千百十七話 魔剣ラガンハッシュと【グラナダの道】

 魔鋼族ベルマランたちが通路の奥から現れた。

 直ぐに足下に転がっていた歯の魔族たちの死体と、先ほど倒した集積官のリダヒかも知れない死体を見て、


「――シュウヤ殿、これは!」

「うぉ……ここにも死体が! 通路内の魔歯魔族トラガンの部隊を倒したのは、やはりシュウヤ殿たちか!」

「状況的にそうでしょう」

「あぁ、魔界騎士のようなお二人だ。それに、黒い狼、猫、豹などにも変化が可能な魔獣もいるんだからな」

「あぁ、あれは強烈で華麗だったぜ……」


 と、バーヴァイ地方の言葉とベルマランの言語で語り合いながら近くに来ると、整列。


 バイバルト族のバスラートさんが前に出て、


「――シュウヤ殿にキサラ殿とロロ殿……ん?」


 バスラートさんは、喋りの途中でイスラさんに気付く。

 バスラートさんの鋼の兜には薄らとした蒼い部分があり、かなり渋い。そのバスラートさんはイスラさんの鋼の兜を凝視し、


「その鋼の兜と鎧……印は!」


 と興奮して叫ぶ。


「「おぉ!! 鋼の兜!」

「しかも……印が山を斬る剣!!」

「ハトビガ・グラナダ様の導きだ!!」」

「……〝魔鋼萼を扱いし者〟マカラ族の生き残り!」

「「「我ら、【グラナダの道】――」」」

「「【グラナダの道】!」」

「……〝魔鋼萼を扱いし者〟は生き続ける。あの伝説は本当だった。やはりここには一族の生き残りがいた!」

「あぁ、【グラナダの道】の同胞、魔鋼族ベルマランが魔界王子テーバロンテに滅ぼされたという噂は嘘! 一部の者が囚われているという伝説が本当だったということだ!!」

「あぁ、隊長と【グラナダの道】の皆を信じてついてきたかいがある」

「おう! そして、今となっては、レムリア平原などを治める魔翼の花嫁レンシサの巧言令色こうげんれいしょくもいい思い出だな」

「「たしかに!」」

「……レンシサめ、【グラナダの道俺たち】を取り込めないとの判断から、【魔龍皇大顎塚】の探索などを用意したんだろう。憎き相手だが……その罠のお陰でもあるのか?」

「あぁ、そうなるか。〝顔面大盤ボボ=ドド〟に追われて偶然逃げた先の【レンコデの街】。そこの〝大閭蒼楼院〟の元締め、鴇母レムリアに出会えたことで今がある」

「……あぁ、レムリアは『……魔界王子テーバロンテの虜囚の中に、【グラナダの道】に通じた魔鋼族ベルマランの象徴と〝魔鋼萼を扱いし者〟がいる』と【グラナダの道】にも伝わる伝説通りの内容を隊長に語った」


 魔鋼族ベルマランたちは頷き合う。


「……その伝説通りの言葉を聞く前に、隊長はレムリアに対して犠牲を払ったようだが……」

「……とにかくめでたい。これも【グラナダの道】! 破壊神サージメント・バイルス様の導きだろう!」

「【グラナダの道】! 破壊神ゲルセルク様だろう! 感謝!」

「【グラナダの道】! 我らを導いた魔神ベルマラン様に感謝を!」


 バスラートさんの背後に並ぶ魔鋼族ベルマランたちが、次々に【グラナダの道】と信奉する神々の名を叫ぶ。


 そのまま皆ざわついて、


「……ミューラー隊長、お見事です。私的には【バードイン迷宮】のお宝目当てな面もありましたが、お宝以上の伝説を本当に引き当てるとは! まさに【グラナダの道】!」


 その言葉が響くと、魔鋼族ベルマランの中から一人が前に出た。皆の兜と鎧には統一感があるが、正確にはお揃いではない。


 前に出た方がミューラー隊長か。


「あぁ、【グラナダの道】! 俺たちの道を、信念を信じた結果だ……」


 と熱く語る。

 灰色の鋼の兜で右側に傷が多い。

 ミューラーさんは厳つい声で、男だと分かる。

 

 【グラナダの道】が彼らの部隊名で組織名か。

 そのまま魔鋼族ベルマランたち【グラナダの道】は独自の言語で盛り上がる。

 

 キサラは勿論だが、他の方々も、魔鋼族ベルマランの言葉は理解できないようだ。


 イスラさんは頷いていた。

 そのままミューラー隊長と魔鋼族ベルマランたちに頭部を向け、

 

「……【グラナダの道】……失われた故郷【無窮のグラナダ】……では、同胞の〝無窮のグラナダの者たち〟なんだな……嬉しいぞ……そして、私は魔鋼族マカラ・ベルマラン、名はイスラだ」


 と言うと、魔鋼族ベルマランたちは一斉に胸元に手を当てて叩く。金属音が数回響いた。

 そして、


「「「「〝無窮のグラナダの者たち〟」」」」


 と叫びながら、自らの鋼の鎧をリズム良く叩く。

 その後、魔鋼族ベルマランたちは静まり返る。


 周囲の刑務所にいた方々も静かだ。

 廊下の先に行かず、皆の様子を見守っていた。


 冷静な方々だな。

 長く閉じ込められていたのなら、我先にと外に出てもおかしくない。あぁ、足輪を懸念しているのかな。皆と歩調を合わせたほうが得か。


 前に出たミューラー隊長の胸元と肩のアーマーには星の印が多い。


 魔鋼族ベルマランたちを代表するミューラー隊長は、


「……イスラ様、俺は【グラナダの道】を率いるミューラー。魔鋼族ベルマラン、バイバルト族の出自です」

「ミューラー隊長、私に様は要らない」

「あ、しかし、ここには一族の象徴と伝説の魔鋼族ベルマランを探しにきたのです。イスラ様、貴方様は伝説のマカラ族……」


 そのイスラさんは、


「……魔鋼族ベルマランの象徴と伝説の魔鋼族ベルマランを探しにか……が、とにかく様はいらない」


 と小声で語る。

 ミューラーさんは頷いて、


「はい、分かりました、イスラ」

「うむ」


 イスラさんは頷いた。


「しかし、象徴か。私は、たしかに……」


 と言いながら手元に魔剣を召喚。

 

「魔剣……光っていない」

「だが、柄頭のハトビガ魔鋼の黒水晶は……」


 ミューラーさんたちがイスラさんが出現させた魔剣を見ながらそう発言。

 ツーハンデッドソードに似ている。

 すると、はばきと剣身の溝に魔力が通ったのか、剣身が暗く光った。


「これが魔鋼族ベルマランの象徴の、魔剣ラガンハッシュ――」

「「「「おぉぉぉぉ」」」」

「「言い伝えは本当だった――」」

「「魔鋼族マカラ・ベルマランのイスラ!」」

「やはりマカラ族は生きていた。失われてはいなかった!」

「「「――魔鋼族ベルマランのマカラ族のイスラ!」」」


 魔鋼族ベルマランたちはイスラさんを囲い喜び合う。

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