千百十八話 刑務所にいた魔族たちと【グラナダの道】たち


 イスラさんは魔剣ラガンハッシュを手元から消した。

 小袋が付いた腰ベルトがアイテムボックスかな。


 そのイスラさんとミューラー隊長とバスラートさんを含め、【グラナダの道】の面々が抱擁していく。


 金属のガチャガチャという音が響いた。


 イスラさんは魔鋼族ベルマランたち一人一人と握手しつつ、胸を叩いて軍隊式の敬礼。


 またも金属音が響く。


 ――イスラさんの両腕は金属なのか?

 非常に洗練されているような……。

 五本の指に掌も金属のように見えるが……どうやって作ったのか聞きたいぐらい滑らかそうな金属の指と手の甲……あ、人族に似た皮膚もある。


 骨と鋼と血肉が絶妙に融合したトランスヒューマン的。

 アクセルマギナを連想する。

 戦闘型デバイスの風防硝子の真上には、ホログラムのアクセルマギナとガードナーマリオルスが出現し、イスラさんを凝視していた。ガードナーマリオルスは度々出現して録画することがあるが、今も録画中かな。


 二人とも気になるようだ。


 そして、結構な金属音が響きまくったから、廊下の角を見たが、だれも来ない。魔素の反応もなし。

 良し……一先ずは安全。

 

 強制収容所や刑務所を管理する側の歯の魔族たちはある程度倒し切ったようだ。


 イスラさんは俺のほうに頭部を一瞬向けてから、【グラナダの道】たちに向け、

 

「――古の故郷を知る同胞たちとの出会いは、私も嬉しい。だが……まずは、シュウヤ殿に礼を言おうか」

「そうですな。我々もシュウヤ殿のお陰でここに辿り着けたのです」


 ミューラー隊長がそう発言。

 【グラナダの道】の面々も頷く。

 

 イスラさんは頷き、


「知っている……シュウヤ殿は、ロズコ救出のためにここに来られた」


 と言いつつ、俺の<血鎖探訪ブラッドダウジング>を確認し、


「……そして、ここを守っていた魔歯魔族トラガンなどを倒してくれたと聞いている。更に、そこの焼き切れた死体の一部は集積官のリダヒの物。そいつは背後のハトメルの魔袋集積場と狩り場の管理者で、同時に凄く強かった。私も……否、私は、虜囚の身に甘んじていた……が、そいつをシュウヤ殿が倒してくれたのだ」


 イスラさんがそう語ると、囚われていた方々とロズコさんと【グラナダの道】の魔鋼族ベルマランたちが一斉に俺を見てきた。


 その【グラナダの道】の一部は直ぐに此方に背を向けて魔銃を廊下側に構える。

 その数は三十人以上。


 イスラさんは、ミューラー隊長たちに会釈し、ロズコさんにも会釈してから、【グラナダの道】の皆から離れる。


 俺たちの近くに来た。

 と、片膝で床を突き頭を垂れる。


「――シュウヤ殿、キサラ殿、ロロ殿、挨拶が遅れて済まない。改めて礼を言う。同胞、否、ここにいる皆が救われたのは、シュウヤ殿たちのお陰である。ありがとうございます。そして、魔界王子テーバロンテの討伐、おめでとうございます――」

 

 丁寧に礼を言ってくれた。


「あ、はい」

「はい」

「にゃ~」


 キサラと黒猫ロロも応えた。


「「「え?」」」

「「「な!?」」」


 【グラナダの道】の魔鋼族ベルマランの方々は驚く。

 魔界王子テーバロンテ討伐の件か。戦いの最中で、話をしている余裕なんてなかったからな。


 ロズコさんはミジャイに、


「知らなかったのか?」

「あぁ、共闘といっても殆どの魔歯魔族トラガンは陛下とキサラ様に神獣ロロ様が倒していたからな」


 とミジャイが小声で応えると、ロズコさんは「おぉ~」と小声で反応。


 ミジャイは自慢気な表情を浮かべている。

 牢獄の中にいた方々は少し笑顔を見せている。

 【グラナダの道】と自分たちも同じような反応を示したからだろう。これで元囚人の方々も多少は俺たちを信じたかな。

 

『しかし、魔界王子テーバロンテは上級神だぞ……』


 と発言していた頭部が二つある魔族の方は笑顔ではない。

 上半身が鋼っぽい皮膚で下半身が武術家らしいズボンを穿いている方は、俺を見続けている。


 双眸は四対、八つの視界を持つんだろうか。

 腕と足は二本ずつで普通だった。

 普通に片方の頭部に備わる口からの発言だったが、バーヴァイ地方の言語だったし、興味深い方だ。


 が、とりあえずはイスラさんに手を差し出して――。


「――イスラさん、頭を上げてください。【バードイン迷宮】にはまだ何かあるようですからね」

「……あ、どうも、はい――」


 とイスラさんは俺の手を握り立ち上がる。

 感触は普通の肌だと分かるが、金属っぽい部分もあった。

 そのイスラさんは、


「……魔歯魔族トラガンたちの大半を倒されたようですが……ここの監督官の魔歯ソウメルや百足魔族デアンホザー部隊などもシュウヤ殿たちが倒されたのですか?」


 と聞いてきた。

 皆と廊下の死体の破片を見て、


「魔歯ソウメルは、今倒した存在が集積官のリダヒだったのなら、倒してはいない。他の階層にいるか逃げたかも知れないです。地上では百足魔族デアンホザー部隊が、他の魔族たちと戦っていました」

「そうですか……」


 イスラさんはそう呟くように発言。

 ミューラー隊長の横に並ぶバスラートさんも、


「シュウヤ殿、先ほどはありがとうございました」

「俺たちの恩人です!」


 と発言。

 すると、ロズコさんが、


「団長を受け入れてくれた魔英雄様。俺も部下にお願いします」

「当然そのつもりだ。ミジャイと共に頼む」

「はい!」

「ロズコ、バーヴァイ城には、残りの魔傭兵ラジャガ戦団がいるからな」

「あぁ、分かった。特攻隊長リィスアにマタア兄弟も健在か?」

「おう、生きている」

「あはは、再会が楽しみだ」


 特攻隊長リィスアにマタア兄弟の名は初耳。

 バーヴァイ城で魔傭兵ラジャガ戦団の方々は見ているが、まだちゃんと一人一人喋ってないから、顔と名前が一致しない。


 魔鋼族ベルマランたちは俺たちを交互に見ていく。

 他の魔鋼族ベルマランたちは、


「「――シュウヤ殿とキサラ殿とロロ殿、ありがとうございました」」

「――ありがとうございました! シュウヤ殿たちが魔歯魔族トラガンを倒し、魔鋼扉を突破しなければ、あの廊下の激戦は今も続き、下手したら、未知の魔族たちに挟み撃ちにされていた可能性もあった!」


 その発言に皆が響めく。

 更に太い重機関銃のような武器を持ち、体格が大きい紫色と赤色の稲妻のような模様が兜と鎧に刻まれている【グラナダの道】の方が、


「……確かに、地上戦は激戦だったからな。ここを守る魔界王子テーバロンテの眷属以外にも、戦っている者たちは多かった。そして、彼奴らの目的は……俺たちとは異なるようだな」


 と発言。

 斜め前にいるミューラー隊長も、


「あぁ、ヴァイスンの言う通りだろう」


 と発言。

 太い重機関銃のような武器を持つのはヴァイスンさんか。

 そして、空から見ていた地上戦、【バードイン迷宮】の出入り口付近の戦いを思い出しつつ、ミューラー隊長に、


「【バードイン迷宮】の出入り口辺りの地上戦は、少し観察していました。魔族は多種多様で非常に混沌としていた。あの中に名前が分かる勢力がいるなら教えてください」


 とお願いした。

 ミューラー隊長は、胸元に手を当ててから、


「はい、【バードイン迷宮】の出入り口付近の戦いは激戦でしたので……見た範囲、戦った範囲となりますが……」

「それでいいです」


 キサラともアイコンタクト。

 キサラも頷いた。


 ミューラー隊長は頷いて、


「……赤業魔ガニーナの眷属らしき者たち、多腕魔王シーヌギュフナンの眷属共、悪神デサロビアの眷属のアーグン共、死皇パミューラの眷属らしき蒼炎髑髏の戦士たち……【死賢の絶対者リッチ・アブソルート】の眷属たち……堕落の王魔トドグ・ゴグの復活の証しのハイゴブリンと目される者たち、魔界王子テーバロンテの眷属の百足魔族デアンホザー、恐王ノクターの眷属に、悪神ギュラゼルバンの眷属もいましたね」


 と教えてくれた。皆響めく。

 が、その情報を聞いても、何となくしか分からない。

 強そうな蒼炎髑髏の戦士が、死皇パミューラの眷属ってことかな。【死賢の絶対者リッチ・アブソルート】は、どこかで聞いた名だ。


 すると、ロズコさんが、


「……シュウヤ殿たちと【グラナダの道】たちは、その激戦の中をここまで……」


 頷いて、


「ミューラー隊長、情報をありがとう」

「当然です……【グラナダの道】――」

「「「――【グラナダの道】!」」」


 【グラナダの道】と叫び、胸元に手を当てる魔鋼族ベルマランたちが渋い。イスラさんもやや遅れて、同じポーズを俺に示してくれた。


 皆にラ・ケラーダを返す。

 そして、


「俺たちが【バードイン迷宮】に到着した頃も激戦でした。しかし、俺は気配殺しのスキルを用いたから、戦わず侵入できたんです。それと、地上には仲間を待機させています」

「なんと、お仲間が!」

 

 ロズコさんがそう発言。

 ミジャイが、


「ロズコ、陛下にぬかりはない。そして、陛下、この後はどうするのですか? 目的は達成されたと思いますが」

「あぁ、どうせなら少し探索するか……ここのボスでもある魔歯ソウメルも倒していないんだからな」

「分かりました。付いていきます」

「おう」


 キサラを見ると、ヴィーネたちに血文字で連絡していた。

 俺も、


『ヴィーネ、キッカ、無事にロズコさん、もうロズコでいいか、魔傭兵ラジャガ戦団の仲間を救出した。で、仲良くなった【グラナダの道】たちと、刑務所に囚われていた方々も一緒だ』

『はい、聞いています。こちらも少し戦いとなりましたが、すべて潰しています』

『了解した。こちらは少し探索を兼ねつつ、魔界王子テーバロンテの眷属の魔歯ソウメル打倒を狙う。見つからなかったら上に戻る予定だ』

『分かりました』


 そんな血文字連絡を行っていると、


「……魔界王子テーバロンテを倒したのも納得だが……シュウヤ殿は魔界王子テーバロンテと敵対していた魔界騎士なのだろうか。<血魔力>からして、吸血神ルグナド様の秘密の部隊とか?」

「吸血神ルグナド様か……ありえるが、<血魔力>を扱う存在は、吸血鬼ヴァンパイア以外にもいるからな。そして、この地方ならば、悪神ギュラゼルバン、恐王ノクター、魔翼の花嫁レンシサ、鳴神ハヴォスなどの魔界騎士が考えられるが……」

「それはないだろう。それらの神々に所属する魔界騎士ならば、我らのことなど考えず、魔歯魔族ごと我らを蹂躙するはずだ。……魔界王子テーバロンテと敵対する魔界騎士だとしても、放浪している魔界騎士だろう……」

「あぁ……」


 魔鋼族ベルマランたちがそう予想していた。

 ヘルメが神聖ルシヴァル大帝国の下りを説明したそうにしていたから、「ヘルメ、今はいい」と予め止めた。


「は、はい」


 すると、刑務所の中にいた方が一人前に出て、


「俺もここを出るまでお供したいが、よろしいか!」

「俺も頼む!」

「私も頼もう!」

「「「俺も頼みます」」」

「私も頼む」


 と他の方々も次々に発言。

 頭部が二つある方も、


「お、オレも頼む……」


 おお、受け入れよう。頭が二つある魔族と理性的に話ができるとか、あんまりないだろうし。

 そのことは言わず、


「分かりました。戦いになるかもしれないですが」

「「「はい」」」

「構いません!」

「戦いになったら、オレたちも貢献するぜ」

「あぁ、ハトメル狩りには飽き飽きしていた。魔界王子テーバロンテの眷属共が生きているなら、戦うぜ!!」

「「おう!!」」


 刑務所に囚われていた魔族たちは気合い十分だ。


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