千三百二十一話 大蟲ジェブドーザーの亜種の秘密

 レン・サキナガは、俺と背後の皆を見て、


「シュウヤ様の眷属様たち、先ほど皆に宣言したように、レン家は、源左と、バリィアン族と、正式に和睦致します。シュウヤ様たちの大同盟に加わるので今後とも宜しくお願い致します」


 と、丁寧に皆に対して頭を下げてきた。

 ヘルメが、


「閣下が率いている大同盟の名は、神聖ルシヴァル大帝国です」


 レンはヘルメの声を聞くと、肩を揺らし、俄に頭部を上げてから、


「――はい!」


 と勢い良く返事をしていた。

 続いて、レンの背後にいた黒鳩連隊隊長ソウゲンと黒騎虎銃隊隊長シバと黒鳩連隊と峰閣守衛隊の隊員たちが一斉にザッと音を立てて、


「「「「ハッ」」」」

「「「「――ハハッ!!」」」」


 と敬礼していた。

 ヘルメは「ふふ」と楽しそうに笑顔を見せると、急降下。

 俺の右肩と右腕を抱きしめてくれた。

 そのまま半身を液状化させたヘルメは、俺の体を液体の体で包んでくれた。


 ありがたい。


「「「おぉ」」」

「シュウヤ様は精霊様と融合が可能なのか」

「あぁ、武装魔霊に<召喚霊装>や<召喚闘法>と似た類いだろう!」

「それにしても凄い……」

「「あぁ」」


 頭部以外の左半身が液状化しているヘルメは、俺の右肩と背に、まだ実体化している右の体と乳房を押し込みつつ、


「そうですよ、先ほどのレンとの一騎打ちには参加しませんでしたが、閣下とわたしが融合する戦闘スタイルもあるのです」


 と語っていく。

 肩の竜頭装甲ハルホンクも意識して薄着にしてくれた。


 ヘルメのおっぱいの感触は、ふっくらマショマロ。

 それでいて先っぽの蕾は、硬いから、かなり好きだ。


 というか皆硬いか。


「「「「「おぉぉ」」」」」


 レン・サキナガを含むレン家の方々が常闇の水精霊ヘルメの言葉に驚いていた。

 着物の太い紐に差してあった魔刀の一つは破壊してしまった。

 他の二本の魔刀は腰に差したままだ。

 腕は二本だけだが、三本の魔刀を活かせる剣術が扱えるんだろうか。

 

 すると、早速、ヴィーネが、


「レン・サキナガ、レン家の皆様方、こちらこそ、宜しくお願い致します、わたしの名はヴィーネと言います。光魔ルシヴァルの<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人です、ご主人様は、最初にわたしを<筆頭従者長選ばれし眷属>に選んでくださった。元はダークエルフですよ」

「ダークエルフ……」

「魔毒の女神ミセアが可愛がる一族と噂で聞いたことがある」

「あぁ、魔界セブドラ側では希少な魔族、否、種族だったのか」


 と、周囲がざわついた。

 俺はエヴァたちに「この際だ、皆も名乗っておくといい」と勧めた。

 エヴァは頷いて、


「ん、よろしくお願いします。わたしの名はエヴァ、元は冒険者、シュウヤとはセラの【迷宮都市ペルネーテ】の迷宮の中で出会った。銀ヴォルクに襲われたところをシュウヤは助けてくれたの、今でも忘れない。格好良かった。あ、ヴィーネと同じく<筆頭従者長選ばれし眷属>。この足で、金属が扱えます」

「金属が扱える……」

「骨の足はみたことが無い」

「あの不思議な車椅子は宙空に浮くことも可能のようだな」


 と、ざわついたが直ぐにレンが柏手――。

 静まったところでキサラが前に出た。


 ――〝チャンダナの香水〟の匂いが漂う。

 いつものキサラの良い匂いだ。

 

 白絹のような美しい髪を揺らしながらラ・ケラーダの挨拶を皆にしていた。


 姫魔鬼武装のアイマスクを崩すように小さい角に仕舞ったキサラは、


「レン・サキナガとレン家の皆様方、わたしの名はキサラです。<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人です。セラのゴルディクス大砂漠のダモアヌン山麓に潜伏する黒魔女教団の一党が屋敷に生まれ、十七高手の下で育ちました。そこで成長し、四天魔女と成りました。が、ホフマンという名の<筆頭従者>とシュミハザーに敗れ、魔女槍に長いこと封じられていた存在でした。紆余曲折あり、ロターゼと共に復活できたわたしはシュウヤ様と戦うことになって……今のレンのように敗れました。そしてシュウヤ様に拾われ、<筆頭従者長選ばれし眷属>のキッシュが治めるサイデイルの復興にイモリザたちと共に尽力し、発展に努めた……それから暫く後、塔烈中立都市セナアプアの北のネーブ村で、<筆頭従者長選ばれし眷属>にしていただきました」

「「「おぉ」」」

「皆様方には深い歴史があるのだな……」


 と、黒鳩連隊の方々から歓声が上がる。

 

 ネーブ村では色々なことがあった。

 水鴉の宿に泊まったんだったな。

 

 水鴉の守り手の友との出会いもあった。

 〝黄昏を地で征き歩く騎士、中庸を貫く騎士〟と予言をしてくれたゼンアルファ婆は不思議だった。

 ハードマン神殿では、光神の封印扉に挑戦したっけか。

 音守の司のゲッセリンク・ハードマンの金玉は特徴的だった。


 続いて、


「わたしはイモリザです~。<筆頭従者長選ばれし眷属>ではないですが、<光邪ノ使徒>という名の眷属です。黄金芋虫ゴールドセキュリオンになれて、使者様の第三の腕に成ることが可能。それでいて、ピュリンとツアンにも個別に変身も可能なんです――」


 と、ツアンに変身。


「「げぇ」」

「「男に!?」」

「女から男えぇ!?」


 ざわざわ、ざわざわ。

 とレン家の方々からざわめきが起きる。

 ツアンは、頭の後ろを掻いてから、俺をチラッと見て「……いきなりの変身は勧めないぜとイモリザに忠告はしたんですがね」とぼやく。


「おう、分かっている」

「へい、皆様方。俺の名はツアン、<光邪ノ使徒>の一人、イモリザとピュリンと体を共にしている」


 と自己紹介。


「声も確実に男だ。<光邪ノ使徒>とは不思議だ……」

「「あぁ」」


 レン家の皆々も驚いているがレン・サキナガもツアンを凝視して驚いている。

 

 ツアンに魔煙草を差し出したくなるが、ツアンは直ぐに寄り目になって一瞬でピュリンに変身。


「「「おぉ」」」

「今度はキュートな骨の尻尾を持つ女子だぁぁ」

「「わぁ」」

「可愛い~」

「ふふ、どうもピュリンです、ツアンとイモリザが喋ったように、一人の体を三人の精神が共有しているんです。使者様と眷属たちを助けることが生きがいです」


 とペコッと頭を下げた。

 そのまま頭を下げたまま何故かキサラたちの背後に移動していた。

 エトアと一緒に何かを話していた。


 俺はキッカに視線を向ける。

 キッカは頷いて、魔剣・月華忌憚を掲げながら、


「――レン・サキナガと、レン家の皆様方、わたしはキッカと言います。セラの【塔烈中立都市セナアプア】で冒険者ギルドマスターを務めている。そして、宗主のシュウヤ様とは、その塔烈中立都市セナアプアの〝網の浮遊岩〟で出会ったのだ。シュウヤ様は、その網の浮遊岩で、ネドーの魂と引き換えに無数のネドーの生きた違法奴隷の血肉を得て五分の一にも満たない魂だったが魔界の魔元帥級のラ・ディウスマントルが復活したのを、討伐している!」

「「「おぉ」」」

「セラに魔界の諸侯クラスが……十層地獄の王トトグディウスの大眷属だぞ……」

「凄すぎる」

「シュウヤ様は魔英雄!」

「先ほどの戦いも凄かったが、既にセラでも魔界の強者を倒していたのだな」

「あぁ、魔界王子テーバロンテを倒したのも分かる」

「というか傷場の向こう側の世界は贄でしかない印象だったが……皆、俺たちと同じように生きているのだな……」


 黒髪の魔族たちの言葉に皆が頷いていた。

 レン家の幹部の方かな。


 暫し、レン家の方々が盛り上がる。

 少し間を空けてから、キッカは、


「……それから暫くの後に、宗主の<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人にしていただいたのだ」


 続いて、ビュシエが、


「わたしの名はビュシエ、宗主のシュウヤ様の<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人。そして、光魔ルシヴァルに成る前は……一度死んでいると同じ状態だった」

「一度死んでいる……」


 レンの言葉に頷いたビュシエ。

 

 あの時か。


『……<血魔力>も、もう残り少ない。この体は、よくて数時間持つか持たないか。<渦呪・魔喰イ忌>が強まり渦呪の侵食を心臓と脳に受けたら……わたしは消滅してしまうだろう』


 と昔ビュシエは、語っていた。

 そのビュシエは、


「【吸血神ルグナドの碑石】の棺桶の中に、まだわたしの本体があったが、<渦呪・魔喰イ忌>に体が侵され蝕まれていたのだ……天把覇魔杖で症状を止めていたのだが、マーマインのハザルハードに片腕ごと奪われてしまい、絶体絶命だった、が、シュウヤ様はハザルハードを倒し、わたしの片腕を取り戻し、自由にしてくれた。わたしは、<誘血灯>で、その片腕を操作し、【吸血神ルグナドの碑石】にシュウヤ様たちを案内したのだ。シュウヤ様は機転が利く。そして、水神ノ血封書と宵闇の指輪で、わたしの<渦呪・魔喰イ忌>は除去してくださった。命が救われた。その際、前後するが、吸血神ルグナド様へと<血映像>を駆使し、連絡を取れたのだ。その時、ルグナド様は、シュウヤ様、宗主様を認めていた。あの吸血神ルグナド様がだ……」

「「「おぉ」」」

「凄まじい話だ」

「魔界セブドラの一柱の吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>……」

「「……」」


 暫し、静まる。

 そんなレン家の方々に、ビュシエは、


「……吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>のビュシエ・ラヴァレ・エイヴィハン・ルグナドとしての名が過去にある。この者たちの中に当時のわたしたちの行動を知る者がいてもオカシクないだろう……エイゲルバン城が破壊された後……主に戦ったのは、悪神デサロビアとその眷属、恐王ノクターの眷族、マーマイン、魔界王子テーバロンテ、百足魔族デアンホザー、蜘蛛魔族ベサンなどだが、黒髪もいたからな」


 と源左サシィを見てはビュシエと共に頷き合う。

 サシィはその当時は生まれていなかったことは、何回も聞いている。

 

「え……」

「「……」」


 レンが『え』と驚いているが、他は絶句。

 しーんとなった。

 まぁ、盛大すぎるか。

 俺としてはビュシエの過去話は貴重だ。


 【ドムラピエトーの傷場】、【吸血神ルグナドの傷場】、【アヴァロンの傷場】は、吸血神ルグナド様が占有していた三つの傷場、

 

 ドムラピエトー家、アヴァロン家、どれもセラ側の〝始祖の十二支族家系図〟に載っている吸血鬼ヴァンパイアたちだ。


 そして、キスマリから順繰りにフィナプルス、源左サシィ、ミレイヴァル、ヴィナトロス、ナロミヴァス、エトアにペミュラスも自己紹介を続けていった。

 サシィは短い自己紹介のみだった。

 争い合っていた間柄だ、今さらだろうし、レンとサシィは頷き合う。

 トップ同士が納得しておけば大丈夫だろう。


 ペミュラスの時に百足高魔族ハイデアンホザーの見た目もあり、かなりざわついたが、キスマリとヘルメが少し怒ったように魔力を全身から発すると、皆が静まった。


 そうして、一通りの自己紹介を終える。


 レンが近くにきた。

 太股の肌には『闘争:権化』と『鬼化:紅』の刺青のような魔法文字が刻まれている。戦闘の最中に一度消えたが復活している。


 漆黒のタイツを穿いたバージョンも良いが、生の肌も魅惑的過ぎる。

 そのレンが、

 

「シュウヤ様と皆様、大楼閣に戻りましょう」


 そうだな。と思ったが、


「あぁ、戻る前に、あそこの大きい塊が気になった――」


 と、地下にある大きい塊へと腕を差した。

 

「あの魔法の鎖と幅広な鋼のワイヤーが何重にも絡んで張り回されている大きな塊が気になった。その下には魔法陣もある。何が封じられているんだろう」

「あ、封印ではなく、対モンスター部下の一人の魔物使いサマオンが扱う<大塊異界>の格納術の一種です。そこに大蟲ジェブドーザーの亜種を特別に数匹飼っているんです。大蟲ジェブドーザーの亜種の元々は地底に棲まう大きいモンスターでした。サマオンたちが捕まえました」


 ジェブドーザー……。

 ネーミング的にブルドーザーを想像してしまう。

 魔法の鎖と言えば邪神シテアトップの一部が封じられていた時もあんな魔法の鎖だったが……。


 大きい塊を見ながら、


「闘技場用に?」

「はい、地下闘技場用の死体処理、掃除担当ですね。装備品も吸い取っては装備を分類するように吐き出してくれますし、排泄物も時間をおけば大魔石に変化し、水魔肥を超えた魔肥溜めに変化するので大変に重宝しているんです。お陰で田畑の質は年々上昇している。レン家の幹部以外では、結構な秘密です」

「へぇ、大蟲ジェブドーザーの亜種の秘密か」

「はい」

「ん、驚き」

「闘技場に大蟲ジェブドーザーを使うのどこも同じだが、亜種とは驚きだ」


 ペミュラスの発言にヴィナトロスとアポルアとアンブルサンと古バーヴァイ族の四腕戦士キルトレイヤと四腕騎士バミアルと<従者長>キスマリが頷いていく。

 ヴィーネは、


「セラの地下ですと、地底神の勢力に、大鳳竜アビリセンなどが有名ですが、魔界にもそのようなモンスターが存在するのですね」

「はい、セラのゴルディクス大砂漠にも、錦大蛙にしきおおがえる竜グオンや砂漠ワームは存在しました。各オアシス都市の大闘技場では、ワーム系が死体掃除を行っていた」

「ワーム系か、超巨大と聞いている」

「はい、そんなワームを神聖視している魔物使いグループもいました」

「神聖視となると問題になりそうだな」

「はい、大闘技場を支配していた複数の闇ギルドを子飼いに持つギヴィーザン連座組合と争いが起きていた」

「ギヴィーザン連座組合?」

「はい、【天簫傘】、【八百比丘尼】、【阿毘】、通称三紗理連盟も、そうですが、犀湖都市や砂漠都市ゴザートの自由都市ならではの特権組織、運輸座、水油脂座、水座などの権力が集中している組織です」

「へぇ、当時のゴルディクス大砂漠も様々だな」


 キサラは、<魔霊憑依>という名のスキルを使う存在の銀剣イサが率いる【嵐砂月】、血骨仙女たちと砂漠仙曼槍を巡った戦いに、砂漠闘技大会、大魔術師アキエ・エニグマとの戦い、ホフマンとの高いと色々と経験している。


「はい」


 とキサラ頷き合う。

 さて、レン・サキナガと皆に、


「では、レン、上に行こうか」

「はい、此方です、皆様も戻りましょう」

「「はい」」


 と、皆で、先ほど使ったエレベーターのような昇降台に向け歩き出す。

 

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