千百一話 冒険者Sランクになる

 ヴィーネとキッカが駆け寄ってきた。

 二人は<血魔力>を足に纏っている。

 ヴィーネは翡翠の蛇弓バジュラを透魔大竜ノ胃袋の中に格納しながら歩みを止めた。

 キッカの体に纏う<血魔力>と<魔闘術>系統の操作は巧みで、ヴィーネよりも速い。

 <血液加速ブラッディアクセル>と独自の身体速度を上昇させるスキルも使っているんだろう。


 さすがは元吸血鬼ヴァンパイアハーフの<筆頭従者長選ばれし眷属>。

 【白鯨の血長耳】のファスは耳に指を当てて、魔通貝を使い血長耳の幹部たちかレザライサに連絡していた。


 キッカとヴィーネにヘルメとグィヴァに皆が寄ってきたが、


「皆、待った――」

「「「「え?」」」」


 皆に精神ダメージを与えるわけにいかない。

 急いで<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を終了させた。


「あ、はい。<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>ですね!」

「あ、<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>がありました!」


 ヴィーネとピュリンの言葉に頷きつつ――。

 更に<闘気玄装>だけを残し、<黒呪強瞑>や<水月血闘法>に<血液加速ブラッディアクセル>なども終了させた。


 皆と冒険者たちと血長耳の兵士たちも近付いてきたが、眷属たちから離れた位置で止まると、遠巻きにキッカに視線を送っていた。

 キッカは、その視線に気付くと冒険者たちに会釈。

 知り合いの優秀な冒険者たちだろう。あ、白が基調のケープを羽織った方は知っている。


 ネドーの分霊秘奥箱が原因の、無数の民たちを犠牲に塔烈中立都市セナアプアの泡の浮遊岩で復活を果たした暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トー。


 その暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを泡の浮遊岩で倒す前後で救出できた【ノーザンクロス】のゲツランさん、キヴさん、キワンさん、メクフッドさんだ。


「シュウヤさん!」

「天地雷鳴! 英雄がまたまた大仕事を速攻でやってのけた!! まさに〝天を衝き、地を衝く槍の王、すべての悪を一手に引き受けて、その悪を滅する〟!」


 キワンさんが槍を掲げながらそう叫ぶ。

 すると、周囲が一気に盛り上がり、


「「「――〝天を衝き、地を衝く槍の王、すべての悪を一手に引き受けて、その悪を滅する〟!!」」」


 まだ距離があるが、ゲツランさんたちは手を振りながら、他の冒険者たちも声を揃えて、そんな照れるような言葉を連呼してきた。


 その【ノーザンクロス】に手を振った。


「ゲツランさんたち、ひさしぶり!」

「「――はい!」」

「「おう」」


 そして、先頭の方はギルドの裏仕事人のドミタスさんだ。

 そのドミタスさんと目が合う。

 ドミタスさんが会釈してくれた。


 ――俺も会釈。

 すると、


「閣下、ケアンモンスターの塊の討伐、お見事です!」

「御使い様の攻撃は、空間さえも貫いたように見えました!」


 浮いていたヘルメとグィヴァがそう言いながら地面に着地。

 ミレイヴァルと蜘蛛娘アキも、


「一件落着です!」

「うふふ♪ 巨大な闇色のランスが塊を貫いて、そのすべてを持っていく! 最高にスカッとしました!」


 興奮した蜘蛛娘アキ。

 スカートが一瞬膨れて歩脚が増えてしまう。

 と、直ぐに元の人族風の脚に戻った。

 【ノーザンクロス】などの冒険者たちが、その蜘蛛の脚を見たのかギョッとした表情を浮かべていたが、大丈夫そうだ。


 その蜘蛛娘アキと皆に、


「おう! 上手くいった」 

「「「「はい!」」」」


 その蜘蛛娘アキとヘルメとグィヴァとミレイヴァルとキッカとルマルディとハイタッチ――続けて、皆と拳を軽くぶつけ合うと、


「閣下、勝利の舞です~」


 とヘルメに腕を引っ張られてダンスを踊った。


「「「おぉ~」」」

「水飛沫ダンス~」


 そのヘルメとのダンスを終えると、ヴィーネとバーソロンが、


「――先ほどの大技は初めて見ました!」

「――最後は螺旋壊槍グラドパルスですね」

「――そうだ」


 ヴィーネとバーソロンともハイタッチ。

 そのまま二人の手を握りダンシング。


 横回転を一緒に行いながら手を離して互いの腰の位置を合わせるようなステップダンスをして、二人と下から手を振るい合ってタッチ。


「「――ふふ」」


 ヴィーネの長い銀色の髪が舞うように漂う。

 バニラの良い匂いが漂って嬉しくなった。

 バーソロンの金色の髪も綺麗だ。


 動きを止めると、バーソロンは、


「魔槍杖バルドークの初撃も凄かったですが、螺旋壊槍グラドパルスの威力は、やはり凄い。ケアンモンスターの塊をすり潰した印象です、ふふ――」


 と語ると、

 楽しそうに右腕を突き出して拳を出してくれたから、


「あぁ、必殺技だからな――」

「はい――ふふ」


 拳を合わせてから離れた。

 ハンカイも、


「皆の反応からしても、ケアンモンスターの塊の破壊で、圧縮し、縮み潰れるような光景は完全に想定外だったようだな。そして、塵一つ残していない。見事な仕留め方だ!」


 と言いながら拳を突き出してきたから――、


「おうよ!」


 とそのハンカイとも拳を合わせる。


「正直言うが、ケアンモンスターの塊の一部は巨大なドリルに巻き込まれず、飛び散ってしまうと思っていた。毒霧も出て、被害が出てしまうかも知れないとも予想していた」

「予想が外れて良かった。では、魔界セブドラの敵だと、巻きこまれず飛び散る時があったのだな?」

「そうだ」

「ふむふむ。魔界セブドラの敵のほうが強く質が高いか……」

「<筆頭従者長選ばれし眷属>のビュシエも言っていたが、一概には言えないかもだ」

「ほぉ……吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>だった女子だな……うむ。で、ドリルのような穂先の螺旋壊槍グラドパルスは、肩の竜頭装甲ハルホンクが格納したのか」


 ハンカイは右腕を上げつつ聞いてきた。

 手の甲の大地の魔宝石は大きい。


「ングゥゥィィ、ハンカイ、ウデト、ハラノタマ、ウマソウゾォイ!」


 肩の竜頭装甲ハルホンクがハンカイに反応。


「……おい、俺の大地の魔宝石は食いもんじゃないからな! しかし、目玉を回しながら器用に喋れるもんだ。うお? 左肩に竜の頭部の装甲が移動した!」


 肩の竜頭装甲ハルホンクが左肩に一瞬で移動したのを見てハンカイは驚く。


 そのハンカイに、


「このハルホンクの防護服の竜頭装甲は、元々皮膚から自由に出現させたり消したりできるからな」


 最初にハルホンクを食ったときに、光魔ルシヴァルのデオキシリボ核酸とデオキシリボ核酸と似た遺伝子発現の設計図に、ハルホンクの竜の頭の装甲金属を生成するための固有の複合蛋白質のようなモノが生成されたってことだろう。


 数回頷いたハンカイは、肩の竜頭装甲ハルホンクの魔竜王の蒼眼を凝視してから、


「ふむ、螺旋壊槍グラドパルスなどを格納できるハルホンクか……魔槍杖バルドークもいい武器だ。しかし、俺的には……シュウヤの最初の動きが気になった」

「最初の動き……?」


 ハンカイは頷いて、


「そうだ。シュウヤは無数の生きた<魔闘術>を体の内と外に巡らせ重ねたまま縦横無尽に動ける。それも凄まじい練度れんどでな? そして、<血魔力>を魔槍杖バルドークへの触媒にし、<血液加速ブラッディアクセル>以上の加速力を得ると、その疾風迅雷の速度でケアンモンスターの塊との間合いを一瞬で詰めてから魔槍杖バルドークを打ち出した」

「……その通り、相手は動いていないし、かなり楽だったが」

「あぁ、勿論だ。俺が言いたいのは、<魔闘術>系統の技術と、間合いを詰める動作と、魔槍杖バルドークを突き出したその刹那の間のことなのだ」

「間か……」

「うむ。俺には時間が止まって見えた。そして、その魔槍杖バルドークを打ち出したシュウヤと少し前の動きから……魔界セブドラ実戦幾千技法系統や滔天仙流に光魔血仙経流など……無数の武術に関する秘奥、奥義の一部を感じとれたのだ」


 と渋く語るハンカイ。

 さすがは俺の斧先生のハンカイ。

 <空穿・螺旋壊槍>の動きから俺の武術を読むとは、武人すぎる。

 自然と拱手とラ・ケラーダを送った。

 ハンカイも拱手とラ・ケラーダを返してくれた。


 友の絆を感じていると、ヴィーネたちも自然と笑顔になっていた。


「あの一瞬で、秘奥、奥義を見たか、さすがだな」

「あくまでも感じ取っただけだ。俺よりもシュウヤだ。様々な<魔闘術>を己の内に循環、融合させて纏っていた。それでいて心身が非常に安定したまま己の魔力操作を行っていた。同時に、魔力操作も向上させ続けていたと分かる」


 頷いた。


「それが分かるハンカイも凄い」

「おうよ、伊達に実戦は積んでいない」


 ハンカイは嬉しそうに語る。

 すると、ヴィーネが、


「はい、ご主人様の新しい<血魔力>の<魔闘術>系統と歩法を見て震えました。同時にご主人様の高度な槍武術があるからこそ、様々な神々の恩寵と関係している<魔闘術>系統が活きるのだと理解できます。そして、魔槍杖バルドークが吸い取った<血魔力>の触媒ですが……ご主人様は血仙人の証しを得られたとも聞いていたので、見ていて納得できました」

「血仙人の証し、か」

「はい、ご主人様は、キサラの<魔手太陰肺経>を習っていたこともあり、<血脈冥想>や<光魔血仙経>を覚えたことで、血と水と時空属性の<魔闘術>系統が飛躍的に発展し、全般的な戦闘能力の底上げと上限も上昇するようになったと精霊様やエヴァたちから聞いています!」


 と嬉しそうに言ってくれた。

 ハンカイも数回頷いてから、瞳を輝かせて、


「……あぁ、血仙人の証しに滔天仙人は聞いた……当時は、仙人だとぉ? どこまで行くんだシュウヤよ……とムカついた」

「はは、ムカつくなよ」


 笑いながら言うと、ハンカイも笑ってから、


「指導を直に受けているムーが羨ましく思える。それほどに凄まじい武術家がシュウヤだからな。そして、俺も<魔闘術>系統の魔力操作にはかなり自信があったんだがなぁ……今のシュウヤを見ていると、その自信も揺らぐぞ……」

「……悪いな。が、訓練の賜物、実戦の賜物と言えるか?」


 と笑顔を向けると、ハンカイも笑顔になって、


「そうだな。うむうむ」


 と発言。

 ハンカイから習った『鬼颪』を想起しつつ、


「そういうハンカイだが、先ほど新スキルを覚えたと語っていた。実戦は多かったと思うが、どうなんだ?」

「たしかに多かった」

「キッシュから、サイデイルの北と南の情勢は、比較的安定気味と聞いている」

「そうだ。ヘカトレイル、ヒノ村、フェニムル村を警邏する冒険者が増えて古代狼族との同盟効果もある。だがしかし、その分東と西の戦いが激化した。特に、ルマルディたちが活躍した旧神ゴ・ラードの蜻蛉軍団には手こずった。ドミドーンたちの地図造りを把握しているような動きだったからな。そして、俺はデルハウトやシュヘリアと共に何回も最前線に出撃した」


 と、両腕に嵌まる大地の魔宝石を見せる。

 ハンカイの体と装備はミスティ&クナによって改良が施された。


 そのハンカイは、ルマルディとアルルカンの把神書を見る。

 サイデイルの空軍担当だったルマルディは、


「はい、オーク、樹怪王じゅかいおう、ゴブリン、旧神ゴ・ラードのモンスター軍は神出鬼没しんしゅつきぼつ、当時のわたしたちは紅虎べにとらあらし血獣隊ちじゅうたいと違い血文字が使えなかったので、個人の裁量に任されていたことも大きいですね」


 と発言。ハンカイも頷いた。

 ハンカイにも血文字が可能な<筆頭従者長選ばれし眷属>となってほしいが……。


 すると、蜘蛛娘アキが、


「ハンカイさんには、【八蜘蛛ノ小迷宮】でも戦ってもらったことがあります。非常に強かったです!」


 蜘蛛娘アキは、クエマとソロボにスゥンさんに、ハンカイにまで声をかけていたのか。


「おう、いい経験だった。蜘蛛娘アキを破ったと聞く王鬼キングオーガと似たナイトホークの群れと、優れたゴブリン隊とは戦ってみたかった」


 蜘蛛娘アキも相当な強さだが、そのアキたちがいた【八蜘蛛ノ小迷宮】を破ったゴブリンは相当に智恵のある存在だろう。


 最初の選択の時を思い出す。


 種族:ゴブリン

 平均寿命:15??

 種族特性:<狭窄>:<精加獣>:<知能減退>:<トドグ・ゴグの加護>

 恒久スキル:<鬼の系譜>:<ゴブリンの進化>


 ※人族並みに人口が多い※

 ※大陸の各地に散らばり様々な場所に生息※

 ※微妙に姿、形、習慣が違うゴブリンも存在する※

 ※多種多様なゴブリン族は基本的に纏まりがない※

 ※地域によってゴブリンたちの王であるゴブリンロード、ゴブリンキング、ゴブリンカイザーたちの群雄割拠な軍閥が発展している戦国乱世のような地域もあるだろう※

 ※ある地域ではホブゴブリンやハイゴブリンが人族や亜人などを完全に駆逐し、ゴブリンたちによるゴブリンたちの政治が執り行われている特殊な地域も存在する※

 ※そんなゴブリン族の大半が欲望の王魔トドグ・ゴグを信奉しており、繁殖の周期も短く、どこの場所でも繁殖しやすいのが最大の強みとも言えるだろう※

 ※だが、人族による討伐対象なので人口はそこまで爆発的には増えていない※


 とあったように、ゴブリンカイザーなどはかなり強いってことだ。

 そして、欲望の王魔トドグ・ゴグもその内復活するかも知れない……。


 などと思いつつ、


「……あぁ、六本腕の大柄魔族だな。俺もアキたちを破ったと聞いて、興味は持っていた」

「うむ」


 と、ルマルディが、


「樹怪王の槍使いたちと、旧神ゴ・ラードの蜻蛉軍団にも魔術師のような人族系が混じる部隊がありましたが、その部隊も強かった」

「あぁ、樹怪王の軍勢は特にそうだろう。個性ある槍使いの中には、シュウヤのような槍の強者が多い。俺も負傷したぐらいの相手だった。ま、闇鯨ロターゼのお陰で助かって、倒せたが」


 サイデイルも激戦だ……。

 ま、<筆頭従者長選ばれし眷属>のキッシュに元墓掘り人のバーレンティンや皆がいるから大丈夫だろう。


 しかし、光魔ルシヴァルの眷属ではない目の前のハンカイに、


「……ハンカイもタフだな」

「おう、光魔ルシヴァル一門には負けるが、俺の血肉も普通ではないからな」

「ミスティとクナに提供していたことは覚えている」

「ふむ。クナは錬金素材として、ミスティは新型魔導人形ウォーガノフ用の素材と実験に流用していた」


 そうして少し間が空くと、キッカと目が合う。

 そのキッカが、


「……宗主、よろしいですか」

「おう」

「ふむ」


 ハンカイは遠慮して少し後退。

 キッカは、


「先ほど、宗主は足下から濃密な闇属性の魔力を展開させてケアンモンスターの塊を囲っていましたが、あれが<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>ですよね」

「そうだ」

「ケアンモンスターの塊への布石ですね」


 頷いた。


「おう、一応の保険。<空穿・螺旋壊槍>には自信があったが、一撃で対処できない場合と〝死蝕のベギアル〟の出現に備えた。通じないかも知れないが、多少の効果はあるだろうと思ってな」

「はい、宗主は称号を複数持つので、正解かつ、見事な戦術かと」

「はい、わたしもそう思います」


 ヴィーネも同意してくれた。

 更にキッカは、


「一撃でケアンモンスターの塊が消えた理由は、<空穿・螺旋壊槍>の螺旋壊槍グラドパルスの威力故だと思いますが、もしかしたら<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>の影響も少なからずあったかも知れません」

「それならよかった」

「ふふ」


 キッカの笑顔。黒い瞳とアイラインが美しい。

 魅了される。胸元のハートマークの間から覗かせる胸の谷間も魅惑的でたまらない……が、おっぱい桃源郷への視線は自重しておくか。


 すると、いきなりアルルカンの把神書が、


「主ぃぃ! 美女たちと変なモードに入る前に、俺ともハイタッチ~とちゅ~♪」


 表紙に浮き彫りの唇を作って直進してきた。

 急ぎ、<生活魔法>の水を両腕に発生させつつ、


「ふざけろ――」


 と言って右肘をあげる。

 同時に<玄智・陰陽流槌>を意識した。

 肘に《水流操作ウォーターコントロール》でコントロールした水と<血魔力>を集結させると、アルルカンの把神書は――。


 俺の玄智武王院技術系統:上位肘打撃の動きを察知したのか、表紙に生み出していた分厚い唇を消して元の表紙に戻りながら宙空で急ストップ。


 そのアルルカンの把神書は、


「――冗談だっての! しかもただの肘鉄じゃないだろそれ!」


 とアルルカンの把神書は書物から魔力粒子を出す。


 魔力粒子は汗のような形となっていた。


 絵文字のような表現が可能な魔力操作が面白い。


 自然に放出された魔力が、アルルカンの把神書の感情を汲み取って表現しているのかも知れないが、もし操作しているのなら、俺の知るような地球文明の絵文字を知っている?


 さすがにそれは飛躍し過ぎか。

 俺の知る地球にも古代の壁画は色々とある。


 単に、ルマルディが血文字を使えるようになった影響もあるのかな。


 まぁ巨大な魔力の魚を頁から召喚が可能なアルルカンの把神書だからな。


「ンン」


 アルルカンの把神書の喋りを見た黒猫ロロが反応。

 つぶらな瞳で見上げている。


「……神獣よ、俺は歯磨き用のい草のアイテムではないからな? 噛むなよ?」

「ンン、にゃ? にゃ、にゃぁ~」

「よしよしー肉球の感触だけか! えらいぞ、神獣! そのまま俺を肉球でモミモミするのだ! え、急に爪と牙を出すなぁ、ひぃぁぁ~」


 と途中からアルルカンの把神書はいつもの変な声を発し反転して逃げていく。

 毎度だが、黒猫ロロさんは、


「ンン――」


 と喉声を発して、逃げたアルルカンの把神書を追い掛けた。

 面白いコンビだ。


 そんなやりとりを見ていると笑ってしまう。


 一方、銀灰猫メトは追い掛けない。


「にゃァ~」


 と微かな鳴き声を発して俺の足下に来る。

 銀灰猫メトの性格は少し大人しいのかな。


 片膝を下ろして銀灰猫メトを撫でていると、ヴィーネが、


「ふふ、ご主人様、魔槍杖バルドークのことですが」

「ん、あぁ、なんだ?」


 と立ち上がる。

 銀灰猫メトが「にゃァ」と鳴いて、『もっと撫でてにゃ~』と言うように俺の足に頭部を寄せて来る中、ヴィーネが、


「ケアンモンスターの塊を突き刺した直後の魔槍杖バルドークですが、紫色の閃光的な攻撃は初見でした」


 バーソロンも、


「はい、わたしも初めて見ました。竜の鱗的な細かなモノが混じった閃光攻撃は<血魔突刃砲>や<闇細刃連>にも見えました」


 その発言に皆が頷く。

 ヘルメも、


「はい、魔槍杖バルドークから出現する魔竜王の幻影は見たことがありますが、あの閃光的な攻撃はわたしも初見です」


 と発言。

 続いて闇雷精霊グィヴァも、


「わたしも初見。魔槍杖バルドークを突き出して、その魔槍杖バルドークを起点にケアンモンスターの塊の横と斜め上が溶けつつ切断されていくような閃光の攻撃は凄かった。あの攻撃だけで、ケアンモンスターの塊を倒すのかと思いましたから」


 頷く。


 俺はスキル名は発していないし、背後からは距離があったからな。

 最初は魔槍杖バルドークの<紅蓮嵐穿>的な直進機動の<魔槍技>に見えただろう。


 ピュリンも細い腕を上げて、


「あ、わたしも、初めて見ましたです!」


 骨の尻尾をくるくると回している。可愛い。

 そのピュリンの額のマークがキラリと光って明滅。

 明滅しながら光が線の中を巡るのが面白い……。


 と、不思議なピュリンばかり見ず、


 皆に、


「最初の魔槍杖バルドークから出た閃光のような攻撃は<破壊神ゲルセルクの心得>の効果と予想する……俺の<血魔力>を栄養源にしている魔槍杖バルドークの進化もあると思う」

「破壊神ゲルセルク……ふむ。破壊の王ラシーンズ・レビオダ様と関係があるんだろうか」

「……破壊の王ラシーンズ・レビオダ様とは違い、セラでの知名度は相当低いと思いますよ」

「……聞いたことがない神様です」

「わたしもない」

「わたしもだ」


 俺も当時初めて聞いた破壊神ゲルセルク様。

 バーソロン以外は当然聞いたことがない。


 頷きつつ、肩の竜頭装甲ハルホンクを意識した。

 そして、螺旋壊槍グラドパルスを右手に出現させる。


「「「「「おぉ!」」」」」


 皆が歓声を発するように驚いていた。


「にゃァ」

「にゃお~」

「おぉぉ~、螺旋壊槍グラドパルス!」


 相棒と銀灰猫メトにアルルカンの把神書が近付いて、螺旋壊槍グラドパルスを凝視。

 <血想槍>で螺旋壊槍グラドパルスを浮かばせながら――。

 皆に、壊槍グラドパルスから進化した螺旋壊槍グラドパルスのドリルランスを見せていく。


 黒猫ロロ銀灰猫メトはお揃いの動きで片足を上げて、螺旋壊槍グラドパルスを触ろうとしてくるが――。

 触らせない――。


 肉球ちゃんに傷が付いて出血してしまったらショックすぎる。


「螺旋壊槍グラドパルス……」


 ヴィーネが呟きながらジッと螺旋壊槍グラドパルスを見てくる。

 <血想槍>だと<血魔力>の消費が激しいのもあるし――。

 少し見にくいか――と<血想槍>を消去。

 慣性で落下する前に螺旋壊槍グラドパルスを右手で掴んでから振るう。


 そこから風槍流『風握り』を行い、前に歩きながら重心を下げた。

 左足の踏み込みから<刺突>を繰り出す。


「「おぉ~」」


 螺旋壊槍グラドパルスを引くように右腕を引きつつ、ゆっくりと腰と右足を開くように半身の姿勢に移行。


 そこから、もう一度螺旋壊槍グラドパルスを左から右へと振るってから――肩に螺旋壊槍グラドパルスの柄を置く。


 本格的な訓練に移行する前に動きを止めた。

 ヴィーネたちが拍手してくれた。


 するとピュリンが、


「重そうですが、軽々と扱えるのですね」

「大きい闇色のランスで、先は刀の刃のように細い……」

「ハンマーとしても使えるか」


 ハンカイの言葉に頷く。


「あぁ、いつか鈍器術をビュシエに習うかも知れない」

「「……」」


 皆黙ってしまう。

 まだビュシエとは会えていないしな。


 と、ハンカイが、


「……ケアンモンスターの塊を巻きこんだ螺旋壊槍グラドパルスは渦の中へと消えたようにも見えたが……あの渦は魔界セブドラに通じているのか? それとも未知の次元か? あ、肩の竜頭装甲ハルホンクの中に直通なのか?」


 そう質問してきた。


「……最後は肩の竜頭装甲ハルホンクの中に収まるから直通かも知れないが……数多ある亜空間を通り抜けているかもだ。または狭間ヴェイルの穴か……謎だが、〝ファイサドの次元媒粉の楔〟がキーで、持ち主として認めた俺に戻って来るようになっているんだろう。とにかく、螺旋壊槍グラドパルスが上下左右の空間ごと抉り取りながら直進する必殺技が<闇穿・魔壊槍>と<空穿・螺旋壊槍>だ。それでいて、最後に螺旋壊槍グラドパルスは肩の竜頭装甲ハルホンクの中に戻る」


 ハンカイだけでなく皆が不思議そうな顔となった。

 まぁ、俺も不思議だ。

 ハンカイは『ふむふむ』と言うように数回頷いてから、


「……それらの要素がすべて噛み合っているのかも知れないな」


 と真実っぽく語る。

 たしかにそうかも知れない。

 確証はないが「あぁ」と頷いた。


 ヴィーネは、


「……螺旋壊槍グラドパルスの<空穿・螺旋壊槍>は、<闇穿・魔壊槍>を上回る速度に見えました」

「それも<破壊神ゲルセルクの心得>効果かもな」

「はい」


 すると、ルマルディが螺旋壊槍グラドパルスと俺に近付く。

 サイデイルの戦闘用衣装の上着から豊かな大きさの胸元を覗かせている。乳房の上の部分が少しだけ見えているから、野郎からしたら嬉しい衣装だ。


 その乳房は粉雪の如く白く……。

 血管が薄らと見えていた。


 魅惑的なおっぱいを持つルマルディは、長い金髪を耳の裏に通しながら……上目遣いで螺旋壊槍グラドパルスを下から見上げつつ俺を見て、


「ふふ、螺旋壊槍グラドパルスの表面の模様は綺麗ですね」


 と笑顔を見せる。

 キュンとなったがな。


「……あぁ、螺鈿的な細工は綺麗だが、ルマルディの金髪も美しい」

「え、あ、ありがとう……あ、わたし的には、魔槍杖バルドークと螺旋壊槍グラドパルスを扱うシュウヤさんの動きと体が……素敵で……」


 その言葉は嬉しい。

 ルマルディは頬を朱に染めつつ俺の腹を見ていく。


 あ、ハルホンクの防護服は胸を厚めに囲っているだけで、他は軽装気味だった。

 一夜のことを思い出していると分かるルマルディのエロ顔を見たヴィーネたちが一斉に厳しい視線となった。


 ルマルディはたじろぐ。


「あ、すみません……」


 と皆に謝ってから、俺を見直して、


「……そして、螺旋壊槍グラドパルスとなる経緯の……狭間ヴェイルに囚われていた魔界騎士グラド殿を救出する話と、そのグラド殿の話に魔術師クンダの名が登場したことには驚きを覚えました」


 ヴィーネが俺の右腕を捕らえつつ、


「――あぁ、〝狭間ヴェイルに捕らわれた魔人騎士ヴェルゼイとアイラの恋〟だな」


 恋の部分で、ヴィーネは己の乳房で二の腕を挟むように押し付けてくれた。


 嬉しい感触だ。


 そして、お伽噺に登場した魔人千年帝国ハザーンの魔術師クンダ。

 ヴィーネは、俺をジッと見て、


「……狭間ヴェイルの穴の手前で壊槍グラドパルスが回転しながら止まっていた話を聞いた時は、俄には信じられない思いだったが、今では事実と分かる! ご主人様、狭間ヴェイルの穴に入られないで本当に良かった……」


 ヴィーネは素の口調となって潤んだ瞳を見せる。

 すると、ハンカイが、


「魔界王子テーバロンテを倒し、魔界騎士グラドを配下にした前後の話だな。【ケーゼンベルスの魔樹海】からシュウヤたちがいる【バーヴァイ平原】と【バーヴァイ城】へと緑竜カデルや鎧将蟻オフィサーアントと似た蟻モンスターに毒大蛇セケムなどのモンスターが大流入してきたが、それらをシュウヤたちが倒した話はよく覚えている……俺もその戦いの英雄譚に交ざりたかった!!」


 と興奮しつつ語る。


 ピュリンたちに視線を向けた。


 ピュリンは胸元に両手を当て会釈すると、皆に、


「――はい、【ケーゼンベルスの魔樹海】から【バーヴァイ平原】へと無数のモンスターが流入してきた。使者様は、壊槍グラドパルスへと魔力を注いだ直後、体と精神に痛みを体感したようですが……新たな恒久スキル<破壊神ゲルセルクの心得>を獲得したのです。そのスキルを使いつつ<闇穿・魔壊槍>を緑竜カデルに放って、<空穿・螺旋壊槍>を獲得なされたのです!」


 と説明してくれた。


「おう、その通り。ピュリン、解説をありがとう」


「はい!」


 そこで、ステータスで<空穿・螺旋壊槍>をタッチして確認できた内容を思い出しながら、


「では、改めて<空穿・螺旋壊槍>を説明しとこう」


 ※空穿・螺旋壊槍※

 ※壊槍次元流技術系統:魔槍奥義極大※

 ※<魔槍技>に部類※

 ※風槍流技術系統:極位突き※

 ※螺旋壊槍グラドパルスが必須※

 ※時空属性とすべての高水準の能力が必須、更に<破壊神ゲルセルクの心得>を獲得したことでファイサド家特有の<空穿>を自動で発動、効果を得る※

 ※ファイサド家の魔君主の器と認められた証拠※

 ※〝ファイサドの次元媒粉の楔〟は、本来の効果を使い手に齎すだろう※

 ※使えば使うほど時空槍流技術系統の熟練度が高まる※

 ※極魔破壊魔山グラドパルスに近付くと、使い手の総合能力が上昇、ただし、破壊的な衝動も強くなるため、高い精神能力が求められる(<破壊神ゲルセルクの心得>が必須)※

 ※破壊神ゲルセルクの魂の欠片が宿る壊槍グラドパルスが使い手の内部に破壊異槌ゲルセルクを感じた刹那、魔界セブドラの破壊神ゲルセルクが眠りから覚め、壊極破壊魔山グラドパルスが噴火を起こし隆起した。周辺地域は地殻変動が起きたことにより、大規模な地震が発生した。更に、破壊神ゲルセルクは、使い手を眷属と認め、<破壊神ゲルセルクの心得>を壊槍グラドパルス越しに使い手へと伝授、壊槍グラドパルスと呼応している使い手と一体化したように魔力を共に分け合った。そうして、壊槍グラドパルスの穂先が螺旋状に細く伸びて、螺旋壊槍グラドパルスへと進化を果たした※

 ※極魔破壊魔山グラドパルスへ誘われる※


 というステータスの情報を皆に説明した。


「「おぉ~」」

「魔界セブドラの極魔破壊魔山グラドパルス……」

「……『〝ファイサドの次元媒粉の楔〟は、本来の効果を使い手に齎すだろう』は、先ほどの〝ファイサドの次元媒粉の楔〟でシュウヤの元に戻ってくるという話と通じるな。だからこその破壊神ゲルセルクの魂の欠片が宿る壊槍グラドパルスか、納得だ!!」


 ハンカイの言葉に頷いた。


「ファイサド家特有の<空穿>を自動で発動、効果を得る……」


 バーソロンたちも納得するように頷いている。

 するとヴィーネが、


「壊槍次元流技術系統、魔槍奥義極大……そして、使えば使うほど、時空槍流技術系統の熟練度が上昇とは、壊槍次元流の他にも時空属性の槍武術が存在するということですね」 

「あぁ、魔軍夜行ノ槍業の師匠たちのように流派もあるだろうな」

「しかし、〝ファイサドの次元媒粉の楔〟とは不思議なアイテムです」


 ルマルディの言葉に頷いた。

 すると、ピュリンが、


「光魔騎士グラドさんは、言い伝えのことを言っていました。『壊槍グラドパルスの真の使い手こそが、ファイサド家、魔君主を継ぐ存在であり、次元を渡る使い手、極魔破壊魔山グラドパルスへ誘われる存在である。グラド家はその使い手を探すことが使命と心得よ』、『その真の使い手は、狭間ヴェイルの穴を打ち破るとされる破壊異槌ゲルセルクに近い効果を壊槍グラドパルスから生み出すだろう』と。更に〝ファイサドの次元媒粉の楔〟は、『この粉をかけた物や存在に場所を記憶する。同時にファイサド家に縁が強い者たちの下へ転移されやすくなる、または誘われる効果を生むであろう』とも」


 またもピュリンが解説してくれた。


「「「おぉ」」」


 皆が歓声を発した。


「ピュリン、グラドとの会話を覚えていたのか」

「はい、ツアンさんとイモリザと意識を共有していますので、記憶力が上昇しているのかも知れません」

「おぉ、素晴らしい能力だ」


 ヴィーネは本心で褒めていると分かる。


 ハンカイも、


「<光邪ノ使徒>の強みの一つか」

「はい♪」


 ピュリンは笑顔満面。

 片腕からセレレの骨筒を出して伸ばしていた。

 可愛いポーズ。


 ハンカイが「おぉ~、サイデイルの正門からぶっ放していた頃よりも骨筒が成長しているのか?」と聞くと、談笑が始まる。


 その間に螺旋壊槍グラドパルスを肩の竜頭装甲ハルホンクに格納してもらった。


 そして、辺りを見渡して、皆に、


「これで下界の懸念の一つは解決かな」

「「「はい」」」

「にゃ~」

「にゃァ」


 黒猫ロロ銀灰猫メトが肩に乗ってきた。

 すると、キッカが俺に近付いて耳元で、


「宗主、この案件を皆に宣言しますが、よろしいでしょうか」

「あぁ、構わない――」


 耳元のキッカにキスできるような距離で顔を向けた。

 美しいキッカの顔を凝視すると、キッカはポッと頬を赤く染める。

 そのまま瞬きを繰り返して俺の唇をチラッと見てから、恥ずかしそうに視線を逸らす。

 再び俺を見ると、一気に瞳がとろんとなっていた。


 キスしたくなったが、自重。

 キッカに向けて『周囲の皆が待っているぞ』と言うように視線を巡らせる。


 キッカはハッとした表情となって唇に指を置いてから俺に投げキッスをしてくれた。


「ふふ」


 しばし、その可愛い姿に魅了されて動けなくなる。

 キッカは微笑のまま身を引きつつ、


「では、皆に報告します」


 と言いつつ踵を返してから自分の頬を両手で叩く。


 と、皆の前に出て、


「では! 皆、わたしは塔烈中立都市セナアプアの冒険者ギルドマスターのキッカ・マヨハルトである。そのキッカが、今ここで宣言しよう! この黒髪の男性は『イノセントアームズ』を率いるシュウヤ殿だ。このシュウヤ殿は、あの〝烈戒の浮遊岩〟、〝泡の浮遊岩〟、〝網の浮遊岩〟の解放者たちの一人なのだ! 更に【魔の扉】の討伐の最大の功労者の英雄。そして、その英雄シュウヤ殿が、今日、皆が見ている前で、我らが苦しんだケアンモンスターの塊を倒してくれた! 犠牲者も報われるだろう……よって、〝ケアンモンスターの塊の討伐〟の緊急依頼は達成されたことになる! シュウヤ殿たちと『イノセントアームズ』は、〝ケアンモンスターの塊の討伐者〟となった!!!」

「「「おぉぉ~」」」


 冒険者たちから歓声が響く。

 キッカが両手を上げて、『落ち着け、まだ話がある』と言うようにジェスチャーを行うと、皆の歓声が止まる。


 この辺りは、冒険者ギルドマスターらしいパフォーマンス。

 そのキッカは黒い瞳に<血魔力>を込めて魔眼を発動?

 そのまま俺をチラッと見て僅かに唇を窄めてくれた。可愛い。


 そして、皆に向けて、


「――祝福しよう!! 新たなるセナアプアの英雄を!! ケアンモンスターの塊の討伐者万歳!! イノセントアームズ万歳!!」

「「「「「ケアンモンスターの塊の討伐者!!」」」」」

「「イノセントアームズ万歳!!」」

「「おめでとう!!」」

「イノセントアームズおめでとう! シュウヤ殿、ありがとう!!」

「「「【血月布武】万歳!」」」

「ラ・ディウスマントルを討伐しただけはある!!」

「「「あぁ!」」」

「【血月布武】がまた下界を救ってくれた!!!」

「「あぁ!!」」

「イノセントアームズとシュウヤ殿、【天凛の月】、おめでとう!!」

「まさに〝天を衝き、地を衝く槍の王、すべての悪を一手に引き受けて、その悪を滅する〟!」

「「〝天を衝き、地を衝く槍の王、すべての悪を一手に引き受けて、その悪を滅する〟!」」


 【白鯨の血長耳】の兵士たちと【ノーザンクロス】などの冒険者たちが口々に俺たちを讃えてくれた。


 涙ぐむ女性冒険者もいるから、被害者の仲間だったのかな。

 ケアンモンスターの塊を倒せて良かった。


 騒ぎが少し収まったところで、キッカは、


「緊急依頼の報酬は、下界の冒険者ギルドの建物にいるキアルキューたちから出ることになっている。皆はそこで受け取ってくれ」


 と冒険者たちに言った。


「「「了解!」」」

「「「「「おう!」」」」」

「「「はい!」」」


 冒険者たちは喜び合う者たちが多い。

 近くの浮遊岩や無事な建物やテントに向かい始めた。


 小型飛空艇ゼルヴァに乗り込む冒険者もいた。

 エンジンを吹かせるように上昇していく小型飛空艇ゼルヴァは非常に格好いいが、値段やモンスター引き寄せなどの理由から塔烈中立都市セナアプア限定。


「素敵なシュウヤさん、それでは!」

「おう」


 とゲツランさんに手を振る。

 ゲツランさんは笑顔を浮かべてくれた。が、皆を見て少し悲しそうな表情を浮かべると、仲間に促されて直ぐに反転。


「シュウヤ殿! 然らば!」


 他の【ノーザンクロス】の面々も引きあげていく。

 残ったのは【白鯨の血長耳】の人員。

 と、ドミタスさんと数人の冒険者たちだけとなった。

 すると、ハンカイが、


「一時は、ケアンモンスターの塊から大量のモンスターが外に飛び出るとかあるかと思ったが、良かったな」

「あぁ」


 ハンカイの言葉に頷いた。

 ヴィーネは、


「その可能性は高かったと思います。やはり螺旋壊槍グラドパルスを用いて正解でした」

「そうですね」

「「はい」」

「ふむ!」


 ハンカイの気合い声が響く。

 そのハンカイは、両手の甲に嵌まっている大地の魔宝石が輝いた。

 と、徐々にその輝きが消えていく。

 右手に握っていた金剛樹の斧を消すと、手首と腰のベルトとポーチが輝いた。


 前は背中に金剛樹の斧を嵌めていたが……。

 アイテムボックスに金剛樹の斧を仕舞ったか。


 すると、【白鯨の血長耳】の事務所にいたレザライサとレレイさんとミセブが出てきた。


 外の騒ぎが聞こえたのと、ファスから報告を聞いたようだ。

 片耳に右手の人差し指と中指を当てながら、此方を凝視している。


 そのレザライサに手を振った。

 レザライサは唖然としていたが、俺を見て笑みを浮かべる。


 右手を降ろすと、レレイさんに指示を飛ばしながら、体から発した銀色の魔力で、


『カタカッタ、ケアンモンスターヲタオストハナ! アッパレダ。ソシテ、オマエハ、ヤハリエイユウダ!』


 という文字を浮かしながら拱手をしてくれた。

 俺も少し遠目にいるレザライサに拱手を返す。


 レザライサは頷くと、文字を作った銀色の魔力を消す。


 と、そこにエミアさん、サンさんたち【ギルド請負人】の方々が現れる。


 ドミタスさんが、


「キッカとシュウヤ殿、よろしいか?」


 と言いながら、数人の冒険者たちとエミアさん、ハカさん、サンさんと合流して寄ってくる。


「あ、はい、お久しぶりです、ドミタスさん」

「はい、此方こそ。早速のご活躍を直に見られて非常に嬉しい思いですぞ!」


 そこでキッカが、


「どうしたドミタス」

「どうしたではないだろう。憲章オリミールの件だ」


 ドミタスさんは懐から憲章オリミール・珠守樹を出した。


 あのアイテムは前にも見たことがある。

 先端に欠けた水晶玉が付くガイガーカウンターと似たアイテム。


「あ、あぁ」


 とキッカは俺を見た。


「Sランク昇級の準備かな」

「はい、宗主が来たらSランク昇級を行うと、そして、ケアンモンスターの塊の懸念を片付けられるだろうとは、事前に話を通していたのです」


 なら、


「Aランクと同じくSランクへの昇級がここで可能なら、お願いしようかな」

「はい、憲章オリミールの<聖刻星印・ギルド長>はここで可能です!」

「では、頼むとしようか」


 夜王の傘セイヴァルトを右手に召喚。

 夜王の傘セイヴァルトの中棒に魔力を送り傘を開く。

 同時に黄金の冒険者カードを意識した。すると、漆黒の傘の表面から黄金の冒険者カードが出現。その黄金の冒険者カードを掴んで、夜王の傘セイヴァルトを消す。


「宗主、そのAランクの黄金のカードはまだ持っていてください」

「了解、ヴィーネたちの冒険者カードは?」

「必要ありませんが、一応、冒険者カードを持っている方は外に出しておいてください」

「ふむ」

「分かりました」


 ヴィーネは黄金の冒険者カードを出す。

 更にキッカは、


「ディアさんなどの実績のないメンバーの方は、さすがにSランクへの昇級は無理だと思いますが、イノセントアームズに所属している方々なら、それぞれに見合うランクへと昇格を果たすと思います」

「「おぉ~」」

「了解したが、この間例外と言っていたが……いいんだろうか」

「ふふ、宗主、いいんです。聖ギルド連盟と関連したギルドマスターのわたしは<筆頭従者長選ばれし眷属>ですからね。なにより、宗主は大事なギルド秘鍵書を無償で聖ギルド連盟のファルファに返した。その行為を秩序の神オリミール様は絶対に見逃していない。その証拠に、オリミール神の心臓が宿る幽世部屋での洗礼召喚状が正式に聖ギルド連盟から出ています。ですから、これも神界セウロスの神々の導きと思ってください」

「分かった。では儀式を頼む」


 キッカたちは頷く。

 キッカは、【ギルド請負人】たちに、


「はい、では早速。皆、行くぞ」

「「「「おう、了解!」」」」


 掛け声を発した【ギルド請負人】たち。

 キッカを中心に円陣を組む。


「副ギルドマスター、エミア・ゼピィルス。憲章オリミール・珠玉守――」

「ギルド裏仕事人、サン・ジェラルド。憲章オリミール・珠斬攻――」

「ギルド裏仕事人、ハカ・ヨミラン。憲章オリミール・珠目罰――」

「ギルド裏仕事人、ドミタス・ラオンイングラハム。憲章オリミール・珠守樹――」


 キッカも懐からガイガーカウンター的なアイテムを出す。

 先端に小さく欠けた水晶玉が付いた憲章オリミール。


 皆がその憲章オリミールを突き合わせた。

 先端の欠けた水晶同士が合わさると、一つの星座が記された水晶玉となる。


「秩序の神オリミール様に感謝を――ギルドマスター権限発動――<聖刻星印・ギルド長>」


 水晶玉から秩序の神オリミール様の星座を差すような魔力が真上に迸ると、収斂して焔となり、その焔に俺の黄金の冒険者カードが吸い込まれて燃えて溶ける。

 続けて皆のカードも焔に吸い込まれてすぐに溶けた。

 溶けた物質は極彩色に変化。

 その物質は真上に光を放つと、星々と通じたように憲章オリミールの焔が強まった刹那――。

 その物質が、複数の極彩色と虹色が混じる黄金色のカードに変化し、憲章オリミールの水晶玉から出ていた焔が消える。


 虹色が混じる黄金の冒険者カードは浮かびながら手元に戻ってきた。その冒険者カードを確認。


 名前:シュウヤ・カガリ

 年齢:23

 称号:網の浮遊岩の解放者:ケアンモンスターの塊の討伐者:複数。

 種族:人族:??

 職業:冒険者Sランク

 所属:イノセントアームズ

 戦闘職業:槍武奏:鎖使い

 達成依頼:67


 おお、冒険者Sランクに変化。

 嬉しい。

 アキレス師匠……俺はついに……。


 戦闘型デバイスの風防的な硝子面から投影されているホログラム映像のアクセルマギナも拍手してくれていた。


 依頼達成数が増えているが、神々やキッカのはからいか?

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