千百三話 ペントハウスに帰還からの談笑


 両肩に可愛い体重を感じながらトラペゾヘドロンのゲートを皆と潜った。


「「皆、お帰り~」」

「ん、一瞬で帰還! トラペゾヘドロンは凄い!」

「お帰りなさい~シュウヤさんと皆さん~」

「お帰りなさい~」

「シュウヤ様♪ お帰りなさいませ」

「オカエリ!」

「グモゥ」

「盟主!」

「盟主♪」

「盟主、お帰り~」

「シュウヤ様、お帰りなさい!」

「シュウヤ兄ちゃん~! ケアンモンスターの塊を倒した、すごい!」


 皆の声が一気に響く。

 

 一瞬で上界の魔塔ゲルハットのペントハウスに帰還した。


 ペントハウスの硝子張りの巨大な窓から魔塔ゲルハットの屋上と夕焼けに植物園などの様子を見ながら、中にいる皆に視線を向ける。


 少し前に出た。


 近くにいるユイ、レベッカ、エヴァ、キサラ、カットマギーに向け、


「おう~ただいま」


 ソファの近くにいるシウたちにも手を上げた。

 下界からの帰還組も、


「「「「ただいまです~」」」」

「今帰った! という気がしない速度の上界への転移は、やはり凄いな。クナには悪いが、パレデスの鏡の移動のほうが、体に負担がないように思える」


 とハンカイが語る。

 クナは少しだけ反応したが、別段言葉は発しない。


「キュゥ~」

 

 ヴィーネの背中からだ。

 <荒鷹ノ空具>として翼となっていた荒鷹ヒューイが大きな鷹の姿となって上昇していき、ペントハウスの天井付近を飛び回る。


 バーソロンは、


「レザライサという方に知っていることをすべて告げました」

「わたしもレザライサと通じ合えました。懐が深い方で良かった。そして、親の仇の件で、色々と協力してくれると約束してくれた」


 皆が頷く。

 ハンカイは、そのルマルディを見て、


「あぁ、烈女のレザライサには尊敬の念を抱く。が、それはシュウヤと【天凛の月】があってこそ。そして、俺も冒険者Sランクだ!」

「「ふふ」」

「はい、そうですね」

「わたしも協力するから。上院評議員テクル・ホーキスル、空魔法士隊【空龍】、空戦魔導師ベナトリク、【運び屋・イチバル】の内、【運び屋・イチバル】の事務所の位置は調べた」


 とユイが発言。


「あ、もうそこまで……ユイさん、ありがとう……」

「おぉ、仕事がはえぇな、さすがは、最高幹部の一人の〝死の女神〟と呼ばれるようになったユイだ」


 アルルカンの把神書がそう言いながらユイの近くを浮遊。

 ユイはウィンクして、


「ふふ、リツとビロユアンにラタ・ナリたちが動いてくれたからでもある」


 ビロユアンは外か。

 飛行術の魔法書は今度でいっか。

 ルマルディは嬉しそうに、


「そうでしたか!」

「よかったなルマルディ、【天凛の月】は最高の仲間だ!」


 アルルカンの把神書がそう発言しつつルマルディに寄ると、ルマルディも頷いて、「うん、皆さんは優しい……」と蒼い瞳が揺れて涙が溢れそうになっていた。

 

 皆が顔を見合わせる。

 笑顔となった。

 レベッカが、


「まだまだこれからよルマルディ。わたしは、まだ魔界には行かないから、ここでユイとルマルディの敵討ちを手伝う」

「あ、はい……レベッカ、ありがとう……」

「ん」


 エヴァが微かにいつもの声を出すが、俺を見た。

 ルマルディを手伝いたい思いもあるが、魔界セブドラに行く意思は堅いと分かる。


 すると、ピュリンがシウたちに、


「――使者様は<空穿・螺旋壊槍>で、あの大きい塊を!!」


 と早口で報告していく。


 その間にパレデスの鏡から外れた二十四面体トラペゾヘドロンが俺の頭部の周りを回り続けていたから、その二十四面体トラペゾヘドロンを左手で掴んで戦闘型デバイスに仕舞う。


 すると、


「ワンッ――」


 と鳴いた銀白狼シルバが跳びついてくる。

 シベリアンハスキーを大きくしたようなシルバーフィタンアスの体重は結構重い――。

 

 黒豹ロロの普通の体格よりも大きいか――と、肉感と毛のモフモフは嬉しいが、一気に押されて背後のパレデスの鏡にぶつかりそうになった。


「にゃ~」

「にゃァ」


 右肩と左肩にいた黒猫ロロ銀灰猫メトが少し驚いたのか、跳びついてきた銀白狼シルバの頭部を猫パンチしていた。


「ワンワンッ!!」


 銀白狼シルバは鳴きながら頭部を振るう。

 

 黒猫ロロ銀灰猫メトの二匹は「「ンンン、にゃ」」と猫らしい喉声と鳴き声を発しながら俺の両肩から離れて床に着地するや否や床を駆けていく。


「――ワンッワン!」

「はは、銀白狼シルバは熱烈だなぁ――相棒と銀灰猫メト~、魔界に向かうから、あまり遠くに行くなよ~」

「「ンン――」」

「グモゥ~」

「にゃァ~」

「にゃォ~」


 銀白狼シルバを抱きしめつつペントハウス内を駆け回る二匹に注意。


「親分ロロちゃんが帰ると、皆が元気になる!」


 シウも白黒猫ヒュレミを追って走り出していた。


 銀白狼シルバの頭部と背中を撫でて、腹で持ち上げるように抱きしめを強くしてから、


「顔は舐めるな~。と、ちょい重いから……シルバーフィタンアス、そろそろ少し離れてくれ」

「ワン!!」


 と唾を飛ばすように鳴き声を発した銀白狼シルバは、前足を下ろして身を翻した。


 近くにいたエヴァの足下に移動していた。


 エヴァは既に金属の足となっている。

 【天凛の月】の幹部衣装とはまた違う。

 紅と黒の羽のムントニーの上着にワンピースとは異なる漆黒の戦闘用装束となっていた。

 ユイが前に着ていたような戦闘装束。

 ヤヴァい、隠れ巨乳ではなく、巨乳の膨らみが分かるコスチュームとか最高だ、興奮してしまう。

 皆、魔界セブドラに向かう準備はもう整えてあるようだ。


「ん、シュウヤ、もう準備はできているから」

「お、おう」

「「ふふ」」


 ヴィーネとバーソロンの微笑み声を聞きながら――エヴァに頷きつつ低いテーブル席とソファーがある場所まで歩いた。チャーガフルスロットルなどの高そうな魔酒が積んだ低いテーブルの近くで休むドロシーとディアとキスマリとカットマギーに向け、


「もう皆が説明しているが、レザライサたちに、バーソロンたちと一緒に魔薬絡みの腐った連中の情報を説明した」

「腐った評議員たちを潰すことは、スムーズに進みそうね」


 レベッカがそう発言。

 すると、バーソロンとルマルディに話をしていたユイが、


「――血長耳は早いからね~。【統場派・精狂街】と上院評議員バルブ・ドハガルは早速潰されそう」

「あぁ、レザライサがメリチェグとソリアードに〝統場派を刈り尽くせ〟更に、〝腐ったカルトと通じている上院評議員バルブ・ドハガルの手足をすべてもげ! そして街の工作員をすべて潰せ〟と魔通貝で指示を出していた」


 レレイさんとミセブも他の幹部たちに連絡していた。色々と連動しているはずだ、バーソロンから得た情報を基に一気に腐った連中に正義の鉄槌が下されるだろう。魔薬取り引きに人身売買に関与している奴らは腐っているからな、女性に子供を売って金儲けを行いながら自らは高みの見物か、万死に値する、元締めがどんなに偉い肩書きを持っていたとしても許せる行為ではない、ルマルディも真剣な顔付きで数回頷いている。

 【血月布武】として動くレザライサと血長耳の最高幹部たちの動きを想像すると……。

 赤穂義士の忠臣蔵の話や、新撰組が倒幕派にブッコミをかけた池田屋事件を思い出した。


 そして、


「……中小の子飼いの闇ギルドは問題なく潰せるだろう。問題は、空魔法士隊と空戦魔導師たちだが、まぁ戦いとなったら仕方ない」


 シウに相棒たちと遊んでいるドロシーとディア以外の皆が静まった。


「……ん、負の螺旋は、皆が覚悟している。後、その件で、先生たちと皆は血文字で連絡を取り合ってる。死蝕天壌の浮遊岩と三つの浮遊岩の占有の件も含めて、メルたちにも色々と報告しているから心配は要らない」

「うん、任せて、カットマギーもいるし」

「当然♪ 守人として動くさ。そして盟主、これを返しておくよ、わたしも学べて成長したからね――」


 と〝黒呪咒剣仙譜〟を返してきた。

「お、分かった」と〝黒呪咒剣仙譜〟を受け取って肩の竜頭装甲ハルホンクに仕舞う。

 カットマギー、エヴァ、レベッカ、ユイ、ヴィーネ、クナ、ルシェル、ナミがハイタッチして笑顔を見せた。


 レベッカは俺を見て、


「後、昔のわたしでは考えられないけど、〝【天凛の月】の蒼炎〟という名が付いた以上は、がんばるから」


 と、クルブル流拳術の正拳突きを見せる。

 腰に差したままの城隍神レムランが揺れていた。

 ジャハールは出していない。


 そのレベッカを含めた皆に、


「了解した。先ほどクレインから、バーソロンの情報を基に評議員の殺すリストと、その配下関係を調べていると、血文字で報告を受けている」

「ん、先生とリズさんと会長さんの【魔塔アッセルバインド】は本気」


 『あぁ』と言うように頷いた。

 ハンカイは自慢するように皆に見せていた冒険者カードを仕舞いながら、ルマルディたちに、


「皆、俺も手伝うからな、空を自由に移動する前に動く時は教えてくれ」


 と発言。

 すると、ユイがハンカイに、


「あ、それならこの魔靴を使って」

「お、これは空を飛べる?」

「そうよ」

「おぉ! ありがとう、使わせてもらうぜ。さすがに小型オービタルのようなモノは俺には扱えないからな」

「小型飛空艇ゼルヴァなら結構簡単、あ、うん、ごめん、そうよね」

「がはは、いいさ、俺は事実、足が短いドワーフだからな」


 と快活に笑って、自らの足の短さを表すように右足を少しあげている。

 ハンカイはユイに気にするなと笑顔を向けていた。格好いいハンカイだ。


 さて、カリィとレンショウに、


「んじゃ、<従者長>化を行うか」

「おぉ~♪」

「待ってました!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る