千百二話 ギルドの裏仕事人たち
これがSランク、虹色と黄金が混じる冒険者カードか。
「おぉ~俺もSランクなのか!」
「ハンカイもか、おめでとう」
「おう! しかし、俺は塔烈中立都市セナアプアでは、まだ何もしていない……」
「神々がサイデイルでの働きを見ていたとか?」
俺がそう言うと、ハンカイはハッとした表情を浮かべた。
そんなハンカイを皆が優し気に見て頷く。
ハンカイは少し照れた表情を浮かべてから、
「……ふむ。秩序の神オリミール様に知恵の神イリアス様は、俺を認めてくれたのだな……神々に感謝しよう……」
そうしみじみと語ると、虹色と黄金のSランクの冒険者カードを俺に見せてくれた。何気に嬉しそうだ。
そして、ハンカイが持つと貫禄がある。
そのハンカイに、
「神々が、塔烈中立都市セナアプアで冒険者活動をがんばれって言ってるのかな?」
「……はは、秩序の神オリミール様と知恵の神イリアス様の加護はありがたいが、俺は俺だ。そして、冒険者の心を持つ魔君主の家臣が俺でもある。だから【天凛の月】とイノセントアームズの一員として、それなりにがんばるつもりだ」
「おう」
ハンカイは金剛樹の鎧の胸の出っ張りに両腕を置くように組む。
ヴィーネも俺と同じ色合いの冒険者カードを見せてくれた。
「ご主人様、わたしもSランクに昇級し、模様も少し変化しました」
「良かった。俺も模様が……」
「はい、秩序の神オリミール様と知恵の神イリアス様の意味だと思いますが、Ωのマークが増えていますし、ご主人様の姿と同化しているような……ルシヴァルの紋章樹が大きくなっています」
「おう」
ヴィーネの指摘通り……。
虹色が混じる黄金の冒険者カードの表と裏には、見事な出来映えの浮き彫り状の模様が増えている。
<血霊兵装隊杖>の装束を着ている俺とルシヴァルの紋章樹の幹と一体化したような絵柄。幹の左右にシンメトリーのΩの印が二つあり、薄らと二体の<光魔・血霊衛士>の姿が刻まれていた。
斜めにしたら薄らと<光魔の王笏>の印の血の錫杖が浮かび上がる。
おぉ~、お札の技術みたいだ。
幹の上部と枝葉の白銀色の万朶には<
ヘルメとグィヴァにクナと蜘蛛娘アキなどもあった。
「ヴィーネのも見せて」
「あ、はい」
「交換で」
「ふふ」
ヴィーネの虹色と黄金が混じる冒険者カードと交換。
あ、斜めにすると虹色のヴィーネの綺麗な表情の絵が浮かぶ。
美しい。
そして、何故かビックリマンカードを思い出した。
チョコ菓子が凄く美味しかったなぁ。
とりあえず、キッカたちにおニューな冒険者カードを見せながら、
「キッカと裏仕事人の方々、俺もSランクに昇級できた、ありがとう!」
「「「「――おめでとうございます」」」」」
キッカ、サンさん、エミアさん、ハカさん、ドミタスさんの声を揃えての言葉だ。
更にキッカが、
「――宗主、閣下のシュウヤ様には当然のランクです」
と言うと、副ギルドマスターのエミアさんが、
「イノセントアームズと【血月布武】の名で活動している方々全員をSランクにしたいぐらいの気持ちです」
「ふふ、たしかに。活躍がめざましいからな」
「うん、闇ギルドなのに塔烈中立都市セナアプアの難事件を解決しまくって、治安に貢献しているし……」
すると、ドミタスさんが拍手して、
「カードの変化は予想していましたぞ。秩序の神オリミール様と知恵の神イリアス様と通じた知恵の焔も、いつになく輝きを放っていた! そして、Aランクに続いてSランクへ導けたのは、まこと嬉しきこと……これも神々の導き!」
「ありがとう」
「はい、【秩序の掟】の賢者ソーシス様もシュウヤ殿に大変興味をもっていましたよ」
「……【秩序の掟】の賢者ソーシス様は……分からないです」
「そうでしたか。聖ギルド連盟の【秩序の掟】に所属し、聖刻星印の書の改編が可能な五人の賢者の一人で、親戚です」
「へぇ、ドミタスさんの親戚の方が賢者ソーシス様か。そんなお偉いさんが俺に……」
「シュウヤ殿の名声が高まっておられる証拠です」
「あぁ、分かっているが……」
「「「ふふ」」」
ヴィーネ、ルマルディ、バーソロンは笑顔を見せる。
ドミタスさんは、
「ギルド秘鍵書を返還し、ギルドカードの進化の事象が起きて、聖ギルド連盟の本部から洗礼召喚状が発令され、今回のような緊急依頼を解決に導く英雄殿がシュウヤ殿ですからね」
〝知慧の方樹〟を得るに至る神麓ヤサカノ森の存在なりって言葉は覚えている。
いつか会えるかな。
「そのソーシス様は?」
「はい、聖ギルド連盟の本部に戻る旅に出ました」
「そうだったか」
と、エミアさんはヴィーネをチラッと見てから、
「……裏仕事を【テーバロンテの償い】の残党などを倒す合間にヴィーネさんとユイさんたちに手伝ってもらったんです。ですから、皆さんの仕事量からして、Sランクへの昇級は必然だと思います!」
と断言してくれた。
キッカたちは一斉に頷く。
横にいる茶色髪のサンさんは、
「わたしもそう思う。そして、ヴィーネさんたちもSランク昇級おめでとう」
「ありがとうございます」
「おう、ありがとう」
ハンカイたちが礼を言う。
ヴィーネと冒険者カードを交換し直し、仕舞ってから、キッカに、
「依頼達成数が増えたのはなぜだろう」
「あ、ユイたちは何度も裏仕事の賞金稼ぎなどをイノセントアームズの冒険者パーティの名で依頼として受けて達成している。その結果が反映されただけだと思いますよ」
「あぁ、なるほど」
「はい」
「さて……他に緊急依頼がなければ、塔烈中立都市セナアプアも暫しは安泰かな」
そう皆に聞くと、沈黙。
エミアさんが半笑いで、
「それは……う~ん、多少安泰と言えるかもぐらいですね。裏仕事人の仕事にはあまり関係がなかったりします」
「緊急依頼を抜かせば平常なので、まあ安泰?」
とキッカが笑いながら発言。
サンさんが、
「ふふ、平常が結構混沌としているからね。迷宮を擁した浮遊岩は無数にあるし、摩訶不思議な魔塔も多いから、普段通りのセナアプアに戻るってだけかな。ネドーからの一連の事件が異常過ぎたとも言えます」
と発言。
ドミタスさんも、
「安泰と言いたいですが、平常に戻るだけですな」
「やっぱそうだよな」
「はい、港近辺の倉庫街などは【血月布武】が権益を得ましたが、大海賊団、海賊団は依然として入ってきます。更に、今まで【テーバロンテの償い】などの【闇の枢軸会議】の影響力が強すぎた故に手付かずだった地下トンネル網は……調べられないほどに広大です」
あぁ、地下があった。
【夢取りタンモール】の地下探索は上手くいくといいが……。
ドミタスさんは、
「更に、その地下トンネル網はサーマリア、オセべリア、レフテンが支配する地域に出ることが可能と推測します」
と言いながらチラッとレザライサを見ていた。
もう他には冒険者たちはいないから公にしてもいいと思うが、何か決まり事があるような雰囲気。
レザライサは【白鯨の血長耳】の総長、盟主の顔付きで、『余計なことを言うと……』という印象を抱かせる。
少し怖い。
わざと工作員を泳がせるための地下ルートを、血長耳は昔から知っていた&活用しているとか、ありそうだ。
まぁ……三重スパイだったフランのこともあるからな。
ドミタスさんはレザライサに会釈してから、
「ですから……様々な争いは絶えないでしょう。しかし、シュウヤ殿が解決した幾つもの緊急依頼が出ていた時に比べたら……サンたちの言ったように安泰と言えるかもですな」
そう語って笑顔を見せる。
たしかに、俺たちがいなかったら浮遊岩の乱というか、ネドーの事件で塔烈中立都市セナアプアは……。
【魔の扉】のバルミュグとの対決やバーソロンとの出会いもなかった可能性が……。
そう考えると怖くなった。
自然と笑顔から真顔となって、白髪で渋いドミタスさんに頷き返した。
すると、茶色髪の美人なサンが頷きつつ、
「そうね、塔烈中立都市セナアプアの緊急依頼をこうも連続で片付けた冒険者パーティは初めて見たし、天下を取っていたネドー派が一日で総崩れするのも凄かったわ。だから、Sランクとか関係なく、シュウヤさんは英雄すぎ! しかも、なんで隣にいるのに飄々としているの! めちゃ格好いいし、憧れちゃうし、抱きつきたい!」
と大胆な発言。
彼女は二魔刀のサンと呼ばれていたことは覚えている。
サンの態度を見て、額に手を当てて『あぁ、出てしまったか』といった雰囲気を醸し出すキッカたち。
すると、
「ぴゅ~女子にモテモテ野郎め、俺が代わりに~」
と変な口笛音を立てながら表紙に唇の形を作ったアルルカンの把神書が、ゆらりゆらりと動いて、そのサンさんに近付こうとしていたが、
「にゃ~」
「このアルルカンの把神書! キス魔のエロん書に改名するわよ!」
相棒とルマルディに押さえられていた。
エロん書とか、発音が面白くて笑った。
ピュリンたちも笑っている。
少し怒ったようで笑っているルマルディのおっぱいと脇腹に押さえられたアルルカンの把神書は少し嬉しそうだ。
そして、そのルマルディの肩に乗った
続いて、ハカさんが話を切り替えるように前に出て、
「裏仕事では、イノセントアームズの皆さんは頼もしかった」
「ヴィーネたちが皆さんに世話になったようで」
「此方こそ助かりました。悪人の強者をばったばったと切り伏せる、ヴィーネさんとユイさんの暗殺剣技といいますか、その武術、妙技は凄まじいモノでしたよ」
と褒めてくれた。
ヴィーネは頷いて、俺を見ると、
「先ほどの話にもありましたが、キッカたちとの裏仕事を兼ねた【テーバロンテの償い】の残党狩りに<血剣術>の修業です」
と発言。そのヴィーネはキッカの腰にぶら下がる月華忌憚を見る。
ヴィーネは〝黒呪咒剣仙譜〟を見て学んで、<魔闘術>系統の<黒呪強瞑>と複数の剣スキルとダークエルフだからこそのスキルを覚えられた。
キッカの<血剣術>をそれなりに取得し、<血道第二・開門>の何かを覚えたかも知れない。
そんなことを考えていると、キッカが、
「……これで塔烈中立都市セナアプアを皆に任せられる……」
と言いながら俺をジッと見てきた。
黒い眼には薄らと<血魔力>が宿っている。
<魅了の魔眼>か分からないが、元々美しいだけに魅了された。
そのキッカの態度を見た裏仕事人のエミアさんが、
「キッカ……シュウヤさんと魔界セブドラに行くつもりなのね……」
「うん、そのつもり……宗主は夜王の傘セイヴァルトを持つわたしの唯一無二の王、閣下。祖先の道が、宗主シュウヤ様の背後に見えるのだ」
と語る。
「それほどの存在……」
「……あぁ、祖先を倒し、一部を封じていたか利用していた闇神リヴォグラフの七魔将リフルを倒した唯一無二の御方がシュウヤ様で……宗主様だ。怪夜王セイヴァルトと怪魔王ヴァルアンが認めた存在。しかも、宗主は、わたしに怪魔王ヴァルアンの勾玉をくださった。そして、怪魔王ヴァルアンの勾玉は魔剣・月華忌憚と融合した……が、宗主様、閣下の許可が必要だが……」
と、そのキッカが俺を見る。
「許可しよう。デラバイン族への援軍は嬉しい」
「ありがとうございます!」
すると、『――シュウヤ、冒険者カードが光って模様とか変化した!』
とエヴァから血文字が来る。
『先ほど、ケアンモンスターの宿屋だった塊を<空穿・螺旋壊槍>で仕留めた。そしたら、緊急依頼達成となって、キッカたちのお陰で、Sランクに昇級できたんだ』
『凄い! シュウヤなら当然のランク! おめでとう』
『おう、エヴァもな。今、一旦魔塔ゲルハットに戻るから』
『あ、うん! わたしもSランク!』
エヴァらしい反応だった。
裏仕事人たちと皆を見て、
「それじゃ、
「「「はい」」」
「にゃ~」
「にゃァ」
「レザライサも、またな」
「――あ、あぁ! 魔界セブドラに戻るのだな」
「おう、そうなる予定だ」
さて、バーソロンたちを見て、
「行こうか」
「「「はい」」」
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