があったにしろ、新手は魔傭兵ドムラチュアの強者か、それとも、魔傭兵ドムラチュアと争い合う【パリアンテ協会】か?」

「わたしはラマガンの仲間だと思います。そして、そこの扉の先にも微かな魔素反応があります」


 俺の後ろの先にある部屋だな。

 と振り返りつつ、


「あぁ、ラマガンは、あの扉の先を守ろうとしていたようにも見えた――」


 再び気合いを入れるように右手に白蛇竜小神ゲン様の短槍を召喚。


「はい」


 ヘルメとアイコンタクト。

 視線だけで『廊下の閉じられた扉の部屋に周囲の部屋を調べようか』といった感じの意思疎通を行う。

 気持ちは通じていると信じたい。


 そのヘルメと板の間に注意しながら歩く。

 ふと、相棒がいたら?

 

 と考えてしまう、相棒たちは何をしているんだろう。

 

 そして、廊下の幅は数メートル。

 ここで白蛇竜小神ゲン様の短槍や魔槍杖バルドークを振るえば扉と薄い壁なら両断できるだろう。

 が、しない。


 ――穴だらけの壁から覗ける幾つかの空き部屋を確認、


「酒樽と酒瓶に空き瓶が多数……麻袋のような物がありますが、それ以外はめぼしい物はありません」

「ングゥゥィィ、ウマソウ、ゾォイ」

「お? ハルホンクが反応するとは、古そうな酒瓶だが――」


 と腐っている漆喰の壁を見ながら孔から体を横向きにして部屋に入る。

 薄暗いが大丈夫、床が抜けるとかもない。


 酒樽に積まれた酒瓶を一つ持ち上げた。


 薄汚れた硝子瓶か……硝子瓶は魔力を有している。

 中身の液体はワイン? 貼られた紙片は古いが読める。

 貼られた紙片にも魔力を感じた。


「魔戦酒バラスキアか」

「ングゥゥィィ、バラスキア、マリョク、アルゾォイ」

「ハルホンク、悪いが今は回収のみ。そして、大当たりかもな、回収しよう」

「ングゥゥィィ」

「はい」


 三つの酒樽と数十とケースに入っている酒瓶ごと――。

 戦闘型デバイスのアイテムボックスに入れた。


「麻袋は――」


 と縛ってあった魔力を有した縄を引っ張り麻袋を開けた。

 中身は豆類か。なんか香ばしい。珈琲とはまた違う。


「ングゥゥィィ、オマメ、ペロンチョ、ウマソウ……ゾォイ!」

「はは、ペロンチョって面白いな」


 あ、色合いが変化――。

 空気に晒してはいけない豆か、それとも古すぎた豆か、特殊な豆か――。

 急いで魔力を有した縄で締め直してから戦闘型デバイスに仕舞った。


 new:ポトリィスラディボルシアボットン×2094

 new:腐った豆×669


 ポトリィスラディボルシアボットンとは、個性的な豆の名だ。


 そして、腐った豆も入手したが、先ほど開けた俺のせいか。


 回収の仕方によって素材が変化するって大魔術師ケイ・マドールから聞いていたが……。

 こんな形で味わうとは思わなかったが、二千個の豆らしきアイテムを入手できたことは今後に活きるはず。


 貴重か普通か分からないが……。

 サシィに言ったらフクナガの調理に使えるかも知れない。

 錬金術の素材ならクナのお土産になるだろう。ミスティにもいいかも知れない。

 試作型魔白滅皇高炉は金属以外に骨なども合成に使える。

 

 ポトリィスラディボルシアボットンを加工すれば、様々に流用可能になるかも知れない。

 

 と考えながら廊下に戻る。


「閣下、階段から下を少し覗いてみます」

「偵察用ドローンに気付いたような存在たちだ、気を付けろ」

「はい」

 

 ヘルメは廊下の端の階段に移動し、下の様子を窺う。

 と、その下から<投擲>されたであろう棒手裏剣が飛来――。

 ヘルメは仰け反って避けながら後退。

 棒手裏剣はヘルメの後方の天井を突き抜ける。ヘルメは海老反り体勢から体の一部を液体にしながら俺の傍に浮遊しながら寄ってくる。

 廊下の上で体の一部を人の体に戻して立っていた。


「マスターと精霊様、増援は要りますか?」


 と棒手裏剣が突き抜けた孔近くの最初からあった孔からアクセルマギナの声が響いてきた。


「大丈夫だ。一階の魔素が増えたから、ゼメタスとアドモスたちのフォローを優先していい」

「分かりました」

「ピピピッ」


 孔からガードナーマリオルスの体から出たチューブとチューブの先から徳用ナイフのような数種類のカッターナイフを出してきた。


 アクセルマギナと共に戦うつもりのようだ。


「ガードナーマリオルス、此方は大丈夫だ」

「ピピッ」


 と返事をすると、チューブを引っ込めて孔しか見えなくなった。

 ヘルメに視線を戻し、


「先に閉まっている扉を調べるぞ」

「はい、そこの扉も開けたら棒手裏剣が飛んで来るかもです、液体で忍び込めますが、また察知してくるかも知れません」

「あぁ、俺が普通に開けようか、扉は普通に壊せそうな素材だ」

「はい」


 即座に白蛇竜小神ゲン様の短槍を振るう。

 <豪閃>――扉を真っ二つ。

 上半分の扉が倒れた。

 

 部屋から飛び道具は飛んでこない。

 壁に右肩を当てながら下半分の扉を蹴飛ばす。

 部屋を覗こうとしたが、いきなり棒手裏剣が飛んでくるかも知れないと考えて――。


 まずは、右手首の<鎖の因子>から<鎖>を伸ばした。

 先端の<鎖>を部屋の中にいる存在に見えるようにゆっくりと<鎖>を晒す。


 何もない。


 偵察用ドローンを飛ばしても何もないなら大丈夫と分かるが、このままチラッと見るかと部屋を見る。


 部屋には血だらけ状態で拘束された魔族が寝転がっていた。

 四眼は眼帯で封じられている。

 口と四腕も拘束具で封じられていた。

 

 足には床の鉄の杭と繋がっている鎖で繋がれている。


 横には魔力が感じない布に覆われている物があった。

 その魔族に近付くと少し臭かった。


 俺が近付くと、魔族は身じろぐ。


 意識があるなら、


「水属性の回復魔法をかける、俺は通りすがりの者だ。回復魔法を君にかけるが、平気かな、大丈夫なら、体の一部、どこかを動かしてくれ」


 と、聞くと、拘束された魔族は直ぐに肩を少し動かす。


 頷いてから《水浄化ピュリファイウォーター》を発動。

 《水癒ウォーター・キュア》も発動させた。

 水の龍が絡む大きい水球が連続して弾けて、シャワーとして魔族に降り注ぐ。

 

 拘束された魔族の体はみるみるうちに回復していく。

 髪は黒、肌の色合いは人族の色合い。

 魔族は背に回す。


 己の四腕を拘束している拘束具を外してほしいようだが、鍵はない。


 が……とりあえず、片足の鎖だけなら――。

 白蛇竜小神ゲン様の短槍を消して、黒衣の王の魔大斧を召喚。


 そのまま、拘束された魔族の片足に繋がれた鎖目掛け――。

 黒衣の王の魔大斧を振り下げて<血龍仙閃>――。


 黒衣の王の魔大斧の斧刃で鎖を切断した。


 魔族は、<血龍仙閃>の血に驚いていたが、元気良く立ち上がると背を見せる。


「鍵はない、鍵開けが可能なエトアもここにはいない」

「――」


 魔族は肩を落とす。一応、


「足枷はないから自由に動けるだろう。そして、二階の廊下にいた四眼四腕の魔族、魔傭兵ドムラチュアのラマガンがいたが、俺が倒した。だが、一階にも四眼四腕の魔族がいる。逃げるなら屋上に出ろ。そこには俺の仲間がいる。路地にも俺の仲間がいる」

「……」


 魔族は俺の言葉を理解したように部屋の出入り口を見た。

 

 俺は、ヘルメを見て、


「魔族の拘束具は破壊できるかな」

「拘束具の中に侵入すれば、内部から破壊が可能かも知れません、失敗の結果の保証はできかねますが」


 と魔族を見て、


「今の言葉は聞いたな? その拘束具の破壊に失敗すれば、爆発とかあるかもだ。それでもいいならヘルメ、頼めるか?」

「はい、勿論です」

「……」


 魔族はヘルメの前で両足を付いてから頭を垂れた。

 

「分かりました。挑戦してみます」

「――」


 頭を垂れた魔族はガバッと頭部を上げて立ち上がる。

 直ぐに液体になったヘルメは、その魔族の拘束具の中へと降りかかるように侵入。


 拘束具の一部が瞬時に凍る。

 小さい捻子が幾つも割れながら外に噴出し、床や壁にヒュンヒュン音を立てながら氷の刃となって突き刺さった。少し怖いが、俺のほうには凍った捻子は飛んでこない、と拘束具が緩んだ。


 金具が外れたような音も響く。

 一気に四腕と口の拘束具も部品と金具が剥がれ落ちた。

 

 魔族は解放された。


「解除された――」

「おお、ナイスだヘルメ」


 液体状のヘルメはスイスイと床を移動して、俺の近くで元通り、女体化。


「ふふ、やりました」

「あぁ」


 とハイタッチ。

 ヘルメから頬にキスを受けた。

 むぎゅっと、そのヘルメを抱きしめる。


 と、助けた魔族が、

 

「二人とも、助けてくれて礼を言う」

「はい、助けられて良かった」

「はい」


 助けた魔族は俺たちを見てから、


「……俺の名はコセアド、魔咆哮のコセアドや四眼コセアドと呼ばれている。所属はパリアンテ協会の傭兵隊隊長だ。皮肉だが、傭兵隊隊長だから身の代金目当てで、今の今まで生きられていた」


 魔傭兵ドムラチュアと敵対関係だったパリアンテ協会とはここで繋がるか。

 

 そして、テロリストたちがよくやるような手口だな、身の代金は……。

 そのコセアドは、囚われて長いようだが、筋肉の衰えが見られない。

 筋骨隆々の四眼四腕の魔族がコセアドか。


 そのコセアドに、


「……俺はシュウヤ、種族は光魔ルシヴァル、ここにはレン・サキナガと会談しに来た存在だ。隣にいるのは常闇の水精霊ヘルメ。屋上には魔銃の使い手アクセルマギナと小型ロボットのガードナーマリオルスという仲間がいる。一階の外にいる仲間は、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスで俺の大眷属、眷属候補のバリィアン族のラムラント、眷属の血龍魔仙族ナギサ・ホツラマがいる」


 と自己紹介に仲間のことを正直に告げた。

 俺の言葉を聞いたコセアドは暫し、呆然と立ち尽くす。

 そのコセアドは、


「……しゅ、シュウヤ様、レン家のご当主と会談なさるほどの存在……」

「デラバイン族にバリィアン族、源左にケーゼンベルスたちの代表者であり、魔界王子テーバロンテを滅ぼした存在が俺だ。これは信じられないと思うが」

「そ、それは――」


 と、コセアドは四眼の瞳がすべて散大し、後退。

 倒れ掛かる。助けようと思ったが、思い留まった。

 

 コセアドは、


「……〝魔神殺しの蒼き連柱〟を齎したら魔英雄様がシュウヤ様、そのような偉大な存在が、俺を……助けて頂きましてありがとうございます」

「いいさ、それより、そこの荷物はなんだろう」


 と、魔布で覆われた一角を指摘。

 

「俺たちの荷物と魔傭兵ドムラチュアの品もあるはず、上の魔絶の布も特別かと」

「了解、パリアンテ協会の荷物とコセアドの荷物もあるなら回収したほうがいいだろう。先ほども言ったが、下には他の四眼四腕の魔族がいる。魔傭兵ドムラチュアか不明だが、強者のはずだ」

「はい、では遠慮なく――」


 コセアドは魔絶の布を払い、荷物を調べていく。

 己の装備品を回収して喜んでいた。

 二つの魔剣に一つの魔大刀か、手の甲にも杭がある。

 鎧と防護服を着たコセアドは、「シュウヤ様はこれを」と魔絶の布を俺に手渡し、


「――ありがとう、この魔絶の布とは、その名前通りの魔素を遮断する布かな。受け取ったが、もらっていいのかな」

「はい、当然、本来すべてがシュウヤ様の品ですぞ」

「あぁ、ならもらっとく」


 魔絶の布が隠していたところには資金源となる極大魔石が数十。

 粉が入っているビニール袋のような魔法袋が数百個。

 コカイン的な魔薬か? だとしたら魔傭兵ドムラチュアとは、魔薬の運び屋か、窃盗集団か……裏には闇の組織が絡むのは当然の流れか。


 とりあえず、すべてのアイテムボックスの中にぶち込んだ。


「コセアド、俺たちは下の魔族たちと戦うが、逃げるなら先ほども言ったように上から逃げていいぞ」

「……シュウヤ様に付いていっていいでしょうか――このコセアド、多少なりの戦力にはなると自負がありまする」

「なら、俺たちからなるべく距離を取ってくれ」

「え、は、はい」


 武闘派としての雰囲気があったコセアドに悪いが、ヘルメと俺の阿吽の呼吸ってのもあるしな、魔槍技は周囲に影響を与える可能性もある。


「では、行くぞ、ヘルメもいいな」

「はい!」

「ハッ」


 廊下から階段の前に移動した。

 

 増えた魔素は三人だけだが

 魔素の形からして、四眼四腕の魔族だろう。

 魔傭兵ドムラチュアの四眼四腕の魔族かな、二眼四腕の魔族かも知れないが。

 

 ゼメタスとアドモスにグィヴァとナギサとラムラントがいる外には出ないようだ。


「閣下、下の三人は廃墟が囲まれても逃げる気配がない」

「あぁ」

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