千三百二十二話 レンの玉佩

 大蟲ジェブドーザーの亜種か……。

 巨大なミミズを連想させるが、少し姿を見たいかも知れない。


 と、考えながら地下闘技場の【地下大回廊】を見学するように歩く。


 右前をマルアとアミラとイモリザが競歩を競うように早歩き。

 左前をゼメタスとアドモスとラムラントが続く。

 俺の左後方にヴィーネ、エヴァ、悠久の血湿沼ナロミヴァス、グィヴァ、流觴りゅうしょうの神狩手アポルア、闇の悪夢アンブルサンが付いてくる。

 右後方からキサラとビュシエとキッカとミレイヴァルが続く。

 背後からキスマリとエトアとペミュラスとフィナプルスとキルトレイヤとバミアルが付いてきた。

 

 先をスタスタと歩くレン・サキナガの風采に魅了された。


 ソウゲン隊長とシバ隊長に黒鳩連隊のミトとハットリも傍にいる。

 すると、


『<従者長>アチです、バーソロン様と皆様から血文字を行いました。パセフティとボトムラウにシュウヤ様がレン・サキナガと交渉し、無事に和睦と成ったことを伝えました』

『了解した。ラムラントも元気だと。そして、ここで<従者長>に迎えるつもりだと伝えておいてくれ』

『はい』


 デラバイン族だったアチもがんばってくれている。

 バリィアン族とは親交も無かったと聞いている。

 パセフティとボトムラウの会談は緊張したはずだ。

 会ったらハグして、肩をモミモミと揉んで労ってあげたい。

 <血魔力>も欲しがったらあげようか。


 と考えつつ先を行くレン・サキナガを凝視。

 生の太股が魅惑的すぎるんだよな。

 

 そのレンが、昇降台に長細い足を先に踏み入れた。


 俺も常闇の水精霊ヘルメと一緒に昇降台に移動した。

 ヘルメは体の半分を液状化させる。

 と、俺の背中の半分を覆うような水マントのように体を変化させると、そのマントを靡かせていく。更にヘルメの半身を抱きかかえてあげた。



「ふふ、閣下の体が温かい」

「あぁ、ヘルメの温もりは最高級に気持ちいい」

「ふふ」


 と頬にヘルメからキスされた。

 そのヘルメは俺の耳も舐めるようにキスをしてから体を液状化。

 ゆらりと左肩のほうに液体のまま移動しては、そこで女体化し、綺麗な紫色の唇を左頬に当ててキスしてくれた。――急いで唇をヘルメの方に向けた。


「あっ」


 ヘルメの驚いた蒼い双眸が可愛いな――。

 俺の唇とヘルメの紫色の唇が当たる。

 柔らかい感触の唇は最高だ、その唇の襞を味わうように唇を押し付けて、ヘルメの唇を吸う。

 ヘルメも応え――俺の唇を優しく吸うと口を開けて液体を送り込んできた。ヘルメの神聖な水を得て心が温まりながらディープなキスを行う。


 そのヘルメの口内に<血魔力>を送るとヘルメの唇がひくひくと動く。

 続けて<血魔力>を送ると、またヘルメの唇がひくひくと動いた。 

 <血魔力>を送る度にヘルメの体が振動を起こす。

 ヘルメは唇を離すと、


「アンッ、閣下の<血魔力>は濃厚……」


 と言いながら体が液状化。

 液状から霧に成っては、直ぐに、また女体化。

 そのままキスを続けていると……今度は濃霧に変化した。


 ヘルメの霧の濃いバージョンか、液体以上に神秘体験だな。

 

 そのヘルメは霧となりつつも女体の輪郭を維持していく。


 グラマラスな体を持つヘルメらしい輪郭となった。


 面白い。


 霧の女性と分かるヘルメはバレリーナのような挙動で俺の周囲を回り踊る。


 時折映写機が宙空に映画を展開させているような光景となって、不思議すぎた。


 そんな霧の人型となったヘルメの周りには、腰に注連縄を捲いた子精霊デボンチッチが数匹現れていく。


 水神アクレシス様の加護があるのかな。


 まさに水の精霊なだけはあるが……霧だから透明人間的で凄すぎる。


 と、その霧状のヘルメは少し離れた昇降台の端に移動して一気に人としての体を取り戻すように女体化。手摺りに背中を当てながら背筋をそらす。


 水色と群青色のコントラストが美しいヘルメの髪が宙空に靡いていく。

 群青色の水着のような衣装が隠す巨乳が上下に揺れていた。


 まさにグラマラスなボディだ。


 周囲にいた黒鳩連隊の隊員たちは、


「「おぉ」」

「なんて美しい乳にくびれた腰なんだ……」

「レン様も美しいが、精霊様は……」


 と歓声をあげていく。拍手している者もいる。遠くから太鼓とシンバルの音も響いた。


 観客席の出っ張りにいた音楽隊のメンバーもヘルメを観たようだ。


 遠いのに……と、グラビアアイドルを超えているようなヘルメだからな。

 野郎の大半は魅了されたかな。


 そのヘルメから視線を昇降台の中心に向けた。

 そこには巨大な鋼の滑車がある。立派だ。

 鋼の先端から蒸気を放っている筒も傍にある。

 

 エネルギー源は魔力だと思うが……。

 蒸気機関か化石燃料も多少はありそう。


 昇降台の滑車と繋がる下側にも数個の歯車のような部品が付いていると分かる。


 滑車の縁の間には太いワイヤーが掛かっている。

 太いワイヤーは【レン・サキナガの峰閣砦】の建物の中心を突き抜け大楼閣に続いている。


 滑車の円盤が回転すれば掛かっているワイヤーと歯車が回転に合わせて連動し、俺たちを乗せた昇降台は一気に上昇するはずだ。


 【レン・サキナガの峰閣砦】の地下から、その砦の建物を通り抜けるように大楼閣に到着する仕組みだろう。

 

 滑車とワイヤーに多人数を載せてもビクともしない昇降台を製作できるレン家は高度な技術力を保有している。


 神具台を造り上げた古代ドワーフのほうが技術力は高いイメージだが相当な技術力だ。


 【源左サシィの槍斧ヶ丘】の源左も魔製鉄所は優れていたからな。

 たたら場もあった。

 砂魔鉄と源左魔砂などを溶かす高炉と粘土とスライム系のモンスターを活かした高炉もあった。バーソロンは源左の方々を褒めていた。

 レン家も源左繋がりだから製鉄技術が高いのは当然か。


 レンは係へと指示を飛ばす。

 係は「ハッ」と返事をしてから棒状のスイッチを下げた。


 すると、昇降台の中央にある巨大滑車が回転を始めた。

 滑車の溝に関わっていた太いワイヤーも動く。

 俺たちを乗せた昇降台は一気に急上昇――。

 プラネタリウム的なドームが綺麗な大楼閣に戻ってきた。

 足下が揺れると重低音が響く。俺たちがここに来たばかりの時にも、昇降台が大楼閣の床に嵌まる重低音は響いていた。


 大楼閣の大広間にいた峰閣守衛隊たちが一斉に斧槍を掲げた。


 左右の敷居に分かれた段差が高い畳の上にいるお爺さんとお婆ちゃんたちは微動だにしない。


 【煉極組】と呼ばれていた方々。

 

 その【煉極組】のお爺ちゃんの一人は、レンの斜め背後を歩いているように俺たちと一緒に地下にいた方だ。


 レンは様子を見ている俺たちを見て、


「此方です、行きましょう」


 と発言。


「了解」


 レンは笑みを見せて頷くとサッと背中を見せて先を歩く。

 大楼閣をお淑やかに古風に歩く姿は、日本人にしか見えない。


 左右にいたゴツい侍のような峰閣守衛隊たちは、そのレンに対して、斧槍を構え直して敬礼をし直している。

 

 魔君主に対する態度だから対照的だ。


 レンは、その峰閣守衛隊たちへと親しげに語り、指示を飛ばす。

 その仕種が古風な姐さんに見えてくる。

 そのレン・サキナガはミトとハットリとソウゲン隊長に【煉極組】組長ヨシタツと呼ばれていたお爺さんと黒騎虎銃隊隊長シバに「緊急評定を開きますから皆、頼みますよ」的に話をしては指示を出す。

 レンの着物姿は絶妙に似合う。渋いし、いい女だ。


 すると、


「あの方々が、盟友、否、主となる方々と聞いたが、まことか」

「……ふむ、レン様の連れがとんでもない方々だったとは」

「わしゃぁ、最初から気付いておったぞ」

「ゴン爺、わたしゃぁ分からんかった。ただ、魔力が読めない方々が多いのは異常なことだとは思っておったがな……」


 と左右の敷居に分かれた先にいた【煉極組】のお爺さんとお婆ちゃんたちが語りながら、俺たちを見据えてくる。


 足を止めて、お辞儀しておいた。


 俺の水マントのような位置にいたヘルメも体を人族風に戻して、お爺さんとお婆ちゃんたちにお辞儀をする。

 と、背後にいたヴィーネたちも続いた。


「「ふぉふぉ……」」

「「カカカッ」」

「「うひゃひゃ」」

「驚いたねぇ、わしらに頭を下げる魔君主がおるとはのぅ~」

「うむうむ……新しい孫の誕生じゃぁ」

「背後の姉ちゃんたちも礼儀がなっとる」

「銀髪の小麦肌の女子は、不思議そうに顔付きでわしらを見ているぞ」

「まだ子供じゃろうて、気にするな」

「じゃが、少女のような子は他にもいるぞ」

「ライ爺、細かいことは言うでない」

「ふむ、あの礼儀正しい黒い男がリーダーじゃろうな、他にない雰囲気を醸しだしとる」

「ひゃひゃ……イケメンじゃ、レンの男にぴったりじゃ」

「うひゃひゃ、だが、べっぴんの女子をたくさん従えておるぞぉ」

「いいではないか、男とはそんなもの、それだけ頼りがいのある男なのじゃろうて、イケメンじゃし!」

「アミダ婆が気に入る男は、正解率が高い」

「レンの旦那か、うむ、このまま男を作らず年増になるのも仕方ないと思うておったが、あの黒髪の男なら、ありかの……」

「ありじゃな」

「ふむ、あの先頭の男は良い面構えじゃ! レンがだめなら、アミダ婆に取られる前に、わしが嫁に立候補しようかのう……ひゃっひゃひゃ、茶屋トミヤスで一緒に団子を嗜むのも一興ぞ!」

「ボボル婆、止めときなされ、あの先頭のイケメンの顔が引き攣っておったぞ」

「なにぃ」

「「「「ひゃっひゃひゃ」」」」


 少し怖いが、面白いお爺さんとお婆ちゃんたちだ。

 と、先で待っていたレンが、


「シュウヤ様、【煉極組】のボボル婆たちのことは無視しておくなまし」


 と恥ずかしそうな表情を浮かべていた。


「あぁ」

「ささ、此方です」


 と、頷いてレンの後に続いた。

 先頭のレンは広間の右の通路に向かう。

 すると、ミトとハットリが、


「シュウヤ様、わたしたちはここで」

「おう」

「シュウヤ様、ご恩は一生忘れませんぞ」


 ハットリの言葉に頷いて笑顔を見せた。

 ハットリは涙目になっていた。

 はは、いつでも会えるだろうに、と、そのミトとハットリはラ・ケラーダの挨拶を覚えてくれていたようで、ラ・ケラーダをしてくれた。


 これには、俺のほうがくる。

 急いで、ラ・ケラーダの挨拶を返すと、二人は優し気に頷いてから、他の黒鳩連隊の方々と反対側の通路に向かった。


 外番という位置の部隊が分からないが、元八番隊の生き残りとしてがんばってくれるだろう。


 他の黒鳩連隊と峰閣守衛隊の大半もレンたち上役の存在たちに敬礼と掛け声を発してから離れた。


 普段の役目に戻るつもりなんだろう。

 大半は方々は広間の左側に入る、壁伝いに通路があり左右に分岐する通路と坂道が幾つかある。大きな扉を開けた先にも下向きの階段と通路と鉄棒があった。鉄棒を利用して下に急降下する黒鳩連隊の方々が消防士に見えた。


 一方、俺たちの前にいるレンは螺旋状の低い階段を上る。

 右側にあった大部屋に入った。俺たちもその大部屋に入った。

 端には壇があり、壇の上には大きき窓越しに景色を楽しめるようにソファーが並び置かれてあった。ここからでも外は見えている、見晴らしの良い居間だ。壇の低い部屋の中央には大きい香具が設置されていた。

 左にくりやがある。右端には複数の寝台が並んでいた。

 

 レンは、


「皆様、ここを自由に使ってくださいまし――そして……」


 懐から環のアイテムを取り出し環の中心を押し込む。

 と中心に嵌まっていた小さい環を外した。


「この玉佩の片方を渡しておきます――」


 それを渡してきた、丸い腰に帯びる装身具かな。お洒落だ。

 受け取った。


「これは?」

「なっ、それは……」


 サシィは知っているようだ。


「ふふ、それがあれば、ここの【レン・サキナガの峰閣砦】は自由に移動できる」

「了解した」

「それでは直ぐに緊急評定が始まるので、お暇いたします。では後ほど――」

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