千六十二話 【闇の古寺】と闇の泉と闇精霊ドアルアルの塊


「「……おぉ」」


 魔雷教の方々は、戦闘型デバイスの真上に浮かぶアイコン状のアイテムを見て、歓声を発した。


「中身が把握し易いアイテムボックス。闇商人が商品を売る際に、似たような中身を浮かばせて見せるモノを見たことがありますが、これほど小さく緻密な絵柄で再現されているアイテムボックスは初めて見ました。丸い犬の絡繰り人形も不思議ですな」


 ガードナーマリオルスが絡繰り人形に見えるのか。


「うむ。御使い様のアイテムボックスは珍しい」

「シュウヤ様のアイテムボックスは、セラのうちゅうぶんめい、ナ・パーム統合軍惑星同盟と関係があると教えて頂きましたが……不思議ですね」

「セラという世界は巨大岩石惑星で丸い。その外側には、膨大な宇宙が拡がっていて、その宇宙のどこかには、頭が禿げた渋い艦長と、アクセルマギナよりも性能は低いかもしれない人造人間、トランスヒューマンがいるかも知れないと、そして、『宇宙、それは最後のフロンティア』があると熱く語られていたが……」


 バーソロンが真面目顔で俺の冗談を語るから思わず笑う。

 そして、和風の巻物の名は〝闇烙あんかく・竜龍種々秘叢ひそう〟。

 と出ていた。闇烙は魔王ザウバの名前にもあったが……。

 地大竜ラアンなど、ドラゴンや竜系統を従えていた理由か?


 闇速のベルトを取り出す。

 その闇速のベルトを肩の竜頭装甲ハルホンクに――。


「ハルホンク、このアイテムボックスの闇速ベルトボックスだが、中身は吸収はせず、防護服の新しいベルトとして展開できるように取り込んでくれ。できるか? 相棒が背中で寝ているから気を付けてくれ」

「ングゥゥィィ、ダイジョウブ!」

「ンン」


 頭巾の中でもぞもぞっと動く黒猫ロロの体重が可愛い。


「それじゃ、頼む――」


 肩の竜頭装甲ハルホンクの口の部分に闇速ベルトボックスを当てると、闇速ベルトボックスはその口の中に吸い込まれるように消えた。


「ングゥゥィィ!」


 と一瞬で、ハルホンクの防護服が魔竜王鎧と似た鎧となる。

 腰には、闇速ベルトボックスが装着された。

 黒猫ロロがいる頭巾をキープしつつも外套も変化。


 灰銀色の銀ヴォルクの粘液から特殊銀糸を抽出した素材と似た素材の外套となった。


 ザガが造ってくれた偉大な外套だから嬉しくなった。


 が、相棒が休んでいる頭巾だけは違う。

 先ほど<血霊兵装隊杖>の光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装を解除したが、その直後に得た<血道第六・開門>状態の<血魔力>を活かした新装束の色合いと少し似ていた。

 

「「おぉ」」

「紫色の魔界騎士のようなお姿に……!」


 皆から歓声が上がるが、肩の竜頭装甲ハルホンクに、


「極大魔石だが、美味しかったか?」

「ウマカッチャン!」


 そのウマカッチャンが聞きたかった。


「おし! 俺も地大竜ラアンを倒した直後と同じぐらいの魔力は得たからな」

「主モウマカッチャン?」

「あぁ、うまかっちゃん!」

「ふふ」

「主、なんで何かを喰うポーズとなったんだ?」

「あぁ、インスタントラーメンの商品があってだな……が、それは長くなるから今度な。今は【闇の古寺】に急ごうか」

「分かった」

「行きましょう」

「マスター、先に、石柱とドラゴンと魔法文字で形成されている巨大魔法陣の中に建設された小さい遺跡がありました。マスターの横で今も浮いている闇神アーディンの神像の片目から放出されている魔線の方向と一致しています」


 共有中の偵察用ドローンの視界にタージマハルやモスク的な建物が映る。

 モスクには闇神アーディン様の神像もあった。

 その周りにはドラゴン系の石柱とヘルメと似た女神像などもある。

 

 その共有中の視界にウィンドウの端をドラッグするように視界の端に移動させるイメージを行うと、共有していた視界は片隅に移動した。そのままリアルの常闇の水精霊ヘルメを見た。


 ヘルメは微笑んでくれた。

 闇精霊ドアルアルの塊と関係があるかも知れないな。


「――了解、皆、行こう、偵察用ドローンは切る。【魔雷教団】の守りはアクセルマギナとテンにアドゥムブラリも頼む」

「「「「「はい!」」」」」

「分かったのじゃ!」

「「承知」」

「了解」

「行きましょう~」

「ンン、にゃお~」


 と、頭巾から飛び出た黒猫ロロが【闇雷の森】の内部に向かう。

 俺も走った。皆も続く。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動――。


「――相棒、匂いでも分かるのか?」

「ンン」


 と、黒猫ロロは加速を緩めた。

 闇神アーディン様の神像の片目から出ている魔線の方向に共に急ぐ。

 横にヘルメ、背後にビュシエとフィナプルスとバーソロンと黒狼隊が続いた。


 森の繁った環境が直ぐに変化を遂げる。色々な形の石柱が見えてきた。

 足下も古い魔法陣が刻まれている石畳に変化。

 石畳の素材は魔宝石にも見える。

 これらの素材は回収したほうがいいかも知れない。

 ふと、塔烈中立都市セナアプアで入手した烈戒の浮遊岩と死蝕天壌の浮遊岩のことを想起。あの浮遊岩には鉱脈と植物が豊富らしいから、帰ったら調べ直したいところだ。

 他にも貴重な素材はあるかもな……と思い出しながら【闇の古寺】を進む。

 

 モスクを思わせる建物の頂上にある闇神アーディン様の神像が光を帯びた。その建物の中に相棒とヘルメと一緒に入った。


 一気に水気が強くなる。


 床は薄緑色の硝子のようなタイル。

 ステンドグラスのような部分もある。不思議だ。

 壁にはドラゴンと動植物の絵柄が刻まれている。

 他にも、ヘリンボーンの模様もあり、暖炉のような窪みもあった。

 中世ヨーロッパの城を思わせるが、社寺建築にあるような巨大な斗形ますがたが特徴的な棟持ち柱も多い。

 中央の天井は校倉造あぜくらづくりとバレル・ヴォールトの組み合わせ。和洋折衷だ。

 泉の真上の天井には、巨大な鐘がぶら下がっていたような跡もある。

 その天井だけなら和風の建物構造が八割ってところか。

 外はイスラム建築と近かっただけに不思議だな。

 

 端には雲斗と雲肘木のような木組みもあった。

 お洒落だ。雲ではなく龍かな。

 お寺では寝殿造の外側にある木組みのはずだが、内側にあるのは、魔界セブドラならではか。

 身舎となる空間は中央の柱と闇の泉の前にある。

 巨大な魔力が籠もった礎石も手前にあるが、祈りの空間を考えられた内部の構造は、寺の内部を思わせる部分も多い。


 側廊の壁際には木製の朽ちた階段がある。

 闇色の泉がある中央に向かうほど円状の階段が低くなっていく。

 闇の泉が囲っている中心の祭壇はシンプルな巨大な柱。柱から水が噴き出ていたら噴水にも見えるはず。

 その柱のような物は暗くて素材は分からない。

 闇精霊ドアルアルの塊を出すと、その塊と闇色の泉が魔線で繋がった。

 更に、闇神アーディン様の神像の片目とも魔線で繋がり始めた。


「閣下……」

「あぁ」

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