千三百十七話 サシィとレンの話に広い地下空洞
「「「「オォォォ」」」」
と周囲のレン家の者たちから歓声が上がり、
「レン様の本気の一歩手前のスタイルだ!」
「先ほどの防御重視<煉鋼甲・零式>だと出遅れる相手がシュウヤ様なのだと判断したんだろう」
「ならば、久しぶりにレン様の本気が見られる相手がシュウヤ様」
「強そうだな、シュウヤ様は……」
「あぁ、本当に魔界王子テーバロンテを倒した存在がシュウヤ様なら、とんでもない武人ということになる」
「神獣様も居られるようだし、魔皇獣咆ケーゼンベルス様も本当に使役したのなら、とんでもない相手がシュウヤ様だ……」
「「「あぁ」」」
と、周囲の黒鳩連隊と峰閣守衛隊の方々が語る。
すると、ヴィーネが、
「太股の『闘争:権化』と『鬼化:紅』の刺青には魔力が内包されている。<魔闘術>系統と読みましたが、ご主人様を相手に選ぶとは勇気があります。ですが、ご主人様、レン・サキナガは交渉相手ですから、ほどほどに……」
「分かってる」
レン・サキナガの得物は魔刀が得意なのかな。
「ん、レン・サキナガも強いと思うけど……シュウヤ」
優しいエヴァが何を言いたいかは分かる。
頷いて、
「了解」
と返事をしたらレン・サキナガが、
「ハッ、手加減は無用と言っておくわ」
「了解」
すると、キッカが、魔剣・月華忌憚を掲げて、
「宗主との戦いが条件とは、武闘派にも程があるな、わたしが相手してもいいんだぞ」
「ふふ、良い魔剣の美人魔剣師さん。同盟を結んだ後、戦いましょうか。今はシュウヤ様にお願いしたい」
とレン・サキナガが発言。キッカは怪しく微笑む。キッカも冒険者ギルドマスターだが、裏の仕事人で殺人も厭わない裏の顔があるからな。
すると、キサラは、
「シュウヤ様と戦える自信がそれだけレン・サキナガにはあるということでしょう」
「ん」
「我を指名すれば、叩き潰してやったのに……」
キスマリは怖い。
四本の腕を胸元に組んでいる。
「サシィ、レンの実力はどれほどなのだ?」
とキッカがサシィに聞いていた。
皆も気になるのか、サシィを注目。
「レンの戦闘能力はシュウヤと戦えるぐらいはある」
「……得物は魔刀が得意なのでしょうか」
キサラの言葉にレン・サキナガは、
「魔斧槍も使えるわよ、間合いによりけりね」
「そうですか」
魔刀以外にも斧槍など槍も使えるってことか。
目の前のレン・サキナガに、
「戦う場所は、ここで行うのですか」
「地下に丁度いい場所がありますわ、そこで行いましょう。そして、敬語は要らないです、仲良くしましょう。私はレンかサキナガと呼んでくださいまし」
とウィンクするレン。耳飾りも怪しく煌めく。
薄紫色の瞳と美しい。
美人さんだからドキッとする。
「……了解した。レン、俺もシュウヤでいい、それで地下とは【レン家の宝廟】か? 先ほど、皆が盗賊がどうとか話をしていたが……」
レン・サキナガは、頷いた。
「その真下にある【地下大回廊】です。シュウヤがここに来る前に、盗賊ヴァヌサが宝物庫と【レン家の宝廟】へと侵入してきたんです。先ほどまで、その
と発言すると指先の煙管を消す。
刹那、背中側に浮遊していた火の玉の一つが消えて代わりに斧槍が出現し、その斧槍が横に回転しながらレン・サキナガの右腕に近付くと、斧槍はレン・サキナガの和風の装束に触れるか触れまいかの位置を浮遊しつつ右手の逆手に納まった。
斧槍は薄紫色の魔力を纏うように発していた。
レン・サキナガは掌の中で、その斧槍の柄を回転させながら自らも横回転を行い、魔斧槍を持つ右腕の脇を締めるような動きから迅速に袈裟懸けを前方に仕掛ける。
斜めに手刀を行うようなモーションから振るわれた魔斧槍の斧刃が煌めく。
<豪閃>のような一閃を宙空に繰り出した。
薄紫色の軌跡が残る。
一瞬だが、敵の体が斜めに切断された光景が見えたような気がした。
振り払う動作も洗練されている。
源左斧槍流と似た感じだが、サキナガ流か、レン流の流派があるように思えた。漢字ながら崎永、崎長、煉か。
そして、腰に差した魔刀が主力武器かと思いきや槍使いが本命かな。
サシィは、
「あの魔斧槍は見た覚えがある」
と呟いているから、レン・サキナガは源左との戦いでは魔斧槍を主力にしていたんだろう。
レン・サキナガは、
「そうね、第二次メイジナ戦でサシィと上笠連長首座の大三郎たちと相まみえた時には、炸裂魔玉以外に、この魔斧槍サキナガをよく使っていたわ。サシィも、あの頃と変わらずに魔斧槍源左と魔銃を使っているのかしら?」
「使っている」
「そう」
「が、あの頃のわたしではないぞ、<血龍炎蛍魔斧槍師>に進化している。シュウヤと源左斧槍流で稽古もしたし、暇ができたら【源左サシィの隠れ洞窟】に向かう約束もしているのだ」
「へぇ、魔斧槍源左の秘密を共有する仲でもあるってことね」
「その通り」
「なるほど、わたしたちと同盟を結びたいってのは本気のようね」
「その通り。マーマインとの戦いも勝利に終わったが、もう同胞を失いたくないのだ」
「……ふふ、同じ気持ちよ」
「……うむ」
源左サシィはレン・サキナガの言葉を聞いて、眉を動かし、腕を組んで否定の感情を顕わにするが、直ぐに腕の構えを解いた。
言いたいことがあるようだが黙ってくれた。
レンは色っぽい仕種で魔斧槍を消す。
そのレン・サキナガに、
「……盗賊ヴァヌサの雇い主は分かっているのかな」
「拷問しても喋らないと思いましたので、殺しちゃいました」
「拷問の種類によると思うが……」
「いいんですよ、盗賊ですが、戦士で武芸者です。潔い死を与えました」
「へぇ」
皆も意外という言葉は発していないが、そんな表情を浮かべていた。エヴァも頷いている。
皆、俺たちはゲストで交渉する立場ということを理解している。
だからあまり喋ろうとしない。
「ふふ、意外ですか? 死を与えるのも礼儀かと」
レンは俺や皆の顔付きや態度から気持ちを読んできた。
「そうだな、一理ある」
そう言うと、レン・サキナガは頷いて、
「ふふ、ですが、雇い主の予想がある程度付いているのもあります」
「盗賊を寄越した勢力か……」
「はい、予想では【メイジナ大街道】、【サネハダ街道街】、【メイジナの大街】、【ケイン街道】辺りを利用している何処かの魔商団、大魔商たちですね……俗に闇商人連合と呼ばれている大枠組織に所属している集団、その内の個人でしょう……私たちも、その闇商人連合の枠の中なので、もしそうなら、身内の争いですね」
身内か。
「……闇商人連合の大枠だと、依頼人は山ほどいそうだ」
「はい、闇商人連合は、【レン・サキナガの峰閣砦】のレン家を含んだ、建前上ですが、商業上の共同利益の保全、海上交通の安全保障、共同防衛の責務がある」
「なるほど、建前だとすると、内部は血なまぐさい争いがある?」
「あります」
サシィも数回頷いていた。
レン・サキナガは、
「はい、今回のような盗賊なら、強くても対処は楽です。貴重な食材や調理方法に家の血脈が標的となると、武力だけでなく、奸知に長けた間諜が相手となる可能性が高くなる。その場合、事前に、その間諜を見つけるのは中々に難しい」
と言うとサシィも、
「その通りだ。血脈を狙う者は、力を持つ神々や諸侯に多い」
「……はい。【源左サシィの槍斧ヶ丘】ではサキナガ家でしたから、重に分かりますよ……そして、マーマインと関連したお家騒動があったとか?」
「……あぁ、あったがどの程度、わたしたちの情報を得ているのだ?」
「【源左サシィの槍斧ヶ丘】は完全な鎖国制度ではなく開かれていますから、ある程度は楽に入手できます」
「上笠影衆が目を光らせているはずだ」
「ふふ、私たちも上草影衆がいますが、完全には陰の者、忍びの者の情報収集活動は防ぐことはできません」
源左サシィは頷いて、
「……それは、ふむ。なるほど……」
と、納得しつつ沈黙。
レン・サキナガは俺を見て、
「私のコレクションは、宵闇の女王レブラ様も認めてくれているぐらいに中々の物、同時に敵も多いんです」
コレクションか、その発音の仕方に、コレクターを思い出す。
宵闇の女王レブラ様の名をわざわざ出すということは、シキと関係している?
それかシキと関連した何かあるかも知れないな。
「……コレクションか、納得した。では、地下に行こうか」
「はい、では、皆さんも付いてきてください」
と、前に移動した。
床の中央に太いワイヤーが繋がった大きい滑車がある。
昇降台のエレベーターか。
皆が乗り込むと、「では、降りますよ」と、レン・サキナガは係の者に指示を飛ばす。
すると、昇降台は一気に降下。
ドッと重低音を立てて昇降台は止まる。
先ほどの昇降台よりも速度が速かった。
かなり広い地下空洞か。
地面は赤茶色の土が周囲にあり、中央には石畳が敷かれている。
そこを先にスタスタと歩くレン・サキナガ。
背後を黒鳩連隊隊長ソウゲンと黒騎虎銃隊の隊長シバとミトとハットリを含む黒鳩連隊の方々が歩く。レン・サキナガが振り返ると、周囲のソウゲンとシバたちが一斉に左右に退いた。
一人、中央に残ったレン・サキナガは腰から魔刀を抜いて、右手に魔斧槍を握る。
「シュウヤ、準備はいいですよ」
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