千二百六十話 ボトムラウたちとの戦い

 <無影歩>を維持したまま少し近付いた。

 五人の三腕の魔族たちは、まだ気付かない。

 椅子に腰掛けているパセフティは、


「ボトムラウ、〝黒衣の王〟の装備は我らの力。それは同意だ。しかし、相手には魔神の一柱と言える魔皇獣咆ケーゼンベルスがいる。魔界王子テーバロンテを滅したのも、その魔皇獣咆ケーゼンベルスが原因かも知れぬのだぞ?」

「はい、我でもケーゼンベルスに勝てると断言はできませぬ」


 ボトムラウは勝てないとは言ったが、多少は戦いには自信があるニュアンスだ。見た目通りの猛将なんだろう。


 女性の魔族のラムラントが、


「ボトムラウは強い。もしかしたらケーゼンベルスに勝てるかも知れない。ですが、それ以外にも強者たちがいる……」


 と発言。

 ボトムラウは皆を見据え、


「……デラバイン族の強者、吸血神ルグナドと魔毒の女神ミセアの眷属たちだな」


 と発言。


「はい、未知の少数精鋭……敵にしていい存在ではないかも知れない。強者として名が出ていたバズとパタルなどの上等連絡兵がすべて倒された。正直、私が知るバズとパタルが倒された状況が理解できない。生き残ることに長けていた二人ですからね。閣下の魔奇兵もバリィアンの同胞たちと共に多数が討ち死にしました。更に、過去の百足高魔族ハイ・デアンホザーの軍が一夜に消えた事象と流浪の魔界騎士出現の件も関係があるかもです……」

「あの件か……馬魔獣に乗っていたと情報があるが……」

「はい……魔界王子テーバロンテを失ったとはいえ、残党は多い。更に数千人規模です。それが一夜に消えるのは、不自然すぎる」


 光魔騎士グラドが、流浪の魔界騎士か。

 馬魔獣ベイルも噂になっていたんだな。


 ラムラントの女性魔族は、皆を見てから、


「しかし、そんなケーゼンベルスと未知の敵の前に、私たちの現状をよく考えるべきかと。赤霊ベゲドアード団、レン家、ポーチュルのモンスター、黒き大魔獣ルガバンティとの戦いで、アイド麾下千人隊隊長メバラ、ドドモルル、ポシンタ、アリーンなど多数の戦死者が出ている。ですから今は〝黒衣の王〟に拘っている時ではないかと」


 とボトムラウを諭すように語る。

 大柄のボトムラウも納得するように、


「犠牲は特務隊もだ……」


 と呟いた。椅子に深々と座ったままのパセフティは、二人の意見を聞いて思案氣な表情を浮かべている。


 三腕の魔族の大将は、部下の意見を聞くタイプか。


 三腕の魔族の言葉は理解できるし、今の話を聞けば聞くほど交渉を試みる価値はあると分かる。

 このまま<無影歩>を維持して暗殺を実行するのも一つの手だが……<無影歩>は解いて交渉を試みるか。


 戦いとなったら黒衣の王の魔大斧を試すか。

 魔槍杖バルドークを使わせてもらうか。


 一応、魔皇獣耳輪クリスセントラルに意識し魔力を込めた。


 ケーゼンベルスに俺の位置は知らせておく。


 魔皇獣耳輪クリスセントラルでケーゼンベルスと念話ができれば便利なんだが、ケーゼンベルスだけが俺に念話を送れるだけのようだからな。


 そして、この場にいる三腕の魔族たちには正直に言おうか。


 <無影歩>を解いた瞬間――。

 左側のボトムラウと右側のラムラントが前に出て、


「――何やつか!」

「侵入者!?」

「黒髪……」


 と発言。

 ボトムラウは背中の腕の手が握っている魔槍の穂先を此方に向ける。

 穂先の形は二等辺三角形のシンプルな素槍タイプ。ラムラントは両手の爪を尖らせる。指にも見える。長剣は抜いていない。

 伝令兵の二人は慌てた様子で振り返り、


「「げぇ」」


 と驚いて手斧を片腕に出していたが腰を落とし倒れていた。

 

 俺は、その様子を見ながら……無手のまま両手を上げながら近付いた。


「こんにちは、皆さん、俺の名はシュウヤ。貴方たちの兵士が戦っている存在の代表です」

「……な、い、いつからそこに……」

「先ほどからです。クオラとカキと共に、この宿営地に侵入させてもらった。だから貴方たちの会話は、ある程度聞かせてもらいました」

「「「「「……」」」」」


 皆、黙る。

 ボトムラウは<魔闘術>系統を強めた。

 背中の太い片腕の手が握る魔槍を下に傾けた。

 穂先の角度も微妙に変化。


 交渉は無理か? 


 俺も<血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動。


 ボトムラウは、


「良い度胸だが、我らを舐めすぎだ黒髪――」


 と宣言すると前傾姿勢で前進してきた。

 パセフティは、


「ボトムラム、仕方ない――<赤黒鉄爆>――」


 と赤黒い魔力の粉塵爆発が連鎖しているような衝撃波がボトムラムを超えていきなり飛来。

 俄に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を出して衝撃波を防ぐ。

 部屋の中央が爆発したが、伝令兵の二人はラムラントが自らの数本の指か爪をロープのように伸ばし、二人の体に絡めて引っ張り上げて、背後に飛ばし助けてあげていた。


 そして、<赤黒鉄爆>というスキルか魔法の衝撃波のような攻撃は防いだが……。

 グレネードを喰らったようなチリチリとした音が周囲に響きまくる。


 

 周囲に赤黒い煙が立ち昇るまま衝撃波の影響で背後に移動したが、右手に黒衣の王の魔大斧を召喚。

 左手に魔槍杖バルドークを召喚。

 <柔鬼紅刃>を意識し、発動。


 穂先を紅斧刃に変更させた。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消した。


 すると、ボトムラウが赤黒い煙を消し飛ばすように、


「ぬおぉぉ――」


 と叫びながら両手に手斧を召喚しつつ接近戦を仕掛けて来た。

 背中の腕が持つ魔槍が<刺突>系の突き技か――。


 その魔槍の穂先に向け黒衣の王の魔大斧を突き出して防ぐ。


 左手の魔槍杖バルドークの柄でボトムラムの右手と左手の手斧の攻撃を連続的に防いだ。


 更に加速したボトムラウは背中の魔槍を振るってきた。


 それを屈んで避けつつ左回転を行い――。

 魔槍杖バルドークの<豪閃>をボトムラウの右手が持つ手斧と、その体に衝突させた。


 ボトムラウは自らの手斧にも押される形となって「くっ」と苦悶の表情を浮かべて後退。


 と、パセフティの短槍の穂先が眼前に迫る。

 それを見ながら<水月血闘法>を発動――。

 一段階加速したまま横に頭部を傾け突き技を避ける。


 そこに後退していたボトムラウが駆けながら振るった手斧が横から迫るが、それを見るように僅かに後退し避けた。


 即座に、ボトムラウに反撃をと、視界にラムラントの動きが入る。

 狙いを変え、黒衣の王の魔大斧を持つ右腕を持ち上げる機動の<龍豪閃>を左から俺に迫ってきたラムラントに繰り出した。


 魔大斧の刃はラムラントの指先剣と衝突し<龍豪閃>は防がれた。


 が、ラムラントは体の線が細い、衝撃と黒衣の王の魔大斧に押されて、<龍豪閃>の力は消せず「きゃぁ」と悲鳴を発して転がっていく。

 と、そこにボトムラウが左手の手斧を振るってきた。

 その手斧を魔槍杖バルドークの紅斧刃で受け止めた。直ぐに柄を回し紅斧刃で手斧の刃を引っ掛けて回転させながら、「ぬぉ、なんて力だ――」と前に出る。

 パセフティはボトムラウの体格が邪魔で攻撃ができず。

 先にボトムラウの顔面へと黒衣の王の魔大斧の石突を送る――。

 が、ボトムラウは頭部を上げて、


「ぐぁ――」


 と石突を避けたが顎先を掠める。

 ボトムラウは蹌踉めきながら背後に後退――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る