千二百九十六話 夜行光鬼槍卿


 ここでまた視界が変化。

 ソー師匠が無覇と夢槍を扱いつつ雷炎槍エフィルマゾルを扱うシュリ師匠と戦っている。


 戦いはほぼ互角か。

 互いの得物を交換するぐらいの激しい打ち合いから組み手の戦い。

 両腕と連動した柄の打撃と――。

 両足から繰り出される絶妙な蹴り――。

 腰と肩を相手に衝突させる打撃と得物の長さを活かす<刺突>の応酬。

 妙神槍流と雷炎槍流の妙技が刹那の間に連続的に決まる。

 

 参考になるが、その参考を上回る質の高いスキルが繰り出されるから情報が追いつかない。

 二人の槍の達人から生き物の多様性を表しているように妙技が連発された。


 今もシュリ師匠はソー師匠の無覇と夢槍の連続突きを僅かなスウェーイングと横に三十㎝~五㎝体をずらす細かな機動を数回行い避ける。

 体から雷炎が発生している。

 と、その避ける機動から蹴りの反撃。

 ソー師匠は前蹴りを得物で受けず左足裏で受ける。

 二人は何かを語ると、得物を突き出す。

 互いの得物は弾かれた。

 ソー師匠は前進し、夢槍を餌にしたようなフェイクから無覇を突き出すと、シュリ師匠はソー師匠の動きに少し遅れた動きから後方宙返り。


 隙があるか?

 とシュリ師匠は宙空から<豪閃>のような攻撃を繰り出した。

 追い掛けていたソー師匠は驚いて無覇と夢槍を振り上げた。

 二つの螻蛄首けらくびで雷炎槍エフィルマゾルの突きのような薙ぎの攻撃を防ぐ。


 とソー師匠は側面に移動し、シュリ師匠の胴を狙う。


 それを読んでいたシュリ師匠は体を海老反りに傾け、無覇の胴払いを避ける。

 シュリ師匠の美しいスタイルが露呈。


 続けざまの夢槍の一閃も軽い一回捻りの跳躍で避けたシュリ師匠は宙空から雷炎槍エフィルマゾルを振るう。


 ソー師匠は無覇でその払いを受けた。

 シュリ師匠は着地際に、水面蹴りを繰り出す。

 ソー師匠は夢槍の石突で石畳の床を突き体を持ち上げ水面蹴りを避けた。

 夢槍とシュリ師匠の水面蹴りが衝突――蹴られた夢槍は斜めに持ち上がるがソー師匠は既に着地済み、右腕がブレる程度の攻撃に終わる。


 シュリ師匠は構わず、立ち上がり身を捻りながら雷炎槍エフィルマゾルを突き出す<雷炎穿>を繰り出した。


 ソー師匠の右脇腹を掠った。

 と同時にシュリ師匠の右肩に無覇の<刺突>系の攻撃が掠る。


「――くっ」

「――痛いじゃない!」


 シュリ師匠は叫ぶと無覇の槍の柄を左手で掴んで、手前に引っ張りながら前進――。

 雷炎槍エフィルマゾルの柄を掌の中で滑らせ短く持ち直しながら、その雷炎槍エフィルマゾルでソー師匠の胸に狙う<雷炎穿>を繰り出した。


 ソー師匠は夢槍の柄を盾代わりに斜めに出す。

 シュリ師匠の体重が乗ったような雷炎槍エフィルマゾルの一撃を柄で防ぐ。

 

 シュリ師匠の勢いに押されたが凌ぎきった。


 ソー師匠は反撃に下から無覇の石突を突き出した。

 シュリ師匠は、そのショートアッパーのような軌道の突きを避けた。

 が、直ぐにシュリ師匠の足下を夢槍で狙うソー師匠。


 妙神槍流は巧みだ。

 シュリ師匠は横に移動し――足下の攻撃を避けた。

 直ぐに無覇の一閃がシュリ師匠の頭部に迫った。


 シュリ師匠は雷炎槍エフィルマゾルで受けず半身で後退、そのまま体を横回転させて爪先半回転のような技術を実行し、横へと移動を繰り返して雷炎槍エフィルマゾルを華麗に振るう。


 雷炎槍エフィルマゾルは撓るようにソー師匠の腹に向かう。

 ソー師匠は無覇を縦に構えて、雷炎槍エフィルマゾルの一閃を防いだ。


 と、雷炎槍エフィルマゾルの穂先を防いでいる無覇の柄にシュリ師匠の前蹴りが決まる。

 体勢を崩したように見えたソー師匠は夢槍で体を支えながら左回し下段蹴りの反撃。


 シュリ師匠の出足を捉えたかに見えたが、シュリ師匠はそれを読み、前転からの踵落としを繰り出していた。


 目を見張るソー師匠は、


「くっ」


 と言いながらも無覇を傾け踵落としを防ぐ。

 続けざまに連続蹴りを宙空から繰り出すシュリ師匠。


 連続蹴りを喰らったソー師匠は、後退しながら五月雨の如くの蹴りと石突の打撃の攻撃を無覇と夢槍で受け続けて、後退を続ける。

 

 ソー師匠は負けるか?

 と、チャンスを窺う?

 そのソー師匠は夢槍を下から突き出す。


 シュリ師匠は雷炎槍エフィルマゾルを盾にして、その鋭い夢槍の<刺突>を受けて後方宙返り。


 ソー師匠は即座に前進し――。

 着地際のシュリ師匠との間合いを槍圏内としたところで無覇と夢槍のダブルの<刺突>を繰り出す。


 シュリ師匠は、両手持ちの雷炎槍エフィルマゾルを回し、体を横回転させながら背中に回していた雷炎槍エフィルマゾルで、見事に無覇と夢槍のダブル<刺突>を華麗に弾きながら側面に移動していた。


 凄い。


 そんな戦いの途中で二つの魔槍が飛来――。

 無覇と夢槍と雷炎槍エフィルマゾルに魔槍が衝突。


「――な!?」

「え?」


 戦いは中断された。


「――そこまでじゃ!」


 と渋い声を響かせながら魔槍に乗って登場したのは顎髭が長い仙人のようなお爺さん。

 ひょんっと魔槍を蹴って石畳に着地した。

 和洋折衷の衣装と佇まいから端然さを醸し出す。

 同時に飛怪槍のグラド師匠の声の主だと直ぐに理解した。


 戦っていたソー師匠とシュリ師匠は退いた。

 ソー師匠は妙神槍流を崩していない。

 端整な顔立ちのソー師匠は顎髭が増えて今の顔立ちに似てきている。シュリ師匠も楽しそうな表情のまま。

 

 相当昔の頃だと思うが、今と大差なく美しい。

 

 ソー師匠は飛怪槍のグラド師匠を見て、


「――魔槍を投げたのは、爺か?」

「頭目、なんで止めるの!」

「カカカッ、落ち着けシュリ。そして、そこの青年、済まぬな、わしが投げた物だ」

「なぜ戦いを止める……襲い掛かってきたのはそこの女だぜ? 爺さんも仲間なのだろう?」

「ふむ、その通りわしとシュリは夜行ルグファントの一党だ。シュリの手出しだが、この【宵山ルグファント断崖】はわしらの縄張りだったからだ。が、それは此方の建前、戦いを仕掛けて、すまなんだ」


 飛怪槍のグラド師匠は落ち着いた物言いだ。

 ソー師匠は、グラド師匠とシュリ師匠を見て、無覇と夢槍を下ろした。穂先が石畳に触れる。


「……」

「話を聞いてもらえてありがたい。そして、凄腕の二槍使いの名を聞こうか」

「……オレはソーだ。爺さんと女の槍使いの名を聞かせてくれ」

「わしはグラド、朱色の髪の槍使いの名はシュリじゃ」

「……グラドにシュリ……」

「うん。ソーっていうんだ。でも、頭目が話しかけたってことは、まさか……」

「ふむ、そのまさかだ。ソーとやら、儂たちの仲間に加わらんか?」

「え?」


 いきなりの誘いに驚いているソー師匠――。

 夜行ルグファントの一党か……。


 と、視界は現実世界に元通り――。


 腰ベルトの右腰付近にぶら下がる魔軍夜行ノ槍業から魔界の世に出たソー師匠の手足は本物で、それ以外の体は幻影だ。


 本物の手足は、先ほどのソー師匠の記憶に登場していた本人の手足と完全に一致する。


 四肢から紫色と銀色の魔力を噴出させる。


 幻影の体と四肢に、その紫色と銀色の魔力、通称、紫銀の魔力を纏いながら赤武者四腕魔族に近付き相対した。


 ゼロコンマ数秒、ソー師匠と赤武者四腕魔族は見合う。

 

 ソー師匠は余裕の構えを示すように右手に持つ無覇の穂先の角度を下げて左手が持つ夢槍の穂先を上げる。

 

 二槍の妙神槍流の構えと歩法は宙空だろうと変わらない。

 <握把法>と<魔略歩式>だ。


 俺も学ばせてもらった。


 ソー師匠は、己の過去の記憶を俺が体感したことは、シュリ師匠と同じように知っているはずだ。


 すると、赤武者四腕魔族が両上腕剣を上げて反応する。

 ソー師匠はそれを見越していた。


 先にソー師匠の本物の両腕と、その手が握る無覇と夢槍が前後にブレた。


 風を孕む勢いで無覇と夢槍が連続的に突き出された。

 無覇と夢槍の二つの穂先が赤武者四腕魔族の両上腕剣を喰らうが如く、激しく衝突し、剣身が削れる勢いで左右に弾かれた。

 やや遅れてドドッと重低音を響かせた刹那――。


 赤武者四腕魔族の胸と頭部と首を無覇と夢槍の穂先が穿っていた。

 獅嚙火鉢の兜のような頭部が潰れたように宙空に飛ぶ。

 

 頭部を失った赤武者四腕魔族の体から四方に血飛沫が散る。


 血飛沫の一部は、宙に弧を描きながら無覇と夢槍の中へと吸収された。


 辛い過去を持つソー師匠は頗る強い。


 妙神槍流とソー師匠とウンバル師匠へ尊敬の想いを持ちながら<武行氣>を意識し――。


 他の赤武者四腕魔族へと跳ぶように飛翔した。


 ランプの精の如く魔軍夜行ノ槍業と繋がっているソー師匠も俺の動きに引き摺られるように瞬時に寄る。

 

 構わず一体の赤武者四腕魔族との間合いを宙空から詰めた。

 手前の赤武者四腕魔族の肩越しに背後にいる赤武者四腕魔族たちを視認する。

 手前の赤武者四腕魔族は<魔闘術>系統を強めるや否や、


「ベゲベベェ、ボッフォ――」


 と叫び、先に四腕魔剣を突き出してきた。

 気色悪さもあるが、面白い発音だけに気合いが削がれる。

 ――これは精神ダメージのシャウトでもあるのか?


 そして、俺の多重に重ねた<魔闘術>系統の速度に合わせた赤武者四腕魔族は中々の強さだ。


 傍に来たソー師匠は、


『弟子、俺の<握把法>、妙神槍流に合わせろ――』

『はい』


 ソー師匠は俺に無覇と夢槍を放り、体のすべてが半透明と化し、俺と重なる。


 無覇と夢槍を戦闘型デバイスに仕舞った。


 すると、眼前に称号:<夜行光鬼槍卿>の文字が出現。


 ピコーン※<魔軍夜行ノ憑依>※スキル獲得※


 ソー師匠と合体した俺は<握把法>を用いた歩法で前進し、残りの赤武者四腕魔族との間合いを詰めた。


 迅速に夜王の槍で<豪閃>を振るう。

 赤武者四腕魔族の両上腕剣を斜め上に弾いた。

 同時にソー師匠と共に茨の凍迅魔槍ハヴァギイを振るう。加速する茨の凍迅魔槍ハヴァギイの刃から紫色と銀色の魔力が放出されたまま、穂先が赤武者四腕魔族の首を捉えた。


 その首を刎ねた。


 ※ピコーン※<妙神・飛閃>※スキル獲得※


 スキル獲得!

 その余韻もなく、右に<仙魔・龍水移>で移動し、そこにいた赤武者四腕魔族の真上に転移。

 即座に夜王の槍と茨の凍迅魔槍ハヴァギイで<妙神・飛閃>を繰り出して、赤武者四腕魔族を縦に両断。


 両手の武器を消す。

 同時に無覇と夢槍を召喚。


『ハッ、夜行光鬼槍卿の体は凄まじいぜ――が、オレ様もまだまだァァァ』


 とソー師匠の思念が響くと同時に疾風迅雷の速度で駆け抜けた。


 背後の赤武者四腕魔族との間合いを一瞬で潰し、


 ピコーン※<魔略・妙縮飛>※スキル獲得※

 スキル獲得と同時に<魔槍技>の――。


 <魔略・無覇夢槍>を繰り出した。

 <魔軍夜行ノ憑依>でソー師匠と融合したまま、無覇と夢槍の<魔略・無覇夢槍>で赤武者四腕魔族の体を穿ち、その体を消し炭にした。

 

 よっしゃ、赤武者四腕魔族を倒し切った。

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