千二百五十九話 パセフティとラムラントとボトムラウ
三人の傍に置いてある黒い煙が漂う香具のような魔道具が揺れているが……。
幸い、皆に<無影歩>がバレることはなかった。
高度な探知結界が可能な魔道具なら<無影歩>は破れられると思うが……。
対神界セウロス用の魔道具もないようだ。
濃厚な神界セウロス側と、三腕の魔族たちはあまり戦ったことがないってことかな。
【古バーヴァイ族の集落跡】の内部、地方がここだからな。
と考えながら室内の偵察用ドローンを消した。
中央にいる三人は厳しい表情を浮かべたまま。
その三人の装備は、他の三腕の魔族とは少々異なり豪華だ。
専用の外套を羽織る姿は格好いい。
胸には手斧と徽章が付いていた。
そして、中央の奥にいる男性が指揮官かな。
彼がパセフティと予想。
茶色の髪に鼻筋が高い。顎骨はしっかりとしている。
中肉中背で背中の腕は少し長い。
胸元が開いた外套越しに、魔力を内包した黒い胸防具と腰ベルトが見えた。
右手には黒い炎が時々発せられている短槍か杖のような武器を持つ。
黒い装備類か、あれも〝黒衣の王の魔大斧〟と同じく〝黒衣の王〟と関連した装備類か?
魔神バーヴァイ様の幻影は、
『この聖域を侵し狙っている連中と……他の〝黒衣の王〟の装備類を不正に得て我が物顔で使用している者たちと、<祭祀大綱権>を不正に得て、我やバーヴァイ族の高位の者の力、魔力、精神、スキルを己に取り込んでいるフザケタ存在たちを滅してくれ……』
と語っていた。
そして、直ぐにでも左手と背中の手に武器やアイテムは召喚できそうだ。彼も手斧を扱うんだろうか。
一方、右側に立つ細身の魔族は紅一点。
茶色の髪は長い。耳も少し長め。片耳にピアスを嵌めていた。
細い眉に双眸は切れ長だ。
濃いアイラインには魔力が宿っていると分かる。
鼻筋は高い、ダークレッドな口紅は魅惑的。
肌は灰色が基調で少しダークエルフと似ているか。
細い左腕の肘から上を守るポールショルダーの形は歪だが、それがまた渋い。
右腕は露出している。
背中の腕は、女性らしさが出ていて、細長い。
指貫の手袋を嵌めている。両手と背中の指先の爪は伸びているから、格闘系でもある?
背中の手は六本指なのか。
両手は五本指っぽいがここからではまだ不明か。
左側に立つ三腕の魔族はこの部屋の中では一番の大柄で男性だ。
背の大きな腕の手に魔槍を持っている。
両腕は胸元で組んでいた。
外套と装甲には魔力がかなり内包されている。
猛将の雰囲気を醸し出していた。
その大柄の男性は此方を見た――。
片方の眼球の表面に魔法陣が浮かぶ。
魔法陣の中には炎の龍のようなモノが行き交っていた。
<無影歩>がバレたか?
すると、伝令兵の三腕の魔族は、
「失礼します、伝令兵のクオラであります」
「同じく、カキであります」
「「偵察から帰還しました!」」
二人は声を揃えて宣言するように名乗る。
大柄で厳つい三腕の魔族は「ふむ……」と言いながら胸元の両腕を解いた。
クオラとカキを見る。俺から視線を外す。
厳つい魔族の双眸は鋭い。
先ほどの三腕の魔族と同じく二眼の左右斜めに細い眼が二つある。
その眼は眉毛にも見えるが眉毛は別だ。彼も四眼、皆、四眼三腕の魔族ってことか。
開いた外套から覗かせる胸元の鎧も分厚い。太腿の防具のキュライスも太いし、魔力が濃厚だ。猛将の雰囲気を醸し出している。
その厳つい三腕の魔族は、
「閣下が用意した二人だな」
と発言して、女性の魔族を見る。
<闇透纏視>のような魔眼持ちなら、俺の<無影歩>は看破されるとは思うが、まだ、大丈夫らしい。
ここは三腕の魔族の本営だ。
俺の<無影歩>の技術がそれだけ高いってことだと思うが、三腕の魔族たちにも油断はあるだろうな。女性の魔族は頷く。
表情は少し憂いを帯びている。
「これで敵の本隊の正体がある程度分かればいいのですが……」
右手の指先を唇に当てて女性らしい動作を取りながら傍にいるパセフティたちへ視線を向けた。
パセフティと目される中央の魔族は、頷いて、
「あぁ、一先ずの朗報を期待しよう」
と短く発言。右側の女性の魔族は頷いて、
「……はい。そして、パセフティ様の予想は的中です」
と発言した。
上等連絡兵と特務隊は悉く返り討ちにあったと、先ほどの会話にあった。たぶんヴィーネたちに倒されたってことだろう。
中央の三腕の魔族は、またも頷いて、
「クオラとカキには<バーヴァイの手斧>を使うな。見張りに徹しろと命じていたからな」
と発言。
左の男性魔族と右の女性魔族は、
「「はい」」
と返事をしてから頭を下げた。
「うむ」
と、物静かに肯定し、傍にいるリーダー格の二人ではなく、伝令兵のクオラとカキを見る。
そのクオラとカキは胸元に手を当て三人のお偉いさんに向け敬礼。
直ぐに頭部を下げる。二人の茶色の髪は短い。
背中の腕は右肩の真上に肘裏を当てるように湾曲させている。
六つの指を拡げてパーのまま、手の甲を、三人のお偉いさんたちに見せていた。
手の甲の表面には手斧の魔印と魔法陣が刻まれてあった。
その皮膚の入れ墨のような魔印と魔法陣から、半透明な魔法陣が浮き上がっていく。
あの背中の片腕は三腕の魔族のアイデンティティーかな。
顔認証ならぬ腕認証もできそうだ。
そして、三腕を使った挨拶の仕方は今まで見たことがない。
未知の文化で面白い。
先ほどカレウドスコープスキャンした際に、バリィアンと名が表示されていたが、そのバリィアンが、彼ら三腕の魔族の名だろうか。
中央の三腕の魔族たちは目を合わせる。
右側の細身の女性魔族は、
「クオラとカキ、挨拶はそれぐらいでいいでしょう。二人は遠慮せず、寄りなさい。そして、得た情報を早く閣下に伝えなさい」
と命令口調で発言。副官的な印象を抱かせる。
美人さんだから、敵対したくないが……。
腰には長剣を差していた。
「「はい――」」
クオラとカキは返事をしてから足早に三人のリーダー格に近付いた。
大柄の三腕の魔族は正面を向く。
クオラとカキは足を止めると、
「〝黒衣の王〟と〝炎幻の四腕〟は、新手の集団に奪われた可能性が高いです」
「……くっ、我らの宿願を……」
パセフティらしき中央の魔族は双眸に力が入った。
顔の皮膚に幾つもの筋が走る。
血管の浮き上がり方は
外套で大部分が隠れているが、節々から赤黒い魔力が噴き上がっている。
<血魔力>ではないと思うが、<魔闘術>系統を強めたか。
猛将の三腕の魔族も、
「やはり……」
と発言すると、足下からミシッと音を響かせる。
背中の太い腕が持つ魔槍の石突が床にめり込んでいた。
女性は魔族は溜め息を吐いて、
「……その新手は魔皇獣咆ケーゼンベルスと連携しているとの情報は本当なのですか?」
クオラとカキは頷き、
「はい、本当です」
「紅蓮の炎は強力でした……」
と発言。
暫し、重たい空気が流れる。
「「「……」」」
ここで、<無影歩>を解いて、『どうもこんにちは』とは言えない雰囲気だ。どうしようか。
副官的な女性は、
「一先ず、赤霊ベゲドアード団とレン家はどうなっているのです?」
「赤霊ベゲドアード団は、その新手の集団と激突し、敗走続きです。レン家は、新手とはまだ位置的に戦っていないと思われます」
「距離的に分かりますが、ポーチュルのモンスターと黒き大魔獣ルガバンティはレン家と戦っているだけなのですね」
「「はい」」
クオラとカキの言葉が、室内に谺したような気がした。
またも沈黙が続く。
椅子に腰掛けた中央の魔族は、
「……赤霊ベゲドアード団の敗走が確実ならば、我らには嬉しい出来事だが……魔神バーヴァイと魔神レンブラントの祭壇は崩れ、その祭壇の秘宝は、その少数の新手に奪取された可能性が高いというわけか……で、ラムラントとボトムラウ、どうするのだ。我らの兵はその者たちに倒されまくっていると聞いている」
女性の魔族と大柄の猛将っぽい魔族は頷くと、目を合わせてから、女性の魔族が、
「……ボトムラウにも案はあると思いますが、前線部隊を指揮しているアイドたちを囮にすべきかと。ここを捨て、私たちはラージマデルの古道か、【メイジナの大街】と【サネハダ街道街】に通じている【コバータ街道】から撤退すべきです。メイジナの大街に出たらメイジナ海は直ぐですから、そこで再起を図るのも手かと思います」
「否だ。〝黒衣の王〟の装備は我らの力ぞ……それをみすみす奪われ、この地を撤退など……」
ボトムラウの語りは、猛将の雰囲気そのままだな。
さて……ここで<無影歩>を解くか?
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