千四十九話 いいお尻さんを持つことも素晴らしい!

 ヘルメの体と衣服の一部は俺に付着していた部分だけ液体状に変化していたが、その液体状の部分は一瞬で元通り――。

 

 身に纏い直した上着の羽衣は非常に薄く、透けている。

 羽衣の表面には煌びやかな水飛沫が葉脈を模るように幾重にも分岐しつつ走っていた。

 衣装の端から、その水飛沫が放物線を宙空に描くように散って大気に消えていくと、小さい虹の橋が幾つも発生していた。美しい。


 インナーの下着は群青色の競泳水着と似たコスチューム。

 

 張りの良いおっぱいの形が顕わとなっている。

 

 スタイルの良さと清々しい雰囲気の常闇の水精霊ヘルメさんだ。

 見ているだけで癒やされる。


 と、ヘルメからサシィとビュシエに視線を戻す。 

 今の嫉妬の視線には嬉しさを覚えた。サシィとビュシエと目が合う。

 

 と、二人はハッとした表情を浮かべて、片頬を細い指で掻いてから、


「「ふふ、はは」」


 とぎこちない笑い声を発して、背中を合わせてから、両手を前後に振るって揃いの儀仗兵のような動きで左右に歩き始めた。なんか玩具の兵隊にも見えて面白い。


 ヘルメも二人を見た。

 そのサシィとビュシエに、


「サシィとビュシエ、今のヘルメとのキスだが、俺には普通のことだ。眷属たちとは普通にエッチなことを行う。愛をもってスキンシップを行うのは好きなんだ。が、いつもちゅっちゅとしているわけではないからな?」

「……は、はい」

「……接吻……」


 ビュシエは接吻と語りつつ……。

 片方の手の細長い指で己の唇を触れていた。

 数回頷いて、「接吻……うふ……接吻……ふふ」と呟くと、もう片方の腕から膨大な<血魔力>を放出させつつ<血魔力>のメイスを出現させては消している。


 毎回握りを変えてメイスの先端の球体に付いている角のような鋭利なツブツブが増えていく……少し怖い。


 が、見事な造形だ。

 リューリュとツィクハルから少し歓声があがる。


 サシィは、


「……アドゥムブラリ殿とツアン殿の会話は聞いていたので、理解はしていたつもりだったが……」

「……」


 と語る。

 納得感は顔に出ている。

 が、ビュシエは納得していないようだ。


 ヘルメは、そのビュシエを見て目を見張る。


「閣下、まさか……」

「おう。<筆頭従者長選ばれし眷属>のビュシエだ」

「素晴らしい! マーマイン討伐は果たしていると思っていましたが、光魔ルシヴァルの新しい<筆頭従者長選ばれし眷属>の誕生とは! しかも、ビュシエは……普通ではない<筆頭従者長選ばれし眷属>に見えますよ!」

「おうよ。さすがに分かるか」

「はい、元々<血魔力>を有していたようなヴェロニカタイプとみましたが……」


 鋭いヘルメだ。

 頷きつつ、視線をビュシエに向ける。

 ビュシエはメイスを消してからヘルメに会釈。

 

「……ふふ。初めまして、ビュシエ・エイヴィハンです」

「はい。閣下の水の、常闇の水精霊ヘルメです。閣下の左目に棲んでいることもあります。今回は【源左サシィの槍斧ヶ丘】の防衛への協力のため、閣下とは別行動をとっていたのです」

「はい、聞いています。マーマインのバシュウが裏切っていたとも。そして、今、もう一人の裏切り者のタチバナについて話をしていたんです」

「上笠のタチバナが? それは重大、あ、〝列強魔軍地図〟にタチバナの名がありましたね」


 ヘルメはそう言いながら皆を見る。

 皆は頷いていた。


「おう。その関係で、今源左砦に戻るのはよくないと思ってな。サシィを<筆頭従者長選ばれし眷属>にするところだった」

「あ、あぁ、そうだったのですね、やはり!!」


 ヘルメは胸を張ってサシィを見る。

 サシィは少し照れたような表情を浮かべていた。


 そのサシィに、ヘルメは一転して真面目な表情を浮かべつつ、


「サシィ、右場と左場と窪地に攻め込んでいたマーマインの軍勢はすべて撃退しました。しかし、バーソロンも活躍はしましたが、すべての戦場を見ることはできなかったので、源左の第三歩哨隊には多数の犠牲者がでてしまいました」


 と少し涙ぐむ。

 助けようとして助けられない辛さは分かる。

 戦場を走るヘルメの姿が想像できた。


 よくやったと笑顔を送っとこう。

 相棒も、そんなヘルメの足下にずっと体を寄せていた。


 はは、優しいな。

 サシィは、


「ありがとうございます。ヘルメ殿がいたから、それだけの犠牲で済んだのです。そして、バーソロン殿は源左砦に?」

「はい、上笠のダイザブロウたちとの会議か、奥座敷の庭にいるはずですよ」

「分かりました。改めて、源左の者を守ってくださってありがとうございます――」


 サシィは深々とヘルメに頭を下げた。

 ヘルメは笑顔を見せる。


「はい。勝ち戦に貢献できて嬉しく思います」


 そう発言して、サシィに近付くと、


「サシィも無事で良かった。心配していましたよ、強いのは分かっていますが」

「あ、はい、大丈夫です。シュウヤ殿たちは強い」

「ふふ、その表情はいい。黒髪の貴重な美人。それでいて閣下が好む魔斧槍源左を扱う、貴重な眷属候補なのですからね!」


 そう発言しつつサシィの手を掴んで、握手してから手を離す。

 体を浮かせると、サシィの姿を確認するように一周しつつ水飛沫を発してサシィの体を調べていく。


「――スタイルも抜群、いいお尻さんを持つことも素晴らしい!」


 そう宣言してサシィの片腕を上げていた。

 ヘルメがボクシングの審判になっていた。


 サシィは、『え? おしり? 片腕をあげる?』と思っていそうな雰囲気を醸し出して、がんばって笑顔を作っていた。


「はは」

「精霊様らしい」

「あはは、たしかに」


 笑いつつそう発言。一気に和やかな雰囲気となる。

 ツィクハルとリューリュも笑っていた。


「「ふふ」」

「では改めて、サシィとビュシエ、今後ともよろしくお願いします」

「はい、眷属化はまだですが、こちらこそよろしくお願い致します」

「はい、常闇の水精霊ヘルメ様……シュウヤ様の大眷属様」


 ビュシエとサシィは頭を下げた。

 ヘルメは二人に水をピュッと掛けていく。


「あ、魔力を下さった?」

「うふふ、何か暖かい……気持ちとなりました」


 二人がそう発言。同時に、二人のお尻が輝く。

 早速の洗礼か。魔法防御力上昇だったかな。

 

 衣服や装備を越えてお尻の形が分かる輝きは凄いな。

 ヘルメのお尻教団の信仰力が強まっている証拠だろうか。


 そのヘルメは、


「閣下、先ほどもヴェロニカに喩えて言いましたが、ビュシエは凄まじい魔素量です。そして、メイスを<血魔力>で生み出せるスキル持ち。マーマイン砦の中にビュシエが捕らわれていたのですか?」

「ビュシエの復活は、マーマインの親玉のハザルハードを打倒してから始まる。銀燭の道を……」

「にゃお~」


 と、俺の横を、黒猫ロロと、姿を小さくしたケーゼンベルスが走るように通ってヘルメに近付く。


「ウォォォン、精霊ヘルメ! 我らはハザルハードとマーマイン砦を落とした! 【ローグバント山脈】はもう我らの領域と呼べるであろう!」


 と発言。黒猫ロロは頭部をヘルメの足にぶつけていた。


「ンンン――」

「ふふ、ロロ様と魔皇獣咆ケーゼンベルスと皆も活躍したようですね――」


 そう言いながら片膝で地面をついて黒猫ロロを抱き上げる。


「きゃ」


 黒猫ロロはヘルメの頬を一生懸命ペロペロと舐めていく。

 ゴロゴロとした喉声が響いてきた。


 ヘルメは、細い頬で黒猫ロロを抱くように頭部を傾けた。


 黒猫ロロは構わず、頭部をゆっくりと前後させ、ピンク色の小さい舌でヘルメの頬と顎と細い首を舐めていく。

 

 グルーミングを優先する姿はほっこりする。


 すると、ヘルメの揉み上げの長い毛が、小さい舌に引っ掛かってしまった。

 黒猫ロロは慌てて「にゃあぉ、おぁ~、なごぉ、なう゛おぉん」と吐く前に近い変な声で鳴いて、前足でヘルメの毛を舌から取ろうとしていたが、そのヘルメの毛は直ぐに液体に変化。

 

 黒猫ロロは、


「ンン、にゃごぉ」


 と鳴いてびっくりしていたが、そのヘルメの水を飲み始める。

 幸せそうな顔付きとなっていた。


「ふふ」


 ヘルメと黒猫ロロはイチャイチャし始める。

 

 ヘルメはロロを片手で抱きつつ、ケーゼンベルスの体をもう片方の手で撫でて、同時に水をテンに飛ばしつつ、ケーゼンベルスから離れてサラテンとハイタッチ。

 更に、ツアンとアドゥムブラリともハイタッチを行う。

 フィナプルスはヘルメの横をホバリングしながら付いていく。ツィクハルがヘルメに触れようとしているが、遠慮勝ちに腕を下げていた。パパスは魔斧を眺めている。リューリュは俺を凝視していた。


「ヘルメ、ビュシエの説明は後にする。《水幕ウォータースクリーン》を右手の森の陰に展開してくれ。そこで、サシィの<筆頭従者長選ばれし眷属>の眷属化を行う」

「あ、はい――」


 《水幕ウォータースクリーン》が展開される。

 そのヘルメの美しい水の膜に見蕩れているサシィの右腕を掴む。


「サシィ、行こう――」

「あ、うん」

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