千四十話 魔剣ルクトマルス、魔速チャージャー、バンスルの冥力の回収
フィナプルスの飛行速度に合わせて宙空を走るように足下に<導想魔手>を連続的に生成し続けた。
生成速度が上昇しているような気がするが、<早口>が秘かに効いていたら面白い――。
そのままフィナプルスと並ぶように周囲を旋回しながら、アドゥムブラリと
ビュシエと
が、蝶々は消えてしまった。
すると、ビュシエは
躍動感が半端ない。が、蝶々は消えた。
ビュシエは代わりに<血魔力>の海老の玩具を生み出す。
と、後ろ脚の連続キックをダダダッと海老の玩具に浴びせ始めた。
海老の腹が一瞬で破れる。
中から血の繊維質のようなモノが大量に飛び出てしまった。
結構リアルな海老の玩具だ。
ビュシエは
と、指先から<血魔力>を、その壊れた海老の玩具に送る。
真っ赤な<血魔力>を得た海老の玩具はバタバタと生き返ったように動いた。
蹴られた部分は時間が戻るように修復されていく。
相棒は、
「にゃご!?」
と急に動いた海老の玩具に驚き、海老の玩具を蹴り飛ばして後方に転がって逃げた。
転がりながら石棺に背中をぶつけた
「ンンン――」
と興奮したように喉声を響かせながら全身の毛を逆立てていた。
そのまま耳を凹ませて目をつり上げ、斜め横の方向へと体を向けて歩き始める。
ウィリーを行うように両前足を上げた。
通称『やんのかステップ』を行う。
はは、そのすべてが可愛い。
ビュシエも『大丈夫ですよ~』と言うように口に手を当てて笑っていた。
ビュシエの失われていた片足は再生している。
良かった。再生していなければ<邪王の樹>か<破邪霊樹ノ尾>で義足を作ることも視野に入れていたが、必要なさそうだ。
そのビュシエは魔力が内包された靴を穿いている。
銀鎖のバングルから、鎧と戦闘装束のように展開させたのかな。
魔力が内包された靴はパンプス系で黒が基調。
<血魔力>の色合いと合う銀と黄も少し混じっていた。
ビュシエは魔猫パン用に<血魔力>の猫玩具まで作れるようだから、
フィナプルスと共に周囲の石棺と、吸血神ルグナド様の神像を見ていく。
「――吸血神ルグナド様の神像にも魔力を感じますが、この神像も儀式用のアイテムに分類される?」
「そうかもな。戦闘型デバイスで回収できるか試すか――」
フィナプルスの手から離れて、吸血神ルグナド様の大きい神像の肩に着地。
無礼かもしれないが、その神像の首と鎖骨を守る首当てのような部分に手を当てながら戦闘型デバイスのOSを意識し、格納を自動展開させる。
古いメニューに切り替えずとも自動で可能なのは便利だ――。
真っ黒なウィンドウが右腕に嵌まっている戦闘型デバイスの真上に展開された。
その真っ暗なウィンドウを巨大な吸血神ルグナド様の神像に当てながら、格納を強く意識したが、ドゥゥゥンという振動音がアイテムボックスから響く。
回収はやはり無理、壊れそうだから止めておこう。
「無理だ」
「はい」
「この神像がある【吸血神ルグナドの碑石】の内部や周囲だと吸血神ルグナド様の一門に恩恵があるとかありそうだ」
「一種の
「あぁ、戦闘能力が向上とか回復能力が高まるとかありそうだ。さ、下りよう」
「はい――」
フィナプルスと共に皆がいる中央に下りた。
同時に無魔の手袋を戦闘型デバイスに戻す。
ビュシエと
「シュウヤ様、周囲の石棺ごと回収を行うか、中身を回収しますか?」
気を使わせたか。
ビュシエからそう言ってきた。
「いいのか? 入ってる品は仲間、眷属たちの遺品だと思うが」
「大丈夫です。皆の想いは受け継いでいます。回収しましょう」
「お~」
「ビュシエから許可も得たし、器、お宝をゲットだ」
「経験豊富な
「あぁ、放置せず、回収すべきだな。マーマインの生き残りがゲットしたら、脅威になる」
「マーマインが繁殖し易いなら、あっという間に増えて拠点を造るかもですぜ。【ローグバント山脈】の脅威になるかもです」
アドゥムブラリとツアンがそう予想。
ツアンは、
「そして、これらの石棺は全部で三十を超えていますから、かなりの量のお宝がある!」
「ングゥゥィィ」
そう言えば、ハルホンクが反応していた。
「回収するからいいとして、魔族には冒険者のような存在はいるのかな」
ビュシエを含む皆にそう質問。
「いるぜ、魔傭兵がセラでいう冒険者だろう。そいつらがここを探索する可能性は高い。マーマインの状況が周囲に知られるのは時間の問題だからな」
アドゥムブラリがそう発言。
あぁ、魔傭兵がいたか。
デラバイン族に付いた魔傭兵ラジャガ戦団を率いているミジャイもいたな。
ミジャイは【バードイン迷宮】に囚われている仲間の救出を頼んできた。
サシィとリューリュとツィクハルの眷属化を行えば、バーヴァイ城の周囲は固まったと言えるか。
タチバナのことも伝えて、他の地域の探索などもしたいが……。
ミジャイも仲間のことが気になるだろうしな。
俺と相棒とミジャイたちの少人数で元魔界王子テーバロンテの本拠周辺に突っ込むのもいいかもな。
その前にヴィーネたちを呼ぶか。
元魔界王子テーバロンテの本拠周辺か、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力との激突は必至と予測できる。
「はい、魔傭兵には放浪の魔界騎士や自由な魔界騎士も含みます。それらがセラで有名な冒険者に当たるでしょう。セラの冒険者も玉石混淆ですが、強者はいる」
ビュシエもそう発言した。
「ビュシエはセラに渡ったことが?」
「あります。ルグナド様が持つ傷場から数度」
「ルグナド様の任務かな」
「はい、ルグナド様とコンタクトがとれる、セラの高祖十二支族ドムラピエトー家女帝バムアの要請です。バムアの護衛とドムラピエトー家の仕事を手伝ったことがあります。更に、吸血神信仰隊の長老の一人レムリア・シュラベルンとも会ったことがあります」
「お? 吸血神信仰隊か、数回聞いた覚えがある」
「知っていましたか。吸血神信仰隊は行動範囲が広いですからね」
「そうなのか。吸血神信仰隊の行動範囲や指針は知らない。聞いた覚えと、名が記された古い手記で知っているだけなんだ」
「そうでしたか。吸血神信仰隊とは、セラ側の、ルグナド様の直の眷属が運営する
「へぇ、勉強になる。ありがとう」
「ふふ、吸血神ルグナド様と関係したことなら、知っている範囲で教えますので、色々と聞いてください」
ビュシエの言葉に自然とラ・ケラーダの想いを得た。
――感謝。
「ありがとう、そうさせてもらう」
「はい」
アドゥムブラリは無言。
吸血神信仰隊はあまり知らないようだ。
バーソロンは知っているかも知れない。
そのビュシエが、
「ちなみに古い手記とは?」
「大魔術師ミユ・アケンザが遺した古い手記。タイトルは、『アービンスターフとキセルスイード』、『魔塔ゲルハット』、『大魔術師ケンダーヴァルたち』」
そう言うと、
「あ、大魔術師ケンダーヴァル! ルグナド様は、セラの中でもかなり要注意の人物がケンダーヴァルだと話をされていました。更に、『我の眷属たちの争いに介入し、魔界四九三書を得た大魔術師……底が知れぬ野望を持つ』と……仰っていました」
ビュシエが驚きながらそう発言。
納得だ。
「それは分かる。優勝賞品の〝紅孔雀の攻防霊玉〟と〝法魔ルピナス〟は豪華すぎる品だ」
アドゥムブラリが同意してそう発言。皆頷いていた。
ツアンも、
「ビュシエの姐さんもセラを知っているなら聞いたことがあると思いますが、大旦那、シュウヤ様の使者様は、【塔烈中立都市セナアプア】の上界にある魔塔ゲルハットを所有しているんです」
ビュシエは頷いて、
「【塔烈中立都市セナアプア】の名は聞いたことがある。魔塔が連なり立つ巨大な浮遊岩などで構成された大都市、下界は三角州とも」
「そうだ」
「はい。しかも、使者様の魔塔ゲルハットは【幻冥暗黒回廊】と通じているんですぜ」
「なんと!! 【幻冥暗黒回廊】と繋がっているとは」
驚くビュシエに、
「【幻冥暗黒回廊】は魔界セブドラとも通じているんだよな」
そう聞くと、
「はい、通じています。備わらせるにはそれなりの施設に魔法力、精神力、称号などに、スキルも<魔大結界>、<魔重・大楔>、<空間魔造転移>などが必要とされますが」
【幻冥暗黒回廊】と繋がる網の浮遊岩に、魔界の魔元帥級のラ・ディウスマントルが復活した際、その【幻冥暗黒回廊】から、魔毒の女神ミセア様の眷属キュルレンスさんが現れた。
数度頷きつつ、そのことではなく、
「俺が持つ魔塔ゲルハットは、大魔術師ケンダーヴァルたちが造り上げた」
「そうでしたか、ルグナド様が警戒した大魔術師ケンダーヴァルが関わった魔塔を、【幻冥暗黒回廊】が備わっているのも納得できます」
「……フクロラウドこと、大魔術師ケンダーヴァルは、パイロン家に手を貸した」
アドゥムブラリがそう告げる。
「ふむ。魔霊魂トールンや魔結界主ヒカツチなどを組み込んだ魔塔ゲルハットを造り上げた一人じゃ」
沙もそう告げた。
「出身は魔法都市エルンストと言われているとも手記にはありました。八賢者ペンタゴンでもあると」
貂の言葉に頷いた。
サシィと黒狼隊にケーゼンベルスは分からないと思うが、一生懸命聞いている。
ケーゼンベルスの尻尾が揺れる度に、黒狼隊の三匹の尻尾も同じように揺れるのは面白かった。
そして、フクロラウドの表情を思いだし、
「その大魔術師ケンダーヴァルの現在の名が、フクロラウド・サセルエル。ドラアフル商会とフクロラウド大商会を持ち、フィクサーで闇の大商人、【闇の八巨星】の一人。今も、【塔烈中立都市セナアプア】の上界にいるはずだ。そのフクロラウドはクナとの会話の中で、『……さすがに無理ですね。改良なら施せるかもしれませんが。嘗て【九紫院】の離脱者を追う者たちを統率していたことで、次元を渡るような超生物や魔造超生物を見る機会が多かったですが……捕まえるだけでも難しいですから』と発言していた。その言葉と雰囲気からして、知恵の神イリアスを信奉するミスラン塔を本拠にする【輪の真理】の【九紫院】に嘗ては所属し、そのリーダー格だったと推測する」
「【九紫院】の離脱者を追う者たちのリーダー格……【ダークトラッカー】ですね。……そして、
ビュシエは少し動揺し、
『大丈夫なのか? そんな都市にある魔塔ゲルハットを持つなんて……』
と聞くような顔付きとなる。
気持ちは分かる。
「さて、その関係の話は今度、石棺のアイテムを見ていこう、優秀なアイテムなら回収だ」
「はい」
「それと、石棺の真上に浮かんでいた血の紋章は消えているが、吸血神ルグナド様か、ビュシエの封印の紋章だったのかな」
「そうです、他の者が触れたら紋章が破裂し、石棺も破壊される紋章でした」
「にゃ」
相棒は石棺に前足を当てている。
「なるほど、触らないで良かった。では、ロロが開けろと言っている石棺の蓋からずらす――」
と、近くの石棺の蓋を押し退けた。
石棺の蓋が横にずれて落ちた床からドスンッと重低音が響いた。
石棺の中には、鞘付きの魔剣と指輪にネックレス、背嚢に巾着袋と魔法袋が入っている。
ビュシエは、
「鞘付きの魔剣の名は〝魔剣ルクトマルス〟。魔王級ルクトマルスの名が付く魔剣。<血魔力>との相性がいい。使っていれば自然と<血剣狭斬>と<血導魔術>を覚えて、<血剣ムササビ>と<血剣ラミア返り>を覚えることも可能。わたしの<筆頭従者>キニーヒヤの装備でしたが、亡くなってからは吸血神ルグナド様の<従者長>パフィールが永く使っていました」
「そのパフィールも……」
「はい、わたしの一族や仲間は皆、死んでいる」
暫し沈黙。
ビュシエは気にせず、指輪に人差し指を向け、
「指輪の名は〝魔速チャージャー〟。装備しているだけで速度を上昇させる。事前に魔力を込めて、その魔力を解放させると加速を行えます。再び使うには一時間ぐらいの間が必要。魔力を込められる回数は一回のみですが、何度でも使用可能です。横のネックレスの名は〝バンスルの冥力〟。バンスルという冥界の魔法防御の膜を前方に展開できる魔法のネックレスです。これは使用回数などはなく、永遠に使えるはず」
「色々だ。貴重と分かる。本当に俺たちがもらっていいんだな」
「はい、シュウヤ様が使わないのなら、すべての品をわたしが回収します」
「分かった、んじゃ回収するが、皆で分けるとしよう」
リューリュたちを見ながらそう語る。
「おぉ~」
「え!」
「わ、わたしたちにも!?」
喜んでいる顔に見えないツィクハルがそう聞いてきた。ツィクハルは美人さんだが、面白い女性か。
「おう」
「おぉ~」
「〝魔速チャージャー〟と〝バンスルの冥力〟と〝魔剣ルクトマルス〟は、一旦俺が回収しとく――」
鞘付きの魔剣〝魔剣ルクトマルス〟。
指輪の〝魔速チャージャー〟。
ネックレスの〝バンスルの冥力〟。
を戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞った。
背嚢に巾着袋と魔法袋も一旦回収。
「石棺だが、ビュシエの過去の戦いの幻影を俺たちは見ているんだが、石棺自体が武器や防具に使えるのかな」
「はい、無数の石棺を一度に操作できる、<血道第三・開門>から派生した<血道・石棺砦>などのスキルもあります」
「「おぉ~」」
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