千三百一話 アミラとマルアの仙妖魔同士の繋がり

 女体化したアミラも皆に負けず劣らず美貌の持ち主だ。

 耳の長さはレベッカ的。額には紋章がある。

 長い黒髪で体付きは判別できないが……。

 甲冑から<血魔力>が溢れているから内部の体に<血魔力>を纏っていると分かる。甲冑の胸甲と両腕には小型のルシヴァルの紋章樹の意匠が施されてあった。隠陽の太極図の印もある。

 マルアと同様に、仙妖魔のアミラだからこそ光魔ルシヴァルと相性は良かったってことだろう。


 そのアミラに、


「短槍のアミラの魔槍具装甲にも戻れるのかな」

「はい、主――」


 長い黒髪が短髪化。

 細い項に短髪の横が斜めにカッティングエッジが施された先鋭的な髪形に変化。可愛く渋いと、そのユイ的な髪形は一瞬で見えなくなる。

 ――細い項や甲冑ごと潰れる音が響きまくる。

 とアミラの魔槍具装甲の短槍へと収縮された。その短槍が目の前に浮かぶ。

 肉や骨が多重に潰れる集約した音がなんとも言えなかったが、血が滴るとか、ホラーな出来事は起きていない。先ほどと、まったく同じ短槍のアミラの魔槍具装甲と成っていた。


 そのアミラの魔槍具装甲の柄を掴んで<握吸>を実行――。


「皆、少し短槍のアミラの魔槍具装甲を試す」

「「はい」」


 皆から少し離れて<豪閃>――。


 左足を前に出した半身の姿勢から、今度は右斜め前方に体を相対させるように<豪閃>を行う――そのまま体を横回転させてから動きを止めた。


 <握式・吸脱着>も実行――。

 すべての指をアミラの魔槍具装甲から離す。

 と、慣性で微かに落下するが、磁石に吸い寄せられるように掌の上に浮いた状態となる。アミラの魔槍具装甲の柄は落下しない。

 常温の超電導のような印象だが、直ぐに吸い寄せることも可能。

 

 即座に<握吸>を実行し、短槍のアミラの魔槍具装甲の柄を掴み直す。

 

 <豪閃>――。


 ――<握式・吸脱着>は持ち手の変更に便利だな。

 ――戦闘の際の持ち手の変更は重大だ。

 ――指が切断されて飛ぶなんて日常茶飯事だからな。

 

 上下からの切り返しもいい感じだ――。

 アミラの魔槍具装甲は結構軽い――。


 雷式ラ・ドオラや白蛇竜小神ゲン様の短槍と同じくかなり使いやすい。


 もう一度振ってから体重を下げて風槍流『焔突き』を実行――。

 少し前進しながら数回前方を突く――。

 ――良し、短い訓練はここまで。皆の下に戻った。


 アミラの魔槍具装甲に、


『姿を見せてくれ』


 と思念を送ってからアミラの魔槍具装甲を宙に放る。


 宙空で、アミラの魔槍具装甲は割れるように装甲部が分裂。

 その分裂した中身から黒い髪が大量にドバッと大放出。ホラーテイスト真っ盛り、とそれは一瞬で、黒い髪は女体を模ると、ゼロコンマ数秒も経たせず、仙妖魔の甲冑を身に着けた美しいアミラが目の前に誕生していた。長い黒髪が揺れる。

 黒い眉に切れ長の蒼い双眸がチラッと見えた。


「主――」


 とアミラは片膝の頭で地面を突く。

 長い黒髪がぶわっと自然と持ち上がって宙空でゆらゆらと揺れている。


「「「おぉ」」」

「「「「「おぉ」」」」」


 皆も驚く。その皆に、


「皆、見ての通り、<光魔ノ魔槍具・アミラ>という名のスキルを獲得した!」

「「にゃぉぉぉ」」


 頭を垂れているアミラの横に来た黒猫ロロ銀灰猫メトも大きく鳴いて、祝福してくれた。単に宙空に靡いている黒髪に戯れてるだけかも知れないが。


 と、その二匹はアミラの黒髪を、ネコグサを食べるようにかみかみしてから、頭部を振るって、その口に絡んでいた黒髪を払うと、アミラの片膝に頭部を寄せる。


「「「おめでとうございます!」」」

「ん、成功!」

「おめでとうございます!」


 ヴィーネたちは拍手。


「光魔ルシヴァルの宗主シュウヤ様は吸血神ルグナド様ではない。とビュシエ様から何回も聞いているが、吸血神様にしか見えないぞ……」

「新しい吸血神シュウヤ様と考えようか……」

「うん、シュウヤ様の足下に<血魔力>の血が神々しい花々が集結したように見えて素敵だった。仙妖魔の変身も不思議」

「あぁ、不思議な光景だったな」

「そうか? 血の眷属にするところはたしかに不思議で初めて見る光景だったが、仙妖魔の変身は普通だろう」

 

 初老の黒髪の魔族の発言だ。

 日本人の雰囲気がある。


「レン家のハットリさんは、この辺をあまり知らないようだな? 俺はマルアさんに助けられるまで、仙妖魔を見たことも聞いたこともなかったぜ」

「わたしも聞いたことがあったぐらいで見たことはなかった」

「ボクもない~」

「わたしも~」

「仙妖魔自体がこの地方では珍しいだろ」

「「はい」」

「うん」


 助けた魔族の方々がそれぞれに驚きながら語り合う。

 

「ブブゥゥ――」


 馬魔獣ベイルも興奮。


「陛下、新しい眷属の獲得、おめでとうございます!」


 光魔騎士グラドの発言に頷いた。


「おう」


 アミラと黒猫ロロ銀灰猫メトを見て、


「アミラ、君の足に頭部を擦り当てて甘えている黒猫は神獣でもあるんだ、名はロロディーヌ、愛称はロロ。そして、基本は今のように猫ちゃんだが、姿を大きなドラゴンやグリフォンの形へと自由に変化もできる。隣の銀灰色の猫の名はメト。皆からメトちゃんと呼ばれることが多い。大型の虎に変身が可能。聖魔術師ネヴィルの仮面と関係している異界の軍事貴族だ」

「はい! ロロちゃん様とメトちゃん様ですね、よろしくお願い致します!」


 黒猫ロロ銀灰猫メトは、


「ンン、にゃ」

「ンン――」


 喉声で返事をするとアミラは微笑む。


 と、そのアミラの片膝に頭部をまた寄せた。

 鳩が頭部を前後させるように、己の両頬を、膝の端とアミラの手に当て擦っていく。

 白髭が取れる勢いだ。前に何度もぽろぽろと落ちては、ミスティたちが拾っていたっけか。


『神獣様の白髭は実は貴重なのよね~』

『はい、ふふ』


 とかミスティたちは言っていたな。

 と勢いありすぎて前転し転げる黒猫ロロさんが、菊門を晒していた。

 面白い。

 銀灰猫メトはお淑やかにゆっくりと頬を擦る。性格が出て面白いな。


 と二匹は、首と胴体をもアミラの膝と脛の防具に当ててから動きを止めて、俺を見上げてきた。ドヤ顔だ。尻尾をおっ立てている。

 


 黒猫ロロは俺を見ながら、両太腿のふさふさな黒毛と、尻尾をアミラ側に擦り当てるように、ふるふる震わせていた。

 菊門もアミラに当てようとしている?

 アミラは動じず、微動だにしない。

 中々の勇気の持ち主だ。と笑ってしまう。

 

 黒猫ロロは直ぐに振り返り、またも頭部をアミラの片膝に当てて、そのままアミラの背のほうに移動し、アミラのお尻の辺りの匂いを嗅いでいる。


 銀灰猫メトも、


「ンン、にゃァ、にゃ」


 と黒猫ロロと猫会話しながらアミラのお尻の匂いを嗅いでいた。


 アミラは片膝で地面をついた状態を崩していないが……。

 俺に忠誠のポーズ取る姿勢で渋いままなんだが、回りの二匹の猫らしい行動がシュールすぎて思わず笑ってしまった。


 皆も「「ふふ」」と笑っている。


「ん、ロロちゃんたち、アミラの匂いは分かったでしょ、戻ってきて」

「ンン、にゃ~」

「ンンン――」


 エヴァに呼ばれた二匹はアミラから離れてエヴァに向かう。

 エヴァは魔導車椅子に座ったまま両手を拡げていた。


「ンン、にゃ~」

「ンン、にゃごぉ~」


 二匹は先を競うようにエヴァの懐に跳躍。

 エヴァの柔らかい太股に着地した二匹はイカ耳となって奪い合う。


「ん――」


 とそんな二匹を両手で抱きしめるエヴァが可愛すぎた。二匹も大人しくエヴァの両頬を舐めているし、可愛すぎ。

 心が温まったところで、アミラに視線を戻した。


 とナロミヴァスが頭を上げて、


「閣下、〝悪夢ノ赤霊衣環〟の事変に続いて、新しき眷属の獲得、おめでとうございます!」

「「おめでとうございます!」」


 闇の悪夢アンブルサンと流觴りゅうしょうの神狩手アポルアも合わせてきた。


「おう」


 ナロミヴァスは、俺の挨拶に合わせて会釈してから、


「我らは、閣下の<血魔力>の妙技に……心底、肺腑はいふく想いです!」


 と渋い声で発言。

 流觴りゅうしょうの神狩手アポルアと闇の悪夢アンブルサンも、


「「――偉大なる我らの閣下の御業!」」


 と頭を深く垂れながらハモっていた。

 すると、その三人にヘルメが水を振りかけて、


「――素晴らしい忠誠ですね。そして、アポルアとアンブルサンにも閣下の<血魔力>が入っていると分かります。閣下、<筆頭従者長選ばれし眷属>か<従者長>でしょうか」


 と発言していた。


「そうだな、既に眷属は眷属だが、更に俺の血を得てもらうとしよう。今度と成るが<筆頭従者長選ばれし眷属>か<従者長>になってもらうか」

「「「はい」」」


 ナロミヴァスは公爵家としてサーマリア王国に戻った際に血文字が使えたほうがいい。

 

 【天凛の月】の副長メルでヴェロニカの<筆頭従者>。

 【天凛の月】の最高幹部のヴェロニカの<筆頭従者>のベネット。

 【天凛の月】の最高幹部の、俺の<筆頭従者長選ばれし眷属>のヴェロニカと、サイデイルの女王キッシュの<筆頭従者長選ばれし眷属>と、紅虎の嵐のサラ、ベリーズ、ルシェル、血獣隊のママニ、ビア、サザー、フーの<従者長>組は、ペルネーテをよく知る者たちだ。彼女たちと連絡を自由に取れたほうがペルネーテと王都グロムハイムで色々と動き易くなるだろう。

 アポルアとアンブルサンも血文字が使えれば、ナロミヴァスの配下か同僚として、高度な任務に就くことは可能なはず。が、それは〝炎幻の四腕〟のサーマリア王国絡みと同じく追い追いか。


 今は【テーバロンテの王婆旧宮】を目指す。バーヴァイ地方の安寧が先だ。


 アミラを見て、「アミラ立ってくれ」


「はい」


 立ち上がったアミラは重装騎士に見える。

 身長もヴィーネぐらいはある。

 

 すると、マルアが、


「デュラート・シュウヤ様! やはり、アミラはわたしと同じ仙妖魔の血を引いているのですよね?」


 頷いた。

 そして、貂の言葉を思い出す。


『はい、誉れある神界から堕ちた仙王家と仙王鼬族の仙人と仙女、それを仙妖魔と呼ぶのです。そして、仙妖魔には仙人の一族だけでなく仙女の一族も多い』

『仙女? マルアは、貂と沙と羅と同じような神界の種族だったと?』

『そうです。光魔ルシヴァルの血を得ながらも、デュラートの秘剣から出た黒髪の能力は無傷。それが何よりの証拠』


 アミラの加入は、ハーヴァイ城にいるテンたちも驚くかな。その思いで、マルアに、


「……たぶん、アミラは仙妖魔だと思う」


 アミラは頷く。

 マルアは、その頷きを見て、にっこり。そして、

 

「ふふ、では、アミラにもルシヴァルの紋章樹が刻まれているのですね!!」


 と元気なマルアは、嬉しそうに――。

 長い黒髪を操作しつつ頭部を前に出す。


 床屋で、頭を洗ってもらうような印象で、己の項を晒すと、黒髪を自然に持ち上げて、背に長い黒髪をサラサラと靡かせながら、細い腕を俺たちに見せた。

 

 前腕、肘、二の腕、などの部位ごとに光魔ルシヴァルと分かる陰陽の印と、ルシヴァルの紋章樹が刻まれていた。「ふふ、光魔ルシヴァルの一族の証し。後、自由に消すこともできます」と発言すると点滅させたり、出現させたりと、クリスマスツリーのような飾りをルシヴァルの紋章樹に付けたバージョンも出現させていた。面白く綺麗だった。


 そのマルアの印を見てから、アミラを見て、


「アミラ、腕を見せてくれるか?」

「はい、わたしも――」


 とアミラは黒髪を少し縮めて両腕を晒す。

 両ポールドロンとラメラーとリベット付き肘当てミトンガントレットなどのガチガチに固められているが、その腕防具の一部が短槍の柄に変化。


 更にアミラのポールドロンと肘当てに前腕ガントレットに付随するベルトが剥がれ、胸と脇の装甲が剥がれ、ギャベソンと似た防護服も消えて素肌が見えたが、一瞬で見えなくなった。

 剥がれた素材は溶け合いながら新しい防具を形成しつつも同時に、短槍のアミラの魔槍具装甲にも変化を遂げた。

 

「「「おぉ」」」


 これには、俺もだが、皆も驚く。

 アミラの魔槍具装甲の名通りか。

 重装騎士の見た目から、軽装まではいかないが、動き易そうなスタイルに変化していた。


 軽装で両腕には、素肌も見える。

 前腕と肘と二の腕にかけてルシヴァルの紋章樹の印が刻まれていた。


「ありました! わたしと同じ!」

「はい、仙妖魔の血を引いた一族です。嘗ては神界セウロスの仙鼬籬せんゆりの森に棲まう仙女の種族だったと怖い母と父から聞きました。そして、わたしたちは、ここの土地は……昔とは異なるようですね、当時は、【グンラドの岩戸】に【フォンの黒大渦】という名の土地だったはず。そして、そこで鬼トウガン族の四腕魔族と戦っていました。頭が左右に割れている種族で強かった……特に二段階目の大鬼トウガンと、巨大鬼トウガンに進化した四腕魔族には勝つことは至難で、わたしは最期に……巨大鬼トウガンの心臓を穿ち封じるため<仙妖・大穿刺>と<仙妖・蠱毒>に<仙妖・雅石化>を用いました」

「ん、同じ」


 エヴァは頷いた。

 エヴァが見た記憶と一致するんだろう。

 アミラは不思議そうにエヴァを見てから、笑顔となって、マルアに視線を向ける。


 そして、


「マルアさんよろしくお願い致します」

「うん、わたしは、マルアでいいから、アミラもよろしく!」

「はい、マルア!」


 二人は抱き合う。

 黒髪が絡み合っていた。

 面白い仙妖魔同士の繋がりだから可能なハグの仕方。

 愛の交換の仕方か。


 良し、アミラに、


「アミラ、短槍の名は魔槍具装甲?」

「はい、魔槍具装甲です。短槍を基軸に重装備を固めることも可能です。今のように軽装もできます。主のアミラの魔槍具装甲としての運用も可能です」

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