千二百六十三話 〝真なる黒衣の王〟の意味
パセフティとラムラントとボトムラウに、
「立ってくれていい」
「「「はい!」」」
立ち上がったパセフティたちは、皆のことを見ていく。
ヴィーネとキサラとビュシエを見て、
「……魔毒の女神ミセア様の……白髪の……吸血神ルグナド様の……」
と呟く。ヴィーネは、
「この翡翠の
と力強く宣言するように翡翠の
片腕にはラシェーナの腕輪もある。
胸元のムントミー装備は展開されているから貴族風の衣装にも見える。
あのブローチとブローチの周りに展開されるポンチョ的な衣装は、かなりの、お洒落装備だよなぁ。
「にゃ~」
「ウォン!」
「にゃァ」
「ふふ、はい♪ 素敵な<偕老同穴>のことは知ってます~」
相棒たちが同意し、イモリザも相槌的に返事をしては、拍手。
イモリザの言葉にヴィーネは片方の眉をピクッと動かして動揺する。「イモリザ、それは内緒だと言ったのに……」と呟くヴィーネは頬を朱に染めつつ俺をチラッと見た。
微笑むとヴィーネは恥ずかし気に、はにかむ。
いつも見ている顔だが、やはり特別に可愛いし、愛しい。
そのヴィーネは翡翠の
同時に体から<血魔力>を放出させる。
と、今日はポニーテールではないから、長い銀髪がふんわりと浮かび上がった。
項が綺麗すぎる。
ムントミー装備があるから隠れているが、朱色を基調とした防護服が似合う。
スラリとした足先は洗練されているし、かなり女王様的だ。
ダークエルフの美が詰まっている。
「わ、わかりました」
「……」
「おぉ」
ラムラントは少しびびって、パセフティは息を呑む。
ボトムラウはヴィーネの美しさを見て感動したような声を発していた。
その三人は、ペミュラス、キルトレイヤ、バミアル、キスマリ、ヘルメ、グィヴァを見ていく。
特にバミアルとキルトレイヤを注視しているようにも見えた。
バーヴァイ族は【古バーヴァイ族の集落跡】でも少ないようだからな。
近隣か何処かには、バーヴァイ族か、古バーヴァイ族の生き残りはいると思うが……。
バミアルとキルトレイヤが古バーヴァイ族と言ったら驚くかな。
さて、そのことではなく、今後も敵となるだろう二眼四腕の魔族たち、赤霊ベゲドアード団のことを聞くとしようか。
「……赤霊ベゲドアード団の連中だが、【古バーヴァイ族の集落跡】には多いと分かる。そして、赤霊と、ベゲドアードの由来を知っていれば教えてほしい」
「はい、魔神バーヴァイと魔神レンブラントの祭壇があった小山の周囲に、幾つか本営と呼べる砦がありました。形としては、ここの崖をくり抜いた地形と似ていた場所にあったはず。そして、赤霊とは、赤い幽体、赤黒い霊などを扱えるベゲドアードの名から来ています」
「「へぇ」」
「ん」
「赤い霊……」
「シャプシーのような存在をか……」
皆がそれぞれ感想を述べると、パセフティは頷いて、
「……その赤霊ベゲドアードは<祭祀大綱権>のスキルを扱える強力な祭司でもある。更に〝黒衣の王〟の装備者の、黒衣のバケン・ダスル将軍と黒衣のレバナウン将軍がいます。しかし、今回の魔神バーヴァイと魔神レンブラントの祭壇崩壊で、それらの存在たちが、巻きこまれている可能性があるかと」
それだったら楽なんだが。ボトムラウに視線を向けると、
「赤霊ベゲドアード団とは、何度も、戦ってきましたぞ。黒衣のバケン・ダスルは数度撃退しましたが、回復スキル持ちでタフで強い……傍にいる〝袖付き〟の二眼四腕の魔族の連中も侮れなく……」
ボトムラウの語り方からして、赤霊ベゲドアード団とは激戦を何度も潜り抜けてきたと分かる。皆が頷いた。そして、ボトムラウの厳つい声は結構渋い。
デルハウト的かも。
「ご主人様……ベゲドアードと黒衣のバケン・ダスル将軍と黒衣のレバナウン将軍は強そうですね」
「あぁ」
「崩落に巻きこまれて死んでいるとは思えないです」
キサラの言葉にも皆が頷く。
「生きている可能性が高いか……」
「ウォォォォン! 二眼四腕の魔族を屠るぞ」
「うむ。ケーゼンベルスに同行しよう」
「――陛下、わたしの任務でもあります! 私にその命令を……」
警邏を任せていた光魔騎士グラドは責任を感じているようだ。
【バーヴァイ平原】だってかなり広大だ。【古バーヴァイ族の集落跡】のすべてを一人で守れるわけがないだろうに。
ま、その気持ちは買う。
「光魔騎士グラド。任せるが、馬魔獣ベイルと一人だけでは、さすがにな」
「はい、ご指示には従いまする」
「ブゥゥ~」
馬魔獣ベイルも返事をした。
ベイルのシルク的な肌を撫でたくなったが、今はいいか。
「陛下、その二眼四腕の魔族共を倒せば、原初ガラヴェロンテ様とキュビュルロンテ様への交渉材料が増えることに」
とペミュラスの発言に、納得。
イモリザは、両手でパンッと音を立てて柏手を放つ。
皆の顔色も変化。特にキスマリは体からオーラ的な魔力を噴出させる。
戦いが好きだとよく分かる。
パセフティの怯え具合からして『六眼トゥヴァン族』はそれなりに有名か。
四眼ルリゼゼといい、伝説に残るような魔界大戦の経験者がキスマリだ。
ん? 四眼ルリゼゼと六眼キスマリは魔界大戦で相対とかないよな。
まぁ相対していたら、俺との出会いはないか。
多分、どちらが死ぬまで魔剣を振るいまくってどつきまくっていると予想できる。
すると、ラムラントは、
「……祭司のベゲドアードが生きているのなら、魔神バーヴァイと魔神レンブラントの祭壇が破壊されたことで、怒り狂っているはず」
と発言。
「祭司のベゲドアードか……そして、<祭祀大綱権>とは魔神バーヴァイ様に関するスキルなどが扱えるようになるスキルかな」
「「「はい」」」
パセフティの身なりを見ながら、
「……そっか。パセフティ、お前が装備している鎧だが」
「はい、〝黒衣の王〟の装備の一つです。名は〝黒衣のバリィアン王〟と名が付いています。<祭祀大綱権>は我も持ちます。パセフティ魔奇兵たちに<バーヴァイの手斧>を授けました……」
その言葉にヴィーネたちが少しざわつく。
キスマリとキルトレイヤとバミアルが、
「「「ほぉ……」」」
と言いながら四腕に得物を召喚。
迫力をもった表情でパセフティを睨みだした。
怖いがな。
パセフティも恐怖したようで視線が泳ぐ。
二眼と、その二眼の眉尻に近い位置にある細い二眼もあちこちに動いていた。
背中の腕がフルフル震えている。
隣にいる細身のラムラントも、
「パセフティ様……」
と呟いて肩が震えていた。
キスマリたちに向け、片腕を上げた。
意味が通じるか不明だが、『その辺にしとけ』と意志を込めてアイコンタクトを行う。
「ん? 主、突然、片目を瞑って……」
「「ハイッ」」
キスマリは理解していないが、バミアルとキルトレイヤは理解し、睨みを解いた。
疑問気の表情を浮かべていたキスマリもパセフティに対しての睨みを止めたから丁度いい。
そして、パセフティに向け、
「……なるほど……少し試すがいいか?」
「は、はい」
<黒衣の王>の恒久スキルを意識し、発動。
俺の衣装は一瞬で、黒い衣装となる。
黒というかブラックダイヤモンド的な、漆黒が基調の胸に装甲を備えたかなり渋い防護服――。
すると、パセフティの装備の表面に淡い魔力と赤黒い炎のような魔力も浮かぶ。
〝黒衣のバリィアン王〟と俺の〝黒衣の王〟の黒い衣装と魔線が繋がった。
「「……」」
「閣下と……パセフティが」
「……はい、魔神バーヴァイ様の言葉を思い出します」
ヘルメとヴィーネの言葉に、祭壇で起きた時のことを思い出したのか頷いていた。
そして、三腕の魔族パセフティが着ている〝黒衣のバリィアン王〟は本物の〝黒衣の王〟の装備と分かった。
<闇透纏視>も使う――。
〝黒衣のバリィアン王〟の防護服とパセフティの体は凄まじい数の魔線で繋がっていた。
〝黒衣のバリィアン王〟の装備に宿る魔力とパセフティの精神は一体化している……。
俺と
そして、魔神バーヴァイ様の幻影は、
『……良し……シュウヤが得ている〝アメンディの神璽〟の効果は確かのようだ……同時に、我の〝真なる黒衣の王〟の装備を得るに相応しい器でもあるようだな』
『でかした……シュウヤを〝黒衣の王〟の真なる使い手として認めよう。そのスキルを使えば〝黒衣の王〟の装備者が分かるはずだ。また、〝黒衣の王〟の装備と心身が一体化していても、その装備者の肉体から装備と魂を上手く引き剥がすことは可能となろう』
『<黒衣の王>を得たシュウヤは我の魔界騎士となったと言える! であるからして魔界セブドラに散った〝黒衣の王〟の装備類は今からシュウヤの物となる! そして……この聖域を侵し狙っている連中と……他の〝黒衣の王〟の装備類を不正に得て我が物顔で使用している者たちと、<祭祀大綱権>を不正に得て、我やバーヴァイ族の高位の者の力、魔力、精神、スキルを己に取り込んでいるフザケタ存在たちを滅してくれると……非常にありがたい……それらの者たちを討伐したら、その者たちが身に付けているだろう〝黒衣の王〟の装備類はシュウヤの者となる……魂剥がしは少し厄介ではあるが……』
と言っていた。
この事だろう。
パセフティの〝黒衣のバリィアン王〟に宿る魔神バーヴァイ様の魂、または魔力の源を、俺は恒久スキル<黒衣の王>で奪えるようだ。
〝真なる黒衣の王〟の意味か。
同時に、パセフティも魔神バーヴァイ様の魂か濃厚な魔力を受け継げる、または、使う資格はあるってことだろうか。
魔神バーヴァイ様の幻影はそれを許せないようだったが……。
そして、パセフティから魔神バーヴァイ様の力を奪うことはしない。
魔神バーヴァイ様の幻影も、
『……安心しろ。我は、シュウヤを支配したわけではない。〝黒衣の王〟の装備類と<祭祀大綱権>のスキルを不正に得た者たちの抹殺だが、それは単なる我の願いでしかない。それをやるもやらないもシュウヤの自由ぞ……更に、魔界騎士も、我が一方的に認めただけだ……弱い魔神の戯れ言と心得よ』
と語っていたしな。
俺の自由。
パセフティは、自らの〝黒衣の王〟の装備から赤黒い炎の魔力が噴出しているのを不思議そうに見ていたが、俺との魔線の繋がりをゆっくりと見たところで、ハッと、何かに気付いたように表情を変化させた。
みるみるうちに強張る。
額に豆粒ほどの汗の粒を幾つも発生させた。
端正の顔立ちが少し崩れたようにも見えた。
頬に両手は付いていないが、ムンクの叫びを連想させる。
気付いたかな。
俺が覚えた恒久スキル<黒衣の王>を意識し、パセフティ目掛けて、<黒衣の王>を使用すればパセフティの体から〝黒衣の王〟の魔神バーヴァイ様の力の源をパセフティから引き剥がせてしまうことを。
更にパセフティ本人の魂さえも引き剥すことも、可能なのかも知れない。
パセフティは、
「……シュウヤ様の、その〝黒衣の王〟の装備に、恒久スキルは魔神バーヴァイ様から直々に授かったのですよね……」
「そうだ」
「……ぇ、わ、我は……」
パセフティは動揺して、今にも倒れそうな感じだ。
思わず、エヴァをチラッと見た。
エヴァは頷いてから俺を見続ける。
パセフティに触ろうとしていない。
俺に任せるつもりのようだ。
ならば、パセフティを安心させようか。
笑顔を意識して、
「パセフティ、安心しろ。降伏は受け入れると言っただろう。パセフティは三腕の魔族を率いる存在だ。〝黒衣の王〟の装備の〝黒衣のバリィアン王〟の名の通り、パセフティの物だ」
「おぉ……敵対していた我をそこまで……否、バリィアン全体を考えての言葉か……なんという器の大きさか! 本当にありがとうございます! 我は、バリィアンの名にかけて、今、ここに、シュウヤ様に永遠の忠誠を誓います!」
と、また片膝の頭で床を突いたパセフティ。
直ぐにとラムラントとボトムラウが続く。
「おう、分かったから。それで、ここに来る前に、二階で……」
と物色した薬が入っていそうな瓶と蟲入りの籠をアイテムボックスから取り出した。
「これを盗ったんだが、もらっていいかな」
「高級回復ポーションの瓶などですな。はい、勿論といいますか、この施設にある物はすべてシュウヤ様の物です。ご自由に」
「ありがとう。大量の蟲が入った籠はなんのアイテムなんだろう」
「レンピショルの魔蟲。我らの食事の一つで、我らの脚力の効果は、そのレンピショルから得られていると昔から言い伝えがありまする。一部の美食家や魔公ババ・ママドグーのお抱えの料理人ゼトィラ、通称、魔殺しゼトィラの使いが採取や取り引きに来たこともあります」
「へぇ、もらっとく」
「はい」
ポーション類とレンピショルの魔蟲を回収した。
すると、魔皇獣咆ケーゼンベルスは少し体を大きくさせて、
口を拡げて歯牙を晒し、中から大量の魔息を吐き出して、
「ウォォン! 四腕の魔族のベゲドアードを潰しに行くか!」
「待った」
「ウォン!」
パセフティに――。
〝黒衣の王〟の装備品の一つ黒衣の王の魔大斧を見せ、
「遺跡が崩れる前に、魔神バーヴァイ様の幻影と邂逅を果たし、会話をしたんだ。で、
パセフティたちは目を見開く。
〝炎幻の四腕〟のスタチューは見せていないが、信用してくれているようだ。
「……邂逅に会話とは驚きです」
「邂逅……驚きだ」
「……はいッ ……古代の魔神バーヴァイ様と会話をして、神意を引き出すなんて凄すぎます! それに〝炎幻の四腕〟までも得るなんて……」
ラムラントの声には元気があった。
蒼い瞳は少し輝いている。
ダークレッドの口紅の襞が輝いていた。
ちょいとエロい。
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