千二百六十一話 ボトムラウとパセフティとラムラントとの激闘
後退したボトムラウを<闇透纏視>で凝視。
ボトムラウは頭部を左右に振るい氣を取り直そうとしている。
三人の動きを見ながら――。
<血魔力>を体からわざと放出させつつ――。
足下に<生活魔法>の水を撒く。
パセフティは<魔闘術>系統を強めて、俺の右に回り込んできた。
<黒呪強瞑>のような<魔闘術>かな。
構わず<魔闘術>系統<魔闘術の仙極>を発動。
丹田を中心に溢れんばかりの魔力をコントロールしながら<武行氣>を発動し、ボトムラウへと前進しようとするが――。
「百戦錬磨のボトムラウだけが我らではない!」
とパセフティの声が斜め後方から響く。
パセフティは短槍を右から左へと振るってきた。
半身の姿勢のまま右手の黒衣の王の魔大斧を消す。
左手が持つ魔槍杖バルドークを斜め右に差し出し――。
パセフティの穂先を、螻蛄首と口金の太刀打ちの部分で受けながら――。
フリーとなった右手を魔槍杖バルドークの柄に当てて両手持ちに移行しつつ――。
その魔槍杖バルドークを下から右上と、ぐわりと回して、短槍を両手で握ったまま体が浮いていたパセフティを左へと放るように短槍ごと吹き飛ばした。
「――ぬおぁ」
「閣下――」
ラムラントが背中の片腕から複数の指先を伸ばし、短槍を手放していないパセフティの体を宙空で押さえて助けていた。
「――そこだァ!!!」
と、上からボトムラウの声だ。
背中の腕が持つ魔槍の突きを魔槍杖バルドークの柄で受ける。
即座に<山岳斧槍・滔天槍術>を意識。
更に左右の手が握る手斧が、左右から迫るが、その左右の手斧の攻撃を魔槍杖バルドークの紅斧刃と竜魔石で的確に防ぐ。
と、ボトムラウの片目が煌めいた。
炎の龍のようなモノがボトムラウに絡むと急に動きが加速するや否やボトムラウからボトムラウの分身が出た。
分身体のボトムラウは下段に手斧を振るう。
その下段斬りを、足下に下ろした魔槍杖バルドークの柄で受けながら後退。
本体のボトムラウは俺を追うように加速しながら左右の腕を振るう。
その手斧の連続攻撃を魔槍杖バルドークの柄で連続的に受けきった直後、分身体のボトムラウが近付いて片腕が突如として消える。と、その消えた片腕だけが眼前に現れ――。
ぐお――。
フックを食らった。
痛すぎる。片膝が揺れ体勢が崩れてしまうが<闘気玄装>を発動し持ち堪えた。
直ぐに一槍を――「風槍流を舐めるなよ――」と叫びながら、竜魔石をボトムラウ本体の腹に突き出し、その腹にぶち当てた。
ボトムラウは二つの手斧で竜魔石を見事に防いでいるように見えるが、その斧が腹にめり込んでまま体がくの字になって「ぐぉ――」と声を発しながら吹き飛ぶ。
流れるまま<龍豪閃>を繰り出し――。
ボトムラウの分身体を輪切りにして消し飛ばす。
そこに、俺との間合いを詰めていたラムラントとパセフティが、指剣と短槍を振るい突いてくる。
五合凌いだところで、細身のラムラントとパセフティが重なる瞬間を狙い<
ドッとした衝撃波共に二人は吹き飛び、伝令兵の二人と衝突し部屋の内装を破壊し壁と激突していた。
「「「――ぐぁ」」」
「閣下!」
ボトムラウが叫ぶ。
前傾姿勢で前進――。
そのボトムラウとの間合いを一瞬で槍圏内となる。
ボトムラウの眼前に見せるように〝わざと〟右手に黒衣の王の魔大斧を再召喚。
続けざま、左足を前に出した踏み込みから左手が握る魔槍杖バルドークで<刺突>のモーションを見せるフェイク。
ボトムラウは「ぬおぉ――」と<魔闘術>系統を強めると左右の手斧と、背中の腕が持つ魔槍を上向かせフェイクに掛かった。
直ぐに中段か下段を守る構えへと移行させるが遅い。
黒衣の王の魔大斧をコグロウの大針へと変更――。
右手を突き出すように、コグロウの大針で<闇ノ一針>を繰り出した。
コグロウの大針はボトムラウのキュライスをすり抜けたように、ボトムラウの太腿に突き刺さる。
ボトムラウの太腿と足の裏側から、その足の形を模った闇の魔力粒子が雨の如く斜め下に飛んで、床にボトムラウの片足の印が焼き付いた。
同時にボトムラウの片方の太腿と足の裏側から血飛沫が迸り、床と衝突すると、ボトムラウの片方の内部を巡る魔力が次々に寸断され、それが全身を駆け抜けていくのが<闇透纏視>でよく理解できた。
「――げぇ、う、ごぉ!?」
ボトムラウは、ろれつが回っていない。
「「ボトムラウ!?」」
復帰したパセフティとラムラントが奇声を発したボトムラウの名を叫ぶ。
直ぐにコグロウの大針を引き抜きながら――。
動けないボトムラウの顎を、右膝の<悪式・突鈍膝>でぶち抜いた。
「ぼごぇ――」
更なるボトムラウの追撃を狙うが――。
パセフティの背の腕と左手の掌に赤黒い魔力が集積する。
と、そこの集積の中心にマグマのような熱を帯びたモノが現れた。
パセフティは、その背の腕と左手を振るうと、その手から火球を生み出し飛ばしてくる。
右手のコグロウの大針を黒衣の王の魔大斧に変更。
その魔大斧を左上に掲げ、右上にも振るい赤黒い火球を払い落とした。
黒衣の王の魔大斧と衝突した繰赤黒い炎が散る。
それら散っていく魔力から〝黒衣の王〟の気配のような独特な魔力を感じ取るがまま<滔天仙正理大綱>を意識し、発動――。
散った闇属性が多い火の粉は自然と吸収した。
――魔力を得る。
「闇属性を吸う……そして、その黒い魔大斧は、魔神バーヴァイの
「そうだ」
「……いつ回収した物なんだ?」
「数時間ぐらい前だ」
「……なるほど、我らの攻撃を受けても一槍を崩さず、我らを圧倒する……その武力……<天賦の魔才>を持つと見た」
多種多様に名はあると思うが、正解だ。
パセフティの発言に肯定も否定もせず。
そのパセフティは目元を鋭くさせると、右手から赤黒い火球を放ってきた。
先ほどと同じ、ん? 違う異なる火球か――。
――火球は宙空で破裂するや否や無数の赤黒い礫となって飛来してきた。
――散弾銃かよ、と毒づくように言いたかったが、俄に、目の前に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を再召喚しつつ後退――。
「チッ、なんて勘の良さだ……しかし、その大きい盾に刻まれている〝八咫角〟と〝魔界九槍卿〟だと……そして、〝風槍流〟か……腰の書物に繋がっている魔線は……」
パセフティが語る間にも――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に無数の礫が衝突し、ドドドドッと連続的に爆発音が響いてきた。
その音を一つに集約させるように――。
大きな駒と似た<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を突進させた。
そのままパセフティへと大きな駒と似た<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を送る――。
「――初見で、我の<赤黒散弾>を防ぐ――ぐあ――」
大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を短槍と背中の腕で防ごうとしたパセフティだったが、防ぎきれず、背中の腕が変な方向に折れ曲がりながら壁に吹き飛んでいく。
「パセフティ様!」
片足がまだ震えているボトムラウを介抱していたラムラントは、そのボトムラウを捨てパセフティを追い掛けた。
ボトムラウは『え?』という表情を浮かべている。
少し可哀想だったが、まぁ君主が優先だよな。
その間に、シンプルな指輪の
『ゼメタスとアドモスに来い』と念話を送るように気持ちと共に魔力を
<血魔力>を体からわざと放出させつつ――。
足下に<生活魔法>の水を撒く。
「閣下、ゼメタスが今ここに!」
「閣下、アドモスですぞ!」
「おう。今、そこの三人と戦っている。二名の三腕の魔族のほうも掛かってくるなら倒して構わないが、ゼメタスとアドモスは他の三腕の魔族たちが入ってこないように俺の背後の部屋の出入り口を固めてくれ」
「「――承知」」
光魔沸夜叉将軍のゼメタスとアドモスは素早く移動。
背後からの増援は大丈夫だろう。
ラムラントとパセフティとボトムラウは回復ポーションと回復魔法を浴びて体力は回復しているようだ。
が、ボトムラウはコグロウの大針で使用した<闇ノ一針>が効いているのか、満足に歩けていない。
背中の太い腕が持つ魔槍を足代わりにしている。
パセフティは、
「……背後の魔界騎士のような存在を我らに差し向けないのか……」
「そうだ。これは、俺なりの流儀だから気にせず、掛かってこい」
「……」
パセフティは双眸を揺らす。
体を震わせて、
「フハハ――」
と笑いながら突進してきた。
ゼロコンマ数秒も経たず、己の体から赤黒い魔力を発していたパセフティは、それらの魔力を体に纏わせるように加速――俺との間合いを潰す。
槍圏内となったところで、右手の短槍がブレた。
パセフティは、
「<四眼貫き>――」
と短槍のスキルを繰り出す。
黒衣の王の魔大斧を斜め下に傾ける。
胸元に迫った<四眼貫き>の突きの初撃を、その黒衣の王の魔大斧で防いだ刹那――。
<水月血闘法・水仙>を実行。
様々な魔力と<血魔力>を得た水鴉が俺の周囲に発生――。
更に<闘気玄装>――。
<龍神・魔力纏>――。
<仙魔・
などの<魔闘術>系統も連続発動させる。
ゼロコンマ数秒の経たない間に分身が幾つも出来上がった。
パセフティは「な!?」と驚きながらも、素早い動作で俺の幻影の数体を得物で突く――。
短槍で貫かれた俺の幻影は黒衣の王の魔大斧と魔槍杖バルドークを持ちながら血飛沫となって消えた。
本体の俺はパセフティの側面に移動しながら――。
魔槍杖バルドークの<血龍仙閃>をパセフティの足下に送る。
パセフティは背中の手に黒い炎を発した魔剣を下に傾けた状態で召喚し、魔槍杖バルドークの紅斧刃の<血龍仙閃>を防ぐ。が、完全には防げず――。
魔剣の腹が凹んだようにも見えたまま背中の腕と、その魔剣が右足に衝突すると力に押されて横に一回転――。
その回転しているパセフティの胴体に黒衣の王の魔大斧で<刺突>をぶちかました。
「ぐあ――」
「パセフティ様――」
動揺したラムラントの隙を逃さず――。
魔槍杖バルドークでラムラントの胴に<血穿>を繰り出そうとしたが「――ぬおぁぁ」と前に出たボトムラムが体勢を崩しながらも、魔槍を突き出してきた。
魔槍杖バルドークは普通に突き出すだけに留め――。
ボトムラウが出した魔槍に紅矛を衝突させながら、そのボトムラウの懐に潜り込む。
ボトムラウの伸びきった魔槍を肩越しに感じながら――短く持った魔槍杖バルドークと黒衣の王の魔大斧で<双豪閃>――ボトムラウは両手の手斧で腹を守る。魔槍杖バルドークの柄と魔大斧の柄の打撃を、両手の手斧で防ごうとする――が、防げず、腹と腕に<双豪閃>の柄の打撃を受けて吹き飛んだ。
直ぐに<魔布伸縮>を伸ばし、ボトムラウを拘束しながら天井に運び、更に<破邪霊樹ノ尾>も使用。
ボトムラウを天井に張り付けにした。
「ボトムラウが……」
「な、なんてこと……」
パセフティとラムラントは両手を下ろす。
戦意喪失したかな。
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