千六十話 地大竜ラアンに魔王ザウバとの激戦と<血道・九頭龍異穿>

 

 <仙魔奇道の心得>を発動。

 額に魔力溜まりを感じながら――。


「――皆、正面の一部は俺とゼメタスとアドモスが対処しよう。臨機応変だが、基本はビュシエのように【魔雷教団】の守りだ――」

「承知!」

「了解」

「「はい!」」

「にゃ~」


 右手が握る魔槍杖バルドークで<刺突>を放つ。

 嵐雲の穂先で闇炎の槍をぶち抜いた。

 闇炎の槍の穂先を豪快に破壊した魔槍杖バルドークの穂先――。

 ――闇炎の破片が光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の甲冑に衝突するが、なんてことない。


 黒豹ロロも触手が持つ魔雅大剣を前方に突き出す。

 その切っ先で闇炎の槍を貫き豪快に真っ二つにした。

 続けざまに黒豹ロロは身を捻る。

 魔雅大剣で裂いたばかりの闇炎の槍片を後ろ脚の爪で蹴り弾く。

 そんな俺たちの動きを見た六つの眼球を擁した厳つい魔族は、ニヤッと嗤って己の前にある闇の炎の魔法陣を従えるように後退し、


「――ハッ、種族が不明な魔王級が何名かいるようだが……ナーガ・ロベではないのなら、我が出る幕はあるまい!」


 と発言。

 魔法陣から闇炎の槍を次々に生み出し射出しながら地大竜ラアンの頭部に着地していた。


 六眼四腕の魔族は先制攻撃を仕掛けてきたが、脳筋ではないらしい。

 俺の魔力を測れていないようだが、あれが闇烙あんかく魔王ザウバだろう。【闇雷の森】を支配するだけはある。


 その魔王ザウバが接近戦を仕掛けてきてくれたら、楽なんだが……。

 魔王ザウバが使役している地大竜ラアンは全長30メートルはあるか?

 他の地亀ドラゴンとは造形といいまったく違う。

 ティラノサウルスのような頭部で、厳つい頭蓋骨と肉付きだ。

 四眼の眼窩には、それぞれに似合う色合いの魔法陣が浮いている。


 上下の顎の歯牙も鋭そうだ。

 四肢も長く、胴体の左右にある長くて太い両腕には巨大なかぎ爪を持つ。

 一つ一つの爪がロングソードのように太く鋭そうだ。


 魔竜王バルドークを思い出す相手か。


 そう思考しながら<黒呪強瞑>を発動――。

 魔王ザウバが展開している闇炎の魔法陣から生まれ出る闇炎の槍――。

 その闇炎の槍が、俺に迫る軌道予測をしながら全身から血を出す。そして、


 <血道第一・開門>で<血魔力>――。

 血の拡がりに合わせて<生活魔法>の水を周囲に撒く。

 その<生活魔法>の水と<血魔力>で陰陽太極図を描くように周囲に展開させた。


「閣下の前衛はお任せあれ!」

「閣下の盾は我らの常! 血霊衛士にも負けませぬぞ――」


 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスが、それぞれ闇炎の槍を骨剣で切断しながら叫ぶ。


「了解だ。右側に出る――」

「はい、左側のドラゴンの群れはわたしたちが対処します。リューリュたち黒狼隊はわたしに続け!」

「「「はい!」」」


 アドゥムブラリとバーソロンと黒狼隊は闇炎の槍を打ち払いながら左右に前進。

 空を舞うフィナプルスが、俺の右前方から飛来しつつ、


「――シュウヤ様、テンは後方を見守るようですから、前衛のフォローを兼ねた遊撃活動はわたしが行います――」

「おう」


 フィナプルスは右から左へと一瞬で飛翔する。

 宙空を旋回――そのフィナプルスに、魔王ザウバが繰り出した闇炎の槍が向かうが、当たらない。

 闇炎の槍は、闇炎の魔法陣の表面から外へと伸びるように飛び出ていく。

 その物量と連射速度が凄まじい。

 追尾性能も若干あるように見える。

 しかし、フィナプルスも速い。

 闇炎の槍は天使のような空中機動に追いつけない。


 闇炎の槍に、赤外線センサーが付いている地対空ミサイルのような機動力はないようだ。


 黒豹ロロは、バーソロンと黒狼隊の動きに釣られて左側に出る。


 が、少し前に出たところでバックステップ。

 後退して後ろ脚でアーゼンのブーツの甲を踏んでくる。

 太股を脛に当てて長い尻尾を足に絡ませながら大きいゴロゴロ音を響かせてくれた。


 相棒を撫でたくなったが、ここは戦場。


 闇炎の槍の群れを凝視し、


「ロロ、無数の闇炎の槍を潰しながら無数のドラゴンを屠り、あの一際大きいドラゴンと、そのドラゴンに乗っている魔王ザウバを仕留めようか」

「ンン――」


 黒豹ロロが喉声で返事をしながら少し前に出た。

 同時に相棒の首から伸びた二つの触手と魔雅大剣を持つ触手が前に出る。

 直進した触手骨剣と魔雅大剣の刃が三つの闇炎の槍と衝突し、貫いた。


 俺に飛来してくる闇炎の槍を凝視。

 魔槍杖バルドークの柄で弾かず――。

 左手に白蛇竜小神ゲン様のグローブを装着。

 飛来してきた闇炎の槍を見るように横に移動し――。

 白蛇竜小神ゲン様のグローブで、その闇炎の槍を撫でるように掴む――。


 その掴んだ闇炎の槍からじゅわっと蒸発音が響いた。


 闇炎の槍から噴出していた闇炎は白蛇竜小神ゲン様のグローブに触れると消える。


 柄は鋼のようで硬く、崩れる気配はない。


 光属性や神界の神々の力に耐性があるのか、消えていた闇炎が柄からボアッと生まれ出て白蛇竜小神ゲン様のグローブと衝突、闇炎は蒸発音を発して消えた。

 見た目通り闇属性が濃厚な炎だが、指貫グローブから出ていた指と衝突すると、その闇炎を指から吸収――中々の魔力を得た。が、いくら吸収しても柄から闇炎が噴出してくる。


 そして、先ほどと同じく白蛇竜小神ゲン様のグローブに触れた闇炎は蒸発して消えた。

 俺の指に触れた闇炎は吸収していく。


 この闇炎の槍から出ている闇炎の魔力は<ザイムの闇炎>的な能力か?

 このまま闇炎を吸収し続けて、魔力を得続けるのも一興だが――。


 自然と魔力は回復するし、邪魔だ――。

 相棒が大きい黒虎に変化しながら地亀ドラゴンに飛び掛かるのを見ながら――。

 

 クォータースローで闇炎の槍を<投擲>。

 闇炎の槍は直進――。

 他の闇炎の槍と交差しながら地亀ドラゴンに向かう。


 その地亀ドラゴンの額に闇炎の槍が突き刺さった。


 その地亀ドラゴンは動きを停める。

 が、鎧竜のような頭蓋骨は分厚い。頭部を左右に振るうのみでダメージはないようだ。


 その地亀ドラゴンはバーソロンの<ルクスの炎紐>を浴びて細切れとなって倒れた。


 その間にも魔王ザウバが繰り出している闇炎の槍目掛け――十数の<仙玄樹・紅霞月>で迎撃を行う。


 十数の闇炎の槍と激突した<仙玄樹・紅霞月>は闇炎の槍と相殺されて消えた。

 魔王ザウバが闇炎の魔法陣から繰り出し続けている闇炎の槍は、飛行中のアドゥムブラリたちにも向かっていく。


 その間に<闘気玄装>と<水月血闘法>を発動。

 <魔闘術>系統の強まりを感じながら――。


 <血液加速ブラッディアクセル>を発動――。

 魔王ザウバが乗る巨大な地大竜ラアンを追うが、動きが速いし――。

 また俺たちに闇炎の槍が飛来してきた――。

 魔槍杖バルドークでその闇炎の槍を払う。


 闇炎の槍の弾幕は厄介だ。


 素早く<滔天神働術>――。

 <滔天内丹術>――。

 <ルシヴァル紋章樹ノ纏>――。

 <魔闘術の仙極>――。


 をそれぞれ意識、発動――。

 <滔天神働術>の効果で、周囲の水飛沫と血飛沫が時が止まったように一斉に浮遊したまま静止する。


 体中から膨大な魔力が暴れ龍の如く蠢くのを感じたが、その魔力を外に放出させず――。


 <経脈自在>――。

 <光魔血仙経>――。

 <滔天仙正理大綱>――。

 <血脈冥想>――。

 <性命双修>――。


 を意識して発動し、体内魔力を整えた。

 そのゼロコンマ数秒の間に――右前にいるゼメタスが、


「閣下、地亀ドラゴンは私たちにお任せを――」


 と言いながら<黒南風もののふ>と<黒鳶ノ星彩>を連続発動――骨剣を突き出したままの加速剣技を右前方にいる地亀ドラゴンに繰り出した。


 そのゼメタスから『ぴいひょろろ』と鷹のような音が轟く。

 同時に黒鳶とインバネスのような幻影を甲冑の上に生み出しながら、星屑のマントも煌めかせた。

 ゼメタスは骨剣を持つ右腕を突き出す構えのまま前進し、骨剣で三つの闇炎の槍を貫き地亀ドラゴンの頭部をも裂いてから動きを止めた。


 地亀ドラゴンを仕留めたゼメタスは骨盾を振るう。

 頭部が裂かれている地亀ドラゴンの死体を骨盾で吹き飛ばす。


「ゼメタスに負けていられぬ――」


 左にいるアドモスも<赤北風もののふ>を発動させる。

 俺の左を加速しながら前進――。

 滑るような機動力で三つの闇炎の槍を避けたアドモスは、地亀ドラゴンの懐に潜るや否や骨盾を振るう。

 <暗紅ノ盾打突>を繰り出していた。

 斜め右下から左上へと振り上げたシールドバッシュの<暗紅ノ盾打突>を地亀ドラゴンの顎と頭部に喰らわせる。

 ドッと鈍い音を響かせながらその顎と頭部を派手に破壊。


 更に「<月影走り>――」と叫ぶ。

 流れる機動のまま骨剣を突き出して、頭部を失いつつもまだ生きているように動いている地亀ドラゴンの胴体に突き刺しながら前進し、その地亀ドラゴンを吹き飛ばす。


 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは、それぞれ前進。

 が、相対した地亀ドラゴンが、突然の加速――。


「「ギャガオォォォォ」」


 噛み付き攻撃を喰らいそうになったが、見事に骨盾で防ぐ。

 と、骨剣ごと上昇する剣技の<夜叉ノ衝き>を繰り出し、地亀ドラゴンの下顎を粉砕、そのまま地亀ドラゴンの頭部を突き抜けたゼメタスとアドモスは、豪快に地面に着地。


 体から黒と赤の粉塵魔力を噴き出させて星屑のマントを輝かせる。


 見事な光魔沸夜叉将軍の動きだ。

 他の地亀ドラゴンたちは動揺したように、


「「「ゴグアァァァ――」」」


 と叫ぶ。

 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスに突進。


 すると、


「ゼメタス様とアドモス様、ありがとうございます!」


 ビュシエの声が谺した。

 ビュシエが振るった血のメイスが、地亀ドラゴンの頭部を粉砕し、前転からの踵落としが、その頭部を失った地亀ドラゴンの胴体を潰すようにヒットした。


「わたしも行きます――」


 他の地亀ドラゴンたちを皆が急襲。

 フィナプルスとアドゥムブラリとバーソロンと黒狼隊の攻撃が次々に地亀ドラゴンに衝突していく。


 その度に地亀ドラゴンは動きを止める。

 地面に沈んだり吹き飛んだりして倒れた。


 俺もフォローの<煉極短剣陣>を繰り出す。

 <武装魔霊・煉極レグサール>の無数の赤い短剣が、地亀ドラゴンに突き刺さりまくる。


 相棒は俺の左後方に陣取った。


「ンン――」


 と鳴きつつ触手骨剣と魔雅大剣を振るい回し、魔王ザウバが闇炎の魔法陣から連射している闇炎の槍を切断し続けてくれた。


「相棒、ありがとう」

「にゃ~」


 相棒の声を聞きながら黒狼隊の動きが目に入る。

 素早く<血道・石棺砦>の石棺砦に退いていた。

 複数の地亀ドラゴンが黒狼隊を追うが、複数の石棺が動いてそれらの地亀ドラゴンを挟み撃ち、その直後、反転したパパス、リューリュ、ツィクハルが、迅速に地亀ドラゴンの頭部を潰して倒していた。


 更に、【魔雷教団】のオオツキさんと他の方々も攻撃魔法を放つ。

 黒狼隊とテンと協力して地亀ドラゴンを各個撃破していった。

 アクセルマギナも魔銃を石棺砦の陰から放ち、地亀ドラゴンの足を潰していく。

 すると、俺の周囲を飛び交う闇神アーディン様の神像の片目から放射状の魔力が魔雷教の方々に降り注ぎ始めた。


 闇神アーディン様の祝福だと思われる魔力か。

 ちゃんと見守っているんだな。

 信仰と血を捧げ続けた結果か。


 トマトさんに、己の命を粗末にするなと自分なりの倫理観で命令したが……魔界セブドラの倫理観を改めて考えさせられる現象だ。


 その間にも、数が多い地亀ドラゴンは、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスに向かう。

 魔王ザウバと地大竜ラアンを一時任せている黒虎ロロの動きを見ながら――。


 <鎖>と《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を、地亀ドラゴンに連射し続けた。

 地亀ドラゴンを五匹屠る。

 だが、地亀ドラゴンの数は多い。

 左右離れた位置にいたゼメタスとアドモスは二匹の地亀ドラゴンを倒すが、他の地亀ドラゴンの突進を受けてしまう。更に、地亀ドラゴンの牙と突進の攻撃を受けたが、骨盾で防ぐと後退。


 両者は背中を合わせた。

 と、その背中を合わせたゼメタスとアドモスを守るため――。


 再び、フォローの左手首の<鎖の因子>から<鎖>を出す――。

 直進した<鎖>は地亀ドラゴンの胴体を貫いた。


「グァァ」


 悲鳴を発した地亀ドラゴンの頭部を《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》で狙う。

 ピンポイントで頭部ごと地亀ドラゴンの上部を切り刻んだ《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》は背後の地亀ドラゴンの二体の足を地面もろとも切断、地形を変えた。


「「――閣下、ありがとうございます!!」」


 反撃の機会を得たゼメタスとアドモスは反転し、相対した地亀ドラゴンに袈裟斬りを繰り出す。

 ゼメタスとアドモスは二体の地亀ドラゴンの太い胴体を斜めに斬る。


 と、前進したゼメタスとアドモスは骨盾を振るい上げた。


「ギャオォォ」


 まだ生きていた地亀ドラゴンの頭部をシールドバッシュで粉砕して倒す。

 更に前進を開始。フォローの<鎖>は消す。

 そのゼメタスとアドモスの真上の宙空をフィナプルスとアドゥムブラリが飛翔。

 左右斜め前方にいた地亀ドラゴンを急襲――。

 ゼロコンマ数秒の間で、地亀ドラゴンをそれぞれの得物で仕留めた。


 その間にも、背後から闇炎の槍が切断されまくる音が響く。


 闇炎の魔法陣から闇炎の槍を連射しまくる魔王ザウバの魔力は無尽蔵――。

 その闇炎の槍を繰り出し続ける魔王ザウバを乗せた地大竜ラアンは、俺の背後を守る相棒の動きを崩そうと狙っているのか、俺たちの左側から、俺の背後を取ろうと移動していく。


 【闇雷の森】の樹木が打ち倒され、根っこの多い地面が地ならしされていった。


 その間にも、魔王ザウバは頭上に炎の槍を浮かせて両手を組みながら、闇炎の魔法陣から闇炎の槍を生み出し続けていた。


 ただの闇炎の槍なら楽なんだが、物理属性がかなり強いから厄介だ。

 相棒と一緒に、俺たちに集中してくる闇炎の槍を対処しつつ――。


 半身の姿勢から、魔王ザウバと地大竜ラアンを見るように反転し、水神ノ血封書を左手に召喚――。

 俺と相棒は足下の月虹を従わせるような加速で前に出た。


 魔王ザウバが己の前と地大竜ラアンの前に展開させている闇炎の魔法陣を凝視しながら――。

 その魔王ザウバと地大竜ラアンに向かう。


 黒虎ロロが触手骨剣と魔雅大剣で、飛来が激しくなった闇炎の槍を両断しまくる間に――。


 魔槍杖バルドークに魔力を通す。

 魔槍杖バルドークの柄の内から竜の鱗が生まれ出る。

 柄の一部が竜鱗の柄となった。そのまま<柔鬼紅刃>を発動――。

 瞬く間に嵐雲の形をした魔槍杖バルドークの穂先は紅矛と紅斧刃へと変化を遂げる。

 と、魔竜王らしき咆哮が魔槍杖バルドークから轟いた。

 更に柄の表面に『呵々闇喰』の文字が刻まれ、その真上に柄に刻まれた『呵々闇喰』と同じ魔法文字が立体的に浮き上がる。


「ロロ、次の闇炎の槍は俺が潰す――」

「にゃ」


 黒虎ロロは左に移動しながら闇炎の槍を切断しつつ、皆が倒し損ねていた地亀ドラゴンに特攻。俺に空きスペースを提供してくれた。

 同時に俺に来る闇炎の槍と、その背後の闇炎の魔法陣と地大竜ラアンと魔王ザウバを凝視。

 そのまま槍圏内に入った闇炎の槍に向け――。


 お洒落な魔槍杖バルドークを握る右腕で正拳突きを行うように<刺突>を繰り出した。

 ――紅矛が闇炎の槍の中心を裂いて一気に両断――。

 右腕と魔槍杖バルドークが前に伸びきったが、その右腕を引く。


 柄の握りを変えた。紅斧刃が上向く。

 微かな金属音が魔槍杖バルドークから響いた。

 次に、二つの闇炎の槍が飛来してくる。

 そのタイミングに合わせて上向いた紅斧刃を活かすように――。

 闇炎の槍を打ち返すイメージで、いち、にの、さん――と魔槍杖バルドークを振り上げた。

 豪快なアッパーカットのような紅斧刃が闇炎の槍を下から捉えた。

 そのままへし折る。


 直ぐに魔槍杖バルドークの柄を振り下げた。

 次の飛んできた闇炎の槍を、竜の鱗が目立つ柄で豪快に破壊――。


 衝撃で『呵々闇喰』の魔法文字が歪む。

 同時に魔槍杖バルドークから不気味な笑い声のような金属音が響くと、闇炎の槍の破片が連続的にぶつかってくる――。

 ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装・甲冑にその破片がぶつかる度に変わった音が響いた。

 笑い声と衝突音のリズム音楽となる。心臓の鼓動音も響かせ始めた魔槍杖バルドークだったから、不思議なオーケストラとなった。同時に魔槍杖バルドークから何かが伝わってきて力が漲ってくる。


 やはり、この魔槍杖バルドークは凄い武器だ……。

 『呵々闇喰』の意味が分からないが、何か重大な意味がありそうだと思わせる。そう思いつつ<水血ノ混沌秘術ウォーターブラッド・シークレットアーツ>を意識。


 次に飛来してくる闇炎の槍には――。

 【魔雷教団】の守りに回していた二体の<光魔・血霊衛士>を向かわせた。


 血霊衛士は迅速に駆けた。

 無言のまま長柄の棍を前方に突き出す<血穿>を繰り出す。

 血濡れた杭で――闇炎の槍の穂先を裂いて真っ二つ。

 二つの闇炎の槍だった塊は血霊衛士の甲冑と衝突したが、血の甲冑には傷はない。

 血飛沫が僅かに飛んだのみだ。


 その<光魔・血霊衛士>の二体をゼメタスとアドモスのフォローに回す。と、四つの闇炎の槍が飛来――。

 魔槍杖バルドークを振るい<豪閃>を繰り出した。

 二つの闇炎の槍を豪快に破壊。

 <水血ノ断罪妖刀>を発動――。

 水神ノ血封書から吸血神ルグナド様の血と水神アクレシス様の水が融合した水血の太刀が出現。


 俺の<血魔力>も合わさっているだろう、その神々しい水血の太刀を思念で振るった――。

 水血の太刀から真一文字の剣閃が迸る。

 そのまま<水血ノ断罪妖刀>から四つの剣閃が飛び出た。


 一の水血の太刀の真一文字の剣閃は、闇炎の槍を切断――。

 二の水血の太刀の袈裟斬りの剣閃も、闇炎の槍を切断――。

 三の水血の太刀の逆袈裟斬りの剣閃は、闇炎の魔法陣が守る地大竜ラアンと魔王ザウバに向かう。


 四の水血の太刀の垂直斬りの剣閃は、地亀ドラゴンに直進し、両断。背後の樹木を複数切断しながら何処かに消えた。

 五つの水血の太刀の逆垂直の剣閃は、他の地亀ドラゴンごと樹と複数の樹木モンスターを切断しまくって【闇雷の森】の丘を削り、地形を変化させた。


 一と二の水血の太刀の剣閃と――。

 三つ目の逆袈裟斬りの剣閃は魔王ザウバと地大竜ラアンを守っていた闇炎の魔法陣を切断し、地大竜ラアンに向かった。


 六つの眼球を有した魔王ザウバは――。


「血の魔刃が<闇神・魔炎烈把槍陣>を斬るだと!?」


 驚きながら地大竜ラアンの頭部から跳ぶ。

 魔王ザウバが語る魔界セブドラの言語は、サシィたちやバーソロンとはかなり異なるが理解できた。


 その魔王ザウバは地大竜ラアンの頭部の前で炎の槍を持つ三本の腕を振り下げた。

 二つの水血の太刀の剣閃と、その赤紫色に燃えている炎の槍が衝突――ザウバが持つ炎の槍から金切り音が響く。

 同時に水血の太刀の剣閃と炎の槍の柄から無数の火花のような魔力が散った。

 魔王ザウバは、


「グォォ、なんだ、この重く得体の知れん魔刃は、血と水? 神界に魔界の――」


 と言いかけたところで一つの水血の太刀の剣閃の方向がズレると、魔王ザウバの足へと向かい、その足を切断して地面と激突。


 もう一つの水血の太刀の剣閃は魔王ザウバの脇腹を切断しながら地大竜ラアンに向かった。


 魔王ザウバは「うぎゃぁぁ」と悲鳴を発して吹き飛ぶ。

 ほぼ同時に真一文字の剣閃と水血の太刀の逆袈裟斬りの剣閃は、地大竜ラアンの鉤爪と衝突。

 その鉤爪ごと豪快に地大竜ラアンの両腕を両断し、地大竜ラアンの胴体に×印と一閃の深い切り傷を与えた。<水血ノ断罪妖刀>の三つの水血の太刀の剣閃を浴びた地大竜ラアンは、その体内が爆発すると、衝撃波も発生したように血飛沫を噴出させながら仰け反った。


「グァァ――」


 地大竜ラアンは悲鳴を発しながら体勢を持ち直そうとしている。

 が、体の内部から幾度となく爆発音が響く。

 その度に体勢が変化して、転がった。

 無数の樹木が薙ぎ倒される。

 その周囲に地大竜ラアンの紫色の血と鱗と肉が散っていく。


 地大竜ラアンは倒せそうだ。

 一方の魔王ザウバは、炎の槍を消していたから、まだ余力はあるだろう。

 その魔王ザウバ目掛けて――。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>を五発発動。


 魔王ザウバとの相性はいいはずだ。


「相棒、地大竜ラアンは俺がやる。魔王ザウバの相手をしていてくれ――」

「ンン、にゃ――」


 相棒の返事を聞きながら地大竜ラアンに直進――。


 血塗れの地大竜ラアンは重たそうなティラノサウルスと似た頭部を上げる。


 その口から、


「グォァァァァ――」と気合い溢れる声を発した。


 口に炎と稲妻と漆黒の魔力を有した岩石を集積させる。

 ゼロコンマ数秒も経たせず巨大な塊を生み出して、それを飛ばしてきた。


 マジか――と咄嗟に左手を巨大な塊に向けた。

 <闇穿・魔壊槍>か<空穿・螺旋壊槍>を繰り出すか?

 二体の<光魔・血霊衛士>と一緒に<鬼神・飛陽戦舞>を繰り出すか?


 地大竜ラアンは巨大な塊を吐きながら健在な後ろ脚で後退する。


『――閣下、わたしが出て巨大な塊を打ち返しますか?』

『俺が対処しよう。万が一に備えて、出て俺の背後に回ってくれ』

『はい――』


 左目から液体ヘルメが飛び出していく。

 <闇穿・魔壊槍>は止めておくか。

 さすがに――この規模の塊をくり抜いても、礫となったら背後の皆に被害が出る恐れがある。


 一瞬で《スノー命体鋼・コア・フルボディ》を発動させながら――。

 <王氷墓葎の使い手>の恒久スキルを意識。


 水神ノ血封書を消す。

 王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードを左手に出現させた。


 そのまま神遺物の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードに魔力を注ぐ。

 続けて、俺に迫る隕石メテオのような巨大な塊に向け――。


 王級:水属性の《王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤード》を発動――。


 左腕の前方が氷の静寂が支配した。


「おぉ! 閣下の王級、否! 神級の大魔法、《王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤード》!!」


 背後にいるヘルメの声が響く。

 同時に注連縄を腰に巻く子精霊デボンチッチが出現し、王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードの頁を捲っていく。


 捲られる度に、梵字が宙空を踊っていた。


『善美なる氷王ヴェリンガー、融通無碍ゆうずうむげの水帝フィルラーム、流れを汲みて源を知る氷皇アモダルガ、魂と方樹をたしなむ氷竜レバへイム、白蛇竜小神ゲン、八大龍王トンヘルガババン――――霄壌の水の大眷属たち、知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。水垢離みずごりの清浄と栄光は水の理を知る。が、大眷属の霊位たちは、白砂はくしゃと白銀の極まる幽邃ゆうすいの地に、魔界のガ……封印された。その一端を知ることになれば、火影が震えし水の万丈としての墳墓の一端が現世うつしよに現れようぞ。が、雀躍じゃくやくとなりても、その心は浮雲と常住坐臥じょうじゅうざがだ。魔界セブドラも神界セウロスもある意味で表裏一体と知れ……何事も白刃踏むべし』


 冷気がびゅうと谺する。

 巨大な氷の墓標を伴う氷の道が、巨大な塊と衝突。

 氷の墓標と氷の道が巨大な塊を打ち上げた――。

 宙空で巨大な塊は割れると、氷の新たな墓標となって凍り付く。

 《王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤード》の氷の道は連なりながら、背後に退いていた地大竜ラアンと【闇雷の森】に衝突――。

 地大竜ラアンは【闇雷の森】の一帯ごと凍り付く。


 その凍り付いた地大竜ラアンに向け突進――。

 <血道第六・開門>を意識――。

 そして、恒久スキル<血道・九曜龍紋>を意識、発動――。

 そのまま地大竜ラアンに近付くと、体から<血魔力>が大量に噴き上がる。

 それらの<血魔力>は龍の群れと化した。


 血の錫杖にも血の龍が絡む。

 血の龍は地面ごと空域に浸透し、立体的な九曜紋の魔法陣が俺の周りに展開された。

 魔法陣から血の龍が噴き上がる。

 俺が前進する度に、周囲の凍り付いた地面はその血の龍を生み出している魔法陣に抉られていった。

 魔法陣から噴出している血の龍が、凍り付いた地面と樹木を喰らうように周囲に展開していく。


 刹那――。

 <血道第五・開門>の光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装に複数の血の龍が付着。

 血の龍の装甲を新たに得た。

 血の錫杖の穂先が幅広の刃に変化。

 青龍偃月刀、否、血龍偃月刀となる。


 そのまま血龍偃月刀と化した血の錫杖で――凍り付いた地大竜ラアンに<血穿>を繰り出した。


 血龍偃月刀の穂先から――。

 九つの血の龍の幻影が飛び出た。

 九つの血の龍の幻影が、地大竜ラアンの凍った頭部を溶かす。そのまま血龍偃月刀の穂先が地大竜ラアンの頭部を覆っていた溶け掛かっている氷ごと貫いた。


 地大竜ラアンの胴体は血の龍に触れた影響か、内臓が溶けるように消失すると骨だらけとなった。と、その中に出現した複数個の極大魔石と巻物が骨と合わさって落下。


 足下の<血道・九曜龍紋>の血の九曜の魔法陣が崩壊を始める。

 が、その魔法陣から出ていた九つの血龍が咆哮を発しながら血龍偃月刀と化した血の錫杖と重なって直進。


 直進した九つの血龍は【闇雷の森】の樹木を薙ぎ倒す。

 まだそこに棲息していた複数のモンスターと地亀ドラゴンを屠りながら上昇し、宙空で互いに喰らい合う。

 と、大爆発を起こす。空に血の龍の雲を創るように血の龍雨となっては、【闇雷の森】に降り注いだ。

 血の雨の中には、龍の他、<血道第六・開門>を意味するだろう<血道・九曜龍紋>の九曜門の幻影が発生している。


 ピコーン※<血道・九頭龍異穿>※スキル獲得※


 素早く前進して――。

 <血道第五・開門>の<血霊兵装隊杖>の甲冑を消した。

 まだ<血道第六・開門>の効果が続いているのか、血の龍の防御層が血の龍の防護服となったが――。

 右肩を中心に肩の竜頭装甲ハルホンクの衣装を展開させた。


「ハルホンク、極大魔石は喰ってもいい。が、回収を多めにな? それと、和風の巻物は俺が回収する」

「オォ、ングゥゥィィ!!」


 いつもよりテンションが高い肩の竜頭装甲ハルホンクは衣装の一部を銭差しのように青白い炎の繊維で連なっている玄智宝珠札と棒手裏剣に変化させる。

 その連なった玄智宝珠札と棒手裏剣で極大魔石を回収。俺も和風の巻物をアイテムボックスに回収。


 肩の竜頭装甲ハルホンクが極大魔石を吸収したからか、一気に俺も魔力を得た。

 地大竜ラアンといい、結構な魔力を得たことなる。


 さて――。

 皆と激戦を繰り広げている魔王ザウバは生きている。


 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>の網を潜り抜けていたようだ。


 弱点の属性だと思うが、それを凌げる強さを持つということだ。


 <性命双修>――。

 <滔天内丹術>――。

 <光魔血仙経>――。

 を意識し、<滔天内丹術>を強めに発動。


 ※性命双修※

 ※戦神流命源活動技術系統:神仙技亜種※

 ※大豊御酒、神韻縹渺希少戦闘職業、因果律超踏破希少戦闘職業、高水準の三叉魔神経網系統、魔装天狗流技術系統、義遊暗行流技術系統、九頭武龍神流<魔力纏>系統、霊纏技術系統、<魔手太陰肺経>の一部、<魔闘術>系技術、<水月血闘法>、<経脈自在>、戦神イシュルルの加護、<滔天仙正理大綱>が必須※

 ※使い手の内分泌、循環、神経、五臓六腑が活性化※

 ※己の魄と魂の氣が融合※

 ※魔力と精神力と精力が倍増することで、高密度の魔力操作と酒類の功能と心身の潜在能力の開発を促す修練力が上昇する※

 ※あらゆる異性が興味を持つフェロモンを放つようになる※

 ※戦神イシュルルの秘技の一つ※


 ※滔天内丹術※

 ※滔天仙流系統:恒久独自神仙技回復上位スキル※

 ※戦神イシュルルの加護と<水神の呼び声>と<魔手太陰肺経>の一部が必須※

 ※玄智の森で取り込んだ様々な功能を活かすスキル※

 ※体内分泌などが活性化※

 ※<闘気玄装>、<魔闘術の仙極>、<血魔力>の魔力が呼応し効果が重なる※

 ※回復玄智丹、万仙丹丸薬などの分泌液と神経伝達物質が倍増し、それらが全身を巡ることにより飛躍的に身体能力が向上し、<魔闘術>と<闘気霊装>系統も強化され、魔力回復能力も高まる※

 ※<経脈自在>で効果倍増※


 <性命双修>はサシィとの一戦でも大いに活躍した。


 深呼吸を行う――。

 ――<血道第六・開門>を解除。

 同時に錫杖の音が響く。

 青龍偃月刀を彷彿とさせる魔槍グドルルと似ていた血龍偃月刀が普通の血の錫杖も元通り。


 素早く右手に<武装魔霊・煉極レグサール>を召喚。

 勿論、煉極レグサールの魔槍バージョンだ。

 左手の白蛇竜小神ゲン様のグローブを、白蛇竜小神ゲン様の短槍に切り替えた。


 魔王ザウバは皆の集中攻撃を受けながらも生きていた。

 相棒の触手骨剣と魔雅大剣の連続攻撃を闇炎の槍と己の炎の槍で防いだ魔王ザウバ。


 その魔王ザウバに<魔矢魔霊・レームル>の複数の魔矢が向かう。


 アドゥムブラリの両手には赤く光る魔弓があった。


 魔王ザウバは後退し、「そのような魔矢など!」と言って口から蜃気楼のような靄を吐き出すと、複数の魔矢は靄の中で消えた。


「ふふ――」


 ビュシエの微笑む声が周囲に谺――。

 微かに「<血道・――」とスキル名が響いたような気がした次の瞬間――魔王ザウバの背後にビュシエが出現。


 そのビュシエが振るった<血魔力>のメイスが、魔王ザウバの背中にクリーンヒット。


「フゲァァァ――」


 魔王ザウバは反応どころか背骨ごと胴体がへしゃげながら、俺の方に突っ込んできた。


 好都合――。


「ナイスだビュシエ! そして、ザウバとやら、adiosアディオス!」


 煉極レグサールの魔槍に<血魔力>を送る。

 そのままノーモーションで<血龍天牙衝>を繰り出した。


 煉極レグサールの魔槍から――<血魔力>と稲妻が融合したような魔力と複数の血の龍が迸る。

 その煉極レグサールの魔槍の穂先が、飛来してきたへしゃげている魔王ザウバを貫いた。

 魔王ザウバは回復する間もなく――。

 <血龍天牙衝>の影響で青白い炎を発して消えた。


 すると、魔王ザウバが装備していたベルトと闇の炎の塊に炎を発していた魔槍が地面に転がる。


「「おぉぉ」」

「閣下とビュシエ、見事な連携です!」

「ふふ、シュウヤ様のお陰です!」


 

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