千百十九話 血のメスの<血鎖の饗宴>と【バードイン迷宮】の探索の開始


 イスラさんが、


「シュウヤ殿、私も行動を共にしたい。ロズコたちと一緒に仲間に加えてもらえないだろうか」

 

 と遠慮気味に聞いてきた。

 魔歯ソウメルや魔界王子テーバロンテの眷属に恨みを持つのは当然だろうし、元囚人の魔族たちと仲間の感覚が強いだろう。【グラナダの道】と合流すると思ったが……。

 とりあえず、


「歓迎します」

「にゃ」


 相棒も了承。その黒猫ロロは香箱座りとなる。

 落ち着いた姿勢だ。小さい頭部から一気に背から尻尾までを撫でたくなったが、今はしない。


「……良かった」


 イスラさんの声は籠もっているが、嬉しそうだと分かる。

 頷いて、


「しかし……」


 と言いながらミューラー隊長たちに視線を向けた。

 イスラさんは頷き、少し間を空ける。


「……マカラ族と魔鋼族ベルマランの象徴を探し求めてきた同胞たちには悪いが、私は私なのだ。勿論、同胞と久しぶりに会話できて嬉しかった。……故郷も思い出した……」


 と語り、また間を空けた。

 ミューラー隊長たち【グラナダの道】の皆は、


「はい、そうですよね。いきなり伝説と言われても、当然の反応です」

「「「あぁ」」」

「……オレたちは故郷の【無窮のグラナダ】に戻るため、伝説と象徴を求めてここに来たが、イスラ殿にはイスラ殿の考えがあるのは当然だ。そして、俺たち以上に魔界王子テーバロンテに苦しめられていたのだからな」

「牢獄で苦しみを分かち合っていた魔族たちとの仲もあるだろう」

「あぁ、俺たちも俺たちで色々とあったが、イスラさんたちよりはマシだ」

「「たしかに」」


 と、イスラさんとマカラ族への想いを語る。ヴァイスンさんの声が一段と野太い。

 正直、皆渋い声で格好いいから好感が持てる。

 ……【無窮のグラナダ】が魔鋼族ベルマランの故郷か。

 グラドとバーソロンに魔力を〝列強魔軍地図〟へと送ってもらった際に〝列強魔軍地図〟に書き込まれた地名にあった。イスラさんは頷いて、


「そうだな、刑務所で長い時を共に過ごした魔族たちの中には、喧嘩した者もいるが……」


 と言いながら、ロズコと元囚人の魔族たちを見て、


「皆仲間だ……」


 と発言。

 元囚人の魔族とロズコたちは、


「「「鋼魔族……」」」

「俺も同じ想いだぜ、鋼の姐御!」

「「鋼の魔剣使い……」」

「「「……」」」


 ロズコと数人の魔族は、イスラさんと仲が良かったようだ。

 鋼の姐御とか言われているし。

 何も言わず、イスラさんを凝視している魔族もいた。


 囚人の中で派閥のような物があったと予想するが……。


 イスラさんは「ふふ」とくぐもった声を発した。

 微笑んだと分かる。


 そのイスラさんは、ミューラー隊長たちに向け、


「だが、私は、皆が期待しているような伝説のマカラ族ではない……魔界王子テーバロンテに負けて捕まり、虜囚の身に甘んじていたマカラ族の生き残りが……私なのだ。そして、たまたま象徴の魔剣を扱えるマカラ族に過ぎない」


 と自己憐憫気味に発言した。

 イスラさんの心情を聞いたミューラー隊長は頷いた。

 灰色の多い鋼の兜と鎧は似合う。

 他の魔鋼族ベルマランたちは、その体が微妙に揺れたように見えた。

 イスラさんは魔剣を右手に出した。

 柄を握る手が少し震える。 

 鋼の兜で覆われていて表情が見えないからイスラさんの感情は分からないが、なんとなく……何か虚しい想いがあるような印象を抱く。

 ミューラー隊長は胸元に手を当ててから、


「魔鋼族イスラ・マカラ・ベルマラン。正直に気持ちを話してくれて嬉しく思う。だが、あなたがどう思おうと、我らにはイスラ・マカラ・ベルマランは伝説なのですよ。その伝説のイスラ・マカラ・ベルマランの考えに我らも従う思いです。無理ならば……それもまた、我らの【グラナダの道】――」


 と発言し、胸元に手を当てながら【グラナダの道】の面々を見ていく。衝突した手の甲と胸の鋼から金属音が響いた。


 他の【グラナダの道】の魔鋼族ベルマランたちも、


「「「「我らの【グラナダの道】――」」」」


 とハモる。

 胸元に手を当てて金属音を響かせていく。


 鋼の兜と鎧が似合う【グラナダの道】か……。

 皆の素顔はどんな感じなんだろうと興味を抱く。

 鋼の兜の裏側と頭部が一体化しているのなら脱げないだろうし、鋼に頭部の皮膚が張り付いていて、兜を取ったら剥がれてしまうとかのゾンビ仕様だったら驚く自信がある。


 すると、イスラさんは頷き、


「ふふ、そう言ってくれるとありがたい。これも【グラナダの道】……魔鋼族イスラ・マカラ・ベルマランの道か……」


 と発言。

 【グラナダの道】の皆が、


「「「おぉ」」」


 と歓声を発した。

 イスラさんの発言に感動したようだ。


 するとミューラー隊長が皆に向けて両手を上げて、皆の気持ちを抑えるような仕種を取る。


 そのミューラー隊長はイスラさんと俺たちを見て、


「はい、まさに【グラナダの道】――」


 と発言し、魔鋼族ベルマラン式と呼べるような胸に腕を当てる挨拶を行う。やや遅れて、他の魔鋼族ベルマランたちも腕を胸に当て金属音を響かせる。


 イスラさんも続いて魔鋼族ベルマラン式の挨拶を行った。


 暫し間が空く。


 イスラさんは己を伝説ではないと言ったが、イスラさんとミューラー隊長に【グラナダの道】の間には、同胞独自の暗黙知、ヒエラルキーがあるように見えた。


 そのイスラさんはロズコたちと俺たちを見た。

 その視線に応えるようにロズコと数人の魔族たちは、


『気にするな』


 と言ったニュアンスの表情を浮かべていく。

 イスラさんと、ロズコと数人の魔族たちとの絆を感じる。


 頭部が二つの魔族の方も笑みを浮かべていた。

 二つの頭部の顔は微妙に異なる。

 笑みにはぎこちなさがあった。

 ピュリン、イモリザ、ツアンは三つの思考を一つの頭部に持つが、二つの思考を持つんだろうか。


 思考と思考が重なり合っているようには見えない。

 その頭部が二つの魔族の方の上半身は筋肉隆々で、筋肉鎧にも見える皮膚には忍冬文と似た模様が刻まれていた。模様の細かな溝と溝の間を仄かな魔力の光が行き交っていく。


 その様子は新型魔導人形ウォーガノフのゼクスの外骨格を思わせた。


 その模様を体に擁している頭部が二つの魔族ともイスラさんとロズコは数十年刑務所の中で共に過ごしたんだろうか。


 イスラさんは俺を見て、


「……魔界王子テーバロンテを滅したシュウヤ殿が気になる」


 そう語ると、皆が俺に注目。


「「……」」

「俺ですか……」


 皆頷く。

 イスラさんは、


「……あぁ、バーヴァイ地方の民を救い、神聖ルシヴァル大帝国の魔皇帝で、諸侯の一人である魔君主がシュウヤ殿らしいからな。更にはミジャイの魔傭兵ラジャガ戦団の頼みを聞き入れて、この遠い【バードイン迷宮】にまでロズコを救いにやってきた行動力にも驚きを覚える……同時に……」


 イスラさんはミューラー隊長たちを見て、


「……仁義を重んじる気質と見た……だからもっと知りたくなったのだ」


 と言って俺を見る。

 イスラさんの鋼鉄の兜も渋くて格好いいが、素顔が見たくなった。


 ミューラー隊長も頷いた。


 そして、


「俺も同じ思いです。シュウヤ殿たちに我らは助けられたのですからな……」

「魔界王子テーバロンテを滅したと聞いて、納得するぐらいの戦いようだったのだな」


 イスラさんがそう聞くと、ミューラー隊長は、


「……はい、シュウヤ殿は最初、大きな盾のような物を召喚し歯の魔弾の飛び道具を防いだと思ったら、魔槍を<投擲>。その<投擲>された魔槍は直進し、複数の歯の魔弾を貫きながら魔歯魔族トラガンの胴体を貫いて、そのまま背後の魔歯魔族トラガンの足をも貫き切断してから床に突き刺さりました。が、まだ<投擲>の攻撃は終わらず、その床に刺さった魔槍から衝撃波が発生し、周囲の魔歯魔族トラガンたちを吹き飛ばしたのです。突破口を開いた一撃は、海を裂いたようにも見えましたよ」


 キサラの<補陀落ポータラカ>のほうが威力はあると思う。そのキサラ先生のお陰だろう。


「ほぉ……槍使いの強力な<投擲>攻撃か……」

「はい、更に魔歯魔族トラガンの鞭のような遠距離攻撃を二槍流で往なし、<血魔力>に墨色の魔力を体に纏いながら凄まじい加速力で前進し、魔歯魔族トラガンとの間合いを詰めると、<刺突>系統のスキルを繰り出して、魔歯魔族トラガンを倒していました。墨の魔力を放つ突きスキルで倒された敵は不思議な感じで体が欠損していたので、圧巻でしたよ。消えるような移動もあった……キサラ様とロロ様も、前衛として前に出たシュウヤ殿の後方にいた魔歯魔族トラガンを倒して、シュウヤ様の背後を守っていました。見事な連携でしたね。その前衛のシュウヤ殿は、槍から血の炎を噴出させている魔剣に武器を替えていた。その魔剣で魔歯魔族トラガンを斬って捨てた後、魔剣を消して近々距離戦に移行し、魔歯魔族トラガン数体の体を拳で貫いて倒していました……その姿は凄まじいのなんの」

「槍と剣に格闘までもか」

「はい……素手の拳で、あの硬い魔歯魔族トラガンの体を連続で貫く姿は、まさに戦場を駆ける魔界騎士そのもの……否、それ以上の存在に見えました」

「……魔界王子テーバロンテを倒したと聞いて皆が直ぐに納得していたのも頷ける」


 とイスラさんが発言。

 他の魔鋼族ベルマランも、


「はい、その戦闘力にも驚きましたが、当時、我らとまったく面識のないシュウヤ殿たちは魔歯魔族トラガンの部隊ごと我らを背後から強襲可能な立ち位置でしたが、されなかった」

「あぁ、敵かも知れない未知の我らに対して、シュウヤ殿はリスクを冒して話しかけて下さった……」

「思考力と武力の高さからくる判断かも知れないが、地上では非常に混沌とした戦いが続いている最中だ、中々できることではない」

「あぁ、それもこれも、ハトビガ・グラナダ様や、他の神々の導きだと思う」


 とミューラー隊長が発言。

 イスラさんと【グラナダの道】の面々は頷く。

 と、一斉に俺に頭部を向ける。


 ミューラー隊長が、


「我らもシュウヤ殿と行動を共にしたいです、宜しいでしょうか」


 勿論歓迎だ。


「了解した。皆で【バードイン迷宮】を探索しつつ、魔界王子テーバロンテの眷属の魔歯ソウメルの打倒を目指そうか。魔歯ソウメルが居なければ、普通に外に出る」

「「「「「おう!!」」」」」


 空間を劈くような声音もあった。

 元囚人の魔族たちの気合いが凄まじい。


 キサラはヴィーネとキッカとエヴァとも血文字でメッセージを交換していた。

 エヴァからの血文字には、テンの言葉が見えている。


 バーヴァイ城の牢獄で、百足高魔族ハイデアンホザーと会話していたらテンが合流してきたようで、が、


『飴と鞭の尋問術! 飴にはカツ丼を用いることが大事なのだ!』


 と、俺の冗談的な念話の内容を覚えていたようで、エヴァにそのまま告げたようだ。

 尋問の邪魔をしていなければいいが。

 すると、ヘルメが、


「……先ほどの三つに分かれた道に戻り調べますか?」

「あぁ、そうするか……」


 とりあえず、イスラさんとミューラー隊長たちを見て、


「ミューラー隊長、先ほど、【グラナダの道】の誰かが宝が目当てと語っていましたが、宝物庫のような場所の目安があるんでしょうか。または【バードイン迷宮】の地図を持っているんですか?」

「宝物庫のような場所は実際には分かりません。街や村で得た事前情報と【バードイン迷宮】の名からの推測です。手書きの地図もありません。ですので、皆のスキルを活かしながらの探索でした。私は<魔鋼踏測感>を持ちます。バスラートとモイロもそういったスキルとアイテムを持つ。お前たち、シュウヤ殿たちに説明をするのだ」


 ミューラー隊長が向いた先にいるバスラートさんとモイロさんは胸元に手を当てた。


 そして、バスラートさんが、


「俺は、周囲の地形が大まかに分かる程度の<暗射魔鋼地図>のスキルを持ちます。ただし、これは自分だけが分かる簡易地図です。しかし、もう一つの〝魔砂状図〟のアイテムは違う。中々に有効! 見て下さい――」


 と、バスラートさんは片手を振るう。

 砂を足下に撒いた。撒かれた砂は瞬く間に【バードイン迷宮】の簡易的な地図となる。平面的で範囲は広くないが、自分たちの位置と【バードイン迷宮】の通路が砂で表示されていた。


 簡易地図ディメンションスキャンのような立体さはないが、オートマッピング的な地図として有能なアイテムが〝魔砂状図〟だろう。


 バスラートさんの<暗射魔鋼地図>のスキルは、俺のステータスのように自分の脳内だけに展開される地図ってことかな。

 それはそれで超絶優秀だと思うが。


 そして、〝魔砂状図〟といい……。

 風のレドンドとの依頼に使えそう。

 

 依頼主:六面六足のエレファント・ゴオダ商会。

 依頼内容:Sランク:マハハイム山脈地下【古エルフの大回廊】の探索。

 応募期間:無期限。

 討伐対象:問わず。

 生息地域:問わず。

 報酬:地下地図と討伐モンスター素材に発見したアイテム類。実力者を求む。前金で白金貨二十枚。

 討伐証拠:なし。

 注意事項:地下故、命知らずを求む。

 備考:危険。地図作りのメンバー募集中。


 というヘカトレイルの依頼に連れて行きたいぐらいの方かも知れない。


 続いて、魔鋼族ベルマランのモイロさんが、


「私は<魔鋼測候>です。多少の気候変動を察知できます」


 モイロさんは<魔鋼測候>か。

 環境が変化する場所を察知するってことかな。

 このスキルも迷宮では結構重要か。


 最後にミューラー隊長が、


「私の<魔鋼ハトビガ踏測感>は、近くにあるハトビガ魔鋼の鉱脈を探れます。地下や洞窟に入れば、自分がどの位置にいるのかだいたい把握でき、迷うことが少なくなるスキルです。勿論、土地の環境に左右されることが多々あるので絶対ではありません。ですから、主にバスラートのスキルと〝魔砂状図〟を活かして、この【バードイン迷宮】を進んでいました」

「はい!」


 バスラートさんは南マハハイム共通語に近い言語も達者だし、有能だ。そして、


「では、現状、宝物庫の場所は分からないんですね」

「はい、シュウヤ殿に助けられた通路を進んでいた理由は、魔歯魔族トラガンと百足魔族デアンホザーの守りの兵が多かったことのみ」

「……なるほど」

 

 では、普通に魔素の反応がある通路を行けば、宝物庫や魔歯魔族トラガンに百足魔族デアンホザーと遭遇する確率が増えて、監督官の魔歯ソウメルが潜む階層に辿り着くかな。


 今のところ、【バードイン迷宮】にはゼレナードの施設的な雰囲気もあるから、迷宮都市ペルネーテのような、実は邪界ヘルローネに繋がっています的なことはないだろうと思う……。否、思いたい。


 通路や階段を下りていくと、まったく違う異世界に転移していました……はありえるからな……。

 そうなったらヴィーネたちと合流できなくなってしまうかも知れない。

 

 が、そんなマイナス思考は捨てよう。

 キサラを見てプラス思考に切り替えた。


「シュウヤ様?」

「あぁ、気にしないでくれ」

「はい」


 キサラは蒼い双眸でジッと俺を見ている。

 小さい唇にキスしたくなったが、我慢。


 ロズコの周りを歩く。

 <血鎖探訪ブラッドダウジング>は依然、ロズコを差している……やはり、魔傭兵ラジャガ戦団の生き残りはロズコのみ。


 ――<血鎖探訪ブラッドダウジング>を消す。

 そのロズコと他の魔族の片足には足輪が嵌まっているが、足輪の破壊は<血鎖の饗宴>で可能かも知れない。


 その思いで、


「足輪だが、動きに阻害はあるのかな?」

「動きには支障はないんです」


 そりゃそうか。

 刑務所の中では狩りを強いられていたようだからな。


「リダヒの魔輪と呼んでいました。リダヒが死んだことで魔力を失っている状態ですが……硬くて、切断しようにも、自分の足を傷付けてしまう可能性もありますので……」

「リダヒを倒した際に爆発しないで良かった」

「あ、は、はい」

「……魔剣ラガンハッシュでの切断を試みましたが、無理でした」


 イスラさんの言葉に頷く。

 細いが、硬い金属か。


「俺のバドールの魔剣でも無理だ」

「俺の魔剣ガンラでも無理だった」

「あぁ、メジラグを殺しまくったテルベキルの刃も通用せず」


 と、囚われていた魔族の方々が発言。

 頭が二つの魔族の方も頭部を左右に振る。

 そのリダヒの魔輪を嵌めている魔族たちに、


「歯の魔族、魔歯魔族トラガンとの相性的に、白蛇竜小神ゲン様のグローブに<白炎仙手>と<血鎖の饗宴>を用いれば、その足輪の切断や破壊は可能かも知れない」

「「「「おぉ!」」」」


 歓声を発した魔族たち。

 その皆に、【神水ノ神韻儀】を思い出しつつ、


「……<白炎仙手>と<血鎖の饗宴>は、セラで常闇の水精霊ヘルメを救った。〝玄智の森〟では、注連縄を腰に巻く子精霊デボンチッチの協力もあり、武王龍神イゾルデの命を救い光魔武龍イゾルデとして復活させ、眷属にできた。魔界では、デラバイン族の王族バーソロンの心臓に嵌まっていた魔界王子テーバロンテの〝バビロアの蠱物〟の除去に成功し、そのバーソロンも光魔騎士となった。バーソロンも<筆頭従者長選ばれし眷属>にする予定だったりする」

「「「おぉ~」」」

「セラに玄智の森にデラバイン族の王族を……」

「玄智の森が分からないが、武王龍神とは……神界セウロスの勢力だぞ……」

「あぁ、龍王や龍神、戦神ヴァイスは、我らの大いなる敵……」

「……地獄龍山に住まう血龍魔仙族なら聞いたことがあるが……」


 元囚人たちは生粋の魔界の魔族たちだ。

 俺が神界セウロス側でもあると聞いて動揺するのは当然。


 が、正直に、


「俺の種族の光魔ルシヴァルは、魔界と神界にも通じた光属性と闇属性が融合している<血魔力>を扱えるからな。で、<血鎖の饗宴>と<白炎仙手>でも、皆のリダヒの魔輪の破壊や除去が無理だった場合だが……俺の<筆頭従者長選ばれし眷属>のエヴァなら、リダヒの魔輪を溶かせるかも知れない」

「「「「おぉ……」」」」

「凄い! 神界側に通じていようがどうでもいい。今こうして助けてくれている方がシュウヤ殿なのだからな!」

「「あぁ」」

「そうだとも!」

「――俺もお願いしたい! ロズコ、お前の部下でいいから、シュウヤ殿の正式な部下に!!」

「リダヒの魔輪を外せるのなら、私もお願いしたい……」


 イスラさんもそう発言。


「「――お願い致します!!」」


 囚われていた魔族の方々は当然の反応を示す。

 頷いてから、


「エヴァでもだめなら、同じく<筆頭従者長選ばれし眷属>のミスティに頼む。ミスティは、狭間ヴェイルを越えた惑星セラの塔烈中立都市セナアプアにいる。そして、俺は魔の扉の鏡を持つ。魔の扉は、セラの塔烈中立都市セナアプアへと狭間ヴェイルを越えて転移が可能だ。皆には、その魔の扉の鏡を使用して、セラのセナアプアに来てもらうことになるだろう」

「セラの塔烈中立都市セナアプア。聞いたことがない都市の名だ……」


 そう発言したのは長葱っぽい頭部の魔族さんで、のっぽ。

 囚人用の衣服を着ている。

 胴体はひょろく、手足が異常に長い。

 片足には、皆と同じくリダヒの魔輪が嵌められている。


 耳がないように見えるが、耳のような穴はある。

 しかも、頭部の先端が浮いていた。先端部が魔刀で切断されたように、環状の頭部が浮いている。


 ぷかぷかと浮いている頭部と下の頭部の間には、無数の稲妻のような魔線と血と神経網のような物が行き交っていた。脳の一部でもあるのか?

 

 浮いている光景は超伝導的だ。


 超伝導体内部に磁束が侵入しないマイスナー効果や、量子力学的なトンネル効果がありそうな印象だが……。


 この魔族の方も不思議すぎる知的生命体だ。

 と観察していると、他の魔族たちが、


「……魔の扉とやらがセラにも移動が可能とは驚きだ。傷場のようなアイテムをお持ちか……」

「凄い御方だ……」

「あぁ、なんにせよ、この魔輪を外せるか破壊が可能なら、今すぐにでも挑戦してほしい!」

「……あぁ、この魔輪を外してくれたら……装備品ぐらいしか差し出すもんはないが、シュウヤ殿に差し出すぜ!」

「……俺も同じ想いだ。だが俺には装備品はない……が、恩は返す! だからシュウヤ様、お願い致します。魔輪を外してくれ!」

「俺もだ! 恩は後で返す、体がほしいなら貸そう!! 穴なら無数に作れるからな! 頼む!!」


 そう語った魔族の方は肉々しい背を向けてくる。

 と、尻と下半身の一部を露出させた。

 その体の至る所がぐにょりと動いて、穴が出来ていく。

 体をゴムのように操作可能なのか?

 が、穴とか……尻も、嫌すぎる、勘弁だ。


 直ぐにヘルメとキサラを見て、変な想像を打ち消す。


「ヒビィ、下品すぎる! シュウヤさんのこめかみに怒りの筋が見えたぞ、謝るのだ」

「す、すみません」


 その魔族の指摘に急ぎ作り笑顔を浮かべたが、顔に出ていたか……。


「あぁ、大丈夫だ」


 と無難に答えた。

 他の魔族が、


「……リダヒの魔輪を破壊してくれたら、天命と思い忠誠を捧げるぜ! 外せなくても現状、俺には何もない。ロズコの魔傭兵ラジャガ戦団でもいいから、神聖ルシヴァル大帝国に加えてください――」


 その発言に頷いた。

 <血道第一・開門>を意識し、右手の人指し指から血を垂らす。そして、


「……では、試すだけ試す。<血鎖の饗宴>で、まずはロズコのリダヒの魔輪の切断を試みる」

「はい!」


 白蛇竜小神ゲン様のグローブを装着。

 その指貫グローブの指越しに、キサラを少し見てから、<魔手太陰肺経>の動きを見せる。


「ふふ、シュウヤ様の組み手は洗練されています」

「おう、何事も基本は大事――」


 キサラを見ながら<光魔血仙経>と<滔天魔経>を意識し発動。

 そして、<闘気玄装>を強めた。


 更に――。


 ――<経脈自在>。

 ――<水神の呼び声>。

 ――<水の神使>。

 ――<滔天仙正理大綱>。

 ――<滔天神働術>。

 ――<性命双修>。

 ――<火焔光背>。

 ――<白炎仙手>。

 ――<血道第二・開門>。

 ――<血鎖の饗宴>。

 

 を連続発動。

 全身の<魔闘術>系統と<白炎仙手>が融合。

 白銀色の魔力から水と炎の小さい渦が無数に出現していく。

 その白銀色の魔力を<白炎仙手>の白銀の霧にはしない。

 

 ――右腕に集約させる。


 <白炎仙手>などの膨大な白銀色の魔力を纏う右腕から――。

 仄かな蒼色と白銀の炎でできた小さい龍のようなモノが幾つも迸った。プロミネンス的な炎と龍の周囲には、小さい勾玉か、小さい陰陽太極図のようなマークも生み出されている。


 それらが前腕と肘に巻き付きながら二の腕のほうにまで昇り、蜷局を作りながら肩の竜頭装甲ハルホンクと衝突、肩の竜頭装甲ハルホンクが「ングゥゥィィ……」と少し低音でうなり声を発した。


 蒼色と白銀色の炎の中では、小さい勾玉が泡ぶく。

 その白銀色の膨大な魔力を<白炎仙手>として扱うように右腕の内部へと抑え込む――。


「動くなよ――」

「承知――」


 白銀の魔力が出ている指先から微かに細い<血鎖の饗宴>の血鎖を出す。出力を抑えたレーザーメスを想像した。

 一瞬で、白銀の炎が混じる血がガスバーナーから噴出している血と白銀の炎のようになった。


 直ぐにミクロの血鎖で、デオキシリボ核酸のようなDNAの螺旋構造を幾つも作る。

 その血鎖螺旋構造を絡ませ削り合わせながらぐるぐると塒を巻かせる。

 血鎖の先端を小さい刃として尖らせた。

 極めて小さい螺旋状の<血鎖の饗宴>が削り合っている。


 ――良し、血のメス的で小さい刃の<血鎖の饗宴>だが、いけるはずだ。

 その小さい刃の<血鎖の饗宴>をロズコのリダヒの魔輪に当てた。

 ――リダヒの魔輪は<血鎖の饗宴>に触れたところからスッと溶けていく。

 最終的に蒸発するように消えた。


「おおお、溶けた!」

「「おぉ!!」」

「すげぇぇ!!」

「あはは、なんだ、シュウヤ様は天才か!!」

「ひゃっほぉ!!!」

「次は俺を頼む!!!」

「了解――」


 と、次の魔族の片足に嵌まる魔輪を<白炎仙手>と<血鎖の饗宴>を活かした血と白銀の小さい刃で溶かす。


「おぉ、やった!! ありがとうございます」

「おう、次――」


 と、皆のリダヒの魔輪を溶かすように破壊した。

 

「「「ありがとうございます!!」」」

「おう、これで気兼ねなく暴れられるだろう」

「「はい!」」


 右手に持つ魔刀を掲げた魔族が、


「俺の名はアマジ。シュウヤ殿に忠誠を誓います!」

「おう、ありがとう。とりあえず、今はここの探索を行うからがんばってくれ」

「はい」


 そこで、右腕の戦闘型デバイスを意識。

 風防硝子の上に簡易地図ディメンションスキャンを展開させた。


「【バードイン迷宮】を少し調べるとして、そこの刑務所の中も調べますか?」


 とミューラー隊長たちに提案すると、イスラさんが、


「ハトメルの魔袋集積場と地続きで、放射状の狩り場用の通路がある。それらの通路の入り組んだ先には魔法の膜があり、そこから先は【バードイン霊湖】に通じているはず。私たちは、そこから現れるメジラグ類や、水妖剣を扱うドボルを狩り続けていた」


 と発言。

 ロズコも、


「……【バードイン霊湖】が普通・・の水だったとしても、相当深いはず。そこを泳ぐのは俺には無理だぞ。エラはないし、肺も水に対応してないから溺れる」

 

 と発言。ミジャイと同じくバイキング的。

 人族と似た魔族か。

 

 そして、水なら常闇の水精霊ヘルメがいる。

 皆を包めると思うが、【バードイン霊湖】は普通の水ではない可能性を含んだニュアンスだった。


 そのことを頭に入れながら、


「魔法の膜を破って【バードイン霊湖】に出られるなら、結構簡単に【バードイン迷宮】から離脱可能に思えるが……」


 と言うと、イスラさんが、


「……シュウヤ殿と神獣ロロディーヌ殿ならば、離脱は余裕かも知れませんが……」

「わたしなら皆を《水幕ウォータースクリーン》か《水牢ウォータージェイル》で包めるので、水世界でも呼吸は暫く大丈夫ですよ。重くても関係ないです」


 ヘルメがそう発言。


「「「「「おぉ」」」」」


 【グラナダの道】の面々のほうが驚いていた。

 鋼で重い体だからだろう。


「そ、それは凄い」

「は、はい、水の精霊様なだけはあるようです」

「諸侯が従える大眷属の中には、魔の大精霊、魔霊王がいると聞いたことがある……」


 と語ったのはヴァイスンさん。

 【グラナダの道】の面々の中で一番大きい魔銃を持つ方だ。

 

 ……どことなく、【エンアコの仕事人】の矢軍貝のエン・ボメルを思い出す。


 更に元囚人の魔族たちも、


「……魔の大精霊という名は聞いたことがある」

「その強さは最低でも魔王級とも……」

「ドラゴンや魔龍に魔界騎士とそう変わらないとも聞いているが……姿と意識を保ったままの精霊様だからな、相当な強さだろう」


 と語る。

 ヘルメを見て少し怖がっている印象だった。

 やはり、精霊を従えるってのは相当難しいと分かる。


『ふふ、ヘルメ様が大注目を受けています』

『精霊は魔界セブドラでも珍しいようだからな。環境によると思うが』

『はい、魔法力も土地によって様々ですから、そうだと思います』


 と、右目に住まう闇雷精霊グィヴァと念話を行う。

 皆に、


「刑務所の先の探索は他の探索場所がなくなった時の選択肢の一つとしよう。背後の通路には十字路や分かれ道が無数にあった。その分岐した先に宝物庫があるかもしれない」

「はい、魔界王子テーバロンテの眷属たちがいる可能性もありますね」


 キサラの言葉に頷く。


「相棒と皆、【バードイン迷宮】を進むとしよう。それでいいかな」

「ンン、にゃ~」

「「「「はい!」」」」


 と、皆の気合いある声を合図にしたように、黒猫ロロが廊下を駆けた。


 壁伝いに角に向かう。と、その角で頬を擦る。

 頭部を鳩のように前後させてから胴体も角に当てて擦り、床に転がって床に体の匂いを付けている。


 ごろりごろりとお腹を見せるように転がる姿は楽しそう。

 触手が持っていた魔雅大剣が床に転がっている。

 黒猫の大きさだと魔雅大剣が凄く重そうに見えてしまうが、大丈夫。


 その相棒は黒猫から黒豹へと変身し、魔雅大剣を触手で掴む。


「「「おぉ」」」


 相棒の変身を見ていた皆が歓声を発した。

 

「では、進む前に――」


 戦闘型デバイスから偵察用ドローンを数百展開させる。

 そして、<光魔・血霊衛士>を五体作った。


 無数の視界を得て混乱したが、一瞬で慣れた。


「「うあぁ」」

「おぉ!?」

「ぬぁぁ?」

「血の騎士!」


 刑務所の中に偵察用ドローン数台と血霊衛士一体を送る。

 そして、一瞬で背後の相棒が寝っ転がる角を越えた数十の偵察用ドローンと血霊衛士四体。


「今の<光魔・血霊衛士>と偵察用ドローンは偵察用だ。で、基本戦術だが、今の幅の通路のままの場合は、先陣は俺とヘルメとロロ、後衛にキサラで、中衛にミジャイたちと皆といった感じで進みたいが、いいか?」

「問題ありません」


 キサラは拱手。

 俺も拱手で応える。

 その間に、刑務所の中の様子を確認。

 俺たちが辿った通路を先に駆ける血霊衛士と偵察用ドローンの視界から同時に情報を得ていった。


「はい、私はそれで構いません」


 イスラさんがそう発言し、隣にいるミューラー隊長も、


「勿論、【グラナダの道】は同意します」


 と【グラナダの道】を代表して応えた。

 ミジャイの隣にいるロズコも、


「はい、シュウヤ様と団長に従います」


 ミジャイはロズコに、


「魔傭兵ラジャガ戦団の指揮系統は無視していい。陛下とキサラ様の指示のほうが的確だ。で、血霊衛士だが、シュウヤ様も遠隔で操作可能だが、自律行動も可能な魔導人形ウォーガノフと似た最新の傀儡兵だ」

「傀儡兵、魔導人形ウォーガノフか、分かった」


 ミジャイの説明にロズコはあっさりと納得。

 魔界セブドラでも魔導人形ウォーガノフはあるのか。 

 キサラは笑みを見せた。

 皆に向け、


「通路の幅が広い場合、敵の数が多ければ臨機応変に戦ってもらうことになる。それと余計な世話だと思うが、遠距離攻撃のタイミングは前衛との距離間を考えてくれ」

「「はいッ」」

「「承知!!」」

「ンン、にゃごぉ~」


 と、黒豹ロロが角から消えた。

 だれもいない廊下の先に走り出したと分かる。

 その黒豹ロロに向け、


「相棒、血霊衛士と偵察用ドローンを展開させているから自由に探索してきていいが、あまり離れるなよ~」

「ンンン――」


 黒豹ロロは返事を寄越したが、嗅覚が尋常じゃなく優れているから大丈夫だろう。が、嗅覚を狂わせる何かも考えられるわけで……心配は心配だ。


 だが、黒豹ロロにも何事も絶対はないの精神は生きている。


 相棒を信じながら大所帯で通路を進んだ。


 そして、強者の魔族たちと、【グラナダの道】の魔鋼族ベルマランたちを見ていると……。


 迷宮都市ペルネーテのコレクターのシキの魔宝地図の護衛依頼のことを思い出す。


 六大トップクラン、選りすぐりのメンバーの冒険者パーティやクランたちとイノセントアームズのメンバーで、迷宮でモンスターを倒しまくったな……。


 たしか……依頼内容は……。


 依頼内容:Aランク、四階層、レベル五の魔宝地図護衛。 

 討伐対象:守護者級、他多数。 応募期間:五日後締め切り。 

 生息地域:なし 報酬:白金貨十五枚(個人ではなく、パーティー、クランの報酬となります) 

 討伐証拠:なし 注意事項:ランダムに守護者級及び強力なモンスターが出現。

 パーティー、クラン奨励、個人ではA、Sランクの方のみでお願いします。 

 備考:集合場所は【魔宝地図発掘協会】前になります。わたくしと召し使いもその場にいるので分かるでしょう。リーダーは青腕宝団のカシム・リーラルトに任せてあります。素早く処理してくださった方には特別ボーナスを予定していますのよ。:コレクターより。


 と、そんな依頼だった。


 本体の俺は普通に廊下を皆と進む。

 【グラナダの道】の皆と歩調を合わせるためにゆっくりだ。


 その間に――刑務所の中に展開させている血霊衛士は――。

 魔法の膜を<血穿>で撃ち抜く。

 魔法の膜を破って通路を進んだ。

 が、【バードイン霊湖】の水が激しく流入し、そのまま偵察用ドローンと共に通路内を流されまくり、魔法の膜と膜に挟まれて衝撃を得たような感覚を受けたが、血霊衛士にはダメージはない。


 そのまま魔法の膜の前に強引に戻り、魔法の膜を<血魔力>を膨大に込めた<血穿>で破る。

 通路内の孔から排出されたのか、【バードイン霊湖】の水は直ぐに少なくなった。

 そのまま通路を進む。右に分岐があったが直進。

 すると、またも魔法の膜となる。そこを<血穿>で穿ってまたぶち抜く。と、【バードイン霊湖】の水が大量に流入してくるが、その流入に逆らうように<血魔力>を発しながらスイミング――。

 途中で逆流が始まると、一気に複数の泡と共に外に出た。


 本当に【バードイン霊湖】に出てしまった。

 明るい海的な【バードイン霊湖】かぁ。大小様々な魚たちが泳いでいる。

 上のほうは少し暗く見えるから、相当深い場所か。


 巨大貝殻たちが浮遊しながら跳躍して離れていくのは面白い。


 と、巨大なワカメが飛来、げ、動けるのかよ――。

 棍の<血穿>で巨大なワカメをぶち抜く。


 更に<豪閃>で巨大なワカメモンスターを切断して進む。


 塵のようなプランクトン的なモノが無数にある。

 マグロのような魚もいる。

 色々見つつ泳いでいると、またも複数の魔素――。

 

 魔素は魚?

 魔族か。頭部には角がある。

 太刀魚に似た長いノコギリ刃か。

 胴体は細長くて二本の脚に蛇の尾を持つ。


 あれがメジラグか?

 まぁ、血霊衛士の敵ではないだろう――。

 

 メジラグを屠りつつ、【バードイン霊湖】を泳ぎながら進む。

 と、人魚のような方々と複数の鮫のようなモンスターが戦っている場面に遭遇。

 

 複数の鮫のようなモンスターを殲滅するように血霊衛士を動かした。

 暫し、【バードイン霊湖】側の血霊衛士を動かすことに集中したくなるほどの激戦となるが――。


 俺自身と――。

 他の四体の血霊衛士と偵察用ドローンの視界を確認しながら進む。

 

 ◇◇◇◇


 分岐の一つの廊下を幾つか進んだ血霊衛士には相棒が付いてきた。

 相棒はどんどん先に進む。

 と、広い柱が並ぶ広い場所に到達。中央には怪しげな宝箱のようなチェストがあったが、周囲には百足魔族デアンホザーと魔歯魔族トラガンがうじゃうじゃいた。


 偵察用ドローンの視界だと他の魔族の死体が見えた。首ナシ騎士も倒れていた。

 強そうに見えたが、そうでもないのかな。


 イケメンゴブリンの死体が一番多い。

 さて、血霊衛士で百足魔族デアンホザーと魔歯魔族トラガンを倒そうか。

 と、もう相棒が前進しながら大きな黒虎に変身を遂げていた。

 更に、咥えていた魔雅大剣を<投擲>していた。


 直進した魔雅大剣は複数の百足魔族デアンホザーの体を貫いて柱の一つをぶち抜く。

 更に、体から無数の触手を繰り出し伸ばし、触手から出た骨剣が魔歯魔族トラガンたちの体を次々に貫いて吹き飛ばすように倒しまくる。

 

 が、転がってきた魔歯魔族トラガンの頭部を前足で叩いてアイスホッケー遊びを始めてしまう。


 血霊衛士は喋れない、『おーい』と言いたくなる。

 ポツネンと残った血霊衛士、どうするの――。



 ◇◇◇◇


 もう一つの分岐の先を進む血霊衛士は階段を発見――。


 その階段を下ると、研究室のような場所に出た。

 高度な錬金術を行える施設か、高級な素材が置かれた棚が幾つもある。ここは要チェックだな。

 更に、封鎖された部屋が幾つもあり、長細い廊下の奥に百足高魔族ハイデアンホザーらしき部隊がいた。


 これまた激戦――。

 


 ◇◇◇◇


 俺は<光魔・血霊衛士>たちが進んでいない通路を進む。

 【グラナダの道】のバスラートさんの〝魔砂状図〟を確認しながらとなった。と通路の先に複数の魔素を察知し、百足魔族デアンホザーの部隊と遭遇。

 通路は同じく狭い。俺とヘルメを見るなり、いきなり――。


「「「フシャァァ――」」」


 と叫びながら斧槍のような鎌腕を伸ばしてきた。

 先制攻撃――この方が分かりやすい――。

 左手に無名無礼の魔槍を召喚。

 一歩前に出ながら無名無礼の魔槍を振るい初撃の鎌腕を横に打ち払った。

 続けて右手に召喚した白蛇竜小神ゲン様の短槍で<刺突>を繰り出した。

 鎌腕の先端を貫いて両断。そのまま「百足魔族デアンホザーはすべて俺たちが対処する――」と皆に宣言しながら前進し――<刺突>と<白蛇穿>と<豪閃>を中心にして百足魔族デアンホザーを屠りまくる。


 俺とヘルメだけで百足魔族デアンホザーの百を超える中隊を倒しまくった。

 そうして通路を進むと、また三つに分かれた。


 と、共有している視界に俺が見えた。

 同時に、左の通路から黒豹の姿に戻っていた相棒と血霊衛士の気配を察知した。


「にゃおぉ~」


 相棒は触手で宝箱を持ち、百足魔族デアンホザーの死体もぶら下げて戻ってきた。

 それらの百足魔族デアンホザーの死体を俺の足下に放り投げ、跳躍して乗っかると、「にゃおぉ~」とドヤ顔を示す。


「おう、ロロ、よく倒したなぁ。そして、宝箱の回収ご苦労さん!」

「ンン、にゃ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る