千七十九話 光魔騎士アドゥムブラリ<筆頭従者長>になる

 ヘルメが大ホールに《水幕ウォータースクリーン》を展開させていく様子を見ながら中心に向かう。

 

「ンン――」


 左側に様々な形の極大魔石が積まれてある。

 【ケーゼンベルスの魔樹海】で仕留めたモンスターの素材も積まれてあった。

 相棒がそこに向かった。

 ボーリングのピンのように並んでいる縦長の極大魔石とボール代わりの木製の樽も転がっている。そのボール代わりの木製の樽が、並んでいたと思われる縦長の極大魔石を倒した後があった。


 極大魔石とモンスター素材の採集は偉いが、イモリザはボーリング場を作って遊んでいたのか?


 ナギサが、


「大ホール、バーヴァイ城は大きいですね! 極大魔石は凄い量です」


 と発言。


「あぁ、ケーゼンベルスが協力してくれたようだな」

「ウォォォォン! ピュリンもがんばっていたぞ。我は抱きつかれて嬉しかった」

「「「ウォォォン!」」」

「あ、はい、ツアンとピュリンもがんばりました!」


 と発言したイモリザは寄り目になった。

 内部のツアンとピュリンに何か言われているのだろう。

 黒猫ロロは、ケン、ヨモギ、コテツの尻の臭いを嗅いでから極大魔石の匂いを嗅いでいる。


 そんな大ホールを歩きながら<血道第五・開門>を意識。

 続いてハルホンクの防護服を牛白熊の軽装に変化させる。

 <血霊兵装隊杖>を実行した。

 瞬く間に光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装を全身に装着する。

 血の錫杖も生み出しながら<光魔・血霊衛士>を二体作った。


「「おぉぉ」」

「わぁ~」

「それが<光魔・血霊衛士>! 衣装が渋くて、御使い様よりも大きい」


 闇雷精霊グィヴァがそう語る。

 俺よりも体格を大きくできた。

 その血霊衛士を左右に並ばせながら大ホールの真ん中に移動させる。

 

「――閣下! 眷属化を行う前に少し横に並びまするぞ」

「――我も閣下の左に!」


 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスが俺の左右後方にいる血霊衛士に対抗するように左右に並んだ。


「ふふ、ゼメタスとアドモス、閣下とアドゥムブラリの邪魔をしないように――」

「分かっておりまする――」

 ヘルメに注意されたゼメタスとアドモスが<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を実行しつつ――。

 足下に暗がりと明かりのコントラストを作りながら後退していく。

「ハイッ、閣下の盾の立場は譲れまい! という気持ちが出てしまい……すみませぬ。端に移動しますぞ!」

 

 ゼメタスとアドモスの言葉を聞くと嬉しく思う。


「我も下がろう、コテツ、ケン、ヨモギもだ! 主の尻の匂いは嗅がないでいい!」

「「「ウォン」」」

「にゃ~」

「ふふ」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスの声に従った三匹も後退。

 黒猫ロロも追い掛けた。


「わたしも後退します~」

 

 イモリザも移動していく。

 血霊衛士も皆を追わせるように《水幕ウォータースクリーン》から外に出して出入り口近くまで移動させた。


 ゼメタスとアドモスは大ホールの出入り口にまで戻る。

 すると、広場のほうにいた魔傭兵ラジャガ戦団とミジャイが集まってきたのが、ビュシエたち越しに見えた。


 ゼメタスは大ホール出入り口の右の端に仁王立ちになる。

 アドモスは大ホール出入り口の左の端に仁王立ちをなる。


 イモリザは、出入り口のど真ん中に可愛く立つ。


 ゼメタスとアドモスは骨剣と骨盾を構えて星屑のマントを羽織っている。

 その姿は威厳さと威圧感を併せ持つ魔界騎士その物。

 ゼメタスとアドモスは<血魔力>を纏った右手が握る骨剣を振るって左手が握る骨盾に骨剣の腹を衝突させて金属音を鳴らす。やや遅れて骨剣と骨盾から重低音が響いた。


 不思議な波紋のような波動が周囲に拡がる。

 波動の影響か、大ホールの外の騒ぎが一瞬静まった。

 凄い。出入り口の向こう側からはゼメタスとアドモスは見えないと思うが、骨盾と骨剣のシンバル風の太鼓のような音には沈静効果がある?


 単に不思議な音色で、皆が何かを行うと悟ったか。

 そして、ビュシエやバーソロンたちは大ホールには入って来ず。


 近くにいたナギサも、俺とアドゥムブラリをチラッと見てから、「わたしも下がります」と言ってお辞儀をしてからヘルメが展開してくれた《水幕ウォータースクリーン》を見上げながら後退し、その《水幕ウォータースクリーン》を出て、大ホールの出入り口に戻ってビュシエたちと合流した。


 魔傭兵ラジャガ戦団の一部は、俺と面会したいのか歩いてくる。


 が、ビュシエとテンとアクセルマギナとフィナプルスに大ホールに入らないように止められていた。

 

 大ホールの出入り口は多数の兵士たちが一度に入れるぐらいの幅があった。


 そして、魔傭兵ラジャガ戦団かデラバイン族の兵士の中に、魔眼的な能力を持つ者がいたら、ヘルメの《水幕ウォータースクリーン》を超えてアドゥムブラリが<筆頭従者長選ばれし眷属>へ変化する様子を見られてしまうだろうな。


 ……が、血のインパクト的にそれは望むところか。

 アドゥムブラリは深呼吸をするように両手を拡げて黒い翼をハタハタと動かしながら空中浮遊を行うと、足下に魔力を噴出させながら着地。


 腕を左上に振り上げ、振り下げながら俺を見てきた。

 少し落ち着いたようだ。


 そのアドゥムブラリに、


「野次馬が増えたが、魔の扉があった二階で眷属化をやるか?」


 と聞くと、アドゥムブラリはチラッと出入り口を見て笑みを見せてから、


「ここでいい。《水幕ウォータースクリーン》を頼んだが、なくてもいいかもだ。そして、主に合わせて、俺も裸になるべきか?」


 と冗談を言ってきた。

 突っ込まず、そのまま、


「おう、股間に葉っぱ一枚で『ヤッタ、ヤッタ』と踊りまくる魔界セブドラ葉っぱ隊結成の流れは大事か」

 

 とボケで返した。


「ぷ、やらねぇから、そんなこと! ははは」

「だよな、あはは」


 と笑う。

 アドゥムブラリも笑った。

 そのアドゥムブラリは《水幕ウォータースクリーン》を見てから真面目な表情となって、


「……精霊の《水幕ウォータースクリーン》を超えて光魔ルシヴァルの血の儀式を覗ける存在がいても、そいつらの目には光魔ルシヴァルの伝説的な光景として映るだろう。むしろそうした眷属化の流れは、兵士にも見せたほうがいいかもな、処女刃のところは勘弁だが」


 あぁ、と頷く。

 アドゥムブラリは真面目な表情となった。

 <光魔の王笏>の眷属化による血の消費は結構な量だからな。


 インパクトもある。


「先を見据えた今後のためか」


 と発言しつつ、周囲の大地と勢力図を重ねたような映像を一瞬で想像。

 〝列強魔軍地図〟を出したくなったが出さない。


 アドゥムブラリは少し俺を睨んでから溜め息を吐く。


 そして、笑みを浮かべると、


「……そうだ。一瞬で俺の思考を読み解く主には参るが、話を続けるぞ?」

「あぁ、すまん」


 半笑いのままアドゥムブラリに話を促した。

 少し咳払いをしたアドゥムブラリは頷いて、


「……まず、<光魔の王笏>の血の儀式を魔傭兵ラジャガ戦団の者たちが見ると、主への畏怖の念をより抱くことになる。すると、その魔傭兵ラジャガ戦団が利用している酒場、宿屋、厩、魔商人へと光魔ルシヴァルの情報が伝わり、それに尾ひれが付いて、様々に噂が噂を呼ぶだろう。そして、先の城に入るまでの人気っぷりからして分かると思うが、真夜を齎した魔英雄のそうした秘密的な情報を欲している者は内外に数多く存在しているはずだ」

「……あれは闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスの大きさもあるだろ」


 俺がそう言うと、アドゥムブラリは左手を振るい、渋い表情を見せる。


「まぁ、あるが、家臣からの進言と思って聞け」

「分かった」

「フッ、ま、先ほどの〝先を見据えた今後のためか〟に集約されてしまうが……」


 と少し皮肉を言って睨んでくる。

 が、直ぐに笑顔となったアドゥムブラリは、


「……精霊が皆にした【源左サシィの槍斧ヶ丘】と【ローグバント山脈】の一部を俺たちが支配したという宣言も相まって……今回の血を用いた<筆頭従者長選ばれし眷属>化の儀式に関する噂が、【バーヴァイ平原】に隣接した地域に広まるはずだ。同時に、勝ち馬に乗ろうとする魔傭兵や小勢力にも伝わるだろう。更に時間が経てば経つほど【ローグバント山脈】などを含めた無数の勢力に神聖ルシヴァル大帝国の名が伝搬することになる。それにより、それら諸勢力は悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターと手を組まず様子見が増えるか、または【源左サシィの槍斧ヶ丘】のような重要な地域から、主たちやデラバイン族と同盟を結ぼうとわざわざ使節団を送ってくるようになるかも知れない。なにしろ主は〝既往きおうとがめず〟の精神だからな」


 と魔王然としたスタイルで語る。

 赤茶が混じる金髪に自然な金色の眉と蒼い瞳は非常に似合う。

 鼻は高く上唇は少しだけ細いか。耳はロン毛だから見えない。

 顎骨は結構ゴツいが、Eラインから首筋はかなり細めだ。


 仔牛革色の貴族が着るような防護服の胸元には半透明なユキノシタ模様の記章と三日月型のワッペンが並ぶ。


 二の腕には車軸にホイールと壺ヤナグイが重なり合う模様もあった。


 大きい黒い翼には艶がある。

 翼の触り心地はいいだろうな。

 総じて、眉目秀麗なアドゥムブラリだ。


 そのアドゥムブラリに、


「あぁ、アイムフレンドリーが基本だ。真逆なら打って出る」

「あぁ、当然そうだろうな」


 と少し笑ったアドゥムブラリだったが、少し表情を暗くして、


「……近隣の百足魔族デアンホザー系統の種族はテーバロンテの親類のような眷属的種族だから難しいかも知れないな」

「百足魔族デアンホザーか。グラドが捕虜にした百足高魔族ハイデアンホザーが突破口になるかも知れない」

「……百足魔族たちを部下にするつもりなのか?」

「あくまでもが可能ならば、の話だ。それに、無駄に争うよりはいいだろ?」

「それはそうだがな……グラドが捕虜にした百足高魔族ハイデアンホザーが平静を装った、破れかぶれの狂信状態だった場合を想定しているか?」

「……それは考えていなかった……」

「奥歯に剣のまま降伏し、デラバイン族の弱者を見た途端キレて襲い掛かった後では、もう遅いんだぜ?」


 そこまでに至る境地を持つなら……。

 否、分からないな……。


「……一理ある。デアンホザーの見た目も、奥歯に剣どころではないからな」


 百足魔族のザ・エイリアンの姿を想起しつつ語る。

 アドゥムブラリは厳しい顔色となった。


「……冗談ではないぞ?」


 頷きながら、アドゥムブラリに、


「アドゥムブラリ、未然に災いを防ぐことも重要だが、今は明るい未来を信じようじゃないか」

「あ、あぁ、それはそうだが」

「おう。まぁ、捕虜にした百足高魔族ハイデアンホザーと話をして、心、精神次第だが……知能は百足魔族デアンホザーよりはマシだと思うからな。そして、俺たちにはエスパーのエヴァがいる。キュイズナーだって、蓋を開けてみたらミナルザンのような陽気な侍だったって展開が過去にあっただろう」

「あぁ! <紫心魔功パープルマインド・フェイズ>を持つエヴァか! 隠れ巨乳の美女! 自由自在の魔導車椅子使い! 塔烈中立都市セナアプアの重要な<筆頭従者長選ばれし眷属>を忘れていたぜ」


 と、わざとらしく語るアドゥムブラリは笑顔を見せる。

 少し笑った。


「ふふ」


 ヘルメが微笑む。

 アドゥムブラリは狙った感があったが、ドヤ顔ではなく少し恥ずかしそうな表情を浮かべて頬を少し赤くしていた。


 イケメンだが、やはり単眼球の頃の感情を表す仕種と似ていて微笑ましさがある。

 サイデイルの頃を思い出して、


「ぶらぶらエロピコ魔王になるのは禁止だからな?」


 アドゥムブラリは『お?』と笑顔となって掌を叩く。


「アレか! ハハ、ベリーズの爆乳は忘れてないぜ! が、俺はもう単眼球ではないから、あれはもうできない、少し残念だ……」


 はは、思い出すと笑えてきた。

 すると、ヘルメが、


「はい、アドゥム・ピコ助・エロピコ魔王・ぶらぶら丸・ブラリ。閣下の眷属に手を出してはだめですよ」

「ブハッ、んなことは分かってる……」


 アドゥムブラリが牛乳を吹いたように笑った顔が面白かった。

 そのアドゥムブラリは真面目な表情となって、


「だいたいだ。主と乳繰り合ってるところを散々見ているんだぞ? そんな感情は微塵もないから。が、美しいもんは美しい、それだけだ。しかし、懐かしい……宴会の場の言葉か、あの時、俺は精霊に捕まって……」

「はい。シュヘリアにもエロ玉殿と呼ばれていました」

「……それは忘れてくれ」


 アドゥムブラリはそう言いながら、なんとも言えない顔で俺を見る。

 自然と、また可笑しくなって、


「ぷっ、あはは」

「あはは」


 とアドゥムブラリと俺は笑い合った。


「ふふ」

「??」

「あ、グィヴァちゃん、惑星セラのサイデイルには光魔ルシヴァルの聖地のルシヴァルの紋章樹があり、そこには血妖精ルッシーが棲んでいる。更に、サイデイルを治めるのは<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人のキッシュ、女帝で女王なのです。更にそこには<光魔ノ蝶徒>ジョディとシェイル、<筆頭従者長選ばれし眷属>候補のルマルディ、アルルカンの把神書、元墓掘り人たちがいます。その元墓掘り人たちは、古い血脈ソレグレン派の血魔剣と吸血王の閣下の配下となったヴァーレンティン、禿げた頭が特徴のスゥン、顔が怖い魔刀使いのキース、獣顔のモヒカンの頭髪が特徴でヒャッハーなサルジン、紅一点のイセス、キセル使いでジュエルマスターのトーリ、大柄のロゼバトフです。血獣隊のママニ、ビア、サザー、フーと紅虎の嵐のサラ、ベリーズ、ブッチもいますが、ルシェルはクナと共にセナアプアですね。同じ<従者長>では、元オークのクエマとソロボ。閣下とは鬼神キサラメでも関係していますから、今後はより重要視するかもです。後は光魔騎士のデルハウトと今話に出た同じく光魔騎士のシュヘリアに、閣下の弟子のムーと、強者の斧使いのハンカイ。ハンカイも<筆頭従者長選ばれし眷属>候補と聞きました。そして、ネームスとモガ、ドミドーン博士と助手のミエ、黒豹に変身できるエブエ、アッリやタークなどの子供たち、オフィーリアとツラヌキ団、トン爺に農業担当のドナガン、魔裁縫師のドココ、樵のマウリグ、リンゴパイを作れるリデル、パルゥ爺に、茨の魔法が使えるバング婆、魔術師で実は強者の転移者のヒナとサナに、ぷゆゆの小熊太郎! は例外ですが、色々な配下がいるのです……あ、後、ミナルザンは惑星セラの【塔烈中立都市セナアプア】の魔塔ゲルハットにいます。<筆頭従者長選ばれし眷属>のヴィーネたちも、あ、続きはこちらで」

「……あ、はい。たくさん、聖地に、アルルカンの把神書、血獣隊に紅虎の嵐……ハンカイ……ミナルザン……」


 グィヴァをぶつぶつと呟きながら、眷属と仲間の名前を覚えようと必死だ。

 ヘルメはそんなグィヴァを連れて出入り口付近に移動しながら説明をしていく。


 アドゥムブラリは、細い顎に人差し指を当て、渋い表情で考える人となって、


「サイデイルにペルネーテとホルカーバム、闇ギルドの相関図など、覚えることは山ほどあるからな……」


 グィヴァを見てそう語る。

 外にいるビュシエとバーソロンにも視線を向けていた。


「あぁ、ま、がんばって覚えてもらうしかないな。それか、俺たちが説明すれば済むことだ」

「律儀な主らしいが、記憶に関してなら助言があるぜ」

「お? <筆頭従者長選ばれし眷属>予定のアドゥムブラリ殿、ご教授願おうか」

「フハハ、よーし、語ってやろう、俺の主殿……噂で聞いたことがあるのは、十二樹海の知記憶の王樹キュルハ様の事象だ!」


 と、マントを翻すようなポージングを決めた。

 自然と拍手。

 そのアドゥムブラリは、


「……【世界樹キュルハ】か【キュルハ湖岩樹大家】、【キュルハの蔦樹場】、【知記憶の王樹キュルハの根】などにあるとされる神殿に行って信仰すれば……主の記憶を仲間に融合させられるかもしれん!」

「おぉ~」

「フハハ、まだあるぞ」

「アドゥムブラリ殿よ、頼む」

「よーし! 〝知記憶の王樹の器〟か〝知記憶の王樹の欠片〟に、知記憶の王樹キュルハ様と関係した秘宝を使い、魔力を盛大に捧げながら儀式を行えば、主の記憶を一瞬で覚えることが可能になるかも知れないのだ!」


 おぉ。


「さすがは魔界の神の一柱の知記憶の王樹キュルハ様。植物の能力だと思っていたが、そのような力があるのか。そして、秘宝も……」

「あぁ。が、あくまでも噂……済まん。俺たちが触って魔力を込めた〝列強魔軍地図〟に知記憶の王樹キュルハ様と関係した地名が一部出ているが、手掛かりと言えばそれだけだからな」


 〝列強魔軍地図〟には【キュルハ湖岩樹大家】と【ルグナド、キュルハ、レブラの合同直轄領】が記されてある。そこに行って、魔の扉を置くのもありか? 魔界セブドラ用の転移装置が欲しいところだ。パレデスの鏡も魔界セブドラの宇宙次元で運用すれば使えるんだろうと思うが、惑星セラの宇宙次元での転移装置も重要だからなぁ。


 そんなことを考えつつ、


「知記憶の王樹キュルハ様を見たことは?」

「ない。樹のモンスターも様々なんだよ。魔界の樹海とセラの樹海が知記憶の王樹キュルハ様とも呼ばれるぐらいだから、それほどの大きさの神様なのかもしれん」

「へぇ」

「そのキュルハ様は、セラと魔界の十二樹海を自由に転移しているという噂もある。内実は依代を用意し、その依代と十二樹海専用の【幻瞑暗黒回廊】のような能力を使い、狭間ヴェイルを越えてセラ側への移動をしているんだと思うが」


 十二樹海か。


「サイデイルも、その十二樹海の一つなんだろう?」

「あぁ、そのはずだ。しかし、亜神ゴルゴンチュラで分かると思うが、十二樹海の支配者もセラを巻きこんだ荒神大戦と魔界側の魔界大戦などの影響で変化しているからな」

「荒神大戦か、様々な次元世界の神々が衝突しあった壮絶な荒神大戦……」

「あぁ、地上と地下に黒き環ザララープなど、もうカオスもいいところだろ。見たことはないが、神格を失って樹海に眠っているだろう神々のお伽噺を聞くだけでも、凄まじいからな」

「だろうな……。そのキュルハ様の転移の話だが、キュルハ様が乗り移れるような依代が気になる。依代は<光魔・血霊衛士>のような感じで、アドゥムブラリが合体していたように?」

「あぁ、そんな感じだと思うぜ。樹海ならではの依代も豊富に造れるんだろう。神格も定命の範疇で済む。そして、ゼメタスとアドモスのように不死身でもあるだろう」


 なるほど。


「亜神ゴルゴンチュラと関係しているだろう十二樹海の結界主と、黒魔女教の団員たちが信じている魔界の神、神の一柱か……」

「あぁ、キサラもここにいれば色々と話をしてくれただろう。そして、主がサイデイル付近の樹海で戦った女王サーダインにも関係しているだろう」

「あの時か……」


 頷くアドゥムブラリ。


 すると、背後の出入り口付近で展開している俺たちの眷属と仲間たちの説明話にナギサも質問する形で加わっていた。も振り向いて説明する側に加わると、ビュシエもふむふむというような顔付きとなって、皆の会話に聴き入る様子を見せる。

 

 そのヘルメは俺とアドゥムブラリを囲う《水幕ウォータースクリーン》の展開を終えている。

 

 さて、そろそろかと思ったが、アドゥムブラリは、


「先の話の続きだが、悪神ギュラゼルバンや恐王ノクター側の優秀な斥候がこのバーヴァイ城や周辺地域に入り込んでいるかも知れないな」

「<無影歩>を超える隠蔽や気配殺しも視野に入れるべきか」

「あぁ、と言いたいが、それはさすがにな……それか<千里眼>に<遠隔透視>などで視られているかもだ」


 両方とも可能性はあるだろう。


「どちらにせよ、光魔ルシヴァルの血の儀式が皆に伝われば、吸血神ルグナド様の眷属だと勘違いされることも少なくなるか」

「分からん。だいたい、血を操作する技術と<血魔力>は共通点が多すぎなんだよ。ビュシエの件もある。光魔ルシヴァルの主は、血の盟約や魂の契約などの高度な同盟を吸血神ルグナド様と結んだと思われるかもな。そして、地下にも勢力はいるからなんとも言えない」


 同盟の線はビュシエの件であると思っているが……。

 吸血神ルグナド様がどうでるか。


 吸血神ルグナド様の眷属たちを想う気持ちが分かる言葉と表情は忘れられない。

 ルグナド様とは仲良くしたいところだ。

 

 さて、完全に落ち着いたアドゥムブラリを見て、準備はできたと判断。

 そのイケメンなアドゥムブラリに、


「では、ちゃっちゃと<筆頭従者長選ばれし眷属>化を行おうか」

「あぁ、頼むぜ! 俺も血文字を使いたい」

「おう! では――<光闇ノ奔流>と<大真祖の宗系譜者>を内包した光魔ルシヴァルの<光魔の王笏>を使う!」


 <光魔の王笏>を発動した刹那、体から大量の血が迸った。

 凄まじい痛みを味わう――。


 <血魔力>の消費量はビュシエの時と同じぐらいか――。

 が、質は更に向上していると理解できた。


 俺とアドゥムブラリのいる空間に一瞬で血が満ちる。

 血の海、血のプールとも呼べるか、その中心にいるアドゥムブラリの口から銀色の泡が出ていく。

 空気の泡もあるが、あの銀色の泡は毎回の事象――。

 その空気の泡を含む銀色の泡は子宮を模り、アドゥムブラリの体を囲う。

 そのアドゥムブラリは俺の血を全身で吸い込んでいた。


 血の流れが速まった。その血の世界を構成する液体の中には極めて小さいルシヴァルの紋章樹とルッシーのような血の妖精もいる。

 と同時に血の錫杖が血の流れに逆らいながら浮上。


 血の錫杖のカンから音がリズム良く響いていく。

 和のリズムは前と同じで、小さいルッシーたちは血の世界の中を踊りまくった。

 宿曜師すくようしの格好のルッシーとルッシーが腕を組み、肩車を行うルッシーたちが躍動していく。踊りに踊るルッシーたちを見ていると、自然と俺もリズムを刻んで、踊っていた。


 そこに、陛戟へいげきを持ち、宮殿の階段側を守る陛者へいしゃのような血霊衛士の幻影たちが、ずらりと並びながら軍隊の儀仗を掲げる動作と足踏みを交互に行う。


 ――それらの血霊衛士の幻影が俺の前後に整列して踊り始めた。

 ――自然と俺も踊りながら、駆けていた。

 多数の血霊衛士と宿曜師すくようしの格好のルッシーを引き連れながら踊りに踊る。

 ――血の錫杖が奏でるカンの音色と、血霊衛士たちの足跡と光魔ルシヴァルの激流の音がマッチした盛大な演目のような儀式となっていく。


 俺と似た血霊衛士が踊りながら俺の機動に合わせて肩車を行っての宙空サマーソルトキック。

 ではないが、後方宙返りを何回も行ってのシザーステップとクロスオーバー!


 ダンスにダンスに<白炎仙拳>――。


「「「「おぉぉぉ」」」」

「閣下がダンサーに!?」

「「わぁぁぁ~」」


 ヘルメたちの声に地響きのような歓声が外から響いてきた。

 

 血の錫杖も踊る俺に合わせて音色を響かせながらアドゥムブラリの周りを回り始めた。

 すると、血の錫杖は、筆記体のような魔印の梵字を描いたと思ったら、ルシヴァルの紋章樹の幻影と銀色の<光魔の王笏>を意味する模様が展開された。


 その<光魔の王笏>の模様が輝きを強める。


 ルシヴァルの紋章樹は毎回出ていたが、初っぱなからは初だ――。


 そこで一緒に踊っていた血霊衛士たちと宿曜師すくようしの格好をしたルッシーが<光魔の王笏>の模様の中に吸い込まれるようにして消えると、血の錫杖と<光魔の王笏>の模様から銀色と金色に闇色と水色の魔線が放出された。


 魔線が<血霊兵装隊杖>の光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装と繋がる。

 その間にもアドゥムブラリの体に凄まじい勢いで光魔ルシヴァルの血が入り込んでいく。

 貴族が着るような衣装が燃焼しつつ、アドゥムブラリの体内に消えてはまた現れていた。


 ストロボが点滅するように、衣装が吸収されてまた現れていくから、紙芝居的にも、そして一物を有した素っ裸のアドゥムブラリがロボットダンスをしているようにも見えてしまう。

 

 少し笑ってしまうが、アドゥムブラリは気付いていない。

 と、光魔ルシヴァルの血の吸収を続けるアドゥムブラリの胸元から閃光が迸って、俺を突き抜ける。血の海の中に<光穿・雷不>が発生したようにも見えた。


 その閃光はパッと弾けるように血の海の中に散る。

 と、光の粒子のようなモノが血と融合して幾つもの渦を発生させた。渦は一瞬で陰陽太極図のような模様に変化。


 アドゥムブラリは苦しそうな表情を浮かべたが直ぐに視線を強める。アドゥムブラリの口から吐かれていく銀色の泡ぶくが血を吐いたようにも見えた。


 そのアドゥムブラリから、

 

『……アムシャビス族を舐めんな、俺は元は上流階級だったんだ!』


 と単眼球だった頃のアドゥムブラリの言葉が聞こえたような気がした。

 血の錫杖のカンから、また不思議な音色が響いた。

 すると、アドゥムブラリへと流れ込む血の流れが加速。

 血の激流と共にルシヴァルの紋章樹の幻影と闇色の炎と<光魔の王笏>を意味する模様が揺れながらアドゥムブラリの体に突入――。


 アドゥムブラリがルシヴァルの紋章樹に喰われたようにも見えた。


 闇色の炎を取り込んだアドゥムブラリが着ている仔牛革色の防護服が煌めきながら点滅。右腕の甲の装備以外は着ていないから裸が見え隠れ。胸元のルシヴァルの紋章樹の模様が浮き彫り状に変化していた。アドゥムブラリのその浮き彫り状のルシヴァルの紋章樹から半透明の大きい首当ての<魔心ノ紅玉環>も出現。

 ルシヴァルの紋章樹の上部の幹と無数の枝と葉の色合いはアドゥムブラリの赤茶けた金色に近い。


 そのアドゥムブラリの周りに半透明なユキノシタ模様の記章と三日月型のワッペンが浮かぶ。

 と、ユキノシタ模様の防護服が展開されてアドゥムブラリの衣装が様変わり。

 

 二の腕から車軸とホイールと壺ヤナグイが重なり合う模様もそのまま浮かんでくる。

 

 更に<武装魔霊・煉極レグサール>のレプリカらしき武器も浮かぶ。

 偽魔皇の擬三日月の大きなバルディッシュのような武器も自然と浮かびながら現れる。

 

 そのアドゥムブラリの武器と防具の武装魔霊たちが光魔ルシヴァルの<血魔力>を吸収し始める。

 闇色の炎を有したアドゥムブラリは頭部の上半分を覆うようなお洒落な兜を装着。

 揉み上げと両耳の下に後頭部から赤茶色が混じる金髪が見えているのは前と変わらず。


 双眸と額の位置には赤く光る眼のような魔宝石が五つ付いている。

 俺の<武装紅玉・アムシャビス>の恒久スキルが疼くような感覚を得た。


 すると、ルシヴァルの紋章樹の洞にアドゥムブラリの幻影が見えて、消える。

 ほぼ同時にアドゥムブラリの体と重なったままのルシヴァルの紋章樹が徐々に描かれていく。


 美しいルシヴァルの紋章樹は枝を左右へ伸ばし銀色の葉と花を無数に誕生させる。

 周りに銀色の葉と花以外にも極彩色豊かな植物が咲き乱れた。

 樹の屋根の天辺は太陽を思わせる明るさ。まさに陽。

 樹の根の真下は、月を思わせる暗さ。まさに陰。


 葉と花から銀色の魔力の波が太陽のプロミネンス的な動きで放出され、銀色の魔力の粒子を散らす。


 太陽を彷彿とさせる樹の屋根と幹と枝から迸っている魔線はアドゥムブラリと繋がっていた。

 マリオネット的な魔線はキッカ、キサラ、ビーサ、サシィ、ビュシエと同じ。


 ルシヴァルの紋章樹の根っこがアドゥムブラリの足に絡まり始める。

 ルシヴァルの紋章樹の深淵を意味するような暗さを持つ根っこ。

 対称的にルシヴァルの紋章樹の幹と枝と葉が非常に明るい。


 そのルシヴァルの紋章樹とアドゥムブラリが重なると幹から榊のような棒が飛び出てきた。


 その榊のような棒で、アドゥムブラリの体を祓い撫でていく――。

 祓われる度に恍惚とした表情となったアドゥムブラリの体に無数の血の筋が生まれては消えた。

 更に血の線から数学染みた暗号のような文字が迸っては消える。

 すると、お祓い棒のような銀色の葉と万緑の葉が付いた榊のような棒が俺の魔力を吸うと、アドゥムブラリに直進し、防護服と溶け合うようにアドゥムブラリの体の中に入り込んだ。

  

 次の瞬間、ルシヴァルの紋章樹の幹と万朶に、光魔ルシヴァル一門の類縁関係が樹木状に模式化された系統樹が展開され、そこに<筆頭従者長選ばれし眷属>と<従者長>と光魔騎士などの名が刻まれている円が出現。


 第一のヴィーネから第十二のビュシエと第十三のサシィの名もある。

 そして、自然と幹の十四番目の大きな円が出来上がり、そこにアドゥムブラリの名が刻まれた。

 

 アドゥムブラリはそのルシヴァルの紋章樹を取り込むように周囲の血をすべて吸い込むと、片膝を地面に突けた。


 そのアドゥムブラリに近付く。

 アドゥムブラリは見上げてきて笑みを浮かべ、


「主……俺は光魔騎士でありながら、選ばれし眷属、<筆頭従者長>のアドゥムブラリとなったぞ!」

「おぉ、おめでとう」


 片手を伸ばす。

 アドゥムブラリが俺の手を握った。

 その手を引っ張り上げて、


「――おうよ! 偉大な主!」


 立った<筆頭従者長選ばれし眷属>のアドゥムブラリと握手。


「ま、これからもよろしく頼む。幼なじみの復活には協力しよう」

「……」

「なんだ、気付いていないとでも?」

「……主、俺を泣かせるつもりか?」

「はは」

「「「閣下ァァ」」」

「すーぱーけーんぞーく♪ たんじょー♪」

「「「「うぁぁぁぁぁ」」」」

「「シュウヤ様ァァァ」」

「「「アドゥムブラリいぃぃ」」」


 と、皆で俺たちを担ぐような騒ぎとなったが、ま、いっか。

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