千一話 壊槍グラドパルスの真実と魔界騎士グラド

 狭間ヴェイルの穴は消えたが、依然として蒼白い光柱の数は増え続けている。

 魔界セブドラの空の閃光も目映い。

 【ケーゼンベルスの魔樹海】から爆発音と地響きも起きていた。

 森の内部が気になるが……まずは、光柱の中を泳ぐ無数の魂たちに両手を合わせた。


 南無阿弥陀仏、アーメン。と、胸の<光の授印>が光った刹那――。

 青白い光柱の中を上昇している苦しげな表情を浮かべていた魂たちの顔色が穏やかな顔色に変化していく。

 子供の安らぐ表情を見て、不思議と自然と片方の目から涙が零れた。


 魔界王子テーバロンテは罪を重ねた神の一柱で世界の人々を苦しめていた。そんな魔界王子テーバロンテの魂も無に帰するのだろうか……。


「閣下?」

「陛下……」

「あぁ、なんのことはない。弔いの念仏で、祈りだ」

「祈り……」


 ヘルメは優し気に微笑んでから、ゼメタスとアドモス、イモリザとアクセルマギナへと視線を順繰りに向けてから互いに頷き合う。

 バーソロンは不安そうな顔色だ。魔界セブドラの神々を信奉しているのなら当然か。

 ま、安心させるように笑顔を向け、


「あの光柱の行き先は、神界か天国か、ブラックホールなのか分からないが、すべての罪業が浄化されるのだとしたら、多少は報われる……そして、罪を背負い続けることが光魔ルシヴァルの宿命かとな」

「罪業……」

「閣下は百足魔族デアンホザーや蜘蛛魔族ベサンたちのことも……」

「陛下……」


 勝ったからこその余裕とも言えるが、皆、しんみりとなった。

 魔界騎士グラドはなんのことか分からないって表情だ。


『ふっ、器めが! 邪悪な上級神の一柱を倒したのだから素直に喜ぶべきぞ。悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力もバーヴァイ城を狙っているようだからな。しかし、堕ちた際の閃光と似た事象が続いておる……そして、器の魔力が上昇した!』

『魔界の上級神撃破は大きいです。わたしたちも強まった!』

『テーバロンテの半身を貫きましたからね、二の剣は対処されましたが』

『妾たちは貢献できた。誉れじゃ! 器と妾たちの大勝利じゃ!』

『大主さまぁ、大勝利!』

『『はい』』

『そして、白蛇竜小神ゲン様のグローブと<血鎖の饗宴>を利用して、魔神の一柱を浄化する倒し方は器様独自で面白かった!』


 <神剣・三叉法具サラテン>たちに感謝。

 シュレゴス・ロードの桃色魔力も掌から少し出て、


『主、ナイスな戦いだった』


 と褒めてくれた。

 イターシャの思念は久しぶりに聞いたような気がする。

 

 すると、イモリザが鼻歌から、

 

「――魔界の夕陽さん、消えちゃった♪ 大空を行き交う閃光さん、勝利をありがと、こんにちは♪ 百足魔族をギッタンバッタンで倒したよ♪ 魔界王子テーバロンテもギッタンバッタンしたかった♪」


 と歌い始めた。

 魔界セブドラさんこんにちは、最初は未知な世界で怖かった♪

 

 わたしの爪は長くて鋭い♪

 キツツキトントントンで強い敵を突き刺す♪

 使者様を守ったからほめてくれるかな♪

 

 敵さん目掛けて黒い爪を振るうよ♪

 百足の魔族さんいっぱい倒したよ♪

 蜘蛛の魔族さんもいっぱい倒したよ♪

 角あり魔族のかわい子ちゃんを助けたよ♪

 ギッタンバッタンで敵を薙ぎ倒す♪


 イモリザ無双でマッスルバンバンバンッ♪

 イモリザ無双でマッスルバンバンバンッ♪


 テーバロンテの光線怖かった♪ マッスルバンバンバンッ♪ 


 地面盛り上げギッタンバッタンで皆を守ったよ♪

 ギッタンバッタン、バーヴァイ城はボロボロだ♪

 

 ン~ン♪ がやがやわいわいと魔界セブドラに勝利がこだまするぅ♪

 美女の魔界騎士誕生、驚きマッスルバンバンバンッ♪ 

 

「ンン、にゃっにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃん」


 相棒もイモリザの楽しげな歌に混じる。

 ひょうきんな歌詞に合うイモリザの歌唱力は高い。

 長い銀髪に、鈴を張ったような目に小鼻と小さい唇。


 イモリザは、笑窪が可愛い、ココアミルク肌を持つ美少女。


 同時にキサラのハスキーボイスの歌とギターの音楽も聴きたくなった。

 サイデイルでは、二人は歌を披露してくれた。


 バーソロンとデラバイン族の兵士たちもリズムに乗る。

 

 魔界騎士グラドは驚いたようにイモリザを見ていた。

 このグラドは先の異空間の中にどれくらいの間閉じ込められていたんだろうか。


 すると、腰ベルトにぶら下がる魔軍夜行ノ槍業が少し震えた。

 そういえばトースン師匠の上半身にテーバロンテが繰り出した大きな刃が衝突していた。それが少し心配だったが、


『『『魔神殺しの蒼き連柱……』』』


 魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちがハモる。


『上級神の一柱が消えたことによる事象!』

『……まことの誉れ! 上級神の一柱が消えた証明はいつ以来か……』

『使い手の魂は塔魂魔槍と共にある……』

『セイオクスも嬉しそうね』

『無口のセイオクスも喜ぶか。しかし、これでますます他の神々と諸侯との争いは激しくなるだろう』


 悪愚槍のトースン師匠が警告の思念を寄越す。

 

『うん。ま、今は弟子の偉業を讃えましょう。魔界セブドラに乗り込んで、いきなり上級の神格を討伐って凄すぎ!』


 雷炎槍のシュリ師匠か。シュリ師匠の思念は可愛い。


『魔神の一柱で永遠の力を象徴するような魔界王子の称号を有した存在の討伐だからな!』


 妙神槍のソー師匠も興奮しているような思念だ。


『そうだな。夜行光鬼槍卿の名にふさわしい戦いっぷりだった』


 獄魔槍のグルド師匠の珍しい褒めるような思念に照れを覚える。


『精霊などの強者の仲間たちを活かし、己の突貫力で、要所の敵戦力を迅速に削ぐ。その作戦遂行能力は、偉大な将軍の資質その物だろう』

『弟子は魔城ルグファントを得るに相応しい魔君主の器だ。当然だな。バーヴァイ城の制圧も手際が良かった』

『おう。一階大ホールで戦った蜘蛛魔族ベサンの二人組は強かったが、見事な槍捌きと格闘術で圧倒した。あの風槍流『枝預け』には痺れたぜ。更に、弟子が<獄魔破豪>で不意打ちを噛ましてきた女の親衛隊長を倒した時は、スカッとしたぜぇ』

『隙のない<獄魔破豪>で強者の女魔族を沈めた広場とホールの戦いね』

『あぁ』

『あれはたしかに、グルドが調子に乗るのも分かる戦いっぷり。口惜しいのは……私にも体があれば、弟子たちの戦いに雷炎槍を使って貢献できたのに』

『俺だってトースンのように弟子の横で戦いたかったさ。ま、いつかは、俺たちの体を取り戻してくれるだろう。弟子は光魔ルシヴァルで、不死系の種族なんだからな』

『ふむ』

『あぁ、と納得したいところだが、グルドは、弟子が獄魔槍譜を得て、獄魔流の<獄魔破豪>の経験を積み重ねている分……余裕でそんな風に語れているが、オレの妙神槍や断罪槍のイルヴェーヌに雷炎槍のシュリの槍譜を弟子は入手していないのだぞ……』

『それはそうだが、ま、仕方ない』

『うん。雷炎槍エフィルマゾルと雷炎槍譜の回収に期待したいところだけど、手掛かりは皆無だし……だからこそ、早く八大墳墓の破壊をしてほしい』

『八大墳墓はまだまだ先。ここは魔界だ』


 そこから魔軍夜行ノ槍業の内部で八人の師匠たちは喧嘩を始めると、少し静かになってから、


『……それにしても、魔界王子テーバロンテは強かった。無限に続くような再生力に眷属を生み出す能力は脅威だったな』

『あぁ、最初のテーバロンテが発動したスキルか魔法の<魔皇・グソルヴァの叡智>は己の能力の引き上げか?』

『そうだろうな……魔力、神意力も跳ね上がっていた』

『そんな魔界王子テーバロンテの<魔界王子バリハラー波動鏡猛執ショーイネル>……あれはヤヴァかった。器と神獣の精神耐性能力がべらぼうに高いから耐えられたようなもんだ』

『そうね……あの時、わたし、怖くて喋れなかったし……精神が罅割れて……』

『正直、弟子の半身が穿たれたときよりも肝を冷やした』


 トースン師匠の思念だ。

 続けて、グルド師匠が、


『だな。神格を有した精神攻撃は、あまり受けたくない……神魔石どころの話ではなかったぞ……』


 と、魔界王子テーバロンテの攻撃に恐怖していた。


『オレは、魔人武王ガンジスに臓腑を無数に穿たれた記憶を体感した』

『『『『……』』』』


 妙神槍のソー師匠の思念に七人の師匠たちは沈黙。


『……ふむ。我の<悪愚槍・鬼神肺把衝>を止めた魔界王子テーバロンテは強かった。そんな相手と、弟子と共に戦えたことを誇りに思う』

『よもやトースンを羨むことになろうとは、が、トースンも見事じゃった。魔界八槍卿と呼ばれた我らも誇り高いのじゃ……今では、弟子も合わせての魔界九槍卿じゃな。皆、本当によくやったのじゃ』


 飛怪槍のグラド師匠の思念を聞くと嬉しさと同時に身が引き締まる思いとなる。


『妾の<女帝衝城>を戦場の一角かテーバロンテに対してつこうてほしかったが……たしかにデラバイン族の兵士たちも、よく戦った』

『レプイレスは弟子が女帝槍譜を読んで、何度も<女帝衝城>を使い、弟子の血を得ているのだ。それで大いに満足すべきであろうが! ソーも言ったが、弟子は、私の断罪槍を覚えていないのだぞ……が、それはそれか。セラに多大な影響を与えていた魔界王子テーバロンテの討伐を素直に称賛しよう』


 断罪槍イルヴェーヌさんの思念の声質は渋い。

 女騎士風の幻影は前に少し見たことがあるが、雷炎槍のシュリ師匠と女帝槍のレプイレス師匠に負けず劣らずの超絶美人さんだ。


『あぁ、格上の魔皇の称号とスキルを複数獲得していた上級神の一柱が魔界セブドラから消えたのだからな』


 妙神槍のソー師匠の思念だ。


『他の神々や諸侯もさぞや驚いたであろう。お陰で私たちも魔力を得られた』

『上級の神格の魂、魔素は格別だった』

『……弟子が強くなれば我らも強まる』

『ま、得られたと言っても俺たちはおこぼれ程度だがな』

『それでも十分じゃ、わしらには体がないのじゃからな』

『うん』

『とにかく新たな魔界九槍卿の名に相応しい成果だ! いずれ魔城ルグファントの名が魔界セブドラに再び響くことになる!』

『『あぁ』』

『ふむ』

『じゃな』

『そうね』

『『うむ』』

『そうだな』


 魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちは一呼吸置くと、


『これでテーバロンテを起因とする儀式には意味がなくなる』

『テーバロンテの理、式識は辛うじて残っていたとしても、魔界セブドラのみとなろう』

『セラと魔界に存在する〝陰大妖魂吸霊具〟などの魔界王子テーバロンテと関係が深い魔神具類も中身を弄らない限り反応しなくなるか、ならば、弟子の偉業はセラでも轟く』


 改造したら他の神々や諸侯の儀式に流用できるっぽい言い方だが、朗報。

 【テーバロンテの償い】が持つだろう魔神具に魔道具の価値は半減したかな。


『セラの【テーバロンテの償い】の残党が五月蠅そうだが、ま、弟子に喧嘩をふっかける闇神リヴォグラフや諸侯共々、そのすべてを屠ろうか!』

『『『おう』』』

『そうね』

『うむ』

『しかし、弟子が使った槍の奥義系スキルには……神界の戦神イシュルルの魂の一部を感じた……』

『弟子が使ったスキルは<神槍技>。玄智の森という名の神界セウロスと関連した異世界で獲得したと聞く……』

『あれは神魔石を喰らうより痛いだろう……オレは、弟子が半身を抉られた時よりも恐怖だったぜ……』


 妙神槍のソー師匠がそう語る。


『俺もだ』

『わたしも』

『弟子の半身は妾がほしかった』

『レプイレスのデレ具合がヤヴァいんだけど』

『……レプイレスは使い手、弟子の血の虜か……』

『当然である。妾の弟子はシュリの雷炎譜やイルヴェーヌの断罪槍譜よりも早く妾の女帝槍譜を見つけては、<魔槍技>の<女帝衝城>を何回・・もつこうて妾を感じさせてくれた。妾の触媒と弟子の触媒は融合し、『霊魔活と触媒力』を得ているのだからな……』

『くっ……う、羨ましくなんてないんだからね!』

『カカカッ、シュリ、そう焦るな』

『……うん。それより、空の閃光と〝魔神殺しの蒼き連柱〟は、〝魔神殺しの紅蓮なる連柱〟ではないから……ますます弟子が戦神教などの神界の諸勢力と勘違いされるわねぇ……』

『ふむ……』


 今の現象の〝魔神殺しの蒼き連柱〟とは別の〝魔神殺しの紅蓮なる連柱〟があるのか。


『今の現象は神界側の証明?』


 と、思念で師匠たちの思念会話に割り込む。


『そうよ、神界セウロス側が魔界の神格を有した存在を倒した場合に起きることが多い現象』


 そうなのか……。


『ま、いいじゃねぇか。勘違いされようと独立独歩どくりつどっぽ不偏不倚ふへんふきが弟子だ』

『そうじゃな。不羈ふきの才を持つ八怪卿、八槍卿と同じ気概。魔城ルグファントの守り手の気概じゃ』

『うん! 弟子と一緒だとワクワクする!』

『そうだな……魔軍夜行ノ槍業の中でも、居心地がよくなるとは思わなかったぜ』

『あぁ』

『そうだとも』

『ふむ』

『ま、楽しみは後じゃな。弟子には弟子の光魔ルシヴァルの道がある』

『うん』


 魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちの思念はそこから遠のく。

 

 常闇の水精霊ヘルメは歌うイモリザから少し離れて空の閃光を眺めていたが、魔界騎士グラドと黒馬獣に視線を巡らせ始める。


 ベイルという名の黒馬獣。

 胸元の馬鎧は皮膚と同化している。

 脚の横には尖った爪が伸びていた。蹄も大きそう。

 黒馬獣のベイルの観察をしていたヘルメは、壊槍グラドパルスにも視線を移してくる。

 その視線に応えて壊槍グラドパルスを持ち上げた。


 ヘルメは壊槍グラドパルスのドリル状の穂先に顔を近づけ、


「こうして、壊槍グラドパルスを間近で見ることができるようになるとは思いませんでした……」


 そう言いながら、じっと壊槍グラドパルスを見る。

 壊槍グラドパルスから微かな振動が起きた。

 柄の握りは馴染む感覚だ。

 穂先のドリル形状に変化はない。柄の螺鈿細工も美しい。

 ヘルメは、その壊槍グラドパルスに水飛沫を有した息を吹きかける。

 ドリルの表面に霜のような魔力が走った。


 ヘルメの水の息吹は気持ち良さそうだが、凍えてしまいそう。

 と、柄を握る俺の指にも水気が多い息を吹きかけてきた。


 ヘルメの水は気持ちがいい。


「閣下の指が愛しい。あ、閣下が、前に壊槍グラドパルスを掴んだ際、この壊槍グラドパルスは重くて振るえなかったと仰っていましたが、今はもう使えるように?」


 と言いながら、壊槍グラドパルスを握る手の甲から手首までを撫でてくれた。

 温もりに癒やされた。

 更に、肘におっぱいが当たり始めたから煩悩が刺激される。


 エロ紳士を貫いて、


「……おう。使えると分かる」


 そう言いながら、ヘルメのおっぱいを肘で突くように押す。

 同時に肘を曲げ壊槍グラドパルスを縦に突き上げた。


 ヘルメのおっぱいは『ぷにゅ』『ぽよよん』と音が響いてもおかしくないほど揺れていたが、ヘルメは何も言わず後退し、壊槍グラドパルスの穂先を見上げ、


「――素晴らしいドリルの輝き。そして、閣下が成長した証しですね。壊槍グラドパルスの獲得おめでとうございます」


 褒めてくれた。水の女神のような瞳を持つヘルメ。

 美しい光芒の煌めきは角度や光の射し具合で万華鏡の如く変化を遂げる。

 まさに常闇の水精霊ヘルメの瞳だろう。

 精霊としての肉体と精神が美しく調和がとれている。


 ヘルメは嬉しそうにしてくれるから俺も嬉しい。

 

 ヘルメの熱視線に照れを覚えながら、壊槍グラドパルスを下げた。


「あぁ、が、壊槍グラドパルスを獲得したと、言っていいのか分からない……」


 そう発言。

 ご機嫌なヘルメは「そうなのですか? グラドとの関係が気になるのですね」と発言しつつ、また壊槍グラドパルスのドリル側に移動。


 寄り目になるぐらいに壊槍グラドパルスの巨大なドリルを凝視。

 水の魔力を有した爪先で、壊槍グラドパルスの巨大なドリルのねじれた溝をツンツクツンと小突く。


 少しヒヤッとしたが杞憂。

 ヘルメは水飛沫をドリルに飛ばし付着させた。


 ねじれた溝や螺鈿細工から水が滴り落ちていく。

 更に、ヘルメの水が金色の光を帯びて壊槍グラドパルスの細かな溝の中へと吸い込まれると、石突が輝いた。

 皆の尻が輝くように壊槍グラドパルスの尻が輝いたのか。面白い。


「わたしの水を吸い取ってくれました!」

「「「おぉ」」」

「グラちゃんが精霊様の洗礼を受け入れたァ!」


 イモリザは銀髪でビックリマークを造って驚く。

 ゼメタスとアドモス以外のバーソロンたちに、


「壊槍グラドパルスの石突が光った……」


 と魔界騎士グラドも発言し、驚いている。

 ヘルメ的に壊槍グラドパルスの反応を楽しんでいるようだ。

 

 ゼメタスとアドモスはアクセルマギナを突き飛ばす勢いで、


「――閣下、壊槍グラドパルスを見たいですぞ!!」

「我らも見学を!!」


 そう言いながらヘルメの隣に移動し、壊槍グラドパルスへ頭突きを行うが如くドリルを凝視。


「――おぉぉ、巨大なドリル! まさに壊槍グラドパルス!」

「螺鈿細工も素晴らしい……」

「強者を屠り続けていたグラドパルスを閣下は獲得なさった!」

「時空間を貫くような壊槍グラドパルスを入手なさったということでしょうか」


 ゼメタスとアドモスが吼えるように聞いてくる。

 と、ヘルメと魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスは一旦離れた。


「ヘルメにも言ったが、まだ獲得と言えるのか不明なんだ。この壊槍グラドパルスは……」

 

 グラドに意見を求めるように視線を向ける。


 ふと、ミアが持っていた本の〝狭間ヴェイルに捕らわれた魔人騎士ヴェルゼイとアイラの恋〟を思い出す。


 魔槍騎士デラハ・ヴェルゼイと魔界騎士グラドは関係があるんだろうか。


 グラドの兜の隙間からは金髪に長耳が見えていた。

 そのグラドはハッとした表情を浮かべる。


 兜を額の中央と両端の小角に吸収させるように格納させると、慌てて黒馬獣から降りた後、俺に向けビシッとした敬礼を行ってくれた。


 直ぐにラ・ケラーダの挨拶をグラドに返す。

 軍隊のような挨拶を行ったグラドは片膝で地面を突いて重々しく頭を下げた。


 金色の髪に長耳はエルフのようだが、額の端に小角がある。


 そのグラドは、


「――御仁様、俺、否、改めて、私とベイルの命を救って頂きありがとうございました」


 黒馬獣キスバルのベイルも「ブブウゥ」と息を吐くように鳴きながら四肢を折り曲げて頭を垂れてきた。

 ベイルはお利口さんだな。


「にゃ~」


 黒猫ロロもベイルの真似をして地面に頭部を突けると前転し、スコ座りとなった。そのまま腹を舐め始める。


「グラドさん、頭を上げてくれ」

「とんでもない。私たちの新しい魔君主――」


 え?


「俺が君たちの新しい魔君主?」

「はい! 壊槍グラドパルスを扱える存在がシュウヤ様ですから」

「ブウゥ――」


 グラドはそう発言。

 ベイルも鳴き声を発していた。


「いきなりだな。とりあえず自己紹介しとこう。俺の名はシュウヤだ」

「はい、シュウヤ様……」

「頭を上げてくれ。先ほどグラドは『俺の壊槍グラドパルスか!? しかも狭間ヴェイルの穴が消えた、ついに奇跡が起きた』と語っていたが……先ほどの穴は、狭間ヴェイルの穴で確定なんだよな?」


 そう聞くと、皆、静まり返る。


「……はい、狭間ヴェイルの穴です」

「なんと!!」

狭間ヴェイルの穴が閣下の傍に存在していたのか……」


 ゼメタスとアドモスも驚く。

 鎧の節々から魔力が吹き荒れる。


『やはり……狭間ヴェイルの穴であったか』

『『え!!』』

「まぁッ! 閣下……」


 ヘルメは、ムッとして俺を睨む。


 ヘルメの表情から『危険過ぎます!』と心の声が聞こえた。


 ヴィーネたちも傍にいたら『壊槍グラドパルスには触るな、近付くな』と、俺の動きを止めようとしただろう。


 が、あの時は、相棒の触手が壊槍グラドパルスに触れそうだったからな、仕方がない。


 すると、<武装魔霊・紅玉環>の表面に浮き上がっているアドゥムブラリが、


「主、俺は狭間ヴェイルの穴は前に見たことがあるが、見る度に外から見える光景が変化するものだったから納得だ。しかし、本当にあれが狭間ヴェイルの穴だったのなら、今さらながら怖くなってきたぜ」


 単眼球体と背中側の小さい翼の一部を凹ませながら語る。

 怖さを単眼球体で表そうとしている仕種はコミカルだ。

 

 そして、先ほど思い出した童話のことを、


「その狭間ヴェイルの穴と聞くと、〝狭間ヴェイルに捕らわれた魔人騎士ヴェルゼイとアイラの恋〟を思い出す」

「有名な童話の……では、魔人騎士ヴェルゼイがグラド?」

「そうではないと思う」

「にゃお~~」


 黒猫ロロもそう鳴いた。すると、アドゥムブラリが、


「神獣よ、壊槍グラドパルスに触れようとしただろう。お前も勇気があるなぁ?」

「……にゃ~」


 アドゥムブラリの声に、黒猫ロロは小声で鳴きながら、俺の足に頭部を寄せる。


「ま、遅かれ速かれ、俺が触れていたことに変わりはない」

「ふむ」

「にゃ~」


 そして、グラドを見て、


「グラド、頭を上げてくれ。壊槍グラドパルスの話の続きを頼む。皆も興味があるだろう?」

「あるぜ、魔界騎士がなぜ狭間ヴェイルの穴に閉じ込められていたんだ」

「はい、しかも、閣下の壊槍グラドパルスと関係がある」


 ヘルメが、グラドと俺が持つ壊槍グラドパルスを見ながらそう発言。

 バーソロンとデラバイン族の兵士たちはあまり興味がないようだ。


 グラドは、皆の視線を受けて静かに頷き、


「……はい。私が『俺の壊槍グラドパルス』と喋った理由ですが、壊槍グラドパルスは祖先から受け継いでいた至宝の一つだった故です」

「至宝か。祖先から代々大切な壊槍グラドパルスを受け継いでいたのか。ならばこの壊槍グラドパルスを返そう」


 ――壊槍グラドパルスの柄を差し向けた。


「いけません。わたしでは壊槍グラドパルスを投げるぐらいしかできない。シュウヤ様だからこそ壊槍グラドパルスを扱える。壊槍グラドパルスが選んだとも言える。だからこそ、今こうして、わたしは話ができているのですから」


 グラドは横で頭を下げ続けている黒馬獣ベイルをチラッと見て微笑む。

 ベイルとグラドの絆は俺と黒猫ロロの関係性に見えた。


 自然と、その黒猫ロロを見た。

 スコ座りで、後ろ脚をぺろぺろと舐めていく。

 と、『ここも気ににゃるにゃお~』と言うように、後ろ脚の指を広げて、肉球と肉球の溝を見せるように少し爪先を出すと、その肉球と肉球の間を囓るように口をつけ、足と足の間をもぐもぐと甘噛みし始める。


 そんなお手入れに夢中な黒猫ロロさんを見てほっこりした。

 

 と、グラドは俺を見上げてきた。


「……壊槍グラドパルスが俺を選んだのか。壊槍グラドパルスの歴史や、グラドのバックボーンが知りたい。説明を頼む」

「はい! 壊槍グラドパルスは嘗てグラド家が仕えていた魔侯爵で魔君主とも呼ばれていたファイサド家の至宝の一つだったらしいのです。祖先は、戦功を上げた際ファイサド家と縁が深いこともあり、特別にグラドの名と共に壊槍グラドパルスを頂いたと聞いていました」

「グラドの祖先。門閥貴族のような存在で、ファイサド家に仕えていたのか」

「魔侯爵ファイサド……どこかで聞いた名だ」

 

 アドゥムブラリがそう発言。

 グラドは、


「はい、祖先が仕えた魔侯爵」


 アドゥムブラリは魔侯爵の言葉を聞いて、<武装魔霊・紅玉環>から離れて浮かぶ。

 小さい翼がバタバタと羽ばたいた。グラドは、


「魔侯爵のファイサド家の情報は、遙か昔に家族から聞いた範囲でしか知りません」

「覚えている範囲でいいから教えてくれ」

「はい。魔侯爵のファイサド家は、壊極魔山グラドパルスを本拠地にしていたようです。しかし、破壊神サージメント・バイルス、破壊の王ラシーンズ・レビオダ、魔王レムリア・アッサルト、恐王ノクター、魔龍皇ベアマンド・タグムハーブ、魔皇シーフォ、魔界王子テーバロンテなどとの争いで敗れたと聞きました。祖先の大半は、討ち死にしたようです」


 おぉ、ここで魔皇シーフォの情報とは驚きだ!


「ングゥゥィィ……シーフォ……」


 肩の竜頭装甲ハルホンクも魔皇シーフォに反応。

 グラドは、肩の竜頭装甲ハルホンクを一瞬チラッと見る。


 後で〝列強魔軍地図〟に魔力と思念を込めながら触ってもらおう。


 ヘルメも、


「今、神々や諸侯の名の中に魔皇シーフォの名が!」

「ヘルメ、それは後回しだ。グラド、祖先の話を頼む」


 ヘルメは小声で「はい」と返事をしつつイモリザとアクセルマギナにゼメタスとアドモスに視線を向けている。

 グラドは、


「はい、私がいるように生き延びた祖先がおり、ルアン族やグラド族と呼ばれていました。信仰する魔界の神は破壊神サージメント・バイルス様が多かった。祖先が仕えていたのは魔侯爵ファイサドで、しかも敵対していた勢力の神でしたが……とくにお咎めはなかったようですね。かくいう私も幼い頃から破壊神サージメント・バイルス様を信仰しています。その祖先たちは、ヒトレアの街の住人とルアン族たちと共にグラド傭兵団を結成し、戦場を渡り歩くことになったようです。幾星霜と戦場を生き抜いたグラド傭兵団は……いつしか魔王レムリア様の勢力下で働くようになりました。私はその中で生まれ育った。ですから、わたしにとっては、魔君主といえば魔王レムリア様になる。そして、壊槍グラドパルスと〝ファイサドの次元媒粉の楔〟を父から譲られてグラド傭兵団の正式な魔界騎士になれた。しかし壊槍グラドパルスは、私には象徴の武器でしかなかった。重いので、鈍器としては便利でしたが……愛用している魔槍ヴォイドがありましたから、あまり使うことはなかった」


 納得だ。


「グラド、そのグラド傭兵団だが、魔傭兵とか呼ばれている方々と同じ範疇かな」


 グラドは頷きつつ、


「そうです、その範疇。魔界騎士には特に所属先を決めず、自由に各地を放浪する者もいます。自由騎士と呼ばれている者も。金で動く魔傭兵ですが、己の正義、己の信条に合う志を持つ魔傭兵もいます」


 配下になった魔界騎士ド・ラグネスもそうだった。


 大厖魔街異獣ボベルファにいるザンクワ、オオクワ、ディエ、アラ、ヘイバト、ミトリ・ミトンに、他の鬼魔人、仙妖魔の皆はどの位置にいるのか。

 

 魔界王子ライランの勢力地域を抜けたくらいだと予想。

 大厖魔街異獣ボベルファは意外に速い。

 そして、鬼闘印をグラドに見せたら通じるかな。


 とりあえず、

 

「了解した。グラド傭兵団と壊槍グラドパルスの話の続きを頼む」

「はい。魔王レムリア様麾下のグラド傭兵団。私はそのグラド傭兵団の魔界騎士として永く活動していました。魔界大戦も数度経験し、サビルの森とエジムンド街道を制した戦いでは、常勝に近い活躍を示せました。魔王レムリア様は、更に支配力や称号を得ようとセラに通じている【ペントモリアの異原森山道】の傷場を支配しようと試みました。しかし、その傷場に現れた魔人帝国と呼ばれる敵集団と争いになり……一旦は勝利を収めましたが、新手の第五魔界方面軍軍団長ログアルル・ドメガメンが出現すると、一気に旗色が悪くなり、負け始めた……レムリア様も【ペントモリアの異原森山道】どころではなく、自身の領域に侵入されて消息不明に……勿論、グラド傭兵団も大敗。撤退が続きました。その戦いの最中……私は魔術師クンダと戦うことに。その魔術師クンダが扱う次元裂きのスキルか魔法で、狭間ヴェイルの穴に閉じ込められそうになった瞬間に、〝ファイサドの次元媒粉の楔〟をかぶるように周囲に振り撒いた。そして、壊槍グラドパルスをクンダの次元裂きのスキルか魔法に向け投げた。私でも放るぐらいはできますからね……その結果、クンダの次元裂きと衝突した壊槍グラドパルスは発生しかかっていた狭間ヴェイルの穴の内部を数度跳ね返りながらクンダの背後に移動し、何処かへ転移するように稲妻を放ちつつ消えた。私は、狭間ヴェイルの穴に閉じ込められてしまいましたが……壊槍グラドパルスは外に出られた」


 皆、グラドの話を聞いて静まった。

 思わず唾を飲み込む。


「濃密な物語だ。俺は、セラで強敵と戦う際、<闇穿・魔壊槍>というスキルを使用して、この壊槍グラドパルスを召喚、強敵にぶち当てて使っていた。この壊槍グラドパルスは前方の次元空間に穴を開けると、その穴の中へと周囲の空間ごとあらゆる物を穂先のドリルや柄に吸い込むように巻きこみながら突入し、その穴へと壊槍グラドパルスは消えていたから、かなり強力な必殺技だった。が、今回は不思議と消えず、狭間ヴェイルの穴の前で壊槍グラドパルスは回転しながら止まっていた。だから、壊槍グラドパルスはグラドの下に戻ろうとしていたのだろうと思うが、どうなんだ?」


 そう聞いた。

 グラドは俺が持つ壊槍グラドパルスを見ながら、納得するように頷いていた。


「……壊槍グラドパルスには、言い伝えがあるんです。その言い伝えには『壊槍グラドパルスの真の使い手こそが、ファイサド家、魔君主を継ぐ存在であり、次元を渡る使い手、極魔破壊魔山グラドパルスへ誘われる存在である。グラド家はその使い手を探すことが使命と心得よ』『その真の使い手は、狭間ヴェイルの穴を打ち破るとされる破壊異槌ゲルセルクに近い効果を壊槍グラドパルスから生み出すだろう』とありました。更に〝ファイサドの次元媒粉の楔〟は、『この粉をかけた物や存在に場所を記憶する。同時にファイサド家に縁が強い者たちの下へ転移されやすくなる、または誘われる効果を生むであろう』と聞いていたので、そのスペシャルなアイテムの効果と言い伝えに賭けた。だから私を閉じ込めた狭間ヴェイルの穴の次元を記憶していた壊槍グラドパルスは、シュウヤ様を誘ったのだと思います……シュウヤ様と壊槍グラドパルスを見た時は興奮しましたよ」


 鳥肌が立った。<闇穿・魔壊槍>の謎が解けた。

 壊槍グラドパルスのこれまでの経緯が分かるとは感慨深い……。


「「おぉ」」

「そのような凄まじい物語が壊槍グラドパルスに……では、次元を渡る壊槍グラドパルスが時空属性などの様々な条件を満たす閣下を見つけたのですね……」

「凄いお話です!」

「「ウオォォ!」」


 ヘルメ、イモリザとゼメタスとアドモスも興奮している。

 

「……その魔術師クンダとは、魔軍夜行をただ一人生き延びた伝説の魔槍騎士デラハ・ヴェルゼイを狭間ヴェイルの穴に閉じ込めた存在かな」

「デラハ・ヴェルゼイの名は聞いたことがないですが、敵対者が魔術師クンダなら、私と同じ次元裂きのスキルか魔法を喰らった魔界騎士が、デラハ・ヴェルゼイという方なのでしょう」


 セラの童話のことは知らないか。


「セラの童話の有名な〝狭間ヴェイルに捕らわれた魔人騎士ヴェルゼイとアイラの恋〟にも登場するんだ」

「セラは、贄としての話を聞く程度。童話も知りません。傷場を渡ったことがないですから」

「そっか。その魔術師クンダの魔人帝国とは、セラで争った経験がある」

「なんと……魔人帝国とシュウヤ様は争いが……壊槍グラドパルスが選んだだけはある……やはり、シュウヤ様が、私の魔君主様で在らせられる……」


 魔界騎士グラド。

 偶然ではないような気がする。


 頷きつつ……。


「……北マハハイムよりも更に北西地方にいるダンジョンマスターのアケミ・スズミヤが持つダンジョンを巡って、高・古代竜ハイ・エンシェントドラゴニアのサジハリと共に魔人帝国ハザーン第十五辺境方面軍軍団長ギュントガン・アッテンボロウと戦った」

「辺境方面軍……魔人帝国ハザーンとはかなりの勢力のようですね」

「あぁ、軍隊を運べるような転移が可能なようだからな。そして、過去話をありがとう。壊槍グラドパルスの謎を聞けてよかった」

「はい! こちらこそ! シュウヤ様、このグラド、魔傭兵上がりで、破壊神サージメント・バイルス様への信仰を持ちますが……改めて魔界騎士としてシュウヤ様に忠誠を誓いたい思いです。皆様方も受け入れてくれますでしょうか」

「構わない。俺は光魔ルシヴァルという種族で、光属性と闇属性を持つ。魔界の神々と神界の神々とも通じている。セラでは冒険者ランクAで、冒険者として生きているんだが、そんなセラにある【天凛の月】という名の闇ギルドの総長で盟主なんだ。後、魔界騎士としてグラドを迎えいれたら<筆頭従者長選ばれし眷属>や<従者長>ともまた違う眷属となる。それでいいか?」

「はい、破壊神サージメント・バイルス様への信仰も捨てる思いです。私の魔君主、君主、王、皇帝はシュウヤ様ただ一人……」


 グラドは気概を示すように全身から朱色と黒色に近い魔力を放出させる。

 横の黒馬獣ベイルも同じような魔力を噴出させる。尻尾に朱色の炎が灯っていた。

 渋い。そのベイルからグラドに向け、


「破壊神サージメント・バイルス様は初耳だ。もし、俺の眷属たちと敵対し、弱者を騙しレッテルを貼り命を奪い破壊を好む神ならば容赦はしないつもりだが、それでもいいんだな?」

「はい、そのつもりです。元より、破壊を司る神々と繋がる破壊神サージメント・バイルス様は神格をとうに失っています」

「分かった」


 皆に向け、


「皆もどうかな。このグラドを受け入れるか?」


 バーソロンを見る。

 バーソロンは素早く俺の足下に来ると片膝で地面を突いて、頭を下げる。


「――御意のままに、グラド殿は、陛下と運命付けられた魔界騎士のようですからね。そして、恥ずかしながら、破壊神サージメント・バイルスの名は知りませんでした。相当古い神のようですね。後、仲間となるのはわたしも嬉しい。強そうですし、賛成です」

「閣下、愚問ですぞ!! 受け入れまする!!」

「うむ!! 新しい戦力は大歓迎ですぞ!」

「ですぞ♪」


 イモリザがアドモスの真似をして少し笑う。


「「「「はい」」」」

「勿論です! マスターの新しい戦力。魔界セブドラとセラでの戦いはこれからも永いんですから」

「はい♪ 新しい魔界騎士とお馬ちゃん~♪」


 イモリザの言葉に皆が頷く。


「だ、そうだ。俺も賛成」


 とグラドに言うと、グラドは満面の笑みを浮かべてから、皆を見て、


「――ハイッ、皆々様、有り難きお言葉です――」


 と、また頭を垂れた。


「では受け入れ決定。早速魔界騎士の儀式を行おう!」


 と宣言。


「陛下、玉座はバーヴァイ城にまだ残っていると思いますが、そこで?」


 バーソロンがそう指摘すると、ヘルメの双眸が輝く。

 そのヘルメは一瞬で身なりを参謀が着るような水色と群青色の魔法服にチェンジしていた。どことなく、【天凛の月】の新衣装と似ている。


 期待しているヘルメには悪いが、


「……形式は形式で重要なことだとは思うが、そもそも俺はそんな権威を振りかざすタイプではない。そして、やることが多い。ここでいいだろ?」


 と、ヘルメなどに視線を向けながら語る。


「閣下……神聖ルシヴァル大帝国の魔皇帝として……」

「賛成~♪」

「にゃおお~」

 

 イモリザと相棒は賛成してくれた。


「はい、城を勧めましたが、わたしもここで賛成です」


 ヘルメはバーソロンの言葉を聞いて、少し溜め息を吐く。

 いつもの水衣に衣装をチェンジしつつ、俺の右肩に寄ると体を預けてきた。


 肩の竜頭装甲ハルホンクは気を利かせて半袖に変化。ズボンは魔竜王の素材が混じるゲージ幅が厚い生地となった。

 

 ヘルメの半身は霧のような水蒸気に変化。

 天然のアロママッサージを半身に受けている感じで気持ちいい~。


 そんな状態で、片膝をつけているグラドに視線を向けると、


「――では、陛下専用の魔界騎士として、命を捧げることを古今の魔界の神々セブドラホストにかけて誓います!!」


 グラドはそう宣言してくれた。

 

 よし、気合いを入れよう。

 ヘルメは直ぐに離れた。


 同時に、魔槍杖バルドークを右手に召喚。


 グラドの肩に、魔槍杖バルドークの穂先を当てる。

 グラドは体が震えた。


「……俺も誓おう。いかなる時もグラドに居場所を与えると。そして、お前の名誉を汚すような奉仕を求めることもしない。自由の精神を大事にする。これを、この魔槍杖バルドークと水神アクレシス様や魔界の神々にも誓おう。相棒のロロディーヌにも誓う――」

「はい、私の陛下――」


 グラドの宣言の後、


「おめでとうございます!」


 とヘルメが一番に拍手。

 刹那、周囲の皆が一斉に拍手――。


 バーヴァイ城のほうにまで拍手が続いたから、凄い地響きとなった。

 数千人のデラバイン族の兵士がいるんだよな……。

 重責だ。彼らを守るとして、一人たりとも命は失ってほしくないが、それは俺の我が儘か。

 

 一旦、〝魔の扉の鏡〟とバーソロンの魔杖を使い塔烈中立都市セナアプアに避難してもらうか?

 が、バーヴァイ城を攻めてくる連中は多いだろう。


 悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力がいるようだからな。

 恐王ノクターは魔界セブドラの神絵巻に載っていたから、上級神以上の存在だろうか。だとしたらあまり戦いたくない魔界の神だ。

 悪神といえば悪神デサロビアも魔界セブドラの神絵巻に載っていたから惑星セラ以上にこの魔界セブドラで力を有している? 悪神ギュラゼルバンと何か共通点があるんだろうか……そんな連中に〝魔の扉の鏡〟を奪われると厄介か。


 幸い、魔界セブドラ側の〝魔の扉の鏡〟の持ち運びは可能なようだから、魔の扉の鏡を回収して、魔界セブドラの安全な場所までデラバイン族の兵士を移動させるべきか。


 安全な場所で〝魔の扉の鏡〟とバーソロンの魔杖を使い、一旦、塔烈中立都市セナアプアへバーソロンとバーソロンの部下のデラバイン族を移動させれば……まぁ、後々か。

 

 地の利に詳しいバーソロンと会議をしておきたい。

 魔皇シーフォの手掛かりのこともあるし、二人には後で〝列強魔軍地図〟に触ってもらうとしよう。


 そう先のことを考えつつ皆の拍手に包まれながら魔槍杖バルドークを消した。


 グラドは両膝で地面を突くと、魔法の鎧を消す。


 上半身を突き出した。


 勿論、野郎の筋肉モリモリな胸には興味はない。

 乳首は普通か。一旦バーソロンとヘルメを見て癒やされる。途中にゼメタスとアドモスが視界に入ったが、魔力の噴出がぼあぼあと強まったのは気のせいだろう。


 と、グラドは、


「私の魔界騎士の証明を晒します――」


 グラドの胸元から半透明の長柄の槌か槍のような武器が出現。

 能力の一部を表す精神象徴、デルハウト、シュヘリア、バーソロンと同じ。

 心の一部。

 同時に魔界の神々セブドラホストから魔界騎士と認められている証拠。


「それが、グラドの魔界騎士の証明か」

「はい、<魔心ノ破壊槌>です」

「では、引き抜き、魔力を込める」

「ハッ――」


 <魔心ノ破壊槌>の長柄の槌を掴んで、引き抜く。


「おっ――」


 グラドの声を聞いて少しダメージを受けた感覚となったが、バーソロンとヘルメのおっぱいさんを見て回復。

 

 そのまま素早く半透明な長柄の槌に魔力と<血魔力>を込めた。

 その<魔心ノ破壊槌>は白色、血色、黒色、蒼色、灰銀色の煌めきを繰り返す。

 その半透明な長柄槌の<魔心ノ破壊槌>をグラドの胸にぶち込んでやった。


 ――魔力をかなり消費した。


「ぐおぉぉ――」


 グラドの上半身の肌に紫色と金色の筋が入る。筋肉が増えた? と、その表面にルシヴァルの紋章樹が薄らと刻まれた。

 その皮膚の上に鋼鉄のブツブツが浮き上がり甲冑のような姿になった。 


 刹那、首の<夢闇祝>がまたズキッと痛み、血が流れた。

 

 悪夢の女神ヴァーミナ様の来訪はないが、二人の魔界騎士を迎え入れたことを知ったのなら驚いたかな。


 グラドは充血した双眸を見せたが、直ぐに蒼と白が基調の双眸の色合いとなる。

 鼻も高いイケメンなだけにモテそうだ。

 グラドは、


「陛下、私は<血壊ノ業槍鎚師>の戦闘職業を得ました!」

「おう。強くなったようだな」

「ヒヒーン――」

 

 馬魔獣ベイルも嬉しそうだ。

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