千百話 ケアンモンスターの塊の破壊

 ケアンモンスターの塊から放出されている毒霧は増えた。毒霧で元宿屋だったケアンモンスターの塊は見えず、網目状の赤い魔線が外側に膨らんでいる。


 爆発しそうな勢いだ。

 さっさとぶち抜くにしても、破壊に失敗したらやばいか?

 

 そう考えながらヴィーネたちを見ると、ファスが、


「毒霧がここまで拡がるとは……」


 驚いている。

 アルルカンの把神書とルマルディとバーソロンとヴィーネは浮遊して俺の左右斜め後ろにきた。


 相棒は黒豹に近い黒い獣へと変身。

 片腕を骨の銃に変化させたピュリンの横には大きくなった銀灰猫メトがいる。

 その銀灰猫メトを見て、魔獣ロロはまたまた大きい猫に変身すると、銀灰猫メトと鼻キスを行う。


 可愛い二匹だ。

 すると、後方で翡翠の蛇弓バジュラを構えているヴィーネが、


「ご主人様、攻撃の準備は整えておきますので、いつでもぶちかましてください」

「陛下、わたしも――」


 バーソロンは<ルクスの炎紐>を両手から出しながらヴィーネの右斜めの上空でホバリング。

 近くにいたハンカイも、


「サイデイルの防衛で金剛樹の斧の技術が上がり新スキルも得たが……さすがにこのケアンモンスターの塊の破壊は無理そうだ……だからシュウヤよ、頼むぞ!」


 その言葉に頷いた。

 ハンカイはヴィーネたちの位置に後退。


「おうよ。<戦神グンダルンの昂揚>を使った<闇穿・魔壊槍>か、<空穿・螺旋壊槍>かな? それか<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を最初に使うか……<闇の次元血鎖ダーク・ディメンションブラッドチェーン>もあるが。ま、無難に魔槍杖バルドークで破壊を試みるとしよう……しかし、破壊に成功したとしても……毒霧がどうなるか、他に何が起きるかも不透明。〝死蝕のベギアル〟などの怪物が飛び出てくるかも知れないから、用心しておいてくれ」

「「「「はいッ」」」」

「にゃおぉ~」

「にゃァァ」


 大きい黒猫ロロ銀灰猫メトを見ながら右手に魔槍杖バルドークを召喚――。


 同時に閃光のミレイヴァルの銀チェーンと小さい杭に魔力を込めた。

 チェーンと小さい杭は青白い閃光を発しながら魔力粒子になり、その魔力粒子は片膝を地面に付けているミレイヴァルを模った。


 ミレイヴァルの右手の甲の上には十字架が浮かんでいる。その十字架から出ている魔線は俺の二の腕の<霊珠魔印>と繋がっていた。


 そのミレイヴァルは立ち上がり、


「陛下――」

「ミレイヴァル、ここはセナアプアの下界だ。ケアンモンスターの塊の話は聞いていると思うが、どうだろう」

「はい、私も、出していないようですが、マルアもリサナも、下界の死蝕天壌の浮遊岩から繋がる事件の顛末は知っています」

「そっか。なら話は早い。その破壊を試みる直前が今だ。で、皆に俺の初撃でケアンモンスターの塊の破壊に成功するかしないかに関わらず備えておいてくれと説明していたところだ」

「分かりました。後方待機ですね」

「そうだ。攻撃体勢を整えておいてくれ」

「お任せください。閃皇槍流の槍技を準備しておきます」


 ミレイヴァルは聖槍シャルマッハを召喚。


『ヘルメとグィヴァも出ろ』

『『ハイッ』』


 一瞬で、左目から常闇の水精霊ヘルメ――。

 右目から闇雷精霊グィヴァが飛び出て女体化。


 同時に風槍流『喧騒崩し』の構えと歩法で少し歩く。


 光魔沸夜叉将軍たちは、止めておくか。

 グルガンヌの東南地方の活動もあるだろうからな……。


 俺の右上を漂う常闇の水精霊ヘルメは、


「閣下、どんな技を使う予定なのですか?」 

「確実なのは<空穿・螺旋壊槍>だろう」

「はい、そのほうが確実です。では、<破壊神ゲルセルクの心得>も使うと分かりますので、後方に避難しておきます!」


 と、後方というか上空斜め後方に避難していた。

 闇雷精霊グィヴァは俺の左にいる。


「あの、わたしも上に避難したほうが?」

「……直線状、というか、そんな怯えないでも大丈夫だぞ」

「は、はい!」


 グィヴァは腕を上げて敬礼。

 稲妻が片腕から迸る。

 すると、ファスが、


「――【天凛の月】の盟主、あのケアンモンスターの塊を破壊するつもりだと思いますが、その破壊の前に結界を強めることを試したいのですが、宜しいでしょうか」

「了解したが、どちらにせよ、破壊を試みることに変わりはないぞ? そして、今展開している結界スキルか魔法かアイテムは、俺がスキルを用いて破壊しても、連発は可能なのか?」

「はい、連発は可能です。そして、破壊される瞬間に<赤閃網防拿>を解除します」

「分かった。<赤閃網防拿>の強化を試してくれていい」

「はい」


 ファスは、ケアンモンスターへと足早に近付いた。

 そのケアンモンスターの塊を覆う網目状の赤い魔線の結界に手で触れられる距離のファスは、


「では、ケアンモンスターの塊を覆っている<赤閃網防拿>の結界を強めます」

「分かった」


 両手を翳した。

 その両手から赤い閃光と黒い閃光が出ると、膨らんでいた結界の表面に、その赤い閃光と黒い閃光が注がれていく。


 毒霧の表面が燃焼を起こす。

 と、急激に内側へと収縮して、ケアンモンスターの塊の壁の中に消えていく。 


「おぉ、成功したか」

「「おぉ」」

「はい」

「なら、破壊の挑戦は止めたほうがいいかな?」


 キッカたちに意見を求めるように視線を背後に向けた。


「宗主、ファス殿もここにずっと貼り付いたままで居られるわけではないので、挑戦したほうがいいと思います」


 キッカがそう言うと、皆が頷いて、


「主、さっさとぶち抜け!」


 アルルカンの把神書らしい物言いで俺の頭部付近を回っている。


「はい、【天凛の月】の盟主。破壊に挑戦していただけないでしょうか」


 ファスもそう言ってきた。


「了解した。その結界を解くタイミングを教えてくれ。それとファスの位置だが、俺の後方からでも結界は解けるのか?」

「はい、大丈夫です。タイミングは三、二、一の後で」

「分かった」

「はい」


 ファスは後退。

 その背後にいる相棒と銀灰猫メトとアイコンタクト。振り向き直して、ケアンモンスターの塊を凝視。


「では、<赤閃網防拿>を解除します」

「おう」

「三、二――」


 前傾姿勢で前進――。

 同時に<血道第三・開門>を意識。

 ――<血液加速ブラッディアクセル>を発動。

 

 続いて<滔天内丹術>を意識、発動。

 ――<水神の呼び声>。

 ――<滔天仙正理大綱>。

 ――<戦神グンダルンの昂揚>。

 ――<破壊神ゲルセルクの心得>。

 ――<闘気玄装>。

 ――<黒呪強瞑>。

 ――<水月血闘法>。

 ――<魔闘術の仙極>。


 などの<魔闘術>系統を次々に発動していく。

 少し歩みを遅めながら重心を下げつつ、ケアンモンスターの塊に近付いたところで、<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を発動――。

 続いて、魔槍杖バルドークに魔力を込める。

 足下から周囲の地面に漆黒の<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>が拡がり、ケアンモンスターの塊を覆った。


「一、解除しました! ケアンモンスターの塊の破壊をお願いします!」

「カカカッ――」


 ファスの声が響くと同時に右手が握る魔槍杖バルドークから甲高い嗤い声が響く。


 刹那――。

 目の前の網目状の赤い魔線の<赤閃網防拿>が消えた。


 ケアンモンスターの塊から毒霧が出始める前に――。

 <空穿・螺旋壊槍>を発動――。

 左足の踏み込みから右腕ごと突き出した魔槍杖バルドークの穂先から魔竜王の幻影が一瞬出現――。

 更に<血魔力>が体から吹き荒れる――。

 そして、体から<破壊神ゲルセルクの心得>の神威を感じさせる膨大な魔力が出ると、<血魔力>を飲み込むように紫電一閃の加速のまま前進し、ケアンモンスターの塊の壁に魔槍杖バルドークが突き刺さる。

 

 と、魔槍杖バルドークの真横の空間が歪むと、そこから紫色の鱗が混じったような閃光が真っ直ぐに迸る。

 閃光はケアンモンスターの塊の壁を突き抜けた。


 更に、魔槍杖バルドークの真横の歪んだ空間から神意力を有した何かが燃焼しているような魔力が噴出しつつ螺旋壊槍グラドパルスが出現。


 螺旋壊槍グラドパルスは一瞬で魔槍杖バルドークを越えてケアンモンスターの塊を抉りながら直進。

 ケアンモンスターの塊の内臓のようなモノを掻き回しているのか、ミキサーのような多重音が響く――。


 一瞬で、螺旋壊槍グラドパルスはケアンモンスターの塊を巻き寄せていき、真下の地面を大きく抉りながら直進してケアンモンスターの塊を貫いた。


 螺旋壊槍グラドパルスのドリル状の螺旋細工にケアンモンスターの塊だったモノが巻き付きながら燃焼して消えていくのが見えた。

 

 異様な色合いの血飛沫と肉片のようなモノが燃えながら潰れたように消えていく。


 螺旋壊槍グラドパルスが通り抜けた地面には巨大ドリルが通り抜けたような跡が残るのみ。


「ングゥゥィィ!」


 螺旋壊槍グラドパルスは前方の空間ごと抉るように消えたが、その螺旋壊槍グラドパルスはいつも通りハルホンクの中に戻ったと分かる。


 魔槍杖バルドークを消した――。


「「「「「おぉぉ!!!」」」」」


 離れて見ていた【白鯨の血長耳】の兵士と冒険者たちが歓声と驚きの声を発していた。


「「お見事です!」」

「ケアンモンスターの塊が……」

「すご……」

「――ケアンモンスターの塊が綺麗さっぱり消えた!!」

「ご主人様!」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る