千三百十五話 源左サシィとレン・サキナガ

 ソウゲンさんたちと、広い天守閣を見学しながら進む。

 百十平米は有に超えているか。

 左側の素材は、殆どが崖や岩を削ってできていると分かる。

 木材もあるはず、だが、境目がどこか分からない。


 <闇透纏視>を使っているが、魔素の巡りも少しオカシイ。

 ぼんやりと霧状の魔素が点々と感じ見えるだけか。


 結界的な物が、天井だけでなく、この空間には展開されているんだろう。

 <闇透纏視>と似た<透視>系統の対策は取られてあるようだ。


 【レン・サキナガの峰閣砦】の建物は山か崖にもたせかける造りだったが、内部の構造は想像をはるかに超えている。


 床は薄い黄土色が殆どで、琥珀的な色合い。

 天井はかなり高い。

 殆どが木材と予想するが……未知の素材かな。


 その天井だが……。

 浮き彫りの火の玉の群れに、無数の鯉のぼりと……卍崩し組み子と、巨大な龍とドラゴンの意匠が見事すぎる。


 無数の火の玉が、鯉を喰らいつつ、卍崩し組み子の道を進んで、赤黒い眼球の龍とドラゴンと対決しているような……そんな印象だ。


 多種多様な火の玉が魔族を意味するなら卍崩し組み子が、その魔族の人生を表している?


 もしそうなら、ある種の民族的な家系図、樹状図にも見えるかも知れない。


 そう考えると非常に芸術性の高い天井画。

 皆も見上げながら感心するように僅かな声を洩らしていた。

 

 隣を歩くヴィーネが、


「天井の模様は芸術性が高いですね、そして、この上の階にレンがいると思いますが、魔素はまったく感知できません。その代わり、左右のレン家の武者と、他の方々の魔素は丸わかりですが……」

「あぁ、確かに」


 皆も頷く。


「レンも小豪族ってより諸侯のような存在だ。強力な結界を持つのは当然か」

「はい、先ほどの壁も特異空間術式の応用でしょう」


 ソウゲン隊長が、頷いて、


「天守閣一階の天井には対魔法防御のアイテムが設置されています。〝魔吸陰龍クィンベルの大鱗〟と〝魔霊大竜ゴィルサンサの赤眼〟が嵌まっています」

「「おぉ」」

「詳しくは分かりかねますが、巨大な龍とドラゴンの素材を活かした魔法防御アイテムなのですね」

「はい、そうです」


 とソウゲン隊長が肯定。

 ミトとハットリとシバ隊長も同意するように頷いている。

 すると、サシィが、


「……わたしの源左砦と奥座敷にも結界は敷いていたが、お粗末過ぎた。レンのほうが優れている……」


 といじけるように喋る。

 少し動揺しているようだ。

 

「……源左砦と奥座敷は、内部に裏切り者が多数いた状況だったから当然だろう。タチバナのこともある」


 とフォローしたが、


「あぁ……それはそうだが……」


 レン家の規模が大きく感じるんだろう。

 環境の差でしかないと思うがな、アウェー感ってやつだろう。

 そのサシィに、


「レンは源左を裏切ったと聞いているが」

「うむ、レン・サキナガ、わたしの父の代の時には、サキナガ・レンと名乗っていた。ベルトアンとの戦で活躍した。タチバナとバシュウの間で揉めると、マーマインとの戦があるのに、父を裏切ったのだ……」


 サシィの語りを聞いていたソウゲン隊長とシバ隊長が、少しサシィを睨んだ。

 一瞬、剣呑の間となる。

 サシィもキッと怒ったような表情を見せるが、直ぐに冷静に、


「……レンの背後には、源左から離脱していた様々な知恵者……大魔商。闇商人や魔商人とも呼ばれている【闇商人連合】がいたということだ。その者たちが、父の代の以前からレン・サキナガに力を貸していたからこそ……大胆不敵にサキナガの手勢は【源左サシィの槍斧ヶ丘】から一気に退けたのだ。そのお陰で、父はマーマインから挟撃を受け討ち死にしてしまった。そんなレン・サキナガだからな……様々・・な、魔法アイテムを持つのは当然と言える」


 と語るがソウゲン隊長とシバ隊長と、ミトとハットリは顔色を変える。

 ソウゲンは、


「……サシィ殿はレン様を誤解しておられるようだ」

「なんだと……」


 サシィは怒気を顕わにした。

 シバ隊長も呼応するように体から魔力を発した。

 

 サシィも<血魔力>も体から噴出させている。

 両者武闘派なだけに、魔斧槍を振るい合ってもおかしくない。


「……待った、源左の立場なら怒るのは分かる。が、今は冷静に」

「分かっている!」


 まだ怒りは収まらないか。

 エヴァが直ぐにサシィに寄って手を当てていた。

 サシィは少し落ち着いた調子となった。


 ソウゲンたちに、


「少しゆっくりとここを進みましょう」

「はい」


 と歩き始めた。


「ん、階段までは結構ある」

「……左右のお爺ちゃんとお婆ちゃんが気になります」

「ん、わたしも気になってた」

「書類整理の仕事を任された役人たちでしょうか……」


 と皆が語る左右を見て回る。

 

 左右には、花暖簾で仕切られた空間があり、畳が敷かれてある。

 木製の階段もあり、その最上段の高台はバルコニー的だった。

 そこから広場を歩く俺たちを見下ろしている老人たちもいる。


 レン・サキナガがいる場所ではないが、あの老人たちもレン家の方々か。

 お年寄りたちも元は、源左の一族だと思うが、違うのかな。


 二階の畳には、様々な物が置かれたちゃぶ台があり、回りには座布団も用意されていた。そこにはお爺さんとお婆さんたちと魔猫が多い。

 ちゃぶ台の上には、花瓶、茶碗、書道道具、お皿に載せられた蜜柑と柿と似た果実とせんべいのようなお菓子が重ねて置いてあった。

 そして、魔力を有した筆で和紙に文字を書いている方々がいる。

 茶碗を口に運んでいるお爺さんとお婆さんたちも多い。

 

 人数にしたら五十人以上か。


 そのお爺ちゃんとお婆ちゃんの頭上には、火の玉のような魔力の炎が幾つも発生していて、時折、火の玉を、己の茶碗に入れて飲んでいる。

 更に『煉』、『場』、『功』、『安』、『全』、『強』、『黒』、『猫』などの日本語が魔力で生成されるように浮かんでいた。


 そのお爺ちゃんとお婆ちゃんたちは、お茶を飲みながら、俺たちを見ているが、特に気にしていない。


「不思議です♪」

「書道具に習字は閣下から教えてもらいましたが、閣下のような仙大筆ではないですね、筆は小さいです」

「あぁ、独自の習字文化がある」

「「「はい」」」

「重騎士たちの背後にいるお年寄りの方々は、魔術師たちでもあるようです」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんたちのカキカキ軍団でフルーツ大好き婆と爺ちゃん~」


 イモリザの言い方がなんとも言えない。


「まったり中~?」

「はい、たぶんそうでしょう」


 すると、前方で歩くソウゲンさん隊長たちが歩みを止めて振り返る。


「【煉極組】の<煉丹闘法>の研究者たちです。様々な知見を持つ経験者たちですよ。体力が落ちてますが、智恵は宝ですからな」

「へぇ」

「研究者たちですか」


 そのまま広い【レン・サキナガの峰閣砦】の天守閣の内部を進み階段に近付いた。

 すると、侍のような黒と赤紫の甲冑を着ている者が階段の前に立つ。


 斧槍を斜めに上げてクロスする。階段を塞ぐ。

 ゴツい侍のような方々は重装備。

 近衛兵、親衛隊、近習、近習出頭人のような立場かな。


 黒鳩連隊隊長ソウゲンは、その侍のような方々に向け、


「峰閣守衛隊の皆、レン様は大楼閣か?」

「「「……」」」」

 

 黒と赤紫の和風甲冑が似合う方々の名は峰閣守衛隊か。

 峰閣守衛隊の面々は微動だにせず沈黙を続けた。顔は面頬で守られている。

 双眸の色合いぐらいしか分からない。

 

 すると、ミトとハットリが前に出たが、黒騎虎銃隊隊長シバが、その行動を片腕で止める。そのまま黒騎虎銃隊隊長シバが前に出て、


「――背後の方々は、我らの恩人であり、大事なお客。そして、我らも急な話がレン様にあるのだ。急いでレン様に取り次いでもらいたい」


 と発言した。峰閣守衛隊の隊員たちが面頬を見合わせるように視線を合わせてから少しボソボソと話し合う。

 すると、右肩の防具が鬼瓦のような形となっている方が前に出た。

 峰閣守衛隊の隊長格かな。


 その隊長格が、


「……レン様は、まだ地下からお戻りになっていない」


 と発言。

 ソウゲン隊長は頷く。


「……地下……か……」


 と発言しつつシバ隊長と、ミトとハットリを見る。

 シバ隊長は、


「【レン家の宝廟】の罠が作動した影響か」

「あぁ、その罠を作動させた存在と直に相対するつもりなのだろう」

「毎回だが、盗賊は、相当な手練れのはず」

「泳がせておいたとはいえ、【レン家の宝廟】に辿り着くのは並大抵ではない」


 シバ隊長とソウゲン隊長が語る。

 すると、列車が走っているような機械音と重低音が連続的に響く。

 同時に、天井の表面が揺らぐと、その天井の模様の一部ががらりと変化した。

 浮き彫り状の、火の玉と鯉のぼりと龍とドラゴンは変わらず。

 

「閣下、この重低音は下から何かが到着し、合体した音でしょうか。そして、天井の模様が変化しました。結界の作用が変化したようです」

「あぁ、そうだろうな」

 

 上の階層にいるだろう魔素は、掌握察で、一瞬感じられたが、直ぐに消えた。

 今は揺らいでいる感覚でしかない。

 ソウゲン隊長とシバ隊長に、レンとハットリは、頷き合う。

 峰閣守衛隊の隊長格が、


「レン様たちが戻られたようです。では、ソウゲン隊長とシバ隊長と、皆様方、今確認してきますので少々お待ちを」

「分かった」


 ソウゲン隊長に会釈した峰閣守衛隊の隊長格は直ぐに身を翻し、階段を上がる。

 途中から急角度に曲がっている階段の先に上がると見えなくなった。


 と、直ぐに峰閣守衛隊の隊長格は階段を駆け下りてくる。


「――皆様、直ぐに階段を上がってください! レン様がお待ちです!」


 と、峰閣守衛隊の隊長格は階段を駆け下りながら語る。

 ソウゲン隊長とシバ隊長は俺を見た。


 そのソウゲン隊長が、


「シュウヤ様、このまま階段を上がった先が大楼閣です、そこにレン様が居られるはずなので、行きましょう」

「はい」


 皆と目配せしてから、ソウゲン隊長たちと共に階段を上がっていく。

 階段は、途中で壁に合わせてカーブする。

 上がりきると、そこもまた大広間、大楼閣という名らしいが……天井には巨大なプラネタリウム的なドームがある。

 と、天井ではなく大広間の中央を凝視、そこには長い黒髪の女性がいた。

 周囲に黒鳩連隊の面々もいるが、先ほど見た面々ではない。


 皆、かなりの強者か。

 散弾銃のような見た目の魔銃の攻撃は受けたくない。


 奥には太いワイヤーが目立つ円系のエレベーターがあった。

 あれで地下からこの、大楼閣という名の天守閣の最上階にきたようだ。

 

 中央にいる女性の見た目は他とは明らかに異なる装備品を身に付けている。一見は和風の鎧武者系統の素材だが……。


 和風の鎧と西洋風の防護服が融合した作りだ。

 胸には女性らしさをアピールする装甲もあった。


 関節は柔らかそうな素材だと分かる。

 近未来的だが、魔界セブドラらしさがある。

 

 黒タイツのような装備を着ている太股。

 カーボンナノチューブが使われていそうな印象だ。

 

 漆黒のムチムチ感が半端ない。


 まさにパネェ太股だ、エロい。

 あの太股に挟まれながらスイングDDTを喰らったら、あらゆる意味でヤヴァいだろう。


 そして、装備はどれも魔力が濃厚だ。その女性が、小走りに来る。

 と、速度を落とす。かなりの美人さんだ。

 美しい女性は俺たちを見据えて微笑む。

 が、目は笑っていない、小さい紅い唇が動いて、


「あら……分かっていたけれど、まさか、本当に源左サシィが此処に来るとはね……」


 と語ってきた。


「わたしも、その思いだレン・サキナガ。が、そんな想いは捨てる。ここに来た理由を単刀直入に言おう、和議だ」

「え?」

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