千六十一話 魔王ザウバの落とし物
<光魔・血霊衛士>の二体は闇雷の森に向かわせて地上から偵察に出す。
同時に戦闘型デバイスを意識し、偵察用ドローンを数個飛ばした。
「アクセルマギナ、ドローンの視界と操作の一部は任せた」
「はい」
偵察用ドローンで、【闇雷の森】の上空と【ローグバント山脈】と【ベルトアン荒涼地帯】側の森林地帯を空から偵察する。【闇雷の森】の樹が多数打ち倒されている。
勿論、<水血ノ断罪妖刀>と《
偵察用ドローンの大半の視界をアクセルマギナに頼んだところで――。
魔王ザウバの装備品を見た。
ベルトには複数の箱と袋が付いている。
魔力量的にアイテムボックスなのは確実。だが、一番気になるのは、闇の炎の塊だ。
闇神アーディン様の神像の片目から出た魔線の一部が、その闇の炎の塊と繋がっていた。
ヘルメが、
「閣下、そこの闇の炎の塊は闇神アーディンと関わりが深いアイテムということですか? 闇の精霊ちゃんの気配を強く感じますが、意識はないようです」
「お? 精霊と来たか……それか【闇の古寺】に秘蔵されていた秘宝かも知れない」
「はい、魔王ザウバが闇炎を扱っていたことと繋がっているかもですね」
「あぁ」
炎を発していた魔槍は俺でも扱えるかも知れない。
が、槍は豊富にあるから仲間に譲ろう。
すると、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスにビュシエとバーソロンが寄ってくる。
「閣下ァ、敵モンスターは全滅! 【闇雷の森】に我らの勝利の道ができましたぞ!」
「――見事な血龍の槍奥義でした!」
「陛下、三十は超える地亀ドラゴンの素材を回収しました!」
「おう、ゼメタスとアドモスも良く戦った。バーソロンも黒狼隊を率いてよく戦ってくれた。ありがとうな」
「あっ、ううん、は、はい!」
「「はい!」」
頬を斑に朱に染めつつのバーソロンの対応が可愛い。
そのバーソロンは闇神アーディン様の神像の片目から出ている魔線の一部が闇の炎の塊と繋がっているのを見て、少し驚いていた。
すると、
「ンン――」
相棒が左足にドッと頭突きを噛ましてくる。
大きい黒虎ロロディーヌだから、左足が後ろにもってかれた。
が、その
相棒のお望みは休憩タイムかな――。
パーカーのイメージをしながら
「ん、にゃ~」
と鳴いて頭巾の中に潜った。
「「陛下!」」
「最後に残っていた地亀ドラゴンを倒しきりました!」
「「「ウォォン!」」」
パパス、リューリュ、ツィクハルとコテツ、ケン、ヨモギの黒狼隊だ。
フィナプルスも飛来してくると、金色のレイピアを消しながら寄ってきた。
黒い前髪が風を受けて靡く。
美しいフィナプルスが華麗に黄金のレイピアを振るって地亀ドラゴンを倒しまくる姿は素敵だった。ゼロコンマ数秒の間の戦闘だったが、<奇怪・宵魔斬剣>を用いた回転斬りは前にも増して凄かった。
そのフィナプルスが、
「シュウヤ様、一先ずの勝利おめでとうございます。そして、ここは敵地のど真ん中。【闇雷の森】の上空を偵察しておきます」
「了解」
フィナプルスは、闇神アーディン様の神像の片目と闇の炎の塊が魔線で繋がっているのを見てから、反転するように上空に向かう。
石棺砦にいた【魔雷教団】の方々も駆け寄ってきた。
「「――御使い様アァァ」」
「闇神アーディン様の御使い様が、我らに大勝利を齎してくれた!!」
「闇神アーディン様の声が響きましたぞぉぉ」
闇神アーディン様の声?
常闇の水精霊ヘルメが、オオツキの前に移動して、
「闇神アーディン様の声ですか?」
「はい! 〝魔雷教の者共、我の祝福を受けし槍使いに懾服(しょうふく)せよ、抗うことなく指示に従うべし〟と、心の中に聞こえました!」
「「「はい!」」」
「「「おぉ、転がっているのは……」」」
【魔雷教団】の方々は闇の炎の塊を知ってるっぽい?
「まぁ! 気付きませんでした」
「私も気付かなかったです。あ、シュウヤ様の傍に浮いている神像の片目から、今のように魔力、魔線が戦闘中に出ていましたね」
ビュシエがそう発言。
「「はい!」」
【魔雷教団】の方々が元気に返事をする。
アドゥムブラリにアクセルマギナとゼメタスとアドモスに視線を向ける。
が、戦闘中の闇神アーディン様の神像の片目の現象には、気付かなかったようだ。
アクセルマギナとの偵察用ドローン共有視界には、異常はなかった。
樹木系のモンスターと蛾のモンスターが増えているぐらいだ。
トマトさんと目が合うと、
「……うぅぅ、闇神アーディン様の御使い様と一緒に行動ができて、わたしは幸せです……」
法涙しながら語る。
オオツキさんたちも泣いていた。
思わず、トマトさんに寄って、
「良かった。俺も嬉しいです。共に【闇雷の森】にある【闇の古寺】に向かいましょう」
「あぁ、は、はい……」
また泣き始めそうなトマトさんに笑顔を向けると、微笑んでくれた。
笑顔で涙を片手の指で拭うトマトさんを見て、心が温かくなった。
丈の短いスカート衣装が風を孕んで、魅惑的なふんどしパンティが見えていた。
その
「――器よ、戦いは一先ず終了か!」
と言ってきた沙とハイタッチ。
「――おう。【闇雷の森】にはまだ樹木系のモンスターが豊富にいると思うが」
フィナプルスを見る。
白い翼から魔力粒子が溢れていく様は天使的。
「ふむ――フィナプルス、妾も偵察だ――」
そう喋った沙は華麗に振り返る。
低空を飛行しつつフィナプルスが飛翔している所へ向かう。
飛翔している沙の足下に残っていた足の形をした綺麗な軌跡がスゥッと大気に混じるように消える。
そんな沙から視線を羅と貂に戻した。
二人は、それぞれ俺の槍を持つポージングを繰り返しつつ、
「――器様、先ほどの大魔法と槍スキルのコンボは強烈でした!」
「――水神ノ血封書と
と語ると、踊るような機動で寄ってきた。
貂の巨乳が揺れる度に自然と目が行ってしまう。
尻尾のフサフサも魅惑的だが、やはり、大胆な胸元には注目してしまう。
羅もお椀と似た程よい大きさの乳房だと分かる仙女風の衣装だから、つい見てしまう。
その二人以外にも、全員に、
「……おう、上手くいった。ま、皆が活躍したからこその勝利だ」
「「「「「はい」」」」」
皆の元気溢れる声を聞いて、自然と笑顔となった。
続けて、
二人に抱きつかれた。
おっぱいの感触を得ながら優しくハグを返してあげた。
「器様……」
「器様、この間のように――」
と、両耳に息を吹きかけられたから、二人をギュッと抱いてから直ぐに離れた。
「あぅ」
「ァん」
悩ましい声を誤魔化すようにビュシエに、
「――それで、魔王ザウバだが、<
冷然と、血のメイスを造っていたビュシエは、素早く消して、
「はい、アドゥムブラリの<魔矢魔霊・レームル>を防いだように、<
「あぁ、主の光属性攻撃が通じないことには少し驚きを覚えたが、俺の<魔矢魔霊・レームル>もまったく効かず。あの口から吐いた靄は光属性さえも吸い取っているのか、異次元に飛ばしているのか、なんとも不思議な靄だったな。俺の偽魔皇の擬三日月も炎の槍で弾いていたし」
アドゥムブラリがそう語る。
「わたしの<ルクスの炎紐>も弾いていた」
バーソロンがそう発言。
ビュシエは、
「魔法の盾にも多種多様な防御能力があります。魔王ザウバは時空と闇と水の属性が主だとしても、天敵用に、光属性への耐久度の高い仕組みと、対神界用の防御方法を獲得していたのでしょう」
「なるほどな」
「あぁ」
魔王ザウバが口から靄のようなモノを撒いていたのは見えた。
あれは、心象世界か亜空間に飛ばすとか、ビームを乱反射させるような仕組みとか?
ま、優れた魔法防御の靄ってことでいいか。
ビュシエは、
「魔王ザウバは、神獣様の一撃とバーソロンの炎の紐とアドゥムブラリの大きな斧の攻撃も、そこに転がっている炎の槍と闇炎の魔法陣と闇炎の槍で防ぎながら、爆発ポーションも撒いてきました。私と
頷いた。
バーソロンたちも頷く。
周囲の地面には爆発の影響がある。
数十分の激闘だったが、相当なモノだったはず。
ビュシエを見ながら、
「ビュシエの魔王ザウバの背後を取った血道はなんてスキルなんだ?」
「<血道・打擲転移殺>です」
「へぇ、血道の転移か。見事な一撃だ」
「ありがとうございます。シュウヤ様が、巨大な塊を放った地大竜ラアンを倒したことが要因と推測します」
アドゥムブラリも頷きつつ、
「……地大竜ラアンは魔王ザウバに信頼されていたようだな」
「地大竜ラアンに地亀ドラゴンも大量に倒れましたからね、さすがにすべて倒されるとは魔王ザウバも思わなかったでしょう」
バーソロンもそう語る。
アドゥムブラリは、
「あぁ。が、主は神獣を地大竜ラアンにぶつけるかと思っていたが、魔王ザウバではなく、地大竜ラアンを優先するとは思わなかったぜ」
「魔王ザウバは遠距離戦を主体とするスタイルだったからな。図体がデカイ地大竜ラアンに近付いて大技でドカン! と接近戦で終わらせることができるかな? という印象からの判断だ」
「ンン」
頭巾に潜っている相棒も返事をしていた。
続けて、
「が、あの巨大な塊は少し焦った。豪快に槍技で打ち砕けば、大きな破片となって皆に降り掛かっていただろうから……相棒が巨大化して戦うべき相手が地大竜ラアンだったかも知れない。俺の判断ミスかな」
「ハッ、主らしい思考だが、ミスではないだろ。ま、終わってみたらなんとやらだ」
アドゥムブラリに頷いた。
「はい、初めて見る大魔法でしたし、素敵でしたよ」
ビュシエの言葉に照れる。
ヘルメも、
「一瞬の判断ですし、閣下の判断が正解かと! 《
「あぁ」
「はい」
「そうですね、巨大な氷の墓が道となるのは凄まじい」
バーソロンがそう語ると、皆が頷いた。
ヘルメは少し体を浮かせて体から水飛沫を発すると、
「――ビュシエも最後のメイスの一撃といい、最初の<血道・石棺砦>を造ったのも正解です。あらゆる戦場に対応できる即応性は長く戦い続けた経験値を感じました。今後も閣下のために活躍を期待していますよ!」
「ふふ、ありがとうございます――」
常闇の水精霊ヘルメとビュシエがハイタッチ。
二人ともスタイルがいいだけに、絵になる。
そのビュシエが、
「あ、シュウヤ様、魔王ザウバの品の回収はしないのですか?」
「あぁ、皆の意見を聞いてからと考えていた。炎の魔槍は、ツィクハルかリューリュかパパスが使うといい――」
その炎の魔槍を拾う。
柄は熱いが、耐えられる熱さ。
が、これは普通の人族にはキツイかも知れない。
その炎の魔槍を、デラバイン族の二人に渡そうと近付いた。
「え……」
「わたしたちは槍使いの範疇ですが……」
「俺は大量に武器を持つ。二人がいいと思うが、バーソロンはどう思う?」
「御意にございます。ツィクハルは斧と斧槍を使う槍使い。リューリュは魔法棍を扱える万能型。槍も使える。パパスは斧一筋。ですから、陛下のご意向に沿って、二人で相談して決めなさい」
「「はい!」」
二人は嬉しそうだ。
魔速チャージャーはリューリュが嵌めている。
そのリューリュとツィクハルは目を合わせて考え込むと、ツィクハルが、
「〝魔槍厳柳〟は私が得ているから、リューリュが炎の槍を使うべきだと思う」
「え、わたしは〝魔剣ルクトマルス〟をもらったから……ツィクハルが使うべきよ」
と二人が会話を始める。
長くなりそうだから、「とりあえず持っておけ。皆で使いまわしてもいいからな――」と言いながら炎の魔槍をツィクハルに手渡した。
「あ、はい――あ、熱い……」
あ、炎の槍は柄の部分も燃えているからな。
デラバイン族ならいけると思ったが、
「無理そうか?」
「大丈夫です。熱も弱まりましたし、少し熱い程度です」
「扱いには気を付けたほうがいいかもな。穂先付近で焼き芋とかができると思うが……」
「え、あ、はい」
「「「「ふふ」」」」
背後で、ヘルメと羅と貂とアクセルマギナが微笑んでいた。
構わず、闇の炎の塊を見ながら、袋と箱のアイテムボックスが備わるベルトを拾った。
「ベルトの袋と箱の中身が気になる。ベルトごと俺が一旦預かるが、いいかな」
「「「はい!」」」
「【魔雷教団】の方々もアドゥムブラリもいいか?」
「「……」」
オオツキさんたちは、『え?』という顔付きだ。
ま、普通の魔君主なら聞かないか。
が、俺には俺の流儀がある。
アドゥムブラリをチラッと見たら、両手を上げて、
「あぁ? いいに決まってんだろ。すべてが主の物だ。が、しいて言うなら、大斧や弓などのアイテムがあるなら、俺も気になる」
「おう、バーソロンも欲しかったら言ってくれ」
「ハッ、<魔炎双剣ルクス>がありますから、武器は要りません……ですが、できれば……魔力増幅などのアクセサリーがあれば嬉しいかと!」
バーソロンが少し緊張気味に語る。
ビュシエが回収したアイテム類の中には、加速性能が上昇するアイテムがあったが、リューリュたちに譲ったのは、バーソロンなりの気配りか。
厳しいようで優しい。
バーソロンも良い女性だ。
仲間に、眷属になってくれて良かった。
「……了解した」
魔王ザウバのアイテムボックスが備わるベルトはアイテムボックスに入れた。
次は闇炎の塊だが……。
「闇神アーディン様の神像の片目と魔線で繋がっているから、闇神アーディン様と関係するアイテムだと思うが、魔雷教の方々は要りますか?」
「何を言われますか、御使い様が使うべき秘宝と推測しますぞ」
オオツキさんがそう発言。
「「はい!」」
魔雷教の方々も同意していた。
「では、一旦俺が預かる――」
闇の炎の塊を掴んでアイテムボックスに入れた。
呪いとかはない。
戦闘型デバイスに浮かぶアイテム名は――。
〝闇速ベルトボックス〟。
〝闇精霊ドアルアルの塊〟。
ヘルメが指摘していた通りか。
特段触った時に何もなかったから、【闇の古寺】に行くべきだな。
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