九百九十七話 <光邪ノ使徒>の選ばれし狙撃手ピュリン


「それが不意打ちのつもりか?」


 そう言いながら<黒呪強瞑>を強めて<血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動。

 フェデラオスの猟犬の首に向け左手が握る神槍ガンジスで<血穿・炎狼牙>を繰り出した。

 同時に竜魔石を活かすように右手が持つ魔槍杖バルドークを斜め上へ振るう。


 方天画戟と似た穂先の<血穿>がフェデラオスの猟犬の首を穿つ。

 血飛沫で蒼い槍纓が赤く染まった。

 小柄の魔族が持つ蟲の骨の魔剣を弾いた隠し剣氷の爪は小柄の魔族の頭部に向かう。

 ほぼ同時に神槍ガンジスから血の炎が噴き出た。

 小柄の魔族は身を反らし「疾ッ――」と言いながら首を穿たれたフェデラオスの猟犬から離れた。

 帽子と小柄の魔族の額を浅く斬った隠し剣氷の爪を解除した刹那――神槍ガンジスが突き刺さっていたフェデラオスの猟犬の首が爆発したように溶けて消えると、神槍ガンジスから放出されている血の炎は瞬く間に狼を模った。


 その血の炎狼は咆哮を発した。

 そのまま宙を昇りながらフェデラオスの猟犬の三つの頭部を下から喰らうように飲み込むと、そのまま上昇、三つの頭部を失ったフェデラオスの猟犬の体は壊れた人形のように震えると、上昇中の<血穿・炎狼牙>の血の炎狼の体から放出されているプロミネンスのような炎に触れたのか、その体は燃焼しながら倒れた。


「――な!?」

 

 小柄の魔族は、炎に包まれ倒れたフェデラオスの猟犬に驚いたが、魔槍杖バルドークの竜魔石の輝きを注視しつつ――右後方へ低空を飛翔しながら退いた。


 その退いた小柄の魔族に、


「――逃がしません」

「メヌーア、相手が悪かったな! 親衛隊長として強さに自信があろうとも、陛下には通用しない――」

「陛下だと、この黒髪の男は諸侯のような存在だというのか。というか、お前、やはり裏切ったんだな」


 小柄の魔族メヌーアがそう発言。

 そのメヌーアにヘルメが放った《氷槍アイシクルランサー》と、バーソロンの炎の紐が向かう。


 メヌーアは「チッ」と舌打ちしながら蟲の骨が連なる魔剣を傾け、《氷槍アイシクルランサー》を防ぎ、バーソロンの炎の紐をも弾く。メヌーアの蟲の骨の魔剣を扱う技術は高い。


 バーソロンは、


「そうだ。我のバビロアの蠱物の反応が消えたから、お前たちがここにきたんだろう」


 そう喋るバーソロンの炎の紐が、再び、小柄の魔族メヌーアに向かう。

 メヌーアは蟲の骨が連なる魔剣を縦に振り下ろして、再び飛来していた《氷槍アイシクルランサー》を弾き、斜めに上げてバーソロンの知恵の輪のような形の炎の紐の攻撃を弾きながら横に移動。


 <武装魔霊・紅玉環>のアドゥムブラリが、


「あの小柄の魔族のメヌーアは、魔界王子テーバロンテの眷族ではないと思うぞ、門閥貴族にも見えないな。バーソロンと同じと予測する」


 そう発言。

 

 と、メヌーアが持つ蟲の骨が連なる魔剣が解けた。

 蟲の骨が幾重にも分かれると、骨と骨がワイヤーで繋がっているように等間隔で分かれながら骨の刀身を八方に伸ばす。

 

 蟲の骨の魔剣は蛇腹剣のような魔剣でもあるのか。


 その間にも<血穿・炎狼牙>の血の炎狼は宙に弧を描くように曲がりながら走り、小柄の魔族メヌーアへ向かう。

 

 血の炎が吹き荒れる神槍ガンジスを引きつつ――。

 大ホールの壁際を横移動しているメヌーアを追うように正中線を向けた。

 そのメヌーアとの間合いを測るように足を向ける。

 神槍ガンジスから迸る血の炎が左腕を回っていた。


 《氷槍アイシクルランサー》と炎の紐の連続した遠距離攻撃を蟲の骨が連なる魔剣で防ぐメヌーアと<血穿・炎狼牙>の血の炎狼が衝突。小柄の魔族メヌーアは、蟲の骨の魔剣を盾状に変化させて血の炎狼の攻撃を防ぐと、背に翅を生み出し上昇。


 ヘルメは《氷槍アイシクルランサー》の攻撃を止める。

 バーソロンの炎の紐も消えた。


 小柄の魔族メヌーアは<血穿・炎狼牙>の血の炎狼を振り切ろうとしたが、振り切れず、背後の大ホールの壁と衝突。


「ぐぉッ――」


 と言いながら、盾状の蟲の骨が連なる魔剣の切っ先を剣に戻すと、


「<暗蟲刀豪斬>――」


 と言いながら蟲の骨の魔剣を振り上げ<血穿・炎狼牙>の血の炎狼の歯牙を持ち上げるように振り払うと、<血穿・炎狼牙>を防ぎきった。


 <血穿・炎狼牙>の血の炎狼は壁を駆け上がり、壁を蹴って飛翔しながら宙空で円状の血の炎を散らしながら消えた。

 メヌーアは震えている体に火傷を負ったようで、防護服は溶けて太股の皮膚は爛れていた。

 翅も折れている。が、その全身の傷と折れた翅は一瞬で回復していく。


 メヌーアは強い。そして、可愛いが、敵は敵だ。

 すると、背後から、


「――親衛隊長のメヌーアが<暗蟲刀殺>で仕留められず苦戦とは!!」

「うん、ウルゴロシ、行くわよ――」


 図太い男の声と甲高い女の声はバーソロンたちと同じ魔界セブドラの言語だ。


「陛下、王婆衝軍を率いているウルゴロシとベマトリアが向かってきます」

「ぴゅきーん♪ <光邪ノ使徒>イモちゃんにお任せを♪」


 振動? イモリザのほうから重低音が響く。


「「おぉぉ」」

「イモリザ様の前方の床が盛り上がったァァ!」

「皆、少し下がりましょう。でも、イモリザが地形を考えるとは、やりますね! さて、バーソロン、わたしたちも対応しましょう」

「はい」

「閣下ァァ!! 当然ですが、闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの我らと閣下の楔の絆はセラと変わらず!」

「閣下ァァ、魔界セブドラ内での転移は成功ですぞ! しかしながら、グルガンヌの東南地方に帰還できるのか不安ですが」

「ええぇ? 地面から魔界騎士が!?」

「「ひぃぃ」」

「にゃおおお~」


 相棒がゼメタスとアドモスに飛び掛かって喜ぶ声だと直ぐに分かる。

 さて、魔界王子テーバロンテに背中を見せる形だが、皆を信頼しよう――。


「――皆、背後は任せる」


 小柄の魔族メヌーアに近付いた。

 メヌーアは、


「貴方、速いけど、十分対応できる!」

「そうかい。それはそうとメヌーア、お前は魔界王子テーバロンテに弱みを握られているのか?」

「――テーバロンテ様に刃向かう者に死を!!!」


 当たり前だが、聞く耳持たず。

 さすがにバーソロンのようにはいかないか。

 アドゥムブラリが言っていたが、バビロアの蠱物が心臓にあるのか?

 メヌーアは蟲の骨が連なる魔剣を槍に変化させて突き出してきた。

 仕方ない、槍に構わず、魔槍杖バルドークで<獄魔破豪>を繰り出す。

 体から凄まじい勢いで迸る<血魔力>が血の渦となって魔槍杖バルドークの前方に展開された。

 血の渦の中へと魔槍杖バルドークと共に螺旋回転しながら一直線にメヌーアへと向かう。


 ――端から見たら何回か実行したことがある<血鎖の饗宴>の一本槍に見えるかもしれない。


 俺の体と魔槍杖バルドークから迸る<血魔力>が血の炎のブレードと化した。

 刹那、甲高い金属音と肉と骨を砕き潰したと分かる重低音が響く。

 メヌーアごと大ホールの壁を貫いた<獄魔破豪>の魔槍杖バルドーク。

 大ホール内に激しい振動音が谺する。

 メヌーアだった残骸の血肉は血の炎のブレードに巻きこまれながら宙空で消えていた。

 

 <獄魔破豪>を止めると、血の炎のブレードは、魔槍杖バルドークと俺に吸い込まれるように消える。


 両足を床につけたところで、背後に振り向いた。

 

「『我の眷属を屠る槍使い、お前は何者か――』」


 魔界王子テーバロンテの思念と言葉が響く。

 メヌーアは眷族らしい。どうせ魔杖バーソロンと同じような感覚なんだろう。

 

 肌がヒリヒリするほどのプレッシャーを感じた。

 バーソロンの部下たちは萎縮したような表情を浮かべている。


 そして、広場の一部は前部が盛り上がってトーチカと化していた。

 イモリザが持ち上げた床の地形を活かす形か。


 盛り上がった床の横には、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスがいる。

 星屑のマントが似合う後ろ姿だ。


 《氷槍アイシクルランサー》を翅持ちの百足高魔族ハイ・デアンホザーと右将軍と左将軍に向けて放っているヘルメと、バーソロンたちがいる広場に駆け戻った。


 すると、腰のベルトにぶら下がる魔軍夜行ノ槍業が少し震え、


『――弟子ぃ! 先ほどの<獄魔破豪>の<魔槍技>は見事だったぞ! 使えば使うほど、お前の獄魔流は洗練されていく』

『はい、修業の賜物です』

『良い心がけだ。そして、魔界王子テーバロンテの戦いでは、上半身だけだが、骨装具・鬼神二式を装着したトースンを使え。完全ではないが、十二分にお前の役に立つ。更に潰れたとしても魔軍夜行ノ槍業に戻るだけ。デコイにも使えるだろう。戦いの総合戦術に関しては俺の数段上を行くお前だ、とやかくは言わないが、とにかくがんばれ』

『はい!』


 すると、


「使者様、空にいるリーダー格の二人は私が――」


 宙空に無数の<魔骨魚>を誕生させるとイモリザは姿をピュリンに変化させた。同時に<魔骨魚>たちが先端が細まった姿に変化。


「ピュリンもイモリザのスキルを使えるってことか」

「はい、ツアンさんも同じです。イモリザは使者様と一緒にいたいので言いませんでしたが、実は使えます」

「分かった、ピュリンの狙撃手の腕に期待しよう」

「はい!」


 ピュリンの斜め横にいるヘルメは霧状の体を更に右前方に生み出すと、


「わたしも合わせますから――<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>――」


 ヘルメの霧状の体から大きい波が発生。

 波から群青色の<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>の溶液的な手が無数に出現し、飛翔している百足高魔族ハイ・デアンホザーを捕まえて凍らせていく。

 そこに大量の《氷槍アイシクルランサー》を喰らわせていく。

 百足高魔族ハイ・デアンホザーたちは次々と体が氷結し、穴だらけとなって落下していく。


 が、ヘルメの遠距離攻撃を巧みに弾き避けている二人。

 魔槍使いのウルゴロシと魔剣使いのベマトリアか。


「バーソロン、ヘルメの《氷槍アイシクルランサー》と<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>の攻撃を避けて対処している魔槍使いと魔剣使いが、右将軍と左将軍で王婆衝軍を率いているウルゴロシとベマトリアだな?」

「はい」


 頂点の魔界王子テーバロンテは高みの見物か。

 ピュリンが、


「使者様、二人の強者は、精霊様の攻撃に気を取られていて今がチャンスです。狙います」


 金髪と薄青い瞳を持つピュリン。

 額の墨色の綺麗な線状紋のようなマークが皮膚から離れて、稲妻の魔力を帯びたようにバチバチと音を響かせながら片腕と繋がっていた。


「おう」


 敬礼を行うピュリン。

 そのピュリンに笑顔を見せながら、ラ・ケラーダを返した。


 そのピュリンの片腕の手首から伸びている骨筒は前と違う。


 対物ライフルのバレットM107を彷彿とさせる。

 先端のマズルブレーキのような骨の塊は、大きい将棋の駒のような形で渋い。アンチマテリアルライフル顔負けの形に進化を遂げていた。

 イモリザが強化されたように、セレレの骨筒を有したピュリンも俺が体験した玄智の森での経験が活かされて強まったと分かる。


 そのピュリンは対物ライフルと似た骨筒の下に銃座のような骨を伸ばして床につけて固定。

 元は骨筒だ。マークスマン・ライフルのような形態にも変化が可能に見える。


「セレレの骨筒も変化したんだな」

「はい、使者様。<光邪ノ尖骨筒>の形態は、距離によって変化が可能。今は、あの二人を狙撃します。見ててください――<光邪ノ雷連徹甲骨弾>――」


 ピュリンはスキルを発動。

 アンチマテリアルライフル顔負けの骨筒のマズルが連続的に火を噴く。

 火柱にも見えた大口径の骨の弾丸が幾つも直進――。

 撃つたびに、ドッ、ドッ、ドッと魔力と衝撃波が骨筒の穴という穴から噴出していく。


 宙空に展開していた<魔骨魚>からも雷属性を帯びた骨の弾丸が放たれていく。

 

 大口径の骨の弾丸が、ウルゴロシとベマトリアと、大きい翅を持つ百足高魔族ハイ・デアンホザーに次々と衝突し爆発が起きる。

 百足高魔族ハイ・デアンホザーは<魔骨魚>が放った骨の弾丸も浴びている。

 翅が穴だらけとなって数千規模の百足高魔族ハイ・デアンホザーが落下していた。


 ドンッという大砲の弾丸が爆発したような音は凄まじい。

 心臓が圧迫される感覚だが、狙撃手ピュリンの活躍は凄まじい。

 ある種、砲撃手と言えるか?

 光魔ルシヴァル的に言えば、<光邪ノ使徒>の選ばれし狙撃手がピュリンだな。

 右腕の戦闘型デバイスに浮かぶアクセルマギナは拍手している。

 と、魔界王子テーバロンテの前方の空間が歪む。ピュリンの骨の弾丸やヘルメの十八番の《氷槍アイシクルランサー》はそこで消えている。 

 その魔界王子テーバロンテと、バーヴァイ城の城門の屋根は無傷だったが、ヘルメの《氷槍アイシクルランサー》の連射に気を取られていたウルゴロシとベマトリアは、ピュリンの発言通り、まともに<光邪ノ雷連徹甲骨弾>の骨の弾丸を喰らって体の一部が欠損、血飛沫を発して落下、そこにヘルメの《氷槍アイシクルランサー》が突き刺さりまくる。


 二人は俺たちに近付くことができずに倒れたかな。

 が、ピュリンのアンチマテリアルライフル顔負けの弾丸とヘルメの《氷槍アイシクルランサー》の弾幕を掻い潜ってきた翅持ちの百足高魔族ハイ・デアンホザーの大集団が襲来。


 が、大きな神獣ロロディーヌが右の視界を埋めたように、


「にゃごぁぁぁぁ」


 口から盛大な紅蓮の炎を吐いた。

 大量の百足高魔族ハイ・デアンホザーの集団を一気に飲み込んだ。

 炭化して塊となった複数の百足高魔族ハイ・デアンホザーは落下しながら散る。

 

「さすがロロ! そして、落下した二名の将軍の生死の確認は個人では行うな。集団による掃討戦に移ってもらう。止めは入念に行え」

「「「はい」」」

「「承知」」


 皆の返事を聞いてから、大きいロロディーヌに、


「ロロ、あの屋根の上で高みの見物を決め込んでいる魔界王子テーバロンテを叩きに行こうか――」


 走って跳躍――宙空にいる大きいロロディーヌの頭部に乗った。

 

「ンン、にゃお~」


 相棒の大きい片耳が俺の体を包む。

 魔槍杖バルドークを手放し、ざらざらとした片耳を撫でてあげた。

 さて、魔界の神格持ちが相手か……。

 魔界王子テーバロンテ……大きい姿だ。

 見るからに魔界の神々の一柱と分かるほどの魔力量、本体か本体ではないのか分からないが……。

 

 眼球は四つか六つか……。

 四腕は太く長い、足が細長く、足の爪が気持ち悪く伸びているのが、またなんとも……。


 エイリアン的な見た目で威圧感が半端ない。

 核爆弾を寄越せよと言いたくなる相手だ……。


 百目血鬼にフィナプルスと骨装具・鬼神二式を装着したトースン師匠を奥の手として使うか?

 それとも序盤に使い、<血龍天牙衝>と<闇穿・魔壊槍>のタイミングを作るか……。


 右手で持ち直した魔槍杖バルドークと左手の神槍ガンジスの柄を握る力が自然と強まった。

 すると、またも首筋に微かな痛みが走る。<夢闇祝>から血が流れた。

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