千八十八話 短い団欒とこれからのこと

 すると、背後にいたキッシュが、


「皆、事前に話をしていたように……」

「キッシュ、分かってるけど、少しぐらい……」

「うふ、わたしも、シュウヤとのキスが足りないかなぁ」

「ふぉふぉ」

「にゃ~」

「にゃァ」

「サラとベリーズ、さきほどのハグ祭りの時に<血魔力>を送り合う長いキスをしていたではないか! ママニが呆れていたぞ!」

「ぅ……はい」

「はーい、シュウヤ、ふふ、今度サービスしちゃうからね」


 ベリーズは爆乳を寄せる仕種をしながの発言だ。

 横にルマルディがいるが、遠慮しないのはさすがだ。


「おう、いつか頼むとしよう」

「女王よ、短い団欒ぐらい良いではないか。わしは、サイデイルの食物を活かした八珍料理をご馳走したい」

「トン爺、短い団欒は良しとしよう。料理は今度に」

「ふぉふぉ、分かっておりまする」


 皆、もう少し団欒したいようだ。

 俺もハンカイにバーレンティンと酒を飲んで語り合い、ハンカイとジュカさんにも眷属化の話を……そして、紅虎の嵐と血獣隊の面々とも、互いに労りながら、楽しい平和的なエッチを楽しみたい。が、それはまたいつか。

 

 キッシュは俺を見て少し溜め息。

 薄緑色の頭髪が輝く。

 と、その頭髪に<血魔力>が宿った刹那、頭に蜂式光魔ノ具冠を装着していた。

 そのまま女王のような雰囲気を醸し出したキッシュは、皆を見据えながら大きい机へと向かう。歩く姿は、スタイルのいいキッシュだから、凄くさまになっている。


 女王キッシュは、サイデイルが中心の樹海の地図が貼られてあるボードの近くまで移動してから身を翻した。


 おぉ……。

 ドココ製の女王専用の<筆頭従者長選ばれし眷属>の衣装が輝いた。

 と、そのキッシュの右下の床に、小熊太郎のぷゆゆもいる。


「にゃお~」

「ンン、にゃァ」

「ぷゆっ、ぷゆゆ!」


 ムーから離れていた黒猫ロロ銀灰猫メトがそのぷゆゆに近付こうとしたが、ぷゆゆは杖を相棒たちに向けて、『こっちに来るな、ぷゆ』という印象の言葉を放つ。


 黒猫ロロ銀灰猫メトは従って後退。

 アッリとタークとオフィーリアたちに撫でられていく。


 そのぷゆゆのクリクリとした目に白い歯は変わらず。

 毛むくじゃらの手足はテディベア的で非常に可愛い。

 

 そして、いつもの杖を持つ。

 恐竜の頭部の先端も変わらない。

 その恐竜から、恐竜の頭部の魔力に蝶々のような魔力も飛ばせる。


 キサラのおっぱいを晒したように、生意気な威力を持った武器だ。

 子供たちはぷゆゆの行動を見て笑っている。


 キッシュはぷゆゆに構わず、


「団欒はいいが、宗主シュウヤのサイデイルの帰還は、皆と長く団欒するためではないのだからな? ルマルディを光魔ルシヴァル一門に迎えるための帰還だ!」

「「はい!」」

「分かってるわよ~」

「「「ハッ」」」

「「「「はい!」」」」


 皆、良い返事。


「うむ。わたしも、ルマルディの眷属化には大いに賛成だ」

「「「はい!」」」

「わしもですじゃ」


 キッシュは皆に頷きつつ、


「ロターゼのお陰もあるが、サイデイルの空を守ってくれていた空極のルマルディとアルルカンの把神書の貢献度は計り知れない!」

「「はい!」」

「ボクもそう思う!」

「「「「そうですね!」」」」

「俺もだ」

「私もです。偉大なる吸血王と女王!」

「あぁ、樹怪王の軍勢と旧神ゴ・ラードの蜻蛉軍団を空からの魔法攻撃で蹂躙した時は……正直、惚れ惚れした。美しい金髪のルマルディは、吸血王の嫁にはぴったりな人材だ」


 バーレンティンとロゼバトフの言葉に皆が頷く。

 ルマルディも俺をチラチラ見ながら、


「ありがとう、皆さん、ロゼバトフも、嬉しい言葉です。非常に嬉しいです」


 と発言。

 キッシュも頷くと、ハンカイが、


「下層で怪物が出現し、宿屋と融合した話はどうなっている?」


 と聞いてきた。


「にゃお」


 黒猫の姿に戻っていた相棒が、そのハンカイの足に頭部を寄せて、甘えていく。ハンカイは、黒猫ロロの頭部を撫でつつも、俺たちを見ていた。


 ハンカイは<筆頭従者長選ばれし眷属>や<従者長>でもないから血文字連絡はできない。

 だから、気軽な情報交換も、血獣隊や紅虎の嵐とは重要度が異なるはず。

 頷いて、


「セナアプアに戻ったら、宿屋ごと倒すつもりだが、どうなるかはまだ不明だ」

「ほぉ、死蝕天壌の浮遊岩といい、【テーバロンテの償い】の残党狩りにタンモールの地下探索と、色々と面白そうだな? 持ち場周りと警邏の皆との相談となるが、行ってみるか」


 ハンカイの言葉にデルハウトとシュヘリアにキッシュは頷いている。サイデイルの将軍と呼ぶべき二人と女王のキッシュは、強者のハンカイが抜けてもいいようだ。


 俺は、


「サイデイルの戦力次第だが、いいと思う」

「あぁ、クナががんばった転移陣を使ってみたいのもあるのだ」

「まぁ……うふふ、ハンカイちゃん、可愛いんだから」

「……か、可愛いだと!」

「はい♪」


 と、クナとハンカイの空気感に思わず吹き出すように笑ってしまった。


 確定ではないが、ハンカイのセナアプア入りも、クナが転移陣を構築してくれたお陰だ。

 血獣隊と紅虎の嵐にオフィーリアとダブルフェイスとエルザ、バーレンティンたちも直ぐにセナアプアとペルネーテとヘカトレイルに転移が可能となったことになる。


 クナには感謝しかない。


 すると、キッシュは、


「塔烈中立都市セナアプアの下層で起きた事象にはわたしも心配したのだが、レザライサと、そこにいるキッカも活躍したと聞いている」


 キッカを見てそう発言。

 キッカは胸元に手を当て、会釈をしてから、


「――あ、はい。冒険者たちの活躍もあります。そして、皆さん、キッシュから聞いていると思いますが、初めまして、キッカ・マヨハルトです。ご存知の通り、わたしも光魔ルシヴァル一門、<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人です。塔烈中立都市セナアプアでは冒険者ギルドマスターを長く務めています。ヴィーネとユイとも仲良くさせてもらっています。そして、これからは吸血王シュウヤ様の傍で動く時間を増やそうと思っています」

「「「おぉ」」」

「「「「はい!」」」」

「「「「「よろしくお願いします!!!」」」」」

「「「おぉ、はい! 冒険者ギルド長の<筆頭従者長選ばれし眷属>様!!!」」」

「わぁ、血文字で聞いていたキッカ様……」

「うん、ボクも気になってた。ユイ様とヴィーネ様に血剣術を教えていると噂のキッカ様」

「……血文字では何回か質問したけど、キッカちゃんも美人さんよね……シュウヤが直ぐに<筆頭従者長選ばれし眷属>にしたわけだわ」


 フーとサザーとサラがそう発言。

 サザーは同じ剣師なだけに気になるか。

 それに吸血鬼ヴァンパイアの剣術は、南マハハイム地方に多い飛剣流、絶剣流、王剣流とは異なる、不死の体を活かす血剣術だからな。サザーとサラが興味を持つのは当然。

 ビアとママニにバーレンティンも歓声を発していたから、興味を持ったと分かる。

 ハイゾンビ的なキースも魔剣師だ、この場にいたら興味を持っただろう。


 キッカは、ドナガンとオフィーリアに血獣隊と紅虎の嵐からも質問攻めとなって、俺を見た。


「いいから説明しとけ」

「はい!」

 

 と、皆と部屋の端に移動していく。

 キッシュは、俺を見てから、皆を見据えた。


「先の続きだが、ペルネーテでは、ヴェロニカと聖女アメリに絡む聖鎖騎士団と教皇庁八課の魔族殲滅機関ディスオルテの一桁もいる。聖女アメリを宗教国家ヘスリファートへと誘う連中が増えたのだ。ヴェロニカは……『アメリにゴルディクス大砂漠を越えさせるとか、なに考えてるのあいつら、クソ宗教ども! でも、アメリは笑顔で……もう、泣けるほど優しいんだから……なんとか守りたいけど、本格的な戦争はアメリも望んでないし、邪神ヒュリオクスの雑魚は増えてくるし……』とイライラしている。そして、元【七戒】のベニー・ストレインの治療も終えたが……副長と喧嘩をしたと聞いている……ラファエルとエマサッドがベニーを押さえたようだが、セブンフォリアに一矢報いたい思いが強まったようだな。その兼ね合いもあり、シュウヤなら会いに行くだろう」


 と、最後は俺を見ながら教えてくれた。

 少し驚いた。

 ベニーとメルが喧嘩?

 聞いていないんだが、メルたちも本当に色々・・とある。

 そして、ベニーの治療は終えていたのか。

 そのことを考えながら、


「魔界に戦力を送り次第、ペルネーテに行くかもだ」


 キッシュとクナとルシェルは頷いた。


「……他にもハイム川の東のサーマリア王国との間がきな臭くなっている……」


 きな臭いとは、死蝕天壌の浮遊岩のことかな。

 そう発言したキッシュは、間を空けて、クナたちをチラッと見た。

 クナとルシェルは頷き合う。

 そのクナは、

 

「ふふ、女王キッシュ様、皆にも外の事象を分かるように伝えたほうがいいかと」


 キッカの傍にいた一部も含めて、皆がクナの発言に頷くようにキッシュに注目。

 そのキッシュは、


「そうだな……【天凛の月】の黒猫海賊団は、八支流を活かし南マハハイム地方の横断が可能となった。その貿易ルートを確立したレイ・ジャックとマジマーンたちの行動がサーマリアに漏れたからこその……今回の死蝕天壌の浮遊岩を調べたんだろうとした予測だ。しかし、副長メルは、対オセべリア王国戦線維持のための陽動作戦の可能性もあると話していた」


 メルは聡明だ。

 まだ知らない公爵や王様の思考を相手にチェスや将棋に囲碁の勝負をしているような印象を抱く。


「「なるほど~」」

「はい、理由としてはもっともですね」

「たしかに……」

「サーマリア王国とレフテン王国は戦争の結果ですが手を結びましたからね。オセべリア王国は二国に挟まれた形となる」

「あぁ」

「でも、レフテン王国の御姫様は、シュウヤ様に恩がありますよ」


 とサザーが発言。

 キッシュは、


「あぁ、シュウヤへの恩は忘れていないだろう。だが、売国奴の宰相ザムデも、押されているとはいえ未だに健在なのだ。そんなレフテン王国を纏めていこうと奮闘を続けているネレイスカリだからな……オセべリア王国に付いている【天凛の月】とも事を構える覚悟があっての判断だろう」


 ネレイスカリか……。

 

 キッシュはそう語るが……。

 ネレイスカリは戦争は望んでいないはずだ。


 俺とのコネクションを考えての一貫した行動だろう。シャルドネとの繋がりがある俺なら、講話の道、再び三国会談が塔烈中立都市セナアプアで可能となるという判断で動いている可能性が高い。離れていながらも、俺を動かそうと大局を見据えた行動を取れる姫様がネレイスカリだと思うからな……。


 俺もその講話に向けた大局ならば喜んで力を貸したい。シャルドネ的には気に食わないかもだが、実際に『ムサカは燃えているか?』を体感したからな。


 弱者が犠牲となる戦場は避けたい。

 すると、サラが、


「……うん。その事も含めて、シュウヤがいないことで、サイデイル以外は結構荒れた……」


 と発言。

 少し責任を感じてしまうがな。


「シュウヤさん、隊長のサラがそう言ってますが大丈夫ですよ! ヴェロニカさんに、メルさんとベネットさんもカルードさんも激強いんですから」


 とルシェルがフォローするように言ってくれた。

「シュウヤを責めたわけじゃないけど……うん……」と言って頬を掻くサラにも笑顔を送った。


 すると、キッシュが、


「話を戻すが、サーマリア王国の陽動にしろ、【天凛の月】が所有している死蝕天壌に手を出したのは、シュウヤがいない絶好機を狙った一大作戦だと思う。そして、このサイデイルの情報も得ているだろうサーマリア王国だからな」

「そうですね、各都市にスパイを潜らせているはずですから」


 とバーレンティンが発言。

 皆が頷いた。


「一見は一般の商人のフリをして、実は工作員。よくある話だ」


 俺の知る日本もそうだった。

 テレビやインフルエンサーの日本語が達者な外国人の大半は、他の情報機関をバックにした存在だった。エリート大学出身を語るイケメンやギャグが寒いピエロ的な外国人ほど、日本を惑わすための工作員の可能性が高い。ま、一概には言えないが、なんのために他の国々に工作機関があるのか、秘密保護法が日本にあったのか、それを考えればな。


 キッシュは頷いて、


「……そうだな。【天凛の月】とサイデイルはオセべリア王国の海運業と内陸部の町や村の発展に寄与している。それ故に、メルたちが第二王子ファルスの秘密部隊と噂が出ている流れから、オセべリア王国側のわたしたちへの妨害行為に出た可能性も。と、何通りか予測をしていた。わたしもその予測には納得していたのだ」


 と発言。俺もだが、皆も頷いた。

 第二王子ファルスの秘密部隊か。そう見られてもおかしくない。

 第二王子ファルスはイノセントアームズのパトロンで、【天凛の月】はファルス王子の貴族関係で協力関係を築いている。直の部下の誘いは断ったが……。

 【白鯨の血長耳】といいWINWINの関係だからな。

 一時期エヴァも、そのファルス殿下の仕事を手伝っていたし、副長メルも有能だからなぁ。

 ファルス殿下が白の九大騎士ホワイトナインのレムロナとフラン以外にメルを重要視するのも分かる。


「ぷゆゆ!!」

 

 ……ぷゆゆの、

 えらそうな態度とぷゆゆ語が面白すぎる。

 毛むくじゃらだが、必死な顔で俺たちを見て杖を向けていると分かる。

 なぜか荒い息を吐いているのも前と変わらず……ムカつくほど可愛い。

 時々「ぷゆぅ……」と唸るぷゆゆ語を言いながら、杖の先を黒猫ロロ銀灰猫メトに向けていた。

 ドナガンとオフィーリアとツラヌキ団が、そのぷゆゆと黒猫ロロたちを見て笑っていた。そのドワーフのドナガンは腰に種袋を持つ。

 小さい鍬のようなアイテムも持っていた。

 オフィーリアと一緒にいる小柄獣人ノイルランナーたちは可愛い。

 皆、畑仕事に従事していると分かる衣装を着ていた。キッシュは、


「幸いにして古代狼族との同盟に、ヒノ村の商会とフェニムル村のリエズ商会との交渉も順調の一途! が、茨森のゲンダル原生人に、【馬崖岩】と【プレモス盆地】に多い【水晶池】のゴブリン共、地下のオーク大帝国に樹怪王の軍勢と旧神ゴ・ラードの勢力は、依然として樹海の脅威。更に、シャルドネなどが中央貴族を抑えてくれている影響で音沙汰がないが、オセべリア王国の伯爵と人形使いがいるゼントラーディ伯爵領の件もある。そして、シュウヤはシュウヤで魔界セブドラのデラバイン族や源左に戦力を送るなど、神聖ルシヴァル大帝国の基盤造りに忙しい。だからシュウヤとの短い団欒はここまでだ。ルマルディの眷属化を行ってもらう。皆、それぞれの持ち場に戻れ!」

「「ハッ」」

「「「「はい!」」」」」

「「「「了解~」」」」


 皆、キッシュの言葉に元気よく返事をしていた。


「ご主人様とルマルディさん、では」

「ご主人様と皆さん、ではです――」


 と頭を下げたフーに笑みを送りながら、


「フー、先ほども抱きしめながら言ったが、フーたち血獣隊も魔界に来るなら、ローテーションを組んでいる皆と話し合うんだぞ」

「ふふ、はい!」

 

 と笑顔を見せてくれた。

 皆が部屋から退出していく。


 アルルカンの把神書は「主とルマルディ! くぅぅぅ!」と奇声を発しては、自らのページをパラパラと開きながら俺たちの周囲をぐるぐると回って――。


「主とルマルディ、俺も外で待っているぞ」


 と語ると、閉じて一回転。


「分かった」

「うん。わたし、<筆頭従者長選ばれし眷属>になるから」

「おう、また後で、神獣とメトよ、外にでるぞ」

「にゃごぉ」

「にゃァ」

「ちょ、俺に合わせて黒い獣に変身するなよ、神獣のばかぁぁぁ」


 アルルカンの把神書は出入り口から外に飛んでいく。

 相棒は俺を見てきた。はは、双眸が輝いていた。アルルカンの把神書との絡みが楽しくて仕方ないんだな。フィナプルスの夜会の世界では、アルルカンの把神書とよく遊んでいた。その相棒に笑顔を向けると黒猫ロロは頷くような素振りを見せてからアルルカンの把神書が消えた出入り口に向かう。


「「ンンン――」」


 銀灰猫メトも一緒にかけた。

 すると、外に出ていた蜘蛛娘アキが顔を出して、


「主様~わたしも魔界セブドラには興味があります! 配下の報告もありますし、ルマルディの眷属化の後、話がしたいです~」


  蜘蛛娘アキの背後には女性の魔族と明らかに人型のモンスターがいる。

 【八蜘蛛ノ小迷宮】の配下だろう。


「おう、了解した! さて、ルマルディ、キッシュも外に出たから、<筆頭従者長選ばれし眷属>に迎えよう」

「はい」

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