千三百二十三話 黒猫ロロディーヌと銀灰猫メトの冒険
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ここは【レン・サキナガの峰閣砦】の下層。
泥煉瓦と石畳が敷き詰められている道が多い。
山の斜面を内に切り取って拡がった街には急勾配な地形が多いが、ほぼ平たい地には道が多く、その道は【メイジナ大平原】と【メイジナ大街道】と【サネハダ街道街】と【メイジナの大街】に続いている。
その【レン・サキナガの峰閣砦】の下層には【大肉坂】と名が付いている坂道があり肉屋が並ぶ、ここではボルルの肉屋が有名だろう。
そんな坂道を有した上下左右の十字路を含む通りには様々な肉屋が並ぶ。
十字路の通りは【肉屋横町】と呼ばれていた。
【大肉坂】と【肉屋横町】の肉屋は【メイジナ大平原】で採れる様々な肉を解体しては売りさばている。
そして、【肉屋横町】では肉を目当てに野良猫たちが暮らしてコミュニティを形成していた。
今も肉屋の通りの前で、灰色の太った猫が皿に載った大量の肉をむしゃむしゃと食べていた。その猫の額には三日月の傷跡がある。
周囲からクレセントヘッドの名で親しまれているが、かなり口が悪く、粗野なところがあった。
そこに、普段見かけない黒猫と銀灰猫が通る。
野良猫たちもざわついた。
黒猫と銀灰猫は、構わず、肉屋の通りを通り、
「ンン、にゃ(ふふ、ここに大好きな人と来たら、あそこに吊されている肉をわたしたちにくれるようにしてくれるかしら?)」
「にゃ~、にゃ、にゃァ(はい、主様は優しいですから、きっと肉を入手してくれます~)」
「ンン、にゃ(うん、でも今は、がまん)」
「にゃ~(はい~)」
と会話を行う黒猫と銀灰猫。
大好きな人と主様とは、とある槍使いだろう。
すると、灰色の太った猫のクレセントヘッドは、黒猫と銀灰猫の前にトコトコと近付く。
頭部を傾けつつ睨みつけ、
「にゃ、にゃごぉぉ、にゃごぉぉぉ(止まれ、ここをどこだと思ってやがる……」
と黒猫と銀灰猫を威嚇してきた。
「ンンン、にゃ~、にゃ(ここ? お肉のいい匂いがするところでしょう)」
「ン、にゃ、にゃごぉ(無礼な、ロロ母様に対して、そのような発言を!」
灰色の毛の太った猫のクレセントヘッドは片方の目を大きくさせ、
「にゃごぉ、にゃ、にゃごぉぉぉ、ニャガァォォン! (あぁ? 何がロロ様だ! お前ら、ここから生きて外に出られると思うなよ! お前ら、出番だ!)」
と叫ぶように鳴いた。
そして、額の三日月の傷を黒猫と銀灰猫に見せつける。
すると、
「「「にゃ~(出番ってなに~)」」」
「「「ンンン(分かんないけど、とりあえず~)」」」
「「「にゃ、にゃ~(また、クレセントヘッドが威張ってる~」」」
「「にゃご~(まったく~)」」
とクレセントヘッドの鳴き声を聞いたであろう太った野良猫たちが、肉屋と肉屋の間からぞろぞろと現れる。
黒猫と銀灰猫は、その太ましい猫に囲まれる。
端から見たら、猫の楽園に見えるだろう。
太った猫たちは黒猫と銀灰猫を見て、楽しそうに歩み寄る。
この肉屋の縄張りのボスと自称するクレセントヘッドの体を退かして、次々と前に出る太った野良猫たち。
少し驚いた銀灰猫は前足に爪が出て、
「ンン、にゃご、にゃぁ(ロロ
「にゃ、にゃ、にゃ~(ふふ、メト、大丈夫よ~)」
と黒猫が凜々しさを見せるように前に出た。
エジプト座りを行いながら、長い尻尾で銀灰猫を隠す素振りも行う。
銀灰猫は、
「……にゃ~(ロロ母様……)」
と感激したように鳴いては、黒猫を見上げていた。
一方、そんな黒猫と銀灰猫を囲う太った野良猫たちは、その場でゴロニャンコを行う猫と、横っ腹を見せていく。野良猫たちは、だらけつつ、
「「「にゃぉぉ~(こんにちは~)」」」
「にゃ、にゃ、にゃ? にゃ~(黒猫の銀灰猫の雌~、ここの肉は、おいちいですよ~)」
「にゃおぉ~、にゃお~(やっほ~、見ないかおだねぇ)」
「にゃ、にゃおぉぉ、にゃ~、にゃ~、にゃ! (黒猫と銀灰猫の新入りか~、腹減ってるなら、余っている肉をやろう!)」
「にゃ、にゃ、にゃぉ~(クレセントヘッドが偉そうにしているけど、無視していいからね~)」
「ンン、にゃ、にゃ、にゃぉ~(クレセントヘッドが唸ってごめんなさい~、この肉をあげるから、けんかはだめ~)」
と、太った野良猫たちは、黒猫と銀灰猫をもてなすように肉屋が毎日落としていく肉が載った皿を黒猫と銀色猫の前に差し出していた。
太った灰色猫クレセントヘッドは、
「にゃごぉぉ、にゃぉ、にゃ、にゃ……(あぁ~大切な肉を勝手に配るな! だいたい、俺が最初にこの肉屋通りを見つけたんだぞ……)」
「にゃ、にゃ、にゃ~、にゃぉぉ、にゃ~(黒猫と銀灰猫の雌たち、気にせず、この肉を食べていいからね、クレセントヘッドは、いつもあんな調子だから」
「にゃご、にゃ~(さ、どうぞ)」
太った猫たちは、クレセントヘッドを無視して、黒猫と銀灰猫をもてなすように肉を運んであげていた。
黒猫と銀灰猫は、その肉の臭いを嗅いでから頷き合う。
と、直ぐに肉を見てから、太った猫たちに向け、
「ンン、にゃ(ありがたくいただくわ、肉屋の野良猫たち、ありがとう~」
「にゃァ~(いただきます~)」
と置かれた肉を黒猫と銀灰猫は食べていった。
中々美味しかったらしく、黒猫は、神獣の片鱗を自然と見せてしまう。
「ンン、ガルルゥ」
肉を食べながら姿を黒豹に変化させていた。
そして、肉を平らげた黒豹ロロディーヌを見た、周囲の太った猫たちは、
「「「「「nyago! (ひえぁぁぁ!)」」」」」
「「にゃ!(えぇ!)」」」
「「「「「――にゃぁ!? ――(魔獣!?)」」」」」
と鳴きつつ一目散に逃げていく。
肉屋の前の猫たちで残っているのは数匹。
そして、肉屋の縄張りを支配している自負があるのか、クレセントヘッドの太った猫も残った中の一匹だった。
そのクレセントヘッドは恐る恐るといった動きで黒豹ロロディーヌに近付き、
「にゃ……」
と細い声で鳴いている。
黒豹ロロディーヌは、
「にゃご、にゃ、(なに? 聞こえないわ)」
と鳴きながら黒豹は姿を成猫の黒猫に戻していた。
その様子を見ていたクレセントヘッドは「……にゃ、にゃ、にゃぉ……(……ま、魔獣様……とは知らず……)」と微かな鳴き声を発した。
クレセントヘッドは肉屋横町の縄張りを支配している意地を見せるように両耳を凹ませて、
「……にゃ、にゃ……にゃぉぉぉ~! にゃぉぉ……(すみません、先ほどの無礼をお許しください! 黒猫様……」
と鳴いていた。
「ンン、にゃ、にゃ~、にゃおぉ~、にゃお、にゃあ、にゃ、にゃん、にゃ~(そんなこと最初から気にしていないわ、それより、肉がうまかった~、周囲の猫たちにありがとうと伝えておいてね、クレセントヘッド?」
「にゃ~、にゃ~、にゃ(はい、あの名を聞かせてください)」
「ンン、にゃ、にゃ、にゃ~(ロロよ、隣にいるのはメト)」
「にゃァ、にゃぉ~(はい、クレセントヘッド)」
クレセントヘッドはお辞儀をするように頭部を下げてから両前足を揃えたエジプト座りに移行して、
「……にゃ、にゃ~、にゃ(……ロロ様とメト様)」
「ンン、にゃ、(うん、じゃ)」
「にゃ、にゃ、にゃ~(ばいばい~クレセントヘッド)」
「にゃ、にゃごおお~(あ、待ってください!)」
「にゃ(なに?)」
「にゃぉ~(あの、ちょっとお待ちを――)」
クレセントヘッドは振り返り尻尾を立てながら肉屋の横の路に入る。
直ぐに、ひょこっと横路地からクレセントヘッドは頭部を見せた、
そのまま走って、
「にゃ、にゃ~(食べたら、魔力を得られる、この魔魚プロトンを差し上げます)」
「にゃ~、にゃ(ありがとう、いただくわ、じゃあね)」
「にゃ、にゃおぉ~にゃァ(はい、ありがとう、クレセントヘッド――)」
クレセントヘッドは、その華麗に走る
二匹は、クレセントヘッドの鳴き声が聞こえていたが、気にせず、肉屋横町を通り過ぎた。
獣馬商通りの一角を通ったところで、
そして、
「ンン、にゃ、にゃ、にゃぉ! (メト、この魔魚は、この先の路地の暗がりで食べましょう、ついてきて!)」
と発言すると、跳躍して、放った魔魚プロトンを咥えて着地。
「ンン、にゃァ~、にゃァ(でも、ロロ母様、また他の魔猫の縄張りに侵入してしまうのでは?)」
と、心配気に鳴く
「にゃ、にゃ~、にゃ、にゃ、にゃおぉ~(いいの、メトも、大好きな人に、この新しい土地のことをもっと報告するんでしょ」
「ンン、にゃ、にゃぉ、にゃァ(はい、主様に報告して、撫で撫でしてもらいたい!」
「にゃ~、にゃ(うん、ふふ、わたしも)」
厩に魔獣小屋などが並ぶ通りには、二眼二腕の魔族が多い。
足下を壁と壁の狭い隙間へと走りながら突入した二匹は、ゆっくりとした歩きに変えつつ、狭い隙間を抜けた。
路地裏に出た
「にゃ(ここで、魔魚プロトンを食べましょう)」
「にゃァ(はい~)」
「ンン、にゃ~、にゃおぉ~(ふふ、このお魚ちゃん、美味しい~)」
「にゃァ、にゃごぉ、にゃァァ~、にゃァ~(はい、先ほどの肉といい、三つ腕のところにはなかった味です)」
「ンン、にゃ~、にゃ~(そうね、あ、もう全部か。そして、ここは大好きな人と同じ二つ腕が多いわ)」
魔魚プロトンを食べ終わった
「にゃぁ、にゃぉ~(そうですね、髪の毛も同じです)」
「ンン、(うん、あ、まだ残っているわよ、それも食べちゃいましょう)」
「ンン、にゃ、(はい)」
すると、共同住宅の中から少女と魔猫の悲鳴と魔獣の叫び声が聞こえてきた。
直ぐに黒猫ロロディーヌは駆けた。
共同住宅の庭の生えていた樹に跳び移る。
ロロディーヌは樹に爪を立てながら四肢を前後させて登っていく。
幹の樹皮を削り落としながらかなり高い位置まで登ると斜め横に伸びている枝を見てからヒョイと跳び、その高い枝に移って枝の上を走りながら前方に跳躍――共同住宅の三階の狭い窓際に跳び乗っていた。
黒猫ロロディーヌは窓際を進んで、開いていた窓から中に侵入した。
そこは三階の大部屋で、室内は散乱し床の至るところに爪痕があり、巨大な生物が争った痕跡があった。
魔猫たちの肉片と屍が転がっている。
両前足から自然と爪が伸びていた。
そのまま血濡れた床を削るように進む。
自然と、大部屋から廊下に出る。
廊下の奥には、一人の少女と魔猫を守るように立つ小さい魔獣ルガバンティと大魔獣ルガバンティがいた。
少女と魔猫を守るためか、小さい魔獣ルガバンティと大魔獣ルガバンティの体は傷だらけだ。
その少女たちを狙うように相対しているのは、三匹の大魔獣ルガバンティ。
その三匹の大魔獣ルガバンティは口が血だらけだった。
両前足の甲も血だらけだった。
「にゃごぉぉ、にゃごぉぉ……(なんてことなの、許さない……あの女の子も守らなきゃ、そして、メトは間に合いそうもないわね……)」
「え? 黒猫?」
廊下の奥にいた少女が
と、魔猫と傷だらけの小さいルガバンティと同じく傷だらけの大魔獣ルガバンティに、口が血だらけの三匹の大魔獣ルガバンティが
「ガアルォ――」
と一匹の口が血だらけの大魔獣ルガバンティが、
「にゃごぁぁ(お前は、消毒よ!)」
黒猫のロロは、口を広げ紅蓮の炎を吐きながら突進――。
血を撒き散らしながら突進してきた大魔獣ルガバンティの頭部を捉えた。
一気に頭部を溶かし胴体は横に弾け飛ぶ。
その背後にいた大魔獣ルガバンティの頭部と体をも溶かした紅蓮の炎。
紅蓮の炎は敵のルガバンティと、少女を守る二匹のルガバンティをも巻きこむ勢いで直進。
紅蓮の炎は宙空で止まったかのように――
そして、口の周りに紅蓮の炎の粒子が微かに残る
その太い触手からフランベルジュ型の骨剣を伸ばしていく。
フランベルジュ型の骨剣が、残りの大魔獣ルガバンティの頭部ごと胴体を貫きながら直進し、少女を守る位置にいる大魔獣ルガバンティに向かうが、フランベルジュ型の骨剣は直ぐに引き触手の中に格納されると、その触手も
「にゃご~、にゃ~にゃお~(二匹の魔獣は女の子を守っているの? 大丈夫?」
と鳴いて話しかける。
そして、少女たちに近付く。
少女は、
「え、あ、あの……黒猫ちゃんはいったい……でも、あ、助けてくれたのよね……」
と発言。少女こと二腕の魔族の言葉は理解している
微かに頷くが、
「ン、にゃ(そうだけど、わたしたちの言葉は伝わり難いのよね、大好きな人も、気持ちは通じているけど……」
と槍使いのことを思い出し、この少女のことを頼みに、槍使いの下に戻るべきか迷い始めていた。
すると、
「ンンン、にゃァ(ここは猫の死体だらけ~~ロロ母様~~生きてますよね~)」
少女たちから離れた。廊下端の階段の前に移動し、
「ンン、にゃ~にゃ、にゃ、にゃごぅ~、(当たり前でしょ、あ、メト、ここで虎の姿に変身はなるべくしないようにと注意したでしょ、元に戻りなさい)」
「ンン、にゃァ、にゃ……にゃ(えぇ、ロロ母様だって、肉を食べている時に変身してたのに……」
「ンン、にゃ、にゃご(ふん、わたしはいいの!)」
階段を上る途中だった
「ンン、にゃァ、にゃ、にゃおぉ、にゃァ……にゃ? (ロロ母様が救った、ちっこい二腕の女の子、小さい魔獣と大きい魔獣?」
「ンン、にゃ(うん、大きい魔獣は大丈夫そう」
「ガオォ、ガォッ、ガルルゥ、ガオォ(名は知らぬが、我の主人のパンと我の子供キュティを助けてくれて感謝する……」
と鳴いて発言、その姿を見た
(ふふ、この大魔獣は良い子のようね……)
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