千二百九十一話 〝黒衣の王〟装備の魔槍と魔大剣

 空を警戒していただろうフィナプルスが降下してくる。


「シュウヤ様、もう敵の魔素は、砦の上部には感じられません。<無影歩>のような気配殺しのスキル持ちがいる可能性もありますが」

「了解した。戦闘態勢は解いていいだろう。空からの援護ありがとう。休んでいいぞ」

「はい!」


 フィナプルスはグィヴァの横に着地。


 目の前にいるキッカが月華忌憚を鞘ごと仕舞い、魔大剣を手元に召喚する。

 切っ先が床に落ちてズンッと音を響かせた。

 あの魔大剣は〝黒衣の王〟の一つ。

 ビュシエも手元に魔槍を召喚して寄ってきた。


「宗主、バケン・ダスル将軍が持っていた〝黒衣の王〟装備の魔槍です。螺旋状の魔刃を放てるようです」

「了解した、魔槍か――もらっとこう」

「はい」


 魔槍をもらい魔力を通す。

 ピコーン※<バーヴァイの螺旋暗赤刃>※スキル獲得※

 おぉ、〝黒衣の王〟に関連したスキルを得た。


「〝黒衣の王〟として、<バーヴァイの螺旋暗赤刃>のスキルを得た」

「「おぉ」」

「<バーヴァイの螺旋暗赤刃>!」

「おめでとうございます」

『やりました!』

『おう』


 直ぐに戦闘型デバイスに魔槍をしまう。


「キッカの魔大剣も〝黒衣の王〟装備だな」

「はい」


 キッカから〝黒衣の王〟の装備の魔大剣を渡された。

 握った直後に魔力を通すと――。


 ピコーン※<バーヴァイの魔風重大剣>※スキル獲得※


 またもや獲得。


「今度は、<バーヴァイの魔風重大剣>を獲得した」

「「おぉ」」

「連続的に!」

「おう、〝黒衣の王〟関連は凄いかもな」

「「「はい!」」」

「宗主、ベゲドアードから奪取した〝黒衣の王〟の装備は装着しないのですか」

「あぁ、それは後回しかな」

「はい」


 そこで視線を皆に向け、


「ちょいと、先ほどの地下への道を調べてくるから、皆は砦から少し離れててくれ」

「「はい」」

「ん、シュウヤ、一緒に行く」

「わたしも行きます、宝箱に罠ならわたしに!」

「分かった、エヴァとエトアに相棒と銀灰猫メトも行こうか、他は、前の砦から少し離れてくれ」

「「「はい」」」

「分かりました」


 <武行氣>を使い少し浮遊する。


 と――ヘルメが視界に出現――。


 俺の首回りを調べてから、妖精のティンカー・ベルのような動きで、腕に向かい指先の髑髏指輪の上を楽しそうに歩いた。


 水飛沫を周囲に飛ばしながら見上げて、


『閣下、暴走していた〝悪夢ノ赤霊衣環〟との戦いでは、古魔将アギュシュタンを使わずに?』

『あぁ、使わなかった』

『……そして、閣下の首に新たな血の刻印、魔印が刻まれているのは悪夢の女神ヴァーミナ様から何かされたのですか……わたしが左目の中に居れば……』

『あぁ、この新しい首の刻印の傷は<夢闇轟轟>と名が付いた。ヴァーミナ様の姉の悪夢の女王ベラホズマ様から付けられた』

『え、ヴァーミナ様の姉……はい……』

『神像の手前の広場に足を踏み入れたら、【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】と似たベラホズマ様の精神世界に転移し、そこで悪夢の女王ベラホズマ様の精神体と邂逅を果たしたんだ』

『悪夢の女王ベラホズマ様に……前のヴァーミナ様のような展開ですか』

『あぁ、そうらしい』

『そして、新しい四人の部下が増えたことが驚きですが、あのナロミヴァスが眷属とは驚きです……』


 ヘルメも驚いている。


『もう、あの時のようなナロミヴァスではない。エヴァも気持ちを読んでいる。生まれ変わった。新たなる転生、第二の人生と思っていいだろう。だから気楽に接する時は接してくれ。ま、普通でいい。相棒はナロミヴァスを受け入れたが、今は、他からの風当たりが強い』

『……ふふ、ロロ様は閣下と心が通じてますからね……でも、皆の気持ちは分かりますよ、邪教の元親玉。といいますか、そのセラ邪教の親玉が小さく見えるほど、赤霊ベゲドアード団の魔族たちがヤヴァすぎます……食料庫は……エヴァには見せないほうがいいでしょう』


 小さいヘルメはまじまじと語る。

 太った包丁野郎の四眼四腕の魔族とか……あれは怖すぎる。


 そして、少し間を空けてから、


『閣下、わたしは閣下の水。いつものように皆と同じくナロミヴァスのことは受け入れます』


 と、了承してくれた。

 常闇の水精霊ヘルメとして上手くフォローしてくれるだろう。

 ヘルメは、ビュシエに頭を下げている流觴りゅうしょうの神狩手アポルアたちを見て、


『端正な顔の男性の射手魔族と、めがねっ娘の可愛い魔族と、ヴァーミナ様と似た綺麗な女性は眷属として救出をしたのですね』

『おう。皆、暴走していた怪物アイテムの〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中にいた。悪夢の女王ヴィナトロス様と、流觴りゅうしょうの神狩手アポルアと、闇の悪夢アンブルサン。ナロミヴァスと同様に、三人の魂の欠片を救ったんだ。そして、ヴィナトロス様の時は、魂の欠片という感じではなく、体を咥えたような感触があった』

『不思議です』

『おう、そして、暴走していた〝悪夢ノ赤霊衣環〟を倒した時、魔界とセラを繋ぐ〝傷場〟を開ける際に必要な〝楽器〟と、〝魔界四九三書の夢教典儀の一部〟と、複数の〝三玉宝石〟も落としたんだ』

『悪夢系のお宝に、楽器は貴重です!』

『あぁ、魔の扉の鏡があるので、魔界に行くだけなら、必要はないが』


 小さいヘルメは頷く。


『はい、ですが、セラと魔界を行き来できる傷場はあちこちにある。そして、その傷場にも種類があるようですからね、対応できる楽器と魔王の楽譜は多いほど宜しい』

『おう』

『今後、傷場を利用する時に、今回新しく楽器が入手できてよかったと言える状況が来るかもです』


 頷いた。

 楽器が増えることは、傷場の鍵穴に合う、鍵の種類が増えるのと同じことか。

 いいことだな。


『アポルアとアンブルサンだが、俺の傍にいたいと宣言したんだ。が、神像に宿っていた神格を有していたベラホズマ様が、それには条件が必要と発言した。その条件が悪夢の女王ベラホズマ様に〝魔界四九三書の夢教典儀の一部〟と、複数の〝三玉宝石〟を捧げることだった。直ぐに了承し、それらのアイテムをベラホズマ様に捧げた』

『ふふ、閣下らしい』

『おう、そして、神像に宿っていたベラホズマ様の精神体は、俺の<血魔力>も吸収し、周囲の血の湖と化していた大量の血と四眼四腕の魔族と二眼四腕の魔族たちの死体と血を利用して、体を得て、大復活を果たした』

『……赤霊ベゲドアード団たちには、皮肉過ぎますね……』


 それはたしかに、と笑う。


『しかし、俄には信じがたい出来事ですが、凄い展開です。秘密の神ソクナーや運命神アシュラーが、世界の暦を記録しているとされているようですから……今回の悪夢の女王ベラホズマ様の復活と要因は記されたかも知れませんよ!』


 秘密の神ソクナーと運命神アシュラーか。

 カザネを思い出すが神様独自の<アカシックレコード>や<アガスティアの葉>などのスキルを持っているのかも知れないな。


『その悪夢の女王ベラホズマ様だが、俺の<血魔力>の影響を受けたことは確実だ。だから光魔ルシヴァルの新派になっているかも?』

『ふふ、どうでしょう、光魔ルシヴァルの、光と闇の闇の部分が強くなって、属性を反転させるほどに光を飲み込んでいるかも知れませんよ?』

『あぁ、神様だしな』


 ブラック‐ホールの中心的に特異点かも知れない。


『はい、神格を有している時点で精神力や魔力は膨大ですからね』

『おう。そのベラホズマ様復活が、トリガーとなって悪夢の女神ヴァーミナ様が<魔次元の悪夢>というスキルを発動し、遠い【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】から【赤霊ノ溝】の地下祭壇にいる俺たちにアクセスしてきたって流れだ。受肉し顕現した悪夢の女王ベラホズマ様は、妹のヴィナトロスを残し【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】へと戻られた』

『……はい……凄まじい展開です……〝黒衣の王〟の装備を集めつつ赤霊ベゲドアード団を倒すだけでも大変でしたのに……地下に悪夢の女王ベラホズマ様の神像が奉られてあるとは……パセフティの傍にいるバーソロンも血文字を聞いて驚きまくっているはずです』

『あぁ、目に浮かぶ』

『でも、閣下、どのようにして、あの気色悪い怪物のアイテム〝悪夢ノ赤霊衣環〟を倒しながらも、中にあった三人、四人の魂の欠片を救えたのですか』

『ある種の修行精神だ』

『閣下のライフワーク的な流れで……』

『……修行精神は冗談半分だ』

『え、はい、ふふ』


 少し真剣に聞いていた小さいヘルメは転けるような振りをしてくれた。

 コミカルな妖精ヘルメに、


『<血想槍>と<血道・九曜龍紋>とアイテムの水神ノ血封書と、その<水血ノ魂魄>に<血脈冥想>などを用いた。あ、<血道第五・開門>の血の錫杖も関係している。〝悪夢ノ赤霊衣環〟に各<血想槍>の魔槍と神槍でダメージを与えながら、その魔槍と神槍を活かした<血道・九曜龍紋>の魔法陣の中へと〝悪夢ノ赤霊衣環〟を誘導させて、血の龍でのし掛かった。〝悪夢ノ赤霊衣環〟を押さえながら、霊道を通し、俺の精神体を血の龍に移行させて、その血の龍の俺は、〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中へとダイブ、突入した』

『……それは悪夢の中に飛び込むようなものですよね……』

『おう』

『……納得ですが、勇気が凄い。そして、閣下のエクストラスキルの<脳脊髄革命>と<四神相応>などのスキルと関連している九曜龍紋の血の龍を大量に生み出す範囲技……源左一族の血と関係した魔法陣、更に神性を帯びたアイテムの<水血ノ魂魄>のコンボで、悪夢の女王ヴィナトロス様やナロミヴァスたちの魂の欠片を救ったと……凄すぎます……後で、ヴィーネとエヴァとキサラからも聞いてみたい。あ、だからナロミヴァスが眷属として生まれ変わるような復活ができたのですね……』


 頷いた。

 

 外から見える光景だとどんな感じだったんだろう。

 俺はたぶん、蓮に座るように<血脈冥想>を用いて、座禅のまま消えたはずだ。


『地下祭壇の空洞と神像前の広場は結構広かった』

『はい、血の湖とは凄惨ですが、圧巻な光景だったのでは?』

『あぁ、地獄的な光景』

『……はい』

『そして、数百人は余裕で暴れられるスペースがあった。ベラホズマ様の神像を守る四眼四腕と二眼四腕の魔族の数は数百人以上いたと思う。赤霊ベゲドアード団の親衛隊というポジションかも知れないな。で、その隊の隊長格だったキベラという名の強者もいた。そのキベラが、ソー師匠の両手足を持ち、無覇と夢槍を持っていたから倒して奪取した』

『それは僥倖です。二槍流は閣下とも合う』

『あぁ、訓練はまだだが』

『はい』


 と念話をしながらエヴァたちと浮遊しつつ先ほどの地下道へ向かった。


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