千四十二話 吸霊胃無アングストラと激闘に異世界
「お前は何だ?」
「『我は吸霊胃無アングストラ!』」
半透明な女の名は、吸霊胃無アングストラか。
言語は南マハハイム語に近い魔界の言葉だった。
が、神意力を含んだ言葉と思念にはパワーがある。
精神を削られたような感覚を受けた。
この吸霊胃無アングストラは神格を有しているということだろう。
または精神的なダメージを与えることができるスキルを使っているのか?
「どうして石棺に入っていた?」
「『お前、魔力が潤沢か。その<血魔力>を寄越せ――』」
体からどす黒い色合いの液体を飛ばしてきた。
液体は一瞬魔剣の形となったが、液体に戻りつつ飛来。
《
床は溶けて煙が発生。
アングストラが放った黒い液体は酸のような効果もあるようだ。
『「ウォン!! アングストラとやら! 主に唾を吐いたことを後悔させてくれる! ――ウォォォン!!」』
怒った魔皇獣咆ケーゼンベルスがシャウト系統の神意力を込めた衝撃波を半透明な女性のアングストラに繰り出した。
立ちこめていた黒い煙ごと、吸霊胃無アングストラの体を粉々にして吹き飛ばした。その粒は青白い閃光を発して燃えていく。
倒したか?
「「「おぉぉ」」」
「魔皇獣咆ケーゼンベルス様、凄い!」
「ウォォン、まだだ。アングストラは強い!」
ケーゼンベルスが指摘したように、アングストラの右手にあった紫と黒の靄のような魔力を発生させている指輪だけが浮遊し続けていた。
黒い煙が消えた床は重い砲弾が床にめり込んだように凹んでいる。
液体には、酸のような効果以外にも物理属性もあるのか?
すると、床から振動が起きた。
「『見事な神意力を有した攻撃だが、次はこうはいかない』」
思念と不気味な言葉がエコーが掛かって周囲から響く。
アングストラの散った液体の粒がいたるところから発生。
その粒が空中に集結し蠢(うごめ)きながら紫と黒の魔力を発している指輪と融合すると、アングストラの指と右手に前腕などが一気に再生された。
そのアングストラの体の
糸状の細胞小器官も無数に見えた。
アングストラは
アングストラの右手の指に
あの指輪が怪しい。
すると、石棺の底にあった骨と土が魔線と繋がり浮かぶと、それらの骨と土がアングストラの半透明な女性の肉体に付着していく。
瞬く間に土と骨が半透明な体に融合して体へと変化を遂げた。
ツアンが、
「宝箱を守る守護者級や、
そう言いながら、<血甲光斬糸>を繰り出した。
ククリ刃の先端から輝く血の糸がアングストラに向かう。
<血甲光斬糸>の輝く糸の形が途中で円環状に変化。
アングストラは眼前に<血魔力>の紋様を発した血の盾を生成するが、ツアンの円環状の<血甲光斬糸>の糸は、その盾を細切れに切断し、アングストラの首と胸をも切断――。
しかし、切断されたアングストラの頭部は浮遊。
アングストラは口を動かし、嗤い声を響かせてから、
「『――効かん! が、その<血魔力>……お前たちの<血魔力>は……』」
そう発言すると胴体とくっ付いて再生。
「――吸霊胃無アングストラは、シャプシーのような幽体系と
「たぶんな」
「闇の精霊系統も混じっていると思うが――」
アドゥムブラリだ。
<魔弓魔霊・レポンヌクス>を構えたアドゥムブラリは、<魔矢魔霊・レームル>の赤い魔矢を無数に射出していた。
アングストラは赤い魔矢を体に浴びまくる。
が、液体状の体だからな、突き抜けていく赤い魔矢も多い。
赤い魔矢を喰らった体は爆発していた。
その度に土と骨は燃えて散る。
しかし、液体状の体は再生を繰り返して女性の姿を取り戻していた。
あっさりと復活か。
右手の指輪が紫と黒の魔力を発して輝く。
時折、その指輪を装着した手で<魔矢魔霊・レームル>の赤い魔矢を掴み、口に運んで食べていた。
胃袋のようなアメーバが蠢き赤い魔矢を溶かす。
そのアングストラに<鎖>を射出――。
アングストラは真横に移動して<鎖>を避けた。
「旦那、俺たちの攻撃は効いていますよね?」
「効いているはずだ。そして、右手の指輪がアングストラの源かも知れない」
「……あの指輪が弱点、しかし、また微妙に難しいですね」
「あぁ。だがまぁ、逃げない相手なら、必ず仕留める。ツアンたちは遠距離攻撃に徹しろ」
「はい、<光邪ノ使徒>としてがんばります」
ツアンは横に移動。
見た目は綺麗な女性だが、アングストラも皆の攻撃を喰らいダメージは負っているはずだ。証拠に魔力は減り続けている。
逆再生映像を見ているような再生の仕方だった。
アドゥムブラリは、
「俺の<魔矢魔霊・レームル>の魔矢を食べるとは……ムカつくが、強いな……」
「はい、光属性が弱点のようですが、タフですね」
ツアンがそう同意すると、
「我の<魔皇獣砲>を喰らっても平気なようだからな。そして、主が指摘したように指輪が怪しい」
ケーゼンベルスも同意してからそう発言。
「<神刀鳴狐>――」
宙空にいる貂が、そのアングストラに斬り掛かる。
アングストラは体から黒い液体を放出させながら横移動。
素早い貂は斜め前に出ながら更に逆袈裟斬りを敢行――。
逃げないアングストラは両腕の肘辺りから液体状の魔法の盾を生成。
貂の<神刀鳴狐>の神刀による下からの逆袈裟斬りを、斜に構えた液体状の盾で弾く。貂は続けざまに神刀の突きを繰り出した。
アングストラは液体状の盾を正面に翳すと、その突きも弾く。
液体状の盾は硬くもできるようだ。
神刀と衝突した盾の一部は液体の粒となって散っていた。
皆に向け、
「吸霊胃無アングストラはタフで強いが、魔力の絶対量は減り続けている」
「そのようだ――」
アドゥムブラリが<魔矢魔霊・レームル>の赤い魔矢をアングストラに射出。貂は退くと、羅と沙が神刀と神剣を振るう。
アングストラに魔刃を繰り出した。
アングストラは側転から転移を行い羅と沙の魔刃を避けた。
そのアングストラに聞こえるが、構わず――。
「時期を見て本格的に仕掛けるつもりだ。今は、遠距離攻撃を主体に攻撃を続けてくれ。近距離組は無理に近付くな」
「ウォン! 分かった」
「「承知」」
「「「はい!」」」
ゼメタスとアドモスに黒狼隊の面々が返事を返してきた。
ケーゼンベルスは石棺の背後に移動。
すると、
体から橙色の魔力を発している。
「にゃご!」
怒った声を発して首から触手を射出。
触手は吸霊胃無アングストラに向かった。
アングストラは
その片腕が放射状に弾け散る。
否、腕は放射状にうねうねと動き分裂を繰り返すと、液体の粒を発する肉穂花序を作る――。
その花弁が散って
橙色の燕の魔力を周囲に発している触手骨剣と触れた花弁は蒸発し消えていく。
触手骨剣は直進――。
アングストラの腹をぶち抜いた。
アングストラは腹を基点に体が上下に分断されて、液体状の上半身と下半身が螺旋回転しながら吹き飛ぶと、
「『ヌグォァ――』」
思念に悲鳴的な音波を周囲に轟かせる。
その間に
アングストラの上半身と腸と脊髄と下半身の脊髄と腰椎の環状の傷から、どす黒い液体が垂れ流れていく。
そのアングストラの二つの体は、どす黒い液体を垂れ流し続けながら宙空で静止し、青白い炎を発するように燃え始めながらも、
「ウゥ、我の<吸霊胃無・堕花襲>が効かぬとは……もしや、神界の戦神ヴァイスに連なる眷属たちなのか?」
メタンハイドレートを思わせる燃え方だ。
思念は寄越さず、弱気になったようなニュアンスで聞いてきた。
が、液体状の体のどこに発声器官があるのか不明だ。
アングストラの液体の内部にある葉状の仮足の幾つかが裂けていた。
その裂けている部分が口なのか?
その気色悪いアングストラに、
「眷属ではないが、戦神様の加護を持つ
「『……神獣、異質な<血魔力>を扱う神界の手先ども……目的は
異質とか、お前が言うなと言い返したくなったが、しない。
「違う」
「『吸血神ルグナドの遺跡を荒らす魔傭兵か!』」
「そんなことはどうでもいいだろう。光属性が弱点の吸霊胃無アングストラとやら、もう一度聞くが、なぜ石棺に入っていた」
二つの燃焼しているアングストラの液体は
「『……我は吸霊胃無の称号を持つ。光属性なぞ効かぬ……』」
俺の問いは無視か。
そして、神意力を有した思念と言葉で効かぬと語ったが、効いているからハッタリだろう。
二つのアングストラの液体は、その液体からどす黒い液体を周囲に撒くと宙空で重なり合う。右手に嵌めている指輪から右腕が生成されて体が元通り。
女性の吸霊胃無アングストラに戻った。
そのアングストラの口と顎が横と上に裂けるようにひろがった。
裂けた口から黒い液体を吐き出す。
そのどす黒い液体から魔剣を生み出し
魔剣は分裂しながら無数に増える。
「ンン」
その相棒の視線と鳴き声の意味は分かった。
触手の先端から飛び出た骨剣と、黒い液体を垂らす魔剣の群れが、宙空で衝突を繰り返し、無数の火花が散った。
黒い魔剣のすべてを跳ね返す。
跳ね返った黒い魔剣が、アングストラの体に突き刺さった。
「『<吸霊魔剣バトルク>を悉く跳ね返すとは、神獣め……が、ふはは――』」
嗤うと、黒い魔剣を体内に吸収するように吸い込んでいく。
アングストラの体は元通り。
あの液体と転移能力は厄介だ。
神意力を有した魔声も、俺たちの精神にダメージを与えてくる。
そのアングストラの右手に嵌まっている指輪が怪しく煌めいた。
そのアングストラを見ながら
右腕の装束が一瞬で様変わり。
魔竜王の素材の黒インナーが伸びた。
袖口が手の甲と手首の辺りで舞うように泳ぐ。
「相棒――」
その袖から魔雅大剣が飛び出た。
「ンンン、にゃ~」
魔雅大剣の柄をその触手で掴むと、魔雅大剣を振り回しながらビュシエが用意した石棺の背後に移動していた。
さて、俺も攻撃しよう――。
一瞬で
右腕だけが変化していた衣装を、上半身の防護服ごと七分袖のインナーとジャケットに変化させるようイメージする。
そして、アングストラの再生具合から……。
アングストラには水系統の魔法は通じないと思うが――。
《
右手の前に腕の大きさ程の《
「『お前は魔法ではなく<血魔力>を寄越せ――』」
水魔法に反応した吸霊胃無アングストラはそう言いながら体から液体の粒を大量に周囲に飛ばした。
飛来してくる粒の魔力は闇属性が濃厚と分かる。
――《
アングストラは液体、水属性魔法では相性が悪いか。
ビュシエの<
だが、俺は水神アクレシス様の加護に《
ま、いくら成長&強化されようとも、相性の影響のほうが優先されるかな。
物理属性が通用するなら、強引に力で押し切れる可能性は高まるが……。
吸霊胃無アングストラは、物理属性もあまり効かないように見える。
だから、吸霊胃無アングストラには光属性の魔法&スキル系の攻撃だけが通じるってことだろう。
それ以外の攻撃は吸収か無効化されると。
そして、右手に嵌めている指輪がキーと予測。
アングストラは、
「<吸暗・黒刃ソウ>と相殺とは……」
と語る。
相性的に悪いと思ったが、吸霊胃無アングストラ的には、俺の水属性魔法と<吸暗・黒刃ソウ>の相殺は気に食わなかったようだ。
「俺の<血魔力>を取り込めば、お前は爆発すると思うが」
「ふっ、我ならば、お前の魂ごと喰らえばなんのことはない」
吸霊胃無アングストラはそう語る。
左手に嵌めている指輪から怪しい紫と黒の魔力が一瞬縦に噴出していた。
と、
「ングゥゥィィ」
「……その肩にも別個の膨大な魔素を宿しているようだな。意識を持つ武装魔霊か、魔装天狗のような防具か」
「さあな――」
素直に<
<
アングストラは嗤ったまま無数の液体の粒を周囲に生み出しながら消えて、右の天井へと転移。
<
転移したばかりのアングストラに――アドゥムブラリの<魔矢魔霊・レームル>の魔矢と
アングストラは転移と素早い動きで皆の攻撃を余裕で避けていく。
「<源左魔闘蛍>――<源左棒手裏剣・牙神>!」
サシィは蛍の形をした魔力で覆った棒手裏剣を繰り出す。
棒手裏剣の前には一瞬だけ牙の文字が浮いていた。
その<源左棒手裏剣・牙神>の棒手裏剣は、アングストラの体を貫通したが、アングストラの体は再生。
「くっ、源左魔銃よりは自信があったのだが……」
サシィはそう発言。
源左魔銃以外にも飛び道具を持つようだ。
侍と忍者系統の日本語の文字が浮かぶ戦闘用のスキルを豊富にもっていそうだな。
斧槍武術以外にも<投擲>の新しい技術を習うことができたら、更なる成長に繋がる。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスはビュシエが操作する石棺を利用しながら少し前に出る。
アングストラはまた液体を飛ばすが、ビュシエの操作する石棺が防ぐ。
石棺の横から出た俺は、
<
左手が握る神槍ガンジスで弱点を突けるが……。
魔槍杖バルドークを消去。
血の錫杖を右手で握る。
<血想槍>も要所で使うかな。
連続的に<光穿・雷不>と<戦神震戈・零>を用いればいけるか。
皆の遠距離攻撃と近接攻撃を避ける方向とその動きを予測しながら<脳脊魔速>を用いて<紅蓮嵐穿>か、<鬼神・鳳鳴名鳥>?
もしくは、<空穿・螺旋壊槍>か。
<闇穿・魔壊槍>から<空穿・螺旋壊槍>を連続で用いたらどうなるだろう。
どちらにせよ、必殺技をぶち当てたら吸霊胃無アングストラを滅することは可能なはず。
吸霊胃無アングストラがここから逃げようとしたら、分からないが……。
「にゃごぁ――」
相棒が口から細い螺旋状の炎を吐いた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスも「ウォォォン!」と衝撃波を繰り出す。
吸霊胃無アングストラは黒い粒を周囲に発生させつつ上下左右の天井と床へと転移を繰り返し、
その間にも戦闘シミュレーションをゼロコンマ数秒で何度も行いながら――。
――<血道第一・開門>。
両腕から周囲に血を撒き散らす。
弛緩させた両腕から血を垂らしながら――。
<水神の呼び声>を発動――。
そして、吸血神ルグナド様の神像がある【吸血神ルグナドの碑石】には悪いが……。
ここに光魔ルシヴァルの血の証しを示すとしよう。
<血道第四・開門>――。
――<霊血の泉>を実行。
血の湖が一瞬で足下に拡がったが、血の湖面はあまり拡げない。
ビュシエの体にも<霊血の泉>の効果が重なった。
ビュシエの体から<血魔力>がプロミネンスのような形で湧いていく。
<血魔力>のマントのような印象だ。
そのプロミネンスの真上に<血魔力>のルシヴァルの紋章樹のような幻影も見え隠れ。
更に血の錫杖の
<光魔の王笏>としての意味と理解。
※霊血の泉※
※<霊槍血鎖師>及び光魔ルシヴァル血魔力時空属性系<血道第四・開門>により覚えた特殊独自スキル※
※ルシヴァル神殿がある範囲内でだけ本人の周囲に聖域と化す霊気を帯びた血湖の作成が可能。霊気漂う聖域内は、眷属たちの能力がより活性化。初期段階において既にルシヴァルの紋章樹精霊と連携が可能となる※注※さらなる発展の兆しあり※
※聖域では、あらゆる事象がルシヴァルの眷属たちに有利に運ぶ※
更に<血霊兵装隊杖>の血の甲冑、光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の節々が銀色の輝きを帯びた。
胸元にルシヴァルの紋章樹と相棒の神獣マークが刻まれて浮く。
<血道第四・開門>の<霊血の泉>で<血道第五・開門>の<血霊兵装隊杖>を強化できた。
すると、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスが、遠距離攻撃を嫌ったようなアングストラに向け、
「吸霊胃無アングストラ、覚悟――」
「
そう叫びながら直進。
吸霊胃無アングストラは、
「『無駄なことを! 素直に吸収されれば良かろうに――』」
アングストラは嗤うような思念と言葉を寄越す。
俺たちに顔を向けつつ後退すると、ゼメタスとアドモスの左右の宙空から、液体状の触手を繰り出した。
液体状の触手の見た目は半透明なヒドラのようなモノとアメーバのようなモノだ。ヒドラとアメーバの先端には黒々とした歯牙のようなモノが生えて連なっていた。
それらが、ゼメタスとアドモスに降りかかる。
<
「私たちには効かぬ、<月虹斬り>」
「おうとも、<悪式・亜連骨突>――」
ゼメタスとアドモスは、血濡れた骨剣と骨盾を何度も振るい、液体状の触手の攻撃を斬りまくり、防ぎまくる。
時折、ヒドラとアメーバの歯牙と衝突したのか金属音が響く。
ゼメタスとアドモスの乱舞的な攻撃を避けたヘドロのような触手に二人の甲冑は喰われたように衝突していくが、甲冑に傷はない。
フォローの<
が、アングストラは転移するように消える。
先ほどと同じか。
その<
アングストラは、すべての<
その<
「「ぬ?」」
ゼメタスとアドモスの疑問の声だ。
二人の足下の色合いが変化。
アングストラが放ったヘドロとアメーバの液体状の触手だったモノが床を小さい沼へと変化させていたようだ。
床ごと沈んだゼメタスとアドモスは小さい沼に両足が捕らわれてしまう。
と、沼は固まる?
「――ぬあ!? 硬い――」
「うご? 石の沼だと!?」
吸霊胃無アングストラは嗤いながら、
「ふはは! それは<霊堕沼石>だ!」
そう喋るアングストラの後方からアドゥムブラリが偽魔皇の擬三日月を飛ばす。
アングストラはゼメタスとアドモスから離れて横に移動していく。
そのアングストラに
フィナプルスも魔刃を飛ばす。
ゼメタスとアドモスは、
「くっ、このような石なぞ、<黒南風もののふ>――」
「<赤北風もののふ>――」
二人の体から粉塵が吹き荒れる。
石に亀裂が走るが、抜け出せていない。
アングストラは皆の遠距離攻撃を避けつつ弾きながら、ゼメタスとアドモスに、
「――血の髑髏の魔界騎士たちよ。いかに優れた魔界騎士だろうと、<霊堕沼石>のフィールドからは逃れることはできまいて!」
そう発言。
再び繰り出されたアドゥムブラリの<魔矢魔霊・レームル>の赤い魔矢の連続攻撃を避けまくる。
その間に光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスに<鎖>を伸ばして引っこ抜くかと思ったが、もう
<鎖>は消す。
吸霊胃無アングストラは飛行しながら赤い魔矢を射出しまくっているアドゥムブラリを見て、
「『――これは武装魔霊系を独自にスキル体系に進化させた攻撃か?』」
<魔矢魔霊・レームル>を分析したように、神意力を有した言葉と思念で聞いていた。
アドゥムブラリは
「そうだが、アングストラとやら、お前はシャプシー系の神格持ちか?」
「『我をただの幽体と思うのは当然だが、我こそは吸霊胃無アングストラである――』」
アングストラはアドゥムブラリの問いに答えになっていない言葉を返し――。
沙羅貂に牽制の液体を飛ばし、皆と距離を取るように後方へ飛翔する。
【吸血神ルグナドの碑石】の天井に足を突けた。
否、下半身と上半身を沈ませて、頭部の怪しい双眸から上だけを露出しつつ、その逆さまのまま俺たちを見てきた。
双眸は真っ赤だ。
額の位置に右手に嵌めていた紫と黒の魔力を発している指輪があった。
第三の目のように見える。
すると、
「ンン、にゃお~」
「「皆様、ありがとうございまする――」」
「「うあ――」」
「ウォン!!」
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスが、フィナプルスとアクセルマギナと相棒に救われていた。
フィナプルスとアクセルマギナの黄金のレイピアと魔弾が、<霊堕沼石>で固まった床を破壊し、相棒が触手で光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスを引っこ抜いたようだ。
ゼメタスとアドモスはパパスとツィクハルの近くに転がったが、月虹を発した両足で床を蹴って華麗に立ち上がる。
兜の前立てと頭頂部の日の出のような旭日が輝いた。
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動したようだ。
ゼメタスとアドモスは、体の節々から黒と赤の粉塵魔力を噴出させて、吸霊胃無アングストラを追った。
頭部だけの吸霊胃無アングストラは天井を這うように移動しているから、ゼメタスとアドモスは追い切れない。
そのアングストラは下降。
頭部の形を崩しながら、首と両肩から体のすべてを天井から出して歩くと、裂けていた頭皮か頭蓋骨のようなモノが溶けて、血を帯びた脳を晒す。
その脳から
額の第三の目のような指輪が煌めいていた。
――気色悪い攻撃だ。
俺たちは
ビュシエは、
「<血道・石棺砦>――」
石棺を再び操作。
簡易的な石棺の砦を連続的に作り出す。
降りかかってきたグロテスクな液体攻撃を防いでくれた。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を出す必要もなかった。
「ありがとう、ビュシエ!」
「当然です――」
「ビュシエ、あのアングストラは知っているか?」
「見た目だけ、わたしの<筆頭従者>の<従者長>カーマトラと似ています。しかし、シャプシーとスライム、または指輪を元にした異質な存在がアングストラと予想します」
ビュシエはそう物静かに語るが、冷然とした態度だ。
アングストラに怒りを覚えているようだ。
「了解」
「シュウヤ様、わたしも仕掛けますので、アングストラの分析に役立ててください」
「分かった」
ビュシエの発言から、地頭の良さを感じた。
まぁ吸血神ルグナド様の<
女帝らしい気品を感じさせると、素早く身を翻し、前転、跳躍――。
宙空でビュシエは白い蝙蝠にいきなり変化を遂げた。
頭部を含めた体がモフモフの毛に包まれている。
可愛い白い蝙蝠となったビュシエは石棺の間を抜けてアングストラに向かう。
翼から魔力粒子と共にルシヴァルの紋章樹の幻影を発している。
「「おぉ!?」」
「ビュシエの姐さんが……」
「驚きだが、吸血神ルグナド様の<
「あぁ」
白い蝙蝠だが、リンゴドクガにも似ている。
その白い蝙蝠のビュシエは黒い液体を避けて止まった。
ホバリング状態のまま、
「――吸霊胃無アングストラ! お前が、<従者長>カーマトラの体と魂を奪ったのか?」
白い蝙蝠で見た目はかなり可愛いが、ビュシエの声は完全に怒っている。
アングストラは天井スレスレを浮くように移動しながら
額に移動していた重要そうな指輪は右手の指に戻っている。体内を自由に移動できるようだ。
そのアングストラは、
「『この石棺にいた
アングストラは黒い液体を体から発して、液体から黒い魔剣を生む。
と、その黒い魔剣を白い蝙蝠のビュシエに飛ばす。
白い蝙蝠のビュシエは、
「万死に値する! <血道・
とスキルを発動。
白い蝙蝠のビュシエの前方から血の刃が飛び出た。
その<血道・
アングストラは「『フハハ』」と嗤い声のエコーを響かせる。
もう一つの液体の体を造る。
と、横歩きを行って<血道・
囮だろう液体状のアングストラは<血道・
本体のアングストラに<鎖>を射出。
アングストラは指輪から黒い刃を出して<鎖>を弾いてきた。
白い蝙蝠のビュシエは、
「素早い奴め……」
「『ふはは、当たらなければどうということはない。そして、白い蝙蝠とは、高祖級だな!! お前が気にしている
「
白い蝙蝠のビュシエは体から<血魔力>を噴出させた。
二つの<血道・
吸霊胃無アングストラは分身を作ると本体は退いた。
<血道・
本体の吸霊胃無アングストラは、
「『高祖級の
そう発言した瞬間――。
ビュシエを挟むように、上下に漆黒の魔法陣を生成した。
吸霊胃無アングストラの右手の指輪と、その魔法陣は無数の魔線で繋がっていた。
上下の魔法陣の間にいるビュシエとそのビュシエを吸い込むように、半透明な異空間が姿を覗かせる。
異空間の未知の景色と、そこから此方を覗いてくる巨大な眼を九つ持った何かが一瞬見えた。
異界の神か?
すると、ビュシエが、
「笑止、お前ごと魔法陣を叩き潰す。<血道第三・開門>――」
白い蝙蝠のビュシエは一瞬で元のビュシエに戻る。
ビュシエの右手には長柄の棍棒が握られていた。
〝バドマイルの魔棍棒〟とは異なる。
その長柄の棍棒を突き上げて上の魔法陣を貫く。
漆黒の魔法陣は破壊された。
ビュシエの背景と重なっていた異空間に
ビシュエは、そのまま長柄の棍棒を振るい落とし、下の魔法陣を破壊した。
上下の漆黒の魔法陣が破壊されると、半透明な異空間も消えた。
右手の指輪から出る魔線も火花を散らし切れた。
指輪から出ている火花を散らす魔線は、ダイナマイトの導火線にも見える。
「『チッ、<幽術・異界ドガパリス>を……』」
吸霊胃無アングストラは舌打ち。
魔法陣が破壊されたことは予想外だったのか、魔法陣と繋がっていた指輪から出ていた魔線は消えることなく、今も火花を散らしていた。
異空間への干渉を可能とするトンデモナイ紋章魔法陣だったのか?
ヤヴェえな、コイツ。
右手に嵌めている指輪だけが、紫と黒の魔力を時折外に出している。
外に出ている紫と黒の魔力にはリズムがあった。
心臓の律動?
だとしたら、やはりあの指輪がアングストラの弱点か。
と、次の瞬間、ビュシエが加速し前進。
<血道第三・開門>の<
瞬時に、吸霊胃無アングストラとの間合いを詰めたビュシエは長柄の棍棒を振るう。
「<血道・
長柄の棍棒から<血魔力>の巨大な槌が出現し、そのまま吸霊胃無アングストラに繰り出された。
吸霊胃無アングストラは<血魔力>の巨大な槌を喰らった。
アングストラの頭部と上半身が大きく凹む。
「げぇぇ――」
と痛みの声を発したアングストラは吹き飛び、体の一部が散っては再生を繰り返しながら壁と衝突し、液体の体が破裂。
爆発して青白い炎を周囲に発生させる。
四方に液体を飛ばしまくる。
その散った液体が四方の位置で指輪から迸った魔線と繋がりながら集積し、四体のアングストラとして復活すると、四体のアングストラは、紫と黒の魔力を発している指輪を嵌めているアングストラの下にゼロコンマ数秒も経たせずに集結し、一瞬で吸霊胃無アングストラの女性の体になった。
そんなアングストラに――。
フィナプルスの魔刃と――。
が、アングストラの右手の指輪から発生したお椀の形をした盾が、皆の魔刃を防いでいた。
復活と機動は並ではないが、アングストラの魔力量は激減している。
ビュシエは、
「<血道・
そう発言しながらビュシエは<血道・石棺砦>を使う。
複数の石棺をそのアングストラに差し向けた。
「『……ここまで消費させられるとは』」
アングストラは神意力を有した思念と言葉を発しているように、まだ元気だろう。天井を
天井にビュシエの<血道・石棺砦>の石棺が突き刺さっていった。
合計三十五の石棺を一瞬で操作していくのは凄いが、アングストラも華麗に避けまくる。
フィナプルスと
アングストラは、フィナプルスの魔刃と
アドゥムブラリも偽魔皇の擬三日月の大きな斧を<投擲>するが、アングストラには当たらない。
ビュシエは<血道・石棺砦>で石棺を操作し、逃げるアングストラの行く先を塞ぐが、転移もあるからアングストラの機動は読み難い。
アングストラは地下祭壇の天井から右壁に跳び移り、足が壁に吸着しているようにその壁を走る。
が、足を止めながら――。
両腕から発生させた液体状の盾を周囲に展開させた。
液体状の盾で、フィナプルスの魔刃の方向をずらす。
そのまま背を
宙空から俺たちの囲いの位置を確認していた。
そんなアングストラに、
「「「<御剣導技>――」」
「<水神の氣>、<水神霊妙剣>――」
「羅仙瞑道百妙技<仙羅・絲刀>――」
「<傾角畏狐刀>――」
吸霊胃無アングストラは、体からアメーバ的な分身を生み出して腕を剣化させると、三人の神剣と神刀の攻撃に応えるように剣撃の応酬を始めていく。
時折、体が無数に切断されるアングストラだったが、直ぐに体はくっ付いている。
指輪を狙う
今も、指輪から迸る紫と黒の魔力が、小さい盾を造り独自に防御を行っていた。
更に体が半透明なスライムやアメーバ的となる。
が、沙が、
「気にするな。魔力は減退している。このまま斬るぞ!」
「「はい!」」
神剣を振るいながら後退し、魔刃を飛ばすと、羅と貂が揃った動きで前進。
貂は右手に羅は左手に神剣を持つ。
貂と羅は反対の腕で鶴の頭部を模るような構えを取ると、
「「<水風・白鶴剣>――」」
を繰り出した。
アングストラは右半身と左半身を貫かれた。
が、指輪は無事。的が小さく硬いとなると厄介だ。
「『ヌゴァ――』」
悲鳴を発したアングストラは退く。
そのアングストラに<鎖>を射出。
アングストラは液体状の体の内部を煌めかせる。
クリスタのような襞状突起に真核細胞と原核細胞のような細胞を大きくさせたようなモノを周囲に散らして、<鎖>にぶつけてきた。
<鎖>とそれらの細胞が衝突、<鎖>は関係なくすべてをぶち抜くが、本体のアングストラは消えるように左上に転移。
<鎖>は天井に突き刺さった。
素早く<鎖>を消す。
アングストラは天井の表面を滑るように避難していた。
アングストラの下半身は液体状だったが、直ぐに両足を生成し直し、体を元に戻していた。土と骨の部分はなくなって、もう液体状の体のみだが、あの中身も厄介。
細胞小器官や顆粒を含む細胞質もある。
何かの超微生物が集積したミトコンドリア的なモンスターが、吸霊胃無アングストラなんだろうか。
そんなアングストラにフィナプルスと
ツアンも<血甲光斬糸>を放った。
ケーゼンベルスは皆の攻撃の邪魔をしないような体格のまま突進し、前爪の攻撃をアングストラに繰り出していた。
皆の攻撃の合間を見ながら――。
<水月血闘法>を発動。
<闘気玄装>を発動し強める。
<黒呪強瞑>も発動。
<滔天神働術>を意識。
<滔天仙正理大綱>を意識。
<経脈自在>を意識――。
<魔闘術の仙極>を発動――。
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動。
<龍神・魔力纏>を発動――。
逃げる方向を予測――。
魔力を込めた<鎖型・滅印>を発動。
宙を
アングストラの体から
そのまま吸霊胃無アングストラの腹と足を貫いた。
「グァァ、お前――」
腹と足が消えたアングストラは転移するように消えた。
転移する場所を先読みした<鎖>がアングストラの頭部と足を貫く。
「――チッ」
右上の天井の端に転移したアングストラの指輪を<鎖型・滅印>の片方が狙う。
が、アングストラは液体を散らしながら俺の後方に転移してきた。
好都合――。
<鎖型・滅印>を消しつつ――。
振り向きざまに<双豪閃>――。
アングストラの左腕の剣を神槍ガンジスの柄で叩きながら、方天画戟と似た穂先で、横からアングストラの左肩から鎖骨をぶった切る。
クロスカウンターのような神槍ガンジスの一撃が決まった。
アングストラは驚いたのか、
「なっ!?」
と声を響かせながら右腕の剣の機動を変えようとしてきた。
構わず、アングストラの右腕の剣と<双豪閃>の血の
アングストラの右腕の剣は潰れず、硬い――。
そして、<双豪閃>の横回転の終わり際だったが、素早く血の錫杖を上から左上に回す。
そのまま螺旋を宙に描くように血の錫杖を回しながら、アングストラの右腕の剣を回しつつ前進した刹那――。
アングストラは再生した左腕の剣で、俺を突き刺そうとしてきた。
更に分身体を右に生み出したアングストラ――。
構わず、<水月暗穿>を実行――。
血の錫杖を手放しながら床を手で突く。
アングストラ本体の左腕の剣は頭上を通り抜ける。
そのまま体を片手で支えながら
「ぐぁぁ――」
アングストラは逃げるように左上に向かう。
右の分身体は「ンン」と喉声を鳴らした
「相棒、ナイスだ――」
そう言いながら、アングストラに転移はさせない――。
<
同時に<凍迅>を発動――。
ドッと冷気が俺の体から放出される――。
<
が、右手の指輪のみ凍り付かず。
紫と黒の魔力で自らを覆って<凍迅>を防御していた。
そのまま<
更に
覚えた直後の――。
<水血ノ断罪妖刀>を用いた。
目の前に神々しい水血の太刀が出現。
水血の太刀の刃が真一文字に一閃――。
逆袈裟斬りの水血の刃の二閃――。
垂直斬り上げの水血の刃の三閃――。
袈裟斬りの水血の刃の四閃――。
振り下ろしの水血の刃の五閃――。
<水血ノ断罪妖刀>は五回斬って消えた。
<
アングストラの液体状の体は再生されず。
指輪も割れると、アングストラは塵となった。
刹那、指輪があった空間が裂ける。
その裂け目が周囲のアングストラだった塵と魔力を吸い込みながら拡大すると、先ほどの異世界を覗かせ始めた。
魔界とは異なる異世界か。
即座に神槍ガンジスで<光穿・雷不>を繰り出した。
※光穿・雷不※
※光槍流技術系統:光槍奥義※
※<光穿>と<光神の導き>が必須※
※<光槍技>に分類、光神ルロディスの失われた八本の神槍が一つ、名は雷不※
※別名、光涙の八矛。光神ルロディスが光の大精霊を失ったさいに流した八つの涙が、雷を帯びつつ集結し光槍となったとされる※
<光穿>の方天画戟と似た穂先が異空間を穿つ。
更に、どこからともなく空間を刺し貫く八支刀の光が出現し、神槍ガンジスの後方に集結――。
その八支刀の光が連なるランス状の<光穿・雷不>が直進――。
神々しい
が、裂け目は狭まったが消えず。
裂け目から、げぇ、ヤバイ、鬼の手のようなモノが数十と飛び出てきた。
「皆、散開――」
「アングストラを倒したと思ったら、今度はなに!?」
「うあぁ」
「――なんだ、手? 鳥か?」
「クソはえぇぇぇ」
「シュウヤ殿、この鬼の手のような存在は速すぎる! 魔斧槍が当たらない!」
「皆、鬼の手のようなモノは頼む――」
とりあえず、裂け目を破壊しないとマズイだろう――。
<破壊神ゲルセルクの心得>を意識。
神槍ガンジスを消す。
右手に魔槍杖バルドークを召喚。
即座に<空穿・螺旋壊槍>――。
膨大な<血魔力>が体から噴出。
<破壊神ゲルセルクの心得>の効果で加速感を得ると、魔槍杖バルドークの真横の空間が歪む。
そこから神意力を有した燃焼した魔力が大噴火し、螺旋壊槍グラドパルスが出現して直進――。
異空間の亀裂を一瞬で飲み込むように直進し、異空間の亀裂を潰して直進――。
異空間の亀裂は収束した。
ホッと一安心。
止まらない螺旋壊槍グラドパルスは【吸血神ルグナドの碑石】の斜め上の天井を抉り突き進む。
それを最後まで見ず、身を捻って、鬼の手のようなモノの機動を目で追う。
鬼の手のようなモノは時折、何かの幻影を発している。
異常に速い――。
アドゥムブラリに
アクセルマギナも魔銃から魔弾を放つが、当たらない。
ツアンもククリ刃を<投擲>するが無理だ。
「ンンン、にゃおおぉ~」
「あわわ、怖いですが、楽しい――」
「リューリュ! 遊びじゃないのよ!」
「ツィクハル、無駄に振り回すな!」
「ぁぅ、そういうパパスだって」
「あぁ――」
「「「ウォォン!」」」
「閣下、この手のモンスターは速すぎまする!」
「旦那、こりゃ、俺たちには――」
「すまん、主――」
「『狭い範囲となったところを、そこだ!! ウォォン――』」
魔皇獣咆ケーゼンベルスが神意力の衝撃波を飛ばすと、
鬼の手のようなモノは急に動きが鈍りながら、俺に飛来してくる。
鈍いが、数十とある、なんで俺に迫るのか――。
迎撃に数十の<仙玄樹・紅霞月>――。
が、すべての血濡れた三日月刃が避けられた。
<鎖>も射出――。
鬼の手のようなモノは<鎖>のティアドロップの先端も軽々と避けた。
俺に近付いてくる。
<水月血闘法・鴉読>――。
血の分身を用いて鬼の手のようなモノを避けまくる。
血濡れた鬼の手は一瞬鳥のようにも見えた。
と、まだまだ飛来してきた。
心配そうな面で、
「ンン」
と喉音を鳴らし、前足を少し上げた。
「相棒、気持ちは分かるが、俺を信じろ。皆も、俺に寄ってくるなよ」
「にゃ」
「はい」
「閣下……」
「シュウヤ殿を信じよう!」
「わかりもうした」
「分かったが、なんだろうか、その怪物の手のようなモノは」
「先ほどのアングストラと通じた異世界の怪物でしょうか」
「たぶんそうでしょう……指輪は異世界の怪物たちと通じる鍵だったのかも知れませんね……」
ビュシエの言葉に頷きつつ――。
連続的に血の分身を用いて鬼の手を避けながら、皆と距離を取った。
これで、何かあっても皆大丈夫。
が、一向に避け続けるのもな……。
魔槍杖バルドークから不気味な音が響く。
その嵐雲や漏斗雲に近い穂先を<柔鬼紅刃>で紅斧刃と紅矛に変化させながら、魔力を込めた。
すると、
「ングゥゥィィ……喰ウ、喰ワレ、ノ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星」
そのままタイミングを合わせて――。
<山岳斧槍・滔天槍術>を意識。
<山岳斧槍・阿修羅>を繰り出した。
――感覚のまま<山岳斧槍・阿修羅>の魔槍杖バルドークを振るう。
紅斧刃で鬼の手のようなモノを払い退けた。
そのまま右腕と左腕を回すように両手持ちの魔槍杖バルドークを回し続けた。魔槍杖バルドークの柄と紅斧刃が、鬼の手のようなモノと衝突を繰り返した。が、斬った感覚は不思議とない。
歩幅と斧槍の振り幅を小さく扱う。
が、大胆に振るう時もある――。
その場合は柄の握り手を調整し、螻蛄首と口金と逆輪と水返しを活かす。<山岳斧槍・滔天槍術>に隙はない。
鬼の手を一度に数十と打ち払った。
己と魔槍杖バルドークが一体化したように――。
魔槍杖バルドークを振るいまくる。
数秒後、俺の周囲にあった鬼の手のようなモノが落下。
床の上で震えていたが、その鬼の手のようなモノは一カ所に集まる。
と、その鬼の手のようなモノは一瞬で書物に変化。
書物? 表紙は、魔槍と鬼のような手が絡む絵。
血塗れの文字があるが、読めない。
「「「「「おぉぉ~」」」」」
「にゃお~」
「「「「ウォォォン」」」」
魔軍夜行ノ槍業が震える。
『驚きだが、使い手、その<山岳斧槍・阿修羅>は見事だ』
『あぁ、魔界九槍卿に相応しい』
『書物が気になるわね……』
禍々しいモノは感じないから呪いはないと思うが……。
と、その書物が俺に飛んできた。
思わず手掴み――。
ピコーン※<奇想鬼腕書ピューリケル>※恒久スキル獲得※
※<鬼槍ピューリケル>※スキル獲得※
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