千四十一話 違和感の石棺
<血道第三・開門>から派生した<血道・石棺砦>か。
複数の石棺を武器や防具にできるのなら面白い。
「その石棺はビュシエの物だ」
「はい。まずは一旦、すべての石棺を集めますか?」
「あ、そうだな。アイテム回収が楽にできる。頼む」
「はい、お任せを。わたしも訓練を兼ねて――<血道・石棺砦>を使います! あ、ロロ様、そこの石棺から降りてください」
「ンン――」
また石棺に乗って縁を歩いていた
喉声を発して床に降りた。その
<血魔力>製の玩具に夢中になって遊ぶ様子は微笑ましいが、敵が戦闘中に似たような遊び道具をフェイクに使ったら、相棒は……。
それに反応してしまうかも知れない。もしそうなら神獣ロロディーヌの弱点か。
ビュシエは「では――」と言いながら全身から<血魔力>を真上の方向に発した。
上昇した<血魔力>は天井と衝突――。
血、<血魔力>は周囲に散りながら四方に向かう。と、その<血魔力>の中にルシヴァルの紋章樹の幻影が出現した。
そのルシヴァルの紋章樹の幻影の枝が、更に四方八方へ伸びつつ降りかかってくる。
これは攻撃にも使える?
その幻影の枝は、皆を避けながら複数の石棺に付着し絡まった。
「<血魔力>の扱いが洗練されたような気がします――」
とビュシエは発言。
絡まった幻影の枝は消える。輝く血が石棺に付着しているだけとなったが、それらの複数の石棺は浮遊し、皆を避けながら飛来してきた。次々と重低音を立てながら横に並び始めていく。結構壮観だ。
一瞬、巨大なテトリスのような印象を抱く。ピタッと石棺と石棺が揃うと、石棺の縁が神々しく<血魔力>で輝いた。
「一つ、違和感がある石棺がありますが……蓋が開いていた石棺と、蓋が閉じていた石棺を分けます――」
「おう」
一瞬で、蓋が閉じられている石棺が俺の右横に並ぶ。
蓋が開いている石棺は俺の左横に並んだ。
「ビュシエが操作した石棺の速度は速い。<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>――的な運用が可能と分かる」
ビュシエに大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を見せた。
「ふふ、風槍流の文字が格好いいですね」
「おう。ビュシエの、石棺を<血魔力>で操作したその<血道第三・開門>から派生した<血道・石棺砦>だが、光魔ルシヴァルの<
「はい、強化されました。速度が飛躍的に上昇し、石棺一つ一つの操作がより容易に。しかも、わたしが眠っていた石棺を旗艦、本体として、他の三十五の石棺の融合が可能になった」
「おぉ、石棺の融合とか、強化された<血道・石棺砦>は俺の<
俺がそう予想すると、ビュシエは神妙な顔つきとなる。
と、ハッとした表情となってから数回頷く。
「――凄い! あ、はい。シュウヤ様の言葉でなんとなく<血道・石棺砦>の進化の理解が強まりました。光魔ルシヴァルの<
そう語るビュシエは、本体、旗艦と呼んでいた石棺を頭上に浮かばせる。その石棺は、確かに他の石棺とは模様とデザインが違う。
日本の古墳にあるような舟形石棺と似ているかな。
魔王ビュシエ・エイヴィハンとしての魔族の模様もある。
落ちていた蓋にもビュシエの<血魔力>のルシヴァルの紋章樹の幻影の枝が絡む。
その枝とルシヴァルの紋章樹の幻影は消えて<血魔力>が付着した蓋となった。その血が付着した蓋も浮遊し、旗艦石棺の上に乗ると、ビュシエの扱う旗艦石棺は一瞬暗くなってから光を帯びた。
石棺の横に古代文字とルーン文字に魔印が浮かぶ。
綺麗だが、ホフマンの巨大な棺桶を思い出した。
ファーミリアの<筆頭従者>で地球からの転生者のホフマンはどこで何をしているのやら……。
ビュシエも浮遊して、その浮いている石棺の上に腰掛けた。
衣装を上下揃いの光沢のあるサテンドレープの服に変化させている。
「おぉ~、それで空中移動も可能?」
「可能です。潤沢な<血魔力>を得ていますから、永遠に近い空中航行も可能」
「「「おぉ」」」
「ウォォン! 我もその石棺に乗りたいぞ!!」
「あ、はい、ではここにどうぞ、ケーゼンベルス様」
ビュシエは横にお尻をズラし移動していた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは姿を縮ませる。
それでも大きい黒い狼のケーゼンベルスだったが、その姿で、
「――ウォン!!」
と鳴きながらのビュシエの乗っている石棺に跳び乗った。
カツカツと爪先が石棺に当たっている音が響いてきた。
その魔皇獣咆ケーゼンベルスは石棺の上で歩くように回転しながら端に戻ると、
「乗れた! ビュシエの石棺は頑丈である!!」
そう宣言。
ビュシエは石棺を操作、浮遊しながら、【吸血神ルグナドの碑石】の地下空間を回り始めた。
「「「ウォォン!」」」
ケン、コテツ、ヨモギの黒い狼たちが見上げながら数度鳴いていた。
「石棺の操作といい、想像力が重要なら、主の<血魔力>を受け継いでいるとよく分かる」
アドゥムブラリの言葉に皆が頷いた。
ビュシエは、
「はい。では、ケーゼンベルス様、降りてください」
「うむ!」
魔皇獣咆ケーゼンベルスはビュシエの石棺から飛び降りた。
ビュシエは石棺に腰掛けたままで、石棺を操作して近くに移動してきた。
「シュウヤ様、蓋を開けてアイテムを回収しましょう」
「そうだな。皆も開けて良さげな品を回収してくれ」
「おう~」
と、アドゥムブラリが右手前の石棺の蓋を退かす。
中には魔槍が入っていた。
「「了解」」
「ウォォォン! 我は左!」
「「「ウォォン!」」」
魔皇獣咆ケーゼンベルスと黒い狼軍団は左の石棺の前に移動する。
と、二頭のヨモギとケンが両前足と頭部を石棺の蓋の縁に当てて、その蓋を外に押し出そうとしていた。
蓋を押し出せても中身の回収はできないだろうに。
「お前たち、我が押す、下がるのだ!」
「「「ウォォン!」」」
魔皇獣咆ケーゼンベルスが大袈裟に指示を出す。
その指示に従う黒い狼たちは尻尾を振るいながら、ケーゼンベルスの背後に移動していた。
その可愛い様子を見て、
「はは」
「ふふ」
ビュシエと笑い合いながら右の石棺の蓋を横にズラして落とす――。
その石棺の中には仕切りで区切られた〝試験管のような瓶が詰まっている箱〟と〝<血魔力>を独自に発している怪しい長い箱〟に属性のマークで区切られている〝魔宝石が入った箱〟と、セスタスを思わせる〝拳用武器〟と〝棍棒〟が見えた。
「あ、その棍棒は、ルグナド様の<従者長>ジャンが使い、わたしの<筆頭従者>クキュの<従者長>ダトマルハが受け継いで使っていた棍棒! わたしも時々使っていました」
「へぇ、棍棒の名は?」
「〝バドマイルの魔棍棒〟です」
「〝バドマイルの魔棍棒〟か。ビュシエがさっき出していた武器の中には棍棒もあったが、主力武器、得意とする武器はあるのかな」
「なんでも使えますが……棍棒、メイスが得意、いえ、好きですね」
「そっか。なら、その〝バドマイルの魔棍棒〟はビュシエが回収しとくといい」
「分かりました――」
「俺はとりあえず、この〝試験管のような瓶が詰まっている箱〟と〝<血魔力>を独自に発している怪しい長い箱〟に〝魔宝石が入った箱〟、〝拳用武器〟を回収しとく――」
「はい」
皆も色々と回収していく。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスも豪快に蓋を退かす。
中には、黒い壺に入った金貨と、赤い壺に入った白金貨、古文書のような書物、魔刀、薙刀、大きな魔斧が入っていた。他は骨と土。
「閣下!! この金貨はァ!」
「ウォォォ――」
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは全身から粉塵のような魔力を噴火させる勢いで放出させていく。
石棺が見えなくなったがな。
と、その粉塵染みた濃厚な魔力を甲冑の節々に吸い込んだゼメタスとアドモス。
「もしかして、黒い壺と赤い壺に入っている金貨と白金貨は、ゼガの魔コインか?」
「「分かりませぬ!」」
――分からんのかい。
一瞬、膝からくずれおち、柔道の前回り受け身を行いたくなった。
代わりに、
「ンン、にゃぉ~」
相棒がごろりと寝転がってへそ天を見せる。
ぐっ、可愛い。
すると、ゼメタスは一つ金貨を掴む。
「ゼガの魔コインより高級そうなアイテムに思えます」
そう発言すると、ビュシエが、
「その魔コインはディペリルの高級魔コイン。黒い壺に入っているのは、レブラの高級魔コイン、メファーラの高級魔コインなどが多いはず。赤い壺の高級魔コインは、レンシサの魔白金コインです。それらの魔コインは、召喚などの魔法やスキルの触媒に使われる。他にも極大魔石、大魔石、魔石などと交換が可能な価値の高いアイテムです。セラでいう硬貨代わりとなる。そして、その石棺は、わたしの<筆頭従者>パークマルが使っていた」
「「おぉ」」
「高級魔コインはゼメタスとアドモスが仕舞うといい」
「「ハッ!! ありがとうございます!!」」
「古文書のような書物、魔刀、薙刀、大きな魔斧は、一旦俺が預かる。後で皆に分配だ」
「「はい!」」
「器ァァ、魔刀がいっぱい出たァァ」
「こっちは魔宝石が無数に!!」
「きゃぁ、こっちは血が、って、え!」
貂が悲鳴を上げてこっちに避難。
その石棺には、たしかに血が入っていた。
血は何かに吸引されている。
「ンン、にゃご?」
しかも、俺とビュシエの<血魔力>ではない。
ビュシエと目が合うと頭部を左右に振り合う。ビュシエはハッとして、
「あ、違和感のあった石棺かも知れない」
「了解、未知の敵と認識しよう」
魔槍杖バルドークを右手に召喚。
石棺の底の血はどす黒い色合いに変化。
魔素は感じないが、石棺の底に何かいるようだ。
幽体系かもしれない、左手に神槍ガンジスを召喚。
アドゥムブラリ、フィナプルスも回収を止めて近付く。
「ウォォォン!」
「なんでしょう」
「はい、敵? でも、魔素は感じなかった」
「あぁ、俺も――」
パパスが魔斧を見せながらそう語る。
皆も寄ってきた。
どす黒い色合いの血が無くなると、アメーバのようなモノが石棺の底に貼り付いていた。そのアメーバのようなモノは蠢いて消えた。
否、真上の空間が歪む、転移か。
歪んだ空間からアメーバのようなモノが再び現れる。
アメーバのような半透明なモノは形が崩れた。
崩れると、女性の姿を模る。
途端に、強い魔素を察知した。
「『……我の贄か?』」
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