千三百十六話 レン・サキナガとの交渉

 

「――本当に単刀直入ね……その和議は……」


 と呟きながら俺たちとミトとハットリに黒鳩連隊の隊長ソウゲンと黒騎虎銃隊隊長シバを見て、


「……前向きに検討致します。そして、黒鳩連隊八番隊副長ミトと隊員のハットリ、無事に生きて戻ってくれて嬉しいわ」

「「はい!」」

「でも八番隊は再編したから、あなたたちは当分の間、外番扱いになるけど、いいわよね?」

「あ、はい!」

「俺たちが外番……」


 レン・サキナガは頷いた。

 そして、俺を見て、


「シュウヤ様、ミトとハットリと沢山の民たちを救い、ここまで運んでくださったようですね」

「はい」

「……はい、素晴らしい人道的な行為、中々できることではありません。レン家を代表して……深い感謝の意を表します。ありがとうございました」

「はい、救える命があって良かった。そして、敵対した連中ですが、神々の繋がりがあるのでなんとも言えませんが……四眼四腕、二眼四腕のバアネル族のような魔族とは価値観を共有することは難しいと考えています」

「はい、私たちもです」


 頷いてから、


「サシィが先ほど語った和議の件ですが、俺たち光魔ルシヴァル側、【源左サシィの槍斧ヶ丘】の源左、【バーヴァイ城】のデラバイン族、【古バーヴァイ族の集落跡】のバリィアン族、【ケーゼンベルスの魔樹海】の魔皇獣咆ケーゼンベルスの総意と考えてください」

「周辺地域の総意……」


 とレン・サキナガは呟きながらサシィを見る。


「――その通り、レン、わたしはシュウヤ殿の配下で女であり、最高の眷属の一人、選ばれし眷属の<筆頭従者長>の一人となったのだ……」


 サシィが体から<血魔力>を発して語る。


「……源左の頭領、源左サシィの口から出た言葉とは思えないですが、本当のようですね」

「本当だ!」

「……<血魔力>……吸血神ルグナド様と同じようなシステムの<筆頭従者長選ばれし眷属>であると?」


 レン・サキナガの言葉に皆が頷く。


「そうですね、微妙に異なると言えますが」

「そうですか……あの源左一族の長が……」

「驚くようなことではない。シュウヤ殿は魔界王子テーバロンテを滅した方、【ケーゼンベルスの魔樹海】の魔皇獣咆ケーゼンベルスを使役した方なのだぞ」

「……ぇ」


 レン・サキナガは初めて動揺したように、たじろぐ。

 虹彩が散大しては収縮し、


「驚きました。〝魔神殺しの蒼き連柱〟を起こしたのはシュウヤ様、かなりの強者ですね……」

「自慢ではないが、それなりに戦える。戦いは好きだ」

「ふふ、わたしもかなり戦いは好きですよ」


 と、発言したレン・サキナガは顎先に人差し指を当て、唇も触る。

 そして、何かを考えるように視線を巡らせて、自らの動揺を打ち消すように少し周りを歩く。

 ヴィーネとキサラとビュシエを見ていた。


 続いて、エヴァ、ミレイヴァル、キッカ、エトア、ペミュラス、ナロミヴァス、アポルア、アンブルサン、フィナプルス、ヘルメ、グィヴァ、ラムラント、キスマリ、古バーヴァイ族の四腕戦士キルトレイヤと四腕騎士バミアルを見て……


「精霊様たち? なんてこと……」


 と、ボソボソと語る。


「……魔界大戦で有名な六眼……大柄の四眼四腕の魔族たちは古バーヴァイ族……?」


 そのタイミングで、俺を見て皆を見てから、


「すみません……ジロジロと……」

「いえ、構いません」

「ん、興味を抱くのは当然」

「はい」

「宗主以外にも、戦いは好きなメンバーは多いぞ」


 キッカの言葉に皆が頷いた。

 レンは頷いて、


「……百足高魔族ハイデアンホザー……」


 とペミュラスはスケルトン風の中身の瞳を現す。


「え……瞳が中にあることは知ってましたが……」


 ゆっくりと生きている百足高魔族ハイデアンホザーを見ることは少なかったか。レン・サキナガはペミュラスのドット絵にも見える四眼の動きを見て感心してから、ナロミヴァスとミレイヴァルを見て、


「……角を有した魔族に、隻眼の射手……魔術師タイプの魔族はわたしたちに近いと分かりますが……え、神界セウロスと関係している騎士もいる?」


 と言いながら、また皆を見回した。

 そして、暫し、唖然としては呼吸が乱れて額に粒大の汗を生み出していた。その様子を見たサシィは、笑みを浮かべて、

 

「レン! 魔皇獣咆ケーゼンベルスとは何回も会話をしたのだ。背中にもモフモフさせてもらった! そして、ヴィーネ、エヴァ、ビュシエ、キッカもわたしと同じ<筆頭従者長選ばれし眷属>たちなのだ。他にも<従者長>のキスマリもいる。わたしは光魔ルシヴァルの家族となった。だから【源左サシィの槍斧ヶ丘】の源左一族は神聖ルシヴァル大帝国の歯車の一つとなったといっても過言ではない」

「そ、そうなのですね、ケーゼンベルス様と……す、凄すぎる……」


 と、レンはシバとソウゲンとミトとハットリを見やる。

 皆、『本当の話』ですと言うように頷いていた。

 レン・サキナガは、大きく溜め息を吐いてから、


「分かりました。シュウヤ様たち、神聖ルシヴァル大帝国と和議は絶対的に結ぶ相手のようです」

「ふふ、レン・サキナガ、その通り、神聖ルシヴァル大帝国の一門に加わるべきなのです」


 と常闇の水精霊ヘルメが語る。

 ヘルメの態度は毎度の如く。


「恩に掛けるようですが、侵略ではありません。ここを支配するのはレン・サキナガ、あなたたちです。そして、和睦による通商条約や内国民待遇など細かい平等な条約は、ここに住まう者たちを無視しない方向で話し合いをしましょう」

「はい……平和の交渉、ミトたちを返していただけただけでも、シュウヤ様の思想は分かります」


 武闘派と聞いたが、意外に頭は回るようだ。

 ま、それだけ決断力が高いって証拠だろう。


 俺の知る地球の中の条約でも『ISD条項』という名の不平等な条約は大問題だった。一企業が国家に裁判をかける。

 企業や投資家が相手国(公共団体含む)の政策や規制で不利益を被った時、相手国を直接裁判にかけられるルールは、一部の資本家を守るだけで、他の人類には悪でしかなかったからな。


 国民主権の侵害に繋がるクソな条約が『ISD条項』だった。


 企業や投資家など一部の上級国民とそれに連なる者たちだけが守られ、他の国民全員が被害を受ける条約とか本当にあり得ない。


 そんなことを思い出しながら、


「デラバイン族を代表する立場のバーソロンも遅れてここに来ると思いますので、そのバーソロンとも話し合いをしてください」


 そして、ここを支配しているレン・サキナガをリスペクトしながら、


「デラバイン族のバーソロンですね、分かりました。そこのバリィアン族は【古バーヴァイ族の集落跡】の【バリィアンの堡砦】を代表する方なのかしら」

「代表ということではないですが、名はラムラントです。彼女も俺の眷属になる予定です」

「あ、はい! ラムラントと言います、平和になるなら何でも協力します」


 レン・サキナガは、ラムラントの言葉に頷いて、


「そうですね、無駄に争うよりも共存のほうが良い」


 と発言。皆が頷いた。

 そして、


「……皆が皆、平和であるための大同盟です」

「分かりました。しかし、条件があります」

「条件?」

「はい、わたしと戦ってくださいまし」


 え?

 レン・サキナガは驚く俺を見ると、「ふふ――」とウィンクを行って手元に長細いキセルを出現させた。


 左目の下にホクロがあるんだ。

 目の周りの桃色のアイラインが濃い。

 耳には花模様の耳飾り。

 その耳飾りが怪しく燃えるような魔力がボッと出た。

 更に右手に持った細い煙管に魔力を込めたのか、輝く。


 魔力で仄かに輝いた煙管の吸い口を、紅色の唇がパクッと咥えた。

 悩ましく息を吸うと、火皿の煙草が燃えて微かな音を漏らしつつ微かな煙が発生した。

 レン・サキナガは右手を下ろして煙管を離しながら鼻の穴と口から煙を吐いた。

 煙はレン・サキナガの体を包むと直ぐに消える。


「「え!」」

「「おぉ」」


 と、皆が驚いたように衣装が着物ドレスに様変わり。

 

 先ほどの和洋折衷の防護服から一瞬の模様替えか。

 瞳の色合いも薄紫色に変化を遂げていた。

 口紅も黒紫色の口紅に変化。

 そして、周囲に火の玉の魔力が浮き上がる。

 耳飾りか、煙管が、衣装を変化させる魔装天狗などのアイテムなんだろうか。

 煙で衣装を変化させたのなら、スキルで衣装や化粧をチェンジしたのかな。


 黒色が基調の着物ドレスは気品を感じさせる。

 首の前後が大きく開き鎖骨と大きい乳房の上部を大胆に晒している。


 紫色と白色の長襦袢の下着が僅かに見えているのも魅惑的。


 薄紫色の帯の布地には浮世絵風の絵と龍や鬼のような模様が動いていた。

 魔力を帯びながら動くアニメーションとは驚きだ。


 その薄紫色の布地の帯と白色の太い腰紐で、己の細い腰を締めていた。

 腰紐の帯揚げと帯留めは注連縄に見えるのもお洒落だ。


 帯留めと帯揚げの太い紐にぶら下がる魔刀の数は三本。

 そして、ムチムチしていそうな太股ごと長い足を大胆に露出しているから、かなり魅惑的。

 太股と片足には『闘争:権化』と『鬼化:紅』の漢字のような刺青が刻まれていた。


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