千二百九十八話 円樹鍛冶宝具の真実

 四眼四腕の魔族の石板が守護者ラレス。

 円樹鍛冶宝具の守護者か。


 幼ドラゴンの頭蓋骨に火の魔宝石に植物の葉を含めての守護者なんだろうか。


 そして、俺たちと同じ言語だからコミュニケーションは楽。

 エヴァは骨の足を晒したまま浮遊している。

 骨の足の魔印は、まだ少し輝いていた。

 そのエヴァとアイコンタクト。

 エヴァは頷いて、黒曜石と銀の粒が混ざっているような綺麗なインゴットを回収せず、少し前に浮遊して、ぺこりと守護者ラレスに頭を下げてから、


「ん、初めまして、守護者ラレス、わたしの名はエヴァです」

「にゃ」

「ンン、にゃァ」


 と相棒と銀灰猫メトも自己紹介を行うように挨拶。


 円樹鍛冶宝具の守護者ラレスはエヴァと黒虎ロロ銀灰虎メトを見て、


「ふむ、エヴァか。その骨の足で、大敵、魔公爵フォンマリオンが繰り出した〝フォンの黒大渦こくだいか〟を溶かしてくれたのだな?」

「ん、はい。わたしが溶かしていた黒い鉱脈の名が〝フォンの黒大渦〟というのですね」


 とエヴァが質問。


 その間に周囲を見渡した。

 石板と石板から出現している守護者ラレス。

 その背後に、樹と岩と土で土俵のような円墳があり、その中心の小さく盛った頂点にぽつねんとした植物が生えている。近くにドラゴンの頭蓋骨と葉は浮いたまま。


 守護者ラレスは、


「そうだ……黒い鉱脈の元が〝フォンの黒大渦〟と言える……今は、未知の黒い鉱脈だろう……」


 と発言しては、また周囲を見て、


「……かなりの時間が経っているようだ。【グンラドの岩戸】だと思うが、洞穴とは……」


 と驚いている。【グンラドの岩戸】?

 発音は確かで、見るという意識があるようだ。


 石板の中から、此方を見ている視界なのかも知れないな。

 エヴァは、


「ん、ここの地下の洞穴には、頭が割れていた大柄モンスターの心臓部があった。あ、最初はただの溝で、シュウヤが広げたの、そして、その心臓部にアミラの魔槍具装甲が突き刺さっていて、長く封印されていた。シュウヤが、そのアミラの魔槍具装甲を抜いたら、エメラルドグリーンの心臓部が消えて、真下に洞穴の、ここの地下の層が現れた。ここには頭が割れたモンスターが大量にいたけど、ぜんぶ倒して、地面を調べていたら黒い鉱脈の〝フォンの黒大渦〟があったから……わたしが、<金属融解>と<金属精錬>使って、銀粒のようなキラキラとした物が入っている黒いインゴットにしたの、でも、黒い鉱脈を溶かしていくうちに……あれ? って、円樹鍛冶宝具の植物と、石板に、ドラゴンの頭蓋骨に葉を見つけて、変なの見つけた! って思わず皆に叫んでいた」


 ヘルメとエトアと共に頷く。


 エヴァは少し鼻の孔が大きくなって一生懸命に説明していた。

 可愛い。


「にゃ~、にゃお~」

「にゃ、にゃ」


 黒豹ロロは黒猫の姿に戻る。

 銀灰虎メトも銀灰の猫に戻って鳴いていた。


「……頭が割れたモンスターの心臓部にアミラの魔装具装甲? 分からぬ」


 守護者ラレスは頭が割れたモンスターとアミラの魔装具装甲には関係ないのか?


 エヴァも俺を見て、頷く。

 

 アミラの魔装具装甲を触って見た記憶には、守護者ラレスと円樹鍛冶宝具は登場しなかったようだ。

 守護者ラレスは、


「エヴァ、そなたに礼を言おう、我と円樹鍛冶宝具は助かった。後、数百年フォンの黒大渦に閉じ込められていたならば、我らは〝傀儡鋼の万年神器〟に変成していただろう……」


 〝傀儡鋼の万年神器〟?


「ん、助かって良かったです」

「ふむ」


 守護者ラレスさんに、


「質問があります。宜しいですか?」


 と聞くと、守護者ラレスさんの幻影は俺を見て、


「なんだ」


 頷いて、


「円樹鍛冶宝具と、黒い鉱脈に変化する前の〝フォンの黒大渦こくだいか〟と〝傀儡鋼の万年神器〟とはなんですか?」

「円樹鍛冶宝具とは、大魔術師ドモンシックス様が造り上げた秘宝」

「大魔術師ドモンシックス様ですか。知らない名です。大魔術師ケンダーヴァルなら知っていますが」

「……ケンダーヴァル……ふむ」


 守護者ラレスは少し動揺したように幻影が揺れた。

 知り合いか。ならば相当古いのか。

 同時に大魔術師ケンダーヴァルとは何者だよ。


 守護者ラレスは、


「……ドモンシックス様……魔力は尽きているのですな……哀しいかな……が、シュウヤとエヴァよ、円樹鍛冶宝具の続きを説明するが、よろしいか」


 と発言。頷いて、


「はい、お願いします」

「……円樹鍛冶宝具を使用した土地に、幼霊高古代竜ハイエンシェント・ドラゴニアソロリハの頭蓋霊骨とモルダーン金剛魔霊樹の葉の魔力とドモンシックス様の魔力が流れ込み、土地を豊かにする。だが、様々な霊体系の存在を呼び寄せるといったリスクもある」


 土地を豊かにするが、様々な霊体系を……。


「が、そのリスクも使い方次第。円樹鍛冶宝具の中心に成長するだろう金剛大樹鎔鉱炉では、様々な鍛冶に製錬が可能となる。そして、この円樹鍛冶宝具を造ったのは、我の創造主、大魔術師ドモンシックス様とモグロトモエだ」


 大魔術師ドモンシックスとモグロトモエか。

 喪黒智恵さんだったら元、日本人かも知れない。

 源左の一族のような魔界セブドラに転移してきた古代日本の一族かも知れない。


 守護者ラレスは、


「〝フォンの黒大渦〟とは、ドモンシックス様と敵対していた魔公爵フォンマリオンが用いた術式攻撃で、〝傀儡鋼の万年神器〟を造るための攻撃でもあるのだ……」

「……〝傀儡鋼の万年神器〟を造るための〝フォンの黒大渦〟……」


 その〝フォンの黒大渦〟を喰らったってことは、〝傀儡鋼の万年神器〟のための素材が、守護者ラレスと円樹鍛冶宝具なのか。


 守護者ラレスは、


「〝傀儡鋼の万年神器〟とは、傀儡兵の器、活力源、鍛冶道具、呪術道具、依代など様々に活用できる秘宝の一つ。大本は、古の魔皇マルタンの術式の一つとされているが、定かではない。その〝傀儡鋼の万年神器〟は、スキルの<魔皇衛士召喚>のようなことも可能なのだ。しかも、そのスキルと違って大量の生贄と魔力消費が必要ない、僅かな魔力消費だけで、己の眷属兵と傀儡兵を大量に生成できる。しかも、何回でも使用可能。己に強さがあれば、〝傀儡鋼の万年神器〟を使えば諸侯にのし上がれることは容易だろう」

「へぇ」

「ん」

「……なるほど、守護者ラレスと円樹鍛冶宝具は、当時敵対していた魔公爵フォンマリオンに〝傀儡鋼の万年神器〟にされかけたのですね」


 ヘルメの発言に守護者ラレスは頷く。


「その通り、生成には時間を要するが」

「ん、敵対していた魔公爵フォンマリオンと、大魔術師ドモンシックスとの戦いの結果は?」

「うむ、我の主人は……」


 〝フォンの黒大渦こくだいか〟に生き埋めにされた石板となっている守護者ラレスと円樹鍛冶宝具が、ここにあるのが答えか……。


 と、守護者ラレスの幻影は少し霞む。

 背後の石板の一部が崩れた。

 守護者ラレスは、


「……そうだ。大魔術師ドモンシックス様は、魔公爵フォンマリオンに負けたことは確実。そして、魔公爵フォンマリオンが魔界の世を今も生きているのなら……当然、仕込みの失敗を知ったはず……」


 エヴァとヘルメは俺を見た。


「ここに魔公爵フォンマリオンとやらが確認にやってくる可能性がある?」

「ある。しかし、ここは【グンラドの岩戸】ではないのだな」


 守護者ラレスは見上げながら語るが、ここは【グンラドの岩戸】ではない。


「先ほど、エヴァが、今の状況を説明しましたが、もう一度、説明しますが、いいですか?」

「ふむ、我には時間がないが……いいだろう」

「ここの真上の土地は【古バーヴァイ族の集落跡】の範疇の【赤霊ノ溝】という土地、その地底の層が、ここ。上の階層の通路の先には、夢の女王ベラホズマ様の巨大な神像が置かれてあった地下祭壇がありました」


 守護者ラレスは、


「魔神バーヴァイなら知っているが、赤霊ノ溝と悪夢の女王ベラホズマは知らぬ……」


 頷いて、守護者ラレスに、アミラの魔装具装甲を見せる。


「この、アミラの魔槍具装甲を聞いたことは?」

「ない」


 守護者ラレスの幻影は薄まると背後の石板ごと破裂して消滅した。

 同時に円樹鍛冶宝具の魔力も大半が消える。

 円樹鍛冶宝具の土俵のような樹の環は縮みながら中心の植物にくっ付いて硬直。

 幼霊高古代竜ハイエンシェント・ドラゴニアソロリハの頭蓋霊骨とモルダーン金剛魔霊樹の葉も、その円樹鍛冶宝具に寄り添うようにくっ付いて硬直化。

 苗木のような見た目となった。

 盆栽的と言えるかも知れない。

 これはミスティたちへのお土産だな。

 エヴァも、


「ん、これは回収して、セラに帰還した時に、ミスティたちに見せる。それか、ミスティに魔界にきてもらう?」

「おう、そうだな。どちらにせよ、エヴァが持っとくといい」

「ん」


 エヴァはポーチ型のアイテムボックスに硬直化している円樹鍛冶宝具を入れた。


 さて、上に戻るか。

 ヴィーネに、


『今から戻る。アミラの魔槍具装甲を入手し、ミスティかクナか、お土産になりそうな円樹鍛冶宝具も入手した。魔公爵フォンマリオンってのが、その円樹鍛冶宝具との絡みで、襲撃を掛けてくるかもだ』

『はい、待ってます』


 相棒は、少しだけ大きい神獣ロロディーヌに変身。


「ンン、にゃ~」

「にゃァァ」


 銀灰猫メトは俺の肩に乗ってきた。


「皆、戻ろうか、そして、上で〝煉霊攝の黒衣〟を試すかな」

「ん、分かった」

「はいでしゅ、戻りましょう~」

「はい! 〝黒衣の王〟の装備でスキルをゲットですね!」

「おう」


 アミラの魔槍具装甲と金漠の悪夢槍の確認もあるが、それは後でいいだろう。マルアにも見せたい。


「ひゃぁ~」 


 神獣ロロはエトアの体を触手で絡めて、頭部に乗せてから、


「ンンン――」


 と、先に上昇した。

 その神獣ロロの菊門さんを見て笑う。


 ヘルメは「ふふ、では、閣下、先に――」と、華麗に跳躍。


 宙空で水飛沫を周囲に散らしつつ飛翔していく。


 さて、「にゃァァ~」と肩にいる銀灰猫メトの可愛い息吹を感じながらエヴァとアイコンタクト――。


 <武行氣>で一気に上昇――。


 溝だった最初の孔は――。

 <血鎖の饗宴>で破壊されている。

 地下祭壇のほうから濃密な血の匂いが漂うが、出入り口は此方――。


 一気に飛翔し地上に戻ってきた。


「ご主人様!」


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