千五十話 源左サシィ<筆頭従者長(選ばれし眷属)>となる!!


 手を離すと、サシィは、


「あ、少し準備を行う――」


 と言って木陰の手前にあった大きい岩と岩の間の空いた空間にござを敷き始めた。その上に、折り畳み式の腰掛けの床几しょうぎを二つ置く。

 サシィは奥のほうの床几しょうぎに腰掛けた。

 笑みが可愛いサシィは、片腕を伸ばし、指先で前にある床几しょうぎを触りながら、

「シュウヤもここに座るのだ」


 やけに近い位置だから対面座位の印象を抱く。

 サシィの瞳には無垢さと明るさしか感じられない。


 頷いて、


「あぁ」


 と、サシィの前にある腰掛けの床几しょうぎに座った。

 目の前のサシィは上目遣いとなって頬を朱に染める。


 その可愛い唇が震えると、


「……シュウヤ殿、精霊様から血の補給を受けていたようだが、血がほしいのなら、わたしの血を吸ってもいいのだぞ? そ、その唇から……」


 頬を朱に染めながらの大胆な発言だ。


 肩と手元が震えて、太股ふともも草摺くさずりと似た具足の先端を握りしめている。


 ティーンエイジャーの初々しさに溢れていた。

 女を意識し始めたぐらいの年代だから相当な勇気を込めた言葉だと分かる。

 だからこそ、丁寧に血の世界に誘おうか。


「血は大丈夫だ。サシィが眷属となってから、たっぷりと頂くとする」


 と笑みを交えて語った。


「は、はい」


 サシィをリラックスさせようとしたが、逆に緊張したような表情と言葉になってしまった。

 そのサシィは、


「あっ、シュウヤ殿、源左の食べ物はいるか?」

「おぉ、気が利く。腹もちょうど減っていたところだった」

「分かった」


 サシィは巾着袋のアイテムボックスから提げ重箱と竹筒を取り出した。

 提げ重箱が、またお洒落。


 高級料亭の一室での食事を想起する。


 サシィは提げ重箱の蓋を丁寧に取り、提げ重箱の引き出しを段々と出して広げた。

 更に蓋を提げ重箱の窪みに差し込み合体させる。


 手慣れた手つきで引き出しの一つを折り曲げて固定し、小さい机に変化させてから提げ重箱の中身を見せてくれた。


 提げ重箱の中身は芸術性の高いおせち料理に見える。


「おぉ~豪勢な弁当だ」

「……これが豪勢なのか?」


 そう聞いてきたサシィ。

 サシィ的には豪勢ではないのか。

 ま、源左の頭領で親方様だからな。

 改めて認識を強めた。

 大名と同じ立場で女の魔君主。


 そして、サシィの提げ重箱を展開させた仕種は古風な日本人女性そのもので、非常に魅力的だったから、一気にときめいた。


 サシィは何気ない仕種で提げ重箱の端に備わる小箱から箸を二つ取り出す。


 一つの箸を俺に手渡してくれた。


「ありがとう……」

「それは箸だ。食事を掴む道具で魔族が使うふぉーくと同じ」

「分かっている」


 そう俺が言うと『〝箸〟を知っているのだな?』という顔つきでニヤッとした。


 俺も笑顔を見せるが……提げ重箱の中身が豪勢すぎる。


 ヒノキの薄い板で仕切られた彩り豊かな料理はどれも高級っぽい。


 手を出すのは少し勇気がいる。

 どれも芸術品かと思うような料理ばかりだ。


「シュウヤ殿、この料理はフクナガが用意してくれた特別な料理。さ、一緒に食べよう」

「分かったが……」

「ふふ、遠慮するな――」


 サシィは箸で摘まんだ挽肉が詰まった葛餡が盛られている煮付けた大根を差し出してくる。

 これは、口をあーんしろか?


 サシィは少し興奮しているようだ。

 視線で『食え、食え』とアピールしてくる。


 環境的に、日本庭園で女性とデートしている気分となった。

 

「ありがとう、頂く――」


 頭部を突き出すように口を拡げて、パクッとその煮付けた大根を頂いた。


「ふふ」


 サシィも嬉しそうってか、うまい!!


 甘さと塩のバランスが絶妙な葛餡の食感といい……。

 

 水分を含んだ煮付けの大根がまた……。

 歯でサクッと大根が裂ける。


 その大根が微かに硬さを維持して裂けていくのが理解できた。

 柔らかさも絶妙、そのまま口内を閉じるように硬口蓋の上下の顎骨の圧力で煮付け大根を押すと、直ぐに煮付けた大根は崩壊し、大根だった旨味の液体が口内にじゅわりと浸透――。


 濃厚な味わいで、これがまた美味いのなんの。 


 葛餡の挽肉が残していた残り香のような味わいも合わさって絶妙すぎる味となった。

 

 自然と煮付けた大根だった成分はすべて口内から消えていた。


 すると、丹田辺りの魔力が活性化――。


 生命力を得たような感覚を得る。


「……美味いし、この料理は特別か。それとも……」

「いいから、この筒から源左水を飲むといい――」


 と携帯していた筒形を差し出してくる。

 

「先っぽが細いんだな」

「うむ。そこから吸うのだ。吸筒の容器で、源左水も美味いぞ」

「ありがとう。頂く――」


 目の前にいるサシィの片手を握るようにして吸筒の容器を受けとった。


 吸筒の細い先端を唇で挟んでから、一気に中身の液体を吸う――。


 ストローとは違うが、一気に水が口内に入ってきた。

 新鮮な水で美味しい。

 玄智の森の水と硬度は違うかな。

 軟水っぽい――吸筒の先端から口を離す。


 と、サシィは俺を見ながらボウッと恍惚とした表情を浮かべ出す。


「どうした? 源左水は美味いぞ」

「あっ、うん……」


 可愛い声だ。

 ティーンエイジャーな仕種のサシィに吸筒の容器を返す。

 サシィは恥ずかしそうに吸筒の先端をちらちらと見ながら、その吸筒の容器を提げ重箱の横に置いていた。


 サシィは気を取り直して、色違いの葛餡が盛られてある煮付けた大根を箸で掴む。


 己の小さい口に運んで、その葛餡が盛られてある煮付けた大根を食べていた。


「――煮付けた源左大根は、いつ食べても美味い」

「おう、フクナガさんは天才料理人か」

「天才なんてレベルではないさ――」


 サシィは含みを持たせてそう語ると、次々に提げ重箱の中身を食べていく。

 口がもぐもぐと動いているサシィの右頬が膨れると、


「――シュウヤ殿もどんどん食べていいからな」


 頷いた。

 サシィは笑顔を見せて頬の膨らみをなくすように飲み込んでいた。


 俺も提げ重箱の中身の一つに狙いを定めた――。


 肉のような唐揚げを掴んでパクッとな。

 表面のころもはサクッとしていて、中身の肉は柔らかい――。

 ジュワッと肉汁が口内に展開される。


 これがまた香ばしくて甘く、美味い~。


 何の肉か不明だが、美味しいからまた食べた。

 

 それが胃に運ばれる度に力が増しているような感覚を得る。


 まぁ、美味しいからいいや――。


 次は卵焼き、これはシンプルだが、和食では重要!

 その卵焼きを箸で突くように切断、サクッと切れた。

 中身は溶けない、卵焼きだ。


 当然か。が、柔らかいのは分かる。

 

 そのまま箸で切断した片方の卵焼きを口に運んで食べた。

 おぉ~仄かな冷たさを含んだ甘い水分がタマラナイ――。

 隠し味に甘酒か何か入っているのだろうか……。

 そのまま自然と卵焼きは崩れるように喉の奥に運ばれて飲み込んだ。


 ――美味い、美味い、最高の料理だなぁ。


 サシィも笑顔満面。

 サシィも吸筒を小さい唇で加えて水を飲んでいた。

 

 俺の視線に気付くと、頬を朱に染めるサシィが可愛い。一通り、二人で提げ重箱の中身を食べきった。


 周囲の皆、特に沙が文句を言っていたが、気にしない。


 サシィは提げ重箱を仕舞う。

 日本人女性としての魅力度が高いサシィを見ながら、


「……サシィ、美味しい弁当を食べさせてくれてありがとう」

「ふふ、これも源左の女の勤め・・・・


 ニュアンスに含みがあるが、まぁいいか。


「では改めて聞く。もう分かりきっていることだから言う必要はないと思うが、俺の性格と思ってくれていい。聞いてくれ」

「分かった」

「<筆頭従者長選ばれし眷属>と成れば、見た目に変化はないが、光属性と闇属性を有した吸血鬼ヴァンパイア系種族の光魔ルシヴァルとなる。源左は、魔族か、種族と言えばいいのか不明だが、とにかく、源左ではなくなる」

「分かっている。源左も魔族、種族でもあるか。ま、どちらでもいい。そして、光魔ルシヴァルへの転生は望むところだ」


 気概は十分理解している。

 しかし、見た目はそのままだが、種族の変化だ。


 一応は、


「今、こうして眷属化を勧めておきながらの話となるが……サシィの家族と上笠への相談は――」

「――要らない。わたしは源左の長、親方として……一個人の女としても、シュウヤ殿の<筆頭従者長選ばれし眷属>になるのだ。他の者に文句は言わせない! ダイザブロウからまた独断かと文句は言われると思うが、構わない!」


 俺の言葉にかぶせてきたサシィの物言いと目力は本物だ。

 

「上笠のダイザブロウはサシィの眷属化には反対しそうだな」


 そう言うと、サシィは微笑み、


「あぁ、ずっとわたしを支えてくれているダイザブロウだ。最初は家族の二人と共に光魔ルシヴァル化に反対すると思う。しかし、皆もシュウヤ殿の優しさと度量の深さを知れば、気に入って許可を出すはずだ。これは確信に近い」

「それならありがたい」


 しかし、家族の二人?

 気になるが、その家族のことは後にして、


「……しかし、他の配下の者たちはどうだろう。サシィが俺の眷属になれば、神聖ルシヴァル大帝国に源左が降ったことになる。基本は平等な大同盟で、【源左サシィの槍斧ヶ丘】に住まう者たちの立場に変化はないが……」

「大丈夫だ。寧ろ、奥座敷の戦いを間近で見ていた源左の者たちの中には、シュウヤ殿は【源左サシィの槍斧ヶ丘】を支配するに値すると考えている者は多いと思うぞ」

「……それは、あるのか?」

「ふふ、あるさ。シュウヤ殿たちは源左砦と奥座敷の危機を救うと、素早く反転。斧槍山と【ローグバント山脈】を迅速に駆けながら【マーマイン瞑道】の前に集結していたマーマインの大部隊を撃破した。続けて【マーマイン瞑道】へと突入して中にいたマーマイン部隊を撃破し、【マーマイン瞑道】を突破した。更に【マーマインの砦】に乗り込むと、裏切り者バシュウと大将ハザルハードを倒して【マーマインの砦】を落とした。マーマインの勢力を崩壊させたことは非常に大きい……大戦果の極みだ。だから心配はいらない」

「そっか」

「今こうして対面しながら語り合っているだけで、少し浮ついた気持ちになるのだからな……そんな魔英雄がシュウヤ殿。家来たちもシュウヤ殿を喜んで受け入れてくれるはず。それに、神獣様は体を張ってくれたのだ……奥座敷の源左の者は、絶対に、あの時の事を忘れないだろう」


 サシィは《水幕ウォータースクリーン》の外側にいる黒猫ロロを涙目で見る。


 黒猫ロロの活躍か。

 

 【マーマイン瞑道】から奥座敷に奇襲をかましてきたマーマイン部隊は数が多かった。

 バシュウの配下だった上笠衆の一部には裏切り者もいた。

 魔銃を持ったマーマイン部隊もいた。屋根から次々と飛び掛かってくる片手斧部隊に魔刀部隊もいたな……そんな連中の奇襲を受ける中、相棒は体を張って守るべき者たちをしっかりと守った。


 そして、あの時の奇襲劇を俺の知る日本の戦国時代に喩えるならば……。

 桶狭間の今川義元側の立場か?

 それか姉川の戦いや本能寺の変の織田信長の立場かな。

 当然、袋の鼠の俺たちだ。

 客人として初めての訪問だったから当然なんだが、情報戦に負けていたのと同じこと。


 偵察用ドローンを放ち、間者を【源左サシィの槍斧ヶ丘】に送り込んで内情を把握しておけば多少は防げたかも知れない……が、


 それでもバシュウの裏切りには気付けなかったと思う。

 バシュウの仕込みは着々と進行中だったわけだから、もし時間を掛けていたら、源左は壊滅していた可能性が高いか。

 

 そんな思いのまま黒猫ロロさんを見た。

 エジプト座りで俺たちをジッと見据えている。

 成猫の黒猫ロロさんの瞳には、不思議な目力があった。


 エジプトの神様『バステト』の黒猫の姿に見えるかも知れない。

 感謝しながら今後の豊穣を祈っておこう。


 サシィは黒猫ロロを見ながら小さく、


「ありがとう……」


 と呟くように感謝していた。

 同時に片方の目から溢れた涙が頬を伝った。


 サシィは片方の親指で自らの涙を拭ってから、

 

「ふふ、神獣様もわたしの眷属化を待っている?」

「待っているだろう。が、まだだ。二人の家族のことを聞かせてくれ」

「……母方の祖母のアカネと、従姉妹の眞美マミだ。二人とも魔斧槍と魔銃の凄腕。特にアカネ婆は、源左斧槍流は当然、源左魔斧流と源左棒流が巧みだ。戦場でも大活躍できる実力者。因みに、源左斧槍流の流は、術でも構わない。斧でも棒でも剣でも、それは同じだ」


 納得。そして興味深い。

 斧槍なだけに、斧も使えるということか。

 ふと、独鈷コユリを思い出す。

 玄智の森で、<仙眼防壁>で俺の魔眼を打ち破り、<武王・禹羅槍衝破>を用いてきた。

 その独鈷コユリもサジハリと同じく名だけの婆で、かなりの美人さんだったな。


 ホウシン師匠の師匠と聞いて驚いたっけ。

 魔界八賢師コトノハの念と魔力が込められている魔戦峰着コトノハも凄かった。


 その独鈷コユリは、


『たしかに、鬼魔人傷場に好き好んで突入する愚か者は、私以外いないさね』


 と語っていた。

 魔界セブドラに何回も旅をしていたようだったなぁ。

 そんな独鈷コユリも神界セウロスに戻ったことになる……。

 思想的に大丈夫だろうか。


 さて、アカネ婆さんとマミさんのことを聞こう。


「その二人は上笠のメンバーなのかな」

「政には参加していない。政に参加する女子は少ないのだ。まぁ、疎んじられる傾向にある故、仕方がないのだが……」


 そう語ると思い顔となった。


「サシィが源左の一門、一族の長として先代から家督相続を行った際は結構な軋轢があったのかな」

「武力があるとはいえ、女子の長だからな。当然あった」

 

 誇らしげな面も顔には出ていたが、少し顔色を悪くする。


「……凄腕の魔斧槍源左の使い手のサシィでさえもか……」


 そう聞くと、頷いたサシィは、


「一部の上笠と家来衆たちと、街に住む源左の者たちからは強い信頼を得られていた。しかし、反対する者もいたのだ。先ほども話をしたが、ダイザブロウにムサシとレイガが、わたしを支えてくれた」


 サシィを慕う街の人々は多いように見えたから、支持者がいたことには納得だ。

 上笠首座のダイザブロウだけでなく、ムサシとレイガもサシィを支えていたのか。


 ……源左の社会システムは、封建的領主権の性格が強い郡県制や荘園タイプに律令制などが組み合わさって魔界セブドラなりに独自発展した社会システムと予想する。


 そう思考しつつ、


「上笠首座のダイザブロウは、摂政のような存在なのかな」

「そうだ。上笠連長が政の最高機関となる。上笠たちは、それぞれ役所の典鋳司てんちゅうしなどの権限を持つ。勿論、家来の範疇での権限だ。わたしの一声で決まることが多い」


 典鋳司とは……律令制の言葉が残っているのか。

 たしか、金属に硝子を造る役所名だったはず。


 そのことではなく、


「……重臣としての権限は上笠にもあるが、当然サシィが【源左サシィの槍斧ヶ丘】のトップ。親方で領袖、魔君主なんだな」

「うむ、だからわたしがシュウヤ殿の眷属となっても大丈夫だ」

「分かった。上笠の政治や源左の社会は少し分かったが、もう少しサシィの家族のアカネ婆さんとマミさんの情報を頼む」


 丁寧にお願いした。

 サシィも畏まったような仕種で、


「……アカネ婆は、街で道場を開き、老若男女に槍武術を教えている。マミも、アカネ婆の弟子で師範代を兼ねた強者だ。そのマミは独自の<魔闘気>を扱えるトガクレの血を引いているから、わたしに引けを取らない。因みに、男子に人気が高い」


 へぇ、トガクレの血を引くマミさんか。

 しかも、サシィの源左斧槍流と打ち合える猛者。

 それでいて、美人さんで、<源左魔闘蛍>とは異なる<魔闘気>を扱うとは、気になる。

 

 興味深い。


「閣下、マミさんとアカネ婆さんも眷属候補ですか~?」


 と《水幕ウォータースクリーン》の外からヘルメの気の抜けた声が響いてきた。

 笑いながら、


「気が早いし、ヘルメたちは今は見ておけ」

「ふん、弁当といい、イチャイチャしおってからに、<光魔の王笏>をさっさと行うのじゃ」

「沙、気付きませんか。サシィへの器様の気遣いなのです。わたしたちは静観すべきです」

「そうですよ。源左では親方様ですが、まだ若いサシィです。サシィは眷属となる。そのサシィの親族のことは知っておくべきです」

「気付いているとも。が、お弁当を仲良く食べてるのを見ると、イライラしちゃうのだ!」

「……ふふ、気持ちは分かります」

「勿論分かりますが、レベッカのように怒りたい気持ちは抑えました」

「それより、サシィから色々と情報を得ることも重要。源左に訪問した直後から怒濤の勢いでしたからね。あの坂をのぼりながら見えた街並は素敵でした」

「妾の嫉妬は可愛いものじゃぞ? ビュシエを――」

「――沙様、樹のマーマインですよ!? 何を言っているのですか!」


 沙が指摘しているところから、そんなことを言っているビュシエの声が響いてきた。直後、樹木が派手に破壊される音が響く。


 ビュシエの震えていた声音が少し怖かったが、気にしない。


「……はは」

「「はは」」


 皆、ビュシエのほうを見て乾いた声で笑っていた。

 ツアンは、樹に寄りかかりながら顎先に人差し指を当て、


「ビュシエの姐さん、気張ってますな」


 と語る。

 

「【源左サシィの槍斧ヶ丘】を訪れたのは少しの時間だけでしたが、団子は美味しかったです」

「あぁぁ、あの団子は美味!」

「ふふ、精霊様ではないですが、サシィの家族のマミさんが強いなら眷属候補となります」

「戦力が増えるのは嬉しいが、旦那には、眷属化の上限がありますぜ」

「血道の進化により、マスターの<筆頭従者長選ばれし眷属>と<従者長>の上限人数も増えるかもしれないですね」

「血道の進化の可能性だな。俺もそんな予感がしていた」


 とアドゥムブラリもアクセルマギナに合わせて発言。俺も頷いた。


「精霊様もそれを予期しての血の補給か」

「うむ。さすがは腰の捻りが美しい常闇の水精霊ヘルメ様だ……」

「……我らには真似ができない腰の動きを行う精霊様は、我らと同じく離れていても閣下と通じているということだろう」


 ゼメタスとアドモスがそう語る。


「ふふ、光魔沸夜叉将軍となっても腰の再現は難しいでしょう。しかし、無理に挑戦はしなくていいですからね。グルガンヌ地方に転移したいなら別ですが」

「今はまだ転移はしませぬ!」

「はい! 切腹転移はまだですぞ」


 ゼメタスとアドモスの切腹はいつの間にか切腹転移か。

 まぁ、魔界から魔界への移動、復活だからな。

 

 そんな《水幕ウォータースクリーン》の向こう側にいる皆に向け、


「――分かったから、サシィとの会話を優先するぞ」

「「「はい」」」

「了解。ビュシエ、メイスで樹を倒してないで、こちらにくるのだ」

「――は、はい!」

「旦那、待ってます」


 サシィを見て、


「そのアカネ婆さんとマミさんは、上笠のメンバーに入れそうな印象だ」

「二人は、政からは敢えて離れている」

「……サシィと親族だからかな」

「それも理由の一つ。が、昔から女子は政治に口を挟まないことが多かった故だろう。しかし……源左砦が危機の時には、アカネ婆もマミも皆を守るために前線に飛び出してくれることもある。バシュウの裏切りの際、源左砦内に侵入していたマーマインを倒してくれていたはずだ」


 納得。


「強者の二人と手合わせしてみたい」

「ふふっ、その気持ちは分かる。が、わたしとの槍勝負が先ではないか?」


 思わず笑みを浮かべた。サシィも笑顔となる。

 武人としての笑顔だ。


「……はは、そりゃな。が、サシィの槍武術の腕前を知っているからこその言葉さ」


 サシィの表情に活気がハッキリと出ると、


「二人とも強い武人だ。その武人繋がりで、血縁ではないが、シュウヤも知る上笠首座のダイザブロウも親類と呼べる存在なのだ。先ほども話をしたが、ダイザブロウは、わたしが幼い頃から父の代わりに忠言してくれていた」


 厳ついダイザブロウさんは父代わりか。

 先ほど聞いた摂政、摂政官としての役割をこなしていたダイザブロウは、ケーゼンベルスたちへの私怨を飲み込んだ、かなり器の大きい老臣。


 評定の時、サシィを見る目には時折優しさがあった。

 だから納得だ。


 そして、サシィを強く見る。

 彼女の心に少し踏み込むとしよう。


 勇気を持って、


「……サシィのお父さんとお母さんは?」


 サシィは瞳が少し揺れた。

 聞いてはいけないような雰囲気を醸し出すが……。


 サシィはおもむろに唇を動かした。


「先代の父はマーマインとの戦で死んでいる。祖父と母は源左の若い衆を守るためベルトアンの勢力ナーガ・ロべが扱う毒刃に散った」


 ベルトアンの勢力……。


「ナーガ・ロベとは【ベルトアン荒涼地帯】の勢力にいる将軍か、強者の個人名?」

「そうだ。ベルトアンの連中は百足魔族デアンホザーではないが……上半身が異常に長い魔族で、五本腕を持ち、必ず毒の武器を一つ扱うのだ。それぞれ性能のいい鉄の装備で硬く強い。マーマイン勢力が強くなってからは近隣に現れなくなった」


 【源左サシィの槍斧ヶ丘】の北側に【ベルトアン荒涼地帯】が拡がっている。

 源左斧槍山と【ローグバント山脈】の裏側に当たるかな。


「ベルトアンも要注意な勢力か」

「あぁ、だからこそ不倶戴天のマーマインの勢力が消えたことは重要。【ケーゼンベルスの魔樹海】から定期的に採取が可能となったことで極大魔石の憂いも消えた今……そのベルトアンと裏切り者のレン・サキナガの集団だけに、源左は集中できる」

「たしかに」

「無論、源左はシュウヤ殿たちの神聖ルシヴァル大帝国の大同盟の一員となった。隣接するデラバイン族とケーゼンベルスへの協力は惜しまない。更に言えば、【メイジナの大街】と【サネハダ街道街】の大魔商のデン・マッハ、ゲンナイ・ヒラガ、パイルド・モトハとの交渉にも協力できるはず。または協力をお願いすることになると思う」


 頷いた。

 

 大魔商とはバーソロン繋がりもあるから、尚のこと交渉はやりやすいか?


 魔界王子テーバロンテの元大眷属だったバーソロンは、悪評もあるような会話があったが、逆にチャンスか。

 悪評はただのレッテルで、真実が明るみとなれば、その反動は大きい。


 そして、サシィも言ったように【ケーゼンベルスの魔樹海】で採取可能となった極大魔石は、俺たちの良い交渉材料となるだろう。


 更に、魔界王子テーバロンテの圧政か、力の政があったのか不明だが……。


 【メイジナの大街】と【サネハダ街道街】の大魔商は、のらりくらりと商魂逞しく魔界王子テーバロンテの兵士たちをあしらっていたと予想する。


 もしそうなら、色々と融通が利く予感。


 予想が外れて、横逆で筋道が通らない存在だったのなら、戦うことになるかも知れないが……。


 しかし、そもそも源左の者たちは極大魔石さえあれば魔銃に困ることはないはずだ。


 二つの街からは何を仕入れているんだろうか。

 が、その関係は後で聞くか。


 今は、


「……分かった。家族のことを教えてくれてありがとう」

「ふ、わたしと一緒・・に源左の提げ重箱を食べたのだ。もう家族と同じ。そして、眷属の家族にもなるのだ。なんのことはない!」


 凄く浮き浮きと語る。


「おう。サシィを<筆頭従者長選ばれし眷属>に迎え入れよう」


 サシィは頷いてから、二つの折り畳み式の腰掛けの床几しょうぎを仕舞い、俺を見て、


「はい。不束者ですが、お願い致します。血の儀式……を、ビュシエ殿のように……」


 緊張しながら語っていると分かる。

 安心させるように笑顔を意識。 


 サシィの黒い瞳を凝視。


 そして、<血道第五・開門>を意識、発動。

 <血霊兵装隊杖>の血の錫杖も頭上に展開させる。


「――行くぞ、サシィ!」

「はい」

「<光闇ノ奔流>と<大真祖の宗系譜者>を内包した光魔ルシヴァルの<光魔の王笏>を発動――」

 

 俺の体から大量の血が迸った。

 血の視界は半透明で極めて明瞭――。


 血の錫杖のカンから音色が響き渡る。


 いつもよりも速く周囲が血の海と化した。


 《水幕ウォータースクリーン》の水面に血の波頭が衝突し波飛沫を散らしたと思ったら、もう満杯状態だ――。

 同時に<光魔の王笏>の質が向上したと理解。

 血、<血魔力>の操作精度と速度はビュシエの時よりも上昇した。


 血の中で、光と闇がせめぎ合うように光と闇が交差して波紋が起きていた。陰陽の印も幾つも誕生。

 その<光闇の奔流>を意味する交差を追うように、極めて小さいルシヴァルの紋章樹とルッシーや闇蒼霊手ヴェニューのような血の妖精が数多に出現しては儚く消えていく。


 七福神の格好をしている小さいルッシーたちは面白い。

 腰に注連縄を巻いている子精霊デボンチッチが見えた。これは嬉しい、玄智の森の経験を受け継いでる証拠。水神アクレシス様の加護と分かる。

 それらの妖精のような存在たちが、血の液体の中を行進しては平泳ぎを行う。


 小さいルッシーを凝視すると消えてしまった。

 構わず、神秘的な血の中でサシィと共に立ち泳ぎを続けた。


 サシィも長い髪を両肩の上に靡かせながら、不思議な血の世界を眺めている。

 そのサシィの口から泡ぶくが漏れていた。

 苦しそうな表情となる。すると、俺の心臓が高鳴り、律動が激しくなった。サシィも同様のようだ。

 律動と同時に和太鼓と似た音色を響かせる。

 

 液体の中だからもっと鈍い音になるはずだが――。

 が、そんな音なんてどうでもいいくらいに、音と連鎖するように体中が痛み始めた。

 ……体のすべてが痛い。特に内臓が捻れるような……。

 千切られるような激しい痛みは勘弁してほしいが……。

 少しクラクラしてきた。しかし、これも宗主の務め。

 血のシェアの掟、サシィのためだ。


 痛みは我慢しよう。


 大量の血だけでなく濃密な<血魔力>が外に出たせいもあるか。

 ステータスダウンもあるのか?


 そして、端から今の俺たちを見たら……。


 四方を囲う《水幕ウォータースクリーン》の血のプールの中で立ち泳ぎをしている俺たちが見えていることだろう。

 

 サシィは口から泡ぶくを出しつつ片手を俺に伸ばす。先ほど以上に苦しそうだ。


 安心させるように笑顔を送る。

 サシィは頷いて笑みを返してくれた。


 そのサシィは片腕を引っ込めてから、ビュシエと同じように両手を広げる。


 線の細い体のサシィ。

 己の体で十字架を再現するようにも見えた。

 少し仰け反っているから、細い顎と鎖骨が見える。


 サシィの着ている具足と、和風の鎧の紐と、金具に陣羽織の布の節々が揺れていた。揺れる和風の鎧は俺の知る戦国時代の鎧とは少し異なっている。魔界セブドラで洗練されたような文化を感じさせた。


 胸元が少し膨らんでいる胸甲の造りと九曜紋も魅力的。

 サシィの胸の大きさが想像できる。

 袖なしの羽織陣の羽織も姫武将らしくて素敵だ。

 その姫武将のサシィの体から銀色の泡のような魔力が放出されてサシィを囲い始めると、銀色の泡は最終的に子宮と似た形となった。


 毎回だが、他の眷属たちと同じ。

 サシィはまだ苦しげだったが、落ち着きを取り戻すように頭部を左右に振るうと表情を切り替えた。

 凜々しさを感じた。

 ビュシエの<筆頭従者長選ばれし眷属>化の様子を見ていたこともあるだろう。


 そのサシィに頷き、


『ここからが本番だ』


 と気持ちを送る。

 サシィも頷き、


『はい』


 と気持ちを寄越してきたような気がした。

 すると、銀色の泡の中にいるサシィの胸元が強く光り輝きつつ、一気に血の流れが加速――。


 サシィの体の中へと、俺の光魔ルシヴァルの濃厚な<血魔力>、血が侵入していると分かる。


 銀色の泡の子宮を喰らうように、サシィの体の周囲に烱然と輝く血の炎を纏った龍が幾つも生まれていった。血の炎の龍を従わせているようにも見えるが、その血の炎の龍が銀色の泡模様と共に消えた直後――。


 サシィの体から無数の蛍の形をした魔力が迸っていく。

 その蛍の群れの幾つかが集まって血の炎を発している大きな戦旗を模り、サシィの背後で靡いていった。


 戦旗には九曜紋のような家紋が生まれていた。

 源左の旗印か。


 戦場で使うスキルがあるんだろうか。


 サシィの双眸に毛細血管のような血が走る。

 その血は銀色の光を発して瞳の虹彩を彩っていく。光芒が美しい。サシィの回りに浮いている無数の蛍たちも輝きながら、俺の<血魔力>、血と共にサシィの体内に引き込まれていった。

 

 そのサシィの体が輝きを強め始める。

 と、体のあちこちから亀裂が走り、亀裂から閃光が迸った。

 それらの魔力の閃光は今までとは別種の輝きだ。


 更に、サシィが扱っている魔斧槍源左がサシィの前に出現。

 その魔斧槍源左は、サシィに吸い込まれていく<血魔力>、血と、蛍の流れに乗るように、サシィの周囲を旋回。


 と、穂先を俺に差し向ける。


 サシィは直ぐに片腕を伸ばし、その魔斧槍源左の柄を掴む。

 掌でぐわりぐわりと魔斧槍源左を回す。

 サシィの頭上で血の旋風が吹き荒れた。

 長い黒髪が巻き付くようにも見えて、少し怖い。


 が、サシィはその魔斧槍源左を消すように格納した。

 

 刹那、子宮の形を形成していた銀色の泡が点滅を開始。

 その銀色の泡はルシヴァルの紋章樹の形へと変化した。


 血の錫杖のカンから音が響く。

 と、光魔ルシヴァルの血の海の一部がサシィの背後に集結し、泡が造っていたルシヴァルの紋章樹に吸収されるように重なると、一瞬で、本物の色合いに近いルシヴァルの紋章樹が形成された。


 新しい枝も左右斜め上に伸びた。

 銀色の葉と花を無数に誕生させる。

 銀色の葉と花以外にも極彩色豊かな植物が咲き乱れた。

 ルシヴァルの紋章樹の屋根が瞬く間に出来上がった。

 

 幹と屋根の天辺は太陽を思わせる明るさ。

 まさに陽。

 ルシヴァルの紋章樹の幹と屋根は陽の輝きを意味する。


 根は月を思わせる暗さ。

 まさに陰。

 ルシヴァルの紋章樹の根は陰の暗さを意味する。


 葉と花から銀色の魔力の波が放出。

 波は、太陽のプロミネンス的に動き、魔力の粒子を散らす。


 太陽を想わせる樹の屋根と樹の幹に枝から迸っている魔線はサシィと繋がっている。

 

 それは今までの眷属たちと同じくマリオネット的な繋がりだ。

 そのルシヴァルの紋章樹の幹と屋根には<筆頭従者長選ばれし眷属>の大きな円と<従者長>の小さな円が、類縁関係と派生関係などを樹の枝分かれの形に示した図、系統樹、樹状図として表されていた。

 

 光魔ルシヴァルのデンドログラム。

 

 ルシヴァルの紋章樹の形成と共に血の海の総量が一気に減った。血の海の半径も狭まる。

 

 と、ルシヴァルの紋章樹の太い幹は肌呼吸を行うが如く隆起を繰り返した。


 隆起する度、根っこも太くなりつつ四方八方に拡がる。俺とサシィの心臓の律動が高まった。

 

 血の錫杖のカンの音が響く。

 と、足下の血の海の中でルッシーたちは田楽踊りを楽しそうに行っていた。


 ビュシエの時にもいた宿曜師すくようしの格好をしたルッシーは面白い。


 そんな血の中に……。


 陛戟へいげきを持ち、宮殿の階段側を守る陛者へいしゃのような血霊衛士の幻影たちがまたも出現。軍隊の儀仗を掲げる動作と足踏みを交互に行っていた。すると、

 足踏みの音に合わせて、サシィの足下にルシヴァルの紋章樹の根っこが絡み始めた。

 そのサシィの足と周囲は深淵を意味するように暗い。対照的に、ルシヴァルの紋章樹の幹と枝と葉は非常に明るい。

 

 その幹の樹皮から枝と葉へと光の波が伝わる。

 

 その様子は栄養源が根っこから葉っぱへと行き渡っていく映像にも見えてくる。神聖な栄養を得たような葉が艶やかに光る様は非常に美しい。


 サシィの足下の暗い血の海にルシヴァルの紋章樹の幹と枝の輝きが反射する光景もいい。


 夜空を彩る月と星々の明かりを想わせる光景。

 太陽のような屋根と幹。

 月のような根のコントラストも冴える。


 ビュシエと同じ<ルシヴァル紋章樹ノ纏>と似た光景。<光闇の奔流>の意味だ。


 ※光闇の奔流※

 ※光と闇の属性を魂に持ち、その魂の激流を表した物。光と闇の魔法が使用可能となる。光属性と闇属性の攻撃を吸収&無効化、精神耐性微上昇、状態異常耐性微上昇。しかし、光と闇の精神性に影響されやすくなる※


 ビュシエの時にも考えたが……。

 俺の基本で根本か。光と闇、陰と陽。

 天地間の万物を造り出す二気、結局は一つ。

 人はだれしも光と闇を持つ。

 

 すると、サシィは光魔ルシヴァルの俺の血をすべて吸い取った。サシィの胸から閃光が迸る。

 ルシヴァルの紋章樹とサシィが重なった直後、そのサシィとルシヴァルの紋章樹から榊の棒が出てきた。


 先端の枝と葉の形が斧槍。

 斧と矛の形の榊だ。

 

 その榊の斧槍を掴む――。

 掌に斧槍のような棒が自然とフィットした刹那、


「あんッ」


 サシィは気持ち良かったのか、喘ぎ声を発した。


 その榊と似た斧槍を振るう。

 先っぽにある枝と葉でサシィの体を祓い撫でた。


 榊の枝と葉が触れた箇所は血の線が刻まれる。

 鎧だろうと具足だろうと変わらない。

 血の線から無数の乱数表のような数学染みた暗号が迸り、周囲の空間に穴を空けながら散ると、空間の穴は消えた。

 

 光を帯びたサシィは、また感じたように体を反らす。


「あぁッ」


 またも喘ぎ声を発した。

 乳房は胸甲で見えないが、跳ねたと分かる。

 同時に、体に魔族、源左の九曜紋の印が出ていた。


 その横にルシヴァルの紋章樹の系統樹が刻まれた。

 

 刹那、銀色の葉と万緑の葉の榊の斧槍が俺の魔力を吸う。

 更に、手から離れて、鎧をすり抜けるようにサシィの体の中へ浸透した。

 

 サシィの体から光と血が宙に迸る。


 それらの光と血は、細かな陽と陰を無数に形成。

 無数の陰陽太極図は、陰極と陽極を意味するような陰極線の魔線を放ちながら、俺たちの周囲を旋回し、太陰暦を表すように旋回を続ける。


 と、周囲の惑星、地球の意味を見出すような記号と黄金比率を展開させながら、再びサシィの体の中へと帰還した。


「あぁぁ……」


 サシィは目を瞑りながら、切ない声を発して背を反らす。

 震えた体から自然と血色の蛍が無数に発生していた。

 直ぐに両足が弛緩――。

 急ぎ前進して、サシィを支えた。


 ピコーン<血道第六・開門>※恒久スキル獲得※

 ※<血道・明星天賦>※恒久スキル獲得※

 ※<血道・九曜龍紋>※恒久スキル獲得※

 ※<始祖古血魔法・血文王雷鬼槍刃>※スキル獲得※

 

 おぉ、ついに血道が第六へと進化!

 更に、<始祖ファウンダーノ古血魔法・オールドブラッドマジック>系統の<始祖古血魔法・血文王雷鬼槍刃>も覚えた。


 感覚でなんとなく遠距離攻撃を兼ねた直進スキルだと分かる。


 更に<筆頭従者長選ばれし眷属>の最大数が二十五名に増えて<従者長>の数も三十名に増えた。

 とりあえず、


「……サシィ、大丈夫か?」


 サシィは震えながら瞼を開く。

 可愛い瞳は血で染まっていたが、その血も収まると、


「シュウヤ殿……わたしは光魔ルシヴァルに……」

「おう、無事に<筆頭従者長選ばれし眷属>になったようだな」


 そう発言した刹那――。


 サシィの体が跳ねるように動いて「――アンッ」と喘ぎ声を発し、白眼となって震えながら失神。

 同時に、股間からむあんと女の匂いを漂わせる。

 起きるのを待った。

 体がビクッと揺れると、目を覚ましたサシィは、唇が震えて犬歯を伸ばす。

 ――《水浄化ピュリファイウォーター》と<水血ノ混百療>を連続発動。


 浄化と回復を受けたサシィは目を開ける。

 血を欲している表情だ。


「……シュウヤ殿……」

「血を吸うか?」

「……でも、シュウヤ殿に噛みつくなんて……」


「<血魔力>はいつでも出せるから、気にするな――」

 

 両手から血を流しつつ、サシィの唇に人差し指を優しく置く。


 サシィはまた失神――。

 が、すぐに俺の血を得たことで体から蒸気のような熱い魔力を発し、無数の蛍の魔力を誕生させる。


 そのサシィは起きると、自然と俺の指を舐めていく。


「んん、あぁ……んちゅぱ、ちゅぱっぱっ……」

 

 と卑わいな音を響かせるから、股間が反応してしまう。

 サシィは俺の血を吸い続けていく。

 

 人差し指が食われるかと思ったが、サシィは冷静さを取り戻したのか、急いで人差し指から口を離した。


「す、すまない……」

「いいんだ。初めての<血魔力>だからな。立てるかな」

「あ、うん……」


 と一人で立とうするが、蹌踉めいた。

 すぐに背中に手を当てて支えてあげると、なんとか立てていた。


 サシィは、


「<血魔力>を得ると、ここまで変容するのか……感覚が、音も異なる」


 言葉も震えていた。

 声音も少し変化したように思えた。そのサシィに、


「おう、慣れるまでちょいと掛かると思う。それと、この処女刃を渡しておこう」

「あ、これは?」

「腕に嵌める腕輪で、内側に刃が仕込んである。釦を押すとカラクリが起動して、内側から刃が飛び出て傷を受け、血が流れる。が、吸血鬼ヴァンパイア系だから直ぐに再生する。そうしてそれを起動させて刃を喰らい、血を出して、その感覚を強めていくのが<血道第一・開門>の訓練だ。因みに<血道第一・開門>は、第一関門、第一開門と呼ぶこともある」

「これを嵌めて血を流す訓練か、分かった」

「「閣下ァ」」

「閣下、無事に終わったのですね!」

「ウォォォ、羨ましいイチャイチャをしていた<筆頭従者長選ばれし眷属>!! おめでとうだ!!」

「サシィ、<筆頭従者長選ばれし眷属>化おめでとう」

「源左サシィ<筆頭従者長選ばれし眷属>となる!! ですね」


 テンのいつものテンションの言葉を聞くと安心できる。


「サシィ、光魔ルシヴァルの<筆頭従者長選ばれし眷属>化おめでとうだ。これで家族の仲間入り。しかし、主、弁当の料理を食った前後で何かしたか? 魔力などが上がったように見えたが……そして、指先から出していた<血魔力>が、今までとは異なる質の<血魔力>に見えた。まさか、アクセルマギナが言っていたように、本当に血道が進化したのか?」


 アドゥムブラリは常闇の水精霊ヘルメ並に鋭い。

 頷いた。

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