千五十八話 闇神アーディンの縁と単眼球に煉極レグサールの魔槍


 急ぎ、片膝を下げ膝頭で地面を突く。

 ――頭を下げた。

 煉極レグサールは俺の頭上に浮いたままだ。


「――闇神アーディン様」

「にゃおぉ」

「『――ふむぅぅ。殊勝だが、我に干渉しうる称号を持つ槍使いよ、そう畏まる必要はない。この間のセラの其方……あの時の槍使いでは、もうないのだからな。魔神殺しの魔英雄よ、面を上げよ!』」

「ハッ」


 闇神アーディン様は笑顔だ。

 そして、俺を見続けて、


「『ふむぅぅぅ、フハハッ、イイ面構えに成長しておる……我が認めた魔界騎士デルゥ、ハウトがァ、其方にぃ靡くわけだなァァァッ、ハハハ……』」


 闇神アーディン様がちょいと怖い口調で語ると、徐に煉極レグサールの大剣を見る。


 その闇神アーディン様の四眼の中身は、紫色が濃い宇宙のような光景となっていた。

 

 重力レンズ越しに見た宇宙?

 

 星間ガスと宇宙塵が渦を描いて集結して星となり、その星が衰えて超新星爆発を起こしたりと、星々の誕生と終わりの光景がコンマ数秒の間に展開されていた。

 

 右上の眼球の中は、深淵の漆黒のボイドを有した銀河系の構造で、脳の神経回路と似たフィラメントの宇宙構造だったが、急にボイドだけとなり、そこに銀色の光る粒が出現。


 その光る粒がズームアップされると……。

 その光る粒は未知なテンセグリティで構築された四次元超立方体の中にいる珪素の結晶基板が密集したソリッドステート生命体らしき物だった。


 右下の瞳の中の深淵の宇宙の中には、恒星を囲うリングワールドが展開されている星系が映り込んでいる。


 更にすべての四眼で、フィラメント構造の宇宙世界が逆遠近法に展開されてからアラベスク模様が繰り返されていく。

 

 非常に面白いが、闇神アーディン様に畏怖を覚えた。


「ングゥゥィィ……」 


 肩の竜頭装甲ハルホンクが反応。

 あの目玉が美味そう? 

 

 とは発言しないが……。

 

 あ、四眼の一つに多く展開されているアラベスク模様に反応しているのかな。

 ハルホンクの防護服の模様と似ている。

 白色の植物の蔦か蔓の唐草模様。

 イスラム美術の装飾模様にも似ているか。


 四眼はそれぞれに宇宙的な光景が展開されている……。


 と、バチバチという音が目の前に響いた。


 神意力を有した発言だったからな。

 自然と魔眼効果を受けてしまったらしい。


 ――精神力がごっそり削られたような感覚を受けた。

 その闇神アーディン様は、


「『……我が認めた魔界騎士デルハウトはサイデイルで活躍し続けている。誠に嬉しい限りだ……』」

「はい、そのはずです」


 闇神アーディン様はサイデイルの状況が見えているのか?


 すると、闇神アーディン様の神像からオーラのような魔力が噴き上がると同時にアミュレットの幻影が完全に消えた。


 代わりに、くっきりと罅割れたような縁の枠と闇神アーディン様の上半身だけとなる。

 

 その闇神アーディン様が、


「『フッ、フハハ』」と笑ってから、


「『――我の神像に、バンデラ古代樹と似た複数の樹を焚いて祈禱と魔力を捧げている者たちがいるようだな……」』


 と背後の己の神像のことを指摘する。

 すると、サシィが、


「――恐れながら、発言を宜しいでしょうか」

「『構わぬ、名を聞こう、黒髪の女子よ』」

「ハッ、源左サシィと言いまする」


 闇神アーディン様は頷くような素振りを取って、


「『なんだ、サシィ』」

「はい、魔雷教のオオツキが、源左古代黒宝樹に源左黒樹の樹の破片をここで焚いて祈りを捧げていました」

「『――魔雷教か! この地は、干渉で初めて知ったが……妙な心地よさを覚えたのも納得だ……源左サシィとやら、褒めておこう』」

「は、はい!」

「『して、槍使い。我が祝福した武装魔霊・煉極レグサールと契約し、取り込んだようだな』」

「はい、アドゥムブラリからもらい受けました」

「『……そのようだ。使い手が代わっていたのは知っていたが、アドゥムブラリとやら……武装魔霊・煉極レグサールを使い続けていたことを褒めてやろう』」

「ハッ」


 アドゥムブラリは頭を下げた。


「『フッ、礼儀正しい魔王級だ』」

「……主に倣っているだけです」

「『フハハ、独特な魔靱ルゼを感じたぞぉ、槍使い、いい部下を得たなァ?』」


 魔靱ルゼ

 あぁ、四眼ルリゼゼと関係しているのかな。

 と、魔軍夜行ノ槍業が震える。


「はい……」


 闇神アーディン様は、チラッと俺の腰を見てから、ヘルメ、フィナプルス、ビュシエ、バーソロン、サシィ、ツアン、アクセルマギナ、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスを見てにやっとした。


「『……粒ぞろいの強者共、智術の士に将軍どもか』」

「「「「……」」」」


 皆沈黙。

 神意力を受けてプレッシャーを感じていると分かる。


「『魔人武王ガンジスのような槍使いとの、魂を賭けた戦いは楽しそうだなァ……新しい<武槍技>の獲得もできるかも知れぬ。ふむ! 我がいる【フヴェの谷】か、【神魔山シャドクシャリー】か、【シクルゼの谷】か、【天魔鏡の大墓場】、【王魔の墓場群】などで戦おうか……』」

「戦い……」

「『ハッ、ボシアドのように、我とサシで戦いたいのかと思っていたが、ちごうたか?』」


 背筋が寒くなるが……。

 同時に丹田が頗る熱くなった。


 ……熱された玉鋼があるような感覚。

 その玉鋼が分厚いハンマーに叩かれて、真っ赤な槍の穂先となるような感覚を得たところで、


「……槍使いとしてなら……戦いたい。槍武術を学びたいです」

「『フハハ、そうであろう。それでこそ、我が認めた槍使い。フハハハハ!』」

 

 闇神アーディン様の神像からも声が出て、エコーが掛かった。

 俺も笑った。


「『……いい面だ。して、武装魔霊・煉極レグサールに話を戻すが、今回の槍使いの魔力を得た褒美として、そこに浮く武装魔霊・煉極レグサールの武器変形に新しく〝槍〟を加えたからな? 今後は槍としても使い続けるといいだろう』」

「おぉ、ありがとうございます」

「『フッ、礼は要らん。槍使いから得た魔力の等価交換と思え。更に言えば、魔蛾王ゼバルが捨てたデルハウトを救った礼もある。同時に魔界騎士として認めたが、そのような縁も槍使いと我にはあるのだからな』」

「はい」

「『その縁として、其方に提案がある……」』

「なんでしょう」


 闇神アーディン様は腕を上げる。

 背後の闇神アーディン様の神像から魔線が迸った。


 魔線は、遠くのほうに向かう。


「『この魔線の方角にある地を調べてくれ。【暗雷の槍墓場】か、【闇雷ルグィの森】と似た気配を一瞬察知したが、消えた』」

「急ぎでしょうか」

「『……フッ、できれば急いだほうがいい。お前のためにもなるはずだ。腰の魔軍夜行ノ槍業にいるシュリとの縁とも思え……そして、これが目印となろう――。では然らばだ、珍しき夜の瞳を持つ槍使い――」』


 と、背後の神像に罅が入る。

 更に、煉極レグサールの形が槍となると、闇神アーディン様の映像のようなモノは消えた。空間は元通り。


 煉極レグサールの魔槍は浮遊している。


「「消えた」」

「あぁ」

「閣下、仕事を頼まれたようですが、神像から出ている魔線の先に行きますか?」

「急いだほうが俺のためになるようだから、行ったほうがいいだろうな」

「うむ」

「神々からの依頼でもあるが、敵か味方か、味方であるような雰囲気だが、武に生きる闇神アーディン様だからな……」


 アドゥムブラリの言葉に頷いた。


「あぁ、が、俺が強くなることを望んでいるような節もあるからな。冒険心も擽られる」

「ふっ、それじゃ、素直に行くベきだな」

「あぁ」


 アドゥムブラリと笑顔で頷き合った。


 すると、闇神アーディン様の神像から放たれていた魔力が、闇神アーディン様の神像の片方の目に集約。

 その片方の目から闇神アーディン様の目玉が自然とくり抜かれたように外れて、浮遊しながら俺の前に降りてきた。


「「おぉ」」


 その目玉を掴む。

 目玉から漆黒と朱色に輝く魔線が迸った。

 その魔線の行き先は、先ほど闇神アーディン様の神像が指していた、【暗雷の槍墓場】か【闇雷ルグィの森】と似た気配の方角だ。


 目玉から手を離すと、自動的に浮く。

 俺が歩いても、目玉はついてきた。


 なんか……チラッとアドゥムブラリを見た。


「……俺を見るなよ、単眼球ってか?」

「あぁ、思い出した」

「……石の魔鋼鉄か、闇神アーディン様の単眼球だろうが! 俺様のナイスな単眼球とは似ても似つかぬ!!」


 思わずそのアドゥムブラリの喋りに笑う。

 イケメンだから、単眼球の頃のような喋りは似合わないが、それはそれで、個性的だ。


 そのアドゥムブラリは、長い金髪を横に払い、


「……闇神アーディン様が主に期待している表れだろうな」

「あぁ」

「シュウヤ様、新しい煉極レグサールの魔槍を見せてください」


 ビュシエの言葉に頷いて、煉極レグサールの魔槍を掴んで掲げた。


 穂先は素槍と似た形だ。

 魔界の刃らしく先端は少し長い。

 色合いは赤が基本、漆黒の稲妻模様が刻まれていた。


 皆に見せていると、複数の魔素の気配。


「だれだぁぁぁぁ」

「「我らの闇神アーディン様の神像を!!!」」

「「うごぁぁぁぁ」」


 源左の戦装束に黒頭巾を被った者も多い集団か。

 全員が漆黒の槍を持つ。


 と、サシィが前に出た。


「シュウヤ殿、あれが魔雷教たち。私に任せてくれ」

「分かった」

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