千三百二十四話 皆との会議と大部屋

 レンは颯爽と身を翻す。

 後ろに纏まった黒髪に項を見せながら螺旋状の階段を下りていく。

 和服に和洋折衷の鎧姿に、髪形も一瞬で変化が可能。

 階段の手摺りは青銅製のような色合いでお洒落だ。


 そのレンは見えなくなった。


 さて、大部屋の豪華な内装といい赤が基調で豪勢な敷物が敷かれた階段からしても、レンが案内してくれた大部屋は、特別な賓客を迎え入れるためだけの用意された大部屋だろう。


 下のほうから【煉極組】のボボル婆たちの笑い声がここまで響いてきた。

 レンと何かを喋っているようだ。


 茶屋トミヤスで一緒に団子を嗜むのも一興ぞってのは、面白かったな。


 大部屋の出入り口付近で、まだ部屋に入らず内装を見ている皆に向け、


「皆、暫し休憩した後、ラムラントを眷属に迎え入れるから休憩後は外に出てもらうことになる」

「はい!」


 ラムラントは背筋を伸ばす。

 その背から伸びている第三の腕で敬礼を行った。


「ん」

「「「承知!」」」

「承知~!」


 ゼメタスとアドモスの真似をするイモリザは元気だ。


「はい~」

「わぁ~、眷属……」


 エトアも俺の眷属になりたいような印象で呟く。


「ん、エトアも光魔ルシヴァルに成りたい?」

「はい!」

「ん、わたしは大賛成」

「わたしも賛成です。ご主人様、ラムラントや黒狼隊にレン・サキナガには悪いですが、エトアは<罠鍵解除・極>が使える。重要だと思います」


 とヴィーネがエトアの眷属化に賛成に回る。

 <罠鍵解除・極>は色々と重宝するからな。


「わたしも賛成です」


 キサラも賛成した。


「はい、反対する理由はないですね」

「ん、戦闘能力が向上するし、腕とか切断されるようなダメージを喰らっても回復するのは便利だからね」

「はい」

「賛成ですぞ」

「はい、我も賛成であります」

「そうですね、わたしも賛成です」

「我も賛成だ」


 キスマリも賛成、隣にいるヴィナトロスを見ると、


「え、あ、賛成です。ただ、シュウヤ様の血の消費を考えるべきかと、そして、血の補給ならわたしも血を吸ってください。魔王級の血ならば、吸血王でもあるシュウヤ様の<血魔力>だろうとも、直ぐに回復するという自負があります」


 と発言したヴィナトロスが大胆に近付いてきた。

 和風の衣装がはだけて、ノースリーブの衣装に変化している。


 そのヴィナトロスをハグ。

 ヴィナトロスの胸が強調された衣装が胸元に密着した。

 茶碗型のおっぱいと少し硬い乳首の感触がダイレクトに伝わってきて嬉しかった。


 そのヴィナトロスに、

 

「ありがと、血なら大丈夫だ」

「はい」

 

 続いてミレイヴァルとナロミヴァスを見る。


「当然エトアとラムラントの眷属化には大賛成です。そして、ヴィナトロスに対抗するわけではないですが、陛下の血の補給ならわたしでも可能です」


 ミレイヴァルも嬉しいことを。


「閣下の判断が絶対です、無論、賛成ですぞ。それと私の血が必要ならば、喜んで差し上げまする」


 美人さんのミレイヴァルの血はほしいが、ナロミヴァスには悪いが、野郎の血は勘弁だ。

 干からびない限り遠慮したい。


「ナロミヴァス、正直に言うが、性的指向から、野郎の血はあまり好きではないんだ。どうしようもなくなったら、ナロミヴァスからも、もらうかも知れない」


 ナロミヴァスはニヤッとしてから、


「……はい!」


 ナロミヴァスは納得したのか、胸元に手を当てながら頭を下げてくれた。

 ナイスガイなだけに、分かってくれて嬉しい。ナロミヴァスは生まれ変わったから、男性とか女性に関係なく光魔ルシヴァルの宗主がすべてなんだろう。


 周囲の女性陣たちは微笑む。

 ヘルメとグィヴァは、


「閣下、そのラムラントの眷属化の前に一旦、右目に戻ります」

「使者様、わたしも左目に戻ります~」


 ヘルメとグィヴァの言葉に頷いた。

 ヘルメの体は一瞬で液体と化した。

 グィヴァは一瞬で放電の塊となる。


 水飛沫が嵐のように集結し、散る。

 中心の液体は波のようにうねっていた常闇の水精霊ヘルメの源か。


 本契約を果たしたクリスタルは見えないが、成長とともに心臓部も変化するんだろうか。


 一方、闇雷精霊グィヴァの雷の源は……。

 陽極と陰極の電場が美しかった。

 ニコラ=テスラの実験かよ――。

 その――水の常闇の水精霊ヘルメの源を両目で受け止めた。


 両目に痛みはない――。

 だが、成長している水と雷の精霊の源を目で受け止めるのは、結構勇気がいるし怖い。

 エトアとアンブルサンとマルアとアミラとミレイヴァルが、拍手しながら、


「「「「おぉ」」」」

「精霊様の戻り方がパワーアップしている!」

「「はい」」


 と、皆も驚いていた。


『閣下、眷属化の前に、大部屋を調べたほうがいいかもです』

『はい、レンは御使い様に惚れているようですから、大丈夫として、部下たちは他にいるようですからね』

 

 ヘルメとグィヴァが思念に頷いた。


『そうだな』


 すると、ヴィーネが大部屋に入らず、天井のクリスタルの光源を凝視し、俺を見て、エヴァたちにも目配せを行い、


『……ご主人様、あの時は何も言いませんでしたが、レン家の緊急評定には出たほうが良いかと思います』

『後で、レン家の部下たちに紹介するとか、何かで呼ばれんじゃないか?』

『あ、そうかもですね、それなら安心です。ですが、レン家にも都合があろうとも、大同盟の盟主が、ご主人様ですから、レン家の上にいるご主人様の立場を何回でも説明しておきたい思いがあります』

『俺とレンの、サシの勝負は【レン・サキナガの峰閣砦】の至る所に広まるはずだ。その辺りは大丈夫と思う。だから、今はラムラントの眷属化を行う』

『はい、その前に、この大部屋を調べたほうがいいかと思います』


 ヘルメたちと同じこと言ってきた。

 ヴィーネは人差し指に<血魔力>を集めると、血文字を書き始め、


『レンは玉佩を渡したように、大丈夫と分かりますが、ソウゲン隊長とシバ隊長の執行部は、他にもいるようですからね。内実、源左の上笠連長だったバシュウが裏切ってマーマインに繋がっていたようなことがあるかも知れないですよ』


 その懸念には皆も頷く。

 ヴィーネは血文字を続ける。


『現在もサシィとご主人様が疑っているタチバナの件がある以上は……レン・サキナガの部下が暴走している可能性は否めないと愚考します。玉佩を分けたレンには悪いですが、無礼にもあたるかも知れないですが、大部屋を調べるべきかと』

『たしかに』


 俺も賛成した血文字を出すと、皆が頷いた。

 視界に現れているヘルメとグィヴァの妖精が、


『ふふ、さすがのヴィーネ、わたしたちと同じことを考えていた』

『はい』

『おう』


 すると、エトアは、


「ヴィーネさん、地下の出来事はもうレン家の皆に伝わるだろうし……そこまで心配?」


 少女的なエトアは素で聞いている。

 ヴィーネは微笑むと、唇に人差し指を縦に当ててから、


「エトア、何事も油断大敵ということです」

「はい」

「ふふ、わたしたちのことはいいから先に部屋に入って休んでいてください。それと、今の血文字の内容はシッですからね」


 エトアはヴィーネの魅惑的な仕種と言葉の言い回しで、何となく察したようだ。

 頷き、ヴィーネの真似をするように、口元に人差し指を当ててから俺を見る。


 ヴィーネの大人びた仕種も魅惑的だが、エトアのあどけない仕種は可愛い。


 俺も頷いて、


「おう、エトアに、イモリザとマルアとアミラも先に入って休んでおくといい」

「はい~」

「分かりました~」

「はい! アミラ、行きましょう~」

「はい」

 

 すると、エヴァも俺を見て、


「ん」

『シュウヤ、源左の件は聞いていたから納得できる』


 と血文字を浮かべると、源左サシィに注目が集まる。


 源左サシィは表情を引き締めるように頷いて、


『レン家の上草連長が、源左と同じ上笠連長のような体系ならば、部下にもそれなりの権益があるはずだ。上司のレンが見えないところでは部下の権力争いが勃発し、血生臭い事件が起きているかも知れぬ。その場合、ヴィーネが言ったが、わたしの源左がいい例となる。上笠連長バシュウの裏切りがあったからな』


 その血文字に皆が頷いた。

 サシィは、


『そのバシュウの下に連なる源左の者たちも、己の欲を満たすためなど理由は様々だったが、同胞を裏切り命を疎かにしては、売国だ。かなり罪深い』


 皆も頷く。


『だが、バシュウのことは信じていたのだ』

『分かってる』

『ん、サシィ、無理に血文字をしなくても皆分かってる』


 エヴァがサシィの背に手を当てて寄り添っていた。

 優しいエヴァだ。

 サシィは<血魔力>を宙空に零すように扱いながら、血文字を浮かばせて、


『あぁ、が、血文字だから書ける部分もある。あの時は、だいぶ応えた。更に、真偽の間で、現在も揺れている上笠連長タチバナのこともある以上は……先ほどの話と同じだが、レン家の上草連長の誰かが、同じ上草連長を出し抜くため、上司のレンに内緒で、この賓客用の大部屋に何かを仕組んでいる可能性は否めないだろう。大魔商の交渉時に、その大魔商の弱みを握っていれば、交渉が有利に運ぶからな』


 サシィの血文字には重みがある。

 皆が頷いては、


『あぁ、何かが大部屋に仕掛けられているテイで、血文字コミュニケーションを続けるが、そのことをレンが知っていようと知らないであろうと、交渉がレン家の有利に動けば、いいんだからな』

「たしかに、そうですね」

『あぁ、それで、 予想だが……ここが賓客用の大部屋なら盗聴器のような魔機械、魔法が仕組まれているか? それに、小型の蟲も怪しいか、米粒ほどの魔蟲でも、その魔蟲にナノルーターのようなバイオプログラムが施されてあったのなら、その魔蟲を起点に、周囲の電子機械のインタラクティブなハッキングは可能だからな』


 ヴィーネは少し頷きつつも疑問そうな顔付きとなる。

 キサラとエヴァも皆も額に疑問符を浮かべながらも、ある程度は予想が付いているように頷いていた。


 俺の知る地球にあるようなバイオ工学の虫を使った生物兵器のことを考えながら血文字で伝えたが、似たような魔道具はあるかも知れないからな。


 キサラが、


『はい、重要な存在の声に反応し、大部屋と密かに次元が通じるように施された魔法陣が仕組まれた魔蟲のような物があるかも知れないということですね』

『そうだ』

『ん、ただの蠅にしか見えない虫だけど、実は、小さい魔法陣が仕組まれていた蠅とか?』

『あるだろうな』


 俺の知る地球でも、特定の電磁波に誘導&操作されているような虫は作成されていたからな。


 そのことではなく、


『では、そろそろ大部屋を然り気無く調べようか。そして、レン・サキナガは、ここでは絶対的な当主に見えるが、表と裏はまだ不透明だ。それを前提に休憩しようか。そして、何か怪しいモノを見つけたら……そのまま放置しよう。魔線などが可視できれば、それを追いつつ、掌握察のレーダーでも、魔線の出所が追えるなら、追跡班などを組織し追っといてくれ、<光魔・血霊衛士>を使うかも知れない。そして、蟲が本当にいたら、伝説レジェンド級の〝パムロールの蜘蛛籠〟を使うかな、何もなくても、俺は別の処でラムラントの眷属化を行うかも知れない。では、皆もそのつもりで自由に行動してくれ』

「「「「「はい!」」」」」

「「「分かりました!」」」

「ん、分かった」

「承知!」

「お任せあれ!」


 しかし、相棒と銀灰猫メトはどこで何をしているやらだ。

 本格的な冒険モードか?


 大部屋に入った皆は、然り気なく飾り棚と花瓶の花など、色々なところを触る。

 あまり気にしていないキスマリ、イモリザ、マルア、アミラは壇を上がり、大きい窓際から外を眺めては、ソファーに座って寛ぎ始めていく。

 

 ゼメタス、アドモス、キルトレイヤ、バミアルは大きい机とソファを持ち上げて、裏側を見ていた。派手にやりすぎ、ヴィーネとエヴァに怒られている。

 

 キッカとビュシエとフィナプルスとミレイヴァルとエトアは微笑んでいた。

 ペミュラスとヴィナトロスは部屋の中央のソファに座る。

 

 ラムラント、ヴィーネ、サシィ、キサラ、エヴァ、キッカは大きい香具を囲うように設置されていた鋼の立ち椅子に腰掛けていく。

 エヴァは、立ち椅子に合う高い机にあったピッチャーを持って、皆の前に置いたグラスにピッチャーに入っていた液体を注いでいた。

 直ぐにヴィーネとキサラとラムラントも続いて、皆のグラスに水を注いでいく。


 ナロミヴァスとアンブルサンとアポルアは俺の背後を守る位置を崩さない。

 サシィが近くに来たので、


「この小さい環の魔宝石のようなアイテムの、レンがくれた玉佩の片方だが……特別な意味があるのかな」


 サシィは、片方の目をピクッと動かして、少し不機嫌となる。

 

「……環の玉佩は、自分の心臓を分け合う。女が好きな男に送る、結婚の約束を取り交わしたのと同じだ」

「そ、そか……ゴッホン……」

「ご主人様……」


 ヴィーネがツッコミかと思ったら、ヴィーネの背後の壁に薄らと半透明な呪符か護符のような魔力を有した御札のような物が掛けられてあった。


『なるほど、皆、ヴィーネとキッカ近くの左隅を見てくれ、怪しいのがあったから、ここの部屋での、ラムラントの眷属化はしない方向でいく、では、レンが来たら血文字で連絡をくれ』

『『『『はい』』』』

『了解しました』

『覗かれている前提で、他にも怪しいのがないか探します』

『おうよ』

『ん、見つけた』


 とエヴァが見つけたのは人形。

 梟の木彫りで、魔線が外に繋がっている。


『色々とあるな……レンに問い詰めたくなるが、今のところは静観を貫こうか』

『はい』

『ですね』

『……うむ、こうなると……レンとの眷属化は早くしたほうがいいかも知れないな』


 とサシィが言うとは、が、【源左サシィの槍斧ヶ丘】と【レン・サキナガの峰閣砦】の和睦が大事か。嫉妬どころではないか。


 そして、ラムラントを見て、


「ラムラント、とりあえず、外に行こうか」

「え、はい!」


 とラムラントを連れながら、壇を上がり、窓を開けた。

 【メイジナ大平原】の絶景と向かい風が出迎えた。

 最初に昇降台に乗って見た景色とほぼ同じ景色。

 

 斜め下に懸造の木造と鋼の建材と連なるドーム状の屋根が見えた。直ぐ背後の懸造の建物は岩壁の中に続いているが、外側は、この塔が【レン・サキナガの峰閣砦】の外側を占めている。俺たちが下から上がってきた昇降台も備わっているように横幅は百メートルを有に超えているかな。


 やはり、結構な建物が【レン・サキナガの峰閣砦】だ。


 そして、俺たちが今いるVIPルームを含めて大楼閣はかなり大きい天守閣だ。

 塔屋の範疇は超えている。


 ラムラントが、


「シュウヤ様、最上階らしく高いですね~、あ、でも、ベランダは小さいです」

「あぁ」


 ラムラントに返事をしつつ――。

 足下の黄土色の縁は少し歩き、手摺りを見てからラムラントに視線を向けた。


「抱くぞ」


 とラムラントに言って、ラムラントの片腕に手を伸ばし、


「きゃ」


 と強引にラムラントを抱き寄せながら軽く跳躍。

 手摺りを片足の裏で蹴って跳んだ――。

 <武行氣>を発動――。

 ラムラントを御姫様抱っこ。

 ――ラムラントは頬を朱に染めながら両腕を俺の首に回す。

 

 【レン・サキナガの峰閣砦】の全景を見るように飛翔していく。

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