千五十九話 【魔雷教団】と【闇雷の森】


 魔雷教の先頭にいた黒頭巾を被る方が足を止める。

 その黒頭巾を被るリーダー格と思われる方が仲間の動きを止めるように両手を左右に広げていた。

 そして、


「皆、止まれ、サシィ様だ。サシィ様が居られる」


 魔雷教の方々は動きを止めた。

 まだ俺たちと距離がある。

 と、魔雷教の一人が腕を上げて、


「おぉ! 槍の稽古だろうか。魔英雄様たちも居られるぞ!」

「「――本当だ」」


 魔雷教の方々は驚きの声を発して闇神アーディン様の神像を見上げながら、


「闇神アーディン様の神像にあった魔力が薄まっている……」

「サシィ様たちが闇神アーディン様の神像に何か儀式を行ったのか?」

「状況的にそうだろう」

「サシィ様は槍武術を扱うが、魔雷教団の教えには興味がないと思っていたが……」

 

 魔雷教の方々は不安そうに発言。

 一部の先頭集団が歩いて寄ってきた。


 その一部の魔雷教の方々の衣装は源左の戦装束とは異なる。


 具足帷子と小具足に円頂黒衣を合わせたような戦闘装束。

 渋いが、破戒僧的。

 魔雷教の正式な衣装なのかも知れない。


 すると、足下にいた黒猫ロロと魔皇獣咆ケーゼンベルスが少し前に出て、


「ンン、にゃおぉぉ」

「ウォォン!」


 魔雷教の方々に挨拶している。

 その挨拶を行った黒猫ロロが、一瞬でムクムクと体を大きい黒獅子に変化させた。


「にゃ~」

「「「「おぉ」」」」

「バゥォン!」


 黒獅子ロロディーヌの誕生に大半が驚愕。

 鬣は雄ライオンのように生えているから立派だ。

 声は猫で可愛い。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは大型犬が驚いた時のような鳴き声を発していた。


 アクセルマギナにアドゥムブラリなどセラ組に驚きはないが、魔界組のビュシエやバーソロンは魔雷教の方々と同じく驚いていた。

 

 すると、


 ヨモギ、ケン、コテツの黒い狼たちが魔皇獣咆ケーゼンベルスと黒獅子ロロディーヌの背後に並びながら、魔雷教の方々に頭部を向け、


「「「――ウォォン!」」」


 と鳴いていた。

 サシィは振り返らず、細長い左腕を横に伸ばし、


「――神獣様とケーゼンベルス様、私に任せてください」


 と言いながら全身から<血魔力>を発した。

 相棒とケーゼンベルスは、


「にゃ」

「分かった」

 

 と鳴き、発言して、動かず。

 サシィは俺たちに背中と黒髪を見せながら左手に魔斧槍源左を召喚。


 その左手の掌の中で魔斧槍源左を回転させながら左腕を上下させる。

 魔斧槍源左はサシィの腕の周りを螺旋回転しながら上った。

 その柄は左腕の小具足の表面に吸着されているようにも見える。


 魔斧槍源左は落ちない。


 サシィは髪の毛を靡かせながら半身の姿勢に移行すると、左足を前に出し動きを止めて――。


 左の二の腕を魔斧槍源左の柄に乗せ、左脇と背中で魔斧槍源左の柄の後部を押さえつつ――右手で逆輪を上から握り、細い右腕全体で魔斧槍源左の柄を押さえるように回転を止めていた。


 斜め下の地面に触れそうな魔斧槍源左の斧刃が薙刀にも見える。

 矛もあるから片鎌槍にも似ているか。


 源左斧槍流の槍の構えは美しい。

 風槍流や豪槍流に近いかな。


 ま、槍武術は共通点が多い。

 

 斧槍の動かし方は<山岳斧槍・滔天槍術>とも少し似ている。

  

 そのサシィは体に纏う<血魔力>を試すように――。

 両腕と全身から<血魔力>を発した。

 その<血魔力>で魔斧槍源左を覆った。


 その魔斧槍源左を右手一本で持ち上げる。 

 穂先を魔雷教の方々に差し向けた。


 魔斧槍源左から<血魔力>の血の炎が噴き上がった。

 紅炎の如く宙空に放出される<血魔力>は綺麗だ。


 その揺れる紅炎のような<血魔力>の端から細かな蛍の形をした<血魔力>が儚く散っていた。


 サシィの黒髪からも血の蛍が現れては消えていく。

 幻想的だ。



 血の蛍はサシィの<魔闘気>で<魔闘血蛍>だろう。

 紅炎と血蛍を発している<血魔力>の根元は血の龍たちが密集しているようにも見えた。


 サシィが<血道第一・開門>の技術をマスターした証拠。

 戦闘職業も元源左の者らしく<血龍炎蛍魔斧槍師>に進化を果たした。


 そして、元々槍武術が巧みなサシィが、処女刃の儀式を完了させた時に、<血穿>、<斧槍血突>、<斧槍螺旋源左血衝>、<血龍源左・斧槍舞>など多数の槍スキルを獲得していることはエッチの最中に何度も聞いている。


 【源左サシィの隠れ洞窟】の奥にある【源左魔龍紋の祠】に俺と一緒に訪れたいとも言っていた。今度向かう予定だ。


 サシィは【源左蛍ノ彷徨変異洞窟】に付いても封印の間があり、今の私なら進めるはずとも語っていた。

 【コツェンツアの碑石】と【開かずのゲイザー石棺群の間】のことはサシィは知らず。コツェンツアは魔槍と関係があると思うから調べる予定だとサシィには告げてある。

 そして、【源左ミーロの墓碑】、【源左ゼシアの命秘道】は、詳しくは知らないが、祖先と関係しているとサシィは語っていた。


 【緑王玉水幢ノ地下道】は戦旗と関係があるようだ。

 【源左喜平次の石碑】は、源左の者の最終的な脱出用通路だとも教わった。これは絶対の秘密だと教えてくれたが、可愛かった。


 それらのことを思い出していると、悶えるサシィを……。

 イカン、自然と一物に<血魔力>が集結し勃起しかかった。

 我慢だ。

 

 そのサシィは、


「オオツキに魔雷教の者たち、慌てるでない」


 そう諭す。


「サシィ様が、闇神アーディン様の神像に祈祷を?」

「行っていないが、祈祷をしたと言えるかもだ」


 サシィがそう発言。


「……サシィ様と魔英雄殿に皆様方が、闇神アーディン様の神像に何かをしたのか!」


 魔雷教の一人がそう聞いてくる。

 サシィは魔斧槍源左を下ろして、


「……シュウヤ殿は闇神アーディン様と関係したアイテムを持っていたのだ。そのアイテムを使用し、闇神アーディン様の神像に魔力をそそいだ結果、この場に闇神アーディン様の幻影が降臨こうりんして邂逅かいこうを果たした。そして、にわかには信じられない思いだが……闇神アーディン様と会話を行ったのだ」

「「「おぉぉ」」」


 魔雷教の方々から喜び半分驚き半分の声が上がる。

 怒ってはいないようだ。


 魔雷教の先頭集団の何人かが前に出て、


「では、魔英雄シュウヤ様は我ら【魔雷教団】の〝魔槍雷飛流の教え〟をマスターしている神々と会話が可能な〝魔雷武法大師〟でも在らせられるのか!?」

「おぉ、それが本当ならとんでもないことだぞ!」

「オオツキ様、魔雷教の伝説は真だったのですね!」


 背後の魔雷教の方々が叫ぶ。


「あぁ、【魔雷教団】の古文書には、真夜を齎す〝闇神アーディン様の御使い〟、〝魔槍雷飛流の教え〟をマスターしている〝魔雷武法大師〟、〝魔雷戦使〟、〝闇神大雷僧〟が現れるであろうと記されていたが、その通り! 同時に、我らの祭祀の祈祷が闇神アーディン様に通じたということだろう。無駄ではなかった」

「「「はい!」」」

「魔英雄シュウヤ様は、魔界王子テーバロンテを滅し、この地方に数千ぶりの真夜の時代を齎してくれた偉大なお方ですからね!!」

「おおぉ、では、宿願が……数百年前に少人数で宿願に挑んだロクザエモン殿たちは討ち死にしたと聞いたが、我らの宿願、闇の古寺の奪還が叶うのか!」


 オオツキさんは、期待溢れる笑顔を見せてから、俺を凝視して、


「――叶うはずだ。闇神アーディン様の御使い様ならば、闇の古寺の奪還をしてくださるだろう。地下祭壇の精霊棚と闇泉の穢れも浄化できるはずだ」


 浄化?

 闇神的に、浄化は似合わないが、まぁ他の神々や神に近い能力を持つ存在に浸蝕されたらしないとか。


「おぉ……しかし、闇雷の森と闇の古寺には……モンスターが多い」

「あぁ。更に地大竜ラアンを筆頭に地亀ドラゴンを多数従えている闇烙あんかく魔王ザウバが森を占拠している」


 闇烙あんかく魔王ザウバ?

 思わずサシィを見た。

 

 サシィは『知らない』と言うように頭部を左右に振って、


「……【ローグバント山脈】と【ベルトアン荒涼地帯】の間の森には、危険なモンスターが多い。奥座敷の庭でもある源左斧槍山には鉱脈があるから、ある程度調べ尽くされているが、【ローグバント山脈】と地続きで、かなり広大な土地だからな」


 と語る。


 地元の者ですらあまり調べていない【源左蛍ノ彷徨変異洞窟】、【緑王玉水幢ノ地下道】、【コツェンツアの碑石】、【開かずのゲイザー石棺群の間】、【源左ミーロの墓碑】、【立花弦斎の羨道】、【源左ゼシアの命秘道】などの遺跡に迷宮の出入り口があるからな。


 【マーマイン瞑道】も知らなかったんだ。当然だろう。


 魔雷教の方は、


「……周囲からマーマインは消えたと思うので楽になったとは思いますが、闇雷の森の道中は【ベルトアン荒涼地帯】と【レムラー峡谷】にも近く……ナーガ・ロベが率いるベルトアンの遊撃部隊に遭遇するかも知れない。更に魔王ベルトアンが出てきたら大変なことになります。レムラーから流れてくるモンスターも多いです」

「ふむ、難題は多い。だからこそ、闇神アーディン様は、魔英雄シュウヤ様を我らの祈祷に応える形で寄越してくれたのだろう!!!」

「「「おぉ」」」


 魔雷教の方々は勝手に盛り上がっている。

 そのリーダー格のオオツキさんは、


「――皆、〝燔祭はんさいの儀式〟の準備を整えようぞ! 勿論、とっておきのバンデラ古代樹を使う。源左古代黒宝樹に源左黒樹もだ!」

「「「はい」」」

「オオツキ様、では……ついに私の体を……」


 端にいた女性がそう発言。

 ショートカットな髪形で剃髪ていはつはしていない。

 

「そうだ、トマト。闇の古寺を取り戻した暁には、そこで、【魔雷教団】と闇神アーディン様のために人身御供ひとみごくうとなってもらう」

「はい」


 トマトさんを人身御供!?

 

 生贄いけにえはだめだろう。

 魔界らしいが、魔雷教は邪教の類いか?


 大柄の頭巾を被っているオオツキさんの額に盛大な空手チョップを浴びせたい思いで、ビュシエたちと顔を見合わせた。

 

 ビュシエは<血魔力>でメイスを創りつつ、複数の石棺を俺たちの頭上に展開させた。


 ヘルメも少し機嫌が悪くなったのかオオツキさんを睨む。

 同時に、少し浮いている足下に複数の《氷槍アイシクルランサー》を生み出していく。


 サシィは少し慌てて、


「えっと……魔雷教、否、【魔雷教団】の皆にオオツキ、落ち着け。そして、源左の主として、如何いかなる理由があろうとも生贄は許さない。そこのトマトとやらも、源左の民なのだからな。勝手に死ぬな。生きることが重要。そして、まずはシュウヤ殿から説明を聞くべきだろう」


 サシィはそう発言して俺を見る。頷いた。

 すると、魔雷教団の一人が、


「サシィ様、【魔雷教団】が正式名ですが、魔雷教でも通用します故、構いませぬぞ」

「分かった」


 ヘルメとアドゥムブラリとビュシエと一緒に前に出た。

 闇神アーディン様は魔雷教と呼んでいたが……。

 ま、ツッコミはしない。

 その【魔雷教団】の皆に、


「オオツキさんと魔雷教の方々、生贄の件は俺も反対だ。そして、闇神アーディン様の件を説明したい、聞いてくれるか?」

「「「はい!」」」


 オオツキさんたちは一斉に返事をすると、静かになった。


「……俺の称号の効果で、その〝魔雷武法大師〟の役割を担えるのかも知れない。しかし、皆の【魔雷教団】を知ったばかり、闇神アーディン様の御使いになった覚えもない。そして、神像の前に闇神アーディン様が降臨した理由は、闇神アーディン様が祝福した<武装魔霊・煉極レグサール>を持っていたからだ」


 魔雷教団の方々に煉極レグサールの魔槍バージョンを見せた。


「「おぉ」」

「闇神アーディン様と関わる魔槍を……」

「……やはり、覚えがなくとも魔英雄シュウヤ様は……」

「オオツキ様……シュウヤ様はやはり……」

「あぁ、シュウヤ様は我らを知らずとも、闇神アーディン様が認めた魔槍雷飛流の教えを受けている。魔界王子テーバロンテとマーマインを倒し源左を救った魔英雄なだけはある……」


 【魔雷教団】の方々がそう発言。


「この煉極れんごくレグサールの魔槍以外にも理由はある。俺は過去、惑星セラで活動していた魔蛾王ゼバルの魔界騎士デルハウトを救った。その魔界騎士デルハウトを俺の眷属けんぞく、光魔ルシヴァルの眷属の光魔騎士として迎え入れる時に、闇神アーディン様の幻影と邂逅かいこうを果たしている。闇神アーディン様をデルハウトは信奉していたようだな。その闇神アーディン様は、俺の魔界騎士としてデルハウトを認めてくれた。そして、ここに到着した際にも、この闇神アーディン様の神像は俺に反応を示していた」


 皆の目の前で煉極レグサールの魔槍から大剣に、そして長剣に変化させた。


「「おぉ」」

「武装魔霊!」

「この<武装魔霊・煉極レグサール>の大剣を出した直後、闇神アーディン様の神像は、俺たちがここに来た直後と同じ反応を示したが、その後はうんともすんとも、何も起きず。だから直に闇神アーディン様の神像へと魔力を送れば何かが起きるかな。と予想してから皆と話し合った。その話し合いの中には闇神アーディン様の神像に魔力を送ったら魔雷教の方々の怒りを買うのではないか? といったような会話もあったんだが……」


 そう語りながら、サシィに笑みを送る。

 サシィはその時の状況を喋ろうとしたのか、小さい唇が動いて喋りかけたが、俺は片腕を上げて、『喋らんでいい』と意思表示。サシィは頷いて黙る。


 魔雷教の方々は暫し呆然。


「「「……」」」

「奇跡だ……」


 泣き始める方が続出した。法涙か。

 怒られるかもと思ったが、違うようだ。魔雷教、【魔雷教団】の重鎮らしき僧侶っぽい方が、


「まさに<闇神験導・解>だろう」

「あぁ、<魔雷教・闇神霊応>の可能性もある」


 と語る。皆、泣きながらも、ざわざわ……ざわざわ……。

 となったところで、


「話を続けるぞ。闇神アーディン様は俺たちと会話を行うと、<武装魔霊・煉極レグサール>の大剣が、魔槍への変化が可能となるように促してくれた。俺の魔力との等価交換とも言っていたな。で、この……闇神アーディン様の神像の片目が浮いているように、闇神アーディン様から仕事を頼まれた。まぁ、仕事と言っても俺の強化に繋がることのようだから、闇神アーディン様からの啓示、または天命と呼べるか。あ、その仕事が、闇雷の森にある闇の古寺のことなのかもしれない」


 と説明。天命は言い過ぎたかな……。


「「おぉ」」


 魔雷教の方々は歓声を発した。

 そして、オオツキさんが、


「天命!」


 と叫ぶ。


 魔雷教の方々は、俺の周囲を漂っている闇神アーディン様の神像に嵌まっていた片目、目玉を凝視……。


 勿論、神像の片目だから素材的に本物の眼球ではない。

 が、本物の眼球のようなリアルな肉感部分に、魔宝石が濃い部分もある。

 

 その部分には、宇宙的な光景が繰り広げられているのが見えていた。

 闇神アーディン様の魔力も残っている。

 その闇神アーディン様の単眼球を掴む。

 魔力を込めると、漆黒と朱色に輝く魔線が迸った。

 魔雷教団の方々は一斉に、


「おおお! 闇雷の森の方角だ!」

「伝説の闇の古寺が今も残っている証拠! そして、シュウヤ様が闇神アーディン様の御使い様なのは確実!」

「「「おぉ――」」」


 オオツキさんに【魔雷教団】の方々が片膝で地面を突いて一斉に頭を下げた。


 サシィは、


「……オオツキ、伝説の闇の古寺がある闇雷の森は【ベルトアン荒涼地帯】の方角にあるのだな」


 と聞いていた。

 オオツキさんは頭を上げて、


「はい、【源左サシィの槍斧ヶ丘】の北側に拡がる【ローグバント山脈】の一部と言えましょう。厳密には源左斧槍山から地続きの【ローグバント山脈】と【ベルトアン荒涼地帯】と【レムラー峡谷】の中間に存在する小さい森が【闇雷の森】、その中に闇の古寺があるとされています。闇の古寺は伝説で、我らも実際には見たことがない。ですから、源左の者でも知る者は少数かと」


 と発言。

 魔雷教の方々は頷いた。


 その方々に向け、


「場所はだいたい分かった。では魔雷教の方々、頭を上げてくれ。闇神アーディン様の現象と、天命と言った手前、説得力は低いが、俺は光魔ルシヴァルで、闇神アーディン様の御使いではないからな? <闇神験導・解>なんてスキルもない」

「……はい」


 魔雷教の方々は頭を上げると……。


 常闇の水精霊ヘルメを見て歓声を上げる。


 更に、魔皇獣咆ケーゼンベルスとフィナプルスとビュシエとアドゥムブラリとバーソロンと光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスを見ていった。


 オオツキさんは、特にヘルメを何回も見ていた。


 ヘルメは鷹揚な態度のまま、自然体だ。


 すると、ゼメタスとアドモスが鎧皮膚の溝から魔力を噴出させる。


 やや遅れて、兜の槍烏賊が伸縮を繰り返した。


「ンン――」


 相棒が、その槍烏賊の伸縮に大反応。

 黒獅子ロロディーヌだから……。


「――ぬおぁぁ」


 アドモスが黒獅子ロロディーヌに押し倒される。

 頭蓋骨の兜の鍬形などを舐められまくっていた。


「「「おぉ~」」」

「ひぃぃ」


 【魔雷教団】の方々から歓声と一部悲鳴が聞こえてきた。

 その方々に、


「ヘルメを含めた皆が、俺の大眷属だ。そして、俺は<古代魔法>に<召喚術>系統は色々と覚えている」

「わたしは閣下の水、常闇の水精霊ヘルメですよ。オオツキ、生贄にするような儀式は許しませんからね」


 ヘルメがそう発言。

 オオツキさんは皆に会釈して、


「は、はい、分かりました」

「黒獅子タイプの神獣ロロディーヌに舐められている頭蓋骨の武者は光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスで、同じく大眷属と呼べる存在だ。昔からグルガンヌ地方の南東部に領地を持つ。闇神アーディン様の眷属ではない」


 光魔沸夜叉将軍となったゼメタスとアドモス。

 昔、骨騎士だった頃……。

 ミスティの兄ゾルから闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの原形の指輪を獲得したことから始まっているんだよな。


 ゼメタスとアドモスは体から魔力を噴出させてから、


「私は光魔沸夜叉将軍ゼメタス! 閣下の側近である。閣下が言われたように、闇神アーディンとは関係がない!」

「我は光魔沸夜叉将軍アドモス! その通り、閣下の大眷属である」

「分かりました」

「「は、ハイ!!」」


 魔雷教の方々は元気よく返事をしている。

 皆、ゼメタスとアドモスの喋りと魔力の噴出具合を見て、目を見張っていた。


 一種のアトラクションのようで、面白いからな。

 毎回だが、エラかスラスターのような部分から魔力が迸るさまは、見ていて飽きないし、楽しい。そして、何処となく落ち着く。


 これはあれか、焚き火効果か?

 焚き火を眺めているだけで、癒やし効果があるということをどこかで聞いた覚えがある。


「……話を戻すぞ。状況的に、この神像の片目が示す魔線の先は、闇雷の森にあると言われている闇の古寺で間違いなさそうだ。そして、闇神アーディン様は、『……フッ、できれば急いだほういい。お前のためにもなるはずだ。腰の魔軍夜行ノ槍業にいるシュリとの縁とも思え……そして、これが目印となろう――』と語っていた。だから、これから闇雷の森に移動し、その闇の古寺を調べる予定だ」

「――【魔雷教団】がお供致しますぞ」

「「ハハッ」」


 全員が頭を下げている。――サシィを見て、


「皆が付いていくと言っても、シュウヤ殿は闇神アーディン様の勅命を受けているが【魔雷教団】ではない。勘違いしないように。そして、繰り返すが、血や米を供物として捧げるなら分かるが、生きている源左の者の生贄は禁止だ。オオツキ、皆もいいな?」

「は、はい」

「「……」」


 サシィの言葉にオオツキさんは了承の返事を出していた。が、表情は納得していない。

 皆も納得はしていない面だ。


「そもそも〝燔祭はんさいの儀式〟とは? 闇雷の森にある闇の古寺でトマトさんの命を犠牲にして、代わりに何を得る? 闇神アーディン様の力か?」

「闇雷の森に結界が生まれ、闇の古寺で闇精霊などの闇神アーディン様の眷属が復活を果たすと言われておりまする……闇の古寺の奪還と眷属様の復活が叶う〝燔祭はんさいの儀式〟を行うことが、【魔雷教団】の宿願でした……」


 オオツキさんがそう語る。

 【魔雷教団】の方々が全員、頷くように頭を下げてきた。


 ユダヤ教で供えられた牛や羊を祭壇で焼いて神に捧げることをしていたのは知っているが……。

 

「トマトさんも、己の命を闇神アーディン様に捧げる思いで、今まで生きてきたのか?」


 トマトさんは、ガバッという勢いで頭部を上げて、


「はい!」


 と元気よく返事をしてくれた。


 その目の輝きが怖い。

 魔界セブドラの社会的に洗脳と呼べるのか分からないが、俺からしたら洗脳だ。

 本人的には幸せで、余計な世話で、間違っているのかも知れないが……。

 トマトさんには生きてほしい。その思いで、


「オオツキさん、俺を闇神アーディン様の御使いと思っているんだな?」

「はい!」


 オオツキさんの目の輝きも半端ねぇ。

 

「ならば、御使いとして命令しよう。今後、【魔雷教団】での〝燔祭はんさいの儀式〟は禁忌とする。その行為は、闇神アーディン様もお怒りになると知れ。そして、その代わりに闇神アーディン様の神像の片目が示す先にあるだろう、その闇の古寺の奪還を、この俺、闇神アーディン様の御使いが試みよう」

「おぉぉ、御使い様ァァ、このオオツキ、そのご指示に従いまする!! 皆もいいな!」

「「「――ハハッ」」」


 全員が頭を再び下げた。


「ふふ、閣下らしい導きです」

「はい、的確ですね。地大竜ラアンを従えている闇烙あんかく魔王ザウバが気になりますが、その者たちが立ちはだかっても、シュウヤ様と神獣様なら倒せるはず」

「私たちもいる」

「はい、<筆頭従者長選ばれし眷属>としての力を示すため、近隣地域の安寧に協力しましょう」


 石棺を操作しつつも両手に<血魔力>のメイスを生み出すビュシエの言葉は頼もしい。サシィも数度頷いていた。


 アドゥムブラリとツアンも笑みを見せつつ、


「あぁ、主だからこその闇神アーディン様の御使いとしての言葉だろう」

「そうですね、この展開を闇神アーディン様も見越していた?」

「この【源左サシィの槍斧ヶ丘】は初めてのようだったが、ありえるな。瞬時に土地を調べたような雰囲気で語っていた」


 皆頷いている。

 テンも、


「はい、闇神アーディン様の四眼には凄まじい魔力が内包されていた。魔眼のスキルも発動していたはずです」

「……わたしもですが、羅は体が震えていましたね……闇神アーディン様は恐るべき存在かと……」

「……ふん、羅も貂も闇神アーディンに怯えすぎじゃ。現状は味方で、たとえ敵となっても、器のように槍が巧みな、ルリゼゼのぱわーあっぷばーじょんと言ったところだろう。器なら<山岳斧槍・滔天槍術>でぶっ飛ばしてくれるはずじゃ。そして、器よ、いい語りじゃ。闇神アーディンの御使いとなることを許そう」


 沙のテンションの高い言葉を聞くと安心できる。

 それは羅も貂も同じ気持ちか、


「「ふふ」」


 と笑顔を見せてくれた。


「たしかに、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスのマスターらしい考えです。未開惑星の文明が相手でも、交渉は安心できそうです」


 アクセルマギナの言葉に頷いた。

 そして、頭を下げ続けている【魔雷教団】の方々に向け、


「分かってくれたなら嬉しい。皆さん、トマトさんも頭を上げてくれ」

「は、はい」


 双眸に魔力を込めて、トマトさんを凝視し、


「トマトさん、これからは命と体を大事にしてください」

「……ァ……御使い様……温かい言葉です。言われた通り、命と体を大事にします……」


 良かった。俺の<魅了の魔眼>も役に立つ。


「さて、フィナプルス、アクセルマギナ、ビュシエ、バーソロン、アドゥムブラリと黒狼隊は一緒に来てもらう。事が済み次第、バーソロンたちの眷属化の流れで行こうか。ヘルメ、左目に――」

「――はい」

「は、はい!」

「「「はい!」」」

「了解した」


 液体ヘルメを左目に格納。

 

「「「おぉ」」」


 【魔雷教団】の方々は俺の左目を見て驚き、また片膝で地面を突く。


「友よ、我は【ケーゼンベルスの魔樹海】に一時戻って縄張りを見て回りたい。だから、これを――」


 すると、

 ケーゼンベルスの耳に嵌まっていた魔皇獣耳輪クリスセントラルが振動を起こし、小さい耳輪がそこから誕生した。


 その耳輪が俺の手元に飛来した。

 それを掴み耳に嵌める。


「それを装着しておけば我の言葉だけだが、主に通じる」

「分かった。肩の竜頭装甲ハルホンクに格納させても大丈夫かな」

「う、うむ」


 肩の竜頭装甲ハルホンクの口に当てると一瞬で消える。

 意識したら、耳に出現した。その直後、


『――我ノ、言葉ガ、通ジルカ!』

『きゃ』


 ケーゼンベルスの思念がダイレクトに心、脳内に響いた。

 左目にいるヘルメにもケーゼンベルスの思念が聞こえたのか、驚いていた。


 試しに『ケーゼンベルス、聞こえるか!』と思念を送る。


 が、届いていないようだ。


『ケーゼンベルスには閣下の思念は届いていないようです』

『あぁ』


「ケーゼンベルスの思念は聞こえた。が、俺から思念は送れないのか」

「うむ。それは無理だ」

「了解した。では、魔皇獣咆ケーゼンベルスは一時【ケーゼンベルスの魔樹海】に帰還するとして、ツアンも一時バーヴァイ城に移動して、現状をグラドやアチなどに伝えてくれ」

「分かりました」

「ウォォン! ツアン、我がバーヴァイ城まで送ろう」

「あ、ありがとうございます」

「ウォン! 気にするな――」

「はい――」


 頭部を下げた魔皇獣咆ケーゼンベルスに跳び乗ったツアン。


 ケーゼンベルスは、


「主、友、ケン、ヨモギ、コテツも、一時別行動だ。後ほど【源左サシィの槍斧ヶ丘】で合流するか、直に主の元に戻るからな!」

「分かった」

「にゃお~」

「「「ウォン!」」」

「ではな――」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは一気に駆けて跳躍――。

 奥座敷、斧槍山から消えたように姿が見えなくなった。


「凄い、さすが魔皇獣咆ケーゼンベルス様の膂力だな……そして、シュウヤ殿、私も付いていきたいが、ここに残る」

「分かった」

「ビュシエとバーソロンも楽しみにしているフクナガの料理だが、料理をシュウヤ殿たちに用意させることが決まった。その準備が完了次第と……他にもバーソロンとケーゼンベルス様にも相談したが、【ケーゼンベルスの魔樹海】と【ローグバント山脈】と【バーヴァイ城】に【バーヴァイ平原】などをどのように守るか、上笠連長にも話を通す。その件以外にも色々とあるが、血文字で報告しよう」


 魔君主の仕事は多岐に渡るし、タチバナの動きを探るつもりか。


「了解した。上笠連長の件はゆっくりと行こう。食事は楽しみにしている」

「うむ!」

「ンン、にゃおぉ~」

「「うぁぁ――」」


 黒獅子ロロディーヌは、一瞬で大きいグリフォン型の姿に変化。

 同時に触手をサシィ以外の皆に絡めて背中に乗せていた。


 神獣ロロディーヌは、数歩前進して振り返って、


「ンン」


 と喉声を鳴らして、俺とサシィを見る。

 意味はなんとなく分かる。


「サシィ、行ってくる」

「はい、シュウヤ――」


 サシィに頬にキスされた。

 はは、と、サシィの腰に手を回してハグを行う。

 長い黒髪越しに頭部にキスをして、頬へお返しのキス――。


「あっ」


 そこから反転――。

 相棒の触手を避けつつ――<血液加速ブラッディアクセル>を発動――。

 闇神アーディン様の神像がある場所から離れた。

 魔界の神々セブドラホストの神々の神像が並ぶ奥座敷の庭を駆ける。

 

 オオツキさんに【魔雷教団】の皆が乗っている神獣ロロを抜かした。


「ンンン――」


 <導想魔手>と<鬼想魔手>を前方の足下に用意――。

 走りながら跳躍、その二つの魔手を踏み台にして、更に前方に跳躍を繰り返した。


 宙空を闇神アーディン様の神像の単眼球から出る魔線が差す方向に直進した。


「にゃご~」


 相棒の催促の声に応えるように速度を緩めると、相棒の複数の触手に捕まった。

 そのまま全身を弛緩させて体を楽にしながら、相棒の頭部に運ばれた。

 

 これはこれで気持ちがいい――。


『ふふ、この運ばれる時って意外に楽しいんですよね』

『あぁ』


 ヘルメと思念会話をした刹那、


 相棒が頭部を下から上に少し動かした。

 巨大な鼻先に足を蹴られるように持ち上げられた。


 俺はサッカーボールや水球の球ではないぞ?

 と言いたかったが――。

 

 頭部から伸びていた触手に体が引っ張られた。


 皆がいる頭頂部に運ばれる。

 そこにあった黒毛のソファで寛いでいたバーソロンとビュシエは跳躍。


 二人の手に両腕が捕まる。

 と、相棒の体に絡まっていた触手から解放されながら神獣ロロの頭部に三人で着地。


 同時に、首下に触手手綱が飛来して付着した。


「閣下ァ、ロロ殿様の黒毛布団は気持ちいいですぞ~」

「閣下ァ、身動きが取れませぬ~」


 頭頂部にいた光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスがそう発言。


 ゼメタスとアドモスは黒毛に包まれて頭部しか見えない。


 その傍には、アドゥムブラリとアクセルマギナがソファに腰掛けお茶を飲んでいた。


 そんな光景を見ていると、神獣ロロの左右にある長い耳が覆い被さってきて、バーソロンとビュシエごと長い耳に包まれた――。


 耳の裏の産毛で体が撫でられていく。

 ヘルメの液体に包まれる感覚とは異なるが、全身が洗われるような気持ちとなった。


 産毛は高級なフェザーと似た感触だ。

 非常に気持ちがいい――。


 更に美人さんのバーソロンとビュシエと密着状態だ。バーソロンとビュシエは分かっていて乳房を俺の胸と脇腹に押し付けてくる。悩ましい息吹には熱を感じた。


 俺を労ろうとしてくれる二人の気持ちはとても嬉しい。

 

 闇神アーディン様の神像の単眼球も一緒だった。単眼球は、ビュシエとバーソロンの巨乳の間を悩ましく転がっている。


 ビュシエとバーソロンは俺に抱きつきながら、


「ふふ、神獣様とシュウヤ様が温かいです」

「陛下の温もりを肌に感じられるなんて……そして神獣ロロ様の産毛が気持ちいいです」

「あぁ、二人のおっぱいは言わずもがな、相棒の耳の裏の毛も最高だよな、柔らかいし。耳の裏の肌も触ってみるといい。少しざらついているが、それも気持ちいいから」

「ンン――」


 神獣ロロは加速前進しながら鳴く。


「「はい」」


 二人は俺に密着しながらも腕を上げて相棒の耳の裏の産毛と肌を触っていく。


「ふふ、本当です~」

「毛も可愛い~」


 と、笑顔満面の二人は相棒の耳の毛を撫でまくる。

 神獣ロロは長い両耳を震わせると、くすぐったかったのか離した。


 その両耳が、カラカルのリンクスティップのようにくるりくるりと回る。


 その動きは面白く可愛い。


「あぁ~神獣様のお耳が……」

「はい……」


 二人は名残惜しむように左右の両耳を見上げた。


 今の神獣ロロディーヌの速度は遅い。

 背中に乗せている【魔雷教団】の方々のためだろう。

 

 そして、頭部に着地した直後にチラッと見たが、アドゥムブラリとアクセルマギナに光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは、相棒が頭部に用意した黒毛ソファに横たわっていた。


 ゼメタスとアドモスは、頭部以外の体がすっぽりと黒毛に包まれているからソファではなく砂風呂的に見える。


 ビュシエとバーソロンの体に何回も衝突していた闇神アーディン様の神像の単眼球は自然と俺の周囲を漂い始めた。


「闇神アーディン様の片目……」

「触れてみるか? 闇神アーディン様の魔力はまだ内包されているから御利益があるかもだ」

「え、大丈夫でしょうか」

「大丈夫だと思う」

「では、はい……」


 ビュシエは遠慮勝ちに、その神像の片目に指を当てた。

 

 ビュシエの白魚のような細い指が触れている片目の黒曜石にも見える表面に、紫色と朱色のビュシエの指紋のようなモノが発生し、その指紋が波紋状に浸透して周囲に伝搬していく。

 更に幾何学模様に変化しながら単眼球の全体に模様が伝搬してから、直ぐに元通りの漆黒に近い色合いの単眼球に戻った。


「シュウヤ様?」

「陛下、何か変化が?」

「何も起きず。神像の片目で単眼球のままだ」

「わたしも触っても?」

「おう、いいぞ」


 バーソロンも神像の片目を指先でツンツクツン。

 片目は指先に合わせて波紋と音を発生させる。

 リズミカルだ。


「音も出ました。不思議です」

『閣下、闇神アーディン様の魔力が残っている状態なら、闇の古寺で、何かが起きるかもですね』


 その単眼球の片目を掴む。


 魔力を注いだ。

 単眼球から出た魔線が前方に直進――。


 闇雷の森があるのは、この方向か。


 〝列強魔軍地図〟を出した。


 今、俺たちは――。

 この【源左サシィの槍斧ヶ丘】から出たばかり――。

 

 【ベルトアン荒涼地帯】は名にもあるように荒涼地帯のようだが、目の前は森と山が多い【ローグバント山脈】の範疇だ。


 ビュシエとバーソロンが、


「神像の片目から出ている魔線が向かっているのは、ここの森ですね。もう闇雷の森に入ってるかと思います」

「はい、もう少し近付けば、〝列強魔軍地図〟にも……」


 そうビュシエが発言した直後――。

 〝列強魔軍地図〟に【闇雷の森】の名前が刻まれた。

 周囲の細かな地形も出現。

 目の前の視界の森には、他と違う大樹が無数に生えている。

 

 大樹の枝葉は動いて、複数のブドウのような実を有した唇お化けのような花弁も付いていた。

 その実と唇お化けは放電を起こしている。

 放電に誘われたであろう蛾のモンスターが、唇お化けの花弁にくっ付いて捕らわれていた。


 これが【闇雷の森】の由縁か。


 【闇の古寺】も〝列強魔軍地図〟に現れる。

 と、前方の森林の奥地から複数の魔素が近付いてくるのを察知。


 大樹の一部はモンスターなのか、移動する大樹もあった。

 

 【闇雷の森】がざわめき立つ。


 俺たちに向かってくる魔素は……。

 

 大きさ的にドラゴンか? 何十といる。

 闇烙あんかく魔王ザウバが率いる地大竜ラアンと地亀ドラゴン?


 魔族らしき大きさの魔素もある。

 無数の鳥たちが飛び立っているし、大樹のようなモンスターと蛾のモンスターもいるから、判別はこの段階では難しい。


 もしかして、【ベルトアン荒涼地帯】にいるサシィたちを苦しめていたナーガ・ロベたちか?


 サシィは、


『そうだ。ベルトアンの連中は百足魔族デアンホザーではないが……上半身が異常に長い魔族で、五本腕を持ち、必ず毒の武器を一つ扱うのだ。それぞれ性能のいい鉄の装備で硬く強い。マーマイン勢力が強くなってからは近隣に現れなくなった』


 そのナーガ・ロベが率いるベルトアンの遊撃部隊?

 魔王ベルトアンとかもいるようだから要注意だな。


『閣下、わたしが出ますか?』

『まだ大丈夫だ。闇烙あんかく魔王ザウバとやらと戦う時に出てもらうかも知れない』

『はい』


「ンン」


 神獣ロロは走るのを止めた。

 <血道第五・開門>を意識――。

 <血霊兵装隊杖>を発動。

 全身にルシヴァル宗主専用吸血鬼武装・甲冑を装備した。

 

 血の錫杖が左前方に浮かぶ。

 二体の<光魔・血霊衛士>も意識して発動――。


神獣ロロ、ここからは普通に行こうか」

「にゃお~」


 背中に乗っていた【魔雷教団】の方々を地面に降ろしていく。

 俺たちも相棒の頭部から地面に降りた。


 足場は根っこが多くて悪い。

 アドゥムブラリとビュシエとバーソロンが前に出る。

 テンは後方に移動した。

 アクセルマギナとパパス、リューリュ、ツィクハルは右にいる。


「ンン」


 相棒は姿を黒豹にさせると俺の左前に出た。

 平らなところにいるオオツキさんたちに向け、


「【魔雷教団】の方々、この先に【闇の古寺】があります。そして、複数の魔素、モンスターのようですね、が俺たちに向かってきていますが、対処します」

「は、はい」


 魔槍杖バルドークを右手に召喚。


「「「ゴグアァァァ――」」」

「「「「ギャガオォォォォ」」」」


 咆哮が響くと前方の森林が一度に大量に押し倒された。

 同時に地響きが強まって、震動の影響か、根っこが起き上がってきた。


 多数の樹木が押し倒されていく。

 と、そこから出現したのは複数の大きいドラゴン。


 四肢は小さいが頭部と亀の甲羅が巨大だ。

 そのドラゴン集団の背後に闇の炎を纏う魔族が浮いていた。


「中央の大きいドラゴンが、地大竜ラアンと推測します。三十は超えている甲羅を有したドラゴンが、地亀ドラゴンです!」


 オオツキさんがそう発言。


「【闇雷の森】に棲まうモンスターたちか。結構な量だな」


 アドゥムブラリが顎に人差し指を置きつつそう発言。

 同時に、大斧と似た偽魔皇の擬三日月と赤い長剣の偽煉極レグサールと半透明なユキノシタ模様の記章を体の近くに召喚している。


「おう」


 返事をすると、アドゥムブラリは頷いた。

 そして、ユキノシタ模様の記章に触ると、仔牛革色の貴族が着るような防護服に幻影の防護服が新たに加わった。

 

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>などを使い皆の防御に回そうかと思ったが、ビュシエが、


「皆さん、わたしの背後に――<血道・石棺砦>」


 【魔雷教団】を守るように、三十五の石棺が一瞬で城門のように組み上がった。頼もしい仲間ができて良かった。


 その城門の真上にテンが着地。


「ビュシエ、利用させてもらうぞ」

「利用させてもらいます!」

「ビュシエさんの石棺砦があれば、周囲の敵を見渡せます!」


 テンがそう発言。

 

「はい、ご自由に。崩す時もあるので、気を付けてください」

「「はい!」」

「分かっている。妾たちを気にせず、自由に石棺を操ってくれていいぞ!」

「はい」


 テンとビュシエは頷き合う。

 【魔雷教団】の方々は、


「おぉ、ありがとうございます!」

「ありがとう!」


 すると、前方にいる闇の炎を纏った魔族が、


「<血魔力>か、吸血神ルグナドの尖兵ども!」


 そう叫ぶと魔槍を片手に直進してきた。

 が、途中の宙空で動きを止めて、俺たちを見据える。


「吸血神ルグナドの尖兵ではない! 閣下、前に出ますぞ」

「おう、俺も出る」

「ハッ――」


 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスが前に出る。


「吸血神ルグナドの尖兵ではないだと?」

 

 そう聞いてくる魔族の頭部は厳つい。

 六つの眼球を有し、耳が横に長い。

 首も太く、ポールショルダーのような部分も目立つ。

 闇の炎を発している漆黒の鎧にマントと、尻尾もあるようだ。

 腕の数は四本。

 三本の腕で、赤紫色に燃えている炎の槍を持っている。


 その厳つい魔族は、目の前に闇の炎の魔法陣を幾つも形成し、その闇の炎の魔法陣越しに俺たちを睨みつけ、


「何者か! ここは我の領域ぞ――」


 と叫ぶと、闇の炎の魔法陣から複数の闇炎の槍を生み出し飛ばしてきた。交渉もナシか――。


 ――<煉獄短剣陣>などの飛び道具が脳裏に浮かぶがっ。

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