九百九十六話 千人長ギョジンバとゲラーと激戦バーヴァイ城制圧

 皆と正面口から外の広場に出た。


 ――広場の敵の数は数千以上。

 大ホールよりも敵が多い。


「大ホールから敵が出てきたぞ――」

「倒せぇぇ!」


 早速、近くの蜘蛛魔族ベサンの部隊が襲い掛かってくる。


「相棒と皆、こいつらは俺が対処する――」

「はいです♪」

「「「はい!」」」

「にゃ~」


 その蜘蛛の頭部連中へと――。

 大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を向かわせた。


 ――大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>が、蜘蛛の複眼と頭部と上半身を潰す。


「げゃッ」

「げぇ――」

「ぐぉッ」


 上半身が潰れた一体は衝撃で背後の蜘蛛魔族ベサンたちと衝突、その蜘蛛魔族ベサンたちにも<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>をぶつけた。


 その<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を上昇させながら戻した。


 そして、――追撃の《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を発動――。


 上級:水属性の魔法を高速で連続射出。


 蜘蛛魔族ベサンたちに糸を吐かせず――。

 一瞬で体に無数の風穴を誕生させて倒した。


 すると、腰の魔軍夜行ノ槍業が光を帯びながら振動し、


『――夜行光鬼槍卿の弟子よ、それは本来の八咫角の使い方ではないのじゃ』

『まぁいいじゃねぇか。結構な形で召喚できてるんだからな』


 獄魔槍のグルド師匠は最近優しい。


『うん。<魔軍夜行ノ理>など魔軍夜行ノ槍業に関係するスキルを色々と覚えた弟子だけど、トースンの上半身と装備だけで、まだ、わたしたちの体と、八怪卿に関する秘伝書、八怪卿、八槍卿に関連した装備類、戦旗を手に入れていないからね』

『否、魔界セブドラに来た以上、八咫角に飛車鸞刃の使い方はしっかり学んでもらうべきじゃ。魔城ルグファントを得る資格を有した魔界九槍卿の称号を持つ男の資質が問われる』

『グラド爺、そうは言っても、弟子は<魔仰角印>と<魔俯角印>もまだ覚えていない。ただ魔界セブドラに来ただけよ。頭目として、魔界に帰ってこられたって気持ちはすっごく理解できるけど、焦りすぎ』

『……ふぅむ。シュリに諭されるとは……たしかにそうじゃった……八大墳墓といい、セラにいるだろう魔人武王の弟子もまだまだ多いと予測できるのじゃ……』


 腰ベルトにぶら下がっている魔軍夜行ノ槍業に棲まう八人の師匠たちが思念で語り合う。


 刹那、一部の蜘蛛魔族ベサンたちが、俺たちを見て、


「バーソロン、なぜ裏切った!」


 先ほどの蜘蛛魔族ベサン特有の言語ではない。

 バーソロンたちと俺たちが話をしていた言語だ。マハハイム語の共通語と似ている。


 そして、バーソロンは、


「しれたこと、恨み骨髄に徹する。魔界王子テーバロンテは、我らの故郷を踏みにじったのだ。その憎しみを忘れるわけがない」

「……しかし、バーヴァイの支城を任せられるほど取り立てられた恩があるだろう!」

「あぁ? バーヴァイ城のなにが恩だ! このような魔界王子テーバロンテのために存在する城なぞ、我には意味がない! 悪神や恐王にくれてやればいい!」

「なんだと!」

「当然だろう。我の心臓部にバビロアの蠱物を埋め込み、我の魔界騎士としての誇りを穢し続けても尚、我の意識の一部を魔杖バーソロンに入れられたのだ。そんな魔界王子テーバロンテに……恩なぞ、あるわけがなかろうが!」


 バーソロンの言葉は力強い。

 顔の右側に多い炎のマークが煌めいた。

 蜘蛛魔族ベサンたちは、


「贄とならず、生きて魔界王子テーバロンテ様に仕えられるだけでも有り難いのだぞ! この裏切り者め!」

「……バーソロン……罪深いデラバイン族の女だ。では、悪神か恐王に寝返ったのか?」

「悪神や恐王なぞに、靡くわけがないだろうが」


 バーソロンはそう発言して、俺を見る。

 蜘蛛魔族ベサンたちはざわついてから、


「それよりも、ホールの中にいた五番中隊は……」

「壊滅したということだろう」

「千人長ハバたちも倒されたか」

「同胞たちを倒したのはバーソロンと、そこの魔炎印と角なしの黒髪の男と黒い獣だろうか……」

「そうだろう。黒髪の槍使いは体内の魔力操作が尋常ではない」

「凄まじい魔力を内包している黒い獣も要注意だ。魔皇獣咆ケーゼンベルスのような存在かもしれない……」

「……【ケーゼンベルスの魔樹海】に棲まう魔皇獣のような大魔獣が、一介の眷属に付き従うか?」

「どちらにせよ、同胞の仇だ」

「悪神か恐王の眷属だとして、あの水の魔法生命体と銀髪の少女もそうなのか?」


 蜘蛛魔族ベサンたちは勘違いをしている。


「俺たちはそんな眷属ではない。種族は光魔ルシヴァルだ」


 魔槍杖バルドークの角度を変える。

 蜘蛛魔族ベサンたちは、


「光魔ルシヴァル……知らぬ魔族だが、バーソロン以上の威圧感がある……この槍使いを、集中して倒すぞ、皆!!」

「「「「はい!」」」」

「蜘蛛突剣六番中隊、〝封糸バイバルア溶解陣〟で仕留める。突撃――」


 蜘蛛突剣六番中隊の隊長格が指示を飛ばす。

 分隊が前進し、他の分隊が左右斜め前に出た。

 

 左右の六番中隊の分隊は、俺と黒豹ロロに向け糸を吐き出してきた。


 イモリザ、ヘルメ、バーソロンたちは左右斜め前に移動しつつ、


「閣下――」

「使者様――」


 ヘルメとイモリザは《氷槍アイシクルランサー》と黒い爪を伸ばして糸と衝突させた。糸に付着していた液体のようなものが広場に付着。


 その左右の攻撃からやや遅れて正面の六番中隊の連中も糸を吐いてくる。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を盾にして様子を見るかと思ったが――。


「ンン――」


 『わたしがやるにゃ』と言うように喉声を鳴らした黒豹ロロが、俺の右前に出ると、口を拡げる。


 口の少し先に炎の点を発生させるや否や、


「にゃごぁぁ――」


 気合いの入った鳴き声を発した直後――。

 口の少し先に発生していた炎の点は拡大しながら紅蓮の炎として前方に展開された。


 拡がった紅蓮の炎はヘルメとイモリザの迎撃を抜けてきた大量の糸を一気に飲み込む。


 黒豹ロロは紅蓮の炎の息吹を強めた。


 広場の蜘蛛突剣六番中隊を一網打尽にするのかと思ったが、紅蓮の炎の出力を抑えた。

 

 俺たち、否、バーソロンたちを守るように横へと紅蓮の炎を展開させる。


 優しい黒豹ロロだ。

 そのバリアのような炎で蜘蛛突剣六番中隊の連中が吐き出す糸や<投擲>などの遠距離攻撃を溶かし続けてくれた。


 バーソロンたちの代わりに、


「ロロ、ありがとう」

「ンン」


 相棒は喉声を発し、触手に持ち替えていた魔雅大剣を少し上げて応えてくれた。


 しかし、その紅蓮の炎の影響で、囲む動きに出た蜘蛛突剣六番中隊は見えない。


 が、俺には掌握察がある。

 その掌握察で――。


 広場にいるイモリザ、ヘルメ、バーソロン、バーソロンの部下のデラバイン族、百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンの魔素の位置を把握しつつ――。


 広場と周囲のマップを瞬時に脳内に描く。


 この掌握察の技術は魔界セブドラでも活かせる。普遍の技術を教えてくださったアキレス師匠に感謝だ――。


 師匠の幻影にラ・ケラーダの思いを届けながら、ゼロコンマ数秒も経たせず――。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を盾にしながら二丁拳銃を扱うように<鎖型・滅印>を実行――。


 両手首の<鎖の因子>マークから<鎖>を射出し、盾代わりの<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の左右の端を越えて直進させた――。


 二つの<鎖>は黒豹ロロが口から前方に展開していた紅蓮の炎を裏から突き抜け蜘蛛突剣六番中隊たちの魔素の下へと向かった。


 その<鎖>が二つの魔素の反応を捉えた――。


「な! 飛び道具がきたぞ、散れ――」

「――くっ、鎖だと!?」


 そう声を発した蜘蛛魔族ベサンは強者か。

 二つの<鎖>を避けた。

 その強者を含めた正面口に現れた蜘蛛突剣六番中隊の動きは、相棒の炎で見えないが、掌握察で位置は捉え続けている。


 <鎖の念働>の技術を活かす――。


 両手首から伸びている二つの<鎖>を操作し――掌握察で個別に捉え続けている回避行動を取る蜘蛛突剣六番中隊の蜘蛛魔族ベサンたちを狙った。


「――え!?」

「ぎゃぁ」

「な!?」

「うあっ」

「なんだ、鎖――」

「ひぁ――」


 蜘蛛突剣六番中隊たちの悲鳴や叫び声が響く。


 見えずとも、それらの蜘蛛魔族ベサンの体を<鎖>のティアドロップの形をした先端が突き抜けたと分かる。


 正面口から入ってきたばかりの蜘蛛突剣六番中隊の大半を<鎖型・滅印>で沈めた。


「ンン」


 相棒は喉音を鳴らした。

 黒豹ロロは、蜘蛛突剣六番中隊が繰り出してきた糸と、武器の<投擲>による遠距離攻撃がなくなったことを確認したようだ。


 防御壁のように展開してくれていた紅蓮の炎を吸い込むように消してくれた――。


 俺と黒豹ロロの手前と前方にかけての石床は真っ赤か。

 溶岩のように煮え滾るような音を響かせる。


 この真っ赤な床に水をかけたら水蒸気爆発が起きる?

 

 魔界セブドラの大気と化学変化がセラと似ていることが前提だが……。


 そして、相棒の紅蓮の炎で見えなかった正面口の状況が露見。


 二つの<鎖>が貫いた蜘蛛魔族ベサンの死体が多数転がっている。

 しかし、二つの<鎖>の<鎖型・滅印>による遠距離攻撃を避けきった強者の蜘蛛魔族ベサンがいた。


 その蜘蛛魔族ベサンの一人が複眼を煌めかせ、


「六番中隊とサベル隊長が、一瞬で倒された……」

「鎖と魔法を扱う光魔ルシヴァルか。ギョジンバ、今まで見たことがあったか?」

「ない。光魔ルシヴァルは、悪神ギュラゼルバンか恐王ノクターの大眷属のような存在か」

「……このバーヴァイ城に直に乗り込んできたのだ。ありえる……」


 強者の蜘蛛魔族ベサンたちが語る。

 蜘蛛と人族が融合したような怪人顔だから怖い。


 そんな二人の複眼は魔眼で、眼球の真上に薄い魔線で繋がっている三角形の積層型魔法陣が浮いていた。そして、鋼色の魔槍を持ち、その穂先の形は素槍に近い。

 胸元が開いた魔法の外套からは、紫色の魔力を放出させている。

 朱色と黒色が混じる装束を着ていた。

 その蜘蛛魔族ベサンの強者の二人と対峙しようと思ったが、左右から複数の百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンたちが寄ってきた。


 広場の左右から迫る蜘蛛魔族ベサン部隊は足を止め、魔槍を持つ二名の蜘蛛魔族ベサンを見ると、


「魔槍キョジンバさんとゲラーさんの千人長たちに合わせるぞ!」

「「「はい!」」」


 そう声を合わせると、一気に口から無数の糸を飛ばしてきた。


 糸というよりも繊維の刃といったほうがいいかもしれない――。


 黒豹ロロは右側へ跳躍――。


「閣下、わたしは左側に」

「わたしも左側の敵を倒します!」

「おう」


 ヘルメとイモリザが左側に突進。

 <珠瑠の花>の紐で蜘蛛魔族ベサンの全身を縛り拘束すると、その蜘蛛魔族ベサンの体に黒い爪が突き刺さる。


 さすがヘルメとイモリザ、見事な連携だ。

 バーソロンとバーソロンの部下たちも、


「ではわたしたちも、デラバイン族、左翼の敵を倒すぞ、広場の敵を駆逐するのだ!!」

「「「おう」」」


 バーソロンたちが左側の蜘蛛魔族ベサンと百足魔族デアンホザーの部隊に突撃していく。


 俺は半身の姿勢を維持したまま黒豹ロロを追うように右へ走る。


 大きな塊の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を防御に回した。


 無数の糸の攻撃を大きな駒で防ぎながら広場を走る。


 魔槍持ちの強そうな蜘蛛魔族ベサンの二名は、広場にいる蜘蛛魔族ベサンの部隊と連携しないようだ。


 体から橙色の魔力を噴出させている黒豹ロロは、触手骨剣や魔雅大剣を振るわず、俺の足下にいるから、大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で守ってあげた。


 その黒豹ロロは「ンン」と鳴いて斜め横に駆け出した。


 狙いは端から前に出た蜘蛛魔族ベサンか?


 その間にも無数の糸の攻撃を防ぎ続けている<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>から衝撃と振動を感じている。


 と、足下と周囲に酸のような飛沫が散る。


 刹那、右腕の戦闘型デバイスの真上にパッとアクセルマギナが浮かぶ。


「マスター、敵が放つ糸には、毒の微粒子が含まれています」

「おう。報告ありがとう」


 警告を寄越してくれたアクセルマギナの真下にはガードナーマリオルスの高精細な立体映像がコミカルに回っている。

 魔界セブドラでも、ナ・パーム統合軍惑星同盟が造った人工知能のアクセルマギナとペットロボットのようなガードナーマリオルスは使える。


 俺はルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の<霊血装・ルシヴァル>を発動、これで鼻と喉は大丈夫なはずだ。


「大蜘蛛毒液ベサン・バイバルアが効かない魔族か。魔獣使いであり、槍以外に、魔法も巧み……」

「……テーバロンテ様から頂いた<魔蟲魂闘技>を行うべき相手だ」

「当然、もう使っている」


 蜘蛛魔族ベサンの強者の二名は俺の動きの観察をしている。


 そして、先ほどの五番中隊のルトジ隊長が放った<魔重蜘蛛溶糸>とはまた異なる酸のような毒液が糸には付着しているようだ。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を横にずらしながら、毒糸を口から放つ蜘蛛魔族ベサンの連中をチラッと見た。


 と、蜘蛛魔族ベサンの一体を触手骨剣で仕留めた黒豹ロロが反転し、走りながら足下に戻ってきた。

 

 そんな黒豹ロロを含めて俺を狙う蜘蛛魔族ベサンの口から吐き出される糸のタイミングを測りつつ、


「――相棒なら大丈夫だと思うが、毒の微粒子らしいから吸い込むなよ。念の為息を止めておけ、鼻と喉を大事に――」

「ンン」


 その毒糸を吐いてきた大ホール側の蜘蛛魔族ベサンの連中を見て、


「相棒、毒糸を吐く連中は任せた。俺は二人の強者を倒す」

「ンン、にゃ」


 相棒はそう鳴くと、先に俺から離れた。

 広場の蜘蛛魔族ベサンたちは、


「また黒い獣が来た! <蜘蛛毒液糸ベサン>を放て――」

「「「おう」」」

「にゃご――」


 大隊規模だが、相棒に任せよう――。


 鋼色が基調の魔槍を持つ蜘蛛魔族ベサンの強者に向かう。


 魔法の外套と黒装束からして強そうだ。

 二人は魔槍に魔力を通して強めたのか、鋼色に朱色が増える。


 と、その穂先を俺に向け、


「千人長ギョジンバが参る!」

「千人長ゲラーが参る!」


 前進してくる。

 大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消した。


『――<神剣・三叉法具サラテン>、羅、加速する力を貸してくれ』

『はい、器様――』


 三叉魔神経網が活性化した瞬間――。

 左手の掌から羅の半透明な魔力が瞬く間に拡がり、その羅の魔力に俺は包まれた。

 帷子系の和風防具にも見える<瞑道・瞑水>が――。

 ハルホンクの防護衣装と《スノー命体鋼・コア・フルボディ》の氷の魔法鎧の上に展開される。


 同時に<魔闘術の心得>を意識し<魔闘術の仙極>を発動――。


 続けて<龍神・魔力纏>も実行――。


 左右斜め前へ交互に飛び出る機動で、千人長ギョジンバと千人長ゲラーが口から射出してくる弾丸染みた糸の塊を避けながら――左にいる千人長ギョジンバに近付いた。


 千人長ギョジンバも<魔闘術>系統を強める。


「疾い――が」


 右手に纏う紫色の魔力を強めて、


「――<愚王鬼・牙朱鳴突>」


 鋼色の魔槍を突き出してきた。


 穂先と柄から新たな朱色の刃が生えると、不気味な音を響かせてくる。

 その朱色の刃と鋼の穂先の一撃を、神槍ガンジスの螻蛄首で受けた。


 俄に、その神槍ガンジスに魔力を通す。

 

 同時に、神槍ガンジスの螻蛄首と双月刃で、ギョジンバが持つ鋼色と朱色の刃を持つ魔槍を引っ掛けつつ、神槍ガンジスを下げた。


 刹那、神槍ガンジスの槍纓の蒼い毛が刃と化す。


 退いた千人長ギョジンバは、神槍ガンジスの螻蛄首辺りにある槍纓の刃の一つ一つの刃の靡く機動を正確に読む。

 鋼色の魔槍の柄を小刻みに揺らし、柄に槍纓の刃を当てる防御を行う。

 

 鋼色の魔槍を持つ指が切れそうで切れない。

 

 そんな防御技術が巧みな千人長ギョジンバに向け魔槍杖バルドークで<血穿>を繰り出した。


 ――千人長ギョジンバは退きながら前腕を上げて手首に嵌まる手甲で<血穿>を防ぐ。


 腕を横に払い<血穿>の魔槍杖バルドークを横に弾いてきた。

 

 右腕を引き魔槍杖バルドークを消去。

 右手に魔槍杖バルドークを再出現させた。

 

 フィラメント状に靡いている槍纓の刃を連続的に弾き防いでいる千人長ギョジンバが持つ鋼の魔槍から火花が散る。


 その穂先と柄から新しく出ていた朱色の刃を、その鋼色の穂先と柄の内部に格納した千人長ギョジンバは数歩後退。


 その間にも、神槍ガンジスの蒼い槍纓の刃と鋼の魔槍は幾度となく衝突を繰り返していた。


 ギョジンバが持つ鋼の魔槍から火花が連続で散った。そうして槍纓の刃の攻撃がほぼ防がれた刹那――。

 

 横から殺気――。

 もう一人の蜘蛛魔族ベサンの千人長ゲラーが、


「<愚王鬼・一刃毒>」


 千人長ギョジンバと位置を交換するように<刺突>系統のスキルを繰り出してきた。

 

 俺の横っ腹を狙う機動だ。


 神槍ガンジスの槍纓の刃を操作――。

 魔槍の穂先を見せながら突撃してきたゲラーへ向かわせる。

 が、そのゲラーはパパッと口から連続的に糸の弾丸を放つ。


 複数の槍纓の刃に衝突させた糸の弾丸で、神槍ガンジスの槍纓の勢いを殺してきた。


 構わず<仙魔奇道の心得>を意識し発動。


 <生活魔法>の水を意識。

 <血道第一・開門>を意識――。


 血と水を足下から床に拡げるように流した。


 同時に<黒呪強瞑>を強めた。

 <水月血闘法>を実行しつつ――。

 鋼色の魔槍の<愚王鬼・一刃毒>の穂先を見ながら、広場の床を滑るように――。


 ゲラーの<愚王鬼・一刃毒>を避けた。


 そして、


 <瞑道・瞑水>――。

 ――<水月血闘法>。

 <黒呪強瞑>――。

 ――<闘気玄装>。

 ――<血液加速ブラッディアクセル>。

 

 などの多数のスキルによる加速力を活かしたまま右斜め後方へ滑ってゲラーの側面に移動。


 千人長ゲラーは驚愕顔を浮かべて、


「――なっ!?」


 と声を発した。

 千人長ゲラーの横から神槍ガンジスの槍纓の刃の群れを向かわせる。

 千人長ゲラーは鋼色の魔槍を持つ腕を上げたが、遅い。

 神槍ガンジスの螻蛄首に備わる槍纓の刃が、鋼色の魔槍と衝突を繰り返しつつゲラーの右肩を刺し貫く。魔槍を持つ手の甲と左腕と指をも貫いた。


「ぐあぁ――」


 ゲラーは悲鳴を発し、腕の切断面を見せながら後退。その後退する千人長ゲラーの首を狙うように――左足を半歩前に出す踏み込みから、魔槍杖バルドークによる右手に体を開く<龍豪閃>を繰り出した。


 漏斗雲と似た穂先の一閃がゲラーの首に吸い込まれるかと思いきや、


「させん――」


 と発言した千人長ギョジンバが前に出ながら出した鋼色の魔槍に防がれた。


 即座に神槍ガンジスで千人長ギョジンバの足を狙う<牙衝>を繰り出した。


 千人長ギョジンバは、


「――くっ」


 と反応、魔眼を煌めかせて鋼色の魔槍を斜め下へ傾け、柄の後部の石突で神槍ガンジスの<牙衝>の双月刃を見事に防ぐ。


 俺の速度に対応してくる千人長ギョジンバは強い。

 そのギョジンバは、鋼色の魔槍を上向かせ、神槍ガンジスを弾く。


 蜘蛛魔族ベサンは遠距離攻撃が主体の魔族だと思っていたが、他の魔族と変わらず個性があるようだ――。

 

 すると、その千人長ギョジンバの横から千人長ゲラーが、鋼色の魔槍を俺に向けて突き出しながら前進し、


「<愚王鬼・速刃突>」


 を繰り出す。

 更に千人長ギョジンバがゲラーに合わせる。

 朱色の刃を穂先と柄に生み出した鋼色の魔槍を振るい、


「<愚王鬼・朱旋刃>――」


 俺の胴体を狙う機動の薙ぎ払いを繰り出してきた。

 後退しつつ斜め前に出した神槍ガンジスの穂先で、ゲラーの突きを受け止めた。

 同時に右手の魔槍杖バルドークを縦に構え、ギョジンバの薙ぎ払いの<愚王鬼・朱旋刃>の斬撃を柄で受けて防ぐ。


 魔槍の穂先を防いだ魔槍杖バルドークの柄と神槍ガンジスの穂先から火花が散る。


 甲高い金属音も響く。

 ゼロコンマ数秒、二対一の鍔迫り合いのような形となった。


「……<魔蟲魂闘技>を使用している我らの連携を防ぐとは!」

「やはり光魔ルシヴァルとは、悪神か恐王の大眷属か――」


 ギョジンバとゲラーは魔眼の複眼を煌めかせながら語ると、その口から糸の弾丸を寄越してきた――。

 頭部を傾けて、糸の弾丸を避けようとしたが、ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装に衝突し、耳と鎖骨に糸の弾丸を喰らう――。


 いてぇ――。

 シュッといった回復音が連続して鎖骨付近から響く。


「なんという回復力……」

「チッ――」


 再び飛来した糸の弾丸は避けた。

 表情筋と体の筋肉も普通の人族とは異なるが……。


 邪神ヒュリオクスのパクスのような眷属ではない以上、筋肉の流れと魔力の流れは、だいたい似ているか。

 

 そんな刹那の思考から<戦神グンダルンの昂揚>を実行――。

 神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを捻り回す。同時にギョジンバとゲラーの鋼色の魔槍も俺の神槍と魔槍の回る影響を受けて回った。

 そのまま魔槍杖バルドークの竜魔石と神槍ガンジスの石突をギョジンバとゲラーの胸元に送った。


 ギョジンバとゲラーは鋼の魔槍を持ち直しつつ胸に迫った竜魔石と石突の攻撃をなんとか防ぐ――。


 魔槍杖バルドークと神槍ガンジスの柄が、鋼の魔槍ごとギョジンバとゲラーを押さえ込んだ形となった。


 ギョジンバとゲラーは鋼の魔槍に魔力と力を込めてつばぜり合いを制しようと、反撃に出るかと思われたが、後退。


 追うように前進――。


 ゲラーは片手一本で鋼色の魔槍を握っていたから体勢が揺らぐ。


 が、蒼い槍纓の刃によって細断されていた前腕は中から虫が出て、肉と骨が再生しかかっていた。


 虫を活かした再生能力を持つゲラーを見ながら<双豪閃>――。


 左手の神槍ガンジスと右手の魔槍杖バルドークの矛が後退したギョジンバとゲラーを襲う――。


 二人は後退を続けながら鋼色の魔槍の角度を変えて<双豪閃>を柄で防いだ。

 

 二人とも見事な槍使い。

 が、防御で精一杯と分かる。


 そんなギョジンバに神槍ガンジスで再び<豪閃>――。


 ゲラーには魔槍杖バルドークで<豪閃>のフェイク――<血穿>を繰り出した。


 ギョジンバは両手握りの魔槍で<豪閃>を防ぐ。


 その槍の構えと防御に崩れはない。


 ゲラーは片手握りの鋼色の魔槍の柄で、<血穿>の防御に成功している。

 

 槍を活かす防御術に崩れはないが、魔槍杖バルドークを振るうフェイクを行ってから、その右手が持つ魔槍杖バルドークを消しつつ神槍ガンジスで迅速に<豪閃>を実行――。


 ギョジンバとゲラーは互いの位置を前後にずらそうとしたが、フェイクに掛かった。

 鋼の魔槍を構え直すだけとなり、その鋼の魔槍で、


「くっ」

「重い」


 と、なんとか神槍ガンジスの<豪閃>を防いでいた。

 その間に<武装魔霊・紅玉環>を意識。


 指輪の紅玉環からアドゥムブラリがムクッと出現するや否や、


「おう――」


 その喋りかけのアドゥムブラリに、


「いきなりだが、<ザイムの闇炎>――」


 同時にアドゥムブラリの額にAを刻む。

 瞬時に全身に<ザイムの闇炎>を回しながら、神槍ガンジスで<刺突>を連続的に繰り出し続ける。


 ギョジンバとゲラーは鋼色の魔槍の柄を上下に動かし、<刺突>を防ぎ続けた。


 その間に再出現させた魔槍杖バルドークは<ザイムの闇炎>を吸収――。


 闇の炎を穂先と柄から噴出させると、魔槍杖バルドークは柄の表面に黒々とした竜の鱗を誕生させた。更に『呵々闇喰』の魔法文字を浮かばせてくる。


 ギョジンバが少し前へ出る。

 構わず、ギョジンバとゲラーに向け神槍ガンジスと魔槍杖バルドークの<水雅・魔連穿>を繰り出した。


 ※水雅・魔連穿※

 ※水槍流技術系統:烈槍級独自多段突き。亜種を含めれば極少数※

 ※<刺突>系に連なる独自多段槍スキル。水属性が多重に付加され物理威力が上昇。水場の環境に限り体躯たいくの踏み込み速度と槍突速度が上昇し、三連続の多段突きとなる※


 闇炎と水を纏う神槍と魔槍のコラボ――。

 その連撃の突きを、ギョジンバとゲラーは鋼色の魔槍の柄を上下させて、体に傷を負いながらもなんとか防いだ。


 が、ゲラーの鋼色の魔槍を握る手が振動し防御は大きくズレた。


 即座に、左足の踏み込みを強めて、魔槍杖バルドークで<血穿>を繰り出した。


 <ザイムの闇炎>を得ている漏斗雲と似た穂先の<血穿>が、鋼色の魔槍の柄を削り直進し、火花を散らしながらゲラーの脇腹を穿った。


「げぁっ」


 その魔槍杖バルドークを消去。

 神槍ガンジスを両手持ちへとスムーズに移行しながら<豪閃>のフェイク――。

 ギョジンバとゲラーは、フェイクにかかり、鋼色の魔槍を胸元で掲げるように身構えた。


 鋼色の魔槍を持つギョジンバとゲラーは横並び、その二人に向け――。

 鋼色の魔槍の上へと、神槍ガンジスを押し付ける風槍流『枝預け』を実行――。


 両手を離した。

 その無手状態から――。


「な!?」

「え?」

 

 <玄智・陰陽流槌>を繰り出した。


 ※玄智・陰陽流槌※

 ※玄智武王院技術系統:上位肘打撃※


 <ザイムの闇炎>が表面に浮かぶ水飛沫を発している肘の連続打撃を二人の体と鋼色の魔槍と神槍ガンジスに向けて繰り出した。


 肘の連続打撃を体に喰らったギョジンバとゲラー――。


「ぐあッ」

「げぇッ」


 重低音が響く肘の打撃を繰り出す両腕から水の陰陽魚と衝撃波が発生。

 その水の陰陽魚が踊っていた。

 衝撃波のような陰陽太極図の水飛沫も両腕の周囲に連続的に生まれて拡がり散っていく。

 

 ギョジンバとゲラーの鋼色の魔槍を持っていた指が潰れ、鋼色の魔槍と神槍ガンジスの柄が朱色の装束ごと体にめり込む。


 水飛沫の衝撃波をも体に浴びたギョジンバとゲラーは、盛大に血を吐き、二つの鋼色の魔槍と神槍ガンジスごと吹き飛ぶ。



「「ぐあぁぁぁ――」」


 そのギョジンバとゲラーを追う。

 水の陰陽太極図を体に取り込むように前進しながら神槍ガンジスを瞬時に回収。

 そのまま<ザイムの闇炎>が包む両の掌を合わせ精神集中――その両手を開き――。

 

 <血想槍>を発動――。

 周囲に槍を出現させた。


 血を纏う夜王の傘を変化させた夜王の槍セイヴァルト。

 血を纏う魔槍グドルル。

 血を纏う茨の凍迅魔槍ハヴァギイ。

 血を纏う仙王槍スーウィン。

 血を纏う王牌十字槍ヴェクサード。

 血を纏う聖槍アロステ。

 血を纏う雷式ラ・ドオラ。

 血を纏う独鈷魔槍。


 それらを一斉に<血想槍>で操作――。

 連続的に二人に向けて<血穿>と<龍異仙穿>を繰り出した。


 血の龍の群れによる突撃乱舞をギョジンバとゲラーに喰らわせる。その体は一瞬で肉片と化した。

 

 よっしゃ、倒した――。


「あのギョジンバとゲラーが倒されるだと……」

「戦場で負け知らずの……猛者が……」

「神殺しも可能だと豪語していたのに……」

「フシュァァ」

「ブシュァァァ」


 相棒たちが戦っていない、広場の右にいる蜘蛛魔族ベサンの連中と百足魔族デアンホザーがそう発言。


 百足魔族デアンホザーの言語は『ブシュァァ』だから分からない。


 ――なにかの泡立つ音にしか聞こえない。


 その蜘蛛魔族ベサンと百足魔族デアンホザーの連中に向かった。


 <水月血闘法>を活かす。

 即座に<血想槍>で――。


 夜王の槍セイヴァルトと魔槍グドルルで<血穿>を放つ。仙王槍スーウィンと王牌十字槍ヴェクサードで<龍豪閃>を実行。


 広場で血の舞を披露するが如く――。

 様々な槍を駆使して敵を、突いて、薙ぐ。


 <霊仙八式槍舞>のスキルは使わずに――。

 八式があるなら――。

 七式、九式があるのではないか――と――。 

 <導魔術>と<血魔力>が融合している<血想槍>を活かして、神槍、聖槍、魔槍を振るい、突き、俺自身も格闘を混ぜながら、蜘蛛魔族ベサンと百足魔族デアンホザーを屠り続けていった。


 かなりの数の敵兵力を倒した。


 が、兵舎側から広場に迫る敵はまだ多い。

 

 <血想槍>を終わらせる。


 深呼吸するように<血魔力>で操作している槍をすべて仕舞った。


 同時にゼロコンマ数秒<瞑想>を実行。

 <滔天内丹術>を行った。


 左側で戦うヘルメたちの様子を見た。

 黒豹ロロがいないが、どこにいった?


 あ、バーソロンの部隊が左側の家屋を越えて城門側に進出していた。


 もう勝利は確定かな。


 すると、右側の大通りが騒がしくなった。


 ――右手に夜王の傘セイヴァルトを召喚。


 柄の魔印に指を合わせた。

 その柄に魔力を送り漆黒の長柄傘を開く。


 右の大通りから広場に到着したばかりの百足魔族デアンホザーに向けて――。

 

 <夜王鴉旗槍ウィセス>を発動――。

 開いた夜王の傘セイヴァルトの生地から大量の<夜王鴉旗槍ウィセス>の鴉が飛び立つ。


 ――羽ばたく鴉は銀色の槍穂先と化した。


 鴉と銀色の槍穂先と衝突した百足魔族デアンホザーは爆発するように散った。


 そのまま蜘蛛魔族ベサンの部隊とも<夜王鴉旗槍ウィセス>の鴉と銀色の槍穂先が衝突、その蜘蛛魔族ベサンたちには強者は少なく、ほぼ一撃で、体を串刺しにしていった。


 もっと広場の敵を効率よく倒しきるため――戦闘職業<光魔ノ奇想使い>を活かそうか。


 魔術師系統の戦闘職業を思い浮かべながら――<光魔ノ奇想札>を発動。


 夜王の傘セイヴァルトの生地から数種類のカードが出現。長柄傘の内側にもカード模様が浮かぶ。


 血魔剣と似た魔剣と魔杖を持ったローブ姿。

 戦闘職業の<光魔ノ魔術師>。

 銀色の仮面と衣装に短剣と魔杖を持つ姿。

 戦闘職業の<光魔ノ奇術師>。

 真っ赤な衣と魔杖を持つ姿。

 戦闘職業の<血外魔の魔導師>だと思われる。


 夜王の傘セイヴァルトから浮かぶ三つのカードは広場を直進し、三人の魔術師が出現、百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンの部隊に向けて、それぞれの魔杖から血の雷撃のような魔法を繰り出していく。


 簡易的な<血鎖の饗宴>にも見える血の稲妻魔法と、《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》的な広場の石床ごと切断する紋章魔法などと似た魔法が炸裂していく。


 広場の右側は粗方片付けたか。

 三人の幻想的な魔術師たちは、カードの中に吸収される形で戻ると、魔力を漂わせつつカードごと宙返りをしてから飛来してくる。


 夜王の傘セイヴァルトを傾けると、三種のカードは生地の中に帰還。

 微かな振動を夜王の傘セイヴァルトの中棒の柄越しに得てから、夜王の傘セイヴァルトを閉じた。

 指輪の<武装魔霊・紅玉環>にいるアドゥムブラリが、


「主ぃぃ、最高の血祭りだなァ。そして、広場の右側は制圧完了か!」

「おうよ。が、アドゥムブラリ、ついに魔界セブドラに来たぞ」

「お、ぉう、分かっている……」

 

 きょどる元魔侯爵アドゥムブラリだったが、太陽にも見える斜陽の大本を見上げ、


「嬉しいが……空がな。血が混じる斜陽はなんなんだ?」


 アドゥムブラリの単眼球の瞳は鋭くなっている。しかし、なんなんだと言われても、


「……地獄火山デス・ロウの景色に近いのか?」

「……空だけなら少しだけな。が、地形は当然違う。そして、俺の知るアムシャビスの紅光を真似ているつもりだとしたら、ムカつくぜ」

「……アムシャビスの紅光か。空の支配者アムシャビス族の固有魔法だったと聞いた覚えがある」


 俺がそう言うと、アドゥムブラリは斜陽を見つめながら感慨深げに息をついた。


「……そうだ……〝魔界絶景六六六〟と呼ばれていたのだが……ここは魔界王子テーバロンテの領域、ムカつくが、固有魔法を有している証拠。或いは秘宝かスキルか、魔界王子ライランの協力があると予測するが、塔烈中立都市セナアプアの下界にライランの血沼の幻を発生させるだけはあるようだな……」


 アドゥムブラリがそう語る。

 その斜陽によって明るいバーヴァイ城だ。

 そんなバーヴァイ城の広場でもデラバイン族と百足魔族デアンホザーの戦いが起きていた。兵舎と櫓に複数の建物から火の手が上がっている。


 正面と右に閉じた城門がある。

 城門以外は歩廊を擁した城壁の内側が見えていた。その歩廊側には炎の剣が描かれている旗が揺れていた。

 

 バーソロンたちデラバイン族の部隊がバーヴァイ城の城門を制圧したようだ。


 その城門までには家屋のような建物が多い。

 広場近くの通りの向かいには、魔線が放出されている噴水に井戸があった。


 バーヴァイ城の地形を俯瞰で確認したいところだ。


「アドゥムブラリ、感慨深いと思うが……」

「主、気を使うな、すべきことをしろ」

「おう」


 <武装魔霊・紅玉環>の中に戻ったアドゥムブラリが格好良い。


 アイテムボックスから中級魔力回復ポーションを取りだし、蓋を開け中身を飲んだ。


 と、広場の敵を完全に駆逐したイモリザとヘルメが寄ってきた。


「閣下、バーソロンたちは城門を制圧したようです」

「使者様~、わたしたちの大勝利♪」

「そのようだな。正面の城門と右側の城門にもバーソロンの旗印が上がっている。が、ロロはどこに?」

「あ、途中、広場の先にある通りのほうに走っていかれました」

 

 ヘルメがそう言うと、その方角に黒豹ロロが見えた。走ってくる。


「ンン、にゃおお~」


 黒豹ロロは複数の触手を絡ませている袋と口に何かを咥えていた。


 その黒豹ロロが俺に近付くと、


「ロロ、お帰り。大きい袋に小さい袋、何を見つけた?」

「ンン」


 喉声を発した黒豹ロロは足下に袋を置いてくる。同時に、姿を黒猫に戻した。


 その俺の足下に置いた大きい袋を開けて、中を確認、中には数個の大きい燻製の肉が入っていた。魔法の袋なのは確定で、黒猫ロロは腹が減っていたか。


 戦いでがんばったからな。

 小さい袋も魔法の袋なのかな。

 その小さい袋を開ける。

 と、中身は、漆黒の空間で、見えない。

 地味な小さい袋だが、アイテムボックスか。

 そのアイテムボックスの中に指を入れると、開けたところではなく、袋の外から極大魔石が連続的に落ちてきた。

 

「おぉ~」

「わ、極大魔石! 十個あります!」

「凄い、神獣ロロ様ちゃん。どこでこのアイテムボックスを見つけたのですか!」


 イモリザが興奮して黒猫ロロに聞く。

 エジプト座りで待機している黒猫ロロはイモリザに向け、


「ンン、にゃお?」


 そう鳴いて応えていた。

 黒猫ロロは頭部を少し傾げた。


 首から出ている触手の一つを広場左の大通りの先に向ける。

 

「……長細い虫とカブトムシとクワガタの形をした魔塔か祭壇のような建物の中にアイテムボックスと食材袋があったのかな」

「にゃ~」


 正解らしい。

 ご褒美をあげよう。


「ロロ、アイテムの回収をよくやってくれた。ご飯にしよう。その回収してきた大きな肉も食べていいぞ。そして、今、大好きなカソジックとササミの餌を出すからな」


 黒猫ロロさんは、まん丸な瞳となった。


「にゃぁぁぁぁ、にゃぉぉ、にゃぉ~ん、にゃぁぁぁぁ~、はげぇぁぁぁ~、にゃおぉ~、ごにゃぁはぁん~~」


 途中、はげぇとごはんが聞こえたような……。


 気にせず保存箱のタッパーをあけた。

 トング付きの蓋を外し、

 

「よーし、相棒、たんと喰え~」


 相棒の足下にタッパーを置く。


「ングゥゥィィ~」

「ンン――」


 黒猫ロロは燻製の大きい肉は食べず――タッパーの中に頭部を突っ込む。


 一気にムシャムシャとカソジックとササミを食べていく。

 

 ハルホンクも食べたいようだ。


「ハルホンク、ササミとカソジックの調理品はロロ用だ。そして、極大魔石を回収してくれ」

「ングゥゥィィ」


 ハルホンクの防護服から繊維状の青白い炎が極大魔石へと伸びて、複数の極大魔石に絡むと、素早く肩の竜頭装甲に運ぶ。


 そのまま格納してくれた。

 ヘルメが、


「これで魔杖と魔の扉を使いセラに戻っても、再び、セラ側の魔の扉に使用できる極大魔石は十分に確保できましたね」

「あぁ」


 暫し、まったりタイムとなった。


 空に上がりバーヴァイ城を俯瞰で確認するかと考えたところでバーソロンたちが広場に戻ってきた。


「陛下!」

「「シュウヤ様ァ」」


 すると、魔界セブドラの斜陽が揺らぐ。

 そのハーヴァイ城の右の空間が歪む――。

 歪んだ斜陽は朧気なモノに変化、そこに、大きな翅で飛翔している百足魔族と少し似たエイリアン兵士が大量に出現。蜻蛉のような翅、グランバを彷彿とさせる存在か。

 

 その中央にいるのは、大きい百足魔族デアンホザー……。

 否、百足魔族デアンホザーと似ているだけで、四手二足。

 冠をかぶった大柄の人族と百足が融合している魔族がいた。


 頭部はグランバ的、胸に近い位置に二つの手がある。

 あいつが、魔界王子テーバロンテだろう。

 

「『うぬら、我の領域で何をしているか!!』」


 神意力……凄まじい魔素も内包している。

 やはり、冠を被っている人族百足魔族が魔界王子テーバロンテなのは確定か。


 そいつが、バーヴァイ城の城門の屋根に着地した。

 左右にも、魔界王子テーバロンテの幹部らしき百足魔族デアンホザーではない、エイリアン風の魔族が立つ。


「陛下……あ、あいつが……魔界王子テーバロンテです。左右にいるのは、右将軍の魔槍ウルゴロシと左将軍の魔剣ベマトリア……その周囲を飛んでいるのは百足高魔族ハイ・デアンホザーの魔界王子テーバロンテの親衛隊……」


 バーソロンは顔を曇らせながら語る。


「ヘルメはバーソロンたちを頼む」

「はい」

「ロロとイモリザ、あの百足魔族擬きが魔界王子テーバロンテのようだ。倒しに掛かる、が、その前に――」


 魔力を込めて闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトを触る。

 闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトから魔線の糸が迸って、床に付着。

 タルナタムとアクセルマギナも出したほうが良さそうだ。


「はい♪ 魔界沸騎士長たちですね」

「ンン、にゃおお~」

「おう、フィナプルスの夜会も使うと――」


 刹那、背後に魔素が――。

 魔槍杖バルドークに魔力を通しつつ竜魔石を背後に突き出す――。

 キィィンと甲高い音が響いた。


「――アレ? ボクの<暗蟲刀殺>が失敗するなんて!」

「ガルルルゥゥ」

「グゥゥ」

「ガウゥッ」


 竜魔石から伸びた隠し剣氷の爪が防いだのは、蟲の骨が連なる魔剣。

 その両手半剣のような魔剣を持っているのは、フェデラオスの猟犬に騎乗している帽子を被った小柄の魔族だった。

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