千二百六十二話 魔族バリィアンの降伏

 ゆっくりとパセフティとラムラントの二人に近付いた。

 魔槍杖バルドークの穂先をパセフティとラムラントに向けた正眼の構えを取る。

 パセフティとラムラントは死を覚悟したような表情となった。

 

 近くの伝令兵のクオラとカキを見た。

 そのクオラとカキは頭部を左右にぶるぶると振って手斧を落とし両手と背中の腕を上げた。バンザイか。

 降参のジェスチャーの仕方は人型なら万国共通かも知れない。

 クオラとカキに向け


「大人しくしてれば危害は加えない。背後のゼメタスとアドモスの傍にいろ」

「「――ひゃい!」」


 その情けない声音を聞いて思わず笑う。

 パセフティとラムラントに視線を向け直し、少し歩き……。


 上のボトムラウを見た。


 二眼と、その二眼の目尻の斜め上にある細い二眼を精一杯拡げて何かを言いたげだ。


 必死だが、彼の口は大柄の体と共に<魔布伸縮>の虹色の魔布と<破邪霊樹ノ尾>の光を帯びた樹木で覆われたまま。


 ボトムラウの体の殆どは、その<魔布伸縮>の魔布と<破邪霊樹ノ尾>の樹で見えない。


 視線を下げ魔槍杖バルドークと黒衣の王の魔大斧を消した。

 深呼吸をするように<武行氣>以外の体の内と外に展開させていた<魔闘術>系統を終了させる。


 そのパセフティは隣のラムラントを見て頷くと、俺を見て短槍を消した。

 ラムラントも指の形を元に戻す。


「……参った。降伏しよう」

「はい……何もかもが完敗です。降伏いたします」


 パセフティは三腕の魔族の大将、君主、リーダー格だ。

 彼が折れたら皆も従うだろう。


 これで無駄な戦いを止められるか。


「閣下の勝利!」

「閣下、廊下には三腕の魔族たちが待ち構えてます」


 振り返り、背後のゼメタスとアドモスと、開いた扉越しに廊下を見た。

 衛兵がいたはずだが、消えている。

 逃げたか。


「今しがた、三腕の魔族の大将が下った。そこの三腕の魔族たちも状況は読めているだろう。突っ込んできたら倒して構わない」

「「ハッ」」


 ゼメタスとアドモスは骨剣で骨盾を叩く。

 廊下の内部にその音が響いていく。

 

 頼もしい二人に頷いた。

 廊下から大部屋に突入してくる三腕の魔族はいないようだ。


 しかし、天井に付いたままのボトムラウがどうでるか。

 四眼を見る限りでは、やる気満々に見えるが、


「上のボトムラウもパセフティの言葉なら従うか?」

「従うはずだ」

「……はい」


 ラムラントもパセフティに同意するように見上げた。


 天井のボトムラウを見て、あの拘束を解くか。


 すると、


『ご主人様、今、行きます――』

『ん、シュウヤ、大丈夫!? ケーゼンベルスが吼えて皆を乗せた。ロロちゃんも必死。今、皆と一緒にそこに行くから』

『シュウヤ様、大丈夫ですか! 今、巨大なケーゼンベルスの背中に乗っています』

『陛下! 今行きます!』

『宗主! 今向かいますので持ち堪えてください』



 皆の焦った印象の血文字が次から次に出現しまくる。

 黒衣の王の魔大斧を下に傾けた。


 不思議そうに血文字を見ているパセフティたちに、


「あぁ、今の血文字は俺の眷属たちのメッセージだ。眷属たちは君たちの部下、三腕の魔族と戦っていたがじきにここに来る」

「「え……」」


 パセフティとラムラントが驚く。


「ケーゼンベルスが本気で駆けてくるとなると、時間にして数分かな、もう少し後か……」

「……け、ケーゼンベルスをやはり……」


 と、ラムラントが怯えた口ぶりで発言。

 俺が魔皇獣咆ケーゼンベルスを使役したとはあまり信じられないか。

 ボトムラウも戦う直前に俺のことを『黒髪』と呼んでいた。

 源左から分かれたレン家と同じ魔族だと思ったんだろうな。

 そして、この【古バーヴァイ族の集落跡】近辺では、黒髪の名は、レン家の出張組が有名のようだ。


 と思考したところで巨大な魔素を察知――。


 外に相棒の魔素も感じた。


『主! そこにいるのだな!』


 魔皇獣咆ケーゼンベルスの念話が魔皇獣耳輪クリスセントラル越しに響く。

 すると、パセフティたちの背後の横壁にケーゼンベルスの巨大な前爪が見えたと思ったら、そのケーゼンベルスの巨大な前爪が一直線に移動、大部屋の壁を切断した。


 更に、大部屋の壁の端っこがぐらぐらと揺れる。

 大量の液体がケーゼンベルスの爪が通り抜けた部位から滴り落ちてきた。

 と、大部屋の端っこが丸々消える。


 外の光景が……ケーゼンベルスの巨大な胴体か。黒い毛毛。

 更に。右のほうに切断された大部屋だった壁が飛んでいる? 


 あぁ、ケーゼンベルスが切断した壁を咥えて、外に放ったのか。

 その放られた壁は、岩壁にぶつかって派手に潰れていた。


「「「おぉ!?」」」


 外の光景が一瞬見えたが、直ぐにケーゼンベルスの巨大な眼球に占められる。

 その眼球が俺をジロッと見ると、瞬く。


「――いたぞ!!! 主だァ!!」


 と、魔皇獣咆ケーゼンベルスの嬉しそうな魔声が轟いた。

 そのケーゼンベルスの魔声と共に地響きが起きる。

 内装の箪笥や机が一瞬浮いて倒れまくる。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは、


「ウォォォォン!」


 と巨大な鳴き声を響かせながら、頭部を引いたか、持ち上げ、少し体を小さくした?


 同時に外の光景も見えた。

 四眼三腕の魔族たちがケーゼンベルスを囲って大騒ぎとなっている。


「――ご主人様」

「ん、シュウヤ――」


 ヴィーネとエヴァは抱きついてきた。

 勿論二人の温もりをこれでもかと味わうように、抱き返す。


「「シュウヤ様!」」

「「「陛下!」」」

「敵の親玉は我が倒す!」


 キサラ、フィナプルス、ビュシエ、バーソロン、グラド、キルトレイヤ、バミアル、キスマリは、手に武器を出したまま着地。


「ブブゥゥ――」


 馬魔獣ベイルも豪快に着地した。


「にゃごぉ~」

「にゃァ」


 黒猫ロロ銀灰猫メトはそのベイルの頭部にいたようだ。


「閣下~」

「御使い様!」

「おぉぉ、ここが三腕の魔族たちの本営……だ、大丈夫なのか……」

「うわぁ~、興奮しましゅ……」

 

 <珠瑠の花>に優しく包まれていたエトアとペミュラスは着地。

 エトアは両太腿を床に突けての乙女座り。

 黒猫ロロ銀灰猫メトがその前を守っていた。

 ペミュラスはスケルトンタンク風の頭部の中にある眼球を意味するだろう輝きが〝おろおろ〟と不安気に上下左右に動いていた。


 百足高魔族ハイデアンホザーの種族の感情表現は、いつ見ても面白い。

 最初は気色悪さが出ていたが、今では、コミカルに見えてくるから不思議だ。


 ヘルメは二人のお尻が輝いているのを見て満足そうに頷いて、<珠瑠の花>を仕舞う。

 グィヴァは水と雷の魔法の衣を身に纏ったまま浮遊し、天井のボトムラウを見る。


「ングゥゥィィ、ミナ、キタ、ゾォイ~」


 ハルホンクの嬉しそうな声を聞いて吹いた。

 

「使者様、三腕の魔族たちをギッタンバッタンしてきました!」

「宗主! 三腕の魔族たちが外に多いです!」


 イモリザとキッカの発言に頷いた。


「あぁ、二人とも、皆か。戦場では不安もあったと思うが、よくがんばってくれたな」

「ふふ、大丈夫です」

「はい♪」

「宗主、そこの三腕の男が?」

「そうだ」


 キッカは魔剣・月華忌憚をパセフティに向ける。


「ウォン! 主! そこの三腕たちが、敵の親玉か!」

「ほぅ……」


 ケーゼンベルスは吼えながらパセフティを睨み付けた。

 キスマリも四腕に持つ魔剣アケナド、魔剣スクルド、魔剣ケル、魔剣サグルーを向ける。

 パセフティは、キスマリを見て、


「……六眼……」


 と驚きながら呟いた。


「皆、俺は大丈夫。ケーゼンベルスに、この耳飾りの魔皇獣耳輪クリスセントラルから、俺はここにいると知らせただけだ。皆への血文字も送るつもりだったんだが……」

「ンン、にゃ~」

「にゃァ」

「そうでしたか。無事でなにより」


 ヴィーネの言葉に頷いた。

 そのヴィーネは部屋の内部にいるパセフティたちを見やる。

 すると、黒い狼のケーゼンベルスが、


「ウォン! 魔皇獣耳輪クリスセントラルから熱を感じるほどの魔力が伝搬してきたのだが……あれは『急いで来い、ケーゼンベルス助けて』という指示ではなかったのか!」

「違う」

「――ウォン!」

「にゃごぅ~」

「ンン、にゃァ」


 黒い狼ケーゼンベルスは転けたように寝っ転がる。

 大型犬が腹を見せるようなポーズで可愛い。

 黒猫ロロ銀灰猫メトも少し変わった気合い声を発して、床の上でゴロニャンコ。

 

 思わず、皆で笑う。


「ん、シュウヤ、大勝利?」

「あぁ、今、三腕の魔族の大将、パセフティは降伏した」

「ん、良かった」

 

 エヴァは安心したように数回頷いて部屋を見ていく。

 ヴィーネも嬉しそうに、


「大勝利! おめでとうございます!」

「おう、が、まだ油断はするな」

「はい」


 ヴィーネはゼメタスとアドモスの近くに移動し、


「ゼメタスとアドモス、呼ばれたのですね」

「「そうですぞ」」


 その三人は廊下側を見ながら会話をしていく。

 と、光魔騎士グラドが片膝の頭を床に付けて、

 

「――陛下、三腕の魔族と拠点の報告ができず申し訳ないです」

「ブゥ」

 

 と、謝ってきた。

 馬魔獣ベイルも鬣を萎ませるようにぺちゃんこにして、両前足を畳んで俺に頭を下げていた。「グラド、気にするな、立ってくれ。ベイルも立っていいぞ」と言いながら、馬魔獣ベイルが可愛いから、その馬魔獣ベイルの頭部を撫でていく。


「――ブブゥ」

「ハイ」


 馬魔獣ベイルは頭部を俺の顔に寄せて、鼻を頬に付けてくれた。

 ベイルは結構息が荒いが、その頭部から伝搬してくる呼吸音と連動する鼓動が面白くて、愛しい。


 光魔騎士グラドは馬魔獣ベイルの首下を撫でていく。

 

「閣下、外に《水幕ウォータースクリーン》を展開させます」

「了解、グィヴァも一応外側を見といてくれ」

「はい」

 

 ヘルメとグィヴァは、大部屋の端に移動。

 風通しが良くなった端に立って、外の様子を見る。

 そのヘルメは《水幕ウォータースクリーン》を展開。

 グィヴァは、ヘルメの《水幕ウォータースクリーン》を見ながら外側に浮かぶ。


 すると、切断された大部屋越しに外の光景も見ていたキサラが、


「ここは、崖と窪んだ地形の死角を上手く利用した隠れ家的な大砦です。そして、あの三腕の魔族の機動力があれば、敵もこの場所を見つけるのは難しいはずです」


 と発言。頷いて、


「あぁ、たしかに」


 と発言すると、キスマリが、


「敵は巨大なバッタのような機動力だったぞ。が、我と相対した相手は逃がしていない」


 と、発言した。そのキスマリは、パセフティとラムラントを睨む。

 キサラも同意して、


「はい。三腕の魔族は、手斧の<投擲>も見事」


 と発言。皆が頷いた。すると、部屋の端に立っていたイモリザが、


「使者様、外の三腕の魔族たちが騒いでいますが……」


 と発言。

 ヘルメの《水幕ウォータースクリーン》に腕を突っ込み外の様子を見ている。


「今は仕方ない」

「ん、イモちゃん、外から手斧が飛んでくるかも知れないから、もっと部屋の中に入っとこう」

「はい~」

「……外の連中は、我が喰ってやろうか」

「ケーゼンベルス、三腕の魔族のリーダー格、大将のパセフティは降伏したんだ。外の連中とは戦わないでいい」


 ケーゼンベルスは頷くように頭部を少し上下させると、


「ふむ。三腕の魔族たちには主たちのような血文字はないのだぞ……大将の降伏が兵士たちに伝わったとしても、その大将のパセフティに忠実ではない場合もある。魔族らしく力に傾倒している場合は……我らを襲うか……逃げて野盗と化すぞ! 今殺しておけば憂いは消える!」

「今は、三腕の魔族たちを信じようか」

「……個々の判断を重んじる優しき主……その指示だ。納得はしよう。そして、そこの大将、名はパセフティと言ったか?」

「は、はい」

「お前は、『我らは戦に負けた。主に、負けた、降伏した』と、味方に宣言できる<遠吠え>のようなスキルはないのか?」


 ケーゼンベルスがパセフティに聞いていた。

 パセフティは俺をチラッと見てから、俺は頷いた。


 パセフティは、


「そのようなスキルはない。だが、伝令兵を使えば伝わっていくだろう。シュウヤ殿、よろしいか?」

「そこのクオラとカキか」


 ゼメタスとアドモスの横にいる二人は己の顔に指を当てて驚いている。


「うむ」

「いいぞ」

「では、クオラとカキ、話は聞いていたな?」

「「はい!」」

「うむ。我らは負けた。今すぐに外へと出向いて、『我ら魔族バリィアンは戦に敗れた。シュウヤ殿に降伏した』と伝えよ。そして、『騒ぎを止め、中央広場に集まっておくように』と前線に出ている部隊にも伝えるのだ」

「「分かりました!」」


 クオラとカキは敬礼。

 横にいるゼメタスとアドモスを見る。


 ゼメタスとアドモスは黒と赤の魔力を噴出させながら右手が持つ骨剣で廊下を差した。

 

 クオラとカキは、「「はい!」」と発言し、慌てた様子で廊下に出た。


「我らは負けたァ」


 と叫びながら走っていった。

 あの様子では、余計騒ぎとなるかもだが……徐々に騒ぎも収まるか。


「シュウヤ様、天井の<破邪霊樹ノ尾>に固められているのは……」


 キサラの言葉に頷いた。


「上の三腕の魔族は、中々の強さだったボトムラウだ」

「はい、シュウヤ様に戦いを挑んだ魔族ですね」

「おう。皆にももう一度説明しとくと、三腕の魔族の大将のパセフティが左の男、右が、副官と思われるラムラントだ」

「ん」

「「「はい」」」


 キサラはダモアヌンの魔槍の穂先をパセフティに向けた。

 ヴィーネたちも続いた。


『「ガルルゥ、本当に、我たちに降伏をしたのだな?」』


 ケーゼンベルスが唸り声を発して、神意力と言葉を同時に飛ばす。


「ひぃ」


 ラムラントは怯えて後ずさる。

 ビュシエが、


「まだ戦える魔力は有していますね――」


 と言いながら巨大な<血魔力>のメイスを振るって、ラムラントの目の前の床を叩く。

 床はめり込んで破片の一部が周囲に飛ぶ。


「ひぃぃぁ」


 ラムラントの股間辺りからアンモニア臭が……。

 銀灰猫メト黒猫ロロが近付きつつ床の匂いを嗅ぎつつラムラントの近くの床に座る。

 と、ドヤ顔気味に俺たちを見たから、


「相棒とメト、そこはトイレではない。オシッコしちゃだめだ」


 と注意をすると耳を少し凹ませている。


「「ンン」」


 と喉音を響かせながらラムラントから離れた。

 一安心。美人さんの回りに猫砂はないからな。あのままだと、ラムラントの回りの床を片足で掻いて、ラムラントに向けて、『ここ、くちゃいなりお~』といったように、砂か土を掛けるそぶりを行ってしまう。


 それはそれで面白いとは思うが……。

 エヴァとエトアにも注意をされている二匹。

 

 背中の腕の手を拡げ、両手を上げているパセフティは、


「……我らの完敗、降伏した。そもそも最初からだ……我たちは生かされていた。戦いの最中もシュウヤ殿の動きには、我らに対して配慮があった。今さらだが、強い感謝を覚える……そして、ラムラント、気をしっかり持て!」


 と、パセフティが、オシッコを漏らしたラムラントに注意する。


「……はい……シュウヤ様はわざと姿を晒し、交渉を試みてくださったのに、わたしたちは……命を取られても仕方がない……」

「ふむ」

「ラムラント……」

「ハッ、お前たちも主と戦ったのか、いい度胸だ! 気に入ったぞ!」


 ケーゼンベルスが笑ったように吼えた。

 その声音と尻尾の揺れ具合を見たヴィーネとバーソロンたちが微笑む。

 パセフティとラムラントは、少し怯えていたが、ケーゼンベルスの態度を見て、視線が泳いで、俺を見ていた。

 とりあえず、


「上のボトムラウを降ろすとしよう」

「あぁ、はい……」


 パセフティとラムラントは見上げて頷く。


 <武行氣>で飛翔し――。

 下から天井のボトムラウに近付く。

 そのボトムラウの表面を囲う光属性の<破邪霊樹ノ尾>の硬い樹木に掌を当てて<破邪霊樹ノ尾>を意識し樹を消した。

 

 <魔布伸縮>で拘束されているボトムラウは慣性で落下。

 落下してきたボトムラウに向け――腕から新しい<魔布伸縮>を飛ばし、ボトムラウの体を拘束していた<魔布伸縮>とくっ付けた。

 そのボトムラウを床に下ろし、<魔布伸縮>を操作し、ボトムラウの口元を解放させた。


 そのボトムラウは、


「……完敗だ。降伏致します――」

「降伏は受け入れよう――」


 ボトムラウの体を拘束していた<魔布伸縮>をすべて消す。

 ボトムラウはバランスを崩す。

 倒れ掛かったから、前に出て、ボトムラウを体で支えてあげた。


「「「な……」」」


 あぁ、野郎の汗臭い匂いなんて嗅ぎたくねぇが、体が動いてしまった。

 ボトムラウの左足は<闇ノ一針>で突いたからな……。

 

 パセフティとラムラントとボトムラウは驚いている。

 

 直ぐに水神ノ血封書を出す。

 そして、《水癒ウォーター・キュア》を発動。

 <水血ノ混百療>も実行した。

 ボトムラウの左太腿はキュライスで肌色が見えないが、回復したようだ。


「あ、ありがとう、ございます……」


 と、ボトムラウは動揺したまま発言。


「歩けるなら離れてくれ」

「あ、はい!」



 ボトムラウは離れた。良し。


 ついでに、ラムラントの近くに《水浄化ピュリファイウォーター》を発動。

 《水癒ウォーター・キュア》も発動させた。


 癒やしの水球が弾けて灰色の肌が結構綺麗なラムラントを癒やしていった。


「え、わ、わたしにまで、ありがとうございます!」

「いいさ」


 臭いままなのは嫌すぎるだろうし。


「はい」


 ラムラントは微笑む。美人さんだから嬉しい。

 そのラムラントは片膝で床を突く。頭を垂れてきた。

 パセフティも片膝の頭を地面に降ろした。

 

「「シュウヤ様……」」


 と呟いてきた。やや遅れて、ボトムラウも同じく治療したばかりの片足を折るように片膝で床を突く。背中の太い腕は地面をついて頭を垂れた。


「シュウヤ様……我は……」

「いいんだ。ボトムラウ、お前も気が済んだだろう」

「……うぅ……んぁ……」


 ボトムラウは涙を流し始めた。

 え? なんで泣く。

 ヴィーネとエヴァに視線を向ける。


「ご主人様の優しさに触れたら、そうなります」

「ん、シュウヤは強くて優しい」

「「「ふふ」」」

 

 皆が同意するような雰囲気を醸し出してきた。

 照れるから、パセフティとラムラントとボトムラウに向け、


「……俺たちのことを説明しとく。俺たちの当初の目的は達成されている。【古バーヴァイ族の集落跡】の争いは無視できた立場だが、今後のことを考えて介入した」

「今後のこと……シュウヤ様は、黒髪で角がないが、デラバイン族たちの長であり、ケーゼンベルスを従えていると……」


 パセフティの言葉に頷いた。


「そうだ。一部では魔皇帝と呼ばれているが、正式なデラバイン族の長はバーソロンに変わりない。俺は助っ人の立場だ。で、そんな俺たちは【バーヴァイ平原】と【バーヴァイ城】と【ケーゼンベルスの魔樹海】と【源左サシィの槍斧ヶ丘】の地域を勢力下に治めている。【ローグバント山脈】の一部もそうだ。だから【バーヴァイ平原】と隣接している【古バーヴァイ族の集落跡】での争いが今後、周辺地域の安全保障に関わるかも知れないと判断しての介入だ。赤霊ベゲドアード団とは激突している。で、もう一つの勢力だった三腕のパセフティたちとなら話ができるかも知れないと思っての、今がある」


 パセフティとラムラントとボトムラウは黙ったまま頷く。

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