千二百六十四話 【古バーヴァイ族の集落跡】の情報


 ラムラントの背の腕の根元はどんな感じなんだろう。

 胸椎や肩甲骨に上腕骨も普通とは異なるとは思うが、少し興味がある。


「……古代神のバーヴァイ、レンブラントの神遺物レリクスを得られるシュウヤ様か……我らを圧倒する武力を持つのも頷ける……あの槍使いの妙技は……」


 と、ボトムラウは渋い声音でブツブツと語る。

 〝黒衣の王〟の装備は神遺物レリクスとも呼ばれているようだ。


 秘宝アーティファクト神遺物レリクスか……。

 ふと、黒猫から黒虎に変化していた黒虎ロロを見る。


 相棒の前身、ローゼスも……。


『ロロディーヌ……とかどう?」

『ウォォォォォォォォン!! 気に入ったぞ』

『うあっ』

『シュウヤ。契約前に言うのも何だが……最後の条件である、神遺物レリクス秘宝アーティファクトについてだが、我はその秘宝について話しているのを聞いただけなのだ。

……だから、何処にあるのか、果たして本当にあるのかも分からない』

『それじゃ、何で条件に?』

『希望だ……血の盟約は生まれ変わるのと同じ……昔、故郷で好きに走り狩りをしていた時代の夢を見ても構わんだろう? それに、もう……元の世界には戻れないのだ』


 と会話をしていたな。


「にゃ?」


 黒虎ロロは頭部を傾けた。

 可愛い。

 すると、


「主、赤霊ベゲドアード団が撤退した場所は、我と友の嗅覚に任せろ!」

「にゃお~」

「ケーゼンベルス殿、我も突撃する!」

「ウォン、当然だ! キスマリ!」

 

 血気に溢れるケーゼンベルスとキスマリ。

 口から魔息が吹き荒れる。

 前方にいたビュシエとキッカの髪が魔息の影響を受けて靡いていた。

 

 パセフティたちは黒虎ロロの変化に驚いている。銀灰猫メトはヘルメの《水幕ウォータースクリーン》越しに外を見ていた。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスに、


「ケーゼンベルスとキスマリ、進撃はまだだ。まずは〝列強魔軍地図〟に魔力を送ってもらう。そして、黒髪のレン家の連中とポーチュルのモンスターと黒き大魔獣ルガバンティの情報を聞いてからだ」

「ん、ケーゼンベルスとキスマリ、落ち着いて」


 と、エヴァが二人に寄って話しかけていく。


 ペミュラス、グラド、バーソロン、ヴィーネ、キッカ、フィナプルス、ビュシエは大部屋の壁に貼られてある地図を見ていた。


 前にも見たが、その【古バーヴァイ族の集落跡】の地図には、黒髪のレン家の印など、二眼四腕の魔族と、パセフティたち魔族バリィアンの手斧の印が描かれてある。

 要所の岩場に二眼四腕の魔族、髑髏の赤印がある。

 魔獣を意味する印も点在していた。

 蟲の印に穴の印、モンスターの印もある。

 

 が、俺の場合は〝列強魔軍地図〟があるからな。

 その〝列強魔軍地図〟を戦闘型デバイスから取り出した。


 パセフティたちに、


「パセフティとラムラントとボトムラウ、この〝列強魔軍地図〟に手を当て、魔力を込めてくれ」

「なるほど~」

「ん、細かな地形の情報が〝列強魔軍地図〟に刻まれる?」

「はい」

「ここは小山と岩場が多いですから平面の地図では分かり難いですが〝列強魔軍地図〟は違う」


 キサラの言葉に頷いた。

 そして、パセフティとラムラントとボトムラウに向け〝列強魔軍地図〟を見せ、少し前に出た。

 

 三人は、


「はい――」

「「はい」」


 パセフティたちは各自顔を見合わせてから頷き合う。


 と各自右腕を伸ばし〝列強魔軍地図〟を触り、魔力を込めてくれた。


 ――〝列強魔軍地図〟に詳細な【古バーヴァイ族の集落跡】の地形が立体的に描かれていく。


 直ぐに皆が寄ってきた。

 ヘルメも《水幕ウォータースクリーン》はそのままにして、寄ってくる。


 【黒き大魔獣ルガバンティの巣窟】

 【ポーチュルの小山穴】

 【ポーチュル高原穴】

 【バーヴァイ丘】

 【バーヴァイ谷】

 【バーヴァイの岩隠】

 【バーヴァイ川】

 【魔神バーヴァイと魔神レンブラントの祭壇】

 【バリィアンの堡砦】

 【ボブランの草原】

 【バーヴァイ崖道】

 【レンブラント鉱脈への岩道】

 【魔樹海ノ壁画】

 【ゲラバダル降霊ノ地下道】

 【魔蟲原林】

 【赤霊ノ溝】

 【ラージマデルの古道】

 【コバータ街道】

 【峰閣砦への古道】

 【ベルトアン道】

 【デアンホザー沼道】

 【ローグバンド道】

 【デラバイン古道】

 【メイジナ道】

 【シャントル道】

 【源左古道】

 

 などの小さい文字で地名が刻まれていく。


「「「おぉ」」」

「わたしは結構探索したつもりだが……【古バーヴァイ族の集落跡】も広い」


 光魔騎士グラドの言葉に頷いた。


「ん、【古バーヴァイ族の集落跡】の地形は地下のようにも見えるけど、サイデイル近辺の樹海の地形に近い?」

「あぁ、岩場の数と窪んだ地形からして、そんな印象だな。森は少ないが」

「ん」

「このもう一つの現実にも見える〝列強魔軍地図〟の映像も同時に動いたら閣下の持つフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルと連動する『ドラゴ・リリック』と似ているかも知れません」


 と常闇の水精霊ヘルメが指摘。

 戦闘型デバイスの上に、ホログラフィーのように出現しているアクセルマギナも頷くような素振りを見せていた。

 『ドラゴ・リリック』の中にいた牛白熊のクリーチャーをフィギュア状の牛白熊として現実に取り出せたからな。その牛白熊をハルホンクに喰わせた。


 パセフティとラムラントとボトムラウも感嘆の声を発して、


「……凄い、空や斜め上から【古バーヴァイ族の集落跡】の地形を見ているような……」

「優れた魔地図ですな。これがあれば、普通の魔族でも【古バーヴァイ族の集落跡】で、まず迷うことはないだろう」


 と三人が語る。

 その三人が離れたところで――。


 フィナプルスなどに〝列強魔軍地図〟を見せるように少し角度を斜めにした。


 バーソロンが、〝列強魔軍地図〟の俺たちがいる場所に指を当て、


「ここが……【バリィアンの堡砦】……【赤霊ノ溝】、【バーヴァイ崖道】、【レンブラント鉱脈への岩道】、【デラバイン古道】などはわたしも知らない道だ」


 と発言。


 ヴィーネたちも頷いて〝列強魔軍地図〟に記された名と立体的に描写されている地形に指を当てていた。

 そのヴィーネは、


「……岩盤が上下に入り組んでいると、外からでは中々分からないものです」

「はい」


 皆は【古バーヴァイ族の集落跡】のことを話をしていく。


 パセフティたちに、


「黒髪のレン家だが、話をしたことは?」

「少しありますが、我は罵り合いのみ。部下が何人も殺されて身包みを剥がされておりまする」

「私もです、シバという名の、魔銃と魔刀を扱う者と戦ったことがあります。そのシバは強く逃げられました」

「我はシゲンという名の、黒髪の大太刀使いが率いていた魔刀と魔銃を扱う中隊と戦ったことがある。そのすべてを仕留めた」


 と語った。シバか、斯波しばなら室町時代の武将にそのような名がいたが、まさかな。

 そして、魔刀の斬り込み隊と魔銃を扱う銃撃部隊の中隊を一人でか……。

 やはりボトムラウは強い。


「レン家の目的も〝黒衣の王〟と〝炎幻の四腕〟かな」

「基本は、そのはずですが……【魔蟲原林】でレンピショル魔蟲、【ポーチェル高原穴】にも出没するポーチュルのモンスター、【ボブランの草原】で、我らの家畜となるボブラン、【黒き大魔獣ルガバンティの巣窟】で黒き大魔獣ルガバンティを狙うことのほうが多いです」


 へぇ、だからか。


「ですが、黒髪たちも、赤霊ベゲドアード団と同じように〝黒衣の王〟の装備を狙っていることは確実ですぞ。魔族の力になりますからな」


 ボトムラウは自信有り気に語った。

 細身のラムラントも、


「はい、〝黒衣の王〟の装備を得ることにより<祭祀大綱権>も得る場合もあります。その<祭祀大綱権>を使えば、〝黒衣の王〟の装備で得たスキルを、同胞の部族に授けられる」


 と丁寧に説明してくれた。

 ラムラントの双眸は蒼色の瞳。

 その瞳の左右斜めにある瞳の色合いは、やや白色が多い印象で綺麗だ。


 その四眼のラムラントを見ながら、


「先ほどパセフティが、パセフティ魔奇兵たちに<バーヴァイの手斧>を授けたと言っていたが」

「はい、私たちの恩恵――」


 とラムラントは背中の片腕の手に手斧を召喚。

 手斧を俺たちに見せては消していた。


「兵士たちが手斧を次々に召喚し<投擲>できた理由ですね」

「「はい」」

「その通り!」


 ボトムラウは気合いを込めて背の太い腕をキサラに見せつつ、その手に手斧を見せていた。

 キサラは微笑んで、頷いて、


「……魔族バリィアンのすべてが手斧の<投擲>が可能に?」


 と聞く。

 ボトムラウはパセフティに振り向く。

 パセフティは、ヴィーネたちの美女たちに会釈をして、


「……さすがに全員が使えるわけではありません。<バーヴァイの手斧>を覚えるには、筋力、魔力、精神の一定の素養が求められる」

「なるほど、成長すれば使えると」

「はい」


 パセフティ魔奇兵は優れた部隊ってことか。

 パセフティに、


「その黒髪の魔族レン家だが、【レン・サキナガの峰閣砦】の出張組かな」

「そうだと思います。【峰閣砦への古道】から黒髪の部隊は現れることが多いです」

「了解した。俺は【源左サシィの槍斧ヶ丘】も勢力下と語ったが、その源左から離脱した黒髪の一族が、【レン・サキナガの峰閣砦】を拠点にしている黒髪の一族と聞いている。だから、いずれは接触する予定だった」

「なるほど」

「はい」

「……シュウヤ様の黒髪もレンの一族とのことと関係があるのですか?」


 転生に異世界、パラレルワールドを含めると、多少は関係があるかも知れないが……。


「共通点は多いかも知れないが、直には知り合いはいない、はず」

「「……はい」」

「分かり申した」


 ボトムラウの口調が、時々ゼメタスとアドモスのような口振りとなる。

 その光魔沸夜叉将軍たちは、大部屋の出入り口に立つ。

 ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡をゼメタスとアドモスの骨盾に格納してもらうのは今度にしよう。


 ゼメタスとアドモスが奮闘し、部下たちもいるし、女性魔族もいるようだから、非常にグルガンヌ地方が気になるが……ま、いつかだな。

 そして、


「黒き大魔獣ルガバンティは、黒髪たちと水棲動物っぽいモンスターを穴から引きずり出して食べているグループに分かれていたのは見ている。穴の中にいた水棲動物っぽいモンスターがポーチュルという名なんだな?」

「「「はい」」」

「ポーチュルのモンスターも中々強いですが、素材は我らの栄養源になりまする」

「そっか、グリフォン級の黒虎モンスターが、黒き大魔獣ルガバンティだな」

「……はい」

「黒き大魔獣ルガバンティは強い」

「幸いポーチュルが大好物ですから、私たちが狙われることは少ないですが、相対したら、逃げることが基本な相手でかなり危険なモンスターです」


 ラムラントの言葉に頷いた。

 黒虎ロロ銀灰猫メトが、


「ンン、にゃお、にゃ、にゃ~」

「ンン、にゃァ、にゃ」


 と、ラムラントに話しかけている。

 意味はなんとなく分かるが、ラムラントは、『え?』と驚いて俺を見やってきた。その表情が可愛い。

 さて、【古バーヴァイ族の集落跡】の情報も得た……。


「情報は出揃った! ぬおぉ!」


 と、キスマリが掛け声を発して、四腕をぐわりと動かす。

 胸筋を盛ったように<魔闘術>系統を強めていた。

 そして、六眼の内の四眼の動きに合わせて四腕が持つ魔剣を動かし、『戦は、まだか?』と、魔剣の切っ先を向ける。同時に筋肉で己の意志を示すようにマッスルポーズを行ってきた。思わず笑ってから、


「おう、赤霊ベゲドアード団を倒しに行こうか」

「にゃおぉ」

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