九百九十二話 光魔騎士バーソロン
泣いていたバーソロンは片手で胸元を隠す。
鎖骨の表面にも炎の絵柄があり、炎の紐も刻まれていた。
バーソロンは頬を朱色に染めながら衣装を召喚。
その新しい衣装は漆黒色が基調の肌と密着した防護服。
丈が短い外衣も召喚。
その外衣の色合いも漆黒色で、ピンポイントに炎の紐の小さい絵柄が刺繍されている。
かなりお洒落だ。
身長はヴィーネより低い。
ほどよい大きさの乳房を隠す仕種は、かなり可憐だった。
そして、防護服の乳房の形に膨らんだ左胸の表面にだけ竜の鱗か魔獣の革の防具が付いている。そこには、二つの炎の剣刃が中央でクロスした絵柄と炎の紐の絵柄が刻まれてあった。
漆黒色の鎧を身に着けている部下たちの胸には炎の剣だけが刻まれてある。
炎の紐はないが、炎の剣はバーソロンの部隊の模様か。
そして、二つの炎の剣と炎の紐の絵柄が刻まれているのはバーソロン本人だけか。
隊長や城主に当たる存在って意味かな。
バーソロンは手首から炎の紐を繰り出していた。
距離は関係なく強力な薙ぎ払い攻撃が可能だと推測できる炎の紐。
ヘルメの<珠瑠の花>やジョディの<光魔の銀糸>のような効果もあるんだろうか。
魔界の神々の恩寵か、バーソロンだけが使える特殊なスキルと予測。
露出が多い胸と腕にも炎のデザインが施されていた。
肩口から柄も覗かせている。
二つの魔剣の柄が再出現していた。
すると、イモリザが、
「使者様、助けたバーソロンの心臓にルシヴァルの紋章樹が刻まれていましたが、もうバーソロンは使者様の配下で、眷属に?」
「そうだ。バーソロンの心臓部にルシヴァルの紋章樹の紋様を刻んだことになる」
イモリザは楽しそうに両手を回して、うきうきと、
「わ~、助けて交渉するんだろうと思っていましたが、バーソロンを眷属にしちゃうとは! 完全に想定外です!」
「おう、俺もだ。助けるつもりだっただけで眷属化する狙いはなかった」
そう話をしながらバーソロンに視線を向ける。
バーソロンは微かに、
『分かっています』
と言うように頷いていた。
そのバーソロンの背後にいる配下たちは俺に頭を垂れたままだ。
「バーソロン、その胸の<血魔力>は分かるだろう?」
バーソロンは胸元に手を当て、
「はい。魔界王子テーバロンテのバビロアの蠱物に穢されていた……我の大切な心臓部の<魔心ノ紅焔核>も無事……』
「そのバーソロンの心臓部にルシヴァルの紋章樹が刻まれたんだ」
バーソロンは片手で胸を触り、
「……心臓部に僅かな<血魔力>を感じています。強さも得ました。その強さがルシヴァルの紋章樹なのでしょう。同時に<魔心ノ紅焔核>を活かすことが可能になった……魔界騎士に……」
<魔心ノ紅焔核>と魔界騎士か。
そのバーソロンはハッとした表情を浮かべて、魔族か軍隊式の挨拶を行うと、
「――シュウヤ様! 我、魔杖バーソロンの無礼極まりない言動を……今、ここで正式に謝罪致します……申し訳ありませんでした――」
勢いよく頭を下げてきた。
「謝罪は受け入れよう。が、気にするな。バーソロンの魔杖には、魔界王子テーバロンテの意識もあったのなら、大眷属として振る舞うのは当然。ましてや心臓部にバビロアの蠱物が刺さっている状況だ。演技では済まされない心境のはず。そんな状況で、よく心が壊れず……いや、それは余計な世話か」
バーソロンはバルミュグと魔界王子テーバロンテが近くにいながらバーヴァイ城の城主だった。
相当に精神力と胆力が高いと分かる。
バーソロンは充血気味の双眸を揺らし頬を赤くして、
「あ、はい、ありがとうございます」
すると、
「ンン、にゃ~、にゃお~、にゃ~」
と、涙を拭いていないバーソロンに何かを喋るように鳴いている。
そんな
今も鼻先をクンクンと動かしている。
すると、常闇の水精霊ヘルメの幻影が視界に出現。
ヘルメは体から虹色が混じる水飛沫を発しながら、側転と後転を行って――跳躍するように飛翔、そのまま新体操選手の如く両手を拡げて、俺の鼻先に立つ。
笑顔満面のヘルメ立ちだ。
妖精のような姿だが、相変わらず美しい。競泳水着と似た衣装は小さい姿でも素敵だ。
張りのある胸と肌と密着した服だから悩ましい。
群青色が基調の衣装には闇蒼霊手ヴェニューと、腰に注連縄を巻いている
エンビヤ、イゾルデ、ホウシン師匠……。
その衣装の上に羽織る水の羽衣も似合いすぎる。
羽衣から微かに散りゆく虹色と銀色の水飛沫が、大気に干渉するような細氷の現象を起こしているのも、また素敵すぎる光景だ。
その美しいヘルメが、バーソロンのほうへと振り向き、小さい腕を差し向けた。
プルルンッと、見事におっぱいが揺れている。
『――見事です、閣下。眷属と多数の仲間を一気に獲得とは、わたしも想定外です』
『おう』
振り向き直した小さいヘルメは、
『更に、バビロアの蠱物の除去方法には驚きました』
『あぁ、あれか』
『白蛇竜小神ゲン様のグローブに、光魔ルシヴァルの<血鎖の饗宴>と、格闘系の<死の心臓>の貫手スキルと、神界系統のスキルを<白炎仙手>に集約した大手術。あのような大手術の方法を一瞬で考えたのですか?』
ヘルメは早口で言いながら、小さい腕を動かし体から白い霧のようなモノを発生させて、先ほどの俺の真似を繰り返している。
『……やり方は初めてだったが、過去の経験が生きたと言えるかな。邪神ヒュリオクスの蟲が<従者長>フーの頭部と首に付着していたが、その除去方法に<血鎖の饗宴>を小さいメスのように扱うことを想定して、何度も脳内シミュレーションを繰り返していたんだ。ヘルメとクナを救った経験もある』
電子メス風の外科手術的な実戦は初めてだったが、不思議と、バビロアの蠱物の異物を取り除ける予感はあった。
『それでも、実践と思考では大きく異なります。閣下のセンスと判断力はズバ抜けて高いと思いますよ!』
俺を褒めた小さなヘルメは遠くを見て、片目から涙を流す。
『どうした?』
『あ、過去を思い出して……』
『すまん』
『ふふ、謝らないでください。サイデイルで起きた亜神ゴルゴンチュラ戦の影響はわたしの油断でもあります。同時に、わたしの大切な思い出の一つ。閣下は、わたしを救おうと水神アクレシス様のお力が宿る不思議な泉で……必死にわたしに<
ヘルメ……。
感動的だが、<白炎仙手>は、しろひげあたっくで固定なのか。
違うぞ……。
と、そのことは思念で伝えず、
『あぁ』
『ふふ、それより、バーソロンの涙は本物だと思います。そして、バーソロンを配下&眷属に加えたことで、バーソロンの一族を救ったことになります。ですから、正式に魔界セブドラのバーヴァイ城と領地を得たことに!』
ヘルメは体から盛大に放出した水飛沫の中に消えては出現を繰り返す。
『おう』
『――まさに、〝戦わずして勝つ〟です! 前に孫子の兵法書のことを教えてくれましたが、実際に実践なさるとは! あ、〝列強魔軍地図〟に魔力を送ってもらうべきかと』
『勿論、そうする予定。領地と地形に隣接している魔界の神や諸侯の諸勢力の話を重点的に聞きながらとなるだろう……が、それは後。この城の内部には、バーソロンの配下だった百足魔族と蜘蛛魔族がいるはずだ。先ほどバーソロンに対して襲い掛かっていたように、その兵士連中がバーソロンの裏切りを知れば、必ず敵対行動に出る』
『閣下とわたしたちがいれば倒せると思います』
『頼もしい参謀長ヘルメさんのお言葉だが、油断はしない』
『ふふ。そんな百術千慮を持つ閣下だからこそ、領土を得たと言い切れる!』
ヘルメは興奮したまま自然と視界から消えていた。
魔力を与えたら、大きな喘ぎ声を発して気絶しそうだ。
すると、バーソロンがイモリザを睨んだ。
睨まれたイモリザは長髪の一部をハテナマークにして、
「ふぇ? 先ほどの部下を倒した恨みですか? でも、わたしたちは使者様の眷属、もう仲間ですよ~?」
そう言うと、俺とバーソロンを交互に見てから俺にウィンクを繰り出し、元の長い髪に戻していた。
バーソロンは、
「恨みはない。しかし……フアタンタは、今まで長い戦いを共に生き抜いてきた強者の部下。割り切れない思いが強い……」
そう語るバーソロンは、またも涙を流す。
「「バーソロン様……」」
部下たちもすすり泣く。
魔杖バーソロンの語りとは正反対だ。
ま、その魔杖の中には、魔界王子テーバロンテの意識も入っていた。魔杖バーソロンがあんな口調になるのは当然か。
そのバーソロンは、涙を振り払うように腕を振るって、部下たちに向け、
「――護衛部隊たち、デラバイン族としての誇りがあるのなら、気合いを入れろ! 下には、まだ多くの百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族べサンの兵がいるのだぞ!」
漆黒の鎧を身に着けた部下たちは、一斉にバーソロンを見上げ、
「「「はい!」」」
気合いが入った部下たち。
部下の皆の額には小さい角が複数ある。顔の右側のマークは魔族特有の絵柄かな。
耳は人族とハーフエルフに近い。
角の数と顔の右側に多い模様は、指紋のような生物的個性を示しているのかもしれない。
その部下たちの魔族の観察をしてから、バーソロンに視線を向け直し、
「……イモリザが、たまたまフアタンタを倒したが、あのまま戦っていれば、俺が倒しただろう」
「はい、当然かと」
とバーソロンは答え、目を瞑った。静かに目を開け、背後の部下たちに視線を向け、
「……しかし、フアタンタ……なぜ、我の静止を聞かず……」
そう呟く。
部下たちは思案気な表情を浮かべていたが、バーソロンの言葉には答えず沈黙を貫く。
バーソロンは横顔も美しい。
ポニーテールを作るように髪をゴージャスに纏めてある髪留めの模様は炎だ。
よく見たら簪も刺さっているようだ。
古風だが、おだんごヘアの髪形か。
揉み上げの薄い毛が耳元に掛かっていて、大人っぽく魅惑的だ。
バーソロンは俺の視線に気付くと俺を見てくる。
顔の右側に多い炎の模様は、やはり刺青ではない。
魔族の独特の煌めく模様か。
そんな美しいバーソロンに、余計な世話かもしれないが、
「フアタンタの気持ちの推測はできるが、語っていいか?」
「はい、お願いします」
「……お前の静止を無視したフアタンタは、敢えて……俺に戦いを挑んできたのではないか?」
「……はい、そうかもしれない」
バーソロンは小声で呟く。
双眸を揺らしながら、ハッと何かに気付いたような表情を浮かべて、
「……あぁ……魔界王子テーバロンテに、バビロアの蠱物で、我を殺させまいと……」
そう発言しながら俺が持つ魔杖バーソロンを見て、
「時間を稼いだのか……」
と発言。
背後の部下たちがざわつき、
「「おぉ」」
「……だからか、護衛長が命令を聞かないのはオカシイと思ったんだ」
「あぁ、俺もだ。いつもの護衛長は俺たちを制止する側だってのに」
「……単に未知のシュウヤ様という存在を倒そうと狙っていただけかと思ったが」
「……護衛長らしい判断だ」
「うん」
「俺に何かあったらバーソロン様を任せたぞって言ってたが……」
「あ……」
「未知の存在で敵側だと思っていたシュウヤ様の話も聞いていたからね……」
俺のことは、魔杖バーソロンを通して、本体のバーソロンが、フアタンタたちに伝えていたのか。
右手に持つ魔杖バーソロンを皆に見せるように掲げてから、
「……皆の話にあったようにフアタンタは魔杖バーソロンの異常を察知したんだろう。だからこそ、バビロアの蠱物の作動を遅らせるか、作動させまいと……捨て駒になるつもりで、特攻してきたと予測する……勿論、俺を倒すつもりもあったとは思うがな……」
魔杖バーソロンを見ていたバーソロンは、残念そうな表情で、視線を少し下げて、
「フアタンタ……すまぬ。シュウヤ様とフアタンタの戦闘の間が、我の生死の境目だった……フアタンタに感謝しよう」
そう発言。
視界に再度現れたヘルメは、
『フアタンタという強者相手に、回避に専念し反撃しなかった理由には、そのような〝兆し〟があったのですね……』
『そうだ。フアタンタの行動を静止した本体のバーソロンは、炎の魔剣を召喚していたが、俺に攻撃をしてこなかった。最初に吹き飛ばされて、頭に血が上っているような状況下で、部下をけしかけもせず、様子見だからな……』
『たしかに、閣下の武術家としての歩法を見て、感動を覚えているのか、畏怖しているのかと思っていましたが、状況的にバーソロンは強者でしたから、閣下に攻撃をしかけることが普通……』
『兆しといえば、他にもある。霊槍ハヴィスの穂先である光の刃からは、天道虫の魔力の幻影がいつも出現しているが、そのお陰で光属性が強まったかもだ。人知れず、光魔ルシヴァルの<血魔力>を活かしたバーソロンの眷属契約に影響を与えていたとか、あるかもしれない』
『ありえます! 閣下は水神アクレシス様、光神ルロディス様、正義の神シャファ様、戦神ラマドシュラー様、白蛇竜小神ゲン様、等の影響を受けている。だからこそ、この魔界セブドラでも、神界セウロスの神々の影響力が弱まることがなく、スキルが使用できているのかもしれません!』
『それはあるとは、思うが……<従者長>ビアの、大蛇龍ガスノンドロロクンの剣に宿るガスノンドロロクン様も――』
〝そもそも拮抗など無い。魔界と神界の次元領域は近いと同時に永遠とも呼ぶべき遠い領域もあれば、奈落の黄泉の領域に通じる深さのある領域もあるのだ。セラを挟む
『と、仰っていたからな』
『あ、そうでした。拮抗はない……魔界と神界は繋がっている部分もあるという話でしたね……』
ヘルメと思念会話をゼロコンマ数秒で行っていると、涙を拭いたバーソロンが朱色と黒色が混じる瞳を揺らしながらイモリザに視線を向ける。
魔族か軍隊式の挨拶を行い、頭を下げて、
「――イモリザ殿。先ほどは睨んでしまい、すまない」
「はい、気にしていません」
「これからも眷属として、よろしく頼みます」
「こちらこそよろしく♪」
笑顔を見せる二人。
『今のバーソロンからは闇属性と火属性の魔力と精霊ちゃんを強く感じますが、邪悪な心は感じないです』
『たしかに、セラの時に感じた魔杖バーソロンの印象とは大きく異なる』
『はい』
バーソロンは、百足魔族の親玉でエイリアンのような姿だと思っていた。
ところがだ……。
こんな美人さんとか……。
派手なリアクションを連続的に行いたいぐらいの驚きだ。
『はい、完全に同意です。セラにいる時の魔杖バーソロンは、神意力の会話といい、違和感だらけでしたが……この一連の出来事を見て、すべてに納得できました』
ヘルメと念話をしみじみと行った。
すると、そのバーソロンが、
「シュウヤ様。改めて、我はシュウヤ様に忠誠を誓う。我を受け入れてくれるだろうか」
「眷属なんだから、既に受け入れているさ。そして、素の話し方でいいぞ」
「我もいいぞ♪」
「イモリザは真似しないでいい」
微妙にバーソロンの声帯を真似ているのか、声は少し似ていた。
そのモノマネを見て聞いたバーソロンは驚きつつ微笑むと、
「はい……分かった。シュウヤ様には敬語を交ぜる」
そう返事をしてくれた。
さて、仲間で、眷属となったからには、
「が、違法な人身売買と魔薬と人体を混ぜる魔薬など、弱者の人々を甚振り、不当に金を得ては殺して生贄にする邪教【テーバロンテの償い】の考えに賛同している場合は受け入れることはできない。更に、弱者を殺して、その死体を集めて造る
【テーバロンテの償い】は、俺の<
ヴェロニカが、ヴァルマスク家を許せないように……。
厳しい顔付きを意識して語る。
バーソロンは、ふっと笑ってから、
「……生きるため【テーバロンテの償い】の活動を続けていましたが、綺麗さっぱり縁を切ります。これからは魔界王子テーバロンテを潰すことに協力し、【テーバロンテの償い】の壊滅にも力を貸したい思いです」
「分かった。信じよう」
「良かった……」
バーソロンは嬉しそうだ。
が、念を押すように、話をしようとしたが、
「……シュウヤ様、魔界セブドラに住まう魔族のデラバイン族を代表して、疑問があります……」
「なんだ」
「……我は、バビロアの蠱物によって脅迫されていたとはいえ、セラの者たちの負の感情と魂から大量に魔力を得たこともある一魔族ですが、それでも平気なのですか?」
当然の疑問だ。
「平気だ。魔力を得て強く生きる魔界セブドラの理を責めているわけではない」
「はい……」
「バーソロン、俺の見た目は人族、普通のセラの民に見えると思う。しかし種族は光魔ルシヴァルという名の
「はい、光魔ルシヴァル、
「「「はい!」」」
部下たちも光魔ルシヴァルが魔族だと思っているようだ。
デラバイン族は光側と親和性があることにも理解があるように思える。
後、悪夢の女神ヴァーミナ様のことも言っておこう。
「悪夢の女神ヴァーミナ様を信奉する悪夢教団ベラホズマも人肉を喰らう連中だ。そこも潰したい。しかし、そんな邪教が信奉する悪夢の女神ヴァーミナ様とは知り合いだったりする。魔界騎士を認めてもらった魔界の神様だったりするんだ。首に<夢闇祝>のスキルも得ている。後は、魔毒の女神ミセア様とその眷属キュルレンスさんと会話をしたことがあるな。俺の<
「「「え?」」」
「おぉ、
「「「おぉ」」」
「「「――陛下!」」」
バーソロンとその部下たちは一斉に恐縮し始めてしまった。
「普通にシュウヤでいい。譲歩してせめて様にしようか。で、詳しいことはあとで説明しよう。魔界側とは知り合いが多いと知っておけばいい。元魔侯爵アドゥムブラリもいる」
「了解しました」
「「「はい」」」
そのバーソロンは厳しい表情を浮かべて部下を見ると、
「皆、シュウヤ様のお力で、バビロアの蠱物は消えて、わたしたちは自由を取り戻した。そして、この魔界セブドラで、禁忌に値するようなシュウヤ様の神々に対しての強い言葉を聞いただろう?」
「「「「はい!」」」」
バーソロンは部下たちの返事を聞いて、鷹揚に頷いて、
「……まさに我らの理想を体現する御方……豪放磊落、比類なき剛勇の士だ。これからわたしは、更にシュウヤ様に忠誠を尽くすための儀式を行ってもらう。だから、皆も忠誠を示すのだ!」
「バーソロン様、分かりました!」
「「はい!」」
「はい! 忠誠を誓います」」
「俺も忠誠を誓う!」
「俺たちは自由に……」
「わたしも誓います!」
「「俺もだ!!」」
「「「おう!」」」
バーソロンは、
「さすがは、デラバイン族の同胞で、我の護衛部隊たちだ!」
と発言。
「「「はい!」」」
部下たちは元気に返事をした。
このバーソロンの部下たちは貴重な戦力だ。
「しかし……魔界王子テーバロンテは、この裏切りを許さないはずです……セラのセナアプアから得られる贄場を失ったのですから……」
一人の部下が発言。
バーソロンが頷きながら、俺に視線を向けると、イモリザが、
「これから使者様と一緒に魔界王子テーバロンテを倒しに行きますから、大丈夫です♪」
「「「「おぉ」」」」
兵士たちがイモリザに期待の眼差しを向けて歓声を送る。
イモリザは嬉しそうに、胸を張って『えっへん』と言うように腰に両手を回した。
可愛いが、とても強い元サイデイルの門番長。
そして、先ほど言っていたバーソロンの儀式が気になるが、そのバーソロンは魔杖を通してバルミュグに指示を飛ばしていた。
そのバルミュグを知るバーソロンならば……。
セラにいる他の【テーバロンテの償い】の支部の幹部たちとの会合場所、暗号、賭博場、酒場、祭壇、地下網の地図などを知っているはず。それらの情報網は【白鯨の血長耳】と【天凛の月】にとって宝の山となることだろう。
……過去の魔杖バーソロンとの会話を思い出す。
『お陰で、世界各地から強引に獲得してきた生贄用奴隷の確保と管理がし易くなった。その捕まえた奴隷たちの体を活かした人魔薬レムヒン・シリーズの製作と、〝死蝕天壌の浮遊岩〟で採れる植物のアクイド、ベアドヌイ、レクィネ、ヒギモリィン等を活かした魔薬作りもスムーズに行えるようになり、我ら【テーバロンテの償い】の【魔の扉】は、アクイド魔薬とベアドヌイ魔薬にレクィネ魔薬、ヒギモリィン魔薬の供給元として、下界における魔薬の流通網を独占できた。更に、それらの魔薬を融合させた特殊魔薬レムヒンマリオンは我ら独自の魔薬として市場を完全に独占、我らに多大な利益を齎したのだ。が、各評議員の商会が独自に販売転売する
大海賊を含めた魔薬関連の事件の関係者も一気に根絶やしが可能。
本当に……バーソロンが知る情報網は大きい。
部下を満足そうに眺めるバーソロンに向け、
「魔界セブドラ側でも忙しいと思うが、今後のセラの【塔烈中立都市セナアプア】における様々な情報網の提供も頼むぞ」
バーソロンは「――はい」と敬礼。
俺も敬礼を行うようにアキレス師匠直伝のラ・ケラーダの挨拶を返し、先に解いた。
バーソロンも敬礼を解いて、
「【テーバロンテの償い】のセナアプア支部の【魔の扉】が潰れたことで、セナアプアの魔薬事情は大きく変化しますからね。しかし、もうセラ側には、あまり関わりたくないのが本音です」
「悪いが、関わってもらう」
……バーソロンは、顔色を少し悪くする。
「……承知」
今までバルミュグの傍で、無垢な人々を虐殺してきた記憶は忘れられないか。
犠牲や代償をささげることによって罪過をつぐなう贖罪を押し付けるわけではないが……。
バーソロンが生きて平和に貢献することで、今生きている方々を救えるのなら、光神ルロディス様や神界セウロスの神々もバーソロンに微笑みかけてくれるだろう。
が、神界セウロスの神々の中には、多神教ではなく一神教として、他とは違い、わたしや俺がナンバーワンだとか考えている存在もいるかもだからなぁ……。
宗教国家ヘスリファートやアーカムネリス聖王国の神聖教会側だと、
『魔族だと? それ自体が罪だ。死ね』
そんな感じで襲い掛かってくることは予想できる。
人族至上主義に、優生学もありそうな思想の偏りだ。
同時に神界セウロスの神々の中には、その思想に近い考えの下で躊躇なく魔界セブドラに関わる者を抹殺しようと攻撃を加える存在もいるかもしれない。
水神アクレシス様と大地の神ガイア様と植物の女神サデュラ様は違うと思いたい……。
俺の表情を見ていたバーソロンは、
「……先ほどの続きですが、下界の魔薬売買を独占していた【テーバロンテの償い】が潰れたことで、その隙間を狙おうとする【血印の使徒】、【セブドラ信仰】などの魔界側を信奉する邪教以外にも、【闇の八巨星】と言われている【ラゼルフェン革命派】、【五重塔ヴォルチノネガ】など、他の都市が主力の巨大闇ギルドが、セナアプアの下界の縄張り争いに絡んでくるかもしれないです」
さすがに闇ギルド情勢には詳しいか。
バルミュグに指示を飛ばしながら監視していただけはある。
「【テーバロンテの償い】は魔薬を売る売人も確保していたのか?」
「それなりにいましたが、中小の闇ギルドに捌いてもらっていました。今回の【血月布武】の活動で、【テーバロンテの償い】が抱えていた売人は他に移ったことでしょう」
売人も捕まえるとなると、結構大変だな。
「……そうなると混乱は必至か。【白鯨の血長耳】と俺たち【天凛の月】は、中毒性の高い濃度が濃い魔薬売買は行わないからな……他の評議員も魔薬売買に乗り出すか?」
「ありえます。ネドーが大半を押さえていましたが、各評議員たちは細々と独自に
「そのようだな。他にも、今まで無名だった存在が、魔薬作りの魔調合師を確保し、魔薬を売り始めるかもしれない。下界から上界へと……摩天楼に住む夢を持ちながら魔薬を売りさばいて、成り上がりを狙うかもだ」
俺がそう予想すると、バーソロンの双眸と体が震える。
魔力が体から漏れながら、
「……そこまで想定しているとは、畏れ入ります……」
と発言。
「そんな魔薬の被害者を少しでも無くすために、【テーバロンテの償い】から魔薬を仕入れて売っていた中小の闇ギルドと、その闇ギルドを利用していた評議員の名を教えてもらおうか」
「あ、はい。中小の闇ギルドは、【運び屋・イチバル】、【便利屋ベイブ・ララン】、【潰し屋トーキマル】、【統場派・精狂街】、【猛毒ヘルドックス】、【オルテガ・ソウべン】、【不死身のショーク・ショー】など。メンバーの大半は冒険者崩れ、冒険者を兼ねた傭兵上がりと聞いていますが、無名の強者もいるはず。そして、上院評議員バルブ・ドハガル、上院評議員テクル・ホーキスル、上院評議員バダアク・キアシ、上院評議員トト・マジソン、上院評議員レゼミッハ・パパン、上院評議員ゲサド・アルゴモンタナ、上院評議員ククリセ・アレモレス、下院評議員カーキロン・ペーサリオス、下院評議員テレレゼン・アーボレガン、下院評議員ポール・ジャットネル、下院評議員オテピュル・へトアなどは覚えています」
かなりの情報量。
「十分だ。ハイゼンベルク商会が有名だが、魔調合師の居場所は把握しているか?」
バーソロンは、
「正確な居場所は不明。しかし、【血銀昆虫の街】の情報屋の大半の名前と、下界に強い盗賊ギルド【魔虫の速達】、【バショウ鬼一門】、【泡の髭】、【幽魔の門】にはバルミュグと共謀を行う者がいたので、そこから魔調合師の詳しい情報の入手は可能なはず」
「分かった。この魔界セブドラのバーヴァイ城の周囲と他勢力の現状をある程度把握し、治めてからとなるが、その件をスムーズに勧めるため、セラの【塔烈中立都市セナアプア】にいる【白鯨の血長耳】のレザライサにも会ってもらうぞ」
「はい」
他の大陸から戦闘奴隷を強引に仕入れている大海賊たちの情報も入手可能となるだろう。
俺の知る地球でも、欧羅巴の選帝侯の子孫などが多い王侯貴族たちは……。
アジア、アフリカの人々を違法に入手しては、船の中に無理矢理詰め込み自国に運んで労働力に使っていた。
船の中はクソ塗れの劣悪な環境だったらしいからな。
映画の『アミスタッド』は名作だった。と、昔の歴史から学べることは多々ある。
そして、この情報網を駆使すれば【塔烈中立都市セナアプア】は一気に動きそうだ。
さて、セラにいる眷属たちに、血文字が送れるかどうか――。
『皆、この血文字が見えているか?』
と送ろうとしたが、血文字は不自然に宙空で霧散。
魔界セブドラとセラの間の血文字交換は不可能なのか。
魔通貝のタッチを繰り返すが、反応はない。
上院評議員と下院評議員の名は結構重要だから、レザライサに伝えたかったが……。
すると、バーソロンが、
「シュウヤ様、正式に魔界騎士の儀式をお願い致します。誓いの申し出を――」
と俺の前で上半身の衣装を消す。
また、ロケットおっぱいを晒した。
そのまま、片膝を突けてから、その胸を突きだしてくる。
最初に魔界騎士と呟いていたが、そういうことか。
「……了解。魔界王子テーバロンテの大眷属ではあったが、正式な魔界騎士ではなかったんだな」
バーソロンは頷き、
「はい。バビロアの蠱物がすべてを物語っています。過去、魔界王子テーバロンテに倒されて領土が蹂躙された魔王リュグラン・デラバインから密かに受け継いでいた深い洗脳スキルに耐えられるスキルを持つ我を、魔界王子テーバロンテは、心服させることが不可能だった。しかし、魔杖バーソロンの言動に表れていたように、バビロアの蠱物の毒、魔界王子テーバロンテの魔力が、わたしの心臓部の<魔心ノ紅焔核>を徐々に浸食していたことは事実。それ故の大眷属。その結果、性格の変化があったかもしれない。しかし……元々の我の力、素早さ、体力、魔力、精神力、運は高かった。<魔炎神ルクスの加護>と<愚皇・精神耐性>のスキルもある。ですから、魔界王子テーバロンテに内心で抗い続けられたのだと思います」
魔王デラバインは、バーソロンの父か?
それともバーソロンが嘗て仕えていた魔君主の一人かな。
<魔炎神ルクスの加護>とは、神格落ちしている神の名と推測。
魔界騎士の儀式が可能なら、ヘルメが言うように光魔騎士への更なる成長が可能。
ヘルメが視界に浮かぶ。
『普通の契約、本契約の現状でも眷属は眷属ですが、魔界騎士の経験を活かした光魔ルシヴァルの光魔騎士への強化ができますから、チャンスです』
『あぁ。正式な戦闘職業はバーソロン独自のモノになって、光魔騎士ではないだろうが、強化は可能なようだ』
『はい』
バーソロンに、
「よく分かった」
「はい。では、魔界騎士の誓いの言葉を宣言します」
「頼む」
「ハッ、陛下専用の魔界騎士として、命を捧げることを、古今の
俺は即座に霊槍ハヴィスを仕舞い、右手に魔槍杖バルドークを召喚。
紅斧刃と紅矛の状態を嵐雲の穂先に戻してバーソロンの肩に当てた。
魔槍杖バルドークの柄から鼓動を感じ取った。
バーソロンの顔の炎のマークが煌めいて、その煌めきから魔力を魔槍杖バルドークが吸い取った。
バーソロンは肩を震わせているが、ジッと動かない。
吸い過ぎるなよ――と、魔槍杖バルドークの握りを強める。
柄からピキッという音と独特な咆哮音が響いてきた。
魔槍杖バルドークは鼓動を止めて静かになった。
バーソロンに、
「……俺も誓おう。いかなる時もバーソロンに居場所を与えると。そして、お前の名誉を汚すような奉仕を求めることもしない。自由の精神を大事にする。これを、この魔槍杖バルドークと水神アクレシス様に誓う。この場の皆とイモリザと相棒ロロディーヌにも誓おう――」
「ありがとう、ございます……我のマジェスティ――」
「おう!」
魔槍杖バルドークを消す。
「では、魔界騎士の証明を晒します――」
バーソロンの胸から――。
魔力の炎で燃えている剣と長い炎の紐が一つの塊となっている半透明な物体が半分だけ出現。
シュヘリアとデルハウトと同じ。
能力の一部を現す精神象徴、バーソロンの心の一部ってことか。
同時に
「炎の剣と紐の塊か。これを引き抜き、魔力を注ぎながら、胸にさし込み直せばいいんだな?」
「はい……魔力を<魔心ノ紅焔核>に注いでください……そして、心臓部を壊す勢いで、わたしの胸に突っ込んでください……」
「了解した。いくぞバーソロン!」
「はいっ」
魔力の炎の剣と紐の塊を引き抜いた――。
「――アンッ」
バーソロンは感じたように喘ぎ声を発した。
涙を流しながら、体が震えると仰け反る。
おっぱいが見事に揺れている。
が、その見事な乳房さんはあまり見ないで、片手で握る炎の剣と紐の塊の<魔心ノ紅焔核>を凝視し、<血魔力>を注ぐ――。
炎の剣は二つの炎の剣に分離し右腕の真上に浮かぶ。
炎の紐も宙空に浮かんだ。
炎の紐は二つの炎の剣と俺の腕にも絡み付く。
すると、炎の紐ごと二つの炎の剣が、左右の掌の中に転移してきた。
その二つの炎の剣と炎の紐は輝いた。
白色、血色、黒色、蒼色、灰銀色の煌めきを繰り返す。
「その<魔心ノ紅焔核>でもある炎の紐と炎の魔剣ルクス&バベルを、わたしの胸に入れてください――」
「おう――」
バーソロンの胸へと――。
両手を突き出すように炎の剣と炎の紐の<魔心ノ紅焔核>を押し込んだ。
ずにゅりと音が響いた。
バーソロンの胸に侵入していく<魔心ノ紅焔核>の炎の剣と炎の紐――。
同時にバーソロンの両手首から炎の紐が迸る。
胸元から卑猥な音が響いた。
バーソロンは体を震わせながら恍惚の表情を浮かべる。
上半身の肌が斑に血色へと染まっていく。
セクシーだ。
「アァァァン、ァァ……」
頭部を揺らし、乱れたバーソロン。
胸の中に<魔心ノ紅焔核>が完全に入りきる。
バーソロンは充血した瞳で俺を見てきた。
口は半開きで、瞳はとろんとしている。
瞳の焦点も少しずれている。
が、焦点が合い、その状態で俺をしっかりと見据えた直後、背筋をそらし、
「アンッ」
と喘ぎ声を発したバーソロンは体を震わせる。
おっぱいが上下に揺れた。
額から流れた汗が悩ましい唇を伝う。
荒い息となっていた呼吸が整うと……胸に二振りの炎の剣に絡んでいる炎の紐が出現した。薄らとルシヴァルの紋章樹も胸に刻まれる。
同時に俺も魔力をかなり消費した――。
胃が捻れるほどってわけではないが……。
更に、首の<夢闇祝>が微かに反応し、血が流れた。
悪夢の女神ヴァーミナ様がここにも?
が、さすがに距離があるのか、前回のようなことは起きなかった。
バーソロンはぐったりと、前のめりに倒れ掛かる。
急ぎバーソロンに体を預けるように支えてあげると、
「アンッ……」
とまた体を震わせる。
そのバーソロンの背中を左手で支えながら、朱色と黒色の瞳を見て、
「立てるか?」
と聞いた。
俺の瞳をジッと見て直ぐに視線が泳ぐバーソロンは、
「……は、はい……はぅ、あ、ありがとうございます」
大丈夫そうだ。立ってもらった。
バーソロンは、
「――陛下、我は<血炎鬼魔紐師>の戦闘職業を得ました!」
「おう、おめでとう」
「「おぉぉ」」
「バーソロン様がお強くなられた?」
「あぁ、そのようだ。バーソロン様の魔力が急に上昇したぞ……」
「うん……」
部下たちも驚いている。
『閣下、おめでとうございます! これで、偉大な神聖ルシヴァル帝国を率いる魔帝王としての一歩が、魔界セブドラで踏み出されたことに!!!』
ヘルメの野望が始まっていることは分かっていたが、シャットアウト。
すると、<魔骨魚>に乗っているイモリザが、バーソロンの近くに移動し、
「――使者様、バーソロンちゃんもシュヘリアやデルハウトと同じ光魔騎士に?」
と、まじまじとバーソロンを見ている。
バーソロンは、少し動揺して、
「わ、我をちゃんとは……」
その姿は少し可愛い。
部下たちはバーソロンの態度は初めて見る姿なのか、驚きつつも、男たちは頬を赤く染めて女神を眺めるように眺めていた。
バーソロンは慕われているようだな。
そのバーソロンと視線が合うと、笑顔を向けてくれた。
同じく笑顔をバーソロンに贈りながら、イモリザに、
「そうなるか」
そう言うと、<魔骨魚>に乗ったイモリザが傍に来て、
「わ~、いいないいな~。わたしも光魔騎士になれますか?」
と聞いてきながら周囲を回る。
回るイモリザに頭部を向けつつ、
「――自由に名乗ればいいだろう。しかし、ツアンとピュリンもいるってことを忘れていないか? 三人の意識を共有して、三人が獲得したスキルも使えるようになっていると前に聞いている。そして、三人とも異なる戦闘スタイルだ。それを自由に扱える<光邪ノ使徒>は結構な存在なんだぞ?」
と褒めると、イモリザはビクッと体を揺らす。
<魔骨魚>から転けるように降りて、
「――うふ♪ はぃぃ、わかりまひた~♪」
素直に褒めたことがあまりにも嬉しかったのか、ろれつが回っていない。
「陛下、わたしは光魔騎士という役職なのですね」
「おう。光魔ルシヴァルの光魔騎士だ」
「ハッ!」
気合いの入った返事をするバーソロンも良い。
すると、イモリザを追うように、俺の周囲を回っていた
「にゃおぉ~」
と鳴きつつバーソロンの足下に頭を寄せにいく。
バーソロンは、
「あ……」
と
魔界にも猫はいると思うが……猫の行動に慣れていない?
魔界の戦場の戦いと、セラの【血銀昆虫の街】にいるバルミュグの監視と指示出しが忙しかっただろうから、猫がいても相手にしていないか。
頭部を、俺の脛にコツンと当ててきた。
斜めに頭部を上げるような仕種で、薄い頭部の毛を、俺の足の脛で擦りながら頭部をゆっくりと上に動かす。片耳の裏も脛に当てて、俺の足の甲に後ろの両脚を乗せて、少し跳躍するように上半身を伸ばしながら、体重を俺の足に乗せるように甘えてきた。
可愛い体の当て方だ。
『ふふ、全身で愛を伝えてきてくれるロロ様には癒やされます』
『あぁ』
ゴロゴロと喉音を鳴らし尻尾はピンと立たせている。
嬉しいのかな。
魔界セブドラは初めてだから当然か。
そして、バーソロンを救っての眷属化にも喜んでいるのかもしれない。
尻尾を左足に絡ませてきたから、その
「ンンンン――」
が、
天の邪鬼だ。
途中、イカ耳になっては、四肢を前後に動かしてダイナミックに走っていく。そんな躍動して走る
その
斜陽のような明かりが射している城の窓から外を眺めるつもりか。
ウインドウ・シートに乗ってトコトコと壁と座るところの匂いを嗅いでいる。
魔界にいる猫たちの縄張りのチェック?
そのまま窓際に移動して、あ、城の窓から外に飛び出るつもりか?
「相棒、下には百足魔族の連中がいるようだから、探索するなら気を付けろ。そして、俺たちも下に向かうからな」
「ンン」
相棒は窓の縁から下を眺めるだけのようだ。
バーソロンたちに、
「下の状況を教えてもらおうか。〝列強魔軍地図〟という名のアイテムがあるんだが、ま、それはこのバーヴァイ城が落ち着いてからにするか」
「はい。下の一階には大ホールがあり、大ホールの正面と横の出口の先に、広間と兵舎があります。そして、城内と城外には、同胞の角鬼デラバイン族の兵が約三千、百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族べサンの兵が約五千、魔傭兵の魔重歩兵は……約二千。魔重歩兵は、我らにつくかテーバロンテ側に付くかは不明……」
バーソロンは万を率いるほどの大将軍の一人、支城を任せられるんだから当然か。
デラバイン族の正式名は角鬼デラバイン族なのかな。
「……了解した。まずは一階の大ホールを占拠するとして、百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族べサンだが、手当たり次第倒していくしかない相手かな?」
「そうですね、まず話が通じないかと……」
「分かった。百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族べサンの部隊には、千人長、二千人長、三千人長といるんだろう?」
「はい、皆強者です」
「ギッタンバッタンを使います。先陣はわたしにお任せを♪」
「当然だ。働いてもらおうか」
状況次第で魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスを呼べるか試すとしようか。
『閣下、わたしも外に出ます』
『おう』
イモリザが側転機動を行っている間に、左目からヘルメが飛び出した。
「え?」
「「「「おぉぉ」」」」
「――ふふ」
光魔騎士バーソロンとその部下たちは、常闇の水精霊ヘルメのヘルメ立ちを見て驚きまくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます