千二百九十話 【赤霊ノ溝】の戦いの勝利と、謎の溝

 

 水神ノ血封書と血魔剣を消した。

 妙神槍のソー師匠の無覇と夢槍の訓練と、金漠の悪夢槍と〝煉霊攝の黒衣〟の装備とスキルの確認は後回し――

 

「光魔騎士ヴィナトロス、これからも宜しく頼む。ナロミヴァスとアポルアとアンブルサンも宜しく頼むよ。そして、アポルアとアンブルサンは俺についてくるなら眷属に入ってもらう。が、その前に、上に戻るとしようか」

「はい、砦内部の戦いに参加しましょう。大魔剣を扱うレバナウン将軍は気になります」

「ケーゼンベルスはバアネル族の軍隊に奮闘しているようですからね」

「ん、ヘルメ様も救出する魔族たちを見ながらだと思うけど、砦の内部の戦いに参加したから、案外戦いはもう終わっているかも」


 ヘルメも助ける方々がいるかも知れない状況だから、大規模な<闇水雹累波>などは使えないが、<珠瑠の花>に両腕の氷剣の接近戦は俺との修業でかなり強いからな。


「はい、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスにキスマリとキッカもいる前線ですからね、数が多くても一人一人が滅茶苦茶強い。ただし、場所が狭いとなると、少し時間が掛かるかもですね」

「あぁ、指揮官が守りに徹した場合は尚のことだろう」


 と皆の予想に返事をした。

 皆も「「「はい」」」と視線を合わせて返事をしてくれた。


 援軍がない籠城は、絶望的だがな。

 

 ヴィナトロスはオーロラのような<血魔力>を周囲に発生させている。

 その和風の衣装が似合うにヴィナトロスに手を伸ばす。


「立ってくれ」

「はい」


 細い手を握り、引っ張るように立ってもらった。

 おっぱいのプルルンとした動きが視界に入るが凝視はしない。


 離れて、ナロミヴァスとアポルアとアンブルにも手を伸ばし、それぞれ握手するように立ってもらう。

 そして、


「光魔騎士ヴィナトロス、ナロミヴァス、アポルア、アンブルサンも引き続き宜しく頼む。眷属が多いから覚えるだけでも一苦労だと思うが皆、優しいから気兼ねなく話すといい。そして、アポルアとアンブルサンには後ほど眷属入りしてもらう。が、その前に上に戻るとしようか」

「「ハッ」」


 アポルアとアンブルサンは胸元に手を当てて軍隊式に挨拶してくれた。

 キサラを見る。


「砦内部の戦いに参加ですね。大魔剣を扱うレバナウン将軍は気になります」

「ケーゼンベルスと銀灰虎メトにゼメタスとアドモスはバアネル族の軍隊に奮闘しています」

「ん、ヘルメ様も参加したから砦内部の戦いはもう終わっているかも、手前の広場からラムラントも<バーヴァイの手斧>で砦の内部に向け遠距離攻撃ができる。だから助けたバリィアン族から人気があった。黒髪のレン家の方々は沈黙者が多くて怖かった」


 ラムラントも美人さんだからな。レン家の方々は寡黙か。

 皆は頷きながら周囲を見て、相棒を見やる。


 その黒猫ロロはナロミヴァスの前で自らの腹を見せるようにゴロニャンコ。


 ナロミヴァスは、


「……はは……産毛に隠れているお腹と乳首様が桃色なのですな……ふふ、はは……」


 ――吹いた。


「「ふふ」」


 皆も笑っていた。

 ナロミヴァスは、黒猫ロロの腹の可愛さを見て触りたそうに、丁寧に喋っていたが、その喋りといい、声音が妙に渋いから面白い。

 

 が、ナロミヴァスの昔を知るだけに少し怖さもあった。


 そして、黒猫ロロ萌えしているナロミヴァスだが、直ぐに皆の笑顔は消える。

 こりゃ偏見を取り去るのは中々大変だぞ……。

 エヴァでさえ微笑んでいたのに、急にハッとして無表情気味になるし……。

 あの優しいエヴァでも……が、助けた以上はフォローし続ける、野郎だろうと大事な眷属だ。


 黒猫ロロさんは、つぶらな瞳でナロミヴァスを見上げる。

 瞼を閉じて開くといった猫特有の親愛の情を示した。

 ナロミヴァスは微笑む。さすがにナロミヴァスが猫の感情表現を知っているとは思わないが相棒の優しい気持ちは通じたかな?


 その黒猫ロロは「ンン」と喉声を発して俺を見る。

 

 そして「にゃ~」と鳴きながら頷いた?


 と、そのままプイッと頭部を背けて、握手しているアンブルサンとヴィナトロスとアポルアの足に頭部をぶつけていく。


 アポルアの足装備に鳥の羽飾りが付いていた。


 黒猫ロロは、その鳥の羽根飾りの匂いをくんかくんかと嗅ぐと、少し噛み付いていた。


「ロロ、アポルアに匂いを付けるつもりなのかも知れないが、鳥の羽が臭くなるだろう? 噛むのを止めなさい」

「にゃご」


 と『分かってるにゃ』的に強めに鳴く黒猫ロロのムスッとした表情が面白い。

 そして、


「ロロ、変身を頼む」

「ンン、にゃ~」

「ん、エトア行こう」

「はい!」

「にゃ~」


 黒猫ロロは大きい魔獣に変化した。

 ネコ科を基本としたサーベルタイガー風でかなり渋い。


 出入り口の幅に合うぎりぎりの大きさかな。

 

 その神獣ロロは太い首とふさふさした黒毛が目立つ胸元から触手を数本出す。

 やや遅れて腹と背からも触手を出して皆に絡めた。

 

 その間に<筆頭従者長選ばれし眷属>のビュシエに、


『ビュシエ、悪夢の女神ヴァーミナ様と<魔次元の悪夢>で連絡が取れた。救出した悪夢の女王ベラホズマ様は褒美に金漠の悪夢槍をくれた。そして、<魔次元の悪夢>の中に飛び込むように【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】へと転移して、帰還を果たした。【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】には湖底があって、集落があった。そして、神格落ちしている悪夢の女王ヴィナトロス様は転移せず<魔次元の悪夢>を消して、俺たちの傍に残った。更に、ヴィナトロス様は光魔騎士ヴィナトロスと成って、俺の眷属となった』

『え、元悪夢の女王が、光魔騎士、驚きです』

『おう、ビュシエの方の状況はどうだろう』

『はい、既に【赤霊ノ溝】の砦前の広場は確保したといえます。砦の中の戦いはまだ続いている状況です』

『数的に数千人はいたから、生き残りはそれなりに居そうだが』

『自らの魔素を遮断できる者は逃走しているか、隠れているかもです。しかし、性格は凶悪で好戦的な者が四眼四腕と二眼四腕の魔族。特攻を仕掛けてくる』

『袖付きの四眼四腕の魔族の部隊がどうだろう』

『はい。遠くから魔刃を連発し、接近戦も巧み。強い者でわたしたちと十数合打ち合いましたが、さすがにそこまで。そして、わたしの<血道・石棺砦>が造った簡易砦を後衛に前線に出たリサナ様の<魔鹿フーガの手>の巨大な漆黒の腕が、四眼四腕の魔族たちを薙ぎ倒しまくった。迂回してきた者も、大半は、グィヴァ様の<雷雨剣>と、わたしの<血道・霊動刃イデオエッジ>で仕留めました』

『了解した、俺たちは地上に戻る』

『はい』


 ゼロコンマ数秒の間に行える思考と指と念話的な血文字コミュニケーションを終えた。


 ナロミヴァスとアポルアとアンブルサンは飛行術か飛行スキルが使えるのか、浮いていたが、その体に触手が絡まっている。

 

「「あぁ~」」

「おぉ――」


 悲鳴的な声を発した三人は相棒の体に引き寄せられていた。

 皆は触手が体に絡まっても慣れた調子だ。


 神獣ロロは皆を乗せられるほど体を大きくさせていないから触手が絡む皆を己の周囲に浮かばせた状態だった。


「ん、ロロちゃん、エトアは優しくね」

「ふふ、慣れました~大丈夫です~」


 エヴァは魔導車椅子状態だ。

 その両側の車輪部分に太い触手が絡んだ状態で、神輿的に持ち上げられている。

 エトアは、その前の宙空で胸元に絡んでいた相棒の触手を両手で揉んでいた。


「にゃ~」

「きゃ、ふふ」


 神獣ロロはモミモミされたお返しのつもりか、もう一つの大きい触手の先端で、エトアの頭部を撫でていた。

 

 エトアが黒と桃色の帽子をかぶったように見えた。


 神獣ロロは、そのエトアとエヴァを、己の頭部の前に運ぶ。

 長い尻尾は立っている。

 お尻ちゃんは言わずもがな、黒い毛のフサフサといい傘の尾のようにぐにゃりと上がっている部分が非常に可愛い。


「ん、ロロちゃん、GO!」

「ごーご~」


 ゴーひろみと合わせたくなったが、しない。

 神獣ロロさんは、地下祭壇の出入り口へと駆けるかなと思ったが、直ぐに振り向いて、


「にゃ」


 と鳴いてきた。

 そして、その神獣ロロの横顔付近で、触手が悩ましく体に絡んでいるヴィーネが、やや引き攣った顔のまま。


「ご主人様も行きましょう」

「おう、行こうか――」


 と<武行氣>と<闘気玄装>の<魔闘術>系統を強めて前進。

 <闇透纏視>も発動し直す。

 

 一瞬で、神獣ロロと皆を抜かした。

 

「ンン、にゃお~」

「ん、負けちゃだめ、シュウヤを追い抜いて!」

 

 エヴァが可愛い。

 ――そのまま、振り向かず、暗がりの通路を駆け抜ける。

 通路内には、来た時と同じく四眼四腕の魔族の溶けたような死体が散乱していた。

 アイテムボックスらしき巾着袋を発見――。

 床を触るようにササッと巾着袋を回収~。


「ハルホンク~」

「ングゥゥィィ~」


 巾着袋をハルホンクのポケットの中にぶっこむ――。

 お? 前方の床の溝と溝の間から、小さいが異質な魔力が浮かび上がる。

 来た時は気付かなかった――。

 <闇透纏視>で床を凝視していたから気付けたレベルだ。

 ヴィーネやキサラも気付かなかったから、普段なら気付かないだろう。

 相棒も嗅覚でも分からなかったってことだからな。

 

 床を蹴るように低空を飛翔しながら前進――〝悪夢ノ赤霊衣環〟に溶かされず?

 それとも――と、溝と溝の前に近付いた。床に着地。

 溝と溝の間は少し深い、暗いが……こりゃ、ヴィーネたちも気付けないな。

 底の方の赤い魔力が禍々しい……。

 底には、短槍以外の何かがある。ここは魔界セブドラだしな。

 そして、中々の魔力を内包している短槍だ。

 しかし、どうして、こんな溝の奥のほうに短槍が……しかも禍々しい魔力の源に突き刺さっている?

 

 そのお陰で溝の下の魔力の巡りがオカシイのか?


 あ……【赤霊ノ溝】って……。

 谷が溝だと思ったが、まさか、この溝が、大本?

 まさかな……。


 柄と女神の頭部を模したような柄頭が見えた。

 深い位置だから<鎖>か<超能力精神サイキックマインド>か、<握吸>で引き寄せることはできるかな……。

 そして、短槍を引っこ抜いたら、上の洞窟が崩れ、砦自体も崩壊とかだと怖い。


 そうなったら<血鎖の饗宴>か<空穿・螺旋壊槍>で洞窟ごと破壊すればいいが、まだ砦では戦いが続いている。挑戦するにしても後回し。


「ンン~」

「ん、あれ、シュウヤ」

「ご主人様?」

「あぁ、溝の底に突き刺さっていた短槍を見つけた。罠もありそうだから、この溝の謎は後回し、先を行くぞ」

「え、はい!」

「ん」

「ンン、にゃお~」


 十字路を左に曲がり元来た道の洞窟通路から地下祭壇の出入り口を潜るように突破――。

 遮蔽壕から飛び出るように飛翔し、砦内部を見ていく。

 戦いはほぼ終わっていた。

 

「『主! 我は今砦の左側で逃げた四眼四腕の魔族たちを追い喰らっている!』」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは勇ましい。

 そして、容赦はないか。

 直ぐに馬魔獣ベイルに乗ったグラドと常闇の水精霊ヘルメが飛翔してくる。


「閣下! 砦に捕らわれていた方々はすべて救いました」

「陛下! 右側の砦の敵はすべて倒しました! 逃走している者は魔皇獣咆ケーゼンベルス様にお任せしています」

「おう、二人とも、ありがとう! あ、食料庫は酷かったか?」

「……はい。そして、向かって正解でした、食料庫に捕らわれていた方々を助けて、ビュシエが用意した<血道・石棺砦>の砦の中に入ってもらってます」

「おう、良かった」

「はい」

「食料庫の話を聞くと、怒りが湧いてきますな……」

「ブブゥ――」


 馬魔獣ベイルも怒っていた。

 グラドとベイルとヘルメを見て頷く。

 一安心は一安心だが、四眼四腕の魔族と二眼四腕の魔族のバアネル族に怒りが湧いてくる……が、怒りは半分に抑える。


 キッカたちがビュシエたちの下に移動しているのが見えた。

 ゼメタスとアドモスは砦の壁を骨剣で薙ぎ払って破壊しながらだから、一目瞭然。


「ヘルメ、右目に」

「はい」


 液体化したヘルメはスパイラル状態となって右目に入ってくれた。


「ンン、にゃお~」

「ん、砦の戦いは終わった?」

「そのようですね――」


 と、相棒たちが先を飛翔していく。

 俺もビュシエたちの下に集まっている皆の動きを見ながら飛翔した――。

 ビュシエが<血道・石棺砦>で造り上げた簡易砦が結構凄い。


「あ、シュウヤ様も~お帰りなさい~」

「きゅぴーん♪ ベゲドアードをぶっ倒した使者様のご帰還なり~ 魔英雄♪」


 イモリザが宣言。


「「「おぉ~」」」

 

 助けた方々が、イモリザに影響を受けて俺を指さしてきた。

 

 リサナは扇子を振って出迎えてくれた。

 ペミュラスがその扇子の動きをスケルトン風の頭部を輝かせながら追っている。

 百足高魔族ハイデアンホザーのペミュラスは、やはり、面白い。


 イモリザは銀髪をビックリマークに変えながら、叫んでいた。

 古バーヴァイ族の四腕戦士キルトレイヤと四腕騎士バミアルは腕を振るいまくって、周囲に風を巻き起こしていた。

 ミレイヴァルは、デュラートの秘剣を持つマルアと共に助けた黒髪の子供たちに囲まれている。


 ミレイヴァルの見た目は、光の騎士で、聖騎士っぽいが魔界騎士にも見えるかも知れない。と〝黒衣の王〟の装備と分かる魔槍を持つキッカが、ビュシエたちと話をしている。

 リサナたちに「おう、ただいまだ――」と言いながらビュシエたちの下に飛翔した。


「「閣下!」」

「あ、御使い様も帰ってきました~」

「シュウヤ様!」

「にゃァ~」

「「「「おぉ~」」」」

「皆さんが帰ってきたぁぁ」

「「おぉ~」」


 銀灰猫メトは助けた方々にモミモミされまくっていた。

 バリィアン族たちの背には、第三の腕があるが、その動き方が面白い、右肩の上か左肩の上を通る時の速度に差がある。どちらを通すのか、性格が反映されるなら面白い。

 そして、非常に興味深い。

 そのラムラントと同じ背に第三の腕を持つバリィアン族の方々が俺を見て、


「あの方が、魔英雄のシュウヤ殿!」

「わぁ~黒髪の素敵な方!」

「はい……」


 と誉めるような言葉を発して騒ぎが激しくなる。

 その方々に会釈して応えてからキッカに、


「――キッカ、黒衣のレバナウン将軍を仕留めたようだな」

「はい、宗主、キスマリにゼメタスとアドモスも居ましたから<血魔剣術>で止めはもらいました」


 と魔剣・月華忌憚を持ち上げて語るキッカ。

 黒髪が揺れて魅惑的だ。

 胸元のハートマークの間から覗かせる胸の谷間が素晴らしい。


「宗主もベゲドアードを仕留めて、得体の知れない怪物を追い、地下で悪夢の女神ヴァーミナ様と遭遇したと血文字で聞きました」


 頷いた。

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